Qtプログラミング初心者必見！QSettings::setDefaultFormat()の使い方と注意点

QSettingsクラスは、Qtアプリケーションの設定を永続的に保存・読み込みするためのクラスです。アプリケーションのウィンドウサイズ、位置、最近開いたファイルリストなど、次回の起動時にも記憶しておきたい情報を扱う際に使用されます。

setDefaultFormat()は、静的な関数であり、QSettingsオブジェクトが作成される際のデフォルトのストレージフォーマットを設定するために使用されます。

主な役割

• 移植性の向上: プラットフォームごとに異なる設定の保存方法を抽象化し、開発者がコード内で明示的にプラットフォーム固有の形式を指定する手間を省きます。
• デフォルトのストレージ形式の指定: QSettingsが設定を保存する際に、どの形式（例: レジストリ、INIファイル、macOSのplistファイルなど）をデフォルトとして使用するかを決定します。

使用方法

この関数は、通常、アプリケーションの起動時、つまりQCoreApplication::setOrganizationName()やQCoreApplication::setApplicationName()を呼び出した後に、メイン関数などの早い段階で一度だけ呼び出されます。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication app(argc, argv);

    // 組織名とアプリケーション名を設定する
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");

    // デフォルトのフォーマットをINIファイル形式に設定する
    // これにより、QSettingsオブジェクトが明示的にフォーマットを指定しない場合にINIファイルが使用される
    QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat);

    // QSettingsオブジェクトを作成 (デフォルトフォーマットが適用される)
    QSettings settings;

    // 設定を書き込む
    settings.setValue("user/name", "Taro Yamada");
    settings.setValue("application/version", "1.0");

    // 設定を読み込む
    qDebug() << "User Name:" << settings.value("user/name").toString();
    qDebug() << "Application Version:" << settings.value("application/version").toString();

    // ファイル名を確認 (INIファイル形式であれば、通常はiniファイルへのパスが表示される)
    qDebug() << "Settings file:" << settings.fileName();

    return app.exec();
}

QSettings::Format 列挙型

setDefaultFormat()に渡すことができるformat引数は、QSettings::Format列挙型で定義されます。主な値は以下の通りです。

• QSettings::IniFormat: INIファイル形式を使用します。これは、設定ファイルが人間が読みやすいテキスト形式であることを望む場合に便利です。
• QSettings::NativeFormat: 各プラットフォームのネイティブな設定保存形式を使用します。
  • Windows: レジストリ
  • macOS/iOS: plistファイル
  • Unix系: XDG Base Directory Specification に基づくプレーンテキストファイル（多くの場合INI形式に似ている）

注意点

• グローバルな設定: この関数は静的なので、一度設定するとアプリケーション全体に影響します。アプリケーション内で一貫した設定保存形式を使いたい場合に特に有効です。
• コンストラクタによる上書き: QSettingsオブジェクトを作成する際に、コンストラクタで明示的にフォーマットを指定した場合（例: QSettings("my_settings.ini", QSettings::IniFormat);）、setDefaultFormat()で設定されたデフォルトは上書きされます。
• 既存のQSettingsオブジェクトには影響しない: setDefaultFormat()は、関数が呼び出された後に作成されるQSettingsオブジェクトにのみ影響します。すでに作成されているQSettingsオブジェクトのフォーマットは変更されません。

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QSettings::setDefaultFormat() は、QSettings オブジェクトが作成される際のデフォルトのストレージフォーマットを設定する便利な関数ですが、その性質上、特定の落とし穴があります。

エラー: setDefaultFormat() を呼び出したのに設定がINIファイルとして保存されない（Windowsのレジストリなどに保存される）

これは最もよくある誤解です。

原因
setDefaultFormat() は、その関数が呼び出された後に作成される QSettings オブジェクトにのみ影響します。もし、setDefaultFormat() を呼び出す前に QSettings オブジェクトがすでに作成されている場合、その既存のオブジェクトには影響しません。

