Item.layer.enabled 完全ガイド:Qt QMLでのパフォーマンス改善と注意点
Item.layer.enabled とは
Item.layer.enabled
は、Qt Quick (QML) において、視覚的なアイテム(Item
型またはその派生クラス)が描画される際に、そのアイテム専用のオフスクリーンバッファ(レイヤー)を有効にするかどうかを制御するプロパティです。
なぜ Item.layer.enabled を使うのか
このプロパティを有効にする主な理由は以下の通りです。
-
- 複雑なアイテムや、頻繁にアニメーションするアイテム(例えば、透明度、回転、スケールが変化するアイテム)に対して
layer.enabled: true
を設定すると、そのアイテムが変更されても、毎回全ての描画命令をGPUに送るのではなく、一度描画されたテクスチャを再利用できるため、パフォーマンスが向上する場合があります。 - 特に、多くのシェーダーエフェクト(
ShaderEffect
)を適用している場合や、複雑なグラフィック変換を行っている場合に効果的です。
- 複雑なアイテムや、頻繁にアニメーションするアイテム(例えば、透明度、回転、スケールが変化するアイテム)に対して
-
描画順序とブレンディングの制御
- レイヤー化されたアイテムは、そのコンテンツがオフスクリーンで合成されるため、そのレイヤー全体に単一のブレンディングモードや描画順序を適用できます。これにより、複雑な半透明の描画などで予期せぬ結果になることを防ぎ、より正確な視覚効果を実現できる場合があります。
-
特定の効果の実現
layer.enabled
を有効にすると、layer.properties
やlayer.effect
などの追加のプロパティを使って、レイヤー全体に適用されるエフェクト(例:ぼかし、ドロップシャドウなど)を簡単に実現できます。これらのエフェクトは、レイヤー全体のテクスチャに対して適用されるため、より効率的に動作します。
注意点
- クリッピングの挙動
レイヤー化されたアイテムは、そのレイヤーの境界内でクリッピングされます。これにより、レイヤーの境界を超える描画が切り取られる可能性があります。 - 必ずしも高速化するわけではない
シンプルなアイテムや静的なアイテムにレイヤーを適用しても、必ずしもパフォーマンスが向上するわけではありません。むしろ、レイヤーの作成と管理のオーバーヘッドにより、パフォーマンスが低下する可能性もあります。レイヤーは、描画の複雑さが特定の閾値を超えた場合にのみ有効にするべきです。 - メモリ使用量の増加
レイヤーはオフスクリーンのテクスチャを必要とするため、layer.enabled: true
を設定すると、GPUメモリの使用量が増加します。特に、大きなアイテムや多くのアイテムにレイヤーを適用すると、メモリ不足やパフォーマンスの低下を招く可能性があります。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Item.layer.enabled Example"
Rectangle {
id: myItem
width: 200
height: 200
color: "red"
x: 50
y: 50
// このアイテムとその子孫をオフスクリーンレイヤーで描画する
// これにより、回転アニメーションがよりスムーズになる可能性がある
// また、 layer.effect などを適用する準備にもなる
layer.enabled: true
layer.textureSize: Qt.size(width, height) // レイヤーのテクスチャサイズを指定 (任意)
// 回転アニメーション
rotation: 0
Behavior on rotation {
NumberAnimation {
duration: 2000
from: 0
to: 360
loops: Animation.Infinite
}
}
Text {
text: "Hello, Layer!"
