QWidget::focus
Qtにおいて、focus
(フォーカス)とは、キーボードからの入力をどのウィジェットが受け取るか、という概念を指します。GUIアプリケーションでは、テキスト入力欄、ボタン、ドロップダウンリストなど、様々なウィジェットがありますが、ユーザーがキーボードで何かを入力しようとしたとき、どのウィジェットがその入力を受け取るべきかをシステムが知る必要があります。この「キーボード入力を受け取る権利」を持っているウィジェットが「フォーカスを持っている」と言われます。
フォーカスの動作
ユーザーがフォーカスを移動させる主な方法は以下の通りです。
-
- Tabキーを押すと、通常、GUI上の次のフォーカス可能なウィジェットにフォーカスが移動します。
- Shift+Tabキーを押すと、前のフォーカス可能なウィジェットにフォーカスが移動します。
- このTabキーによるフォーカス移動の順序は、
QWidget::setTabOrder()
関数を使ってプログラムで指定することも、Qt Designerで視覚的に設定することもできます。
-
ウィジェットのクリック
- ユーザーがマウスで特定のウィジェットをクリックすると、そのウィジェットにフォーカスが移動します。
-
ショートカットキーの押下
- 特定のウィジェットに割り当てられたショートカットキー(例: Alt+Fで「ファイル」メニューを開く)を押すことで、そのウィジェットにフォーカスが移動したり、アクションが実行されたりします。
-
マウスホイールの操作
- 一部のウィジェット(例: スクロール可能な領域)では、マウスホイールの操作によってフォーカスが移動することがあります。
-
ウィンドウへのフォーカス移動
- アプリケーションがアクティブになった際(ウィンドウが前面に出たときなど)、そのウィンドウ内のどのウィジェットに初期フォーカスを与えるかをアプリケーションが決定します。
focusPolicy
(フォーカスポリシー)
QWidget
には、そのウィジェットがどのようにフォーカスを受け取るかを制御するfocusPolicy
というプロパティがあります。これはsetFocusPolicy()
関数で設定できます。主なフォーカスポリシーは以下の通りです。
Qt::WheelFocus
:StrongFocus
と同様ですが、マウスホイールの操作によってもフォーカスを受け付けます。
Qt::StrongFocus
:ClickFocus
とTabFocus
の両方の特性を組み合わせたものです。マウスでのクリックとTabキーの両方でフォーカスを受け付けます。ほとんどのインタラクティブなウィジェット(QLineEdit, QPushButtonなど)はデフォルトでこれに設定されています。
Qt::TabFocus
:- ユーザーがTabキーでフォーカスを移動させたときにのみフォーカスを受け付けます。マウスでのクリックではフォーカスが移動しません。
Qt::ClickFocus
:- ユーザーがマウスでウィジェットをクリックしたときにのみフォーカスを受け付けます。Tabキーではフォーカスが移動しません。
Qt::NoFocus
:- このウィジェットはキーボードフォーカスを一切受け付けません。
QWidget::focusOutEvent(QFocusEvent *event)
:- ウィジェットがフォーカスを失ったときに呼び出されるイベントハンドラです。フォーカスを失った際のカスタム動作を実装するためにオーバーライドできます。
QWidget::focusInEvent(QFocusEvent *event)
:- ウィジェットがフォーカスを受け取ったときに呼び出されるイベントハンドラです。フォーカスを受け取った際のカスタム動作を実装するためにオーバーライドできます。
QWidget::hasFocus()
:- そのウィジェットが現在フォーカスを持っているかどうかを返します。
QWidget::clearFocus()
:- ウィジェットからフォーカスを解除します。
QWidget::setFocus()
:- プログラムから明示的に特定のウィジェットにフォーカスを設定します。
フォーカスが当たらない、または意図しないウィジェットに当たる
一般的な原因
- カスタムウィジェットでのイベント処理の欠落
QWidget
を継承したカスタムウィジェットでfocusInEvent()
やkeyPressEvent()
などをオーバーライドしている場合、基底クラスのイベントハンドラを呼び出していないと、Qtのデフォルトのフォーカス処理が妨げられることがあります。
- 親ウィジェットの無効化/非表示
- 親ウィジェットが無効化(
setEnabled(false)
)されている、または非表示(setVisible(false)
)になっている場合、その子ウィジェットもフォーカスを受け取れません。
- 親ウィジェットが無効化(
- レイアウトによる影響
- ウィジェットがレイアウトマネージャーによって適切に配置されていない場合や、サイズが0になっている場合、フォーカスが当たらないことがあります。
