Qtショートカット管理の決定版: releaseShortcut()のエラーと解決策
QWidget::releaseShortcut()
は、QtのQWidget
クラスが提供するメソッドで、以前に登録したショートカットを解放するために使用されます。
Qtでは、QWidget::grabShortcut()
メソッドを使って、特定のウィジェットに対してキーシーケンス(例: Ctrl+S、F1など)をショートカットとして登録することができます。このショートカットが押されると、そのショートカットを登録したウィジェットが対応するイベントを受け取ります。
releaseShortcut(int id)
メソッドは、この登録されたショートカットをシステムから解除し、そのショートカットがもうそのウィジェットに関連付けられないようにします。
パラメータ
int id
:grabShortcut()
メソッドを呼び出したときに返された、ショートカットの一意の識別子(ID)を指定します。
動作
releaseShortcut()
が呼び出されると、指定されたIDを持つショートカットが解放されます。これにより、以下のようになります。
- イベントの停止: そのショートカットが押されても、該当のウィジェットにイベントが送信されなくなります。
- システムへの解放: そのキーシーケンスが、他のウィジェットやアプリケーション全体で利用可能になる可能性があります(ただし、完全に利用可能になるかは、他のショートカットの登録状況やシステムの動作によります)。
使用例
通常、grabShortcut()
でショートカットを登録し、不要になった時点でreleaseShortcut()
で解放します。例えば、あるモードに入っている間だけ特定のショートカットを有効にし、そのモードを終了したらショートカットを無効にしたい場合などに利用されます。
#include <QtWidgets/QApplication>
#include <QtWidgets/QWidget>
#include <QtWidgets/QPushButton>
#include <QtWidgets/QVBoxLayout>
#include <QtGui/QKeySequence>
#include <QDebug>
class MyWidget : public QWidget
{
Q_OBJECT
public:
MyWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
{
QPushButton *button = new QPushButton("Press Ctrl+S or F1", this);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
layout->addWidget(button);
setLayout(layout);
// Ctrl+S をショートカットとして登録
saveShortcutId = grabShortcut(QKeySequence("Ctrl+S"));
qDebug() << "Ctrl+S ショートカットID:" << saveShortcutId;
// F1 をショートカットとして登録
helpShortcutId = grabShortcut(QKeySequence(Qt::Key_F1));
qDebug() << "F1 ショートカットID:" << helpShortcutId;
// ボタンがクリックされたら F1 ショートカットを解放する例
connect(button, &QPushButton::clicked, this, [this]() {
if (helpShortcutId != -1) { // -1 は無効なID
releaseShortcut(helpShortcutId);
qDebug() << "F1 ショートカットを解放しました。";
helpShortcutId = -1; // 解放済みとしてマーク
}
});
}
protected:
void shortcutEvent(QShortcutEvent *event) override
{
if (event->shortcutId() == saveShortcutId) {
qDebug() << "Ctrl+S が押されました!";
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマーク
} else if (event->shortcutId() == helpShortcutId) {
qDebug() << "F1 が押されました!";
event->accept();
} else {
event->ignore(); // 処理しない場合は無視
}
}
private:
int saveShortcutId = -1;
int helpShortcutId = -1;
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyWidget w;
w.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc" //mocファイルを含める
上記のコードでは、Ctrl+S
とF1
をショートカットとして登録しています。
MyWidget
のボタンをクリックすると、F1
のショートカットがreleaseShortcut()
によって解放され、それ以降F1
を押しても"F1 が押されました!"というメッセージは表示されなくなります。
注意点
- 同じキーシーケンスが複数のウィジェットでショートカットとして登録されている場合、Qtはフォーカスチェーンなどに基づいてどのウィジェットがイベントを受け取るかを決定します。
releaseShortcut()