anchors.centerIn: parent
color: "white"
font.pixelSize: 24
}
}
// レイヤー化しない通常のアイテム
Rectangle {
width: 150
height: 150
color: "blue"
x: 300
y: 100
rotation: 0
Behavior on rotation {
NumberAnimation {
duration: 2000
from: 0
to: 360
loops: Animation.Infinite
}
}
}
}
上記の例では、myItem
という Rectangle
に対して layer.enabled: true
を設定しています。これにより、この赤い四角形とその中のテキストは、オフスクリーンで描画され、そのテクスチャがメインシーンに合成されます。回転アニメーションがよりスムーズになる可能性があります。
Item.layer.enabled
は強力な機能ですが、正しく使わないと予期せぬ問題やパフォーマンスの低下を招くことがあります。ここでは、よくあるエラーとそれに対するトラブルシューティング方法を説明します。
パフォーマンスの低下 (Performance Degradation)
エラー症状
layer.enabled: true
を設定したのに、アプリケーションのフレームレートが低下したり、UIがカクついたりする。
原因
- GPUメモリの不足
多くのレイヤーを使用することで、GPUメモリが枯渇し、システムのパフォーマンス全体に影響が出る。 - レイヤーサイズの不適切さ
layer.textureSize
を適切に設定していない場合、Qtが自動的にサイズを決定しますが、これが最適でない場合があります。 - レイヤーの頻繁な再描画
レイヤー化されたアイテムのコンテンツが頻繁に変更される場合、レイヤーのオフスクリーンテクスチャが毎回再生成されるため、かえってパフォーマンスが低下することがあります。 - 過剰なレイヤーの使用
全てのアイテムにレイヤーを適用している、あるいは不要なアイテムにレイヤーを適用している。レイヤーはGPUメモリを消費し、オーバーヘッドが発生します。
トラブルシューティング
- GPUメモリの使用量を監視する
OSのツール(例: Windowsのタスクマネージャー、macOSのアクティビティモニタ、Linuxのnvidia-smi
など)でGPUメモリの使用量を確認し、異常に高くないかチェックします。 - QMLの最適化を確認する
レイヤー化する前に、一般的なQMLの最適化(不要なBindingの排除、レイアウトの効率化など)を行っているか確認します。 - layer.textureSize を明示的に設定する
特にアイテムのサイズがアニメーションなどで動的に変化する場合、layer.textureSize
を固定するか、最小限必要なサイズに設定することで、テクスチャの再割り当てを防ぎます。 - 必要なアイテムのみにレイヤーを適用する
アニメーションが複雑なアイテム、ShaderEffect
を適用するアイテム、または頻繁なブレンディングが必要なアイテムなど、本当にレイヤーが必要なアイテムに限定して使用します。 - プロファイリングを行う
Qt Creator の QML Profiler やQSG_INFO=1
環境変数(シーングラフレンダリングに関する情報出力)を使用して、どのアイテムがパフォーマンスボトルネックになっているかを特定します。特に、QML Scene Graph
タブでレイヤーの再描画頻度やテクスチャサイズを確認します。
描画の乱れやクリッピング (Rendering Glitches / Clipping Issues)
エラー症状
- 描画がぼやける、またはピクセル化して見える。
- アイテムの端が切れて表示される。
- レイヤー化したアイテムの一部が描画されない。
原因
- 座標系の混同
シーングラフの座標系とレイヤー内のオフスクリーン座標系の扱いで誤解がある。 - layer.enabled の子アイテムへの影響
layer.enabled
はそのアイテムとその子孫アイテム全体に適用されます。子アイテムが親レイヤーのテクスチャサイズを超えて描画されると、クリッピングが発生します。 - layer.textureSize の不足
レイヤーのテクスチャサイズがアイテムの実際の描画範囲よりも小さい場合、その範囲外のコンテンツがクリッピングされてしまいます。特に、transform
プロパティでスケールや回転を行う場合、元のアイテムサイズよりも大きなテクスチャが必要になることがあります。
トラブルシューティング
- クリッピングを意図的に使用しているか確認する
もし意図せずクリッピングされているのであれば、clip: true
プロパティの有無や、親アイテムのクリッピング設定を確認します。 - アイテムの原点を考慮する
回転の中心がアイテムの左上(0,0)ではなく中心にある場合など、transformOrigin
の設定も描画範囲に影響します。 - layer.textureSize を適切に設定する
アイテムのコンテンツ(子アイテム、エフェクト、変形など全てを含む)が描画される可能性のある最大サイズを見積もり、それ以上のサイズを設定します。必要であれば、width * 2
,height * 2
のように余裕を持たせたり、transform
