Qt非同期接続の深掘り：connected()シグナルとwaitForConnected()の違い

Qtプログラミングにおける void QAbstractSocket::connected() は、QAbstractSocket クラス（およびその派生クラス、例えば QTcpSocket）が提供するシグナルです。

これは、ソケットがリモートホストへの接続を確立したときに発せられます。

具体的には、以下のような意味を持ちます。

• 使用例:
  • 接続が成功したら、次のデータ送信処理を開始する。
  • UI上の接続状態表示を「接続済み」に変更する。
  • ユーザーに接続成功のメッセージを表示する。
• 非同期処理: ネットワーク接続は時間がかかる処理であり、通常はプログラムの実行をブロックしない非同期で行われます。connectToHost() はすぐに戻り、接続が確立されると connected() シグナルが送出されることで、接続完了を通知します。
• 接続成功の通知: connectToHost() メソッドなどを呼び出してリモートホストへの接続を試みた後、実際に接続が成功し、データ送受信が可能になった時点でこの connected() シグナルが発せられます。
• シグナル（Signal）であること: Qtのシグナル＆スロットメカニズムの一部です。このシグナルが発せられたときに、特定の処理を行うスロット（関数）を接続することができます。

これに対応するスロットを記述することで、接続成功時の処理を柔軟に実装できます。

// ヘッダーファイル
#include <QTcpSocket>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

class MyClient : public QObject
{
    Q_OBJECT // Qtのメタオブジェクトシステムを使用するために必要

public:
    MyClient(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent)
    {
        socket = new QTcpSocket(this);

        // connected() シグナルを onConnected() スロットに接続
        connect(socket, &QTcpSocket::connected, this, &MyClient::onConnected);
        // disconnected() シグナルも接続しておくと便利
        connect(socket, &QTcpSocket::disconnected, this, &MyClient::onDisconnected);
        // エラーシグナルも重要
        connect(socket, &QTcpSocket::errorOccurred, this, &MyClient::onErrorOccurred);

        // ホストへの接続を開始
        socket->connectToHost("example.com", 12345);
    }

private slots:
    void onConnected()
    {
        qDebug() << "ソケットが接続されました！";
        // 接続成功後の処理（例：データ送信開始）
        socket->write("Hello, server!");
    }

    void onDisconnected()
    {
        qDebug() << "ソケットが切断されました。";
    }

    void onErrorOccurred(QAbstractSocket::SocketError error)
    {
        qDebug() << "ソケットエラー発生: " << socket->errorString();
    }

private:
    QTcpSocket *socket;
};

---

これは最も一般的な問題です。接続が成功していないため、connected() シグナルも当然発せられません。

• QAbstractSocket::errorOccurred() シグナルを接続していない
  

  • 重要
    connected() が発せられない場合、代わりに errorOccurred() シグナルが発せられている可能性が高いです。このシグナルをスロットに接続し、エラーの内容をログに出力することで、具体的な問題の原因を特定できます。
  • 解決策
    connect(socket, &QAbstractSocket::errorOccurred, this, &MyClass::onErrorOccurred); のようにエラーシグナルを接続し、qDebug() << socket->errorString(); でエラーメッセージを確認します。

• DNS解決の失敗 (ホスト名を使用している場合)
  

  • 確認
    IPアドレスではなくホスト名で接続している場合、DNS解決に失敗している可能性があります。
  • 解決策
    ping host_name でホスト名が解決できるか確認します。一時的にIPアドレスで接続を試してみて、それで成功するかどうかを確認することで、DNSの問題かを切り分けできます。

• connectToHost() の呼び出しが早すぎる、または QAbstractSocket のライフサイクル管理の問題
  

  • 確認
    connectToHost() を呼び出す前に QTcpSocket オブジェクトが正しく初期化されているか、また、そのオブジェクトがスコープ外に出てすぐに破棄されていないか確認してください。非同期処理なので、オブジェクトが破棄されるとシグナルを受け取れません。
  • 解決策
    QTcpSocket オブジェクトを、接続処理が完了するまで有効な状態に保つようにします。例えば、クラスのメンバー変数として保持するなどが一般的です。

