Item.layer.sourceRect
Item.layer とは?
通常、Qt QuickのItem
要素は、その親要素やウィンドウに直接描画されます。しかし、Item.layer.enabled
プロパティをtrue
に設定することで、そのItem
とそのすべての子孫要素(サブツリー)をオフスクリーンサーフェス(テクスチャ)に描画させることができます。そして、このオフスクリーンサーフェス(テクスチャ)のみが、実際のウィンドウに描画されます。
Item.layer.sourceRect の役割
このlayer
が有効になっている場合、layer.sourceRect
プロパティは、元のItem
のどの矩形領域をオフスクリーンサーフェスにレンダリングするかを指定します。
- デフォルト値
undefined
(この場合、Item
全体のサイズが使われます) - 型
rect
(QMLの矩形型で、Qt.rect(x, y, width, height)
のように指定します)
主な用途
- アイテムの一部のみをレイヤーとして使用する
Item
全体ではなく、その一部だけをテクスチャとしてオフスクリーンレンダリングしたい場合に指定します。例えば、大きな画像の一部分だけを切り取って表示したり、特定のUI要素の一部だけをレイヤー化してエフェクトを適用したりする際に便利です。 - アイテムの境界を越えてレンダリングする
sourceRect
は、元のItem
の境界を超えて指定することも可能です。この場合、Item
の外部は透明なピクセルで埋められます。これは、シャドウやアウトラインなど、Item
の実際のサイズよりも大きな範囲にエフェクトを適用したい場合などに役立ちます。
なぜlayer
を使うのか?
Item.layer
を有効にすることには、いくつかのメリットがあります。
- グループとしての透過性
複数のItem
を含む階層に透過性を適用する場合、通常のopacity
プロパティでは各Item
個別に透過性が適用され、重なり部分で不自然な結果になることがあります。layer.enabled
をtrue
にし、親Item
のopacity
を設定することで、階層全体を一つのグループとして透過させ、より自然な結果を得ることができます。 - エフェクトの適用
layer.effect
プロパティと組み合わせて、アイテム全体に統一的なシェーダーエフェクトを適用する際に使用します。例えば、ぼかし、色調補正、歪みなどのエフェクトをItem
のサブツリー全体に適用できます。 - パフォーマンスの向上
複雑なItem
の階層構造や、頻繁に変化するItem
にアニメーションを適用する場合、layer
を有効にすることで、そのItem
を一度オフスクリーンテクスチャとしてレンダリングし、そのテクスチャをアニメーションさせることで、フレームごとの再描画コストを削減できます。特に、ShaderEffect
などカスタムシェーダーを適用する場合に効果的です。
- 用途を限定する
layer
は便利な機能ですが、常に使用するべきではありません。アニメーションやエフェクトなど、特定の視覚効果が必要な場合にのみ使用し、効果が終了したら無効にすることが推奨されます。 - メモリとパフォーマンスのオーバーヘッド
layer
を有効にすると、GPUメモリにテクスチャが割り当てられます(通常はwidth * height * 4
バイト)。そのため、多くのItem
でlayer
を有効にしたり、非常に大きなItem
にlayer
を使用したりすると、メモリ消費が増加し、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。
sourceRectが意図しない領域をレンダリングする
原因
- 小数点以下の精度
QMLでは小数点以下の座標も扱えますが、GPUでのレンダリングにおいてはピクセル単位での丸めが発生する可能性があります。特に、1ピクセル以下の違いが視覚的に問題となる場合(例えば、アンチエイリアシングの境界など)に影響が出ることがあります。 - サイズ変更時の未考慮
Item
のwidth
やheight
が動的に変更される場合、sourceRect
の値もそれに応じて調整しないと、切り取る領域がずれてしまいます。 - 誤った座標系の理解
sourceRect
で指定する座標は、レイヤーを有効にしたItem
自身のローカル座標系です。親要素や他の兄弟要素の座標系ではありません。例えば、Item
がx: 100, y: 50
の位置にある場合、sourceRect: Qt.rect(0, 0, 50, 50)
と指定すれば、そのItem
の左上隅から50x50の領域がレンダリングされます。もし、誤ってグローバル座標や親の座標で考えてしまうと、意図しない場所が切り取られます。
トラブルシューティング
- 親要素の影響
親要素のscale
やrotation
などの変換がItem
に適用されている場合、sourceRect
の計算に影響を与える可能性があります。可能であれば、そのような変換がないシンプルな構成でテストし、問題がどこにあるかを特定します。 - Itemの座標とサイズを確認
