Qt Quickのグラフィックを極める:Item.layer.samplerNameのエラーと解決策

2025-06-06

Item.layer.samplerNameとは

Item.layer.samplerNameは、Qt QuickのItem要素にアタッチされたlayerプロパティグループの一部です。これは、アイテムをオフスクリーンテクスチャにレンダリングする際に使用されるテクスチャサンプラーの名前を指定するために使用されます。

より具体的に言うと、Qt Quickでは通常、各Itemは直接画面に描画されます。しかし、パフォーマンスの向上や、シェーダーエフェクトの適用、複雑な重ね合わせ処理などを行うために、Itemとその子孫をまず一時的なテクスチャ(オフスクリーンバッファ)にレンダリングしてから、そのテクスチャを最終的に画面に描画するという「レイヤー化」の機能があります。このレイヤー化を有効にするには、Item.layer.enabledtrueに設定します。

layer.samplerNameは、このオフスクリーンテクスチャをシェーダー内で参照するための名前を設定するものです。

主に、ShaderEffectShaderEffectSourceといった要素と組み合わせて、カスタムの視覚効果を作成する際に利用されます。

たとえば、あるItemのコンテンツをテクスチャとしてキャプチャし、そのテクスチャを別のシェーダーで加工したい場合、layer.samplerNameでそのテクスチャに名前を付けます。そして、ShaderEffect内でその名前を使ってテクスチャサンプラー(uniform lowp sampler2D型)を宣言し、加工処理を行うことができます。


import QtQuick 2.0

Item {
    width: 200
    height: 200

    Rectangle {
        id: myContent
        width: parent.width
        height: parent.height
        color: "blue"
        radius: 20
        Text {
            anchors.centerIn: parent
            text: "Hello Layer!"
            color: "white"
            font.pixelSize: 24
        }

        // このアイテムをレイヤー化し、テクスチャに「sourceTexture」という名前を付ける
        layer.enabled: true
        layer.samplerName: "sourceTexture" // ここでサンプラー名を指定
    }

    // myContentのレイヤーをエフェクトとして使用するShaderEffect
    ShaderEffect {
        anchors.fill: parent
        // fragmentShader内でsourceTextureという名前でmyContentのテクスチャを参照
        fragmentShader: "
            uniform lowp sampler2D sourceTexture; // myContentのテクスチャがここにロードされる
            varying highp vec2 qt_TexCoord0;

            void main() {
                lowp vec4 color = texture2D(sourceTexture, qt_TexCoord0);
                // 例として、色を反転させるシンプルなエフェクト
                gl_FragColor = vec4(1.0 - color.r, 1.0 - color.g, 1.0 - color.b, color.a);
            }
        "
        // myContentのレイヤーをソースとして使用
        source: myContent
    }
}

この例では、myContentというRectangleがレイヤー化され、そのテクスチャがsourceTextureという名前で利用できるようになります。ShaderEffectは、このsourceTextureuniformを介してmyContentの描画結果を受け取り、フラグメントシェーダー内で色を反転させて表示します。

  • 注意: layer.enabledtrueの場合にのみ意味を持ちます。layer.enabledfalseの場合、このプロパティは効果がありません。
  • 用途: 主にShaderEffectShaderEffectSourceを使ってカスタムのグラフィックエフェクトを実装する際に使用されます。
  • 機能: Itemがレイヤー化されたときに生成されるオフスクリーンテクスチャに、シェーダーからアクセスするためのサンプラー名を指定します。


Item.layer.samplerNameは、Qt Quickのレイヤー機能とシェーダーを組み合わせて高度な視覚効果を実現するための重要なプロパティです。しかし、その性質上、OpenGL/WebGLやシェーダープログラミングに関する知識が必要となるため、いくつかの一般的な落とし穴があります。

layer.enabledがtrueになっていない

  • トラブルシューティング:

    • 対象のItemlayer.enabled: trueが正しく設定されていることを確認してください。
    Rectangle {
        id: myItem
        width: 100
        height: 100
        color: "red"
        layer.enabled: true // これが重要
        layer.samplerName: "myLayerTexture"
    }
    