• ルーティングの問題またはネットワークが到達不能
  

  • 確認
    クライアントとサーバーが異なるネットワークセグメントにある場合、ルーターの設定やネットワークケーブルの接続に問題がないか確認します。
  • 解決策
    ネットワーク管理者に確認するか、基本的なネットワーク診断ツール（ping、traceroute/tracert）を使用して、サーバーへの到達性を確認します。

• ファイアウォールによるブロック
  

  • 確認
    クライアント側またはサーバー側のファイアウォールが、接続をブロックしている可能性があります。特に、初めてネットワークアプリケーションを開発する際に忘れがちです。
  • 解決策
    ファイアウォールの設定を確認し、該当するポートでの通信を許可するようにルールを追加します。一時的にファイアウォールを無効にしてテストすることも有効ですが、テスト後は必ず元の設定に戻してください。

• IPアドレスまたはポート番号が間違っている
  

  • 確認
    connectToHost() に渡しているIPアドレス（またはホスト名）とポート番号が、サーバー側で設定されているものと完全に一致しているかを確認してください。タイプミスがないか注意深く確認します。
  • 解決策
    正しいIPアドレスとポート番号を指定します。

• サーバーが起動していない、または指定されたポートでリッスンしていない
  

  • 確認
    サーバーアプリケーションが正しく起動しており、指定されたIPアドレスとポート番号で接続を受け付けているかを確認してください。netstat -an | grep <port_number> (Linux/macOS) や netstat -ano | findstr <port_number> (Windows) コマンドで確認できます。
  • 解決策
    サーバーを起動し、正しいポートでリッスンするように設定します。

• QTcpServer (サーバー側) の設定ミス
  

  • クライアントが connected() シグナルを受け取れないのは、サーバー側の問題であることも多いです。
  • 確認
    QTcpServer が listen() しているか、newConnection() シグナルが正しく処理され、nextPendingConnection() で QTcpSocket が取得されているかを確認します。

• 既存のソケットの再利用の問題
  

  • すでに接続されているソケットに対して connectToHost() を呼び出すと、エラーが発生する場合があります (QAbstractSocket::connectToHost() called when already connecting/connected)。
  • 解決策
    再接続する前に、disconnectFromHost() を呼び出すか、abort() で強制的に切断し、ソケットを UnconnectedState に戻すことを検討します。または、新しい QTcpSocket インスタンスを作成することも有効です。

• ソケットの状態遷移の理解不足
  

  • QAbstractSocket は UnconnectedState -> HostLookupState -> ConnectingState -> ConnectedState のように状態が遷移します。各状態変化で stateChanged() シグナルが発せられます。このシグナルを監視することで、どこで問題が発生しているのかをより詳細に把握できます。
  • 解決策
    connect(socket, &QAbstractSocket::stateChanged, this, &MyClass::onStateChanged); を使用して状態変化を追跡し、デバッグ出力を活用します。

• ブロッキング処理と非同期処理の混同
  

  • connectToHost() は非同期関数であり、すぐにリターンします。その直後に state() を確認しても ConnectingState などになっており、すぐに ConnectedState にはなりません。connected() シグナルを待つのが正しいアプローチです。
  • 誤った例
    

    socket->connectToHost("example.com", 12345);
    if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) { // これはほとんどの場合falseになる
        qDebug() << "接続済み！";
    }
    

  • 正しい例
    

    // シグナル・スロット接続が必須
    connect(socket, &QTcpSocket::connected, this, &MyClient::onConnected);
    socket->connectToHost("example.com", 12345);
    // onConnected() スロットで接続後の処理を行う
    

  • 例外（ブロッキング処理が必要な場合）： メインスレッド（GUIスレッド）以外で、どうしても接続が完了するまで待機したい場合は、waitForConnected() メソッドを使用できます。ただし、GUIがフリーズする原因となるため、メインスレッドでの使用は避けるべきです。

    // スレッド内で使用する場合など
    socket->connectToHost("example.com", 12345);
    if (socket->waitForConnected(5000)) { // 5秒待機
        qDebug() << "接続済み！";
    } else {
        qDebug() << "接続タイムアウトまたはエラー: " << socket->errorString();
    }
    

