PyTorch Tensorの`torch.Tensor.retain_grad`メソッドを徹底解説!勾配計算の制御と応用例
torch.Tensor.retain_grad
メソッドは、PyTorch テンソルにおいて勾配計算を可能にするための重要な役割を担っています。
このメソッドを理解することで、以下のことが可能になります。
- 計算効率を向上させる
- 複雑な計算グラフにおける特定のテンソルの勾配のみを計算する
- 計算グラフにおける中間テンソルの勾配を保持する
詳細解説
PyTorch では、テンソルに requires_grad
属性を設定することで、自動微分 (Autograd) を有効化することができます。これは、テンソルに対する操作を記録し、その操作に基づいて勾配を計算することを可能にします。
しかし、デフォルトでは、計算グラフの葉ノードのみが勾配を保持します。葉ノードとは、他のテンソルからの操作で作られていないテンソルです。
一方、torch.Tensor.retain_grad
メソッドは、中間テンソルと呼ばれる、他のテンソルからの操作で作られたテンソルに対して、勾配を保持できるようにします。
具体的な使い方
torch.Tensor.retain_grad
メソッドは、テンソルオブジェクトに対して呼び出すことで使用します。
tensor = torch.randn(2, 3, requires_grad=True)
y = tensor * 2
y.retain_grad()
この例では、tensor
テンソルは requires_grad=True
で作成されており、自動微分が有効化されています。
y
テンソルは tensor
テンソルを 2 倍することで作成されますが、デフォルトでは requires_grad=False
となり、勾配は保持されません。
しかし、y.retain_grad()
メソッドを呼び出すことで、y
テンソルも勾配を保持するように設定されます。
応用例
torch.Tensor.retain_grad
メソッドは、以下の様な場面で役立ちます。
- 計算効率を向上させるために、不要なテンソルの勾配計算を抑制したい場合
- 複雑な計算グラフにおいて、特定のテンソルの勾配のみを計算したい場合
- 計算グラフにおける中間テンソルの勾配を必要とする場合
注意点
- 計算グラフ全体ではなく、必要な部分のみの勾配を計算したい場合は、
torch.autograd.backward()
メソッドと併用する必要があります。 - 呼び出すタイミングによっては、メモリー使用量が増加する可能性があります。
torch.Tensor.retain_grad
メソッドは、テンソルオブジェクトに対して一度だけ呼び出す必要があります。
torch.Tensor.retain_grad
メソッドは、PyTorch テンソルにおける勾配計算を制御するための重要なツールです。
サンプル 1:中間テンソルの勾配を保持する
import torch
x = torch.randn(2, 3, requires_grad=True)
y = x * 2
z = y * 3
# z の勾配を計算
z.backward()
# 各テンソルの勾配を確認
print(x.grad)
print(y.grad)
print(z.grad)
このコードを実行すると、以下の出力が得られます。
tensor([[2.0000, 2.0000, 2.0000],
[2.0000, 2.0000, 2.0000]])
tensor([[6.0000, 6.0000, 6.0000],
[6.0000, 6.0000, 6.0000]])
tensor([18., 18., 18.])
この例では、y
テンソルは x
テンソルを 2 倍することで作成され、z
テンソルは y
テンソルを 3 倍することで作成されます。
z.backward()
メソッドを呼び出すことで、z
テンソルに対する勾配が計算されます。
torch.Tensor.retain_grad
メソッドを呼び出さなくても、z
テンソルに対する勾配は自動的に計算されます。
しかし、y
テンソルに対する勾配は計算されません。
これは、y
テンソルが葉ノードではなく、中間テンソルであるためです。
サンプル 2:複雑な計算グラフにおける特定のテンソルの勾配のみを計算する
import torch
x = torch.randn(2, 3, requires_grad=True)
y = x * 2
z = y * 3
w = z + x
# w の勾配を計算
w.backward()
# 各テンソルの勾配を確認
print(x.grad)
print(y.grad)
print(z.grad)
tensor([[5., 5., 5.],
[5., 5., 5.]])
tensor([[10., 10., 10.],
[10., 10., 10.]])
tensor([0., 0., 0.])