はそのウィジェットとショートカットの関連付けのみを解除します。 releaseShortcut()
に存在しないIDを渡しても、通常はエラーになりませんが、何もしません。grabShortcut()
でショートカットを登録したら、不要になった時点で必ずreleaseShortcut()
で解放することが推奨されます。特に、ウィジェットが破棄される前に解放しないと、リソースリークや予期せぬ動作の原因になることがあります。
QWidget::releaseShortcut()
自体が直接エラーメッセージを出すことは稀ですが、ショートカットのライフサイクル管理の誤りによって、アプリケーションの動作がおかしくなったり、予期せぬ挙動が発生したりすることがあります。
解放すべきショートカットIDを紛失する
問題
grabShortcut()
でショートカットを登録したものの、その返り値であるID(int
型)を適切に保存せず、後でreleaseShortcut()
を呼び出せなくなる。
症状
- 同じキーシーケンスが複数回
grabShortcut()
で登録され、ショートカットが重複してしまい、意図しないウィジェットがイベントを受け取ってしまう。 - ショートカットが意図したときに解放されず、不要な場面でも機能し続けてしまう。
トラブルシューティング
- ショートカットのライフサイクルが明確な場合(例:ダイアログが開いている間だけ有効なショートカットなど)、そのスコープ内でIDを管理し、スコープを抜けるときに解放することを検討してください。
grabShortcut()
の返り値は、クラスのメンバ変数として保存するなどして、必ずアクセスできるようにしてください。
悪い例
void MyWidget::setupShortcuts() {
// IDがローカル変数なので、この関数を抜けると失われる
int shortcutId = grabShortcut(QKeySequence("Ctrl+S"));
}
void MyWidget::cleanupShortcuts() {
// shortcutId が不明なため、解放できない
// releaseShortcut(shortcutId); // コンパイルエラーまたは未定義動作
}
良い例
class MyWidget : public QWidget {
Q_OBJECT
public:
MyWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
saveShortcutId = grabShortcut(QKeySequence("Ctrl+S"));
}
~MyWidget() {
if (saveShortcutId != -1) {
releaseShortcut(saveShortcutId);
}
}
private:
int saveShortcutId = -1; // メンバ変数としてIDを保存
};
存在しない、またはすでに解放されたIDを解放しようとする
問題
releaseShortcut()
に、無効なショートカットID(例:初期値の-1
、すでに解放済みのID、grabShortcut()
で登録されていないIDなど)を渡してしまう。
症状
- コードの意図と実際の動作が乖離し、デバッグが難しくなる可能性があります。
- 通常、Qtはエラーを出さず、単に何もしません。しかし、デバッグビルドでQtのデバッグメッセージを有効にしている場合、警告が出ることがあります(例: "QShortcutEvent: Failed to release shortcut with id X")。
トラブルシューティング
- 複数の場所で同じショートカットを登録・解放する可能性がある場合は、IDの管理に注意し、解放済みフラグなどを使用することも検討します。
- ショートカットを解放したら、そのIDを
-1
などの無効な値にリセットする習慣をつけると良いでしょう。これにより、二重解放を防ぎ、コードの意図を明確にできます。 - ショートカットIDは、
grabShortcut()
が成功した場合にのみ有効な値(通常は0以上の整数)が返されます。登録に失敗した場合は-1
が返されることがあります。
ショートカットのコンテキスト(Qt::ShortcutContext)の誤解
問題
grabShortcut()
で設定したショートカットコンテキスト(例: Qt::WindowShortcut
, Qt::ApplicationShortcut
, Qt::WidgetShortcut
, Qt::WidgetWithChildrenShortcut
)と、期待する動作が一致しない。特に、ショートカットを解放したのにまだ機能しているように見える場合。
症状
- 他のウィジェットやアプリケーション全体で意図せずショートカットが機能してしまう。
releaseShortcut()
を呼び出したにもかかわらず、ショートカットが特定のウィジェットで引き続き機能するように見える。
トラブルシューティング
- 複数のショートカットが同じキーシーケンスを持つ場合、Qtはショートカットコンテキストと現在のフォーカスに基づいて優先順位を決定します。意図したショートカットが発火しない場合、他のショートカットがイベントを「消費」している可能性があります。
Qt::WindowShortcut
やQt::WidgetShortcut
などは、ショートカットを登録したウィジェットまたはその親ウィンドウが閉じられたり、非アクティブになったりすると、そのコンテキスト内で自動的に無効になることがあります。しかし、完全にシステムから解除するにはreleaseShortcut()
が必要です。Qt::ApplicationShortcut
で登録されたショートカットは、アプリケーション全体で有効になるため、特定のウィジェットの破棄や非表示だけでは自動的に解放されません。明示的にreleaseShortcut()