---

クライアント側の例: QTcpSocket を使用

クライアントは、特定のサーバーに接続し、接続が成功したらデータ送信を開始する最も一般的なケースです。

クライアント側のヘッダーファイル (myclient.h)

#ifndef MYCLIENT_H
#define MYCLIENT_H

#include <QObject>
#include <QTcpSocket> // QAbstractSocketの派生クラス
#include <QDebug>     // デバッグ出力用

class MyClient : public QObject
{
    Q_OBJECT // Qtのメタオブジェクトシステムを使用するために必要

public:
    explicit MyClient(QObject *parent = nullptr); // コンストラクタ

    void startConnection(const QString &hostName, quint16 port); // 接続を開始するメソッド

private slots:
    void onConnected();       // connected() シグナルを受信するスロット
    void onDisconnected();    // disconnected() シグナルを受信するスロット
    void onReadyRead();       // データが読み込み可能になった時に受信するスロット
    void onErrorOccurred(QAbstractSocket::SocketError socketError); // エラー発生時に受信するスロット
    void onStateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState); // ソケットの状態が変化した時に受信するスロット

private:
    QTcpSocket *socket; // クライアントソケット
};

#endif // MYCLIENT_H

クライアント側の実装ファイル (myclient.cpp)

#include "myclient.h"

MyClient::MyClient(QObject *parent) : QObject(parent)
{
    socket = new QTcpSocket(this); // QTcpSocketを生成し、親オブジェクトをthisに設定

    // シグナルとスロットの接続
    connect(socket, &QTcpSocket::connected, this, &MyClient::onConnected);
    connect(socket, &QTcpSocket::disconnected, this, &MyClient::onDisconnected);
    connect(socket, &QTcpSocket::readyRead, this, &MyClient::onReadyRead);
    connect(socket, &QTcpSocket::errorOccurred, this, &MyClient::onErrorOccurred);
    connect(socket, &QTcpSocket::stateChanged, this, &MyClient::onStateChanged);

    qDebug() << "MyClient::MyClient() - クライアントが初期化されました。";
}

void MyClient::startConnection(const QString &hostName, quint16 port)
{
    qDebug() << "MyClient::startConnection() - 接続を開始します。ホスト: " << hostName << ", ポート: " << port;
    socket->connectToHost(hostName, port); // 指定されたホストとポートに接続を試みる
}

// connected() シグナルを受信した際に呼び出されるスロット
void MyClient::onConnected()
{
    qDebug() << "MyClient::onConnected() - ソケットがサーバーに接続されました！";
    // 接続成功後の処理（例：データ送信開始）
    socket->write("Hello, server from client!"); // サーバーにメッセージを送信
    socket->flush(); // バッファをフラッシュしてすぐに送信を試みる
}

void MyClient::onDisconnected()
{
    qDebug() << "MyClient::onDisconnected() - ソケットが切断されました。";
}

void MyClient::onReadyRead()
{
    QByteArray data = socket->readAll(); // サーバーからのデータを読み込む
    qDebug() << "MyClient::onReadyRead() - サーバーからデータを受信: " << data;
}

void MyClient::onErrorOccurred(QAbstractSocket::SocketError socketError)
{
    qDebug() << "MyClient::onErrorOccurred() - ソケットエラー発生: " << socketError
             << " - " << socket->errorString(); // エラーコードとエラーメッセージを表示
}

void MyClient::onStateChanged(QAbstractSocket::SocketState socketState)
{
    qDebug() << "MyClient::onStateChanged() - ソケットの状態が変更されました: " << socketState;
    switch (socketState) {
    case QAbstractSocket::UnconnectedState:
        qDebug() << "    状態: 未接続";
        break;
    case QAbstractSocket::HostLookupState:
        qDebug() << "    状態: ホスト名解決中";
        break;
    case QAbstractSocket::ConnectingState:
        qDebug() << "    状態: 接続中";
        break;
    case QAbstractSocket::ConnectedState:
        qDebug() << "    状態: 接続済み";
        break;
    case QAbstractSocket::BoundState:
        qDebug() << "    状態: バインド済み (通常サーバー側)";
        break;
    case QAbstractSocket::ListeningState:
        qDebug() << "    状態: リッスン中 (通常サーバー側)";
        break;
    case QAbstractSocket::ClosingState:
        qDebug() << "    状態: クローズ中";
        break;
    }
}

main.cpp でのクライアントの呼び出し

#include <QCoreApplication>
#include "myclient.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    MyClient client; // MyClientオブジェクトを生成

