Qt QList::Iterator徹底解説:基本から応用まで

2025-06-06

QList::Iterator は、Qt のコンテナクラスである QList の要素を順にアクセス(イテレート)するためのクラスです。C++ のイテレータの概念に基づいており、コンテナ内の要素を指し示し、次の要素へ移動したり、指し示している要素の値を取得したりするのに使用されます。

主な特徴と使い方

  1. 要素へのポインタのようなもの: QList::Iterator は、QList 内の特定の要素を「指し示す」ものと考えることができます。しかし、生ポインタとは異なり、コンテナの内部構造の変化にも安全に対応できるように設計されています。

  2. イテレータの取得:

    • QList::begin(): QList の最初の要素を指すイテレータを返します。
    • QList::end(): QList の「最後の要素の次」を指すイテレータを返します。これはループの終了条件としてよく使われます。
  3. イテレータの操作:

    • operator*(): イテレータが指し示している要素への参照(T&)を返します。これにより、要素の読み取りや変更が可能です。
    • operator++(): イテレータを次の要素へ進めます。
    • operator--(): イテレータを前の要素へ戻します(双方向イテレータの場合)。
    • operator==() / operator!=(): 2つのイテレータが同じ要素を指しているか比較します。
  4. 典型的なループ:

    QList<QString> myStringList;
    myStringList << "Apple" << "Banana" << "Cherry";
    
    // QList の要素をイテレータを使って順にアクセスする例
    QList<QString>::Iterator i;
    for (i = myStringList.begin(); i != myStringList.end(); ++i) {
        qDebug() << *i; // イテレータが指す要素の値を出力
    }
    
  5. const イテレータ (QList::ConstIterator): QList::ConstIterator は、イテレータが指し示す要素を変更できないイテレータです。読み取り専用のアクセスが必要な場合や、定数オブジェクトの QList をイテレートする場合に使用します。

    const QList<int> myConstIntList = {10, 20, 30};
    QList<int>::ConstIterator j;
    for (j = myConstIntList.begin(); j != myConstIntList.end(); ++j) {
        qDebug() << *j; // 読み取りは可能
        // *j = 40; // これはコンパイルエラーになります(変更不可)
    }
    

内部的な実装(概念的)

QList::Iterator は、通常、リストの内部的なノードへのポインタのようなものとして実装されています。これにより、要素の追加や削除がリストの途中で行われても、イテレータが(無効にならない限り)引き続き正しく機能するように設計されています。

範囲ベースforループとの関係

C++11以降で導入された範囲ベースforループ (for (auto item : container)) は、内部的にイテレータを使用しています。Qt のコンテナクラスもこれに対応しているため、多くの場合、QList::Iterator を直接扱う代わりに、より簡潔な範囲ベースforループを使用することができます。

QList<double> myDoubleList;
myDoubleList << 1.1 << 2.2 << 3.3;

for (double value : myDoubleList) {
    qDebug() << value;
}


QList::Iterator は非常に強力ですが、誤った使い方をすると特定のエラーに遭遇することがあります。ここでは、一般的なエラーとそのトラブルシューティング方法を説明します。

イテレータの無効化 (Iterator Invalidation)

エラーの原因: QList の要素を追加または削除することで、既存のイテレータが無効になることがあります。無効になったイテレータを使用すると、未定義の動作(クラッシュ、誤ったデータアクセスなど)を引き起こします。

:

QList<int> list = {1, 2, 3, 4, 5};
QList<int>::Iterator it = list.begin(); // '1' を指している

// イテレータを一つ進めてから、リストの途中に要素を追加
++it; // '2' を指している
list.insert(0, 100); // 先頭に要素を追加すると、既存のイテレータが無効になる可能性がある

// ここで 'it' を使用すると未定義の動作
// qDebug() << *it; // クラッシュの可能性

トラブルシューティング:

  • QMutableListIterator の検討: QList の要素を安全に削除しながらイテレートする必要がある場合、QMutableListIterator を使うとより簡単に扱えます。

  • ループ中に要素を削除する場合: removeAt() の代わりに erase() メソッドを使用し、erase() が返す新しいイテレータを代入します。

    QList<int> list = {1, 2, 3, 4, 5};
    QList<int>::Iterator i = list.begin();
    while (i != list.end()) {
        if (*i % 2 == 0) { // 偶数を削除
            i = list.erase(i); // erase() は次の要素を指すイテレータを返す
        } else {
            ++i;
        }
    }
    // list は {1, 3, 5} になる
    