console.log
を使って、Item
のx
,y
,width
,height
、そして設定しようとしているsourceRect
の値を正確に出力し、想定通りの数値になっているか確認します。 - 可視化
sourceRect
で切り取られる領域を視覚的にデバッグするために、一時的にItem
の背景色やborder
を設定したり、sourceRect
と同じ矩形を重ねて描画してみたりすると良いでしょう。
パフォーマンスの問題(重い、カクつく)
原因
- 大きなsourceRect
sourceRect
のサイズが非常に大きい場合、割り当てられるテクスチャも大きくなり、GPUメモリの使用量が増え、レンダリングコストが高くなります。 - レイヤーの頻繁な再生成
sourceRect
やItem
のwidth
/height
が頻繁に変わる場合、レイヤーのテクスチャが頻繁に再生成されることになり、これがパフォーマンスのボトルネックになることがあります。 - 不必要なlayer.enabled: true
layer
はオフスクリーンレンダリングを行うため、GPUメモリの割り当てとコピーのオーバーヘッドが発生します。アニメーションやエフェクトが必要ない単純なItem
にlayer
を有効にすると、かえってパフォーマンスが低下することがあります。
トラブルシューティング
- テクスチャサイズの見直し
sourceRect
のwidth
とheight
が、実際に表示されるコンテンツに対して過剰に大きくないか確認します。必要最低限のサイズに抑えることで、メモリ使用量とレンダリングコストを削減できます。 - QML Profilerの活用
Qt Creatorに搭載されているQML Profilerを使用して、パフォーマンスのボトルネックを特定します。特に、「Scene Graph」ビューで、どのItem
がレイヤーとしてレンダリングされており、そのサイズや更新頻度がどうなっているかを確認できます。 - sourceRectの安定化
sourceRect
の値が頻繁に変わるような設計は避けるようにします。もし動的な変更が必要な場合は、更新頻度を抑える、あるいは変更が少ない場合にのみレイヤーを使用するといった最適化を検討します。 - layer.enabledの条件付け
layer
を有効にするのは、実際にアニメーションやエフェクトが必要な場合に限定し、それ以外の場合はfalse
に設定することを検討します。例えば、アニメーションが開始するときにtrue
にし、終了したらfalse
に戻すなど。
表示のアーティファクト(にじみ、ぼやけ、ピクセル化)
原因
- GPUドライバーの問題
ごく稀に、特定のGPUドライバーやハードウェアで、レイヤーレンダリングに起因する表示の問題が発生することがあります。 - スケーリングとフィルタリング
layer
でレンダリングされたテクスチャをさらにスケーリングする場合、テクスチャフィルタリングの設定(通常は線形フィルタリング)によっては、画像がぼやけたり、ピクセル化して見えたりすることがあります。 - アンチエイリアシングの問題
特に、sourceRect
の境界でアンチエイリアシングがうまく効かず、ギザギザになったり、にじみが発生したりすることがあります。
トラブルシューティング
- QtバージョンとGPUドライバーの確認
問題が特定の環境でのみ発生する場合、QtのバージョンアップやGPUドライバーの更新で解決する可能性があります。 - ネイティブピクセルでのレンダリング
可能であれば、sourceRect
のサイズをターゲットデバイスの物理ピクセルサイズに合わせることで、最も鮮明な表示が得られます。特にモバイルデバイスなどでDPIスケーリングが適用される場合、論理ピクセルと物理ピクセルの関係を理解しておくことが重要です。 - sourceRectとItemのサイズの一致
sourceRect
で切り取った領域をItem
が同じサイズで表示する場合(つまり、Item.width = sourceRect.width
,Item.height = sourceRect.height
)、最も鮮明に表示されます。拡大縮小を伴う場合は、画質が低下する可能性があります。 - テクスチャフィルタリングの調整
layer.smooth
プロパティは、レイヤー自体がスムーズにレンダリングされるかどうかを制御しますが、Item
がそのレイヤーテクスチャをスケーリングして表示する場合、Item
自体のsmooth
プロパティが重要になります。 - Item.smoothプロパティ
Item
にsmooth: true
を設定することで、アンチエイリアシングが改善される場合があります。これはレイヤー化されたItem
に対しても有効です。
想定外のクリッピングや透明部分
原因
- ブレンドモードの誤解
カスタムシェーダーをlayer.effect
で適用している場合、ブレンドモード(layer.effect.blendMode
など)の設定が意図しない透明度や色合いを引き起こすことがあります。 - 他のItemとの重なり順
layer
はZオーダーに影響を与えません。レイヤー化されたItem