  • 原因: Item.layer.samplerNameは、そのItemがオフスクリーンテクスチャにレンダリングされる(つまりレイヤー化される)場合にのみ意味を持ちます。layer.enabled: trueを設定しないと、Itemは通常通り直接描画され、samplerNameは無視されます。

  • エラー: Item.layer.samplerNameを設定しても、シェーダーでテクスチャが取得できない、または期待通りの効果が得られない。

シェーダー側でのサンプラー名の不一致

  • トラブルシューティング:

    • QMLファイルとシェーダーファイル(またはfragmentShaderプロパティ内のGLSLコード)の両方で、サンプラー名が完全に一致しているか確認してください。大文字・小文字も区別されます。
    // QML側
    Item {
        layer.enabled: true
        layer.samplerName: "myContentTexture" // 名前を"myContentTexture"とする
    }
    
    // シェーダー側
    uniform lowp sampler2D myContentTexture; // QMLと完全に一致させる
    varying highp vec2 qt_TexCoord0;
    
    void main() {
        gl_FragColor = texture2D(myContentTexture, qt_TexCoord0);
    }
    
  • 原因: QMLでlayer.samplerNameに設定した名前と、シェーダーのuniform lowp sampler2D変数名が一致していない。

  • エラー: シェーダーがコンパイルできない、または実行時にテクスチャが正しくサンプリングされない(真っ黒になる、予期せぬ色が混じるなど)。

ShaderEffectのsourceプロパティの設定ミス

  • トラブルシューティング:

    • ShaderEffectsourceプロパティに、layer.enabledlayer.samplerNameが設定されているItemidを設定してください。
    Item {
        id: contentToLayer
        layer.enabled: true
        layer.samplerName: "myTexture"
        // ... コンテンツ ...
    }
    
    ShaderEffect {
        source: contentToLayer // ここでcontentToLayerのIDを指定
        // ... シェーダーコード ...
    }
    
  • 原因: ShaderEffectがどのItemのレイヤーを使用するかを正しく指定していない。ShaderEffectsourceプロパティに対象のItemのIDを指定する必要があります。

  • エラー: ShaderEffectlayer.samplerNameで指定したテクスチャが反映されない。

シェーダーコンパイルエラー(ShaderEffect.status, ShaderEffect.log)

  • トラブルシューティング:
    • コンソール出力の確認: 最も一般的なトラブルシューティング方法です。Qt Creatorで実行している場合、"Application Output"ペインにシェーダーコンパイルエラーの詳細が表示されるはずです。エラーメッセージと行番号をよく確認し、修正してください。

    • ShaderEffect.statusShaderEffect.logの利用: QMLのShaderEffectには、シェーダーのコンパイル状況を示すstatusプロパティと、エラーログを含むlogプロパティがあります。これらをデバッグ目的で利用できます。

      ShaderEffect {
          id: myShaderEffect
          // ... fragmentShader ...
          // ... source ...
      
          Component.onCompleted: {
              if (myShaderEffect.status === ShaderEffect.Error) {
                  console.log("Shader Error:", myShaderEffect.log);
              } else if (myShaderEffect.status === ShaderEffect.Compiled) {
                  console.log("Shader Compiled successfully!");
              }
          }
      }
      
    • GLSLのバージョンと構文: Qt Quickの内部では、GLSL ES 1.0または2.0が使用されることが多いです(Qtバージョンやバックエンドによる)。互換性のないGLSLバージョンを使用していないか、非推奨の関数(例: texture2Dではなくtexture)を使用していないか確認してください。Qt 6からは、Vulkan互換のGLSL(SPIR-V)を使用し、qsbファイルとしてコンパイルして利用することが推奨されています。

  • 原因: GLSLコードに文法エラーがある、またはQt Quickのシェーダー要件を満たしていない。
  • エラー: QMLアプリケーションが起動しない、またはShaderEffectが表示されない。コンソールにシェーダーコンパイルエラーのメッセージが表示される。