トラブルシューティング

• QCoreApplication::setOrganizationName() と QCoreApplication::setApplicationName() の設定
  QSettings は、これらの名前を元に設定ファイルのパスやレジストリのキーを決定します。これらをsetDefaultFormat()より前に正しく設定していることを確認してください。
• setDefaultFormat() の呼び出し位置を確認する
  アプリケーションの起動時、通常は main 関数内で、他の QSettings オブジェクトを作成する前に setDefaultFormat() を呼び出すようにしてください。

// 悪い例: settingsオブジェクトが先に作成されている
QSettings settings; // ここでデフォルトフォーマット（Windowsならレジストリ）が決定される
QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat); // この呼び出しはsettingsオブジェクトには影響しない

// 良い例:
QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");
QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat); // これ以降に作成されるQSettingsオブジェクトに適用される
QSettings settings; // これでINIファイル形式が使用される

エラー: 意図せずレジストリとINIファイルの両方に設定が保存されてしまう

原因
これは、上記のエラー1の派生です。開発中に異なるフォーマットを試したり、デバッグのためにフォーマットを変更したりすると、以前のフォーマットで保存された設定が残ってしまうことがあります。

トラブルシューティング

• QSettings::clear() を使用する
  アプリケーションの起動時に、デバッグ目的で一時的に settings.clear() を呼び出し、すべての設定を消去してから新しいフォーマットで書き込むことができます。ただし、これはユーザーの設定を消去してしまうため、開発時のみに限定すべきです。
• 設定ファイルを削除する/レジストリエントリをクリアする
  
  • INIファイルの場合
    アプリケーションの実行中に作成されたINIファイルを直接削除します。ファイルの場所は QSettings::fileName() で確認できます。
  • Windowsレジストリの場合
    regedit (レジストリエディタ) を開いて、HKEY_CURRENT_USER\Software\[組織名]\[アプリケーション名] または HKEY_LOCAL_MACHINE\Software\[組織名]\[アプリケーション名] のキーを削除します。

エラー: 特定のプラットフォームでIniFormatが機能しない

原因
QSettings::IniFormat は一般的にほとんどのプラットフォームで動作しますが、特定のサンドボックス環境（例: macOSのApp Storeアプリなど）や、パスのアクセス権限の問題によりINIファイルが書き込めない場合があります。

トラブルシューティング

• デバッグ出力を使用する
  qDebug() を使って、QSettings の初期化プロセスや、設定の読み書きが実際にどこで行われているかを確認します。
• ファイルのパスを確認する
  QSettings::fileName() を使用して、実際に設定ファイルがどこに作成されようとしているかを確認します。そのパスに書き込み権限があるかを確認します。
• ネイティブフォーマットを試す
  問題が発生するプラットフォームで QSettings::NativeFormat を試してください。ネイティブフォーマットは、そのプラットフォームで推奨される設定保存方法を使用するため、通常は最も堅牢です。

エラー: QSettings オブジェクトをグローバル変数として定義した場合にデフォルトフォーマットが適用されない

原因
C++のグローバル変数の初期化順序は未定義です。QSettings オブジェクトが、QCoreApplication::setOrganizationName() や QSettings::setDefaultFormat() が呼び出されるよりも早く初期化されてしまう可能性があります。

トラブルシューティング

• シングルトンパターンを使用する
  アプリケーション全体で一つの QSettings インスタンスを管理し、そのインスタンスが適切に初期化されることを保証するためにシングルトンパターンを採用することを検討します。
• QSettings オブジェクトをmain関数内で初期化する
  main関数や、確実にQCoreApplicationとsetDefaultFormat()が設定された後にQSettingsオブジェクトが作成されるようにしてください。

// 悪い例: グローバルQSettingsオブジェクト
// QSettings globalSettings; // 初期化順序の問題が発生する可能性

int main(int argc, char *argv[]) {
    QCoreApplication app(argc, argv);

    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");
    QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat);

    // 良い例: main関数内でQSettingsオブジェクトを初期化
    QSettings settings; // ここで正しくINIフォーマットが適用される

    // または、シングルトンを使用する
    // SettingsManager::instance().getSettings().setValue(...)
}

