これで解決!QtのQList::shrink_to_fit()トラブルシューティング完全ガイド

2025-06-06

QList::shrink_to_fit() とは何か

QList::shrink_to_fit() は、QList クラスのメンバ関数で、リストのメモリ使用量を最適化するために使用されます。具体的には、リストの現在の要素数に合わせて、内部的に確保されているメモリ容量を縮小します

QList は、要素を追加する際に効率を上げるため、実際には必要なメモリよりも少し多めにメモリを事前に確保することがあります。これは「容量(capacity)」と呼ばれるもので、要素が追加されるたびに頻繁にメモリを再割り当てするオーバーヘッドを避けるための一般的な戦略です。

しかし、要素が大量に削除されたり、初期状態よりも要素数が大幅に減ったりした場合、事前に確保されていた余分なメモリは解放されずに残ったままになります。この余分なメモリは、リストが実際に使用している要素数よりも多くのメモリを消費している状態を意味します。

shrink_to_fit() は、この余分なメモリを解放し、リストの現在の要素数(size())にちょうど合うようにメモリを再割り当てします。これにより、メモリのフットプリントを削減し、アプリケーション全体のメモリ効率を向上させることができます。

使用例

#include <QList>
#include <QDebug>

int main() {
    QList<int> myList;

    // 1000個の要素を追加
    for (int i = 0; i < 1000; ++i) {
        myList.append(i);
    }
    qDebug() << "初期サイズ:" << myList.size();
    // この時点で、内部的には1000個以上のメモリが確保されている可能性があります

    // 500個の要素を削除
    for (int i = 0; i < 500; ++i) {
        myList.removeLast();
    }
    qDebug() << "要素削除後のサイズ:" << myList.size();
    // 内部的にはまだ1000個の要素が格納できる分のメモリが確保されたままになっている可能性があります

    // メモリを現在の要素数に合わせて縮小
    myList.shrink_to_fit();
    qDebug() << "shrink_to_fit() 実行後のサイズ:" << myList.size();
    // この時点で、内部的に確保されているメモリが現在の500個の要素に合うように調整されます。

    return 0;
}

上記の例では、まず1000個の要素を追加し、その後500個の要素を削除しています。removeLast() だけでは内部的なメモリ容量は変わらないため、shrink_to_fit() を呼び出すことで、現在の500個の要素に合わせたメモリ解放が行われます。

  • Qtの内部実装: QList の内部的なメモリ管理は、Qtのバージョンやプラットフォームによって異なる場合があります。shrink_to_fit() が実際にどれだけのメモリを解放するかは、その内部実装に依存します。
  • いつ使うべきか: shrink_to_fit() は、リストが一時的に大量の要素を保持した後、その要素数が大幅に減少して安定するような状況で最も有効です。例えば、データの処理が完了し、リストが長期間にわたって小さなサイズで保持される場合などに検討すると良いでしょう。
  • 性能への影響: shrink_to_fit() はメモリの再割り当てを伴うため、実行にはコストがかかります。特に、リストが非常に大きい場合や頻繁に呼び出される場合は、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。


QList::shrink_to_fit() はメモリを最適化するための便利な関数ですが、使用方法や期待される動作に関して、いくつかの誤解や問題が発生することがあります。

エラー:「Method 'shrink_to_fit' could not be resolved」などのコンパイルエラー

原因:

  • IDE/コンパイラの設定ミス: IDEのプロジェクト設定やコンパイラのフラグが正しく設定されていない場合、C++11以降の機能が有効になっていないことがあります。
  • ヘッダーファイルの不足: QList を使用するために必要なヘッダーファイル(通常は <QList>)がインクルードされていない可能性があります。
  • Qtのバージョンが古い: QList::shrink_to_fit() はQt 5.10で導入されました。それ以前のQtバージョンを使用している場合、この関数は存在しません。
  • C++標準バージョンの不足: shrink_to_fit() はC++11で導入された機能です。古いC++標準(C++98など)を使用している場合、この関数は認識されません。

トラブルシューティング:

  • IDE/コンパイラ設定の確認: 使用しているIDE(Qt Creator, Visual Studio, Eclipseなど)のC++コンパイラ設定で、適切なC++標準が選択されているかを確認してください。場合によっては、IDEを再起動したり、プロジェクトのクリーンビルドを試したりすることも有効です。
  • ヘッダーファイルの確認: コードの先頭に #include <QList> があることを確認してください。
  • Qtバージョンの確認: 使用しているQtのバージョンが5.10以降であることを確認してください。
  • C++標準の確認: プロジェクトのビルド設定で、C++11(またはそれ以降のC++14, C++17など)が有効になっていることを確認してください。Qtの.proファイルを使用している場合は、CONFIG += c++11 を追加します。

shrink_to_fit() を呼び出してもメモリが解放されない(または期待通りに減らない)

原因:

  • 共有されたデータ: QList が暗黙的共有(implicitly shared)されている場合、他の QList インスタンスが同じデータポインタを指している可能性があります。この場合、shrink_to_fit() を呼び出しても、共有されている限りメモリは解放されません。コピーオンライト (Copy-On-Write) のメカニズムがトリガーされるまで、メモリの解放は行われません。
  • 最小アロケーション単位: メモリ管理システムやアロケータは、特定の最小アロケーション単位(例えば、16バイトや4KBのページ)を持っている場合があります。リストのサイズがこの最小単位より小さくなったとしても、それ以下にメモリを縮小できない場合があります。
  • 非拘束要求 (Non-binding request): shrink_to_fit() は、標準C++ライブラリの std::vector::shrink_to_fit() と同様に「非拘束要求」です。これは、実装がメモリを縮小する義務がないことを意味します。Qtの実装は通常、可能な限りメモリを解放しますが、特定の状況では(例えば、非常に小さな容量の場合や、アロケータの最適化によって)実際にはメモリを解放しないことがあります。

トラブルシューティング:

  • 明示的な解放(一時的なコピーとスワップ): もし shrink_to_fit() の動作に不満がある場合、より確実にメモリを解放する古典的な手法として、一時的なリストを作成して現在のリストとスワップする方法があります。
    QList<MyType> myList;
    // ... 要素を追加・削除 ...
    QList<MyType>(myList).swap(myList); // 現在の要素数に合う新しいリストを作成し、元のリストとスワップ
    
    この方法は、新しいリストが現在の要素数分のメモリだけを確保し、元のリストの余分なメモリを解放するため、確実にメモリを縮小できます。ただし、要素のコピー/ムーブが発生するため、パフォーマンスコストは高くなります。
  • メモリプロファイラを使用する: 実際のメモリ使用量を正確に確認するには、Qt Creatorに内蔵されているQML/C++ ProfilerやValgrindなどのメモリプロファイラを使用することが最も確実です。これにより、アプリケーションのメモリフットプリントと shrink_to_fit() の影響を客観的に評価できます。
  • 期待値を調整する: shrink_to_fit() が必ずしも完璧にメモリを解放するわけではないことを理解してください。特に小さなリストの場合、効果が見られないことがあります。

頻繁な shrink_to_fit() の呼び出しによるパフォーマンスの低下

原因:

  • shrink_to_fit() はメモリの再割り当てを伴うため、実行にはコストがかかります。リストの要素が頻繁に追加・削除されるループ内で何度も呼び出すと、パフォーマンスが著しく低下する可能性があります。

トラブルシューティング:

  • パフォーマンスプロファイラを使用する: QList::shrink_to_fit() が本当にパフォーマンスのボトルネックになっているのかどうかを判断するために、プロファイラを使用してください。他の部分に問題がある可能性もあります。
  • 呼び出し頻度の最適化: shrink_to_fit() は、リストのサイズが大幅に変動し、かつそのサイズが長期間安定するような「節目」で一度だけ呼び出すようにします。例えば、一連のデータ処理が完了した後などです。

QList の要素が大量にある場合のクラッシュ/メモリ不足

原因:

  • shrink_to_fit() 自体が直接クラッシュの原因となることは稀ですが、非常に大きなリストに対してメモリの再割り当てを行う際に、一時的に大量のメモリが必要となることがあります。もしシステムに十分なメモリがない場合、メモリ割り当ての失敗(bad_alloc 例外など)が発生し、これがクラッシュにつながる可能性があります。

トラブルシューティング:

  • デザインの見直し: そもそも非常に大きなリストをメモリ上で保持する必要があるのかどうか、アプリケーションのデザインを見直すことも検討してください。ファイルへの書き出し、データベースの使用、ストリーミング処理など、メモリ使用量を抑える代替手段があるかもしれません。
  • try-catch ブロック: メモリ割り当てが失敗する可能性のある箇所で try-catch ブロックを使用して、例外を捕捉し、適切にエラーハンドリングを行います。
  • メモリ容量の確認: システムの物理メモリとスワップ領域が十分にあるかを確認します。


QList::shrink_to_fit() は、QList が内部的に確保しているメモリを、現在の要素数に合わせて最適化するために使用されます。ここでは、いくつかの具体的な使用例と、その際の注意点を示すコード例を紹介します。

例1:基本的な使用法とメモリ削減の概念

この例では、QList に要素を追加し、その後削除した際に shrink_to_fit() を呼び出すことで、メモリがどのように最適化されるかを示します(ただし、実際のメモリ解放はプロファイラで確認する必要があります)。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

// 便宜上、ダミーのクラスを定義して、QListがオブジェクトを格納していることを明確にする
class MyData {
public:
    int id;
    QString name;

    MyData(int i = 0, const QString& n = "") : id(i), name(n) {}

    // デバッグ出力用に operator<< をオーバーロード
    friend QDebug operator<<(QDebug debug, const MyData& data) {
        QDebugStateSaver saver(debug);
        debug.nospace() << "MyData(id:" << data.id << ", name:" << data.name << ")";
        return debug;
    }
};

int main(int argc, char *argv[]) {
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<MyData> dataList;
    qDebug() << "--- 初期状態 ---";
    qDebug() << "リストの要素数:" << dataList.size();
    // ここでは容量を示す直接的なメソッドはありませんが、追加時に動的に確保されます。

    qDebug() << "\n--- 大量の要素を追加 ---";
    const int initialCount = 10000;
    for (int i = 0; i < initialCount; ++i) {
        dataList.append(MyData(i, QString("Item %1").arg(i)));
    }
    qDebug() << "要素追加後のサイズ:" << dataList.size();
    // この時点で、QListは10000個以上の要素を格納できるメモリを確保している可能性があります。
    // (将来の追加に備えて、余分に確保されることが多い)

    qDebug() << "\n--- 半分の要素を削除 ---";
    const int removeCount = initialCount / 2;
    for (int i = 0; i < removeCount; ++i) {
        dataList.removeLast(); // 後ろから削除
    }
    qDebug() << "要素削除後のサイズ:" << dataList.size();
    // 実際には5000個の要素しかありませんが、
    // 内部的にはまだ10000個分のメモリが確保されたままになっている可能性が高いです。
    // これは、要素の再追加時にメモリ再割り当てのコストを避けるためです。

    qDebug() << "\n--- shrink_to_fit() を呼び出し ---";
    dataList.shrink_to_fit();
    qDebug() << "shrink_to_fit() 実行後のサイズ:" << dataList.size();
    // この時点で、QListは現在の要素数(5000個)に合うように、
    // 内部的に確保されているメモリを縮小しようと試みます。
    // これにより、未使用のメモリがシステムに返還される可能性があります。

    // 例として、残りの要素をいくつか表示
    if (dataList.size() > 0) {
        qDebug() << "最初のいくつかの要素:" << dataList.first() << dataList.at(1) << "...";
        qDebug() << "最後のいくつかの要素:" << dataList.at(dataList.size() - 2) << dataList.last();
    }

    return a.exec();
}

解説: この例の主要なポイントは、大量の要素を削除した後、shrink_to_fit() を呼び出すことで、リストが実際に使用しているメモリ容量を減らそうとすることです。これにより、アプリケーション全体のメモリフットプリントを最適化できます。

例2:QList::shrink_to_fit() の非拘束性への対応(スワップイディオム)

QList::shrink_to_fit() は「非拘束要求」であり、常にメモリを解放するとは限りません。より確実にメモリを解放したい場合、標準C++でよく使われる「スワップイディオム」を適用できます。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>