も、他のItem
と同じようにZオーダーに基づいて描画されます。もしsourceRect
で切り取った部分が、他のItem
によって隠されている場合、それはsourceRect
の問題ではなくZオーダーの問題です。 - sourceRectの範囲外
sourceRect
の領域が、実際のItem
の可視領域やコンテンツの範囲を超えている場合、その範囲外は透明としてレンダリングされます。これは意図的な場合もありますが、不意にそうなっている場合もあります。
- カスタムシェーダーのデバッグ
layer.effect
を使用している場合は、シェーダーコードを慎重に確認し、意図しない透明度や色の計算がないか確認します。 - Zオーダーの調整
Item
のz
プロパティを調整して、描画順序を確認します。 - Itemの背景色やopacity
レイヤー化されたItem
自体のopacity
が1
であるか、背景色が透過されていないか確認します。 - sourceRectの値を再確認
sourceRect
のx
,y
,width
,height
が、実際に表示したいコンテンツの領域を正確にカバーしているか確認します。
- Qtドキュメントの参照
Item.layer
とItem.layer.sourceRect
の公式ドキュメントを再確認し、プロパティの挙動や制約を正確に理解します。 - console.logとQt Creatorのデバッガ
console.log
でプロパティの値を逐次出力したり、Qt CreatorのQMLデバッガで要素ツリーやプロパティの値をリアルタイムで確認したりします。 - 最小限の再現コード
問題が発生した場合、その現象を再現する最小限のQMLコードを作成します。これにより、問題の切り分けが容易になります。
例1: アイテムの一部をレイヤー化して表示する
この例では、大きな画像の一部をsourceRect
を使って切り出し、それをレイヤーとして表示します。
// main.qml
import QtQuick
import QtQuick.Window
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Item.layer.sourceRect Example 1"
// 元の大きな画像 (背景が透明なPNGなどを想定)
Image {
id: originalImage
source: "qrc:/images/large_image.png" // 適切な画像パスに置き換えてください
width: 400
height: 400
x: 50
y: 50
// 単に元の画像を表示する
// opacity: 0.5 // 比較のために元の画像を半透明にしても良い
}
// originalImage の一部を切り出して表示する矩形
Rectangle {
id: croppedRect
width: 150
height: 100
x: 100
y: 100
color: "lightblue"
border.color: "blue"
border.width: 2
clip: true // レイヤー化する内容がこの矩形からはみ出さないようにクリップ
// 重要: layer を有効にする
layer.enabled: true
// originalImage のコンテンツをレイヤーとして使用
layer.sourceRect: Qt.rect(
originalImage.x - croppedRect.x, // croppedRect のローカル座標系での x
originalImage.y - croppedRect.y, // croppedRect のローカル座標系での y
originalImage.width,
originalImage.height
)
// layer の sourceRect 内に originalImage を配置
// (sourceRect はあくまでレイヤーの「窓」なので、
// 実際のコンテンツは sourceRect の範囲内で描画される必要がある)
Image {
id: contentImage
source: originalImage.source
width: originalImage.width
height: originalImage.height
// sourceRect の原点に合わせるためにオフセットする
x: originalImage.x - croppedRect.x
y: originalImage.y - croppedRect.y
}
// layer のデバッグ表示 (オプション)
Text {
text: "Cropped Area"
anchors.centerIn: parent
color: "darkblue"
font.pixelSize: 16
}
}
Text {
text: "Green box shows sourceRect in originalImage's coordinates.\n" +
"Blue box shows the layer's visible area (croppedRect)."