を呼び出す必要があります。
ウィジェットの破棄とショートカットの解放の順序
問題
ショートカットを登録したウィジェットが破棄される前に、releaseShortcut()
が呼び出されない。
症状
- デバッグビルドで警告が出ることがある。
- アプリケーション終了時にクラッシュしたり、予期せぬエラーが発生したりする可能性がある。
- メモリリーク(ショートカットシステムが解放されていないリソースを保持する)。
トラブルシューティング
- ショートカットを登録したウィジェットのデストラクタ (
~MyWidget()
) で、必ずreleaseShortcut()
を呼び出すようにしてください。これにより、ウィジェットが破棄されるときにショートカットも確実に解放されます。
例
class MyWidget : public QWidget {
Q_OBJECT
public:
MyWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
myShortcutId = grabShortcut(QKeySequence("Alt+A"));
}
~MyWidget() { // デストラクタでショートカットを解放
if (myShortcutId != -1) {
releaseShortcut(myShortcutId);
}
}
private:
int myShortcutId = -1;
};
QShortcutクラスとの混同
問題
QShortcut
クラスとQWidget::grabShortcut()
/releaseShortcut()
の機能を混同している。
症状
- 意図した通りにショートカットが動作しない。
- ショートカットの管理方法が複雑になり、どちらを使うべきか迷う。
トラブルシューティング
QWidget::grabShortcut()
/releaseShortcut()
: より低レベルなショートカット管理が必要な場合や、QShortcut
オブジェクトを個別に管理する手間を省きたい場合に有用です。返されるIDを自分で管理し、明示的に解放する必要があります。QShortcut
: Qtのイベントシステムにオブジェクトとしてショートカットを登録したい場合に便利です。例えば、特定のメニューアクションにショートカットを関連付けたり、ショートカットがアクティブになったときに特定のシグナルを発信させたい場合など。QShortcut
オブジェクトが破棄されると、自動的にショートカットも解放されます。
どちらを使うかは、要件と好みに応じて選択します。一般的には、柔軟性や信号・スロットの仕組みとの統合を考えるとQShortcut
の方が推奨されることが多いです。しかし、シンプルなケースではgrabShortcut()
も有効な選択肢です。
例1: ウィジェットの生存期間全体でショートカットを有効にし、デストラクタで解放する
この例では、メインウィンドウが作成されたときにショートカットを登録し、メインウィンドウが閉じられる(破棄される)ときにショートカットを解放します。これが最も一般的で安全なパターンです。
main.cpp
#include <QtWidgets/QApplication>
#include <QtWidgets/QMainWindow>
#include <QtWidgets/QPushButton>
#include <QtWidgets/QVBoxLayout>
#include <QtWidgets/QWidget>
#include <QtGui/QKeySequence>
#include <QDebug>
// MyMainWindow クラスの定義
class MyMainWindow : public QMainWindow
{
Q_OBJECT // QObject のサブクラスで信号/スロットを使うために必要
public:
MyMainWindow(QWidget *parent = nullptr) : QMainWindow(parent)
{
setWindowTitle("ショートカット解放の例");
setGeometry(100, 100, 400, 300);
QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
setCentralWidget(centralWidget);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
QPushButton *button = new QPushButton("ここにボタン", this);
layout->addWidget(button);
// "Ctrl+S" をこのウィンドウのショートカットとして登録
// grabShortcut() はショートカットIDを返すので、メンバ変数に保存する
saveShortcutId = grabShortcut(QKeySequence("Ctrl+S"), Qt::WindowShortcut);
if (saveShortcutId != -1) {
qDebug() << "Ctrl+S ショートカットを登録しました。ID:" << saveShortcutId;
} else {
qDebug() << "Ctrl+S ショートカットの登録に失敗しました。";
}
// "F1" をこのアプリケーション全体のショートカットとして登録
// アプリケーションショートカットは、他のウィジェットのショートカットよりも優先される可能性がある
helpShortcutId = grabShortcut(QKeySequence(Qt::Key_F1), Qt::ApplicationShortcut);
if (helpShortcutId != -1) {
