QSettingsデストラクタだけじゃない！Qt設定保存の代替手段と使い分け

QtプログラミングにおけるQSettings::~QSettings()は、QSettingsクラスのデストラクタです。

これは、QSettingsオブジェクトが破棄されるときに自動的に呼び出される特殊なメンバ関数です。その主な役割は以下の通りです。

1. 未保存の変更の永続ストレージへの書き込み
   QSettingsは、設定値をメモリ上で管理し、効率のために即座に永続ストレージ（Windowsではレジストリ、Unix系システムではINIファイルなど）に書き込むとは限りません。setValue()などで変更された設定値は、このデストラクタが呼び出される際に自動的に永続ストレージに書き込まれます。これにより、アプリケーションが終了する際に、変更された設定が確実に保存されます。明示的にsync()関数を呼び出すことでも同様の書き込みを行えますが、通常はデストラクタがその役割を担います。

2. リソースの解放
   QSettingsオブジェクトが使用していた内部的なリソース（メモリなど）を解放します。

通常、QSettingsオブジェクトはスタック上に作成されることが多く、その場合、スコープを抜けるときに自動的にデストラクタが呼び出されます。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // アプリケーション名と組織名を設定 (QSettingsを使用する前に推奨される)
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyApp");

    {
        QSettings settings; // QSettingsオブジェクトをスタックに作成

        // 設定値を書き込む
        settings.setValue("window/width", 800);
        settings.setValue("window/height", 600);
        settings.setValue("user/name", "Taro Yamada");

        qDebug() << "設定を書き込みました。";
        // このスコープを抜けると、settingsオブジェクトのデストラクタが自動的に呼び出され、
        // 設定が永続ストレージに保存されます。
    } // ここで QSettings::~QSettings() が自動的に呼ばれる

    {
        QSettings settings; // 別のQSettingsオブジェクトをスタックに作成

        // 保存された設定値を読み込む
        int width = settings.value("window/width", 640).toInt();
        int height = settings.value("window/height", 480).toInt();
        QString userName = settings.value("user/name", "ゲスト").toString();

        qDebug() << "読み込んだ設定:";
        qDebug() << "  幅:" << width;
        qDebug() << "  高さ:" << height;
        qDebug() << "  ユーザー名:" << userName;
    }

    return a.exec();
}

重要な点

• デストラクタが呼び出されるときに設定が書き込まれるという特性のため、アプリケーションがクラッシュした場合など、デストラクタが正常に呼び出されない場合は、最新の設定変更が保存されない可能性があります。重要な設定は、必要に応じてsync()を明示的に呼び出して即座に保存することも検討できます。
• QSettingsオブジェクトは、スタック上で作成してもヒープ上でnewを使って作成しても、その構築と破棄は非常に高速です。そのため、アプリケーションの様々な場所で必要に応じてQSettingsオブジェクトを作成して使用しても、パフォーマンス上の大きな問題は通常ありません。

---

以下に、QSettings::~QSettings()に関連する一般的なエラーやトラブルシューティングのポイントを挙げます。

設定が保存されない/読み込まれない

これが最も一般的な問題です。デストラクタが呼び出されても設定が永続ストレージに書き込まれていないように見える場合や、次回起動時に設定が読み込まれない場合です。

• 複数のQSettingsインスタンスによる上書き
  

  • 原因
    異なるQSettingsインスタンスが同じ設定キーに対して書き込みを行った場合、最後にデストラクタが呼び出されたインスタンスの変更が有効になります。特にマルチスレッド環境では注意が必要です。
  • トラブルシューティング
    設定へのアクセスを同期させるか、可能であれば設定への書き込みを単一のポイントに集中させます。

• デストラクタが呼び出される前にアプリケーションがクラッシュする
  

  • 原因
    QSettings::setValue()は設定をメモリ上にキャッシュするため、デストラクタが呼び出されるまで永続ストレージに書き込まれないことがあります。アプリケーションがデストラクタ呼び出し前にクラッシュすると、変更が失われます。
  • トラブルシューティング
    重要な設定変更の後には、明示的にsettings.sync()を呼び出して即座に書き込みを強制します。

