Qt Quickのグラフィックを極める:Item.layer.samplerNameのエラーと解決策
Item.layer.samplerNameとは
Item.layer.samplerName
は、Qt QuickのItem
要素にアタッチされたlayer
プロパティグループの一部です。これは、アイテムをオフスクリーンテクスチャにレンダリングする際に使用されるテクスチャサンプラーの名前を指定するために使用されます。
より具体的に言うと、Qt Quickでは通常、各Item
は直接画面に描画されます。しかし、パフォーマンスの向上や、シェーダーエフェクトの適用、複雑な重ね合わせ処理などを行うために、Item
とその子孫をまず一時的なテクスチャ(オフスクリーンバッファ)にレンダリングしてから、そのテクスチャを最終的に画面に描画するという「レイヤー化」の機能があります。このレイヤー化を有効にするには、Item.layer.enabled
をtrue
に設定します。
layer.samplerName
は、このオフスクリーンテクスチャをシェーダー内で参照するための名前を設定するものです。
主に、ShaderEffect
やShaderEffectSource
といった要素と組み合わせて、カスタムの視覚効果を作成する際に利用されます。
たとえば、あるItem
のコンテンツをテクスチャとしてキャプチャし、そのテクスチャを別のシェーダーで加工したい場合、layer.samplerName
でそのテクスチャに名前を付けます。そして、ShaderEffect
内でその名前を使ってテクスチャサンプラー(uniform lowp sampler2D
型)を宣言し、加工処理を行うことができます。
例
import QtQuick 2.0
Item {
width: 200
height: 200
Rectangle {
id: myContent
width: parent.width
height: parent.height
color: "blue"
radius: 20
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "Hello Layer!"
color: "white"
font.pixelSize: 24
}
// このアイテムをレイヤー化し、テクスチャに「sourceTexture」という名前を付ける
layer.enabled: true
layer.samplerName: "sourceTexture" // ここでサンプラー名を指定
}
// myContentのレイヤーをエフェクトとして使用するShaderEffect
ShaderEffect {
anchors.fill: parent
// fragmentShader内でsourceTextureという名前でmyContentのテクスチャを参照
fragmentShader: "
uniform lowp sampler2D sourceTexture; // myContentのテクスチャがここにロードされる
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
lowp vec4 color = texture2D(sourceTexture, qt_TexCoord0);
// 例として、色を反転させるシンプルなエフェクト
gl_FragColor = vec4(1.0 - color.r, 1.0 - color.g, 1.0 - color.b, color.a);
}
"
// myContentのレイヤーをソースとして使用
source: myContent
}
}
この例では、myContent
というRectangle
がレイヤー化され、そのテクスチャがsourceTexture
という名前で利用できるようになります。ShaderEffect
は、このsourceTexture
uniformを介してmyContent
の描画結果を受け取り、フラグメントシェーダー内で色を反転させて表示します。
- 注意:
layer.enabled
がtrue
の場合にのみ意味を持ちます。layer.enabled
がfalse
の場合、このプロパティは効果がありません。 - 用途: 主に
ShaderEffect
やShaderEffectSource
を使ってカスタムのグラフィックエフェクトを実装する際に使用されます。 - 機能:
Item
がレイヤー化されたときに生成されるオフスクリーンテクスチャに、シェーダーからアクセスするためのサンプラー名を指定します。
Item.layer.samplerName
は、Qt Quickのレイヤー機能とシェーダーを組み合わせて高度な視覚効果を実現するための重要なプロパティです。しかし、その性質上、OpenGL/WebGLやシェーダープログラミングに関する知識が必要となるため、いくつかの一般的な落とし穴があります。
layer.enabledがtrueになっていない
-
トラブルシューティング:
- 対象の
Item
にlayer.enabled: true
が正しく設定されていることを確認してください。
Rectangle { id: myItem width: 100 height: 100 color: "red" layer.enabled: true // これが重要 layer.samplerName: "myLayerTexture" }
- 対象の
-
原因:
Item.layer.samplerName
は、そのItem
がオフスクリーンテクスチャにレンダリングされる(つまりレイヤー化される)場合にのみ意味を持ちます。layer.enabled: true
を設定しないと、Item
は通常通り直接描画され、samplerName
は無視されます。 -
エラー:
Item.layer.samplerName