プロパティによる変形を考慮して計算します。// 例: 回転を考慮したテクスチャサイズ // 複雑な計算が必要な場合もある layer.textureSize: Qt.size(Math.max(width, height) * 1.5, Math.max(width, height) * 1.5)
描画順序の問題 (Z-order Issues)
エラー症状
- 半透明なアイテムの重なり方がおかしくなる。
- レイヤー化したアイテムが、期待する他のアイテムの上に描画されない、または下に潜り込む。
原因
- ブレンディングモードの不一致
レイヤー自体のブレンディングと、レイヤー内のアイテムのブレンディングが衝突している。 - レイヤー化されたアイテムの特殊性
layer.enabled
を有効にすると、そのアイテムはシーングラフ内で独自の描画パスを持つため、通常のZ-order(z
プロパティ)の挙動とは異なる場合があります。レイヤー内の描画はレイヤーテクスチャに統合され、そのテクスチャがシーングラフに配置されます。
トラブルシューティング
- シンプルな構成でテストする
問題がレイヤーによるものか、QMLの複雑なレイアウトによるものかを切り分けるために、問題のアイテムと関連する数個のアイテムのみで構成されるシンプルなテストケースを作成します。 - レイヤーのブレンディングモード
layer.blendMode
を確認します。デフォルトはQPainter::CompositionMode_SourceOver
ですが、異なるモードが設定されている場合、描画結果が変わります。 - z プロパティの確認
基本的に、レイヤー化したアイテムもz
プロパティに従いますが、複雑なシーングラフでは、他のアイテムとの相対的な描画順序が予期せぬものになることがあります。問題のアイテムのz
値を確認し、必要に応じて調整します。
メモリリークや不安定性 (Memory Leaks / Instability)
エラー症状
- GPUメモリの使用量が徐々に増加し続ける(メモリリーク)。
- アプリケーションの起動時や特定の操作時にクラッシュする。
原因
- リソースの解放不足
レイヤー化されたアイテムが適切に破棄されない場合に、メモリリークが発生する可能性(QMLエンジンが通常は自動的に管理するため稀ですが、C++とQMLの連携で起こりうる)。 - Qtのバグ
まれに、Qt自体のバグが原因である可能性もある。 - ドライバの問題
古いグラフィックドライバや特定のハードウェア/ドライバの組み合わせで、Qtのシーングラフが不安定になることがある。
- QMLのメモリ管理のベストプラクティス
Component.onCompleted
で生成したオブジェクトをComponent.onDestruction
で適切に破棄するなど、基本的なQMLのメモリ管理のベストプラクティスに従っているか確認します。 - QSG_RHI=1 環境変数
Qt 6からはRHI(Rendering Hardware Interface)が導入されています。QSG_RHI=1
を設定して起動し、異なるグラフィックAPI(OpenGL, Vulkan, Direct3Dなど)で動作確認してみることで、特定のAPIやドライバの問題を切り分けられることがあります。 - Qtのバージョンを確認
使用しているQtのバージョンが古い場合、最新のパッチバージョンに更新することで問題が解決する場合があります。 - グラフィックドライバの更新
最新のグラフィックドライバに更新します。
全体的なトラブルシューティングのヒント
- Qtのドキュメントとフォーラムを参照する
Item.layer
に関するQtの公式ドキュメントは非常に詳細です。また、QtのフォーラムやStack Overflowで同様の問題が報告されていないか検索します。 - 段階的にデバッグする
- まず
layer.enabled: false
にして、問題が解決するかどうか確認します。解決すれば、問題はレイヤーに関連している可能性が高いです。 - 問題のアイテムのみを抜き出し、シンプルなQMLファイルで単独でテストします。
layer.textureSize
やlayer.smooth
などの関連プロパティを一つずつ変更して、挙動の変化を確認します。
- まず
Item.layer.enabled
は Qt Quick (QML) でアイテムのレンダリングを最適化したり、特殊な効果を適用したりするための重要なプロパティです。ここでは、いくつかの具体的なプログラミング例を通して、その使い方と効果を解説します。
例1: 基本的なレイヤーの有効化と回転アニメーション
この例では、シンプルな Rectangle
アイテムにレイヤーを有効にし、回転アニメーションを適用します。layer.enabled: true
にすることで、複雑な変形(回転など)がよりスムーズに描画される可能性があります。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Basic Layer Example"
color: "#333333" // 背景色を暗くして見やすくする
Rectangle {
id: layeredItem
width: 200
height: 200
color: "lightblue"
x: (parent.width - width) / 2