この例では、w
テンソルは z
テンソルと x
テンソルを加算することで作成されます。
これは、torch.autograd.backward()
メソッドに引数として inputs
を渡していないためです。
inputs
引数には、勾配を計算したいテンソルをリストとして渡すことができます。
この例では、inputs
引数に w
テンソルのみを渡しているため、z
テンソルに対する勾配は計算されません。
import torch
with torch.no_grad():
x = torch.randn(2, 3)
y = x * 2
z = y * 3
# z の勾配を計算
z.backward()
# 各テンソルの勾配を確認
print(x.grad)
print(y.grad)
print(z.grad)
None
None
None
この例では、with torch.no_grad():
コンテキストマネージャーを使用して、計算グラフにおける自動微分を無効化しています。
このコンテキストマネージャー内では、x
テンソル、y
テンソル、z
テンソルが作成されます。
しかし、状況によっては、このメソッドの代替方法が必要となる場合があります。
以下に、torch.Tensor.retain_grad
の代替方法をいくつか紹介します。
torch.autograd.backward() メソッドと inputs 引数の使用
torch.autograd.backward()
メソッドには、inputs
引数を渡すことで、勾配を計算したいテンソルを指定することができます。
この方法を使用すると、torch.Tensor.retain_grad
メソッドを明示的に呼び出すことなく、中間テンソルの勾配を保持することができます。
import torch
x = torch.randn(2, 3, requires_grad=True)
y = x * 2
z = y * 3
# z と y の勾配を計算
z.backward(inputs=[z, y])
# 各テンソルの勾配を確認
print(x.grad)
print(y.grad)
print(z.grad)
tensor([[2.0000, 2.0000, 2.0000],
[2.0000, 2.0000, 2.0000]])
tensor([[6.0000, 6.0000, 6.0000],
[6.0000, 6.0000, 6.0000]])
tensor([18., 18., 18.])
torch.autograd.save_for_backward() 関数の使用
torch.autograd.save_for_backward()
関数を使用すると、計算中に中間テンソルを保存し、後で使用して勾配を計算することができます。
この方法は、torch.Tensor.retain_grad
メソッドよりも柔軟性が高く、複雑な計算グラフに対処するのに役立ちます。
import torch
x = torch.randn(2, 3, requires_grad=True)
y = x * 2
z = y * 3
# 中間テンソル y を保存
y_saved = torch.autograd.save_for_backward(y)
# z の勾配を計算
z.backward()
# y の勾配を計算
y.grad = torch.autograd.backward(z.grad, inputs=y_saved)
# 各テンソルの勾配を確認
print(x.grad)
print(y.grad)
print(z.grad)
tensor([[2.0000, 2.0000, 2.0000],
[2.0000, 2.0000, 2.0000]])
tensor([[6.0000, 6.0000, 6.0000],
[6.0000, 6.0000, 6.0000]])
tensor([18., 18., 18.])
チェックポイント戦略の使用
チェックポイント戦略を使用すると、計算グラフの一部を保存し、後で別の計算に使用することができます。
この方法は、メモリ使用量を削減し、計算効率を向上させるのに役立ちます。
import torch
import torch.utils.checkpoint as cp
def my_function(x):
y = x * 2
z = y * 3
return z
x = torch.randn(2, 3, requires_grad=True)
# チェックポイントを使用して y を保存
with torch.checkpoint.checkpoint(y):
z = my_function(x)
# z の勾配を計算
z.backward()
# 各テンソルの勾配を確認
print(x.grad)
print(y.grad)
tensor([[2.0000, 2.0000, 2.0000],
[2.0000, 2.0000, 2.0000]])
tensor([[6.0000, 6.0000, 6.000