パフォーマンスの問題

  • トラブルシューティング:
    • 必要な時のみレイヤー化: アニメーション中やエフェクト適用中など、本当に必要な期間だけlayer.enabled: trueにし、それ以外の時はfalseに戻すことを検討してください。
    • レイヤーのサイズを最適化: layer.sourceRectを使用して、実際に描画される部分だけをレイヤー化することで、不要な領域のレンダリングを避けることができます。
    • layer.textureSizeの調整: 明示的にテクスチャサイズを指定することで、メモリ使用量を制御できますが、小さすぎると解像度が低下します。
    • GPUプロファイリング: Qt CreatorのQt Quickプロファイラーを使用して、どこでパフォーマンスのボトルネックが発生しているかを確認します。
  • 原因: レイヤー化は強力な機能ですが、コストがかかります。オフスクリーンレンダリングには、追加の描画パス、メモリ割り当て、テクスチャのアップロード/ダウンロードなどが発生します。特に、多くのItemをレイヤー化したり、レイヤーのサイズが非常に大きい場合にパフォーマンスが低下しやすいです。
  • エラー: Item.layer.samplerNameを使用すると、アプリケーションのフレームレートが著しく低下する。

テクスチャの座標系や反転

  • トラブルシューティング:
    • シェーダー内でqt_TexCoord0(通常は標準のテクスチャ座標)を使用しているか確認します。必要に応じて、1.0 - qt_TexCoord0.yのようにY座標を反転させて調整します。
    • layer.textureMirroringプロパティでミラーリングを設定することもできます。
  • 原因: OpenGLや多くのグラフィックスAPIでは、テクスチャの原点(0,0)は左下ですが、Qt Quickのテクスチャ(特にShaderEffectSource経由で提供されるもの)は左上を原点とする場合があります。
  • エラー: シェーダーでサンプリングしたテクスチャが上下逆さまになっている、または期待と異なる座標系で処理されている。

アンチエイリアスやスムージングの問題

  • トラブルシューティング:
    • layer.smooth: trueを設定して、レイヤーテクスチャの補間を有効にします。
    • layer.mipmap: trueを設定してミップマップを生成し、異なるスケールでの表示品質を向上させます。
    • ShaderEffectsmooth: trueを設定することで、シェーダーの出力にスムージングを適用できる場合があります。
  • 原因: レイヤーテクスチャのサンプリング方法や、レイヤー自体の設定が不適切。
  • エラー: レイヤー化したItemの境界線がギザギザになる、またはエフェクト適用後の見た目が粗い。


例1: アイテムの色を反転させるシンプルなシェーダーエフェクト

この例では、Rectangleとその中のTextをレイヤー化し、そのレイヤーをShaderEffectで受け取り、色を反転させるシンプルな効果を適用します。

main.qml

import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 640
    height: 480
    visible: true
    title: "Layer SamplerName Example"
    color: "gray"

    // レイヤー化されるコンテンツ
    Rectangle {
        id: originalContent
        width: 200
        height: 150
        x: 50
        y: 50
        color: "blue"
        radius: 15

        Text {
            anchors.centerIn: parent
            text: "Hello Layer!"
            color: "white"
            font.pixelSize: 28
            font.bold: true
        }

        // レイヤー化を有効にし、サンプラー名を指定
        layer.enabled: true
        layer.samplerName: "inputTexture" // シェーダーでこの名前を使用
        layer.smooth: true // テクスチャのスムージングを有効にする
    }

    // レイヤー化されたコンテンツにエフェクトを適用するShaderEffect
    ShaderEffect {
        width: originalContent.width
        height: originalContent.height
        x: originalContent.x + originalContent.width + 50 // originalContentの右隣に配置
        y: originalContent.y

        // ShaderEffectSourceの代わりに、sourceプロパティに対象のItem IDを指定する
        source: originalContent

        // フラグメントシェーダーコード
        fragmentShader: "
            uniform lowp sampler2D inputTexture; // QMLで指定したsamplerNameと一致させる
            varying highp vec2 qt_TexCoord0; // 標準のテクスチャ座標

            void main() {
                // 元のテクスチャから色をサンプリング
                lowp vec4 color = texture2D(inputTexture, qt_TexCoord0);

                // 色を反転させる(アルファはそのまま)
                gl_FragColor = vec4(1.0 - color.r, 1.0 - color.g, 1.0 - color.b, color.a);
            }
        "
    }

    Text {
        anchors.horizontalCenter: originalContent.horizontalCenter
        y: originalContent.y + originalContent.height + 10
        text: "Original Content"
        color: "black"
        font.pixelSize: 18
    }