y: (parent.height - height) / 2 - 50 // 中央より少し上
// --- ここが重要 ---
// レイヤーを有効にする
layer.enabled: true
// レイヤーのテクスチャは滑らかに補間されるように設定 (アンチエイリアシング効果)
layer.smooth: true
// オプション: レイヤーのテクスチャサイズを明示的に指定
// アイテムのサイズと一致させることが一般的だが、変形によってはより大きなサイズが必要
layer.textureSize: Qt.size(width, height)
// テキストを子要素として配置
Text {
text: "Layered Item"
font.pixelSize: 28
color: "darkblue"
anchors.centerIn: parent
}
// 無限に回転するアニメーション
rotation: 0
Behavior on rotation {
NumberAnimation {
duration: 4000 // 4秒で一周
from: 0
to: 360
loops: Animation.Infinite
}
}
}
// レイヤーを無効にした比較用のアイテム (同じアニメーション)
Rectangle {
id: nonLayeredItem
width: 200
height: 200
color: "lightcoral"
x: (parent.width - width) / 2
y: (parent.height - height) / 2 + 150 // 中央より少し下
// layer.enabled: false (デフォルトなので省略可能)
Text {
text: "Non-Layered Item"
font.pixelSize: 28
color: "darkred"
anchors.centerIn: parent
}
rotation: 0
Behavior on rotation {
NumberAnimation {
duration: 4000
from: 0
to: 360
loops: Animation.Infinite
}
}
}
}
解説
nonLayeredItem
は通常の描画パスでレンダリングされます。複雑なグラフィックや頻繁な変形がある場合、layeredItem
の方がパフォーマンスが良くなる可能性があります。layer.textureSize
は、レイヤーが使用するテクスチャのサイズを指定します。デフォルトでは Qt が自動的に計算しますが、特にアイテムが大きくスケールしたり回転したりする場合、描画コンテンツ全体を収めるために明示的に適切なサイズを設定することが重要です。この例ではアイテムの幅と高さと同じにしていますが、回転によって描画範囲がアイテムの境界を超える場合があるため、その場合はもう少し大きく設定する必要があります。layer.smooth: true
は、レイヤーテクスチャを拡大・縮小・回転する際に、ピクセレーションを防ぎ、より滑らかに表示するための設定です。layeredItem
にlayer.enabled: true
を設定することで、このアイテムとその中のテキストがオフスクリーンバッファ(テクスチャ)に描画され、そのテクスチャがメインのシーングラフに適用されます。
例2: layer.effect
を使用したぼかし効果 (Blur Effect)
layer.enabled
を有効にすると、そのレイヤー全体に layer.effect
プロパティを使って視覚効果を適用できます。ここでは、FastBlur
エフェクトを適用する例を示します。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
import QtQuick.Effects 1.1 // FastBlur を使用するために必要
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Layer Effect Example"
color: "gray"
Image {
id: backgroundImage
source: "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/a2/National_Museum_of_Western_Art_front.jpg/640px-National_Museum_of_Western_Art_front.jpg"
fillMode: Image.PreserveAspectCrop
anchors.fill: parent
}
Rectangle {
id: blurContainer
width: 300
height: 150
color: "transparent" // コンテナ自体は透明
border.color: "white"
border.width: 2
anchors.centerIn: parent
// このコンテナとその内容をレイヤー化
layer.enabled: true
// --- ここが重要 ---
// レイヤー全体に FastBlur エフェクトを適用
layer.effect: FastBlur {
// エフェクトの強度を制御する
radius: 5.0
// レイヤーの背景をぼかすように設定