- setFocus()の呼び出し忘れ、またはタイミングの誤り
- 特定のウィジェットに初期フォーカスを当てたい場合、
setFocus()
を呼び出す必要がありますが、ウィジェットがまだ表示されていない、または他のウィジェットがすぐにフォーカスを奪ってしまうようなタイミングで呼び出すと効果がありません。
- 特定のウィジェットに初期フォーカスを当てたい場合、
- focusPolicyの設定ミス
- ウィジェットの
focusPolicy
がQt::NoFocus
に設定されている場合、そのウィジェットはキーボードフォーカスを受け付けません。 Qt::ClickFocus
に設定されている場合、Tabキーではフォーカスが移動せず、マウスでクリックしないとフォーカスが当たりません。
- ウィジェットの
トラブルシューティング
- QWidget::dumpObjectInfo() / dumpObjectTree()の利用
- デバッグ時に、ウィジェットのオブジェクトツリーとプロパティをコンソールに出力して、フォーカス関連の情報を確認できます。
- イベントハンドラの確認
- カスタムウィジェットの場合、イベントハンドラ内で
BaseClass::event(event)
のように基底クラスのメソッドを呼び出していることを確認します。
- カスタムウィジェットの場合、イベントハンドラ内で
- レイアウトのデバッグ
- ウィジェットのサイズや位置が適切か、Qt Designerや
qDebug()
で確認します。
- ウィジェットのサイズや位置が適切か、Qt Designerや
- ウィジェットの有効性/可視性の確認
widget->isEnabled()
やwidget->isVisible()
でウィジェットの状態を確認します。
- setFocus()のタイミング
- ダイアログの表示後など、ウィジェットが完全に表示された後に
setFocus()
を呼び出すようにします。例えば、QDialog::show()
の直後や、QTimer::singleShot()
を使って少し遅延させて呼び出すことも有効です。
- ダイアログの表示後など、ウィジェットが完全に表示された後に
- focusPolicyの確認
- Qt Designerでウィジェットのプロパティを確認するか、コード内で
widget->focusPolicy()
を呼び出して確認します。通常、入力可能なウィジェットはQt::StrongFocus
に設定されているべきです。
- Qt Designerでウィジェットのプロパティを確認するか、コード内で
Tabキーによるフォーカス移動順序がおかしい
一般的な原因
- 動的にウィジェットを追加/削除している
- アプリケーションの実行中にウィジェットの追加や削除を行うと、Tabキーの順序が期待通りにならないことがあります。
- setTabOrder()の未設定/誤設定
- Tabキーの順序は、デフォルトではウィジェットが作成された順序(またはQt Designerで追加された順序)に依存します。意図した順序でない場合、
setTabOrder()
で明示的に指定する必要があります。
- Tabキーの順序は、デフォルトではウィジェットが作成された順序(またはQt Designerで追加された順序)に依存します。意図した順序でない場合、
トラブルシューティング
- ウィジェットの親子関係の見直し
- 複雑なレイアウトの場合、ウィジェットの親子関係がTab順序に影響を与えることがあります。よりシンプルなウィジェット構成を検討するか、
setTabOrder()
を徹底的に設定します。
- 複雑なレイアウトの場合、ウィジェットの親子関係がTab順序に影響を与えることがあります。よりシンプルなウィジェット構成を検討するか、
- Qt DesignerでのTab順序の設定
- Qt Designerでは、"Tab Order"編集モード(Shift+T)を使用して、視覚的にTab順序を設定できます。この方法が最も簡単で確実です。
- setTabOrder()の利用
- Tabキーで移動させたいウィジェットのペアに対して、適切な順序で
QWidget::setTabOrder(QWidget *first, QWidget *second)
を呼び出します。 - 例:
setTabOrder(lineEdit1, lineEdit2); setTabOrder(lineEdit2, pushButton);
- Tabキーで移動させたいウィジェットのペアに対して、適切な順序で
フォーカスイベントが発火しない、または期待通りに処理されない
一般的な原因
- システムのフォーカス挙動
- OSレベルのフォーカス挙動がQtの挙動と干渉している可能性があります(特にMDIアプリケーションや、ネイティブウィジェットを埋め込んでいる場合)。
- 他のイベントハンドラのブロック
- キーイベントやマウスイベントのハンドラで、
event->accept()
を呼び出してしまい、それ以上のイベント伝播を止めている場合があります。
- キーイベントやマウスイベントのハンドラで、