    Text {
        anchors.horizontalCenter: children[1].horizontalCenter // ShaderEffectの方
        y: children[1].y + children[1].height + 10
        text: "Effect Applied (Color Inverted)"
        color: "black"
        font.pixelSize: 18
    }
}

解説

  1. originalContent (Rectangle):

    • layer.enabled: true: このアイテムとその子孫をオフスクリーンテクスチャにレンダリングするようにQt Quickに指示します。
    • layer.samplerName: "inputTexture": 生成されたテクスチャをシェーダー内でinputTextureという名前で参照できるようにします。これはシェーダーにおけるuniform lowp sampler2D inputTexture;に対応します。
    • layer.smooth: true: テクスチャのサンプリング時に線形補間(スムージング)を有効にします。
  2. ShaderEffect:

    • source: originalContent: ShaderEffectが処理する対象として、originalContentのレイヤーを使用することを指定します。この設定により、originalContentのレイクスチャがShaderEffectのシェーダーに渡されます。
    • fragmentShader: GLSL (OpenGL Shading Language) で書かれたフラグメントシェーダーコードです。
      • uniform lowp sampler2D inputTexture;: originalContentlayer.samplerNameで指定した名前と同じuniform変数を宣言します。これで、originalContentの描画結果がこのテクスチャサンプラーに供給されます。
      • varying highp vec2 qt_TexCoord0;: Qt Quickがデフォルトで提供するテクスチャ座標です。通常、0.0から1.0の範囲で、左上が(0,0)、右下が(1,1)となります。
      • texture2D(inputTexture, qt_TexCoord0): inputTextureから現在のフラグメントのテクスチャ座標に基づいて色をサンプリングします。
      • gl_FragColor = vec4(1.0 - color.r, ...): サンプリングした色のR, G, B成分を1.0から引くことで反転させ、最終的なフラグメントの色として出力します。

このコードを実行すると、「Hello Layer!」と書かれた青い四角形が2つ表示されます。左側は元の青い四角形、右側はその色が反転されて黄色っぽく表示される四角形になります。

例2: 複数のレイヤーを合成するシェーダーエフェクト (応用)

この例では、2つの異なるItemをそれぞれレイヤー化し、それらのレイヤーを別のShaderEffectで受け取り、ブレンドする例を示します。

main.qml

import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 800
    height: 600
    visible: true
    title: "Multi-Layer Blending Example"
    color: "lightgray"

    // レイヤー1: 赤い丸
    Rectangle {
        id: redCircle
        width: 200
        height: 200
        x: 50
        y: 50
        color: "red"
        radius: width / 2 // 円にする
        layer.enabled: true
        layer.samplerName: "circleTexture" // サンプラー名
        layer.smooth: true
    }

    // レイヤー2: 青い四角(少し重なるように配置)
    Rectangle {
        id: blueSquare
        width: 180
        height: 180
        x: 150
        y: 150
        color: "blue"
        layer.enabled: true
        layer.samplerName: "squareTexture" // 別のサンプラー名
        layer.smooth: true
        opacity: 0.7 // 半透明にする
    }

    // レイヤーをブレンドするShaderEffect
    ShaderEffect {
        id: blenderEffect
        width: 400
        height: 400
        x: 350 // 右側に配置
        y: 50

        // 2つのレイヤーをプロパティとしてシェーダーに渡す
        property variant source1: redCircle // circleTextureとして渡される
        property variant source2: blueSquare // squareTextureとして渡される

        // ブレンド量を制御するスライダー
        property real blendFactor: blendSlider.value

        fragmentShader: "
            uniform lowp sampler2D source1; // redCircleのレイヤー
            uniform lowp sampler2D source2; // blueSquareのレイヤー
            uniform lowp float blendFactor; // ブレンド量を制御するuniform
            varying highp vec2 qt_TexCoord0;

            void main() {
                // 各レイヤーから色をサンプリング
                lowp vec4 color1 = texture2D(source1, qt_TexCoord0);
                lowp vec4 color2 = texture2D(source2, qt_TexCoord0);

                // 線形補間(lerp)でブレンド
                // result = color1 * (1.0 - blendFactor) + color2 * blendFactor
                gl_FragColor = mix(color1, color2, blendFactor);
            }
        "
    }