エラー: 設定値が保存されない、または読み込まれない

これは setDefaultFormat() に直接関連するエラーではありませんが、QSettings 全般で発生する一般的な問題です。

原因

• キーの大文字/小文字の区別を誤っている（WindowsレジストリとINIファイルは通常大文字/小文字を区別しないが、macOSのplistファイルは区別する）
• 異なるスコープ（QSettings::UserScope と QSettings::SystemScope）で設定を読み書きしようとしている
• キー名がプラットフォーム固有の制約に抵触している（例: Windowsレジストリのキー名の長さ制限、パス区切り文字の使用）
• QSettings::sync() の呼び出し忘れ（ただし、通常はアプリケーション終了時に自動的にフラッシュされます）

• QSettings::contains() でキーの存在を確認する
  読み込み前にキーが存在するかどうかを確認し、デバッグに役立てます。
• スコープを確認する
  QSettings コンストラクタでスコープを指定している場合、読み書きする際に同じスコープを使用しているか確認します。
• キー名の規則を確認する
  
  • スラッシュ (/ または \) をキー名に直接使用しない（セクション区切りとしてQtが内部的に使用します）。
  • 大文字/小文字の区別について一貫性を持たせる。
• QSettings::sync() を明示的に呼び出す
  setValue() を呼び出した後、確実に設定を保存したい場合は、settings.sync() を呼び出します。

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QSettings::setDefaultFormat() は、アプリケーションの設定を保存する際のデフォルトのフォーマットを静的に設定するために使用されます。これにより、コードの様々な場所で QSettings オブジェクトを作成する際に、明示的にフォーマットを指定する必要がなくなります。

基本的な使用例：INIファイルとして設定を保存する

この例では、QSettings::setDefaultFormat() を使用して、アプリケーションの設定をINIファイル形式で保存するように指定します。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>
#include <QDir> // QDir::homePath() のために必要

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication app(argc, argv);

    // 組織名とアプリケーション名を設定します。
    // QSettings が設定ファイルのパスを決定する際に使用されます。
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");

    // ★重要★: QSettings::setDefaultFormat() をQSettingsオブジェクト作成前に呼び出す
    // これにより、以降にデフォルトコンストラクタで作成されるQSettingsオブジェクトは
    // INIファイル形式を使用するようになります。
    QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat);

    // QSettingsオブジェクトを作成します。
    // デフォルトコンストラクタを使用しているため、上記で設定された
    // デフォルトフォーマット (IniFormat) が適用されます。
    QSettings settings;

    // 設定を書き込みます
    settings.setValue("user/name", "山田 太郎");
    settings.setValue("user/email", "[email protected]");
    settings.setValue("application/version", "1.0.0");
    settings.setValue("window/width", 800);
    settings.setValue("window/height", 600);

    // QSettingsは通常、アプリケーション終了時に自動的に変更をフラッシュします。
    // ただし、明示的に書き込みたい場合は settings.sync(); を呼び出すことができます。

    // 設定ファイルがどこに保存されたかを確認します
    // Windows: 通常は C:\Users\[ユーザー名]\AppData\Roaming\MyCompany\MyApplication.ini
    // macOS: 通常は ~/Library/Preferences/MyCompany/MyApplication.ini
    // Linux: 通常は ~/.config/MyCompany/MyApplication.ini
    qDebug() << "設定ファイルパス:" << settings.fileName();

    // 別のQSettingsオブジェクトを作成しても、INI形式が引き継がれることを確認
    QSettings anotherSettings;
    qDebug() << "別の設定オブジェクトのフォーマット:" << anotherSettings.format(); // QSettings::IniFormat が表示されるはず

