QML表示を劇的に改善!Item.layer.textureSizeの活用例
Item.layer.textureSize
は、Qt Quickの 型のプロパティである が有効になっている場合に使用される、レイヤーのテクスチャのサイズを指定するプロパティです。
まず、「layer」プロパティについて
Qt Quickでは、通常、各Itemはそれ自身で描画され、シーングラフ全体がGPU上で効率的にレンダリングされます。しかし、特定の複雑なItemやアニメーションにおいて、そのItemの描画内容をオフスクリーンテクスチャに事前にレンダリングしてから、そのテクスチャを最終的なシーンに貼り付ける方が効率的な場合があります。この「オフスクリーンレンダリング」を有効にするのが Item.layer.enabled = true
です。
layer
プロパティは、ItemLayer
型のオブジェクトであり、以下のサブプロパティを持ちます。
**textureSize**
: レイヤーのテクスチャの明示的なサイズ (QSize)wrapMode
: テクスチャのラップモード (enumeration)textureMirroring
: テクスチャのミラーリングモード (enumeration)smooth
: テクスチャをスムーズにスケーリングするかどうか (bool)mipmap
: ミップマップを生成するかどうか (bool)format
: テクスチャのピクセルフォーマット (enumeration)effect
: レイヤー全体に適用するシェーダーエフェクト (ShaderEffectSource)enabled
: レイヤーを有効にするかどうか (bool)
「textureSize」の役割
通常、Item.layer.enabled = true
に設定すると、Qt Quickは自動的にそのItemのサイズに基づいてテクスチャのサイズを決定します。つまり、Itemが 100times100 ピクセルであれば、テクスチャも 100times100 ピクセルになります。
しかし、textureSize
プロパティを使用すると、この自動的なサイズ決定をオーバーライドし、明示的にテクスチャのサイズを指定することができます。これは以下のような場合に役立ちます。
- 高解像度でのキャプチャ: Itemの表示サイズよりも、より高解像度でその内容をテクスチャとしてキャプチャしたい場合。例えば、50times50 のItemを 200times200 のテクスチャにレンダリングし、それを後で拡大表示しても、ピクセル化が目立たないようにしたい場合など。
- 特定のGPU要件: 特定のGPUやハードウェアが、特定のテクスチャサイズ(例えば2のべき乗)を要求する場合や、その方が効率が良い場合に、手動で調整するため。
- パフォーマンスの最適化: テクスチャのサイズが大きすぎるとメモリ使用量が増えたり、レンダリング負荷が増えたりする可能性があります。一方で、小さすぎると画質が低下します。最適なバランスを見つけるために、
textureSize
を調整することがあります。
使用例
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Item.layer.textureSize Example"
Rectangle {
id: myItem
width: 100
height: 100
color: "blue"
radius: 10
Text {
text: "Hello Layer!"
color: "white"
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 20
}
// レイヤーを有効にする
layer.enabled: true
// テクスチャサイズを明示的に指定
// この場合、Item自体は100x100だが、テクスチャは200x200で生成される
layer.textureSize: Qt.size(200, 200)
// 別のRectangleで、このレイヤーの内容を表示してみる
// このRectangleは200x200なので、テクスチャが拡大表示されるわけではなく、
// 200x200で描画された内容がそのまま表示される
Rectangle {
id: displayRect
width: 200
height: 200
x: 150
color: "transparent"
border.color: "red"
border.width: 2
// myItemのレイヤーの内容をShaderEffectSourceとして使用
ShaderEffectSource {
sourceItem: myItem
textureSize: myItem.layer.textureSize // myItemのレイヤーのテクスチャサイズと同じにする
// レイヤーのテクスチャをそのまま表示
anchors.fill: parent
}
}
}
}
上記の例では、myItem
自体は 100times100 ピクセルですが、layer.textureSize: Qt.size(200, 200)
を設定することで、その描画内容は 200times200 ピクセルのオフスクリーンテクスチャにレンダリングされます。そして、隣の displayRect