- イベントフィルタの存在
- 親ウィジェットや
QApplication
にイベントフィルタがインストールされており、フォーカスイベントがフィルタリングされている可能性があります。
- 親ウィジェットや
トラブルシューティング
- イベントフィルタの確認
- アプリケーション全体で
installEventFilter()
を使用している箇所がないか確認し、必要に応じてフィルタリングロジックを調整します。
- アプリケーション全体で
- QApplication::focusChangedシグナルの監視
- アプリケーション全体でフォーカスがどのように移動しているかを追跡するために、
QApplication::focusChanged(QWidget *old, QWidget *now)
シグナルを監視するスロットを接続します。
- アプリケーション全体でフォーカスがどのように移動しているかを追跡するために、
- focusInEvent() / focusOutEvent()のオーバーライド
- ウィジェットがフォーカスを受け取った/失った際に何が起こっているかを確認するため、これらのイベントハンドラ内にデバッグメッセージ(
qDebug()
)を仕込みます。 - 重要
これらのメソッドをオーバーライドする際は、必ず基底クラスのfocusInEvent(event)
やfocusOutEvent(event)
を呼び出すことを忘れないでください。
- ウィジェットがフォーカスを受け取った/失った際に何が起こっているかを確認するため、これらのイベントハンドラ内にデバッグメッセージ(
ダイアログ表示後にフォーカスが当たらない
一般的な原因
- 複数ウィンドウ間のフォーカス競合
- アプリケーションが複数のトップレベルウィンドウを持つ場合、どのウィンドウがアクティブになるかによってフォーカスが意図しない場所に移動することがあります。
- exec()とshow()の違いの誤解
QDialog::exec()
はモーダルダイアログを表示し、ユーザーがダイアログを閉じるまで呼び出し元のブロックを停止します。この場合、通常は自動的にダイアログ内の適切なウィジェットにフォーカスが当たります。QDialog::show()
は非モーダルダイアログを表示し、すぐに呼び出し元に戻ります。この場合、明示的にsetFocus()
を呼び出す必要がある場合があります。
トラブルシューティング
- Qt::WA_DeleteOnCloseとの組み合わせ
setAttribute(Qt::WA_DeleteOnClose)
を設定している場合、ダイアログが閉じられるとすぐにオブジェクトが削除されるため、後からフォーカスを操作しようとすると問題が発生することがあります。
- ダイアログ内の初期フォーカス設定
- ダイアログのコンストラクタ内で、特定のウィジェットに
setFocus()
を呼び出すか、Qt Designerでフォーカスプロパティを設定します。
- ダイアログのコンストラクタ内で、特定のウィジェットに
- QDialog::exec()の使用
- モーダルダイアログであれば、ほとんどの場合
exec()
を使用する方がフォーカス管理が容易です。
- モーダルダイアログであれば、ほとんどの場合
QFocusEventのreason()が期待と異なる
一般的な原因
QFocusEvent::reason()
は、フォーカスがどのように移動したか(Tabキー、マウス、プログラム的など)を示す便利な情報ですが、異なるプラットフォームやQtのバージョンによって、その挙動が微妙に異なる場合があります。
- プラットフォームの考慮
- 特定のプラットフォーム(例: macOS、Waylandなど)で予期しない挙動がある場合、そのプラットフォーム特有のQtのフォーカス管理のドキュメントやフォーラムを参照します。
- デバッグ出力
focusInEvent()
やfocusOutEvent()
内でevent->reason()
を出力し、実際の挙動を確認します。
- 最小限の再現コードを作成する
- 問題が発生した場合、複雑なアプリケーションから切り離し、できるだけシンプルなコードで問題を再現させます。これにより、原因の特定が容易になります。
- イベントの監視
QApplication::instance()->installEventFilter(this)
を使って、アプリケーション全体でイベントを監視し、フォーカスイベントやキーイベントの伝播を追跡します。
- qDebug()を多用する
- フォーカス関連のイベントハンドラ (
focusInEvent
,focusOutEvent
) や、setFocus()
を呼び出す前後で、qDebug()
を使ってどのウィジェットがフォーカスを持っているか、どのようなイベントが発生しているかなどを出力します。 QApplication::focusWidget()
で現在のフォーカスウィジェットを取得できます。
- フォーカス関連のイベントハンドラ (
特定のウィジェットに初期フォーカスを設定する