• 保存場所の確認（パーミッションの問題、パスの誤り）
  

  • 原因
    
    • Windowsではレジストリ、macOSではplistファイル、LinuxではINIファイル（またはXDGベースディレクトリ）などに保存されます。これらの保存先に書き込み権限がない場合、設定は保存されません。
    • QSettingsのコンストラクタで特定のINIファイルパスを指定した場合、そのパスが存在しない、または書き込み権限がない可能性があります。
  • トラブルシューティング
    
    • QSettings::fileName()を呼び出して、実際に設定が保存されようとしているファイルパス（またはレジストリパス）を確認します。
    • そのパスに対して、アプリケーションが書き込み権限を持っているかを確認します。管理者権限が必要な場所に保存しようとしていないか確認してください。
    • Linuxの場合、~/.config/MyCompany/MyApplication.confのようなパスに保存されることが多いです。このファイルが正しく生成されているか確認します。
    • Windowsレジストリの場合、HKEY_CURRENT_USER\Software\MyCompany\MyApplication以下に保存されます。regeditで確認します。

• QCoreApplication::setOrganizationName() と QCoreApplication::setApplicationName() の設定不足
  

  • 原因
    QSettingsがどのアプリケーションの設定を扱うかを特定するためには、アプリケーションの組織名とアプリケーション名が必要です。これらが設定されていない場合、QSettingsはデフォルトの場所（しばしば特定しにくい場所）に設定を保存しようとするか、正しく機能しないことがあります。
  • トラブルシューティング
    アプリケーションの初期化（通常はmain()関数のQCoreApplicationまたはQApplicationインスタンス作成後、他の処理を行う前）に、必ずQCoreApplication::setOrganizationName()とQCoreApplication::setApplicationName()を呼び出してください。

  int main(int argc, char *argv[])
  {
      QApplication a(argc, argv); // または QCoreApplication
      QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany"); // 組織名
      QCoreApplication::setApplicationName("MyApplication"); // アプリケーション名
  
      // QSettingsを使用するコード
      QSettings settings;
      settings.setValue("key", "value");
      // ...
      return a.exec();
  }
  

キーやセクション名の問題

• 不正な文字
  

  • 原因
    特定の文字（例: NULL文字、コントロール文字など）がキー名や値に含まれていると、保存や読み込みが正しく行われないことがあります。
  • トラブルシューティング
    設定値には標準的な文字列を使用し、特殊な文字が含まれないように注意します。

• キー名の不一致 (大文字・小文字、スラッシュ)

  • 原因
    QSettingsはプラットフォームによってキーの大文字・小文字を区別する場合としない場合があります（例: Windowsレジストリは非区別、macOSは区別）。また、スラッシュ (/ または \) はサブキーの区切り文字として使われるため、キー名に含めるべきではありません。
  • トラブルシューティング
    
    • 常に同じキー名を同じ大文字・小文字で参照するようにします。
    • キー名にスラッシュを含めないようにします。サブキーが必要な場合はbeginGroup() / endGroup()を使用するか、"section/key"のようにパス形式で指定します。

データ型の不一致

• QVariant変換の問題
  
  • 原因
    QSettingsはQVariantを使用して値を保存・読み込みます。QVariantが直接変換できない型（例: カスタムクラスなど）を保存しようとすると、適切にシリアライズされません。
  • トラブルシューティング
    QVariantがサポートする基本的なデータ型（int, QString, bool, QPoint, QRect, QSizeなど）を使用します。カスタム型を保存したい場合は、その型をQVariantに変換できるようにQ_DECLARE_METATYPEやストリーム演算子（operator<<, operator>>）を実装し、qRegisterMetaType()で登録する必要があります。または、自分で文字列やバイナリにシリアライズして保存します。

• ネイティブツールの利用
  

  • Windows
    レジストリエディタ (regedit.exe) を使用して、設定がレジストリに正しく書き込まれているか確認します。
  • Linux
    INIファイルとして保存されることが多いので、ファイルの内容をテキストエディタで確認します。
  • macOS
    defaults read <bundle_identifier>コマンドを使用して設定を確認できます。