がその 200times200 のテクスチャをそのまま表示しています。もし textureSize
を指定しなければ、displayRect
に表示される内容は 100times100 ピクセルのテクスチャを 200times200 に拡大表示することになり、画質が粗くなる可能性があります。
Item.layer.textureSize
は、Item
の描画内容をオフスクリーンテクスチャにレンダリングする際のテクスチャサイズを明示的に指定するものです。この機能を使う上で遭遇しやすい問題は、主にパフォーマンス、メモリ使用量、描画品質、そして特定の環境における制約に関連しています。
パフォーマンスの低下 (Performance Degradation)
問題: layer.enabled
を true
にすると、Item の描画が最適化されるはずなのに、かえってUIが重くなる、フレームレートが低下する。
原因:
- ミップマップやアンチエイリアシングのコスト:
layer.mipmap: true
やlayer.smooth: true
は画質を向上させますが、追加の処理が必要となり、特に大規模なテクスチャではパフォーマンスに影響を与えます。 - 頻繁なレイヤーの更新:
layer.enabled
に加えて、layer.live: true
(デフォルト) が設定されている場合、元の Item の内容が変化するたびにテクスチャが再生成されます。頻繁な内容変更は、テクスチャのアップロードコストにより、パフォーマンスを著しく低下させます。 - 過度に大きな
textureSize
:textureSize
を Item の実際の表示サイズよりもはるかに大きく設定しすぎると、必要以上に大きなテクスチャが生成され、GPU メモリの消費が増え、レンダリング負荷が高まります。 - 不要なレイヤーの有効化: Qt Quick のシーングラフは、通常、効率的なバッチ処理と最適化を行っています。複雑でない、あるいは頻繁に内容が変化する Item に対して
layer.enabled
を設定しても、オフスクリーンレンダリングのオーバーヘッドが通常の描画よりも大きくなることがあります。特に、レイヤー化された Item はバッチ処理の対象外になるため、多くのレイヤー化された Item が存在するとドローコール数が増加し、パフォーマンスが低下します。
トラブルシューティング:
- GPU プロファイリング: Qt Creator の Qt Quick Profiler などのツールを使用して、レンダリングパイプラインのボトルネックを特定します。ドローコール数、テクスチャアップロードの時間などを確認し、レイヤーが原因かどうかを判断します。
layer.live
の無効化: Item の内容が頻繁に変化しない場合は、layer.live: false
を設定することで、テクスチャの不要な再生成を防ぎ、パフォーマンスを向上させることができます。textureSize
を適切に設定する: Item の表示サイズを考慮し、必要な解像度に合わせてtextureSize
を設定します。例えば、Item が 100×100 で、最大 200×200 で拡大表示される可能性があるなら、200×200 に設定するのは妥当ですが、1000×1000 はおそらく過剰です。- レイヤーの必要性を評価する: まず、本当にその Item にレイヤーが必要かどうかを検討します。レイヤーは、
ShaderEffect
を適用する場合や、複雑な静的コンテンツをキャッシュしてアニメーションする場合など、特定のユースケースで効果を発揮します。
メモリ使用量の増加 (Increased Memory Usage)
問題: アプリケーションのメモリ使用量が異常に多い、特にGPUメモリの使用量が多い。
原因:
- テクスチャフォーマット:
layer.format
で高精度のフォーマット(例:ShaderEffectSource.RGBA
)を使用すると、メモリ使用量が増加します。 - 多数のレイヤー化された Item: 同時に多数の Item がレイヤー化されている場合、それぞれの Item が独自のテクスチャを持つため、合計のメモリ使用量が大きくなります。
- 過度に大きな
textureSize
: 前述の通り、大きなtextureSize
はGPUメモリを大量に消費します。例えば、4000×4000 ピクセルのテクスチャ(RGBA 8ビットの場合)は、4000×4000×4 バイト = 64MB のメモリを消費します。これが複数あるとすぐにGB単位になります。
トラブルシューティング:
- 解像度の制限: 特にモバイルデバイスや組み込みシステムでは、利用可能なGPUメモリに厳しい制約がある場合があります。デバイスの最大テクスチャサイズ(
GL_MAX_TEXTURE_SIZE
)を確認し、それを超えないようにします。 - テクスチャフォーマットの選択: 必要最低限のテクスチャフォーマットを選択します。アルファチャンネルが不要な場合は
RGB
を検討するなど。 - レイヤーの数を制限する: 同時にアクティブなレイヤーの数を最小限に抑えます。不要になったレイヤーは
layer.enabled = false
にして解放します。 textureSize