  • 要素の追加/削除後にイテレータを再取得する: QList の要素を変更する操作(insert(), removeAt(), clear() など)を行った後は、イテレータを再取得する必要があります。

    QList<int> list = {1, 2, 3, 4, 5};
    QList<int>::Iterator it = list.begin();
    
    // 先頭に要素を追加し、イテレータを再取得
    list.insert(0, 100);
    it = list.begin(); // 安全に '100' を指すイテレータを取得
    qDebug() << *it; // 100
    

end() イテレータの逆参照 (Dereferencing end() Iterator)

エラーの原因: QList::end() が返すイテレータは、リストの「最後の要素の次」を指します。これはあくまでループの終了条件として使われるものであり、そのイテレータが指す場所には有効な要素が存在しませんend() イテレータを逆参照(*it)しようとすると、未定義の動作やクラッシュが発生します。

:

QList<QString> list = {"A", "B"};
QList<QString>::Iterator it = list.end();
// qDebug() << *it; // エラー!end() イテレータを逆参照している

トラブルシューティング:

  • 空のリストのチェック: 特に、リストが空の場合(list.isEmpty())、begin()end() が同じイテレータを返すため、ループが実行されないことを確認してください。
  • ループ条件の確認: ほとんどのループでは it != list.end() のように終了条件を設定し、itend() に到達する前にループを抜けるようにします。

const と非const イテレータの混同

エラーの原因: QList::ConstIterator は要素を読み取ることしかできません。これを使って要素を変更しようとするとコンパイルエラーになります。また、非constQList に対して begin() を呼び出すと QList::Iterator が返され、constQList に対して begin() を呼び出すと QList::ConstIterator が返されます。これらを混同すると意図しない動作やコンパイルエラーに繋がります。

:

QList<int> list = {1, 2, 3};
QList<int>::ConstIterator it = list.begin();
// *it = 10; // コンパイルエラー: const イテレータは変更不可

const QList<int> constList = {4, 5, 6};
// QList<int>::Iterator mutableIt = constList.begin(); // コンパイルエラー: const QListからはConstIteratorしか取得できない

トラブルシューティング:

  • auto キーワードの利用: C++11以降では auto キーワードを使うことで、正しいイテレータ型を自動的に推論させることができます。

    QList<int> list = {1, 2, 3};
    for (auto it = list.begin(); it != list.end(); ++it) {
        // it は QList<int>::Iterator 型
        *it = *it * 2;
    }
    
    const QList<int> constList = {4, 5, 6};
    for (auto it = constList.begin(); it != constList.end(); ++it) {
        // it は QList<int>::ConstIterator 型
        qDebug() << *it;
    }
    
  • 要素を読み取るだけの場合: QList::ConstIterator を使用するのが良い習慣です。これにより、コードの意図が明確になり、誤って要素を変更するのを防ぎます。

  • 要素を変更する場合: QList::Iterator を使用し、対象の QList が非const であることを確認してください。

イテレータの初期化忘れや範囲外アクセス

エラーの原因: イテレータが初期化されていない、またはリストの有効な範囲外の要素を指している状態でアクセスしようとすると、未定義の動作になります。

:

QList<int> list;
QList<int>::Iterator it; // 初期化されていない

// qDebug() << *it; // エラー!

トラブルシューティング:

  • ループを回す際には、必ず it != list.end() のような条件でループの範囲を適切に制御してください。
  • 常にイテレータを begin()end()、または他の有効なイテレータで初期化してください。

Qt コンテナのイテレータとSTLイテレータの違い

エラーの原因: Qt のコンテナは標準STLコンテナと似ていますが、イテレータの挙動に微妙な違いがある場合があります(特にinsert()erase() の戻り値など)。STLの知識を直接適用すると、Qtのイテレータで問題が発生することがあります。

トラブルシューティング:

  • QMutableListIterator の活用: 挿入や削除を伴う複雑なイテレーションでは、QMutableListIterator を使用すると、イテレータの無効化をより安全に扱うことができます。
  • Qtのドキュメントを優先する: Qt の公式ドキュメント(特にQList::IteratorQListの各メソッドのドキュメント)をよく読み、正確な動作を理解してください。