font.pixelSize: 14
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.left: parent.left
anchors.leftMargin: 10
anchors.bottomMargin: 10
}
// originalImage の上で sourceRect が参照している領域を可視化 (デバッグ用)
Rectangle {
x: originalImage.x + (croppedRect.layer.sourceRect.x)
y: originalImage.y + (croppedRect.layer.sourceRect.y)
width: croppedRect.layer.sourceRect.width
height: croppedRect.layer.sourceRect.height
color: "transparent"
border.color: "green"
border.width: 3
}
}
解説
originalImage
は単に表示されている大きな画像です。croppedRect
がレイヤーを有効にするItem
です。この矩形は、画像の一部を「窓」のように切り取って表示する役割を果たします。croppedRect.layer.enabled: true
でレイヤーが有効になります。croppedRect.layer.sourceRect
では、originalImage
のコンテンツ全体を参照するために、croppedRect
のローカル座標系でのoriginalImage
の位置とサイズを指定しています。originalImage.x - croppedRect.x
のようにしているのは、sourceRect
がcroppedRect
自体の左上 (0,0) を基準とするためです。
croppedRect
の中にcontentImage
としてoriginalImage
と同じ画像を配置しています。これは、sourceRect
が参照する実際のコンテンツが必要だからです。sourceRect
はあくまで「切り取る範囲」を定義するものであり、その範囲内のコンテンツが実際にレンダリングされる必要があります。croppedRect.clip: true
は、レイヤー化されたコンテンツがcroppedRect
の境界を越えて表示されないようにクリップする設定です。
例2: sourceRect
と ShaderEffect
を組み合わせて視覚エフェクトを適用する
この例では、sourceRect
とShaderEffect
を組み合わせて、画像の特定の部分にのみブラーエフェクトを適用します。
// main.qml
import QtQuick
import QtQuick.Window
import QtQuick.Controls
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Item.layer.sourceRect with ShaderEffect"
// 背景画像
Image {
id: backgroundImage
source: "qrc:/images/scenery.jpg" // 適切な画像パスに置き換えてください
anchors.fill: parent
fillMode: Image.PreserveAspectCrop
}
// ブラーを適用する領域を囲む矩形
Rectangle {
id: blurArea
width: 200
height: 150
x: (parent.width - width) / 2
y: (parent.height - height) / 2
color: "transparent"
border.color: "red"
border.width: 2
// この Rectangle をレイヤー化し、コンテンツをオフスクリーンにレンダリング
layer.enabled: true
// レイヤーのソースとなる矩形領域
// ここでは、blurArea のローカル座標系で、backgroundImage 全体をソースとして参照
// しかし、blurArea の中に backgroundImage を配置しないと、
// sourceRect で指定してもその範囲に描画されるコンテンツがないため、何も表示されない
layer.sourceRect: Qt.rect(
backgroundImage.x - blurArea.x, // blurArea のローカル座標系での x
backgroundImage.y - blurArea.y, // blurArea のローカル座標系での y
backgroundImage.width,
backgroundImage.height
)
// レイヤーに適用するシェーダーエフェクト
layer.effect: ShaderEffect {
property real amount: blurSlider.value // スライダーでブラー量を調整
// ブラーシェーダーのGLSLコード (非常にシンプルな例)
// 実際にはもっと複雑なブラーシェーダーが必要です
// ここでは簡易的なブラーとして隣接ピクセルを平均化
fragmentShader: "
#version GLSL100
uniform sampler2D source;
uniform lowp float qt_Opacity;
uniform highp float amount;
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
highp vec4 color = texture2D(source, qt_TexCoord0);
if (amount > 0.0) {
highp float offset = amount / 200.0; // ブラーの範囲を調整
color = (texture2D(source, qt_TexCoord0 + vec2(-offset, -offset)) +
texture2D(source, qt_TexCoord0 + vec2( offset, -offset)) +
texture2D(source, qt_TexCoord0 + vec2(-offset, offset)) +
texture2D(source, qt_TexCoord0 + vec2( offset, offset)) +
texture2D(source, qt_TexCoord0)) / 5.0;
}
gl_FragColor = color * qt_Opacity;