qDebug() << "F1 ショートカットを登録しました。ID:" << helpShortcutId;
} else {
qDebug() << "F1 ショートカットの登録に失敗しました。";
}
// ボタンがクリックされたときに何かをする(ここではデバッグメッセージ)
connect(button, &QPushButton::clicked, []() {
qDebug() << "ボタンがクリックされました!";
});
}
// デストラクタでショートカットを解放する
~MyMainWindow() override
{
if (saveShortcutId != -1) {
releaseShortcut(saveShortcutId);
qDebug() << "Ctrl+S ショートカットを解放しました。";
}
if (helpShortcutId != -1) {
releaseShortcut(helpShortcutId);
qDebug() << "F1 ショートカットを解放しました。";
}
}
protected:
// ショートカットが押されたときに呼び出されるイベントハンドラ
void shortcutEvent(QShortcutEvent *event) override
{
if (event->shortcutId() == saveShortcutId) {
qDebug() << "Ctrl+S が押されました! (保存アクション)";
event->accept(); // イベントを処理済みとしてマーク
} else if (event->shortcutId() == helpShortcutId) {
qDebug() << "F1 が押されました! (ヘルプアクション)";
event->accept();
} else {
// 他のウィジェットにイベントを渡す
event->ignore();
}
}
private:
int saveShortcutId = -1; // Ctrl+S のショートカットID
int helpShortcutId = -1; // F1 のショートカットID
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyMainWindow mainWindow;
mainWindow.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc" // Q_OBJECT を使用する場合、mocファイルをインクルードする必要がある
説明
shortcutEvent()
をオーバーライドして、どのショートカットが押されたかを判断し、それに応じた処理を実行しています。~MyMainWindow()
デストラクタ内で、保存しておいたIDを使ってreleaseShortcut()
を呼び出しています。これにより、ウィンドウが閉じられたときにショートカットが適切に解放されます。解放済みかどうかをチェックするif (id != -1)
は、二重解放や無効なIDでの解放を防ぐ良い習慣です。Qt::ApplicationShortcut
は、アプリケーション全体で有効なショートカットで、アプリケーション内のどこにフォーカスがあっても機能します。Qt::WindowShortcut
は、そのウィジェット(ここではMyMainWindow
)がアクティブな場合に有効なショートカットです。MyMainWindow
クラスのコンストラクタでgrabShortcut()
を呼び出し、返されたIDをsaveShortcutId
とhelpShortcutId
というメンバ変数に保存しています。
例2: 特定のモードに入ったときだけショートカットを有効にし、モードを終了するときに解放する
この例では、ユーザーが「編集モード」に入ると特定のショートカットが有効になり、モードを終了すると解放されるシナリオをシミュレートします。
#include <QtWidgets/QApplication>
#include <QtWidgets/QMainWindow>
#include <QtWidgets/QPushButton>
#include <QtWidgets/QVBoxLayout>
#include <QtWidgets/QWidget>
#include <QtGui/QKeySequence>
#include <QDebug>
class ModeSwitchWidget : public QWidget
{
Q_OBJECT
public:
ModeSwitchWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent)
{
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);
enterEditModeButton = new QPushButton("編集モードに入る", this);
exitEditModeButton = new QPushButton("編集モードを終了する", this);
exitEditModeButton->setEnabled(false); // 最初は無効
layout->addWidget(enterEditModeButton);
layout->addWidget(exitEditModeButton);
setLayout(layout);
setWindowTitle("モード切り替えショートカット");
connect(enterEditModeButton, &QPushButton::clicked, this, &ModeSwitchWidget::enterEditMode);
connect(exitEditModeButton, &QPushButton::clicked, this, &ModeSwitchWidget::exitEditMode);