の最適化: 可能な限りtextureSize
を小さくします。表示品質とメモリ使用量のトレードオフを考慮します。
描画品質の問題 (Rendering Quality Issues)
問題: レイヤー化された Item の表示がぼやける、ピクセル化される、あるいはアーティファクトが発生する。
原因:
- OpenGL/GPU ドライバの問題: 特定のハードウェアやドライバにおいて、テクスチャのレンダリングに問題が発生する可能性があります。
smooth
プロパティの無効化:layer.smooth: false
の場合、テクスチャがスケーリングされる際に線形補間が行われず、画質が粗くなります(これは意図的な場合もあります)。- ミップマップの不足または不適切:
layer.mipmap: false
の場合、テクスチャが縮小表示される際にエイリアシング(ギザギザ)が発生することがあります。逆に、ミップマップがあっても、フィルター処理が適切でないとぼやけることがあります。 textureSize
が小さすぎる: Item の表示サイズに対してtextureSize
が小さすぎると、テクスチャが拡大表示される際にピクセルが粗くなります。
トラブルシューティング:
- ドライバの更新/確認: 古い、またはバグのあるGPUドライバが原因である可能性も考慮し、ドライバを更新するか、他の環境で動作を確認します。
layer.smooth: true
を確認する: スケーリング時に画質を保ちたい場合は、smooth
が有効になっていることを確認します(デフォルトはtrue
です)。layer.mipmap: true
を設定する: 縮小表示される Item に対しては、ミップマップを有効にすることでエイリアシングを軽減し、より滑らかな表示を実現できます。textureSize
の増加: 表示品質を向上させるために、textureSize
を Item の表示サイズよりも大きく設定します。ただし、メモリ使用量とパフォーマンスのバランスに注意します。
テクスチャの最大サイズ制限 (Maximum Texture Size Limit)
問題: textureSize
に大きな値を設定しても、テクスチャが正しく表示されない、またはエラーが発生する。
原因:
- ハードウェアの制限: ほとんどのGPUには、生成できるテクスチャの最大サイズに制限があります。これは
GL_MAX_TEXTURE_SIZE
というOpenGL定数で定義されており、通常は 2048×2048、 4096×4096、 8192×8192 など、2のべき乗であることが多いです。この制限を超えたサイズのテクスチャを要求すると、生成に失敗するか、クランプされる(制限内のサイズに縮小される)可能性があります。
トラブルシューティング:
- サイズを制限内に収める:
textureSize
をこの最大サイズ以下に設定します。もしより大きな領域を扱う必要がある場合は、複数のレイヤーに分割するなどの工夫が必要です。 - 最大テクスチャサイズを確認する: アプリケーションの起動時に
QOpenGLContext::currentContext()->maxTextureSize()
を呼び出すことで、現在の環境でサポートされている最大テクスチャサイズを取得できます。
レイヤーの描画順序 / 重なり (Layer Z-ordering / Overlap)
問題: レイヤー化された Item が、他の Item との描画順序が意図しないものになる。
原因:
- レイヤーは独立したテクスチャにレンダリングされるため、そのテクスチャが最終的なシーングラフに描画されるタイミングが、通常の Item の描画パスと異なる場合があります。これにより、Zオーダーの問題が発生することがあります。
トラブルシューティング:
layer
プロパティではなくShaderEffectSource
を直接使用して、より詳細な描画順序を制御することを検討します。
Item.layer.textureSize
は、Item.layer.enabled: true
が設定されている場合に、その Item の描画内容をキャプチャするオフスクリーンテクスチャのサイズを明示的に指定するためのプロパティです。
基本的な使用法と、textureSize を指定しない場合との比較
この例では、textureSize
を指定した場合としない場合で、拡大表示時の画質の違いを示します。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtGraphicalEffects 1.15 // ぼかし効果のために使用
Window {
width: 800
height: 400
visible: true
title: "Item.layer.textureSize Basic Example"
// 元のコンテンツ(小さい四角形とテキスト)
Component {
id: originalContent
Rectangle {
width: 100
height: 100
color: "lightsteelblue"
radius: 10
border.color: "darkblue"
border.width: 2
Text {
text: "Hello\nLayer!"