source: blurContainer.layer.unfiltered // レイヤー化された元のコンテンツ
}
// レイヤー内に表示されるテキスト
Text {
text: "Blurred Content"
font.pixelSize: 36
color: "white"
anchors.centerIn: parent
// テキストにドロップシャドウをつけて、より見やすくする
// このシャドウはレイヤーのエフェクトとは別に描画される
// (テキスト自体はレイヤーの一部として扱われる)
style: Text.DropShadow
styleColor: "black"
}
}
// スライダーでぼかしの半径を制御
Slider {
width: 200
height: 40
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.top: blurContainer.bottom
anchors.topMargin: 20
from: 0.0
to: 20.0
value: blurContainer.layer.effect.radius
onValueChanged: blurContainer.layer.effect.radius = value
}
Text {
text: "Blur Radius: " + blurContainer.layer.effect.radius.toFixed(1)
font.pixelSize: 18
color: "white"
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.top: slider.bottom
anchors.topMargin: 5
}
}
解説
- 背景の
Image
はぼかしの対象外であり、blurContainer
のレイヤーの下に描画されます。 radius
プロパティでぼかしの強度を調整できます。スライダーと連携させることで、リアルタイムにぼかし具合を変更できます。layer.effect: FastBlur { ... }
の部分が重要です。FastBlur
はQtQuick.Effects
モジュールで提供されるQMLタイプで、GPU上で高速にぼかし処理を行います。blurContainer
はlayer.enabled: true
と設定されており、その中に含まれるText
アイテムもすべてこのレイヤーの一部としてオフスクリーンに描画されます。
例3: layer.properties
を使用したカスタムシェーダー効果
layer.properties
を使用すると、レイヤーのテクスチャを直接入力として受け取り、カスタムのOpenGLシェーダーを適用できます。これは高度な使い方ですが、非常に柔軟な視覚効果を実現できます。
import QtQuick 2.15
import QtQuick.Window 2.15
Window {
width: 640
height: 480
visible: true
title: "Custom Shader Layer Example"
color: "#222222"
Rectangle {
id: shaderLayerItem
width: 300
height: 300
color: "blue"
radius: 30 // 角を丸める
anchors.centerIn: parent
// レイヤーを有効にする
layer.enabled: true
layer.smooth: true
// --- ここが重要 ---
// カスタムシェーダーを適用
layer.properties: ShaderEffect {
property real time: 0.0
property real brightness: 1.0
// 頂点シェーダー (通常はデフォルトで十分)
vertexShader: "
attribute highp vec4 qt_Vertex;
attribute highp vec2 qt_TexCoord;
varying highp vec2 qt_UV;
uniform highp mat4 qt_Matrix;
void main() {
qt_UV = qt_TexCoord;
gl_Position = qt_Matrix * qt_Vertex;
}"
// フラグメントシェーダー (ここをカスタマイズ)
fragmentShader: "
varying highp vec2 qt_UV;
uniform sampler2D source; // レイヤーのテクスチャ
uniform highp float time;
uniform highp float brightness;
void main() {
// レイヤーテクスチャから元の色を取得
highp vec4 color = texture2D(source, qt_UV);
// UV座標と時間に基づいた簡単な波紋効果
highp float distort = sin(qt_UV.x * 20.0 + time) * sin(qt_UV.y * 20.0 + time) * 0.01;
highp vec2 distortedUV = qt_UV + vec2(distort, distort);
// 歪んだUVで再度テクスチャをサンプリング