    // 設定を読み込みます
    QString userName = settings.value("user/name").toString();
    QString userEmail = settings.value("user/email", "[email protected]").toString(); // デフォルト値を指定
    QString appVersion = settings.value("application/version").toString();
    int windowWidth = settings.value("window/width").toInt();
    int windowHeight = settings.value("window/height").toInt();
    bool debugMode = settings.value("application/debugMode", false).toBool(); // 存在しないキーの例

    qDebug() << "ユーザー名:" << userName;
    qDebug() << "メールアドレス:" << userEmail;
    qDebug() << "アプリケーションバージョン:" << appVersion;
    qDebug() << "ウィンドウ幅:" << windowWidth;
    qDebug() << "ウィンドウ高さ:" << windowHeight;
    qDebug() << "デバッグモード:" << debugMode;

    // 設定の一部を削除する例
    // settings.remove("user/email");
    // qDebug() << "メールアドレス (削除後):" << settings.value("user/email").toString();

    return app.exec();
}

このコードを実行すると、指定されたパスに MyApplication.ini のようなファイルが作成され、以下のような内容が保存されます（実際のパスや内容は環境によって異なります）。

[user]
name=山田 太郎
email[email protected]

[application]
version=1.0.0

[window]
width=800
height=600

NativeFormat と IniFormat の切り替え例

QSettings::setDefaultFormat() を使用すると、アプリケーションの起動時に、INIファイル形式を使用するか、またはオペレーティングシステムのネイティブな設定保存形式を使用するかを簡単に切り替えることができます。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>
#include <QMessageBox> // GUIアプリケーションの場合

// 設定フォーマットを決定するための列挙型
enum SettingsStorageFormat {
    Native,
    Ini
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication app(argc, argv);

    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");

    // コマンドライン引数や設定ファイルなどから、
    // どちらのフォーマットを使用するかを決定するロジックをここに記述します。
    // 例えば、GUIアプリケーションでユーザーが選択できるようにすることもできます。
    SettingsStorageFormat chosenFormat = Native; // デフォルトはネイティブ形式

    // 例として、特定の条件下でINI形式に切り替える
    // (ここでは常にINI形式になるように設定)
    // if (argc > 1 && QString(argv[1]) == "--ini") {
    //     chosenFormat = Ini;
    // }

    // 環境変数などで切り替えることも考えられます
    QString formatEnv = qgetenv("MYAPP_SETTINGS_FORMAT");
    if (formatEnv == "ini") {
        chosenFormat = Ini;
    } else if (formatEnv == "native") {
        chosenFormat = Native;
    }

    if (chosenFormat == Ini) {
        QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat);
        qDebug() << "設定フォーマット: INIファイル形式を使用します";
    } else {
        QSettings::setDefaultFormat(QSettings::NativeFormat);
        qDebug() << "設定フォーマット: ネイティブ形式を使用します";
    }

    QSettings settings;
    settings.setValue("app/last_run_time", QDateTime::currentDateTime());
    settings.setValue("app/user_id", 12345);

    qDebug() << "設定ファイルパス:" << settings.fileName();
    qDebug() << "最終実行時刻:" << settings.value("app/last_run_time").toDateTime();
    qDebug() << "ユーザーID:" << settings.value("app/user_id").toInt();

    // 別の QSettings オブジェクトを作成しても、デフォルトフォーマットが適用される
    QSettings anotherSettings;
    qDebug() << "別の設定オブジェクトのフォーマット:" << anotherSettings.format();

    return app.exec();
}

この例では、環境変数 MYAPP_SETTINGS_FORMAT の値に基づいて、NativeFormat と IniFormat を切り替えることができます。

• MYAPP_SETTINGS_FORMAT=native と設定して実行すると、各OSのネイティブな方法（Windowsならレジストリ、macOSならplistなど）で保存されます。
• MYAPP_SETTINGS_FORMAT=ini と設定して実行すると、INIファイルに保存されます。

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setDefaultFormat() が主に「以降に作成されるQSettingsオブジェクトのデフォルト形式」を設定するものであるのに対し、以下の方法は個々の QSettings オブジェクトや、特定のシナリオに特化した設定形式の制御を提供します。

QSettings コンストラクタで明示的にフォーマットを指定する

これは最も直接的で、かつ最も頻繁に利用される代替手段です。QSettings のコンストラクタには、ファイルパスやフォーマットを直接指定できるオーバーロードがあります。

