Qt開発者必見!Item.layer.samplesのエラーと解決策、パフォーマンス改善術
Item.layer.samples とは?
Item.layer.samples
は、Item
型のQML要素に対して、その要素がレイヤーとしてレンダリングされる際に使用されるマルチサンプリングのサンプル数を設定するために使われます。
詳細な説明
-
Item.layer
: まず、Item.layer
プロパティをtrue
に設定することで、そのItem
とその子孫要素は、通常とは異なるレンダリングパス(オフスクリーンバッファへの描画など)で処理されるようになります。これにより、複雑なエフェクトの適用や、描画パイプラインの特定の最適化が可能になります。 -
samples
プロパティ:Item.layer
がtrue
に設定されている場合、Item.layer
オブジェクトにはsamples
というプロパティが公開されます。このsamples
プロパティに整数値を設定することで、そのレイヤーが描画される際に使用されるマルチサンプリングのサンプル数を指定できます。-
マルチサンプリングとは?: マルチサンプリングは、アンチエイリアシング(ギザギザしたエッジを滑らかにする技術)の一種です。通常、グラフィックオブジェクトのエッジはピクセル単位で描画されるため、斜めの線などは階段状に見えてしまいます。マルチサンプリングでは、1つのピクセルを複数のサブサンプルに分割し、それぞれのサブサンプルの色情報を平均することで、より滑らかなエッジを生成します。
-
samples
の値:0
(デフォルト): マルチサンプリングは無効です。1
以上: 指定された数のサンプルが使用されます。一般的な値としては2
,4
,8
,16
などがあります。値が大きいほど、エッジは滑らかになりますが、GPUの負荷は増加します。
-
なぜ Item.layer.samples
を使うのか?
- 特定のプラットフォームやハードウェアへの最適化: ハードウェアの capabilities や性能に応じて、最適なサンプル数を設定することで、パフォーマンスと品質のバランスを取ることができます。
- 描画品質の向上: より高品質なグラフィックレンダリングを実現したい場合に役立ちます。
- アンチエイリアシングの強化: 特にテキスト、図形、画像などのエッジがギザギザに見える場合に、これを滑らかにし、視覚的な品質を向上させることができます。
使用例
import QtQuick 2.0
Rectangle {
width: 200
height: 200
color: "lightgray"
Text {
text: "Hello Qt!"
font.pixelSize: 40
color: "blue"
anchors.centerIn: parent
// このText要素をレイヤーとしてレンダリングし、マルチサンプリングを適用
layer.enabled: true
layer.samples: 4 // 4x マルチサンプリングを適用
}
}
上記の例では、Text
要素がレイヤーとしてレンダリングされ、layer.samples: 4
を設定することで、テキストのエッジがより滑らかに描画されるようになります。
- グラフィックドライバーやハードウェアのサポート状況によって、指定した
samples
値が正確に適用されない場合や、フォールバックされる場合があります。 - このプロパティは、OpenGLなどの特定のグラフィックバックエンドを使用している場合に最も効果を発揮します。
Item.layer.samples
を使用すると、レンダリングパスが複雑になるため、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。特に、多数の要素に適用したり、非常に高いsamples
値を設定したりすると、フレームレートが低下する可能性があります。
Qtにおける Item.layer.samples
の一般的なエラーとトラブルシューティング
Item.layer.samples
は、QML要素をオフスクリーンバッファに描画し、その際にマルチサンプリング(アンチエイリアシング)を適用するためのプロパティです。しかし、その性質上、特定の状況下で予期せぬ挙動を引き起こすことがあります。
パフォーマンスの低下 (Degraded Performance)
問題点
layer.samples
を有効にし、特に高い値に設定すると、アプリケーションのパフォーマンスが著しく低下し、フレームレートが落ちる可能性があります。
原因
- メモリ使用量の増加
オフスクリーンバッファは、アイテムのサイズに比例してGPUメモリを消費します。 - バッチ処理の無効化
レイヤー化されたアイテムは、Qt Scene Graphの最適化であるバッチ処理の対象外となるため、描画コール数が増加し、効率が低下する可能性があります。 - オフスクリーンレンダリングのオーバーヘッド
layer.enabled: true
にすると、そのアイテムと子孫がオフスクリーンバッファにレンダリングされ、その後メインのシーンにテクスチャとして描画されます。このプロセス自体にオーバーヘッドがあります。 - GPU負荷の増加
マルチサンプリングは、ピクセルごとに複数のサンプルを計算するため、GPUの負荷が大幅に増加します。
トラブルシューティング
- GPUプロファイリングツールの活用