// 例1と同じMyDataクラスを使用

int main(int argc, char *argv[]) {
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<MyData> originalList;
    qDebug() << "--- 初期リスト ---";
    const int initialCount = 10000;
    for (int i = 0; i < initialCount; ++i) {
        originalList.append(MyData(i, QString("Original Item %1").arg(i)));
    }
    qDebug() << "オリジナルリストのサイズ:" << originalList.size();

    // 半分の要素を削除
    const int removeCount = initialCount / 2;
    for (int i = 0; i < removeCount; ++i) {
        originalList.removeLast();
    }
    qDebug() << "要素削除後のオリジナルリストのサイズ:" << originalList.size();

    qDebug() << "\n--- shrink_to_fit() を試みる ---";
    originalList.shrink_to_fit();
    qDebug() << "shrink_to_fit() 後のオリジナルリストのサイズ:" << originalList.size();
    // この時点でのメモリ解放はQtの実装とアロケータに依存します。

    qDebug() << "\n--- スワップイディオムによる強制的なメモリ解放 ---";
    // 現在の要素数に合う一時的なQListを作成し、それを元のリストにスワップする
    // これにより、tempListがスコープを抜ける際に、元のリストの余分なメモリが解放される
    QList<MyData>(originalList).swap(originalList); // コピーコンストラクタでコピーし、swap

    qDebug() << "スワップイディオム実行後のオリジナルリストのサイズ:" << originalList.size();
    // この方法では、確実に現在の要素数に合うようにメモリが再割り当てされます。

    // 確認用にいくつかの要素を表示
    if (originalList.size() > 0) {
        qDebug() << "スワップ後の最初の要素:" << originalList.first();
    }

    return a.exec();
}

解説: QList<MyData>(originalList).swap(originalList); の行は、以下の手順を実行します。

  1. QList<MyData>(originalList): originalList のコピーを作成します。この新しい一時的なリストは、originalList現在の要素数分のメモリだけを確保します。余分な容量は確保されません。
  2. .swap(originalList): 新しく作成された一時リストと originalList の内部データを交換します。これにより、originalList は新しい小さなメモリ領域を指すようになり、元の大きなメモリ領域は一時リストが指すようになります。
  3. 一時リストがスコープを抜ける際(この行の終わり)、デストラクタが呼び出され、元の大きなメモリ領域(一時リストが指していたもの)が解放されます

この方法はメモリを確実に解放しますが、すべての要素をコピー(またはムーブ)するため、パフォーマンスコストが高くなることに注意してください。大規模なリストで頻繁に呼び出すべきではありません。

例3:パフォーマンスとメモリ消費のバランスを考慮した使用シナリオ

shrink_to_fit() を使うべき最適なタイミングは、リストのサイズが大きく変動した後、そのサイズが長期間安定することが予測される場合です。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>
#include <QElapsedTimer> // 処理時間計測用

// 例1と同じMyDataクラスを使用

int main(int argc, char *argv[]) {
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QElapsedTimer timer;

    QList<MyData> processedData;

    qDebug() << "--- データ処理フェーズ開始 ---";
    // フェーズ1: 外部からデータを読み込み、一時的に大量の要素を格納する
    timer.start();
    const int dataVolume = 500000; // 50万個の要素
    for (int i = 0; i < dataVolume; ++i) {
        processedData.append(MyData(i, QString("Raw Data %1").arg(i)));
    }
    qDebug() << "初期データ読み込み時間:" << timer.elapsed() << "ms";
    qDebug() << "現在のリストサイズ:" << processedData.size();

    // フェーズ2: データフィルタリングや加工を行い、不要な要素を削除する
    // 例えば、特定の条件を満たさない要素を削除
    timer.restart();
    // 偶数IDのデータだけを残す例
    for (int i = processedData.size() - 1; i >= 0; --i) {
        if (processedData.at(i).id % 2 != 0) {
            processedData.removeAt(i);
        }
    }
    qDebug() << "データフィルタリング時間:" << timer.elapsed() << "ms";
    qDebug() << "フィルタリング後のリストサイズ:" << processedData.size();
    // この時点でリストのサイズは半分の25万個になっていますが、
    // 内部的なメモリ容量は50万個分のままかもしれません。