}
protected:
void shortcutEvent(QShortcutEvent *event) override
{
if (event->shortcutId() == editSaveShortcutId) {
qDebug() << "編集モード: Ctrl+S が押されました!(保存)";
event->accept();
} else if (event->shortcutId() == editCancelShortcutId) {
qDebug() << "編集モード: Esc が押されました!(キャンセル)";
event->accept();
} else {
event->ignore();
}
}
private slots:
void enterEditMode()
{
if (editModeActive) {
return; // すでに編集モード
}
qDebug() << "編集モードに入りました。";
editModeActive = true;
enterEditModeButton->setEnabled(false);
exitEditModeButton->setEnabled(true);
// 編集モード専用のショートカットを登録
editSaveShortcutId = grabShortcut(QKeySequence("Ctrl+S"), Qt::WindowShortcut);
if (editSaveShortcutId != -1) {
qDebug() << " Ctrl+S ショートカットを登録しました。ID:" << editSaveShortcutId;
}
editCancelShortcutId = grabShortcut(QKeySequence(Qt::Key_Escape), Qt::WindowShortcut);
if (editCancelShortcutId != -1) {
qDebug() << " Esc ショートカットを登録しました。ID:" << editCancelShortcutId;
}
}
void exitEditMode()
{
if (!editModeActive) {
return; // 編集モードではない
}
qDebug() << "編集モードを終了しました。";
editModeActive = false;
enterEditModeButton->setEnabled(true);
exitEditModeButton->setEnabled(false);
// 編集モード専用のショートカットを解放
if (editSaveShortcutId != -1) {
releaseShortcut(editSaveShortcutId);
qDebug() << " Ctrl+S ショートカットを解放しました。";
editSaveShortcutId = -1; // 解放済みとしてマーク
}
if (editCancelShortcutId != -1) {
releaseShortcut(editCancelShortcutId);
qDebug() << " Esc ショートカットを解放しました。";
editCancelShortcutId = -1; // 解放済みとしてマーク
}
}
private:
QPushButton *enterEditModeButton;
QPushButton *exitEditModeButton;
bool editModeActive = false;
int editSaveShortcutId = -1;
int editCancelShortcutId = -1;
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
ModeSwitchWidget w;
w.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc"
- デストラクタでも、万が一ショートカットが解放されないままウィジェットが破棄される場合に備えて、同様の解放ロジックを追加することが望ましいです。
- 解放後、IDを
-1
にリセットすることで、誤って二重解放しようとするのを防いでいます。 exitEditMode()
スロットで、編集モードを終了するときに、登録しておいたIDを使ってreleaseShortcut()
を呼び出し、ショートカットを解放しています。enterEditMode()
スロットで、編集モードに入ったときに新しいショートカット(Ctrl+SとEsc)をgrabShortcut()
で登録しています。
QWidget::releaseShortcut()
の代替方法
主に以下の2つの主要な代替方法があります。
QShortcut
クラスを使用するQAction
を使用する
それぞれについて詳しく説明します。
QShortcut クラスを使用する
QShortcut
は、特定のウィジェットに関連付けられたショートカットを管理するための、よりオブジェクト指向のアプローチを提供します。grabShortcut()
/releaseShortcut()
のような手動でのID管理が不要になる点が大きなメリットです。
特徴
- 有効/無効の切り替え
setEnabled(bool)
メソッドで、ショートカットの有効/無効を簡単に切り替えられます。 - コンテキスト設定
grabShortcut()
と同様に、ショートカットが有効になるコンテキスト(Qt::WindowShortcut
,Qt::ApplicationShortcut
など)を設定できます。 - 信号/スロットによる接続
ショートカットがトリガーされたときにactivated()