特徴

• 特定のファイルパスを指定可能
  設定ファイルをアプリケーションの実行ファイルと同じディレクトリに置きたいなど、特定の場所を指定したい場合に役立ちます。
• 個別のオブジェクトごとに制御
  setDefaultFormat() の設定を上書きし、特定の QSettings インスタンスにのみ異なるフォーマットを適用したい場合に最適です。

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>
#include <QDir> // QDir::currentPath() のために必要

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication app(argc, argv);

    // 組織名とアプリケーション名は設定しても良いですが、
    // 明示的にファイルパスを指定する場合は必須ではありません。
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");

    // ★代替方法1★: QSettings コンストラクタで直接INIファイルとパスを指定
    // アプリケーションの実行ディレクトリに "my_custom_settings.ini" を作成
    QString settingsFilePath = QCoreApplication::applicationDirPath() + "/my_custom_settings.ini";
    QSettings customSettings(settingsFilePath, QSettings::IniFormat);

    qDebug() << "カスタム設定ファイルパス:" << customSettings.fileName();
    customSettings.setValue("custom/value", "Hello Custom!");
    qDebug() << "カスタム値:" << customSettings.value("custom/value").toString();

    // デフォルトのQSettingsオブジェクトは、もしsetDefaultFormatが呼ばれていなければ
    // ネイティブ形式（Windowsならレジストリ）を使用します。
    QSettings defaultSettings;
    qDebug() << "デフォルト設定ファイルパス:" << defaultSettings.fileName(); // 異なるパスになる
    defaultSettings.setValue("default/value", "Hello Default!");
    qDebug() << "デフォルト値:" << defaultSettings.value("default/value").toString();

    return app.exec();
}

この例では、customSettings オブジェクトは明示的にINIファイル形式とパスを指定しているため、setDefaultFormat() の影響を受けません。一方、defaultSettings オブジェクトは setDefaultFormat() が呼ばれていないため、プラットフォームのネイティブ形式を使用します。

QSettings::setPath() を使用する

QSettings::setPath() は、特定のフォーマットとスコープ（ユーザー固有かシステム全体か）に対して、設定ファイルの保存パスを静的に設定できる関数です。

特徴

• setDefaultFormat() と組み合わせて使用できます。
• フォーマットとスコープごとのパス制御
  例えば、ユーザー固有のINIファイルは特定のディレクトリに、システム全体のINIファイルは別のディレクトリに保存したい場合に便利です。

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>
#include <QDir>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication app(argc, argv);

    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");

    // ★代替方法2★: QSettings::setPath() を使用してINIファイルのパスを設定
    // QSettings::UserScope のINIファイルをアプリケーションの実行ディレクトリに保存
    QString appDirPath = QCoreApplication::applicationDirPath();
    QSettings::setPath(QSettings::IniFormat, QSettings::UserScope, appDirPath);

    // デフォルトフォーマットをINIに設定（setPathと組み合わせることでより明確に）
    QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat);

    QSettings settings; // IniFormatとUserScopeのパスが適用される
    qDebug() << "設定ファイルパス:" << settings.fileName(); // 例: C:/path/to/app/MyCompany/MyApplication.ini
    settings.setValue("path_controlled/value", "Saved by setPath");
    qDebug() << "Path Controlled Value:" << settings.value("path_controlled/value").toString();

    // ネイティブフォーマットの設定オブジェクトは、setPathの影響を受けない
    QSettings nativeSettings(QSettings::NativeFormat, QSettings::UserScope, "MyCompany", "MyApplication");
    qDebug() << "ネイティブ設定ファイルパス:" << nativeSettings.fileName(); // 通常はレジストリなど
    nativeSettings.setValue("native/value", "Saved by NativeFormat");

    return app.exec();
}

この方法では、setDefaultFormat() と組み合わせることで、デフォルトのフォーマットとそれに適用されるパスをより細かく制御できます。

カスタム設定クラス（シングルトンなど）で QSettings をラップする

これはQSettings自体の機能ではありませんが、大規模なアプリケーションで設定管理を一元化する際によく使われる設計パターンです。

特徴

• テスト容易性
  設定ロジックを独立したクラスにすることで、単体テストが容易になります。
• 初期化の一元化
  QSettings オブジェクトの初期化（setOrganizationName、setApplicationName、setDefaultFormatなど）を一つの場所で行うことで、コードの重複を防ぎ、管理を容易にします。
• 設定ロジックの抽象化
  どの設定ファイルを使用するか、どのフォーマットかといった詳細をアプリケーションの他の部分から隠蔽できます。