アプリケーション起動時やダイアログ表示時に、特定の入力フィールドにカーソルを置きたい場合によく使われます。
#include <QtWidgets>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLineEdit *lineEdit1 = new QLineEdit(&window);
lineEdit1->setPlaceholderText("名前を入力");
layout->addWidget(lineEdit1);
QLineEdit *lineEdit2 = new QLineEdit(&window);
lineEdit2->setPlaceholderText("住所を入力");
layout->addWidget(lineEdit2);
QPushButton *button = new QPushButton("登録", &window);
layout->addWidget(button);
// アプリケーション起動時にlineEdit1にフォーカスを設定
// QWidget::show()を呼び出す前に設定しても、show()後に再設定しても良い
lineEdit1->setFocus();
window.setWindowTitle("初期フォーカス設定の例");
window.show();
return app.exec();
}
解説
lineEdit1->setFocus();
を呼び出すことで、アプリケーションが起動してウィンドウが表示されたときに、lineEdit1
にカーソルが置かれた状態になります。
Tabキーのフォーカス順序を制御する
デフォルトのTab順序は、ウィジェットがレイアウトに追加された順序に依存することが多いですが、setTabOrder()
を使って明示的に順序を定義できます。
#include <QtWidgets>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
QFormLayout *layout = new QFormLayout(&window);
QLineEdit *nameEdit = new QLineEdit(&window);
nameEdit->setPlaceholderText("名前");
layout->addRow("名前:", nameEdit);
QLineEdit *emailEdit = new QLineEdit(&window);
emailEdit->setPlaceholderText("メールアドレス");
layout->addRow("メール:", emailEdit);
QLineEdit *phoneEdit = new QLineEdit(&window);
phoneEdit->setPlaceholderText("電話番号");
layout->addRow("電話:", phoneEdit);
// デフォルトでは、名前 -> メール -> 電話 の順になるでしょう
// ここで意図的に順序を変更してみる (例: 名前 -> 電話 -> メール)
app.setTabOrder(nameEdit, phoneEdit); // 名前 -> 電話
app.setTabOrder(phoneEdit, emailEdit); // 電話 -> メール
window.setWindowTitle("Tab順序設定の例");
window.show();
return app.exec();
}
解説
app.setTabOrder(widget1, widget2);
を使うことで、widget1
からwidget2
へのTab移動を設定できます。この例では、Tabキーを押すと「名前」から「電話番号」、そして「メールアドレス」へとフォーカスが移動するように変更しています。
focusPolicyを設定する
ウィジェットがどのようにフォーカスを受け取るかを制御します。
#include <QtWidgets>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLineEdit *lineEdit = new QLineEdit("通常入力", &window);
// デフォルトはQt::StrongFocus (クリックとTabでフォーカス)
layout->addWidget(lineEdit);
QPushButton *noFocusButton = new QPushButton("フォーカスなしボタン", &window);
noFocusButton->setFocusPolicy(Qt::NoFocus); // フォーカスを受け取らない
layout->addWidget(noFocusButton);
QPushButton *clickFocusButton = new QPushButton("クリックのみフォーカス", &window);
clickFocusButton->setFocusPolicy(Qt::ClickFocus); // クリックでのみフォーカス