highp vec4 distortedColor = texture2D(source, distortedUV);
// 明るさを調整
gl_FragColor = distortedColor * brightness;
}"
}
// 時間をアニメーションさせるタイマー
Timer {
interval: 16 // 約60 FPS
running: true
repeat: true
onTriggered: shaderLayerItem.layer.properties.time += 0.05
}
Text {
text: "Shader Effect"
font.pixelSize: 40
color: "white"
anchors.centerIn: parent
}
}
// 明るさを制御するスライダー
Slider {
width: 200
height: 40
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.top: shaderLayerItem.bottom
anchors.topMargin: 20
from: 0.0
to: 2.0
value: 1.0
onValueChanged: shaderLayerItem.layer.properties.brightness = value
}
Text {
text: "Brightness: " + shaderLayerItem.layer.properties.brightness.toFixed(1)
font.pixelSize: 18
color: "white"
anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter
anchors.top: slider.bottom
anchors.topMargin: 5
}
}
解説
- フラグメントシェーダー内では、
texture2D(source, qt_UV)
で元のレイヤーテクスチャから色を読み込み、time
を使ってUV座標を歪ませ、再度テクスチャをサンプリングすることで波紋のような効果を作成しています。最後にbrightness
を適用して明るさを調整しています。 time
とbrightness
は、QML側からシェーダーに渡すためのカスタムなユニフォーム変数です。QMLのTimer
とSlider
を使ってこれらをアニメーション/制御しています。uniform sampler2D source;
は、レイヤーのオフスクリーンテクスチャを入力として受け取るための変数です。ShaderEffect
内では、vertexShader
とfragmentShader
を定義できます。vertexShader
: 各頂点の位置を計算します。通常はデフォルトのシェーダーで十分です。fragmentShader
: 各ピクセルの最終的な色を計算します。ここがカスタム効果の実装場所です。
layer.properties: ShaderEffect { ... }
を使用して、カスタムのシェーダーをレイヤー全体に適用しています。shaderLayerItem
はlayer.enabled: true
でレイヤー化されています。
これらの例からわかるように、Item.layer.enabled
は以下のような場面で特に有用です。
- 複雑なアニメーションや変形
頻繁に回転、スケール、透明度などが変化するアイテム。 - GPUベースのエフェクト
ぼかし、ドロップシャドウ、カスタムシェーダーなど、レイヤー全体に適用される視覚効果。 - コンテンツのキャッシュ
静的な内容だが、頻繁に移動や透明度の変更が行われるアイテム。
「Item.layer.enabled」の代替プログラミング手法 (Qt/QML)
Item.layer.enabled
は特定の描画最適化や効果に非常に強力ですが、全てのケースで最適な解決策というわけではありません。状況によっては、他のQML機能やアプローチがより適切である場合があります。ここでは、Item.layer.enabled
の主な代替手法をいくつか説明します。
Item.clip と Item.antialiasing (クリッピングとアンチエイリアシング)
Item.layer.enabled
は、アイテムの境界での描画を滑らかにする(アンチエイリアシング)目的で使われることがありますが、よりシンプルなケースでは別のプロパティで十分です。
-
Item.antialiasing: true
:- 目的
アイテムの境界線や図形の描画を滑らかにする(ギザギザを目立たなくする)。 - layer.enabled との違い
antialiasing
は、通常、アイテムの形状の境界線に適用される描画オプションです。layer.enabled: true
とlayer.smooth: true
の組み合わせは、レイヤー全体のテクスチャのスケーリングや回転時の滑らかさも提供しますが、antialiasing
は直接形状の縁を滑らかにします。 - 使用例
円や丸みを帯びた図形、パスアイテムなどを滑らかに描画したい場合。
Canvas { width: 100; height: 100 antialiasing: true // Canvasの描画を滑らかにする onPaint: { var ctx = getContext("2d"); ctx.clearRect(0, 0, width, height); ctx.beginPath(); ctx.arc(width/2, height/2, 40, 0, Math.PI * 2); ctx.fillStyle = "green"; ctx.fill(); } }