font.pixelSize: 18
color: "black"
anchors.centerIn: parent
horizontalAlignment: Text.AlignHCenter
}
}
}
// --- 左側: textureSize を指定しない場合 ---
Column {
anchors.left: parent.left
anchors.top: parent.top
anchors.margins: 20
spacing: 10
Text { text: "layer.enabled: true (textureSizeなし)" }
Item {
id: itemWithoutTextureSize
width: 100
height: 100
// 元のコンテンツをここにロード
Loader {
sourceComponent: originalContent
anchors.fill: parent
}
// レイヤーを有効にするが、textureSize は指定しない
// この場合、テクスチャサイズは Item のサイズ (100x100) と同じになる
layer.enabled: true
}
// itemWithoutTextureSize の内容を ShaderEffectSource で拡大表示
// 元のテクスチャが100x100なので、200x200に拡大されるとピクセルが粗くなる
Rectangle {
width: 200
height: 200
color: "transparent"
border.color: "red"
border.width: 2
Text {
text: "拡大表示 (粗い)"
font.pixelSize: 16
color: "red"
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.bottomMargin: 5
}
ShaderEffectSource {
sourceItem: itemWithoutTextureSize
// textureSize を指定しないと、sourceItem のレイヤーのテクスチャサイズが使われる
anchors.fill: parent
visible: true // ShaderEffectSourceを有効にする
}
}
}
// --- 右側: textureSize を明示的に指定する場合 ---
Column {
anchors.right: parent.right
anchors.top: parent.top
anchors.margins: 20
spacing: 10
Text { text: "layer.enabled: true (textureSize: 200x200)" }
Item {
id: itemWithTextureSize
width: 100
height: 100
// 元のコンテンツをここにロード
Loader {
sourceComponent: originalContent
anchors.fill: parent
}
// レイヤーを有効にし、テクスチャサイズを200x200に指定
// Item 自体は100x100だが、オフスクリーンテクスチャは200x200でレンダリングされる
layer.enabled: true
layer.textureSize: Qt.size(200, 200) // ここがポイント!
}
// itemWithTextureSize の内容を ShaderEffectSource で拡大表示
// 元のテクスチャが200x200で生成されているので、200x200に拡大されても滑らか
Rectangle {
width: 200
height: 200
color: "transparent"
border.color: "green"
border.width: 2
Text {
text: "拡大表示 (滑らか)"
font.pixelSize: 16
color: "green"
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.bottomMargin: 5
}
ShaderEffectSource {
sourceItem: itemWithTextureSize
// textureSize を指定しないと、sourceItem のレイヤーのテクスチャサイズが使われる
anchors.fill: parent
visible: true // ShaderEffectSourceを有効にする
}
}
}
}
解説:
- 右側の例では、
itemWithTextureSize
は同じ100x100
のItem
ですが、layer.textureSize: Qt.size(200, 200)
を明示的に指定しています。これにより、Item
の描画内容は200x200
のテクスチャにレンダリングされます。この200x200
のテクスチャを200x200
のShaderEffectSource
で表示するため、画質が滑らかに保たれます。 - 左側の例では、
itemWithoutTextureSize
は100x100
のItem
で、layer.enabled: true
のみ設定しています。そのため、そのレイヤーのテクスチャはデフォルトで100x100
になります。これを200x200
のShaderEffectSource
で表示すると、テクスチャが拡大されてピクセルが粗くなります。
アニメーションにおける textureSize の活用
Item
のサイズが変化するアニメーションにおいて、textureSize
を適切に設定することで、アニメーション中の画質を向上させることができます。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 600
height: 400
visible: true
title: "Item.layer.textureSize for Animation"
Rectangle {
id: animatableRect
width: 100
height: 100
color: "red"
anchors.centerIn: parent
radius: 20
Text {
text: "Scale Me!"