}
"
}
// blurArea の中に、レイヤーのソースとなるコンテンツ(backgroundImage)を配置
Image {
id: contentImageForBlur
source: backgroundImage.source
width: backgroundImage.width
height: backgroundImage.height
fillMode: Image.PreserveAspectCrop
// sourceRect の原点に合わせるためにオフセットする
x: backgroundImage.x - blurArea.x
y: backgroundImage.y - blurArea.y
}
}
// ブラー量を調整するスライダー
Slider {
id: blurSlider
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
width: parent.width * 0.8
from: 0.0
to: 10.0
value: 0.0
stepSize: 0.1
Text {
text: "Blur Amount: " + blurSlider.value.toFixed(1)
anchors.centerIn: parent
anchors.verticalCenterOffset: -30
}
}
}
解説
backgroundImage
は全体の背景画像です。blurArea
がブラーエフェクトを適用したい領域を示すRectangle
です。blurArea.layer.enabled: true
でレイヤーが有効になります。blurArea.layer.sourceRect
は、backgroundImage
全体をレイヤーのソースとして指定しています。これにより、backgroundImage
のすべてのピクセルデータがオフスクリーンテクスチャにコピーされます。blurArea.layer.effect
にShaderEffect
を設定し、fragmentShader
でブラー処理を定義しています。amount
プロパティはスライダーと連動し、ブラーの強度を制御します。- 重要
blurArea
の中にcontentImageForBlur
としてbackgroundImage
と同じ画像を配置しています。sourceRect
が参照する実際のコンテンツは、このcontentImageForBlur
になります。sourceRect
はあくまで「窓」であり、その窓の中に何を描画するかは、そのItem
の子要素によって決まります。ShaderEffect
は、このsourceRect
で定義されたレイヤーテクスチャに対して処理を行います。
例3: アイテムの境界外を含むシャドウ効果
この例では、sourceRect
を使ってItem
自体の境界よりも広い範囲をレイヤー化し、そのレイヤーにシャドウ効果を適用します。
// main.qml
import QtQuick
import QtQuick.Window
import QtQuick.Controls
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Item.layer.sourceRect with Shadow Effect"
// シャドウを持つ矩形
Rectangle {
id: shadowRect
width: 150
height: 100
x: (parent.width - width) / 2
y: (parent.height - height) / 2
color: "white"
radius: 10
// レイヤーを有効にする
layer.enabled: true
// sourceRect を Item の境界より少し大きくする
// これにより、Item の外側にも透明なピクセルがレイヤーに含まれる
// sourceRect は自身のローカル座標系
layer.sourceRect: Qt.rect(-10, -10, width + 20, height + 20)
// レイヤーに適用するシャドウシェーダー (簡易的な例)
layer.effect: ShaderEffect {
property real opacity: 0.5
property real shadowOffset: 5.0
property real blurRadius: 5.0 // 簡易的なブラー
property color shadowColor: "black"
// シェーダーはレイヤーテクスチャに対して動作します
// sourceRect の外側は透明ピクセルとして入力されます
fragmentShader: "
#version GLSL100
uniform sampler2D source;
uniform lowp float qt_Opacity;
uniform highp float shadowOffset;
uniform highp float blurRadius;
uniform lowp vec4 shadowColor;
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
highp vec4 srcColor = texture2D(source, qt_TexCoord0);
// シャドウの計算 (非常に簡易的なブラー+オフセット)
highp vec2 shadowCoord = qt_TexCoord0 - vec2(shadowOffset, shadowOffset) / 500.0; // 調整
highp vec4 shadowPixel = texture2D(source, shadowCoord);
// ここでは簡単に、元のピクセルが不透明ならシャドウを適用
if (srcColor.a > 0.01) { // 元のアイテムのピクセルがあればそのまま
gl_FragColor = srcColor * qt_Opacity;
} else if (shadowPixel.a > 0.01) { // 元のアイテムが透明で、シャドウになる部分であれば
gl_FragColor = shadowColor * shadowPixel.a * qt_Opacity; // 元のアイテムのアルファをシャドウに反映
} else {
gl_FragColor = vec4(0.0, 0.0, 0.0, 0.0); // それ以外は透明
}
}
"
}
Text {
text: "Hello Layer!"