Qt Creatorに組み込まれているQMLプロファイラや、グラフィックドライバーに付属のGPUプロファイリングツールを使用して、どこでパフォーマンスボトルネックが発生しているかを特定します。 - レイヤー化する範囲の限定
アプリケーション全体や大規模な要素に適用するのではなく、特にアンチエイリアシングが必要な、小さな、または静的な要素に限定して使用します。 - 必要な場合にのみ有効化
常時layer.enabled: true
にするのではなく、アニメーション中や特定のエフェクトを適用する場合など、本当に必要な期間だけレイヤーを有効にし、終わったら無効に戻すことを検討します。 - samples 値の最適化
必要なアンチエイリアシングの品質とパフォーマンスのバランスが取れる最小限のsamples
値を使用します。多くの場合、2
や4
で十分な効果が得られます。
アンチエイリアシングが適用されない、または不均一な描画 (No or Uneven Anti-Aliasing)
問題点
layer.samples
を設定しても、期待するほどエッジが滑らかにならない、または特定の要素にしかアンチエイリアシングが適用されないように見えることがあります。
原因
- ピクセルアラインメントの問題
描画される要素がピクセルグリッドに正確に配置されていない場合、サブピクセルレンダリングの挙動が不均一に見えることがあります。 - ハードウェアの制限またはドライバーの問題
使用しているGPUやグラフィックドライバーが、指定されたsamples
値を完全にサポートしていない場合があります。フォールバックされたり、まったく適用されないことがあります。 - 上位の要素による影響
親要素がlayer.enabled
でない場合や、他のレイヤー関連のプロパティ(例:smooth
)が不適切に設定されている場合、子要素の描画に影響を与える可能性があります。 - layer.enabled が true でない
layer.samples
はlayer.enabled
がtrue
の場合にのみ効果を発揮します。
トラブルシューティング
- テスト環境の変更
異なるハードウェアやOSで実行してみて、問題が再現するかどうかを確認します。 - ハードウェアとドライバーの確認
Qtのドキュメントやフォーラムで、使用しているQtバージョンとOS、グラフィックハードウェアにおける推奨される設定や既知の問題がないかを確認します。最新のグラフィックドライバーに更新することも有効です。 - smooth プロパティの確認
Item.smooth: true
は、画像やテクスチャのスケーリング時の補間モードを設定します。アンチエイリアシングとは少し異なりますが、視覚的な滑らかさに関連するため、こちらも確認してください。 - 親要素の確認
アンチエイリアシングを適用したい要素の親要素にもlayer.enabled: true
とlayer.samples
を設定すると改善される場合があります。特に、要素が回転したり、拡大縮小されたりする場合に顕著です。 - layer.enabled: true の確認
必ずlayer.enabled
がtrue
に設定されていることを確認してください。
テクスチャのクリッピングまたは表示のずれ (Texture Clipping or Misalignment)
問題点
layer.enabled
を設定したアイテムが、意図しない形でクリッピングされたり、位置がわずかにずれて表示されたりすることがあります。
原因
- layer.textureSize の誤用
明示的にlayer.textureSize
を設定している場合、アイテムの論理サイズとテクスチャの物理サイズが一致しないと、クリッピングやスケーリングの問題が発生します。 - レイヤーのサイズが不適切
layer.enabled
にすると、そのアイテムのwidth
とheight
に基づいてオフスクリーンバッファが作成されます。もし子要素が親の境界からはみ出している場合、その部分がクリッピングされて表示されなくなります。
トラブルシューティング
- デバッグツールでテクスチャを確認
RenderDocのようなグラフィックデバッグツールを使用して、実際に作成されているオフスクリーンテクスチャがどのような状態になっているかを確認すると、クリッピングの原因を特定しやすくなります。 - layer.textureSize の調整
もしlayer.textureSize
を使用している場合、表示されるコンテンツの最大サイズに合わせて適切に設定されているかを確認します。通常は、Item
のwidth
とheight
に基づいて自動的にサイズが決定されるため、特別な理由がない限りlayer.textureSize
を明示的に設定する必要はありません。 - 親アイテムのサイズ設定の確認
レイヤーを有効にするアイテム(親となるItem)のwidth
とheight
が、その子孫を含むすべてのコンテンツを包含するのに十分な大きさであることを確認してください。デフォルトのItem
はサイズが0なので、注意が必要です。
特定のエフェクトとの干渉 (Interference with Specific Effects)
問題点
Item.layer.samples
を有効にすると、ShaderEffect
や QtGraphicalEffects
など、他のグラフィックエフェクトの適用が期待通りに機能しない、または予期せぬ表示になることがあります。
原因
- エフェクトの適用順序
レイヤーへのエフェクト適用と、そのレイヤーをメインシーンに描画する際のエフェクト適用では、結果が異なる場合があります。 - レンダリングパイプラインの違い