color: "white"
font.pixelSize: 18
anchors.centerIn: parent
}
// レイヤーを有効にする
layer.enabled: true
// Item が最大で300x300に拡大されることを想定し、
// テクスチャサイズをそれよりも大きめに設定
layer.textureSize: Qt.size(350, 350) // 最大スケール時に十分な解像度を確保
// スケールアニメーション
SequentialAnimation on scale {
id: scaleAnimation
loops: Animation.Infinite
running: true
PropertyAnimation {
to: 3.0 // 3倍に拡大
duration: 1500
easing.type: Easing.InOutQuad
}
PropertyAnimation {
to: 1.0 // 元のサイズに戻す
duration: 1500
easing.type: Easing.InOutQuad
}
}
}
}
解説:
この例では、animatableRect
が 1.0
から 3.0
へとスケールします。もし layer.textureSize
を設定しない場合、animatableRect
の初期サイズ 100x100
に基づいてテクスチャが生成されます。3.0
倍にスケールされると、300×300 の表示サイズになりますが、元テクスチャが 100×100 なので、非常に粗い表示になってしまいます。
ここで layer.textureSize: Qt.size(350, 350)
を設定することで、animatableRect
の内容は常に 350×350 の高解像度テクスチャにレンダリングされます。これにより、3.0
倍に拡大されても(表示は 300×300 になる)、元テクスチャの解像度が高いため、画質が大幅に改善されます。
textureSize を動的に変更する
場合によっては、textureSize
を実行時に動的に変更する必要があるかもしれません。これは、例えばコンテンツのサイズが不確定な場合や、ユーザーの操作に応じて品質とパフォーマンスのバランスを調整する場合などに考えられます。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 600
height: 400
visible: true
title: "Dynamic textureSize Example"
Rectangle {
id: dynamicRect
width: 150
height: 150
color: "gold"
anchors.centerIn: parent
radius: 15
Text {
id: contentText
text: "Dynamic!"
font.pixelSize: 25
color: "darkred"
anchors.centerIn: parent
}
layer.enabled: true
// 初期テクスチャサイズ
layer.textureSize: Qt.size(dynamicRect.width * 1.5, dynamicRect.height * 1.5)
// テクスチャサイズを変更するボタン
Button {
text: "Toggle Texture Size"
anchors.top: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
y: 20
property bool largeTexture: true
onClicked: {
if (largeTexture) {
dynamicRect.layer.textureSize = Qt.size(dynamicRect.width * 0.8, dynamicRect.height * 0.8);
contentText.text = "Small\nTexture"
} else {
dynamicRect.layer.textureSize = Qt.size(dynamicRect.width * 2.5, dynamicRect.height * 2.5);
contentText.text = "Large\nTexture"
}
largeTexture = !largeTexture;
}
}
}
}
解説:
この例では、dynamicRect
の layer.textureSize
を、ボタンクリックに応じて動的に変更しています。初期状態では 1.5
倍のテクスチャサイズが設定されており、ボタンをクリックするたびに 0.8
倍と 2.5
倍の間で切り替わります。これにより、ユーザーが画質を優先するか、あるいはメモリとパフォーマンスを優先するかを選択できるようなシナリオをシミュレートできます。
注意点:
Qt.size()
はQSize
オブジェクトを作成するためのヘルパー関数です。layer.textureSize
を頻繁に動的に変更すると、テクスチャの再生成コストが発生し、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。
Qt Quick における Item.layer.textureSize
の代替となるプログラミング手法は、主に「オフスクリーンレンダリングの目的が何か」と「その目的を達成するための別の手段」を考慮することで見つけることができます。
Item.layer.textureSize
は、特定の Item
の内容をオフスクリーンテクスチャに高解像度でレンダリングし、それを再利用するという目的のために使われます。この目的を別の方法で達成しようとすると、以下の代替手段が考えられます。
ShaderEffectSource を直接使用する (最も近い代替手段)
Item.layer
の内部的なメカニズムは、実際には ShaderEffectSource
に非常に似ています。Item.layer
は、特定の Item
を自動的に ShaderEffectSource
のソースとして扱い、その内容をテクスチャにレンダリングする便利なラッパーと考えることができます。
ShaderEffectSource
を直接使用することで、Item.layer
よりも詳細な制御が可能になります。
利点:
- 描画順序の制御:
ShaderEffectSource
は通常のItem
と同様にシーングラフ内で配置できるため、Zオーダーなどの描画順序をより柔軟に制御できます。 - 複数のソースの結合: 複数の
Item
を異なるShaderEffectSource
でテクスチャ化し、それらを組み合わせて新しい効果を作成できます。 - より詳細な制御:
sourceItem
を明示的に指定し、textureSize
だけでなく、live
、hideSource
、wrapMode
など、より多くのプロパティを細かく制御できます。
欠点:
Item.layer
のように自動的に元のItem
の描画を置き換えるわけではないため、hideSource: true