    // ローカルホストのポート12345に接続を試みる
    client.startConnection("127.0.0.1", 12345);

    return a.exec(); // Qtイベントループを開始
}

サーバー側の例: QTcpServer と QTcpSocket を使用

サーバーはクライアントからの接続を受け付け、新しい接続ごとに QTcpSocket を生成し、そのソケットの connected() シグナル（サーバーの文脈では、このシグナルはクライアントソケット側で発せられるが、通常はサーバーがクライアントソケットを処理する際にそのシグナルを待ち受けることは少ない）ではなく、newConnection() シグナルを受け取って処理を開始します。

サーバー側のヘッダーファイル (myserver.h)

#ifndef MYSERVER_H
#define MYSERVER_H

#include <QObject>
#include <QTcpServer> // TCPサーバー機能を提供
#include <QTcpSocket> // クライアント接続ごとに生成されるソケット
#include <QDebug>

class MyServer : public QObject
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit MyServer(QObject *parent = nullptr);
    bool startServer(quint16 port); // サーバーを開始するメソッド

private slots:
    void onNewConnection();       // 新しい接続があった時に受信するスロット
    void onClientReadyRead();     // クライアントソケットからデータが読み込み可能になった時に受信するスロット
    void onClientDisconnected();  // クライアントソケットが切断された時に受信するスロット
    void onClientError(QAbstractSocket::SocketError socketError); // クライアントソケットでエラーが発生した時に受信するスロット

private:
    QTcpServer *server; // TCPサーバー
};

#endif // MYSERVER_H

サーバー側の実装ファイル (myserver.cpp)

#include "myserver.h"

MyServer::MyServer(QObject *parent) : QObject(parent)
{
    server = new QTcpServer(this);

    // newConnection() シグナルを onNewConnection() スロットに接続
    // これがサーバーが新しいクライアント接続を検知する主要な方法です
    connect(server, &QTcpServer::newConnection, this, &MyServer::onNewConnection);

    qDebug() << "MyServer::MyServer() - サーバーが初期化されました。";
}

bool MyServer::startServer(quint16 port)
{
    if (!server->listen(QHostAddress::Any, port)) { // 任意のIPアドレスで指定ポートをリッスン
        qDebug() << "MyServer::startServer() - サーバーの起動に失敗しました: " << server->errorString();
        return false;
    }
    qDebug() << "MyServer::startServer() - サーバーがポート " << port << " でリッスンを開始しました。";
    return true;
}

// newConnection() シグナルを受信した際に呼び出されるスロット
void MyServer::onNewConnection()
{
    qDebug() << "MyServer::onNewConnection() - 新しいクライアントが接続しました！";

    QTcpSocket *clientSocket = server->nextPendingConnection(); // 接続されたクライアントソケットを取得

    // クライアントソケットのシグナルをサーバーのスロットに接続
    // クライアントソケットの connected() シグナルも存在しますが、
    // サーバー側では newConnection() が事実上の「接続完了」通知となります。
    // クライアントソケット側から見れば、これが connected() が発せられるタイミングです。
    connect(clientSocket, &QTcpSocket::readyRead, this, &MyServer::onClientReadyRead);
    connect(clientSocket, &QTcpSocket::disconnected, this, &MyServer::onClientDisconnected);
    connect(clientSocket, &QTcpSocket::errorOccurred, this, &MyServer::onClientError);

    qDebug() << "    クライアントのIPアドレス: " << clientSocket->peerAddress().toString();
    qDebug() << "    クライアントのポート: " << clientSocket->peerPort();

    // 接続されたクライアントにウェルカムメッセージを送信
    clientSocket->write("Welcome, client!");
    clientSocket->flush();
}

void MyServer::onClientReadyRead()
{
    QTcpSocket *clientSocket = qobject_cast<QTcpSocket*>(sender()); // シグナルを発したソケットを取得
    if (!clientSocket) return;