layer.enabled
は、アイテムのレンダリングパスを通常のシーングラフレンダリングからオフスクリーンレンダリングに切り替えます。この違いが、一部のエフェクトの動作に影響を与えることがあります。
- 代替手段の検討
もしレイヤーとの組み合わせがうまくいかない場合、レイヤーを使用せずにエフェクトを適用する代替手段(例:ShaderEffectSource
を直接使用するなど)を検討します。 - ドキュメントの確認
使用している特定のQtGraphicalEffects
やShaderEffect
が、レイヤーとどのように連携するかについて、Qtのドキュメントを確認します。 - エフェクトの適用場所の調整
エフェクトをレイヤー化されたアイテムの子として適用するのか、あるいはレイヤー自体にlayer.effect
プロパティを使って適用するのか、適切な方法を検討します。
- Qt Scene Graphの理解
Item.layer
やsamples
はQt Scene Graphの機能と密接に関連しているため、Qt Scene Graphの基本的な仕組みを理解しておくと、トラブルシューティングに役立ちます。Qtのドキュメントに詳細な情報があります。 - デバッグログの確認
Qtアプリケーションをデバッグモードで実行し、コンソール出力やデバッグログにエラーメッセージや警告が出力されていないかを確認します。 - 最小限の再現コード (Minimum Reproducible Example - MRE) の作成
問題が発生した場合は、その問題を再現できる最小限のQMLコードを作成します。これにより、問題の原因を特定しやすくなります。
Item.layer.samples
を使った具体的なプログラミング例をいくつか見ていきましょう。これらの例は、QMLアプリケーションでのアンチエイリアシングの適用方法と、その影響を示しています。
例1: 基本的なアンチエイリアシングの適用
この例では、テキスト要素に layer.samples
を適用して、エッジを滑らかにする方法を示します。
// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Layer Samples Example 1: Basic Anti-Aliasing"
Column {
anchors.centerIn: parent
spacing: 20
// アンチエイリアシングなしのテキスト
Text {
text: "Hello Qt! (No Anti-Aliasing)"
font.pixelSize: 40
color: "red"
smooth: false // テキストのデフォルトの滑らかさ設定をオフ
}
// layer.samples を適用したテキスト
Text {
text: "Hello Qt! (With Layer Samples)"
font.pixelSize: 40
color: "blue"
// ここがポイント: レイヤーを有効にし、サンプル数を設定
layer.enabled: true
layer.samples: 4 // 4x マルチサンプリング
}
// 比較のために、Item.smooth を適用したテキストも追加
// Text要素のsmoothプロパティは、フォントレンダリングの滑らかさに関連
Text {
text: "Hello Qt! (With Item.smooth)"
font.pixelSize: 40
color: "green"
smooth: true // Text要素独自の滑らかさ設定
}
}
}
解説
- 比較のために、
smooth: false
のテキスト(ギザギザが見えるはず)と、Text
要素自体のsmooth: true
プロパティを使用したテキスト(これも滑らかになりますが、layer.samples
とは異なるアプローチです)を含めています。 - これにより、「Hello Qt! (With Layer Samples)」のテキストは、4倍のマルチサンプリングが適用され、通常のテキストよりもエッジが滑らかに描画されます。
Text
要素のlayer.enabled
をtrue
に設定し、その子オブジェクトとしてlayer
が持つsamples
プロパティに4
を設定しています。
例2: 図形へのアンチエイリアシングとパフォーマンスへの影響
この例では、Rectangle
要素に layer.samples
を適用し、簡単なアニメーションでパフォーマンスへの影響を少しだけ観察します。
// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 800
height: 600
visible: true
title: "Layer Samples Example 2: Shapes & Performance"
// FPS (Frames Per Second) を表示するためのText要素
// QtQuick.Controls 2.x が必要になるため、ここでは単純なQMLロジックで代用
Text {
id: fpsText
anchors.top: parent.top
anchors.right: parent.right
x: -10; y: 10
color: "black"
font.pixelSize: 18
text: "FPS: Calculating..."