layout->addWidget(clickFocusButton);
window.setWindowTitle("focusPolicyの例");
window.show();
return app.exec();
}
解説
clickFocusButton
はQt::ClickFocus
に設定されているため、クリックするとフォーカスが当たりますが、Tabキーでの移動順序には含まれません。noFocusButton
はQt::NoFocus
に設定されているため、Tabキーを押してもクリックしてもフォーカスが当たりません。QLineEdit
はデフォルトでQt::StrongFocus
なので、Tabキーでもクリックでもフォーカスが当たります。
フォーカスイベントを処理する (focusInEvent, focusOutEvent)
ウィジェットがフォーカスを受け取ったとき、またはフォーカスを失ったときに特定の動作を実行したい場合に使用します。
#include <QtWidgets>
#include <QDebug> // ql::debug()のために必要
// カスタムQLineEditクラス
class MyLineEdit : public QLineEdit {
Q_OBJECT // シグナル/スロットを使用するために必要
public:
explicit MyLineEdit(QWidget *parent = nullptr) : QLineEdit(parent) {
setPlaceholderText("ここに入力");
}
protected:
// フォーカスを受け取ったときに呼ばれる
void focusInEvent(QFocusEvent *event) override {
qDebug() << objectName() << ": フォーカスを受け取りました (Reason:" << event->reason() << ")";
// 背景色を変更する例
setStyleSheet("background-color: lightblue;");
// 基底クラスのハンドラを呼び出す
QLineEdit::focusInEvent(event);
}
// フォーカスを失ったときに呼ばれる
void focusOutEvent(QFocusEvent *event) override {
qDebug() << objectName() << ": フォーカスを失いました (Reason:" << event->reason() << ")";
// 背景色を元に戻す例
setStyleSheet(""); // スタイルシートをクリア
// 基底クラスのハンドラを呼び出す
QLineEdit::focusOutEvent(event);
}
};
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
MyLineEdit *lineEdit1 = new MyLineEdit(&window);
lineEdit1->setObjectName("lineEdit1"); // オブジェクト名を設定
layout->addWidget(lineEdit1);
MyLineEdit *lineEdit2 = new MyLineEdit(&window);
lineEdit2->setObjectName("lineEdit2"); // オブジェクト名を設定
layout->addWidget(lineEdit2);
QPushButton *button = new QPushButton("OK", &window);
layout->addWidget(button);
window.setWindowTitle("フォーカスイベントの例");
window.show();
return app.exec();
}
#include "main.moc" // Q_OBJECTがある場合、mocファイルを含める
解説
MyLineEdit
クラスはQLineEdit
を継承し、focusInEvent()
とfocusOutEvent()
をオーバーライドしています。
- 重要
オーバーライドしたイベントハンドラ内で、必ず基底クラスの同じメソッドを呼び出すようにしてください(例:QLineEdit::focusInEvent(event);
)。これを怠ると、Qtのデフォルトの動作が損なわれたり、予期せぬ問題が発生したりする可能性があります。 event->reason()
は、フォーカスがどのように移動したか(Tabキー、マウス、プログラム的など)を示します。- フォーカスを失うと、背景色が元に戻り、デバッグメッセージが出力されます。
- ウィジェットがフォーカスを受け取ると、背景色が水色になり、デバッグメッセージが出力されます。
QApplication::focusChanged
シグナルを使用すると、アプリケーション内でフォーカスがどのウィジェットからどのウィジェットへ移動したかをグローバルに監視できます。