• デバッグ出力 (qDebug())
  

  • 設定の保存や読み込みの前後で、QSettings::fileName()やQSettings::allKeys()、QSettings::value()の結果をqDebug()で出力し、期待通りの動作をしているかを確認します。

• QSettings::status() の利用
  

  • QSettings::status()は、QSettingsオブジェクトが遭遇した最初のエラーを示すステータスコードを返します。これにより、書き込みや読み込みの問題の根本原因を特定するのに役立ちます。

  QSettings settings;
  settings.setValue("myKey", "myValue");
  if (settings.status() != QSettings::NoError) {
      qWarning() << "QSettings error:" << settings.status();
  }
  

---

このデストラクタの主な役割は、メモリ上の変更された設定値を永続ストレージ（レジストリ、INIファイル、plistなど）に書き込むことです。

したがって、QSettings::~QSettings() に関連するプログラミング例は、デストラクタがいつ、どのように自動的に呼び出され、その際に設定がどのように保存されるかを示すものになります。

例 1: スタック上の QSettings オブジェクト (最も一般的)

この例では、QSettings オブジェクトが関数内のローカル変数として作成されます。関数が終了すると、そのオブジェクトはスコープを抜けてデストラクタが自動的に呼び出され、変更された設定が保存されます。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>

// 設定を書き込む関数
void writeSettings() {
    qDebug() << "--- writeSettings 関数が呼び出されました ---";

    // QSettings オブジェクトをスタック上に作成
    // (コンストラクタが呼ばれる)
    QSettings settings;

    // 設定値を書き込む
    settings.setValue("user/name", "Alice");
    settings.setValue("window/width", 1024);
    settings.setValue("window/height", 768);

    qDebug() << "設定値を変更しました。";

    // この関数を抜けると、settings オブジェクトのデストラクタ QSettings::~QSettings() が自動的に呼び出され、
    // ここで設定が永続ストレージに保存されます。
    qDebug() << "--- writeSettings 関数が終了します (デストラクタが呼ばれるはず) ---";
}

// 設定を読み込む関数
void readSettings() {
    qDebug() << "\n--- readSettings 関数が呼び出されました ---";

    QSettings settings; // QSettings オブジェクトをスタック上に作成

    // 保存された設定値を読み込む
    QString userName = settings.value("user/name", "Guest").toString();
    int width = settings.value("window/width", 800).toInt();
    int height = settings.value("window/height", 600).toInt();

    qDebug() << "読み込んだ設定:";
    qDebug() << "  ユーザー名:" << userName;
    qDebug() << "  幅:" << width;
    qDebug() << "  高さ:" << height;

    qDebug() << "--- readSettings 関数が終了します ---";
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // QSettings を使用する前に、組織名とアプリケーション名を設定することが非常に重要です。
    // これを設定しないと、設定がどこに保存されるか予測できない、または保存されない可能性があります。
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyQtApp");

    qDebug() << "アプリケーション開始";

    // 設定を書き込む関数を呼び出す
    writeSettings();
    // ここで、writeSettings() 内の QSettings オブジェクトのデストラクタが呼ばれ、設定が保存されるはずです。

    // 設定が正しく保存されたことを確認するために、再度読み込む関数を呼び出す
    readSettings();

    qDebug() << "\nアプリケーション終了";

    return a.exec();
}

出力例 (コンソール)

アプリケーション開始
--- writeSettings 関数が呼び出されました ---
設定値を変更しました。
--- writeSettings 関数が終了します (デストラクタが呼ばれるはず) ---

--- readSettings 関数が呼び出されました ---
読み込んだ設定:
  ユーザー名: Alice
  幅: 1024
  高さ: 768
--- readSettings 関数が終了します ---

アプリケーション終了

この例では、writeSettings() 関数が終了する際に、その内部で作成された settings オブジェクトのデストラクタが自動的に呼び出され、変更が永続ストレージに書き込まれます。その後、readSettings() 関数でその設定を読み込めることを確認しています。