を設定しても、シェーダーでテクスチャが取得できない、または期待通りの効果が得られない。
シェーダー側でのサンプラー名の不一致
-
トラブルシューティング:
- QMLファイルとシェーダーファイル(または
fragmentShader
プロパティ内のGLSLコード)の両方で、サンプラー名が完全に一致しているか確認してください。大文字・小文字も区別されます。
// QML側 Item { layer.enabled: true layer.samplerName: "myContentTexture" // 名前を"myContentTexture"とする }
// シェーダー側 uniform lowp sampler2D myContentTexture; // QMLと完全に一致させる varying highp vec2 qt_TexCoord0; void main() { gl_FragColor = texture2D(myContentTexture, qt_TexCoord0); }
- QMLファイルとシェーダーファイル(または
-
原因: QMLで
layer.samplerName
に設定した名前と、シェーダーのuniform lowp sampler2D
変数名が一致していない。 -
エラー: シェーダーがコンパイルできない、または実行時にテクスチャが正しくサンプリングされない(真っ黒になる、予期せぬ色が混じるなど)。
ShaderEffectのsourceプロパティの設定ミス
-
トラブルシューティング:
ShaderEffect
のsource
プロパティに、layer.enabled
とlayer.samplerName
が設定されているItem
のid
を設定してください。
Item { id: contentToLayer layer.enabled: true layer.samplerName: "myTexture" // ... コンテンツ ... } ShaderEffect { source: contentToLayer // ここでcontentToLayerのIDを指定 // ... シェーダーコード ... }
-
原因:
ShaderEffect
がどのItem
のレイヤーを使用するかを正しく指定していない。ShaderEffect
のsource
プロパティに対象のItem
のIDを指定する必要があります。 -
エラー:
ShaderEffect
でlayer.samplerName
で指定したテクスチャが反映されない。
シェーダーコンパイルエラー(ShaderEffect.status, ShaderEffect.log)
- トラブルシューティング:
-
コンソール出力の確認: 最も一般的なトラブルシューティング方法です。Qt Creatorで実行している場合、"Application Output"ペインにシェーダーコンパイルエラーの詳細が表示されるはずです。エラーメッセージと行番号をよく確認し、修正してください。
-
ShaderEffect.status
とShaderEffect.log
の利用: QMLのShaderEffect
には、シェーダーのコンパイル状況を示すstatus
プロパティと、エラーログを含むlog
プロパティがあります。これらをデバッグ目的で利用できます。ShaderEffect { id: myShaderEffect // ... fragmentShader ... // ... source ... Component.onCompleted: { if (myShaderEffect.status === ShaderEffect.Error) { console.log("Shader Error:", myShaderEffect.log); } else if (myShaderEffect.status === ShaderEffect.Compiled) { console.log("Shader Compiled successfully!"); } } }
-
GLSLのバージョンと構文: Qt Quickの内部では、GLSL ES 1.0または2.0が使用されることが多いです(Qtバージョンやバックエンドによる)。互換性のないGLSLバージョンを使用していないか、非推奨の関数(例:
texture2D
ではなくtexture
)を使用していないか確認してください。Qt 6からは、Vulkan互換のGLSL(SPIR-V)を使用し、qsb
ファイルとしてコンパイルして利用することが推奨されています。
-
- 原因: GLSLコードに文法エラーがある、またはQt Quickのシェーダー要件を満たしていない。
- エラー: QMLアプリケーションが起動しない、または
ShaderEffect
が表示されない。コンソールにシェーダーコンパイルエラーのメッセージが表示される。
パフォーマンスの問題
- トラブルシューティング:
- 必要な時のみレイヤー化: アニメーション中やエフェクト適用中など、本当に必要な期間だけ
layer.enabled: true
にし、それ以外の時はfalse
に戻すことを検討してください。 - レイヤーのサイズを最適化:
layer.sourceRect
を使用して、実際に描画される部分だけをレイヤー化することで、不要な領域のレンダリングを避けることができます。 layer.textureSize
の調整: 明示的にテクスチャサイズを指定することで、メモリ使用量を制御できますが、小さすぎると解像度が低下します。- GPUプロファイリング: Qt CreatorのQt Quickプロファイラーを使用して、どこでパフォーマンスのボトルネックが発生しているかを確認します。
- 必要な時のみレイヤー化: アニメーション中やエフェクト適用中など、本当に必要な期間だけ
- 原因: レイヤー化は強力な機能ですが、コストがかかります。オフスクリーンレンダリングには、追加の描画パス、メモリ割り当て、テクスチャのアップロード/ダウンロードなどが発生します。特に、多くの