    QByteArray data = clientSocket->readAll(); // クライアントからのデータを読み込む
    qDebug() << "MyServer::onClientReadyRead() - クライアント (" << clientSocket->peerAddress().toString() << ":" << clientSocket->peerPort() << ") からデータを受信: " << data;

    // 受信したデータをそのままクライアントにエコーバック（返信）
    clientSocket->write("Echo: " + data);
    clientSocket->flush();
}

void MyServer::onClientDisconnected()
{
    QTcpSocket *clientSocket = qobject_cast<QTcpSocket*>(sender());
    if (!clientSocket) return;

    qDebug() << "MyServer::onClientDisconnected() - クライアント (" << clientSocket->peerAddress().toString() << ":" << clientSocket->peerPort() << ") が切断されました。";
    clientSocket->deleteLater(); // ソケットを安全に削除
}

void MyServer::onClientError(QAbstractSocket::SocketError socketError)
{
    QTcpSocket *clientSocket = qobject_cast<QTcpSocket*>(sender());
    if (!clientSocket) return;

    qDebug() << "MyServer::onClientError() - クライアント (" << clientSocket->peerAddress().toString() << ":" << clientSocket->peerPort() << ") でエラー発生: " << socketError
             << " - " << clientSocket->errorString();
}

#include <QCoreApplication>
#include "myserver.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    MyServer server;
    if (!server.startServer(12345)) { // ポート12345でサーバーを開始
        return 1; // 起動失敗
    }

    return a.exec();
}

• disconnected(): ソケットが切断されたときに発せられるシグナルです。
• readyRead(): データがソケットから読み込み可能になったときに発せられるシグナルです。
• stateChanged(): ソケットの状態遷移を追跡できるため、デバッグ時に非常に役立ちます。ConnectingState から ConnectedState への変化を確認できます。
• errorOccurred(): ネットワークプログラミングではエラーハンドリングが非常に重要です。必ず errorOccurred() シグナルを接続し、エラーの内容をログに出力するようにしましょう。
• newConnection() シグナル (サーバー側):
  • サーバー側では、新しいクライアントが接続を試み、その接続が成功すると QTcpServer::newConnection() シグナルが発せられます。
  • このシグナルは、新しい QTcpSocket オブジェクトが利用可能になったことを示します。サーバーは nextPendingConnection() を呼び出してそのソケットを取得し、そのソケットからのデータ受信や切断のシグナルを接続します。
• connected() シグナル (クライアント側):
  • クライアントが connectToHost() を呼び出した後、実際にサーバーとの接続が確立された時点で QTcpSocket::connected() シグナルが発せられます。
  • このシグナルを受け取るスロット (onConnected()) で、接続後の処理（例：データ送信、UIの更新など）を開始します。
• QTcpSocket: クライアント側で直接使用するか、サーバー側で新しい接続ごとに QTcpServer::nextPendingConnection() から取得します。

---

waitForConnected() メソッド (同期/ブロッキング接続)

QAbstractSocket クラスには、connected() シグナルの非同期的な性質とは対照的に、接続が完了するまで（またはタイムアウトするまで）現在のスレッドをブロックするメソッド waitForConnected() が用意されています。

特徴

• 注意点
  
  • GUI スレッドでの使用は避けるべき
    メインスレッド（GUIスレッド）でこのメソッドを使用すると、アプリケーションのUIがフリーズし、ユーザー操作を受け付けなくなるため、推奨されません。
  • エラーハンドリング
    接続に失敗した場合、false を返しますが、その理由を詳細に知るには、error() メソッドや errorString() メソッドでエラー情報を取得する必要があります。
  • タイムアウト
    引数 msecs でタイムアウト時間をミリ秒単位で指定できます。デフォルトは30000ミリ秒（30秒）です。
• 戻り値
  接続が確立された場合は true を、タイムアウトしたかエラーが発生した場合は false を返します。
• 同期 (Blocking)
  接続が確立されるか、指定されたタイムアウト時間が経過するまで、関数がリターンしません。

使用例

#include <QTcpSocket>
#include <QDebug>
#include <QCoreApplication> // QEventLoop::exec() を使う場合