使用例

// appsettings.h
#ifndef APPSETTINGS_H
#define APPSETTINGS_H

#include <QObject>
#include <QSettings>

class AppSettings : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    // シングルトンインスタンスを取得する静的メソッド
    static AppSettings& instance();

    // 設定値へのアクセスを提供 (例: getter/setter)
    QString userName() const;
    void setUserName(const QString& name);

    int windowWidth() const;
    void setWindowWidth(int width);

    // QSettingsオブジェクト自体へのアクセス（必要に応じて）
    QSettings* settings() { return m_settings; }

private:
    explicit AppSettings(QObject *parent = nullptr); // シングルトンのためprivate
    ~AppSettings(); // シングルトンのためprivate

    QSettings* m_settings;

    // コピーコンストラクタと代入演算子を禁止 (シングルトンのため)
    AppSettings(const AppSettings&) = delete;
    AppSettings& operator=(const AppSettings&) = delete;
};

#endif // APPSETTINGS_H

// appsettings.cpp
#include "appsettings.h"
#include <QCoreApplication>
#include <QDebug>

AppSettings& AppSettings::instance()
{
    static AppSettings instance; // アプリケーションの生存期間中、一度だけ作成される
    return instance;
}

AppSettings::AppSettings(QObject *parent)
    : QObject(parent)
{
    // アプリケーション起動時に一度だけ設定されることを保証
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication");

    // デフォルトフォーマットをここで設定（INI形式を使用）
    QSettings::setDefaultFormat(QSettings::IniFormat);

    // QSettingsオブジェクトをヒープに作成
    m_settings = new QSettings(this); // 親オブジェクトを自身に設定

    qDebug() << "AppSettingsが初期化されました。設定ファイルパス:" << m_settings->fileName();
}

AppSettings::~AppSettings()
{
    // m_settings は親オブジェクトによって自動的に削除されるため、deleteは不要
}

QString AppSettings::userName() const
{
    return m_settings->value("user/name", "ゲスト").toString();
}

void AppSettings::setUserName(const QString& name)
{
    m_settings->setValue("user/name", name);
}

int AppSettings::windowWidth() const
{
    return m_settings->value("window/width", 1024).toInt();
}

void AppSettings::setWindowWidth(int width)
{
    m_settings->setValue("window/width", width);
}

// main.cpp
#include <QCoreApplication>
#include <QDebug>
#include "appsettings.h" // 作成したシングルトンクラスをインクルード

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication app(argc, argv);

    // アプリケーション全体で設定にアクセスする
    qDebug() << "現在のユーザー名:" << AppSettings::instance().userName();
    qDebug() << "現在のウィンドウ幅:" << AppSettings::instance().windowWidth();

    // 設定を更新する
    AppSettings::instance().setUserName("新しいユーザー");
    AppSettings::instance().setWindowWidth(1280);

    qDebug() << "更新後のユーザー名:" << AppSettings::instance().userName();
    qDebug() << "更新後のウィンドウ幅:" << AppSettings::instance().windowWidth();

    // 別々の場所からアクセスしても、同じQSettingsインスタンスが使われることを確認
    // 例えば、別の関数やクラスから AppSettings::instance().settings()->fileName() を呼び出すと、
    // 同じファイルパスが返されます。

    return app.exec();
}

このシングルトンパターンは、QSettings::setDefaultFormat() の「アプリケーション全体に影響する」という特性を、より構造化された方法で活用する代替案と言えます。設定の初期化とアクセスを一元管理することで、大規模なプロジェクトでの保守性を高めることができます。