Item
をレイヤー化したり、レイヤーのサイズが非常に大きい場合にパフォーマンスが低下しやすいです。 - エラー:
Item.layer.samplerName
を使用すると、アプリケーションのフレームレートが著しく低下する。
テクスチャの座標系や反転
- トラブルシューティング:
- シェーダー内で
qt_TexCoord0
(通常は標準のテクスチャ座標)を使用しているか確認します。必要に応じて、1.0 - qt_TexCoord0.y
のようにY座標を反転させて調整します。 layer.textureMirroring
プロパティでミラーリングを設定することもできます。
- シェーダー内で
- 原因: OpenGLや多くのグラフィックスAPIでは、テクスチャの原点(0,0)は左下ですが、Qt Quickのテクスチャ(特に
ShaderEffectSource
経由で提供されるもの)は左上を原点とする場合があります。 - エラー: シェーダーでサンプリングしたテクスチャが上下逆さまになっている、または期待と異なる座標系で処理されている。
アンチエイリアスやスムージングの問題
- トラブルシューティング:
layer.smooth: true
を設定して、レイヤーテクスチャの補間を有効にします。layer.mipmap: true
を設定してミップマップを生成し、異なるスケールでの表示品質を向上させます。ShaderEffect
でsmooth: true
を設定することで、シェーダーの出力にスムージングを適用できる場合があります。
- 原因: レイヤーテクスチャのサンプリング方法や、レイヤー自体の設定が不適切。
- エラー: レイヤー化した
Item
の境界線がギザギザになる、またはエフェクト適用後の見た目が粗い。
例1: アイテムの色を反転させるシンプルなシェーダーエフェクト
この例では、Rectangle
とその中のText
をレイヤー化し、そのレイヤーをShaderEffect
で受け取り、色を反転させるシンプルな効果を適用します。
main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Layer SamplerName Example"
color: "gray"
// レイヤー化されるコンテンツ
Rectangle {
id: originalContent
width: 200
height: 150
x: 50
y: 50
color: "blue"
radius: 15
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "Hello Layer!"
color: "white"
font.pixelSize: 28
font.bold: true
}
// レイヤー化を有効にし、サンプラー名を指定
layer.enabled: true
layer.samplerName: "inputTexture" // シェーダーでこの名前を使用
layer.smooth: true // テクスチャのスムージングを有効にする
}
// レイヤー化されたコンテンツにエフェクトを適用するShaderEffect
ShaderEffect {
width: originalContent.width
height: originalContent.height
x: originalContent.x + originalContent.width + 50 // originalContentの右隣に配置
y: originalContent.y
// ShaderEffectSourceの代わりに、sourceプロパティに対象のItem IDを指定する
source: originalContent
// フラグメントシェーダーコード
fragmentShader: "
uniform lowp sampler2D inputTexture; // QMLで指定したsamplerNameと一致させる
varying highp vec2 qt_TexCoord0; // 標準のテクスチャ座標
void main() {
// 元のテクスチャから色をサンプリング
lowp vec4 color = texture2D(inputTexture, qt_TexCoord0);
// 色を反転させる(アルファはそのまま)
gl_FragColor = vec4(1.0 - color.r, 1.0 - color.g, 1.0 - color.b, color.a);
}
"
}
Text {
anchors.horizontalCenter: originalContent.horizontalCenter
y: originalContent.y + originalContent.height + 10
text: "Original Content"
color: "black"
font.pixelSize: 18
}
Text {
anchors.horizontalCenter: children[1].horizontalCenter // ShaderEffectの方
y: children[1].y + children[1].height + 10
text: "Effect Applied (Color Inverted)"
color: "black"
font.pixelSize: 18
}
}
解説
-
originalContent
(Rectangle
):layer.enabled: true
: このアイテムとその子孫をオフスクリーンテクスチャにレンダリングするようにQt Quickに指示します。layer.samplerName: "inputTexture"
: 生成されたテクスチャをシェーダー内でinputTexture