// 簡単なFPS計算ロジック (おおよその値)
property int frameCount: 0
property real lastUpdateTime: Date.now()
Timer {
interval: 1000 // 1秒ごとに更新
running: true
repeat: true
onTriggered: {
var now = Date.now();
var elapsed = (now - fpsText.lastUpdateTime) / 1000; // 秒単位
if (elapsed > 0) {
var currentFps = fpsText.frameCount / elapsed;
fpsText.text = "FPS: " + currentFps.toFixed(1);
}
fpsText.frameCount = 0;
fpsText.lastUpdateTime = now;
}
}
// 描画ごとにカウント
Component.onCompleted: {
Window.onAfterRendering: {
fpsText.frameCount++;
}
}
}
Rectangle {
id: noLayerRectangle
width: 150
height: 150
color: "lightcoral"
rotation: 0
anchors.left: parent.left
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
x: 50
Text {
text: "No Layer"
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 20
color: "white"
}
// 回転アニメーション
RotationAnimator {
target: noLayerRectangle
from: 0
to: 360
duration: 5000
loops: Animation.Infinite
}
}
Rectangle {
id: withLayerRectangle
width: 150
height: 150
color: "lightseagreen"
rotation: 0
anchors.right: parent.right
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
x: -50
// ここがポイント: レイヤーを有効にし、サンプル数を設定
layer.enabled: true
layer.samples: 8 // 8x マルチサンプリング (より負荷が高い)
Text {
text: "With Layer (8x Samples)"
anchors.centerIn: parent
font.pixelSize: 20
color: "white"
}
// 回転アニメーション
RotationAnimator {
target: withLayerRectangle
from: 0
to: 360
duration: 5000
loops: Animation.Infinite
}
}
}
解説
- また、特に古いGPUや低スペックな環境では、
layer.samples
を適用した側がある程度のGPU負荷をかけるため、FPSがわずかに低下する可能性があります。FPS表示はあくまで目安ですが、パフォーマンスの傾向を把握するのに役立ちます。 - この例を実行すると、右側の矩形のエッジが左側よりも明らかに滑らかになっていることが視覚的に確認できます。
- 左側の
Rectangle
は通常の描画で、右側のRectangle
はlayer.enabled: true
とlayer.samples: 8
を設定しています。 - 2つの
Rectangle
要素を作成し、それぞれに回転アニメーションを適用しています。
例3: layer.samples
と smooth
プロパティの組み合わせ
Item.smooth
は、通常はテクスチャの補間(拡大縮小時の滑らかさ)に影響しますが、一部のケースでは layer.samples
と組み合わせて使用することで、特定の視覚効果に貢献することがあります。
// main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Layer Samples Example 3: Samples & Smooth"
Image {
id: imageNoSmooth
source: "qtlogo.png" // 適切な画像パスに置き換えてください
width: 200
height: 200
anchors.left: parent.left
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
x: 20
// smooth なし
smooth: false
Text {
text: "No Smooth, No Layer"
anchors.bottom: parent.top
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
font.pixelSize: 16
}
}
Image {
id: imageSmooth
source: "qtlogo.png" // 適切な画像パスに置き換えてください
width: 200
height: 200
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
// smooth あり
smooth: true
Text {
text: "Smooth, No Layer"
anchors.bottom: parent.top
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
font.pixelSize: 16
}
}
Image {
id: imageLayerSamples
source: "qtlogo.png" // 適切な画像パスに置き換えてください
width: 200
height: 200
anchors.right: parent.right
anchors.verticalCenter: parent.verticalCenter