anchors.centerIn: parent
color: "black"
font.pixelSize: 24
}
}
// デバッグ表示: sourceRect の領域を示す矩形
Rectangle {
x: shadowRect.x + shadowRect.layer.sourceRect.x
y: shadowRect.y + shadowRect.layer.sourceRect.y
width: shadowRect.layer.sourceRect.width
height: shadowRect.layer.sourceRect.height
color: "transparent"
border.color: "magenta"
border.width: 1
Text {
text: "layer.sourceRect Area"
font.pixelSize: 12
color: "magenta"
anchors.bottom: parent.bottom
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
}
}
}
解説
shadowRect
がシャドウを適用したいRectangle
です。shadowRect.layer.enabled: true
でレイヤーを有効にします。shadowRect.layer.sourceRect: Qt.rect(-10, -10, width + 20, height + 20)
- この設定が最も重要です。
x
とy
を負の値に、width
とheight
をshadowRect
の実際のサイズより大きくしています。 - これにより、
shadowRect
の実際の境界の外側(上下左右に10ピクセルずつ)もオフスクリーンテクスチャに含まれるようになります。この拡張された領域は最初は透明なピクセルで埋められています。
- この設定が最も重要です。
layer.effect
のShaderEffect
は、この拡張されたレイヤーテクスチャに対して動作します。シェーダー内で、元のItem
のピクセルが存在する場所とその周囲(shadowOffset
分ずれた場所)にシャドウの色を適用しています。- このシェーダーは非常に単純化されています。本格的なドロップシャドウには、より複雑なブラー(例えばガウスブラー)を適用する必要があります。
shadowRect
の内部にText
を配置しており、これがレイヤーの主なコンテンツになります。
これらのコードを実行するには、Qt Quickプロジェクトを作成し、QMLファイルをプロジェクトに追加する必要があります。
- Qt Creatorを開く。
- 新しいプロジェクトを作成
Qt Quick Application
を選択。 - プロジェクト名と場所を設定。
- Qtバージョンを選択。
main.qml
を上記のコードに置き換え、必要に応じて画像のパス(qrc:/images/xxx.png
)をプロジェクトのリソースファイルに追加してください。- 画像をプロジェクトに追加するには、
.pro
ファイルにRESOURCES += qml.qrc
のような行があることを確認し、qml.qrc
ファイルに以下のように画像を追加します。
もちろん、画像ファイルをプロジェクトの実行可能ファイルから参照できるパスに直接置いても構いませんが、QRC(Qt Resource Collection)を使うのが一般的です。<RCC> <qresource prefix="/images"> <file>large_image.png</file> <file>scenery.jpg</file> </qresource> </RCC>
- 画像をプロジェクトに追加するには、
Item.clip: true
説明
Item.clip: true
は、Item
とその子孫要素の描画を、そのItem
自身の境界矩形に限定する最もシンプルかつ直接的な方法です。Item.layer.sourceRect
のようにオフスクリーンレンダリングは発生しませんが、描画されるピクセルがItem
の境界外に出るのを防ぎます。
適した場面
Image
やRectangle
などの単純な図形を、その境界内で正確に表示したい場合。ScrollView
のような、コンテンツをスクロール表示するコンポーネネントの内部。- 単に
Item
のコンテンツが自身のサイズを超えて表示されないようにしたい場合。
Item.layer.sourceRectとの違い
clip: true
は回転や変形がかかるとパフォーマンスが低下する可能性がありますが、Item.layer
はテクスチャとして固定されるため、そのテクスチャ自体の変形は比較的軽量です。Item.layer.sourceRect
はオフスクリーンテクスチャを生成するため、ShaderEffect
の入力として使ったり、テクスチャ全体を操作したりできます。clip: true
ではそのような操作はできません。clip: true
はレンダリングパスを追加せず、単純にOpenGLのシザリング(またはステンシルバッファ)を使って描画領域を制限します。
例