という名前で参照できるようにします。これはシェーダーにおけるuniform lowp sampler2D inputTexture;
に対応します。layer.smooth: true
: テクスチャのサンプリング時に線形補間(スムージング)を有効にします。
-
ShaderEffect
:source: originalContent
:ShaderEffect
が処理する対象として、originalContent
のレイヤーを使用することを指定します。この設定により、originalContent
のレイクスチャがShaderEffect
のシェーダーに渡されます。fragmentShader
: GLSL (OpenGL Shading Language) で書かれたフラグメントシェーダーコードです。uniform lowp sampler2D inputTexture;
:originalContent
のlayer.samplerName
で指定した名前と同じuniform
変数を宣言します。これで、originalContent
の描画結果がこのテクスチャサンプラーに供給されます。varying highp vec2 qt_TexCoord0;
: Qt Quickがデフォルトで提供するテクスチャ座標です。通常、0.0から1.0の範囲で、左上が(0,0)、右下が(1,1)となります。texture2D(inputTexture, qt_TexCoord0)
:inputTexture
から現在のフラグメントのテクスチャ座標に基づいて色をサンプリングします。gl_FragColor = vec4(1.0 - color.r, ...)
: サンプリングした色のR, G, B成分を1.0から引くことで反転させ、最終的なフラグメントの色として出力します。
このコードを実行すると、「Hello Layer!」と書かれた青い四角形が2つ表示されます。左側は元の青い四角形、右側はその色が反転されて黄色っぽく表示される四角形になります。
例2: 複数のレイヤーを合成するシェーダーエフェクト (応用)
この例では、2つの異なるItem
をそれぞれレイヤー化し、それらのレイヤーを別のShaderEffect
で受け取り、ブレンドする例を示します。
main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 800
height: 600
visible: true
title: "Multi-Layer Blending Example"
color: "lightgray"
// レイヤー1: 赤い丸
Rectangle {
id: redCircle
width: 200
height: 200
x: 50
y: 50
color: "red"
radius: width / 2 // 円にする
layer.enabled: true
layer.samplerName: "circleTexture" // サンプラー名
layer.smooth: true
}
// レイヤー2: 青い四角(少し重なるように配置)
Rectangle {
id: blueSquare
width: 180
height: 180
x: 150
y: 150
color: "blue"
layer.enabled: true
layer.samplerName: "squareTexture" // 別のサンプラー名
layer.smooth: true
opacity: 0.7 // 半透明にする
}
// レイヤーをブレンドするShaderEffect
ShaderEffect {
id: blenderEffect
width: 400
height: 400
x: 350 // 右側に配置
y: 50
// 2つのレイヤーをプロパティとしてシェーダーに渡す
property variant source1: redCircle // circleTextureとして渡される
property variant source2: blueSquare // squareTextureとして渡される
// ブレンド量を制御するスライダー
property real blendFactor: blendSlider.value
fragmentShader: "
uniform lowp sampler2D source1; // redCircleのレイヤー
uniform lowp sampler2D source2; // blueSquareのレイヤー
uniform lowp float blendFactor; // ブレンド量を制御するuniform
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
// 各レイヤーから色をサンプリング
lowp vec4 color1 = texture2D(source1, qt_TexCoord0);
lowp vec4 color2 = texture2D(source2, qt_TexCoord0);
// 線形補間(lerp)でブレンド
// result = color1 * (1.0 - blendFactor) + color2 * blendFactor
gl_FragColor = mix(color1, color2, blendFactor);
}
"
}
// ブレンド量を調整するスライダー
Slider {
id: blendSlider
x: blenderEffect.x
y: blenderEffect.y + blenderEffect.height + 20
width: blenderEffect.width
from: 0.0
to: 1.0
value: 0.5 // 初期値は0.5
}
Text {
x: blendSlider.x
y: blendSlider.y + blendSlider.height + 5