例 2: ヒープ上の QSettings オブジェクトと delete

ヒープに QSettings オブジェクトを作成した場合、デストラクタは手動で delete を呼び出すことによって明示的に呼び出されます。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>

void manipulateSettingsOnHeap() {
    qDebug() << "--- manipulateSettingsOnHeap 関数が呼び出されました ---";

    // QSettings オブジェクトをヒープ上に作成
    // (コンストラクタが呼ばれる)
    QSettings* settings = new QSettings();

    // 設定値を書き込む
    settings->setValue("app/theme", "Dark");
    settings->setValue("app/language", "Japanese");

    qDebug() << "設定値を変更しました。";

    // delete を呼び出すことで、QSettings::~QSettings() デストラクタが明示的に呼び出され、
    // ここで設定が永続ストレージに保存されます。
    delete settings;
    settings = nullptr; // dangling pointer を避けるために null に設定

    qDebug() << "--- manipulateSettingsOnHeap 関数が終了します (delete が呼ばれたはず) ---";
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyQtApp");

    qDebug() << "アプリケーション開始";

    manipulateSettingsOnHeap();

    // 設定が正しく保存されたことを確認するために、再度読み込む
    QSettings checkSettings;
    QString theme = checkSettings.value("app/theme", "Light").toString();
    QString language = checkSettings.value("app/language", "English").toString();

    qDebug() << "\nアプリケーション終了時の最終確認:";
    qDebug() << "  テーマ:" << theme;
    qDebug() << "  言語:" << language;

    return a.exec();
}

出力例 (コンソール)

アプリケーション開始
--- manipulateSettingsOnHeap 関数が呼び出されました ---
設定値を変更しました。
--- manipulateSettingsOnHeap 関数が終了します (delete が呼ばれたはず) ---

アプリケーション終了時の最終確認:
  テーマ: Dark
  言語: Japanese

この例では、new QSettings() でヒープ上にオブジェクトを作成し、最後に delete settings; を呼び出すことで、デストラクタを手動でトリガーし、設定を保存しています。

QSettings::~QSettings() の動作は、QSettings::sync() 関数と密接に関連しています。sync() は、デストラクタが通常行う「メモリ上の変更を永続ストレージに書き込む」処理を、デストラクタの呼び出しを待たずに即座に行うものです。

例 3: sync() を使用して明示的に保存

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyQtApp");

    qDebug() << "アプリケーション開始";

    QSettings settings; // QSettings オブジェクトをスタック上に作成

    settings.setValue("lastRunTime", QDateTime::currentDateTime());
    qDebug() << "lastRunTime を設定しました。";

    // デストラクタを待たずに、ここで明示的に設定を永続ストレージに書き込む
    settings.sync();
    qDebug() << "設定を sync() で明示的に保存しました。";

    // アプリケーションがクラッシュしたとしても、この時点までの設定は保存されているはずです。

    // さらに変更を加える
    settings.setValue("counter", settings.value("counter", 0).toInt() + 1);
    qDebug() << "カウンターを更新しました。";
    // ここでアプリケーションがクラッシュした場合、カウンターの最新値は保存されない可能性があります。
    // なぜなら、デストラクタはまだ呼び出されていないからです。

    qDebug() << "\nアプリケーション終了";
    // ここで settings オブジェクトのデストラクタが呼び出され、
    // "counter" の最新値も（クラッシュがなければ）保存されます。
    return a.exec();
}

この例では、sync() を使うことで、デストラクタが呼ばれる前でも設定を確実に保存できることを示しています。これは、アプリケーションが予期せず終了する可能性がある場合や、重要な設定変更を即座に永続化したい場合に役立ちます。

---

しかし、「QSettings::~QSettings() が行う自動保存の代替手段」という観点で見ると、以下の方法が考えられます。これらは、特定の要件（即時保存、手動制御、異なるデータ形式、異なる保存場所など）に対応するために使用されます。