などで元のItem
を非表示にする必要がある場合がある。Item.layer
よりも設定の手間が増える。
使用例:
元の Item
をそのまま表示しつつ、その内容を別の場所で高解像度のテクスチャとして使用したい場合など。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 600
height: 400
visible: true
title: "ShaderEffectSource Alternative"
Rectangle {
id: mySourceItem
width: 100
height: 100
color: "blue"
anchors.left: parent.left
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
anchors.leftMargin: 50
Text {
text: "Original Item"
color: "white"
font.pixelSize: 18
anchors.centerIn: parent
}
// このアイテムは通常通りレンダリングされる
}
// mySourceItem の内容を高解像度テクスチャとしてキャプチャし、表示する
// textureSize を指定して高解像度でキャプチャ
Rectangle {
width: 250
height: 250
color: "transparent"
border.color: "green"
border.width: 2
anchors.right: parent.right
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
anchors.rightMargin: 50
Text {
text: "Captured (High Res)"
font.pixelSize: 16
color: "green"
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.bottomMargin: 5
}
ShaderEffectSource {
sourceItem: mySourceItem // テクスチャのソースとなるItem
textureSize: Qt.size(250, 250) // 明示的にテクスチャサイズを指定
live: true // sourceItem の変更をリアルタイムで反映
anchors.fill: parent
}
}
}
Canvas を使用して描画内容を制御する
もし、Item
の内容が QML のプリミティブ(Rectangle, Text など)ではなく、より低レベルな描画API(QPainter など)でカスタム描画を行う必要がある場合、Canvas
を使用して内容を描画し、その Canvas
の内容をテクスチャとして扱うことができます。
利点:
- 描画の柔軟性: 描画内容やその解像度をプログラムで完全に制御できます。
- QPainter API の利用: QPainter を使って2Dグラフィックを直接描画できるため、より複雑なカスタム描画が可能です。
欠点:
- QPainter の描画は通常 CPU で行われるため、描画内容が頻繁に更新される場合はパフォーマンスのボトルネックになる可能性がある(ただし、QtQuick の Canvas は内部的に最適化され、GPU テクスチャに描画される)。
- QML の宣言的なレイアウトシステムとは異なる描画ロジックが必要。
使用例: 複雑なグラフや図形、動的に生成される画像などを QPainter で描画し、それを高い解像度でテクスチャ化したい場合。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Controls 2.15 // for Slider
Window {
width: 600
height: 400
visible: true
title: "Canvas Alternative"
Canvas {
id: myCanvas
width: 200
height: 200
anchors.centerIn: parent
antialiasing: true // アンチエイリアシングを有効にすると、より滑らかに描画される
property real circleRadius: 50 // 円の半径
onPaint: {
var ctx = getContext("2d");
ctx.clearRect(0, 0, myCanvas.width, myCanvas.height); // クリア
ctx.fillStyle = "orange";
ctx.strokeStyle = "darkorange";
ctx.lineWidth = 5;
// 中心に円を描画
ctx.beginPath();
ctx.arc(myCanvas.width / 2, myCanvas.height / 2, circleRadius, 0, Math.PI * 2, false);
ctx.fill();
ctx.stroke();
ctx.font = "20px Arial";
ctx.fillStyle = "blue";
ctx.textAlign = "center";
ctx.textBaseline = "middle";
ctx.fillText("Canvas Draw", myCanvas.width / 2, myCanvas.height / 2);
ctx.restore();
}
// Canvas を高解像度テクスチャとして使用するためのラッパー
// Canvas 自体のサイズ (200x200) は表示サイズ。
// キャプチャされるテクスチャのサイズを大きくすることで、拡大しても綺麗になる
ShaderEffectSource {
sourceItem: myCanvas
textureSize: Qt.size(400, 400) // Canvasの内容を400x400のテクスチャとしてキャプチャ
live: true // Canvasの描画が更新されるたびにテクスチャも更新
anchors.fill: parent
}
// 円の半径をスライドで変更
Slider {
anchors.top: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
y: 20
from: 10
to: 90
value: myCanvas.circleRadius
onValueChanged: {
myCanvas.circleRadius = value
myCanvas.requestPaint() // 描画を更新
}
}
}
}
C++ で QQuickFramebufferObject を使用する (より低レベルな制御)
QML 側で表現するのが難しい、あるいは非常に高度なグラフィック処理が必要な場合は、C++ で QQuickFramebufferObject
(QFO) を継承したカスタム Item