text: "Blend Factor: " + blendSlider.value.toFixed(2)
}
}
解説
-
redCircle
とblueSquare
:- それぞれ
layer.enabled: true
と、異なるlayer.samplerName
("circleTexture"
と"squareTexture"
) を設定してレイヤー化します。 blueSquare
はopacity: 0.7
で半透明にしています。
- それぞれ
-
blenderEffect
(ShaderEffect
):source1: redCircle
とsource2: blueSquare
: ここがポイントです。ShaderEffect
のカスタムプロパティ(ここではsource1
とsource2
)に、レイヤー化されたItem
のIDを割り当てると、Qt Quickは自動的にそのItem
のレイヤーテクスチャを対応するシェーダーのuniform sampler2D
変数にバインドします。- これにより、QML側のプロパティ名 (
source1
,source2
) がシェーダー側のuniform sampler2D
変数名 (source1
,source2
) に対応します。
- これにより、QML側のプロパティ名 (
property real blendFactor: blendSlider.value
: スライダーの値を受け取るためのカスタムuniform変数を定義します。fragmentShader
:uniform lowp sampler2D source1;
uniform lowp sampler2D source2;
: QMLで定義したsource1
とsource2
プロパティが、それぞれこれらのサンプラーにマッピングされます。uniform lowp float blendFactor;
: スライダーの値がこのuniform変数に渡されます。mix(color1, color2, blendFactor)
: GLSLの組み込み関数mix
を使って、blendFactor
に基づいて2つの色を線形補間します。blendFactor
が0.0ならcolor1
、1.0ならcolor2
、0.5ならその中間になります。
この例を実行すると、左側に赤い丸と青い四角が元の状態で重なって表示され、右側にそれらがブレンドされた結果が表示されます。スライダーを動かすことで、赤と青のどちらの色が強くブレンドされるかリアルタイムで変化させることができます。
ShaderEffectSourceの使用
Item.layer.samplerName
と非常に似ていますが、より明示的で独立したオフスクリーンレンダリングのコンポーネントです。ShaderEffectSource
は、特定のItem
のコンテンツをテクスチャとしてキャプチャし、それを別のShaderEffect
の入力として提供します。
特徴
- 入力処理の維持
hideSource: true
を設定すると、元のsourceItem
は非表示になりますが、マウスやキーボード入力は引き続き受け取ることができます。これは、エフェクトが元のアイテムを置き換える場合に便利です。 - 柔軟な設定
textureSize
でテクスチャの解像度を指定したり、sourceRect
でキャプチャする領域を限定したりできます。 - 独立性
ShaderEffectSource
自体がシーンに表示される必要はありません。visible: false
やopacity: 0
にしても、内部でテクスチャは生成されます。 - 明示的なキャプチャ
sourceItem
プロパティでキャプチャしたいItem
を指定します。
使用例
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "ShaderEffectSource Alternative"
color: "lightgray"
// キャプチャされるコンテンツ
Rectangle {
id: myContent
width: 200
height: 150
x: 50
y: 50
color: "green"
Text {
anchors.centerIn: parent
text: "Content to Capture"
color: "white"
font.pixelSize: 20
}
}
// myContentをテクスチャとしてキャプチャ
ShaderEffectSource {
id: contentSource
sourceItem: myContent // ここでキャプチャ対象を指定
textureSize: Qt.size(myContent.width, myContent.height) // テクスチャサイズ
hideSource: true // 元のmyContentを非表示にする
}
// キャプチャされたテクスチャをShaderEffectで利用
ShaderEffect {
width: contentSource.textureSize.width
height: contentSource.textureSize.height
x: myContent.x + myContent.width + 50
y: myContent.y
// ShaderEffectSourceをsourceプロパティに直接設定
source: contentSource // contentSourceがuniform sampler2Dとして渡される
fragmentShader: "
uniform lowp sampler2D source; // ShaderEffectSourceのidがそのままuniform名になる
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
lowp vec4 color = texture2D(source, qt_TexCoord0);