    qDebug() << "\n--- 処理済みデータ保持フェーズへの移行 ---";
    // データ処理が完了し、リストが長期間にわたってこのサイズで利用されると想定される場合
    // ここでメモリを最適化する。
    timer.restart();
    processedData.shrink_to_fit();
    qDebug() << "shrink_to_fit() 実行時間:" << timer.elapsed() << "ms";
    qDebug() << "最適化後のリストサイズ:" << processedData.size();
    // この`shrink_to_fit()`は、メモリ使用量を減らすために一度だけ呼び出される。

    qDebug() << "\n--- アプリケーションの他の部分で最適化されたリストを使用 ---";
    // 例として、残りの要素をいくつか表示
    if (processedData.size() > 0) {
        qDebug() << "最初の要素 (フィルタリング後):" << processedData.first();
        qDebug() << "最後の要素 (フィルタリング後):" << processedData.last();
    }

    return a.exec();
}

解説: この例では、データ処理の段階でQListが一時的に大量のメモリを使用し、その後にデータがフィルタリングされて要素数が減少するシナリオを示しています。このような場合、データ処理の完了後(リストのサイズが安定した時点)にshrink_to_fit()を呼び出すことで、アプリケーションがアイドル状態になった際にメモリを解放し、他のプロセスに利用できるようにすることができます。頻繁な呼び出しを避け、アプリケーションのライフサイクルにおける論理的な節目で一度だけ呼び出すのが良いプラクティスです。



スワップイディオム(Swap Idiom)

これは、shrink_to_fit() が導入される前からC++標準ライブラリの std::vector などでメモリを確実に解放するための一般的な方法です。

仕組み:

  1. 現在のリストと同じ要素をコピーして、新しい一時的なリストを作成します。この一時リストは、現在の要素数にちょうど合うようにメモリを確保します。
  2. 作成した一時リストと、元のリストの内部データをスワップします。
  3. スワップ後、元のリストは、現在の要素数に合うように最適化されたメモリを持つようになります。
  4. 一時リストがスコープを抜ける際に、元のリストが以前に確保していた余分なメモリが解放されます。

メリット:

  • shrink_to_fit() が存在しない古いQtバージョンでも使用できます。
  • メモリを確実に現在の要素数にまで縮小できます。

デメリット:

  • 一時的にメモリ使用量が増加する可能性があります(元のリストと一時リストの両方がメモリを保持する間)。
  • 要素のコピー(またはムーブ)が発生するため、リストの要素数が多い場合はパフォーマンスコストが高いです。

コード例:

#include <QList>
#include <QDebug>

int main() {
    QList<int> myList;

    // 大量の要素を追加
    for (int i = 0; i < 10000; ++i) {
        myList.append(i);
    }
    qDebug() << "初期サイズ:" << myList.size();
    // この時点で、内部的には10000個以上のメモリが確保されている可能性があります

    // 半分の要素を削除
    for (int i = 0; i < 5000; ++i) {
        myList.removeLast();
    }
    qDebug() << "要素削除後のサイズ:" << myList.size();

    qDebug() << "--- スワップイディオムでメモリを縮小 ---";
    // 現在のリストの内容をコピーして新しいQListを作成し、それを元のリストとスワップ
    QList<int>(myList).swap(myList); // 一時オブジェクトがスコープを抜けるときにメモリが解放される

    qDebug() << "スワップ後のサイズ:" << myList.size();
    // この時点で、メモリは現在の5000個の要素に合うように最適化されます。

    return 0;
}

clear() と再構築

リストの内容が不要になり、かつ同じリストを再利用する場合に、完全にクリアしてから要素を再追加する方法です。

仕組み:

  1. clear() メソッドを呼び出して、リストからすべての要素を削除し、内部的なメモリを解放します。
  2. その後、必要な要素を再度リストに追加します。

メリット:

  • clear() は通常、リスト全体のメモリを解放します(完全に0にする)。
  • シンプルで分かりやすい。

デメリット:

  • 要素をクリアした後に新しい要素が非常に少ない場合でも、再追加時に再び余分なメモリが確保される可能性があります。
  • 必要な要素を再度追加するためのロジックとコストが発生します。
  • リストの内容が一時的に失われます。

コード例:

#include <QList>
#include <QDebug>

int main() {
    QList<QString> messageLog;

    // ログメッセージを蓄積
    for (int i = 0; i < 1000; ++i) {
        messageLog.append(QString("Log entry %1").arg(i));
    }
    qDebug() << "初期ログサイズ:" << messageLog.size();