// 非GUIスレッドで動作するクライアントの例
class BlockingClient : public QObject
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit BlockingClient(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent)
    {
        socket = new QTcpSocket(this);
    }

    void doConnect(const QString &host, quint16 port)
    {
        qDebug() << "接続を開始します: " << host << ":" << port;
        socket->connectToHost(host, port);

        // 接続が完了するまで（最大5秒）待機
        if (socket->waitForConnected(5000)) {
            qDebug() << "接続に成功しました！";
            socket->write("Blocking connect test data!");
            socket->flush();
            socket->waitForBytesWritten(1000); // 書き込み完了まで待機
            socket->disconnectFromHost();
            socket->waitForDisconnected(1000); // 切断完了まで待機
        } else {
            qDebug() << "接続に失敗しました: " << socket->errorString();
        }
    }

private:
    QTcpSocket *socket;
};

// メイン関数 (通常は別スレッドから doConnect を呼び出すべき)
int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    BlockingClient client;
    // 注: GUIスレッドでwaitForConnectedを使用するとGUIがフリーズします。
    // この例は、Qtアプリケーションのメインイベントループとは独立して動作する
    // 専用のスレッド内でdoConnectを呼び出すシナリオを想定しています。
    // 例えば、QThread を使ってこのクライアントオブジェクトを別スレッドに移動させるなど。
    client.doConnect("127.0.0.1", 12345);

    return a.exec();
}

イベントループの活用 (擬似ブロッキング)

GUIをフリーズさせずに、一時的に接続完了を待つ必要がある場合（ただし、これは一般的ではありません）に、ローカルな QEventLoop を使用してシグナルを待つ方法があります。これは waitForConnected() と似ていますが、イベント処理をブロックしない点が異なります。

特徴

• 複雑さ
  シグナルとスロットの接続を一時的に行い、完了後に切断する必要があるため、コードが少し複雑になります。
• GUI の応答性維持
  QEventLoop::exec() は、そのイベントループ内でイベントを処理するため、UIがフリーズすることはありません。
• 非ブロッキングだが待機
  特定のシグナルが発せられるまで、現在のスレッドのイベントループを一時的に開始します。

使用例

#include <QTcpSocket>
#include <QDebug>
#include <QEventLoop> // ローカルイベントループ用

class EventLoopClient : public QObject
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit EventLoopClient(QObject *parent = nullptr) : QObject(parent)
    {
        socket = new QTcpSocket(this);
    }

    bool doConnectWithEventLoop(const QString &host, quint16 port)
    {
        qDebug() << "接続を開始します (イベントループ): " << host << ":" << port;
        socket->connectToHost(host, port);

        QEventLoop loop;
        // connected() シグナルが発せられたらループを終了
        connect(socket, &QTcpSocket::connected, &loop, &QEventLoop::quit);
        // エラーが発生した場合もループを終了
        connect(socket, static_cast<void(QAbstractSocket::*)(QAbstractSocket::SocketError)>(&QAbstractSocket::errorOccurred),
                &loop, &QEventLoop::quit);

        // 接続処理を待機 (タイムアウトを伴う)
        QTimer timer;
        timer.setSingleShot(true);
        connect(&timer, &QTimer::timeout, &loop, &QEventLoop::quit);
        timer.start(5000); // 5秒のタイムアウト

        loop.exec(); // ここでイベントループが開始され、connected() または errorOccurred() または timeout が発生するまで待機

        // 接続状態を確認
        if (socket->state() == QAbstractSocket::ConnectedState) {
            qDebug() << "接続に成功しました (イベントループ)！";
            return true;
        } else {
            qDebug() << "接続に失敗しました (イベントループ): " << socket->errorString();
            return false;
        }
    }

private:
    QTcpSocket *socket;
};

// main.cpp （上記同様、GUIスレッドでの使用は慎重に）
// int main(int argc, char *argv[]) { /* ... */ }
// EventLoopClient client;
// client.doConnectWithEventLoop("127.0.0.1", 12345);
// return a.exec();

ソケットの状態 (state()) のポーリング (非推奨)