Rectangle {
width: 200
height: 100
color: "lightgray"
clip: true // この矩形の外にはみ出さないようにする
Image {
source: "qrc:/images/long_image.png" // 幅が200より長い画像
width: 300
height: 100
x: -50 // 意図的に矩形から少しはみ出すように配置
}
}
ImageのsourceRectプロパティ
説明
Image
要素には、独自のsourceRect
プロパティがあります。これは、画像ファイル自体の特定の矩形領域を切り出して表示するために使用します。Item.layer.sourceRect
がQMLアイテムのサブツリー全体をオフスクリーンレンダリングした結果のテクスチャを操作するのに対し、Image.sourceRect
は、元になる画像データそのものからピクセルを抽出します。
適した場面
- 画像に適用される特別なエフェクト(例えば
ShaderEffect
)がない、単純な画像表示の最適化。 - 画像の一部分のみを表示したい場合。
Item.layer.sourceRectとの違い
- オフスクリーンレンダリングのオーバーヘッドがありません。画像デコードとGPUへのアップロード時に、指定された領域のみが処理されます。
Image.sourceRect
は画像ファイルに特化したものです。任意のItem
サブツリーには適用できません。
例
// スプライトシートからアイコンを切り出す
Image {
source: "qrc:/images/sprite_sheet.png" // 複数のアイコンを含む画像
// スプライトシート内の特定のアイコンの座標とサイズを指定
sourceRect: Qt.rect(0, 0, 32, 32) // 例: 32x32ピクセルのアイコンの左上
width: 32
height: 32
}
ShaderEffectSource
説明
ShaderEffectSource
は、Item.layer
の低レベルな代替手段であり、より細かい制御が可能です。任意のItem
をテクスチャとしてキャプチャし、そのテクスチャをShaderEffect
や他の要素の入力として使用できます。Item.layer.enabled: true
は、内部的にShaderEffectSource
をより便利な形でラップしたものと考えることができます。ShaderEffectSource
には、sourceRect
プロパティが直接あります。
適した場面
- 複数の
ShaderEffect
が同じソーステクスチャを共有することでパフォーマンスを最適化したい場合。 - レイヤーテクスチャのフォーマット(
format
)やミラーリング(textureMirroring
)、テクスチャサイズ(textureSize
)などを細かく制御したい場合。 - 複雑な
ShaderEffect
を作成し、その入力として複数のItem
やItem
の特定部分をテクスチャとして使用したい場合。
Item.layer.sourceRectとの違い
Item.layer
はItem
自身のlayer
プロパティで設定しますが、ShaderEffectSource
は独立したQML要素として定義し、sourceItem
プロパティでキャプチャ対象を指定します。ShaderEffectSource
は、Item.layer
よりも明示的なオフスクリーンレンダリングの管理を提供します。
例
// sourceItemとしてキャプチャされるコンテンツ
Rectangle {
id: sourceContent
width: 200
height: 100
color: "green"
Text { text: "Source Content"; anchors.centerIn: parent }
}
// sourceContent の一部をキャプチャし、シェーダーの入力として使う
ShaderEffectSource {
id: mySource
sourceItem: sourceContent
sourceRect: Qt.rect(50, 0, 100, 100) // sourceContent の中央部分をキャプチャ
visible: false // この要素自体は表示しない
// キャプチャされたテクスチャを使用するShaderEffect
ShaderEffect {
width: 200
height: 200
property var sourceTexture: mySource.texture
fragmentShader: "
#version GLSL100
uniform sampler2D sourceTexture;
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
gl_FragColor = texture2D(sourceTexture, qt_TexCoord0) * 0.5; // 半透明で表示
}
"
}
}
説明
QMLの柔軟性を超える複雑なレンダリング要件がある場合、C++でカスタムのQQuickItem