QSettings::sync() を明示的に呼び出す

これは QSettings::~QSettings() が行う保存処理を、デストラクタが呼び出される前に手動でトリガーする最も直接的な方法です。

• 方法
  QSettings::setValue() などで設定を変更した後、settings.sync(); を呼び出す。
• 目的
  アプリケーションがクラッシュする可能性がある場合など、重要な設定変更を即座に永続ストレージに保存したい場合。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>
#include <QDateTime>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyQtApp");

    QSettings settings;

    // 設定値を変更
    settings.setValue("last_action_time", QDateTime::currentDateTime());
    qDebug() << "設定値を変更しました。";

    // アプリケーションがこの後クラッシュしても、この設定が保存されるようにする
    settings.sync(); // ここでデストラクタが呼ばれるのと同じ保存処理が行われる
    qDebug() << "sync() を呼び出し、設定を明示的に保存しました。";

    // さらに他の処理...
    // ここでアプリケーションが予期せず終了しても、last_action_time は保存されている

    return a.exec();
}

シングルトンパターンとアプリケーション終了時の保存

QSettings オブジェクトをアプリケーション全体で共有するシングルトンとして管理し、アプリケーションの終了イベント（QCoreApplication::aboutToQuit() シグナルなど）に接続して、明示的に sync() を呼び出す方法です。

• 方法
  
  1. QSettings インスタンスをシングルトンとして提供する。
  2. QCoreApplication::aboutToQuit() シグナルにスロットを接続し、そのスロット内でシングルトンインスタンスの sync() を呼び出す。
• 目的
  アプリケーション終了時に一括して設定を保存したい場合や、QSettings インスタンスをアプリケーション全体で一つに制限したい場合。

#include <QCoreApplication>
#include <QSettings>
#include <QDebug>

// シングルトンとしてQSettingsをラップするクラスの例
class AppSettings : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    static AppSettings& instance() {
        static AppSettings inst;
        return inst;
    }

    QSettings& settings() { return m_settings; }

private:
    AppSettings() : m_settings() {
        // aboutToQuit シグナルが発火したら、sync() を呼び出す
        connect(QCoreApplication::instance(), &QCoreApplication::aboutToQuit,
                this, &AppSettings::saveOnQuit);
    }
    Q_DISABLE_COPY(AppSettings) // コピーを禁止

    QSettings m_settings;

private slots:
    void saveOnQuit() {
        qDebug() << "Application is about to quit. Syncing QSettings...";
        m_settings.sync(); // アプリケーション終了時に明示的に保存
        qDebug() << "QSettings synced.";
    }
};

// MOC を使うために必要な宣言
#include "main.moc"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);
    QCoreApplication::setOrganizationName("MyCompany");
    QCoreApplication::setApplicationName("MyQtApp");

    // シングルトンインスタンスを取得
    QSettings& appSettings = AppSettings::instance().settings();

    appSettings.setValue("window/last_position_x", 100);
    appSettings.setValue("window/last_position_y", 200);
    qDebug() << "設定をいくつか変更しました。";

    // ここで QSettings オブジェクトのデストラクタはまだ呼ばれていない
    // アプリケーションが終了する際に、aboutToQuit シグナルが発火し、
    // それに接続された AppSettings::saveOnQuit() が呼ばれて sync() が実行される

    return a.exec();
}

この例では、main() 関数の終了時に QSettings オブジェクトのデストラクタが通常のフローで呼び出されるため、sync() が重複して実行されることになります。しかし、aboutToQuit シグナルを使うことで、例えばヒープ上に作成した QSettings オブジェクトの delete を忘れた場合などでも、確実に保存処理を行うことができます。

JSON や XML など、別のシリアライズ形式を使用する

QSettings はレジストリやINIファイルなど、OSネイティブまたはINI形式に特化していますが、アプリケーションの設定をより複雑な構造で保存したい場合や、クロスプラットフォームで完全に同一のファイル形式を使用したい場合は、JSONやXMLなどの形式を自分で処理する方法が考えられます。