理論的には、connectToHost() を呼び出した後、ループで QAbstractSocket::state() メソッドを繰り返しチェックする方法も考えられますが、これはQtの設計思想に反しており、非常に非効率的でCPUを大量に消費するため、強く非推奨です。

なぜ非推奨なのか

• 正確性の問題
  接続は非同期でOSレベルで行われるため、ポーリングのタイミングによっては状態変化を見逃す可能性があります。
• GUI フリーズ
  メインスレッドで行うと、waitForConnected() と同様にUIがフリーズします。
• ビジーループ
  CPUが何もせずに state() を繰り返しチェックするだけのループになり、リソースを浪費します。

#include <QTcpSocket>
#include <QDebug>
#include <QThread> // ポーリングの遅延用

void pollingConnect(const QString &host, quint16 port)
{
    QTcpSocket socket;
    qDebug() << "接続を開始します (ポーリング): " << host << ":" << port;
    socket.connectToHost(host, port);

    // 接続状態がConnectedStateになるか、指定回数ループするまで待機
    int maxAttempts = 100;
    int currentAttempt = 0;
    while (socket.state() != QAbstractSocket::ConnectedState && currentAttempt < maxAttempts) {
        qDebug() << "現在の状態: " << socket.state();
        QThread::msleep(50); // 50ミリ秒待機してCPU負荷を軽減 (それでも非効率)
        currentAttempt++;
        QCoreApplication::processEvents(); // イベント処理を許可 (GUIがフリーズしないように試みるが、ベストではない)
    }

    if (socket.state() == QAbstractSocket::ConnectedState) {
        qDebug() << "接続に成功しました (ポーリング)！";
    } else {
        qDebug() << "接続に失敗しました (ポーリング): " << socket.errorString();
    }
}

C++20のコルーチンを使用できる環境であれば、QCoroライブラリがQtの非同期操作をより同期的に見えるように記述する現代的な代替手段を提供します。waitForConnected() のようなブロッキングメソッドを使わずに、非同期イベント駆動プログラミングをシーケンシャルなコードで記述できます。

特徴

• モダンなC++
  C++20以降のコルーチン機能が必要です。
• エラーハンドリングの簡素化
  例外処理のようにエラーを処理できます。
• UIをブロックしない
  バックグラウンドで非同期に動作するため、GUIアプリケーションの応答性を維持します。
• 非同期操作を同期的に記述
  co_await キーワードを使って、connected() シグナルなどを待機する処理を、従来の同期コードのように記述できます。

// QCoro を使用する場合 (QCoroライブラリのセットアップが必要)
// #include <QCoroTcpSocket>
// #include <QCoroCore>

// QCoro::Task<void> connectAndSend(QTcpSocket *socket, const QString &host, quint16 port)
// {
//     if (!co_await qCoro(socket)->connectToHost(host, port)) {
//         qWarning() << "接続に失敗しました: " << socket->errorString();
//         co_return;
//     }
//     qDebug() << "接続に成功しました！";
//     co_await qCoro(socket)->write("Hello from QCoro!");
//     qDebug() << "データ送信済み。";
// }

// main.cpp
// int main(...) {
//     QCoreApplication app(...);
//     QTcpSocket socket;
//     connectAndSend(&socket, "127.0.0.1", 12345);
//     return app.exec();
// }

• 避けるべき方法
  state() のポーリングは、効率と設計上の理由から避けるべきです。
• 限定的な代替手段
  
  • waitForConnected()
    メインスレッドではない、独立したバックグラウンドスレッドでのみ、接続が完了するまでブロックする必要がある場合に限って使用します。
  • ローカル QEventLoop
    GUIアプリケーションで、短時間だけ同期的に接続を待つ必要があるが、GUIをフリーズさせたくない場合に限って使用します。ただし、一般的にはより複雑になります。
  • QCoro
    C++20のコルーチンを使用できる環境で、非同期コードをより同期的に記述したい場合に、現代的な解決策として検討できます。
• 推奨される方法
  ほとんどの場合、QAbstractSocket::connected() シグナルをスロットに接続する非同期シグナル＆スロット方式が、Qtの哲学に最も合致しており、パフォーマンス、応答性、コードの可読性の点で最良の選択肢です。