を実装し、Qt Scene Graph API (QSGNode
) を直接操作することが可能です。これにより、GPUへの描画コマンドを完全に制御し、カスタムシェーダー、ジオメトリ、テクスチャ管理などを細かく最適化できます。Item.layer.sourceRect
が行うオフスクリーンレンダリングやテクスチャの切り出しも、C++レベルで独自に実装できます。
適した場面
- 複数のレイヤーやレンダーターゲットを細かく管理したい場合。
- 既存のOpenGL/Vulkan/MetalコードをQt Quickシーンに統合したい場合。
- QMLの標準的な要素では実現できない描画ロジックが必要な場合。
- 非常に高度なグラフィックス効果やパフォーマンスが要求される場合。
Item.layer.sourceRectとの違い
- 開発コストと複雑性が大幅に増加します。QMLのみで記述するよりも多くのコードと深いグラフィックスAPIの知識が必要です。
- 最も低レベルなアプローチであり、最も高いパフォーマンスと柔軟性を提供します。
例 (概念)
// mycustomitem.h (簡易化)
class MyCustomItem : public QQuickItem
{
Q_OBJECT
Q_PROPERTY(QRectF sourceRect READ sourceRect WRITE setSourceRect NOTIFY sourceRectChanged)
public:
MyCustomItem(QQuickItem *parent = nullptr);
QSGNode *updatePaintNode(QSGNode *oldNode, UpdatePaintNodeData *data) override;
QRectF sourceRect() const { return m_sourceRect; }
void setSourceRect(const QRectF &rect) {
if (m_sourceRect != rect) {
m_sourceRect = rect;
emit sourceRectChanged();
update(); // 描画更新を要求
}
}
signals:
void sourceRectChanged();
private:
QRectF m_sourceRect;
};
// mycustomitem.cpp (簡易化)
// QSGNode の実装で sourceRect を考慮して描画するロジックを記述
QSGNode *MyCustomItem::updatePaintNode(QSGNode *oldNode, UpdatePaintNodeData *data)
{
// ここでカスタムの QSGGeometryNode や QSGMaterial などを生成・更新し、
// m_sourceRect に応じてテクスチャ座標やジオメトリを調整する
// 例: QSGSimpleTextureNode を使って、特定のテクスチャのサブ領域を描画する
QSGSimpleTextureNode *node = static_cast<QSGSimpleTextureNode *>(oldNode);
if (!node) {
node = new QSGSimpleTextureNode();
}
// 例えば、QQuickWindow::grabWindow() や QQuickItem::grabToImage() で取得した
// QImage を QSGTexture に変換して使用するなど
QImage image; // 取得した画像
QSGTexture *texture = window()->createTextureFromImage(image);
node->setTexture(texture); // テクスチャを設定
node->setRect(boundingRect()); // アイテムのサイズで描画
// sourceRect を使ってテクスチャのどの部分をマッピングするか指定
node->setSourceRect(m_sourceRect);
return node;
}
// main.qml で使用
import MyCustomModule // C++で登録したモジュールをインポート
MyCustomItem {
width: 200
height: 200
sourceRect: Qt.rect(50, 50, 100, 100) // QMLから sourceRect を指定
}
Item.layer.sourceRect
は、QML内で手軽にオフスクリーンレンダリングとテクスチャの切り出しを行える便利な機能ですが、その特性を理解し、適切な代替手段を検討することが重要です。
- 最大の柔軟性とパフォーマンス(ただし複雑性も最大)
C++でのカスタムQQuickItem
とQSGNode
- シェーダーエフェクトのより詳細な制御
ShaderEffectSource
- 画像ファイルの部分的な表示
Image.sourceRect
- 単純なクリッピング
Item.clip: true