注意点:
antialiasing: true
は、描画オーバーヘッドをわずかに増加させる可能性があります。 - 目的
-
Item.clip: true
:- 目的
アイテムの境界外への描画を切り取る(クリッピング)。 - layer.enabled との違い
clip
は、アイテムのジオメトリで単純に描画を切り取ります。layer.enabled
のようにオフスクリーンバッファを生成するわけではないため、メモリオーバーヘッドが少ないです。 - 使用例
アイテムの丸みを帯びた角に沿ってコンテンツを切り取りたい場合など。
Rectangle { width: 100; height: 100 radius: 20 // 角を丸める color: "lightgray" clip: true // この矩形の外側には描画されない Text { text: "Clipped Text Long long long text" width: parent.width * 2 // 親の幅より大きいが、clipで切り取られる height: parent.height wrapMode: Text.NoWrap color: "blue" } }
- 目的
Qt Quick Effects モジュール (QtQuick.Effects)
Item.layer.enabled
と layer.effect
を組み合わせて使用することは前述の通り強力ですが、QtQuick.Effects
モジュールのエフェクトタイプは、レイヤーを使わずに直接アイテムに適用することもできます。ただし、その場合、パフォーマンス特性が異なる可能性があります。
- 使用例 (Item.layer.enabled なしで FastBlur を使用)
このアプローチは、背景全体や特定の大きな領域をぼかす場合に用いられることがあります。import QtQuick 2.15 import QtQuick.Window 2.15 import QtQuick.Controls 2.15 // Slider 用 import QtQuick.Effects 1.1 // FastBlur 用 Window { width: 640 height: 480 visible: true title: "Direct Effect Example" Image { id: backgroundImage source: "https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e0/Qt_logo_2016.svg/640px-Qt_logo_2016.svg.png" anchors.fill: parent fillMode: Image.PreserveAspectCrop } // 背景イメージ全体にぼかしを直接適用 FastBlur { anchors.fill: backgroundImage source: backgroundImage // ぼかす対象 radius: blurSlider.value } Text { text: "Directly Blurred Background" font.pixelSize: 40 color: "white" anchors.centerIn: parent z: 1 // ぼかしの上に表示 } Slider { id: blurSlider width: 200 anchors.horizontalCenter: parent.horizontalCenter anchors.bottom: parent.bottom anchors.bottomMargin: 20 from: 0.0 to: 20.0 value: 5.0 } }
- layer.effect との違い
layer.effect
は、アイテム全体がオフスクリーンテクスチャに描画された後、そのテクスチャに対してエフェクトを適用します。これは、アイテムのコンテンツ全体に一貫したエフェクトを適用する場合に効率的です。QtQuick.Effects
のエフェクトタイプを直接アイテムの子として配置すると、そのエフェクトは親アイテムのレンダリングパスの一部として処理されます。場合によっては、layer.effect
よりも柔軟な設定が可能ですが、特定の複雑なケースではパフォーマンスが劣ることもあります。
- 目的
ぼかし、ドロップシャドウ、カラーオーバーレイなどの一般的な視覚効果を適用する。
シーングラフの最適化 (Scene Graph Optimization)
Item.layer.enabled
はシーングラフの特定の部分を最適化しますが、QMLシーングラフ全体には他にもパフォーマンスを向上させるためのベストプラクティスがあります。
- Qt.labs.shaders モジュールの利用 (Qt 6 以降推奨)
- 目的
カスタムシェーダーをより現代的で柔軟な方法で適用する。 - layer.properties: ShaderEffect との違い
Qt 6からはQt.labs.shaders