// 例えば、赤成分を強調する
gl_FragColor = vec4(color.r * 1.5, color.g, color.b, color.a);
}
"
}
Text {
anchors.horizontalCenter: myContent.horizontalCenter
y: myContent.y + myContent.height + 10
text: "Original (Hidden by ShaderEffectSource)"
color: "black"
font.pixelSize: 16
}
Text {
anchors.horizontalCenter: children[2].horizontalCenter
y: children[2].y + children[2].height + 10
text: "Effect Applied"
color: "black"
font.pixelSize: 16
}
}
この例では、myContent
はShaderEffectSource
によってキャプチャされ、元のmyContent
は非表示になります。ShaderEffect
はcontentSource
からテクスチャを受け取り、エフェクトを適用します。
C++からのオフスクリーンレンダリングとテクスチャの共有
より低レベルな制御や、QML以外の描画ロジック(例:カスタムOpenGL描画)をテクスチャとしてQMLに持ち込みたい場合、C++でオフスクリーンレンダリングを実行し、その結果をQMLにテクスチャとして渡すことができます。
方法
QImage
またはQOpenGLTexture
の使用: C++で描画したQImage
をQOpenGLTexture
に変換し、それをQMLのImage
要素のsource
として設定したり、ShaderEffect
のImage
型プロパティにバインドしたりできます。QQuickFramebufferObject
の使用: QMLアイテムからFBOにレンダリングするための便利なQt Quickのクラスです。これにより、C++でカスタムのOpenGL描画コードを記述し、その出力をQMLのItem
として表示できます。QOpenGLFramebufferObject
(FBO) の使用: 描画ターゲットとしてFBOを作成し、そこにOpenGLコマンドで描画します。
特徴
- QMLとの連携:
QQuickFramebufferObject
を使用すると、C++のカスタムレンダリングとQMLのシーングラフをシームレスに統合できます。 - 複雑性: OpenGLやC++でのグラフィックスプログラミングの知識が必要になります。
- パフォーマンス: GPU上で直接描画するため、効率的です。
- 最大限の柔軟性: OpenGLの機能に直接アクセスできます。
C++での基本的な流れ (QQuickFramebufferObjectの例)
QQuickFramebufferObject
を継承したC++クラスを作成します。createRenderer()
をオーバーライドし、カスタムレンダラー(QQuickFramebufferObject::Renderer
を継承)を返します。- カスタムレンダラーの
synchronize()
メソッドでQMLのプロパティとC++のレンダリング状態を同期します。 - カスタムレンダラーの
render()
メソッドで、FBOに直接OpenGLコマンドを使用して描画します。
myfboitem.h
#ifndef MYFBOITEM_H
#define MYFBOITEM_H
#include <QtQuick/QQuickFramebufferObject>
#include <QOpenGLFunctions> // 必要に応じて
class MyFboItem : public QQuickFramebufferObject
{
Q_OBJECT
Q_PROPERTY(QColor customColor READ customColor WRITE setCustomColor NOTIFY customColorChanged)
public:
MyFboItem(QQuickItem *parent = nullptr);
Renderer *createRenderer() const override;
QColor customColor() const { return m_customColor; }
void setCustomColor(const QColor &color);
signals:
void customColorChanged();
private:
QColor m_customColor;
};
class MyFboRenderer : public QQuickFramebufferObject::Renderer, protected QOpenGLFunctions
{
public:
MyFboRenderer();
void render() override;
void synchronize(QQuickFramebufferObject *item) override;
private:
QColor m_customColor;
};
#endif // MYFBOITEM_H
myfboitem.cpp
#include "myfboitem.h"
#include <QOpenGLPaintDevice>
#include <QPainter>
MyFboItem::MyFboItem(QQuickItem *parent)
: QQuickFramebufferObject(parent),
m_customColor(Qt::red)
{
// smoothプロパティをtrueにすることで、FBOテクスチャもスムージングされる
setMirrorVertically(true); // FBOの上下反転に注意