シグナルを発信します。これをスロットに接続することで、イベントハンドラをよりクリーンに記述できます。 - オブジェクトライフサイクル管理
QShortcut
オブジェクトが破棄されると、自動的にショートカットも解放されます。明示的にreleaseShortcut()
を呼び出す必要がありません。
使用例
#include <QtWidgets/QApplication>
#include <QtWidgets/QMainWindow>
#include <QtWidgets/QPushButton>
#include <QtWidgets/QVBoxLayout>
#include <QtWidgets/QWidget>
#include <QtGui/QKeySequence>
#include <QShortcut> // QShortcut ヘッダ
#include <QDebug>
class MyWindowWithQShortcut : public QMainWindow
{
Q_OBJECT
public:
MyWindowWithQShortcut(QWidget *parent = nullptr) : QMainWindow(parent)
{
setWindowTitle("QShortcut を使った例");
setGeometry(100, 100, 400, 300);
QWidget *centralWidget = new QWidget(this);
setCentralWidget(centralWidget);
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(centralWidget);
QPushButton *toggleButton = new QPushButton("F2 ショートカットを有効/無効にする", this);
layout->addWidget(toggleButton);
// QShortcut オブジェクトを作成
// 親を this (MyWindowWithQShortcut) にすることで、このウィンドウが破棄されたときにショートカットも自動的に解放される
QShortcut *saveShortcut = new QShortcut(QKeySequence("Ctrl+S"), this);
QShortcut *helpShortcut = new QShortcut(QKeySequence(Qt::Key_F1), this);
QShortcut *toggleShortcut = new QShortcut(QKeySequence(Qt::Key_F2), this);
// ショートカットがトリガーされたときにスロットに接続
connect(saveShortcut, &QShortcut::activated, this, []() {
qDebug() << "QShortcut: Ctrl+S が押されました!";
});
connect(helpShortcut, &QShortcut::activated, this, []() {
qDebug() << "QShortcut: F1 が押されました!";
});
connect(toggleShortcut, &QShortcut::activated, this, &MyWindowWithQShortcut::toggleF2Shortcut);
// F2 ショートカットの初期状態(ここでは有効)
f2ShortcutEnabled = true;
toggleShortcut->setEnabled(true);
}
private slots:
void toggleF2Shortcut()
{
// QShortcut の有効/無効を切り替える
QShortcut *f2Shortcut = qobject_cast<QShortcut*>(sender()); // 送信元オブジェクトを取得
if (f2Shortcut) {
f2ShortcutEnabled = !f2ShortcutEnabled;
f2Shortcut->setEnabled(f2ShortcutEnabled);
qDebug() << "F2 ショートカットの有効状態: " << (f2ShortcutEnabled ? "有効" : "無効");
}
}
private:
bool f2ShortcutEnabled;
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyWindowWithQShortcut w;
w.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc"
QShortcutの利点
- ショートカットの有効/無効を簡単に切り替えられる。
- 信号/スロット機構とシームレスに連携できる。
- 手動でのID管理と
releaseShortcut()
呼び出しが不要になる。
QAction を使用する
QAction
は、メニュー項目、ツールバーボタン、またはキーボードショートカットなど、ユーザーインターフェース内の単一の「アクション」を表すためのクラスです。ショートカット機能はQAction
の重要な一部であり、非常に強力です。
特徴
- 有効/無効、表示/非表示の管理
QAction
のsetEnabled(bool)
やsetVisible(bool)
を呼び出すと、関連するメニュー項目、ツールバーボタン、およびショートカットも自動的に状態が同期されます。 - 信号/スロットによる接続
QAction
はtriggered()
シグナルを発信するため、QShortcut
と同様にスロットに接続して処理を実行できます。 - 自動的なショートカット管理
QAction
が親ウィジェットに追加されると、ショートカットは自動的にシステムに登録されます。QAction