    // ログがいっぱいになったので、一度クリアして、必要な少量の最新ログだけを保持する
    qDebug() << "\n--- clear() してから新しいログを追加 ---";
    messageLog.clear(); // すべての要素を削除し、メモリを解放
    qDebug() << "clear() 後のサイズ:" << messageLog.size();

    // 新しいログエントリを追加
    for (int i = 0; i < 5; ++i) {
        messageLog.append(QString("New Log entry %1").arg(i));
    }
    qDebug() << "新しいログ追加後のサイズ:" << messageLog.size();
    // この時点で、QListは5個の要素に合わせたメモリを確保し直します。

    return 0;
}

QVector の使用(Qt 6以降でより関連性が高い)

Qt 6 では QListQVector の内部実装が統一され、QListQVector のエイリアスとなることで、両者が同じような動作をします。しかし、Qt 5以前では QVector は連続したメモリを確保し、QList は要素へのポインタの配列を保持する(特定の条件下で要素自体を直接格納する場合もある)という違いがありました。

Qt 5以前でQVectorを使用する場合、QVectorにはcapacity()reserve()resize()といったより明示的なメモリ管理メソッドがありました。resize()を使ってサイズを小さくすることで、メモリを解放できることがありました(ただし、これも実装依存の側面があります)。

Qt 5以前での QVector::resize() の概念:

#include <QVector>
#include <QDebug>

int main() {
    QVector<double> dataPoints;

    // 大量のデータを追加
    for (int i = 0; i < 10000; ++i) {
        dataPoints.append(static_cast<double>(i) / 100.0);
    }
    qDebug() << "初期QVectorサイズ:" << dataPoints.size() << ", 容量:" << dataPoints.capacity();

    // 半分のデータを削除(論理的な削除、メモリはそのまま)
    dataPoints.resize(dataPoints.size() / 2);
    qDebug() << "resize() 後のQVectorサイズ:" << dataPoints.size() << ", 容量:" << dataPoints.capacity();
    // resize() は要素数を変更しますが、capacity() は変わらないことが多いです。

    // QList::shrink_to_fit() に相当する明確なメソッドはありませんが、
    // resize() をゼロにしてから再度必要なサイズに戻すことで、メモリを解放する効果を期待できます。
    // (これもスワップイディオムと同様の原理に近くなります)
    QVector<double> tempVec(dataPoints); // 現在の要素数で新しいQVectorを作成
    dataPoints.swap(tempVec); // スワップしてメモリを解放
    qDebug() << "スワップ後のQVectorサイズ:" << dataPoints.size() << ", 容量:" << dataPoints.capacity();


    return 0;
}

解説: Qt 5以前のQVectorでは、resize(newSize)は要素数をnewSizeに変更しますが、capacity()が自動的にnewSizeまで縮小されるとは限りませんでした。QVectorのメモリを確実に縮小したい場合も、結局はスワップイディオムが最も確実な方法でした。

Qt 6以降の QListQVector について: Qt 6 では QListQVector は内部的に同じ実装を共有しているため、QList::shrink_to_fit()QVector::shrink_to_fit() と同じように機能します。したがって、Qt 6 以降では、QListQVector のどちらを選んでも shrink_to_fit() は同等の効果を発揮し、特別な代替方法を考える必要性は少なくなります。ただし、上述のスワップイディオムは、shrink_to_fit() が非拘束的であることに対する「確実な」代替手段として引き続き有効です。

QList::shrink_to_fit() の代替手段を検討する際は、以下の点を考慮してください。

  • リストのライフサイクル: リストの内容が一時的に大量になり、その後安定するようなシナリオでは、処理の終わりに一度だけ最適化をかけるのが最も効率的です。
  • パフォーマンスコスト: 要素のコピーが発生する代替手段は、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。リストのサイズや操作の頻度に応じて適切な方法を選択してください。
  • メモリ解放の確実性: shrink_to_fit() が非拘束的であるため、確実にメモリを解放したい場合はスワップイディオムが有効です。
  • Qtのバージョン: Qt 5.10以前のバージョンを使用している場合は、shrink_to_fit() が存在しないため、代替手段が必要です。