}
QQuickFramebufferObject::Renderer *MyFboItem::createRenderer() const
{
return new MyFboRenderer();
}
void MyFboItem::setCustomColor(const QColor &color)
{
if (m_customColor != color) {
m_customColor = color;
emit customColorChanged();
update(); // FBOの再描画をトリガー
}
}
MyFboRenderer::MyFboRenderer()
{
initializeOpenGLFunctions(); // OpenGL関数を初期化
}
void MyFboRenderer::render()
{
// FBO全体をクリア
glClearColor(m_customColor.redF(), m_customColor.greenF(), m_customColor.blueF(), m_customColor.alphaF());
glClear(GL_COLOR_BUFFER_BIT);
// 例として、OpenGLで三角形を描画
glBegin(GL_TRIANGLES);
glColor3f(1.0f, 1.0f, 0.0f); // 黄色
glVertex2f(-0.8f, -0.8f);
glColor3f(0.0f, 1.0f, 1.0f); // シアン
glVertex2f(0.8f, -0.8f);
glColor3f(1.0f, 0.0f, 1.0f); // マゼンタ
glVertex2f(0.0f, 0.8f);
glEnd();
}
void MyFboRenderer::synchronize(QQuickFramebufferObject *item)
{
MyFboItem *myFboItem = static_cast<MyFboItem *>(item);
m_customColor = myFboItem->customColor();
}
main.qml
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import MyCustomFBO 1.0 // MyFboItemを登録したモジュール名
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Custom FBO Rendering"
// C++で定義したカスタムFBOアイテム
MyFboItem {
id: myFboContent
width: 300
height: 300
x: 50
y: 50
customColor: "purple" // C++の描画に影響を与えるカスタムプロパティ
}
// MyFboItemの出力をShaderEffectでさらに加工
ShaderEffect {
width: myFboContent.width
height: myFboContent.height
x: myFboContent.x + myFboContent.width + 50
y: myFboContent.y
source: myFboContent // QQuickFramebufferObjectもsourceとして直接利用可能
fragmentShader: "
uniform lowp sampler2D source;
varying highp vec2 qt_TexCoord0;
void main() {
lowp vec4 color = texture2D(source, qt_TexCoord0);
// 例えば、アルファを半分にする
gl_FragColor = vec4(color.rgb, color.a * 0.5);
}
"
}
Button {
text: "Toggle Color"
x: 50
y: myFboContent.y + myFboContent.height + 20
onClicked: {
if (myFboContent.customColor === "purple") {
myFboContent.customColor = "orange";
} else {
myFboContent.customColor = "purple";
}
}
}
}
この方法では、FBOに直接描画されたOpenGLの三角形がQMLのItem
として表示され、さらにその出力がShaderEffect
で加工されます。
QPainterやQImageを使ったオフスクリーンレンダリング (CPUベース)
非常に特殊なケースですが、GPUレンダリングではなく、CPUで描画した結果をテクスチャとして利用したい場合もあります。
方法
- 描画後、
QImage
をQOpenGLTexture
に変換し、それをQMLに渡すか、Image
要素のsource
に設定します。 QImage
を作成し、QPainter
を使ってそのQImage
に描画します。
特徴
- ユースケース: 静的な画像生成、動的だが更新頻度の低いグラフやテキストのレンダリングなどに適しています。
- パフォーマンスの懸念: CPUで描画し、GPUにテクスチャとしてアップロードするため、頻繁な更新や高解像度の描画ではパフォーマンスが低下しやすいです。アニメーションやリアルタイム処理には不向きです。
- 移植性: OpenGLバックエンドに依存しません。
- 手軽さ: Qtの2D描画API(
QPainter
)をそのまま利用できます。
QImage
オブジェクトを作成。QPainter
を使用してQImage
に描画。- 描画された
QImage
をQQuickImageProvider
経由でQMLに公開するか、QOpenGLTexture
に変換してシェーダーにバード。