x: -20
// smooth も有効にし、layer.samples も有効にする
smooth: true
layer.enabled: true
layer.samples: 4
Text {
text: "Smooth & Layer Samples"
anchors.bottom: parent.top
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
font.pixelSize: 16
}
}
}
- 右の画像は
smooth: true
かつlayer.enabled: true
,layer.samples: 4
を適用しています。これにより、画像の輪郭部分(特に回転や変形を伴う場合)がさらに滑らかになります。静的な画像では、smooth
の効果の方が顕著に見えるかもしれませんが、例えば画像を回転させるアニメーションなどを追加すると、layer.samples
の効果がより明確になります。 - 中央の画像は
smooth: true
で、拡大縮小時に画像がより滑らかに見えるように補間されます。 - 左の画像は
smooth: false
で、画像の拡大縮小時にピクセルがギザギザに見える可能性があります。 - この例では、同じ画像(
qtlogo.png
など)を3つ表示し、smooth
プロパティとlayer.samples
の違いを示します。
Item.layer.samples
はアイテム全体をオフスクリーンバッファに描画し、そのバッファに対してマルチサンプリングを行うことでアンチエイリアシングを実現します。この方法は汎用性が高いですが、パフォーマンスのオーバーヘッドが大きくなる可能性があります。
代替方法は、対象となる要素の種類(テキスト、図形、画像など)や、アプリケーション全体の描画品質要求に応じて使い分けられます。
アプリケーション全体またはウィンドウレベルでのマルチサンプリング (QSurfaceFormat)
これは Item.layer.samples
の最も直接的な代替であり、最もパフォーマンス効率が良い場合が多いです。アプリケーション全体でマルチサンプリングを有効にすることで、個々のアイテムに対してレイヤーを設定する手間を省き、Qt Scene Graphが自動的に処理します。
プログラミング例 (C++)
main.cpp
で QSurfaceFormat
を設定します。
#include <QGuiApplication>
#include <QQmlApplicationEngine>
#include <QSurfaceFormat> // QSurfaceFormat をインクルード
int main(int argc, char *argv[])
{
QGuiApplication app(argc, argv);
// QSurfaceFormat を作成し、サンプル数を設定
QSurfaceFormat format;
format.setSamples(8); // 例として8xマルチサンプリングを設定
QSurfaceFormat::setDefaultFormat(format); // デフォルトのフォーマットとして設定
QQmlApplicationEngine engine;
const QUrl url(u"qrc:/your_app_name/main.qml"_qs);
QObject::connect(&engine, &QQmlApplicationEngine::objectCreationFailed,
&app, []() { QCoreApplication::exit(-1); },
Qt::QueuedConnection);
engine.load(url);
return app.exec();
}
解説
- 欠点
アプリケーション全体のGPU負荷が増加する可能性があります。すべての要素にアンチエイリアシングが必要ない場合でも適用されてしまいます。 - 利点
最も効率的なアンチエイリアシングの方法であり、個々のQMLアイテムに特別な設定をする必要がありません。 QSurfaceFormat::setDefaultFormat()
を呼び出すことで、この設定がアプリケーション全体に適用され、Qt Quickが描画するすべての要素(特にシェイプやテキストの輪郭)に影響を与えます。QSurfaceFormat::setSamples()
メソッドは、OpenGLコンテキストなどの描画サーフェスが使用するマルチサンプリングのサンプル数を設定します。
Item.smooth プロパティ (画像、一部の要素)
Item.smooth
プロパティは、特に画像(Image
要素)のスケーリングや回転時の補間品質を制御します。これはアンチエイリアシングとは少し異なりますが、視覚的な「滑らかさ」に貢献します。
プログラミング例 (QML)
import QtQuick 2.15
Image {
source: "your_image.png"
width: 200
height: 200
rotation: 45 // 回転させて違いを確認
smooth: true // 画像の補間を滑らかにする
}
// Rectangleなど一部のItemにもsmoothプロパティがあります。
// これは、角丸(radius)があるRectangleや、回転・拡大縮小されたItemの描画に影響します。
Rectangle {
width: 100
height: 100
radius: 20 // 角丸
color: "red"
rotation: 30
smooth: true // これにより角丸や回転エッジが滑らかになる
}
解説
- 欠点
Item.layer.samples
のような汎用的なジオメトリのアンチエイリアシング効果はありません。テキストの輪郭などには効果が薄いか、ありません。 - 利点
Item.layer.samples
よりも軽量で、特定のタイプのアイテムに限定して適用できます。 Rectangle.smooth: true
は、角丸や回転されたRectangleの描画を改善します。Image.smooth: true
は、画像のピクセルが拡大されたときにギザギザにならないように、バイリニア補間などのスムーズな補間アルゴリズムを使用するようにQtに指示します。