    // ブレンド量を調整するスライダー
    Slider {
        id: blendSlider
        x: blenderEffect.x
        y: blenderEffect.y + blenderEffect.height + 20
        width: blenderEffect.width
        from: 0.0
        to: 1.0
        value: 0.5 // 初期値は0.5
    }

    Text {
        x: blendSlider.x
        y: blendSlider.y + blendSlider.height + 5
        text: "Blend Factor: " + blendSlider.value.toFixed(2)
    }
}

解説

  1. redCircleblueSquare:

    • それぞれlayer.enabled: trueと、異なるlayer.samplerName ("circleTexture""squareTexture") を設定してレイヤー化します。
    • blueSquareopacity: 0.7で半透明にしています。
  2. blenderEffect (ShaderEffect):

    • source1: redCirclesource2: blueSquare: ここがポイントです。ShaderEffectのカスタムプロパティ(ここではsource1source2)に、レイヤー化されたItemのIDを割り当てると、Qt Quickは自動的にそのItemのレイヤーテクスチャを対応するシェーダーのuniform sampler2D変数にバインドします。
      • これにより、QML側のプロパティ名 (source1, source2) がシェーダー側のuniform sampler2D変数名 (source1, source2) に対応します。
    • property real blendFactor: blendSlider.value: スライダーの値を受け取るためのカスタムuniform変数を定義します。
    • fragmentShader:
      • uniform lowp sampler2D source1;
      • uniform lowp sampler2D source2;: QMLで定義したsource1source2プロパティが、それぞれこれらのサンプラーにマッピングされます。
      • uniform lowp float blendFactor;: スライダーの値がこのuniform変数に渡されます。
      • mix(color1, color2, blendFactor): GLSLの組み込み関数mixを使って、blendFactorに基づいて2つの色を線形補間します。blendFactorが0.0ならcolor1、1.0ならcolor2、0.5ならその中間になります。

この例を実行すると、左側に赤い丸と青い四角が元の状態で重なって表示され、右側にそれらがブレンドされた結果が表示されます。スライダーを動かすことで、赤と青のどちらの色が強くブレンドされるかリアルタイムで変化させることができます。



ShaderEffectSourceの使用

Item.layer.samplerNameと非常に似ていますが、より明示的で独立したオフスクリーンレンダリングのコンポーネントです。ShaderEffectSourceは、特定のItemのコンテンツをテクスチャとしてキャプチャし、それを別のShaderEffectの入力として提供します。

特徴

  • 入力処理の維持
    hideSource: trueを設定すると、元のsourceItemは非表示になりますが、マウスやキーボード入力は引き続き受け取ることができます。これは、エフェクトが元のアイテムを置き換える場合に便利です。
  • 柔軟な設定
    textureSizeでテクスチャの解像度を指定したり、sourceRectでキャプチャする領域を限定したりできます。
  • 独立性
    ShaderEffectSource自体がシーンに表示される必要はありません。visible: falseopacity: 0にしても、内部でテクスチャは生成されます。
  • 明示的なキャプチャ
    sourceItemプロパティでキャプチャしたいItemを指定します。

使用例

import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15

Window {
    width: 640
    height: 480
    visible: true
    title: "ShaderEffectSource Alternative"
    color: "lightgray"

    // キャプチャされるコンテンツ
    Rectangle {
        id: myContent
        width: 200
        height: 150
        x: 50
        y: 50
        color: "green"
        Text {
            anchors.centerIn: parent
            text: "Content to Capture"
            color: "white"
            font.pixelSize: 20
        }
    }

    // myContentをテクスチャとしてキャプチャ
    ShaderEffectSource {
        id: contentSource
        sourceItem: myContent // ここでキャプチャ対象を指定
        textureSize: Qt.size(myContent.width, myContent.height) // テクスチャサイズ
        hideSource: true // 元のmyContentを非表示にする
    }

    // キャプチャされたテクスチャをShaderEffectで利用
    ShaderEffect {
        width: contentSource.textureSize.width
        height: contentSource.textureSize.height
        x: myContent.x + myContent.width + 50
        y: myContent.y