を作成し、OpenGL/Vulkan などで直接描画を行うことができます。
利点:
- 複雑なシェーダーやポストエフェクト: 複雑な3Dシーンのレンダリング、カスタムなポストエフェクト、物理シミュレーションなど、QMLだけでは難しい高度なグラフィック処理が可能です。
- 最高のパフォーマンス: 描画処理を完全に制御できるため、ボトルネックを排除し、最高のパフォーマンスを達成できる可能性があります。
- GPU を最大限に活用: OpenGL/Vulkan のネイティブ API を使って、完全にカスタムなレンダリングパイプラインを構築できます。
欠点:
- QML との連携が複雑になる。
- 開発コストが高い: C++ コードの記述、管理、デバッグに多くの時間と労力がかかる。
- 学習曲線が急: OpenGL/Vulkan の知識が必要であり、QML の宣言的なプログラミングモデルから大きく外れる。
使用例: カスタムな3Dビューア、高度なデータ可視化、リアルタイムの画像処理エフェクトなど。
// MyCustomFramebufferItem.h
#include <QQuickFramebufferObject>
#include <QOpenGLFunctions> // 必要に応じて
class MyRenderer : public QQuickFramebufferObject::Renderer, protected QOpenGLFunctions
{
public:
MyRenderer();
void synchronize(QQuickFramebufferObject *item) override;
void render() override;
QOpenGLFramebufferObject *createFramebufferObject(const QSize &size) override;
private:
// 描画に必要な状態変数など
qreal m_rotation = 0;
};
class MyCustomFramebufferItem : public QQuickFramebufferObject
{
Q_OBJECT
Q_PROPERTY(qreal rotation READ rotation WRITE setRotation NOTIFY rotationChanged)
public:
MyCustomFramebufferItem(QQuickItem *parent = nullptr);
Renderer *createRenderer() const override;
qreal rotation() const { return m_rotation; }
void setRotation(qreal rotation) {
if (m_rotation == rotation) return;
m_rotation = rotation;
emit rotationChanged();
update(); // 描画更新を要求
}
signals:
void rotationChanged();
private:
qreal m_rotation = 0;
};
// MyCustomFramebufferItem.cpp (簡略版)
#include "MyCustomFramebufferItem.h"
#include <QOpenGLFramebufferObject>
#include <QOpenGLShaderProgram>
#include <QQuickWindow>
// MyRenderer の実装
MyRenderer::MyRenderer() {
initializeOpenGLFunctions(); // OpenGL関数の初期化
}
void MyRenderer::synchronize(QQuickFramebufferObject *item) {
MyCustomFramebufferItem *myItem = static_cast<MyCustomFramebufferItem*>(item);
// QML側からのプロパティ変更をレンダラーに同期
m_rotation = myItem->rotation();
}
void MyRenderer::render() {
// ここでOpenGL/Vulkanコマンドを記述
// glClear(GL_COLOR_BUFFER_BIT | GL_DEPTH_BUFFER_BIT);
// glLoadIdentity();
// glRotate(m_rotation, 0, 0, 1);
// ... カスタムな描画ロジック ...
// QQuickFramebufferObject::Renderer はフレームバッファに描画するため、
// glFinish() や swapBuffers() は呼び出さない
QQuickItem *item = static_cast<QQuickItem*>(context()->currentFramebufferObject()->parent());
item->window()->resetOpenGLState(); // QtQuickのOpenGL状態をリセット
}
QOpenGLFramebufferObject *MyRenderer::createFramebufferObject(const QSize &size) {
// 任意のサイズでフレームバッファオブジェクトを作成
// ここで textureSize に相当するサイズを決定する
QOpenGLFramebufferObjectFormat format;
format.setAttachment(QOpenGLFramebufferObject::CombinedDepthStencil);
format.setSamples(4); // マルチサンプリング
return new QOpenGLFramebufferObject(size, format);
}
// MyCustomFramebufferItem の実装
MyCustomFramebufferItem::MyCustomFramebufferItem(QQuickItem *parent)
: QQuickFramebufferObject(parent)
{
// setMirrorVertically(true); // 必要に応じてテクスチャを反転
}
QQuickFramebufferObject::Renderer *MyCustomFramebufferItem::createRenderer() const
{
return new MyRenderer();
}
// QMLでの使用例
// import "qrc:/YourCustomModule" // C++ Itemを登録したモジュール
// MyCustomFramebufferItem {
// width: 300
// height: 300
// rotation: 45 // カスタムプロパティ
// // ...