#include <QtWidgets>
#include <QDebug>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// QApplication::focusChanged シグナルを監視するスロットを接続
QObject::connect(&app, &QApplication::focusChanged,
[](QWidget *oldWidget, QWidget *newWidget) {
QString oldName = oldWidget ? oldWidget->objectName() : "None";
QString newName = newWidget ? newWidget->objectName() : "None";
qDebug() << "フォーカス変更: " << oldName << " -> " << newName;
});
QWidget window;
QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(&window);
QLineEdit *lineEditA = new QLineEdit(&window);
lineEditA->setObjectName("入力A"); // objectNameを設定しておくとデバッグしやすい
layout->addWidget(lineEditA);
QLineEdit *lineEditB = new QLineEdit(&window);
lineEditB->setObjectName("入力B");
layout->addWidget(lineEditB);
QPushButton *buttonC = new QPushButton("ボタンC", &window);
buttonC->setObjectName("ボタンC");
layout->addWidget(buttonC);
window.setWindowTitle("アプリケーションフォーカス監視の例");
window.show();
return app.exec();
}
解説
QApplication::focusChanged
シグナルにラムダ式でスロットを接続しています。フォーカスが移動するたびに、元のウィジェット(oldWidget
)と新しいウィジェット(newWidget
)のobjectName
がデバッグ出力されます。これにより、アプリケーション全体のフォーカス遷移を把握できます。
「代替方法」という言葉は、いくつかの意味で捉えることができます。
-
QWidget::focus の直接的な機能(フォーカス設定・取得・イベント処理)の代替
これは、通常、Qt の提供するフォーカス管理メカニズム自体が非常に堅牢であり、これを直接代替するような一般的な「代替」はあまりありません。しかし、特定のケースや高度なカスタマイズが必要な場合に、別の方法でフォーカス状態を「シミュレート」したり、独自の入力管理システムを構築したりすることは可能です。 -
フォーカス制御の目的を達成するための、QWidget::focus 以外の Qt の機能
これは、QWidget::focus
の直接的な操作ではなく、Qt の他の機能(ショートカット、アクションなど)を利用して、ユーザーの操作フローを改善する方法を指します。
以下に、両方の側面からの「代替方法」を説明します。
QWidget::focus の直接的な機能の代替(高度なカスタマイズ)
これは一般的なケースではなく、非常に特殊な要件がある場合に検討される方法です。
a. イベントフィルタを用いたフォーカスイベントのフック
QApplication
または特定の親ウィジェットにイベントフィルタをインストールし、すべてのフォーカスイベントを捕捉して、独自のロジックで処理することができます。これにより、Qt のデフォルトのフォーカス管理を完全にオーバーライドまたは拡張することが可能になります。
利点
- 既存のウィジェットの挙動を変更できる。
- アプリケーション全体、または特定のサブツリーにおけるフォーカス挙動を細かく制御できる。
欠点
- 基底クラスのイベントハンドラを呼び出さない場合、予期せぬ副作用が生じる可能性がある。
- Qt の内部動作を理解している必要がある。
- 複雑になりやすい。
ユースケースの例
- アクセシビリティ要件のために、特定のウィジェットへのフォーカスを強制的に変更する場合。
- 特定の種類のウィジェットに対するフォーカス変更をログに記録したり、統計情報を収集したりする場合。
- カスタムのキーボードナビゲーションスキームを実装する場合(例: Grid Based Navigation)。
b. grabKeyboard()
/ grabMouse()
を用いた入力の「奪取」
これはフォーカスとは少し異なりますが、特定のウィジェットがキーボードやマウスからのすべての入力を一時的に独占するメカニズムです。これにより、そのウィジェットに明示的にフォーカスが当たっていなくても、入力を受け取ることができます。