        // ShaderEffectSourceをsourceプロパティに直接設定
        source: contentSource // contentSourceがuniform sampler2Dとして渡される

        fragmentShader: "
            uniform lowp sampler2D source; // ShaderEffectSourceのidがそのままuniform名になる
            varying highp vec2 qt_TexCoord0;

            void main() {
                lowp vec4 color = texture2D(source, qt_TexCoord0);
                // 例えば、赤成分を強調する
                gl_FragColor = vec4(color.r * 1.5, color.g, color.b, color.a);
            }
        "
    }

    Text {
        anchors.horizontalCenter: myContent.horizontalCenter
        y: myContent.y + myContent.height + 10
        text: "Original (Hidden by ShaderEffectSource)"
        color: "black"
        font.pixelSize: 16
    }

    Text {
        anchors.horizontalCenter: children[2].horizontalCenter
        y: children[2].y + children[2].height + 10
        text: "Effect Applied"
        color: "black"
        font.pixelSize: 16
    }
}

この例では、myContentShaderEffectSourceによってキャプチャされ、元のmyContentは非表示になります。ShaderEffectcontentSourceからテクスチャを受け取り、エフェクトを適用します。

C++からのオフスクリーンレンダリングとテクスチャの共有

より低レベルな制御や、QML以外の描画ロジック(例:カスタムOpenGL描画)をテクスチャとしてQMLに持ち込みたい場合、C++でオフスクリーンレンダリングを実行し、その結果をQMLにテクスチャとして渡すことができます。

方法

  • QImage または QOpenGLTexture の使用: C++で描画したQImageQOpenGLTextureに変換し、それをQMLのImage要素のsourceとして設定したり、ShaderEffectImage型プロパティにバインドしたりできます。
  • QQuickFramebufferObject の使用: QMLアイテムからFBOにレンダリングするための便利なQt Quickのクラスです。これにより、C++でカスタムのOpenGL描画コードを記述し、その出力をQMLのItemとして表示できます。
  • QOpenGLFramebufferObject (FBO) の使用: 描画ターゲットとしてFBOを作成し、そこにOpenGLコマンドで描画します。

特徴

  • QMLとの連携: QQuickFramebufferObjectを使用すると、C++のカスタムレンダリングとQMLのシーングラフをシームレスに統合できます。
  • 複雑性: OpenGLやC++でのグラフィックスプログラミングの知識が必要になります。
  • パフォーマンス: GPU上で直接描画するため、効率的です。
  • 最大限の柔軟性: OpenGLの機能に直接アクセスできます。

C++での基本的な流れ (QQuickFramebufferObjectの例)

  1. QQuickFramebufferObjectを継承したC++クラスを作成します。
  2. createRenderer()をオーバーライドし、カスタムレンダラー(QQuickFramebufferObject::Rendererを継承)を返します。
  3. カスタムレンダラーのsynchronize()メソッドでQMLのプロパティとC++のレンダリング状態を同期します。
  4. カスタムレンダラーのrender()メソッドで、FBOに直接OpenGLコマンドを使用して描画します。

myfboitem.h

#ifndef MYFBOITEM_H
#define MYFBOITEM_H

#include <QtQuick/QQuickFramebufferObject>
#include <QOpenGLFunctions> // 必要に応じて

class MyFboItem : public QQuickFramebufferObject
{
    Q_OBJECT
    Q_PROPERTY(QColor customColor READ customColor WRITE setCustomColor NOTIFY customColorChanged)

public:
    MyFboItem(QQuickItem *parent = nullptr);

    Renderer *createRenderer() const override;

    QColor customColor() const { return m_customColor; }
    void setCustomColor(const QColor &color);

signals:
    void customColorChanged();

private:
    QColor m_customColor;
};

class MyFboRenderer : public QQuickFramebufferObject::Renderer, protected QOpenGLFunctions
{
public:
    MyFboRenderer();
    void render() override;
    void synchronize(QQuickFramebufferObject *item) override;

private:
    QColor m_customColor;
};

#endif // MYFBOITEM_H

myfboitem.cpp

#include "myfboitem.h"
#include <QOpenGLPaintDevice>
#include <QPainter>

MyFboItem::MyFboItem(QQuickItem *parent)
    : QQuickFramebufferObject(parent),
      m_customColor(Qt::red)
{
    // smoothプロパティをtrueにすることで、FBOテクスチャもスムージングされる
    setMirrorVertically(true); // FBOの上下反転に注意
}