• 方法
  
  1. QJsonObject / QJsonArray (QtのJSONモジュール) や QDomDocument (QtのXMLモジュール) を使用して、設定データをメモリ上で構築する。
  2. QFile や QTextStream を使って、そのデータをファイルに書き込む。
  3. 保存のタイミングは、QSettings::~QSettings() の代替として、アプリケーション終了時（aboutToQuit シグナル）や、ユーザーが「保存」ボタンを押した時などに明示的に行います。
• 目的
  複雑なデータ構造の保存、人間が読みやすい形式、異なるアプリケーション間のデータ共有、カスタムフォーマット。

#include <QCoreApplication>
#include <QFile>
#include <QJsonDocument>
#include <QJsonObject>
#include <QJsonArray>
#include <QDebug>

void saveSettingsToJson(const QString& filePath) {
    QJsonObject settings;
    settings["user_name"] = "Bob";
    settings["theme"] = "dark";

    QJsonObject windowSize;
    windowSize["width"] = 1280;
    windowSize["height"] = 720;
    settings["window_size"] = windowSize;

    QJsonArray recentFiles;
    recentFiles.append("/path/to/file1.txt");
    recentFiles.append("/path/to/file2.doc");
    settings["recent_files"] = recentFiles;

    QJsonDocument doc(settings);

    QFile file(filePath);
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write(doc.toJson(QJsonDocument::Indented)); // 整形して書き込み
        file.close();
        qDebug() << "JSON 設定を保存しました:" << filePath;
    } else {
        qWarning() << "JSON ファイルを開けませんでした:" << file.errorString();
    }
}

void loadSettingsFromJson(const QString& filePath) {
    QFile file(filePath);
    if (!file.open(QIODevice::ReadOnly | QIODevice::Text)) {
        qWarning() << "JSON ファイルを開けませんでした:" << file.errorString();
        return;
    }

    QByteArray jsonData = file.readAll();
    file.close();

    QJsonDocument doc = QJsonDocument::fromJson(jsonData);
    if (doc.isNull()) {
        qWarning() << "JSON データをパースできませんでした。";
        return;
    }

    QJsonObject settings = doc.object();
    qDebug() << "読み込んだJSON設定:";
    qDebug() << "  User Name:" << settings["user_name"].toString();
    qDebug() << "  Theme:" << settings["theme"].toString();
    qDebug() << "  Window Width:" << settings["window_size"].toObject()["width"].toInt();
    qDebug() << "  Window Height:" << settings["window_size"].toObject()["height"].toInt();
    qDebug() << "  Recent Files:" << settings["recent_files"].toArray();
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString settingsFilePath = QCoreApplication::applicationDirPath() + "/app_settings.json";

    // JSON ファイルに設定を保存
    saveSettingsToJson(settingsFilePath);

    // JSON ファイルから設定を読み込む
    loadSettingsFromJson(settingsFilePath);

    return a.exec();
}

アプリケーションの設定が非常に大量であったり、より堅牢なデータ管理、クエリ機能、または複数ユーザー間での共有が必要な場合、SQLiteのような軽量データベースを利用することも検討できます。

• 方法
  QtのSQLモジュール (QSqlDatabase, QSqlQuery など) を使用して、設定値をデータベースのテーブルに保存します。保存のタイミングは、上記のJSON/XMLと同様に、明示的に行います。
• 目的
  大量の設定データ、複雑なクエリ、複数ユーザー/複数アプリでの共有、データ整合性。

QSettings::~QSettings() が提供する「デストラクタによる自動保存」は非常に便利ですが、以下のような代替手段が考えられます。

1. QSettings::sync(): QSettings の枠組み内で、自動保存を待たずに即時保存したい場合。
2. QCoreApplication::aboutToQuit() シグナルと sync(): アプリケーションのクリーンな終了時に確実に保存したい場合。
3. JSON/XML ファイルへの手動シリアライズ: QSettings のシンプルなキーバリュー形式では不足する場合や、カスタムフォーマットが必要な場合。
4. データベース: 大量の設定データ、複雑な関係性、高度なクエリ機能が必要な場合。