QList::Iterator は、QList の要素を効率的かつ安全に操作するための重要なツールです。ここでは、基本的な使い方から、要素の変更、削除まで、いくつかのプログラミング例を挙げます。

基本的なイテレーション(要素の読み取り)

最も基本的な使い方です。begin() で開始イテレータを取得し、end() に到達するまで ++ 演算子でイテレータを進めます。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug> // qDebug() を使うために必要

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<QString> fruits;
    fruits << "Apple" << "Banana" << "Pomegranate" << "Grape";

    qDebug() << "--- リストの要素を順に表示 ---";

    // QList::Iterator を宣言
    QList<QString>::Iterator i;

    // begin() から end() までイテレート
    for (i = fruits.begin(); i != fruits.end(); ++i) {
        qDebug() << *i; // イテレータが指す要素の値にアクセス (逆参照)
    }

    qDebug() << "--- 最初の要素だけ表示 (begin() の例) ---";
    if (!fruits.isEmpty()) {
        QList<QString>::Iterator firstItem = fruits.begin();
        qDebug() << "最初のフルーツ: " << *firstItem;
    }

    return a.exec();
}

解説:

  • *i でイテレータが現在指し示している要素の値にアクセスします。
  • ++i でイテレータを次の要素へ移動させます。
  • fruits.end() はリストの「最後の要素の次」を指すイテレータを返します。ループの終了条件として使われます。
  • fruits.begin() はリストの最初の要素を指すイテレータを返します。

要素の変更

QList::Iterator は要素への参照を返すため、*i を使って要素の値を変更することも可能です。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<int> numbers;
    numbers << 10 << 20 << 30 << 40 << 50;

    qDebug() << "--- 変更前 ---";
    for (int num : numbers) { // C++11 範囲ベースforループで表示
        qDebug() << num;
    }

    qDebug() << "--- 要素を2倍に変更 ---";
    QList<int>::Iterator it;
    for (it = numbers.begin(); it != numbers.end(); ++it) {
        *it = *it * 2; // イテレータが指す要素の値を2倍にする
    }

    qDebug() << "--- 変更後 ---";
    for (int num : numbers) {
        qDebug() << num;
    }

    return a.exec();
}

解説:

  • *it = *it * 2; の行で、イテレータ it が指す整数値に直接アクセスし、その値を変更しています。

QList::ConstIterator を使った読み取り専用アクセス

要素を変更するつもりがなく、読み取りのみを行う場合は QList::ConstIterator を使用するのが良いプラクティスです。これにより、誤って要素を変更してしまうのを防ぎ、コードの意図を明確にします。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    const QList<double> temperatures = {25.5, 26.1, 24.9, 27.0}; // const QList

    qDebug() << "--- 気温データ ---";
    // QList::ConstIterator を宣言
    QList<double>::ConstIterator cit;

    for (cit = temperatures.begin(); cit != temperatures.end(); ++cit) {
        qDebug() << QString("温度: %1°C").arg(*cit);
        // *cit = 30.0; // コンパイルエラー: const イテレータは変更不可
    }

    return a.exec();
}

解説:

  • QList::ConstIterator では *citconst double& を返すため、値の変更はできません。
  • const QList<double> temperatures のように、リスト自体が定数である場合、begin() は自動的に QList::ConstIterator を返します。

ループ内での要素の削除 (erase() の使用)

ループ中に QList の要素を削除する際は、イテレータの無効化に注意が必要です。QList::erase() メソッドは、削除された要素の次の要素を指す新しいイテレータを返すため、これを受け取ることで安全にループを継続できます。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<QString> items;
    items << "Red" << "Green" << "Blue" << "Yellow" << "Orange" << "Green";

    qDebug() << "--- 削除前 ---";
    qDebug() << items;

    qDebug() << "--- 'Green' を削除 ---";
    QList<QString>::Iterator it = items.begin();
    while (it != items.end()) {
        if (*it == "Green") {
            // erase() は削除された要素の次のイテレータを返すので、それを受け取る
            it = items.erase(it);
        } else {
            // 削除しなかった場合は、手動で次の要素へ進める
            ++it;
        }
    }

    qDebug() << "--- 削除後 ---";
    qDebug() << items;

    return a.exec();
}

解説:

  • 要素を削除しなかった場合は、通常の ++it でイテレータを進めます。
  • if (*it == "Green") の条件が真の場合、items.erase(it) で現在の要素を削除します。erase() は新しいイテレータ(削除された要素の次の要素を指す)を返すので、それを it に再代入します。
  • while (it != items.end()) でループを回します。

QMutableListIterator を使った要素の変更と削除

QMutableListIterator は、QList のイテレーション中に要素の追加や削除をより簡単に、かつ安全に行うための専用のイテレータクラスです。特に、削除時にイテレータの再取得を管理する必要がありません。

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>
#include <QMutableListIterator> // QMutableListIterator を使うために必要

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<int> numbers;
    numbers << 1 << 2 << 3 << 4 << 5 << 6 << 7 << 8 << 9 << 10;

    qDebug() << "--- 変更・削除前 ---";
    qDebug() << numbers;

    qDebug() << "--- 奇数を削除し、偶数を100倍 ---";
    // QMutableListIterator を宣言
    QMutableListIterator<int> i(numbers);

    while (i.hasNext()) { // 次の要素があるか
        int value = i.next(); // 次の要素に進み、その値を取得

        if (value % 2 != 0) { // 奇数なら
            i.remove(); // 現在の要素を削除
        } else { // 偶数なら
            i.setValue(value * 100); // 現在の要素の値を変更
        }
    }

    qDebug() << "--- 変更・削除後 ---";
    qDebug() << numbers; // 結果: (200, 400, 600, 800, 1000)

    return a.exec();
}

解説:

  • i.setValue(newValue) で現在イテレータが指している要素の値を変更します。
  • i.remove() で現在イテレータが指している要素を削除します。イテレータは自動的に次の有効な位置に調整されます。
  • i.next() でイテレータを次の要素に進め、その要素の値を返します。
  • i.hasNext() で次の要素が存在するかを確認します。
  • QMutableListIterator<int> i(numbers); でイテレータを初期化します。


QList::IteratorQList の要素を操作する上で非常に柔軟で強力なツールですが、より簡潔に、あるいは特定の状況でより安全に要素を扱うための代替手段がいくつか存在します。主な代替方法としては、以下のものが挙げられます。

C++11 範囲ベースforループ (Range-based for loop)

これは現代のC++で最も推奨される、コンテナの要素をイテレートする簡潔な方法です。内部的にはイテレータを使用していますが、開発者が直接イテレータを操作する必要がありません。

特徴:

  • 読み取り専用またはコピー: デフォルトでは要素のコピー、あるいは const 参照での読み取りが行われます。
  • 安全性: begin()end() の呼び出し、++ 演算子の適用などを自動で行うため、イテレータの操作ミスによるエラー(end() の逆参照など)を防げます。
  • 簡潔性: コードが非常に読みやすく、記述量が少ないです。

コード例:

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<QString> names;
    names << "Alice" << "Bob" << "Charlie";

    qDebug() << "--- 範囲ベースforループ (読み取り専用) ---";
    // 要素を読み取るだけの場合 (変更不可)
    for (const QString &name : names) {
        qDebug() << name;
    }

    qDebug() << "--- 範囲ベースforループ (要素の変更) ---";
    QList<int> numbers = {1, 2, 3, 4, 5};
    for (int &num : numbers) { // 参照 (&) を使うと要素を変更できる
        num *= 10;
    }
    qDebug() << numbers; // (10, 20, 30, 40, 50)

    // 注意: 範囲ベースforループ中にQListの要素を追加・削除すると、未定義の動作になる可能性が高いです。

    return a.exec();
}

適用すべきケース:

  • イテレート中にリストのサイズを変更しない場合。
  • リストの要素の値をインプレースで変更する場合(参照を使用)。
  • リストの要素を読み取るだけの場合。

インデックスベースのアクセス (Integer-based access)

QList はシーケンスコンテナであり、operator[]at() メソッドを使ってインデックスで要素にアクセスできます。

特徴:

  • 要素の追加/削除の制限: イテレート中に要素の追加/削除を行うとインデックスがずれ、ロジックが複雑になるか、未定義の動作を引き起こす可能性があります。
  • ランダムアクセス: どの要素にも定数時間で直接アクセスできます。
  • 直感的: 配列のようにインデックスでアクセスできるため、プログラマによってはより直感的に感じられます。