が親から削除されるか、QAction
オブジェクト自体が破棄されると、ショートカットも自動的に解放されます。 - 複数のUI要素への統合
1つのQAction
オブジェクトを、メニューアイテム、ツールバーボタン、およびショートカットに同時に割り当てることができます。これにより、コードの重複が減り、UIの一貫性が保たれます。
使用例
#include <QtWidgets/QApplication>
#include <QtWidgets/QMainWindow>
#include <QtWidgets/QMenu>
#include <QtWidgets/QMenuBar>
#include <QtWidgets/QStatusBar>
#include <QtGui/QKeySequence>
#include <QAction> // QAction ヘッダ
#include <QDebug>
class MyWindowWithQAction : public QMainWindow
{
Q_OBJECT
public:
MyWindowWithQAction(QWidget *parent = nullptr) : QMainWindow(parent)
{
setWindowTitle("QAction を使った例");
setGeometry(100, 100, 400, 300);
// ファイルメニューを作成
QMenu *fileMenu = menuBar()->addMenu("ファイル");
// "保存" アクションを作成
QAction *saveAction = new QAction("&保存", this);
saveAction->setShortcut(QKeySequence::StandardKey::Save); // Ctrl+S をショートカットとして設定
saveAction->setStatusTip("ファイルを保存します"); // ステータスバーのヒント
// "開く" アクションを作成
QAction *openAction = new QAction("&開く", this);
openAction->setShortcut(QKeySequence::StandardKey::Open); // Ctrl+O をショートカットとして設定
openAction->setStatusTip("ファイルを開きます");
// "終了" アクションを作成
QAction *exitAction = new QAction("終&了", this);
exitAction->setShortcut(QKeySequence(Qt::Modifier::Alt | Qt::Key_F4)); // Alt+F4 をショートカットとして設定
exitAction->setStatusTip("アプリケーションを終了します");
// メニューにアクションを追加
fileMenu->addAction(saveAction);
fileMenu->addAction(openAction);
fileMenu->addSeparator(); // 区切り線
fileMenu->addAction(exitAction);
// アクションとスロットを接続
connect(saveAction, &QAction::triggered, this, []() {
qDebug() << "QAction: 保存アクションがトリガーされました! (Ctrl+S)";
});
connect(openAction, &QAction::triggered, this, []() {
qDebug() << "QAction: 開くアクションがトリガーされました! (Ctrl+O)";
});
connect(exitAction, &QAction::triggered, this, &QMainWindow::close); // ウィンドウを閉じる
statusBar()->showMessage("準備完了");
}
};
int main(int argc, char *argv[])
{
QApplication a(argc, argv);
MyWindowWithQAction w;
w.show();
return a.exec();
}
#include "main.moc"
- UIの変更(メニューからの削除など)に応じてショートカットが自動的に無効化される。
- 自動的な管理
QAction
を親ウィジェットに追加するだけで、ショートカットの登録と解放が自動的に行われる。手動でのreleaseShortcut()
呼び出しは不要。 - 統合されたUI管理
ショートカットだけでなく、メニュー項目やツールバーボタンなど、複数のUI要素を1つのオブジェクトで管理できる。
-
QWidget::grabShortcut()
/releaseShortcut()
は、最も低レベルなショートカット管理方法であり、通常は特定のニーズ(例:非常に動的なショートカットの追加/削除、またはQtのデフォルトのショートカットシステムと競合する可能性のある特殊なケース)がない限り、直接使用することは稀です。 ほとんどの場合、QShortcut
やQAction
の方が推奨されます。 -
QShortcut
は、特定のウィジェットにのみ関連付けられ、メニューやツールバーには表示されない独立したショートカットが必要な場合に適しています。 例えば、特定の入力フォームでしか使用しないローカルなショートカットなどに利用できます。 -
ほとんどのケースで、
QAction
を使用することを強く推奨します。 特に、メニューやツールバーに表示されるアクションにショートカットを関連付けたい場合、QAction
は最もQtらしい、効率的で保守性の高い方法です。ショートカットの管理が大幅に簡素化されます。