QQuickFramebufferObject::Renderer *MyFboItem::createRenderer() const
{
    return new MyFboRenderer();
}

void MyFboItem::setCustomColor(const QColor &color)
{
    if (m_customColor != color) {
        m_customColor = color;
        emit customColorChanged();
        update(); // FBOの再描画をトリガー
    }
}

MyFboRenderer::MyFboRenderer()
{
    initializeOpenGLFunctions(); // OpenGL関数を初期化
}

void MyFboRenderer::render()
{
    // FBO全体をクリア
    glClearColor(m_customColor.redF(), m_customColor.greenF(), m_customColor.blueF(), m_customColor.alphaF());
    glClear(GL_COLOR_BUFFER_BIT);

    // 例として、OpenGLで三角形を描画
    glBegin(GL_TRIANGLES);
    glColor3f(1.0f, 1.0f, 0.0f); // 黄色
    glVertex2f(-0.8f, -0.8f);
    glColor3f(0.0f, 1.0f, 1.0f); // シアン
    glVertex2f(0.8f, -0.8f);
    glColor3f(1.0f, 0.0f, 1.0f); // マゼンタ
    glVertex2f(0.0f, 0.8f);
    glEnd();
}

void MyFboRenderer::synchronize(QQuickFramebufferObject *item)
{
    MyFboItem *myFboItem = static_cast<MyFboItem *>(item);
    m_customColor = myFboItem->customColor();
}

main.qml

import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import MyCustomFBO 1.0 // MyFboItemを登録したモジュール名

Window {
    width: 640
    height: 480
    visible: true
    title: "Custom FBO Rendering"

    // C++で定義したカスタムFBOアイテム
    MyFboItem {
        id: myFboContent
        width: 300
        height: 300
        x: 50
        y: 50
        customColor: "purple" // C++の描画に影響を与えるカスタムプロパティ
    }

    // MyFboItemの出力をShaderEffectでさらに加工
    ShaderEffect {
        width: myFboContent.width
        height: myFboContent.height
        x: myFboContent.x + myFboContent.width + 50
        y: myFboContent.y

        source: myFboContent // QQuickFramebufferObjectもsourceとして直接利用可能

        fragmentShader: "
            uniform lowp sampler2D source;
            varying highp vec2 qt_TexCoord0;

            void main() {
                lowp vec4 color = texture2D(source, qt_TexCoord0);
                // 例えば、アルファを半分にする
                gl_FragColor = vec4(color.rgb, color.a * 0.5);
            }
        "
    }

    Button {
        text: "Toggle Color"
        x: 50
        y: myFboContent.y + myFboContent.height + 20
        onClicked: {
            if (myFboContent.customColor === "purple") {
                myFboContent.customColor = "orange";
            } else {
                myFboContent.customColor = "purple";
            }
        }
    }
}

この方法では、FBOに直接描画されたOpenGLの三角形がQMLのItemとして表示され、さらにその出力がShaderEffectで加工されます。

QPainterやQImageを使ったオフスクリーンレンダリング (CPUベース)

非常に特殊なケースですが、GPUレンダリングではなく、CPUで描画した結果をテクスチャとして利用したい場合もあります。

方法

  • 描画後、QImageQOpenGLTextureに変換し、それをQMLに渡すか、Image要素のsourceに設定します。
  • QImageを作成し、QPainterを使ってそのQImageに描画します。

特徴

  • ユースケース: 静的な画像生成、動的だが更新頻度の低いグラフやテキストのレンダリングなどに適しています。
  • パフォーマンスの懸念: CPUで描画し、GPUにテクスチャとしてアップロードするため、頻繁な更新や高解像度の描画ではパフォーマンスが低下しやすいです。アニメーションやリアルタイム処理には不向きです。
  • 移植性: OpenGLバックエンドに依存しません。
  • 手軽さ: Qtの2D描画API(QPainter)をそのまま利用できます。
  1. QImageオブジェクトを作成。
  2. QPainterを使用してQImageに描画。
  3. 描画されたQImageQQuickImageProvider経由でQMLに公開するか、QOpenGLTextureに変換してシェーダーにバード。