CMakeのビルド環境をカスタマイズ:CMAKE_TOOLCHAIN_FILEと代替方法による柔軟なプロジェクト構築


CMAKE_TOOLCHAIN_FILE変数は、CMakeプロジェクトにおけるビルド環境設定をカスタマイズするための強力なツールです。この変数を使用して、コンパイラ、リンカ、デバッガなどのツールチェーンファイルの場所を指定できます。ツールチェーンファイルは、CMakeがビルドに必要なツールを見つけるのに役立ちます。

利点

  • サードパーティライブラリの統合
    CMAKE_TOOLCHAIN_FILEを使用して、vCPkgなどのパッケージマネージャーからサードパーティライブラリを簡単に統合できます。
  • ビルド環境のカスタマイズ
    特定のコンパイラフラグやオプションを指定することで、ビルド環境を個々のニーズに合わせて調整できます。
  • クロスコンパイルの容易化
    CMAKE_TOOLCHAIN_FILEを使用すると、異なるアーキテクチャやオペレーティングシステム向けのプロジェクトを簡単にクロスコンパイルできます。

構文

CMAKE_TOOLCHAIN_FILE変数は、以下の構文で設定できます。

cmake -DCMAKE_TOOLCHAIN_FILE="<path_to_toolchain_file>" <source_directory>

ここで、<path_to_toolchain_file>はツールチェーンファイルのパス、<source_directory>はCMakeLists.txtファイルを含むソースディレクトリです。

ツールチェーンファイルの内容

ツールチェーンファイルは、CMakeスクリプトで構成されており、以下の情報を指定できます。

  • 環境変数
    SETコマンドを使用して、環境変数を設定できます。
  • リンカフラグ
    CMAKE_LINK_FLAGS変数を使用して、リンカフラグを指定します。
  • コンパイラフラグ
    CMAKE_C_FLAGSCMAKE_CXX_FLAGSなどの変数を使用して、コンパイラフラグを指定します。
  • ライブラリディレクトリ
    CMAKE_LIBRARY_PATH変数を使用して、ライブラリディレクトリの場所を指定します。
  • インクルードディレクトリ
    CMAKE_INCLUDE_PATH変数を使用して、インクルードディレクトリの場所を指定します。
  • コンパイラとリンカのパス
    CMAKE_C_COMPILERCMAKE_CXX_COMPILERCMAKE_LINKERなどの変数を使用して、コンパイラとリンカの場所を指定します。

以下の例は、簡単なツールチェーンファイルを示しています。

# コンパイラとリンカのパスを指定
SET(CMAKE_C_COMPILER "/usr/bin/gcc-9")
SET(CMAKE_CXX_COMPILER "/usr/bin/g++-9")
SET(CMAKE_LINKER "/usr/bin/ld")

# インクルードディレクトリを指定
SET(CMAKE_INCLUDE_PATH "/usr/include")
SET(CMAKE_INCLUDE_PATH "/usr/local/include")

# ライブラリディレクトリを指定
SET(CMAKE_LIBRARY_PATH "/usr/lib")
SET(CMAKE_LIBRARY_PATH "/usr/local/lib")

# コンパイラフラグを指定
SET(CMAKE_C_FLAGS "-Wall -O3")
SET(CMAKE_CXX_FLAGS "-Wall -O3")

# リンカフラグを指定
SET(CMAKE_LINK_FLAGS "-Wl,-rpath,/usr/local/lib")

このツールチェーンファイルを使用すると、CMakeは /usr/bin/gcc-9/usr/bin/g++-9 をコンパイラとして、/usr/bin/ld をリンカとして使用します。また、CMakeは /usr/include/usr/local/include をインクルードディレクトリとして、/usr/lib/usr/local/lib をライブラリディレクトリとして使用します。さらに、CMakeはコンパイル時に -Wall -O3 フラグと、リンク時に -Wl,-rpath,/usr/local/lib フラグを使用します。

  • 複数のツールチェーンファイルを使用する場合は、優先順位を指定する必要があります。
  • ツールチェーンファイルは、CMakeスクリプトの構文規則に従う必要があります。
  • CMAKE_TOOLCHAIN_FILE変数は、CMakeがビルドを構成する前に設定する必要があります。
  • [Using CMake Toolchain Files for Cross-Compiling](https://www. cmake.org