モジュールが推奨され、より簡潔でパフォーマンスの良いカスタムシェーダーの記述が可能です。ShaderEffect
は引き続き利用可能ですが、Qt.labs.shaders
は新しいAPIと機能を提供します。 - 使用例 (Qt 6)
import QtQuick 6.0 import QtQuick.Window 6.0 import Qt.labs.shaders 1.0 // 新しいシェーダーモジュール Window { width: 400; height: 400; visible: true Rectangle { id: rect width: 200; height: 200 color: "green" anchors.centerIn: parent layer.enabled: true // もちろん、ここでもレイヤーと組み合わせられる ShaderEffect { id: myShaderEffect fragmentShader: " #version 450 layout(location = 0) in vec2 qt_UV; layout(location = 0) out vec4 result; layout(binding = 0) uniform sampler2D source; uniform float time; void main() { vec4 color = texture(source, qt_UV); // 簡単な色の揺らぎ color.r += sin(qt_UV.x * 20.0 + time) * 0.1; color.g += cos(qt_UV.y * 20.0 + time) * 0.1; result = color; } " property real time: 0.0 } Timer { interval: 16 running: true repeat: true onTriggered: myShaderEffect.time += 0.05 } } }
- 目的
- 結合可能な描画プリミティブの活用
- 目的
描画命令のバッチ処理を促進し、CPU/GPU間の通信を減らす。 - layer.enabled との違い
layer.enabled
が個別のテクスチャを作成するのに対し、シーングラフの最適化は、可能な限り多くのアイテムを単一の描画パスで処理しようとします。 - 手法
- 同じ色、同じテクスチャの
Rectangle
やImage
を隣接して配置する。 Item
のコンポーネントを不必要に深くネストしない。z
プロパティの使用を最小限にする(Zバッファソートはコストが高い)。Opacity
やVisible
のアニメーションを避ける(特にOpacity
はブレンドを強制し、描画パスを分割することがある)。
- 同じ色、同じテクスチャの
- 目的
C++ でのカスタムシーングラフノード (Custom Scene Graph Nodes)
最も低レベルで柔軟なアプローチですが、最も複雑です。
- 使用例
ゲームの複雑なエフェクト、大規模なグラフ描画、特殊なデータ視覚化など。非常に高度な技術であり、Qtのシーングラフアーキテクチャの深い理解が必要です。 - 手法
QSGNode
を継承したC++クラスを作成し、QSGGeometryNode
やQSGSimpleRectNode
などを使用してカスタムジオメトリやシェーダーを定義します。- QMLからそのC++クラスを
QQuickItem
の派生クラスとして公開し、QMLでインスタンス化します。
- layer.enabled との違い
layer.enabled
はQMLの機能として利用可能な範囲での最適化ですが、カスタムシーングラフノードはQtの描画パイプラインの深部に直接アクセスし、OpenGL/Vulkan/Direct3Dコマンドを直接発行できます。 - 目的
QMLの標準プリミティブでは表現できない特殊な描画や、極限までパフォーマンスを最適化したい場合。
- アプリケーション全体のパフォーマンス最適化
Item.layer.enabled
の有無に関わらず、QMLシーングラフのベストプラクティス(結合可能な描画、Z値の最小化など)を常に考慮する。 - カスタムの描画ロジックや高度なシェーダー
- QMLで完結させたい場合:
Item.layer.enabled
とlayer.properties
の組み合わせ、または Qt 6 ならQt.labs.shaders
モジュール。 - 最高のパフォーマンスと柔軟性が必要で、C++での開発も許容できる場合: カスタムシーングラフノード。
- QMLで完結させたい場合:
- 複雑なアニメーション、複数の変形が適用されるアイテム
Item.layer.enabled
が非常に効果的であることが多い。 - 一般的な視覚効果(ぼかし、ドロップシャドウなど)
- アイテムのコンテンツ全体に効果を適用し、パフォーマンスが重要な場合:
Item.layer.enabled
とlayer.effect
の組み合わせ。 - よりシンプルな構造で、特定のアイテムに直接適用したい場合、あるいは背景全体など、
QtQuick.Effects
モジュールの直接使用も検討。
- アイテムのコンテンツ全体に効果を適用し、パフォーマンスが重要な場合:
- 最も単純なケース(クリッピング、アンチエイリアシングのみ)
Item.clip
やItem.antialiasing
を検討。