// }
解説:
この方法は非常に高度で、QMLで直接 textureSize
を設定するようなシンプルなインターフェースではありません。createFramebufferObject
メソッド内で、レンダリングターゲットとなるフレームバッファのサイズ (size
パラメータ) を指定します。これが、事実上の textureSize
の制御になります。この方法では、マルチサンプリング (アンチエイリアシング) など、より高度な描画オプションも直接設定できます。
画像キャッシュや静的イメージの利用
もし、Item
の内容がほとんど変化しない場合、あるいは一度だけ高解像度でキャプチャして使い回したい場合は、Item.layer.enabled
や ShaderEffectSource
の live: false
を利用する以外にも、以下の方法が考えられます。
-
Image.source
の代わりにImage.sourceSize
と高解像度画像: もし、表示するコンテンツが常に静的な画像である場合、複数の解像度の画像アセットを用意し、Image.sourceSize
プロパティを使って、表示サイズに応じて適切な解像度の画像をロードさせるという一般的な手法があります。Image { source: "qrc:/images/my_icon_low_res.png" source: "qrc:/images/my_icon_high_res.png" // 高解像度版 sourceSize: Qt.size(200, 200) // 200x200以上の表示サイズなら高解像度版をロード width: 100 // 通常の表示サイズ height: 100 // ... 必要に応じてスケール }
利点:
- 非常に効率的で、GPUメモリの浪費を防ぎやすい。
- デザイナーが適切なアセットを事前に用意できる。 欠点:
- 動的に生成される QML コンテンツには適用できない。
- 複数の解像度のアセットを用意する手間がかかる。
-
grabToImage()
:Item
の内容をQImage
にキャプチャし、そのQImage
をImage
アイテムのsource
として使用します。キャプチャ時に必要な解像度を指定できます。import QtQuick 2.15 import QtQuick.Window 2.15 Window { width: 600 height: 400 visible: true title: "GrabToImage Alternative" Rectangle { id: contentToGrab width: 100 height: 100 color: "purple" anchors.left: parent.left anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter anchors.leftMargin: 50 Text { text: "Grab Me!" color: "white" font.pixelSize: 18 anchors.centerIn: parent } } Image { id: grabbedImage width: 250 // 表示サイズ height: 250 anchors.right: parent.right anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter anchors.rightMargin: 50 fillMode: Image.PreserveAspectFit // アスペクト比を維持してフィット Text { text: "Grabbed Image" font.pixelSize: 16 color: "darkblue" anchors.bottom: parent.bottom anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter anchors.bottomMargin: 5 } } Button { text: "Grab High Res" anchors.top: parent.bottom anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter y: 20 onClicked: { // contentToGrab の内容を250x250のQImageとしてキャプチャ contentToGrab.grabToImage(function(result) { if (result.url) { grabbedImage.source = result.url; } }, Qt.size(250, 250)); // ここでキャプチャする画像のサイズを指定 } } }
利点:
- シンプルな API。
- 一度キャプチャすれば、元の Item が変更されても Image は影響を受けない(静的なキャッシュ)。 欠点:
- 動的な更新には向かない。更新が必要な場合は、再度
grabToImage()
を呼び出す必要がある。 - キャプチャ処理は比較的重い可能性がある。
Item.layer.textureSize
の代替手段を選ぶ際は、以下の点を考慮してください。
- 開発の容易さとメンテナンス性
- GPU リソース (メモリ) の制約は?
- 必要な描画の複雑さはどの程度か?
- どの程度の描画パフォーマンスが要求されるか?
- 動的なコンテンツか、静的なコンテンツか?