Text.antialiasing プロパティ (テキスト専用)
Text
要素には、テキストレンダリングに特化した antialiasing
プロパティが存在します。これはフォントレンダリングの品質を制御し、文字のエッジを滑らかにします。
プログラミング例 (QML)
import QtQuick 2.15
Text {
text: "Smooth Text"
font.pixelSize: 40
color: "black"
antialiasing: true // テキストのアンチエイリアシングを有効にする (デフォルトはtrueの場合が多い)
}
解説
- 欠点
テキスト以外の要素には影響しません。 - 利点
テキストに特化した最適なアンチエイリアシングを提供します。 Text.antialiasing: true
は、テキストのフォントレンダリングに対してアンチエイリアシングを適用します。多くの環境では、このプロパティのデフォルトはtrue
に設定されています。
Qt Quick Shapesモジュール (Shape 要素)
Qt Quick Shapesモジュール (import QtQuick.Shapes 1.0
) を使用すると、カスタムのベクトル図形を効率的に描画できます。このモジュールは、アンチエイリアシングについていくつかの設定を提供します。
プログラミング例 (QML)
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Shapes 1.0
Item {
width: 300
height: 300
Shape {
id: customShape
width: parent.width
height: parent.height
// Shapeはデフォルトでアンチエイリアシングをサポートしていますが、
// より高品質なアンチエイリアシングのために layer.samples と組み合わせることも可能です。
// layer.enabled: true
// layer.samples: 4
ShapePath {
strokeColor: "blue"
strokeWidth: 5
fillColor: "transparent"
startX: 50; startY: 50
PathLine { x: 250; y: 50 }
PathLine { x: 150; y: 250 }
PathLine { x: 50; y: 50 } // 閉じる
}
// Shape.CurveRenderer を使用すると、より高品質なアンチエイリアシングが可能
// ただし、パフォーマンスコストが増加する場合があります。
// preferredRendererType: Shape.CurveRenderer
}
}
解説
- 欠点
Item.layer.samples
ほど汎用的なアンチエイリアシングメカニズムではありません。 - 利点
複雑なベクトル図形を効率的に描画でき、組み込みのアンチエイリアシングが提供されます。 Shape.preferredRendererType: Shape.CurveRenderer
を設定することで、さらに高品質な曲線描画が可能になりますが、パフォーマンスへの影響も考慮する必要があります。ShapePath
で定義された線や曲線は、デフォルトで滑らかにレンダリングされます。Shape
要素自体がアンチエイリアシング機能を内蔵しており、ジオメトリをGPUで効率的に描画します。
Qt Quick 3Dでのアンチエイリアシング
もしアプリケーションが3Dコンテンツを含んでいる場合、Qt Quick 3Dは3Dシーンに特化した多様なアンチエイリアシング手法を提供します。これらは SceneEnvironment
オブジェクトを通じて設定されます。
プログラミング例 (QML - Qt Quick 3D)
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick3D 1.15
Window {
width: 800
height: 600
visible: true
title: "Qt Quick 3D Anti-Aliasing"
View3D {
anchors.fill: parent
// 3Dシーンの環境設定
environment: SceneEnvironment {
clearColor: "lightgray"
backgroundMode: SceneEnvironment.Color
// マルチサンプリングアンチエイリアシング (MSAA)
antialiasingMode: SceneEnvironment.MSAA
antialiasingQuality: SceneEnvironment.High // High/Medium/VeryHigh
// その他、Temporal AA (一時的アンチエイリアシング) や FXAA (高速近似アンチエイリアシング) も利用可能
// temporalAAEnabled: true
// fxaaEnabled: true
}
// 3Dモデルなどをここに配置
Model {
source: "#Sphere" // 球体モデル
scale: Qt.vector3d(10, 10, 10)
materials: [ DefaultMaterial { diffuseColor: "red" } ]
rotation: Qt.vector3d(45, 45, 0)
}
}
}
- 欠点
2DのQt Quickアプリケーションには直接適用できません。 - 利点
3Dコンテンツに対して最適なアンチエイリアシングを提供します。 temporalAAEnabled
(Temporal Anti-Aliasing) やfxaaEnabled
(Fast Approximate Anti-Aliasing) など、より高度な3Dレンダリングに特化したアンチエイリアシング手法も利用できます。SceneEnvironment.MSAA
は最も一般的なマルチサンプリングです。View3D
のenvironment
プロパティ内でSceneEnvironment
オブジェクトを設定し、antialiasingMode
やantialiasingQuality
を指定します。