利点
- マウスイベントがウィジェットの境界を越えても継続して受け取れる。
- モードダイアログや、ゲームなど、特定のウィジェットがユーザー入力のすべてを処理する必要がある場合に有効。
欠点
- 必ず
releaseKeyboard()
/releaseMouse()
で解放する必要がある。解放し忘れると、アプリケーションが応答しなくなる可能性がある。 - ユーザーが他のウィジェットを操作できなくなるため、注意して使用する必要がある。
ユースケースの例
- 特定の入力モード中に、他の入力が一切発生しないようにする場合。
- フルスクリーンモードのゲームやメディアプレイヤー。
- カスタムのドラッグ&ドロップ操作の実装。
c. QAbstractEventDispatcher
の利用(非常に高度)
Qt のイベントループのより深い部分を扱う必要がある場合、QAbstractEventDispatcher
を直接操作することも考えられます。これは非常に低レベルなAPIであり、Qt の内部実装に関する深い知識が必要です。通常、Qt のデフォルトのイベント処理を置き換えるような特殊なケース(例: 特定の埋め込みシステムでのカスタマイズ)でしか使用されません。
これらは、QWidget::focus
の直接的な代替というよりは、ユーザー体験を向上させるための補完的な機能です。
a. QAction
とショートカット (QShortcut
)
QAction
は、メニュー項目、ツールバーボタン、またはキーボードショートカットによってトリガーされるユーザーインタラクションをカプセル化するクラスです。アクションは、フォーカスが特定のウィジェットにあるかどうかに関わらず、グローバルに(または特定のウィジェットのコンテキスト内で)トリガーできます。
利点
- UI要素(メニュー、ツールバー、ボタン)と操作ロジックを分離できる。
- アクションは、ウィジェットのフォーカス状態に依存しない、より高レベルな操作を可能にする。
- キーボードショートカットは、ユーザーがマウスを使わずに特定の操作を素早く実行できるようにする。
ユースケースの例
- テキストエディタで「コピー」(Ctrl+C)や「貼り付け」(Ctrl+V)のように、どのテキストウィジェットにフォーカスが当たっていても実行できる操作。
- 「ファイルを開く」(Ctrl+O)や「保存」(Ctrl+S)のようなグローバルなショートカット。
b. QFocusProxy
(フォーカスプロキシ)
QWidget::setFocusProxy(QWidget *w)
を使用すると、あるウィジェットがフォーカスを受け取ったときに、実際には別のウィジェットにフォーカスを転送するように設定できます。これは、複合ウィジェットを構築する際に非常に便利です。
利点
- カスタムウィジェットで内部の子ウィジェットにフォーカスを委譲したい場合に便利。
- 複合ウィジェットの外部からは1つのウィジェットとして扱われるが、内部では特定のサブウィジェットにフォーカスをルーティングできる。
ユースケースの例
QComboBox
のように、見た目上は一つだが内部に複雑なウィジェット構成を持つもの。- フレームの中にいくつかの入力フィールドがあるカスタムウィジェットを作成した場合、そのフレームにフォーカスが当たったら、自動的にフレーム内の最初の入力フィールドにフォーカスを移す。
c. Qt DesignerでのTab Order設定
これはコードによる直接的な操作ではありませんが、GUI開発ツールであるQt Designerを使うことで、Tabキーによるフォーカス移動順序を視覚的に、かつ簡単に設定できます。これはsetTabOrder()
関数の代替として機能します。
利点
- XAMLや他のGUI記述言語のように、コードでレイアウトやフォーカス順序を記述する手間が省ける。
- 直感的で視覚的に順序を設定できる。
欠点
- 動的に生成されるウィジェットのTab順序には適用できない。
d. QEvent::KeyPress
/ QEvent::KeyRelease
イベントの直接処理
特定のウィジェットでキーボードイベントを直接処理することで、フォーカスがそのウィジェットに当たっているかどうかにかかわらず、特定のキー操作に応答することができます。これは、focusInEvent
やfocusOutEvent
と組み合わせて、ウィジェットがアクティブな状態になったときに特定のキーバインドを有効にする、といった用途で使えます。
利点
- 複雑なゲームの入力処理や、カスタムの入力方法の実装に役立つ。
- より低レベルで直接的なキーイベントの処理が可能。
欠点
- イベントの伝播(
event->accept()
やevent->ignore()
)を適切に管理する必要がある。 - Qtの通常のフォーカス管理やショートカットシステムと競合する可能性がある。
QWidget::focus
はQtにおける標準的かつ強力なフォーカス管理の手段であり、ほとんどのユースケースでこれを直接利用することが推奨されます。