例1: クロスコンパイル

この例では、Linux用のCMakeプロジェクトをmacOSでクロスコンパイルする方法を示します。

# ツールチェーンファイルを指定
cmake -DCMAKE_TOOLCHAIN_FILE=toolchain.cmake path/to/project

# toolchain.cmakeの内容
SET(CMAKE_C_COMPILER "/usr/local/bin/clang-12")
SET(CMAKE_CXX_COMPILER "/usr/local/bin/clang++-12")
SET(CMAKE_LINKER "/usr/local/bin/lld-12")
SET(CMAKE_SYSTEM_NAME Linux)

この例では、toolchain.cmakeという名前のツールチェーンファイルが使用されます。このファイルは、コンパイラとリンカのパス、およびターゲットシステムの名前を指定します。

例2: サードパーティライブラリの統合

この例では、vCPkgを使用してBoostライブラリをCMakeプロジェクトに統合する方法を示します。

# ツールチェーンファイルを指定
cmake -DCMAKE_TOOLCHAIN_FILE=toolchain.cmake path/to/project

# toolchain.cmakeの内容
# vCPkgを初期化
set(CMAKE_TOOLCHAIN_FILE "${CMAKE_SOURCE_DIR}/toolchain.cmake")
set(CMAKE_MODULE_PATH ${CMAKE_SOURCE_DIR}/cmake/Modules)

find_package(Boost REQUIRED COMPONENTS filesystem)

# Boostライブラリをリンク
target_link_libraries(mytarget Boost::filesystem)

この例では、toolchain.cmakeという名前のツールチェーンファイルが使用されます。このファイルは、vCPkgを初期化し、Boostライブラリを検索します。次に、CMakeLists.txtファイルで、Boostライブラリをターゲットにリンクします。

例3: デバッグ情報の生成

この例では、CMakeプロジェクトでデバッグ情報を作成する方法を示します。

# ツールチェーンファイルを指定
cmake -DCMAKE_TOOLCHAIN_FILE=toolchain.cmake -DCMAKE_DEBUG_POSTFIX=d path/to/project

# toolchain.cmakeの内容
# デバッグ情報を生成
set(CMAKE_C_FLAGS_DEBUG "-g")
set(CMAKE_CXX_FLAGS_DEBUG "-g")

この例では、toolchain.cmakeという名前のツールチェーンファイルが使用されます。このファイルは、コンパイラフラグを設定して、デバッグ情報が生成されるようにします。



CMakeオプション

CMakeには、ビルド環境を構成するための多くのオプションが用意されています。これらのオプションは、コマンドラインまたはCMakeLists.txtファイルで設定できます。


cmake -DCMAKE_C_COMPILER=/usr/bin/gcc-9 -DCMAKE_CXX_COMPILER=/usr/bin/g++-9 path/to/project

この例では、CMAKE_C_COMPILERCMAKE_CXX_COMPILER オプションを使用して、コンパイラを指定します。

利点

  • ツールチェーンファイルを作成する必要がない
  • シンプルで使いやすい

欠点

  • 複雑なビルド環境を構成するには不向き
  • CMAKE_TOOLCHAIN_FILEほど柔軟ではない

キャッシュ

CMakeは、ビルド構成をキャッシュする機能を提供します。このキャッシュを使用して、以前に設定されたオプションを再利用できます。


cmake path/to/project
cmake --build .

この例では、初回実行時にCMakeがビルド構成をキャッシュします。2回目以降の実行では、CMakeはキャッシュされた構成を使用してビルドを実行します。

利点

  • ツールチェーンファイルを必要としない
  • ビルド時間を短縮できる

欠点

  • 複雑なビルド環境を構成するには不向き
  • キャッシュが無効化されている場合、またはCMakeが新しい構成を検出した場合は、再生成する必要がある

サードパーティツール

CMake以外にも、プロジェクトのビルド環境を構成できるツールがいくつかあります。これらのツールは、CMakeよりも柔軟性が高いか、特定のユースケースに適している場合があります。


  • Wix
    Windows向けのインストーラーを作成するためのツールです。
  • Premake
    クロスプラットフォームのビルドツールで、Windows、macOS、Linuxなどのプラットフォームで動作します。
  • Bazel
    Googleが開発したビルドツールで、大規模なプロジェクトに適しています。

利点

  • 特定のユースケースに適している場合がある
  • CMakeよりも柔軟性が高い場合がある

欠点

  • 学習曲線が大きい場合がある
  • CMakeほど普及していないものもある

最適な代替方法の選択

最適な代替方法は、プロジェクトの要件によって異なります。以下の要素を考慮する必要があります。

  • 個人的な好み
  • チームの経験
  • ターゲットプラットフォーム
  • プロジェクトの複雑性