コード例:

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<double> scores;
    scores << 85.0 << 92.5 << 78.0 << 95.0;

    qDebug() << "--- インデックスベースのアクセス ---";
    for (int i = 0; i < scores.size(); ++i) {
        qDebug() << QString("スコア[%1]: %2").arg(i).arg(scores[i]);
    }

    // 要素の変更
    if (scores.size() > 0) {
        scores[0] = 90.0; // 最初の要素を変更
    }
    qDebug() << "変更後最初のスコア: " << scores[0];

    // インデックスベースで要素を削除する例 (注意が必要)
    // この方法は、削除時にインデックスがずれるため、後方からループするか、
    // 削除後にインデックスを調整するなどの工夫が必要です。
    qDebug() << "--- 特定の要素をインデックスで削除 ---";
    QList<QString> colors = {"Red", "Green", "Blue", "Yellow"};
    qDebug() << "削除前:" << colors;
    if (colors.contains("Green")) {
        int index = colors.indexOf("Green");
        if (index != -1) {
            colors.removeAt(index);
        }
    }
    qDebug() << "削除後:" << colors; // (Red, Blue, Yellow)

    return a.exec();
}

適用すべきケース:

  • イテレート中にリストの要素の追加・削除が頻繁に発生しない場合(または、その処理を慎重に設計できる場合)。
  • リストの要素数を基準にループを回す場合。
  • 特定のインデックスにある要素に直接アクセスする必要がある場合。

QMutableListIterator

QMutableListIterator は、QList::Iterator の一種ですが、イテレーション中に要素の追加、変更、削除を安全に行うことを目的とした専用のクラスです。イテレータの無効化を自動的に管理してくれます。

特徴:

  • 双方向: 前後どちらの方向にも移動できます。
  • 柔軟な操作: next(), previous(), remove(), add(), setValue() といったメソッドを提供し、様々な操作をサポートします。
  • 安全な変更: イテレーション中に要素を追加したり削除したりしても、イテレータが無効になる心配がほとんどありません。

コード例:

#include <QCoreApplication>
#include <QList>
#include <QDebug>
#include <QMutableListIterator>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QList<int> data = {1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10};

    qDebug() << "--- QMutableListIterator で操作 ---";
    qDebug() << "元データ:" << data;

    QMutableListIterator<int> i(data);
    while (i.hasNext()) {
        int value = i.next();
        if (value % 2 == 0) { // 偶数なら
            i.setValue(value * 100); // 値を変更
        } else { // 奇数なら
            i.remove(); // 削除
        }
    }

    qDebug() << "操作後データ:" << data; // (200, 400, 600, 800, 1000)

    // リストの先頭に要素を追加する例
    qDebug() << "--- 要素の追加 ---";
    QMutableListIterator<int> j(data);
    j.toFront(); // イテレータを先頭に移動
    j.add(99); // 先頭に要素を追加
    j.next(); // 99 の次 (200) に移動
    j.add(88); // 200 の次 (つまり 99 の後) に 88 を追加

    qDebug() << "追加後データ:" << data; // (99, 88, 200, 400, 600, 800, 1000)

    return a.exec();
}

適用すべきケース:

  • 双方向のイテレーションが必要な場合。
  • 既存の要素の値を変更しながらイテレートする場合。
  • イテレート中にリストの要素を追加したり削除したりする必要がある場合。

どの方法を選ぶべきか?

  • パフォーマンスが非常に重要で、低レベルな制御が必要な場合: QList::Iterator を直接使うことも選択肢ですが、その際にはイテレータの無効化といった概念を深く理解しておく必要があります。
  • イテレーション中に要素の追加や削除、柔軟な操作が必要な場合: QMutableListIterator が最適です。QList::Iteratorerase() の組み合わせよりも、コードが簡潔でエラーが少なくなります。
  • 特定のインデックスでアクセスする必要がある場合: インデックスベースのアクセス (operator[]at()) を使用します。ただし、ループ内で要素の追加・削除を行う場合は注意が必要です。
  • 最もシンプルで一般的なケース(読み取り専用または単純な値の変更): C++11 範囲ベースforループ を使うのが最も推奨されます。コードが最も簡潔で安全です。