分散訓練ジョブの立役者「torch.distributed.elastic.agent.server.SimpleElasticAgent._initialize_workers()」のすべて
torch.distributed.elastic.agent.server.SimpleElasticAgent._initialize_workers()
は、PyTorch Distributed Elastic における SimpleElasticAgent クラスの重要なメソッドの一つです。このメソッドは、分散訓練ジョブにおいてワーカープロセスを初期化し、適切に起動させる役割を担います。
役割
具体的には、以下の処理を実行します。
- ワーカー情報の取得
ジョブ設定から、ワーカーの数、エントリーポイントスクリプト、ワーカーの役割、必要なリソースなどを取得します。 - ワーカープロセスの起動
各ワーカー情報に基づいて、サブプロセスを使用してワーカープロセスを起動します。 - ワーカー情報の共有
各ワーカープロセスに、自身のグローバルランク、ワールドサイズ、マスターワーカーのアドレスなどの情報を共有します。 - ランデブーの実行
すべてのワーカープロセスが起動し、必要な情報を受信したら、ランデブーと呼ばれる同期処理を実行します。ランデブーは、すべてのワーカーが起動して準備完了したことを確認するための重要なステップです。
コード例
def _initialize_workers(self):
self.worker_ranks = self._assign_worker_ranks()
self._start_workers()
self._rendezvous()
詳細解説
ワーカー情報の取得
ジョブ設定は、
spec
パラメータとしてSimpleElasticAgent
コンストラクタに渡されます。この設定から、ワーカーの数、エントリーポイントスクリプト、ワーカーの役割、必要なリソースなどの情報が取得されます。ワーカープロセスの起動
torch.distributed.elastic.multiprocessing.start_processes()
関数を使用して、各ワーカープロセスをサブプロセスとして起動します。この関数には、ワーカーのエントリーポイントスクリプト、ワーカーの役割、必要なリソースなどの情報が渡されます。ワーカー情報の共有
各ワーカープロセスに対して、以下の情報を共有します。
- グローバルランク: ワーカーの固有の ID 番号
- ワールドサイズ: ジョブに参加するワーカーの総数
- マスターワーカーのアドレス: ジョブを管理するマスターワーカーのネットワークアドレス
これらの情報は、
torch.distributed.init_process_group()
関数を使用して共有されます。ランデブーの実行
すべてのワーカープロセスが起動し、必要な情報を受信したら、
torch.distributed.elastic.agent.server.SimpleElasticAgent._rendezvous()
関数を使用してランデブーを実行します。ランデブーは、すべてのワーカーが起動して準備完了したことを確認するための重要なステップです。ランデブーが成功すると、ジョブの実行が開始されます。
torch.distributed.elastic.agent.server.SimpleElasticAgent._initialize_workers()
メソッドは、PyTorch Distributed Elastic における分散訓練ジョブの初期化において重要な役割を果たします。このメソッドは、ワーカープロセスを起動し、必要な情報を共有し、ランデブーを実行することで、ジョブを正常に開始するための基盤を築きます。
torch.distributed.elastic
は、PyTorch の分散訓練機能を拡張するライブラリです。このライブラリを使用することで、複数のマシンや複数の GPU を活用した大規模な分散訓練ジョブを効率的に実行することができます。- SimpleElasticAgent 以外にも、RemoteElasticAgent や HierarchicalElasticAgent などのエージェントクラスが用意されています。これらのエージェントクラスは、異なる分散環境やスケーリング要件に対応するために設計されています。
import torch
import torch.distributed.elastic as dist
class SimpleElasticAgent:
def __init__(self, spec):
self.spec = spec
def _initialize_workers(self):
# ワーカー情報の取得
worker_ranks = self._assign_worker_ranks()
worker_info = self._get_worker_info(worker_ranks)
# ワーカープロセスの起動
for rank, info in worker_info.items():
subprocess.Popen(
["python", "-m", "torch.distributed.elastic.worker", str(rank)],
env=info,
)
# ワーカー情報の共有
world_size = len(worker_info)
master_addr = worker_info[0]["master_addr"]
for rank, info in worker_info.items():
dist.init_process_group(
backend="gloo", world_size=world_size, rank=rank, master_addr=master_addr
)
# ランデブーの実行
dist.barrier()
def _assign_worker_ranks(self):
# ワーカーのランクを割り当てるロジック
# ...
return worker_ranks
def _get_worker_info(self, worker_ranks):
# ワーカー情報を作成するロジック
# ...
return worker_info
# ジョブ設定
spec = {
"entrypoint": "train.py",
"worker_env": {"MASTER_ADDR": "localhost", "MASTER_PORT": "12345"},
"num_workers": 4,
"worker_type": "GPU",
"resource_spec": {"GPU": 1},
}
# エージェントを作成して初期化する
agent = SimpleElasticAgent(spec)
agent._initialize_workers()
説明
- ジョブ設定
まず、ジョブ設定をspec
変数に定義します。この設定には、エントリーポイントスクリプト、マスターワーカーのアドレス、ワーカーの数、ワーカーの役割、必要なリソースなどが含まれます。 - エージェントの作成
ジョブ設定を使用して、SimpleElasticAgent
クラスのインスタンスを作成します。 - 初期化
_initialize_workers()
メソッドを呼び出すことで、エージェントを初期化します。このメソッドは、ワーカープロセスを起動し、必要な情報を共有し、ランデブーを実行します。
- 分散訓練ジョブを実行するには、複数のマシンまたは複数の GPU が必要です。
- 分散訓練ジョブを実行するには、
torch.distributed.elastic
ライブラリをインストールする必要があります。 - このコードはあくまで例であり、実際のコードは使用しているライブラリのバージョンや環境によって異なる場合があります。
カスタムエージェントを実装する
最も柔軟な方法は、独自のエージェントクラスを実装することです。torch.distributed.elastic.agent
モジュールは、エージェントクラスの設計と実装に必要な基本的な API とユーティリティを提供しています。
利点:
- 複雑な分散環境に対応可能
- 特定のニーズや要件に合わせたカスタマイズが可能
- 完全な制御と柔軟性
欠点:
- 既存の代替手段よりも習得難易度が高い
- エラーが発生しやすい
- 開発・維持コストが高い
torch.multiprocessing を使用する
シンプルな分散訓練ジョブの場合、torch.multiprocessing
モジュールを使用してワーカープロセスを直接起動することができます。このモジュールは、シンプルで使いやすいインターフェースを提供しています。
- セットアップが簡単
- コード量が少ない
- シンプルで使いやすい
- エラー処理が限定的
- 複雑な分散環境には対応していない
- SimpleElasticAgent に比べて機能が限定されている
サードパーティ製のライブラリを使用する
Horovod
や DeepSpeed
のようなサードパーティ製の分散訓練ライブラリを使用することもできます。これらのライブラリは、独自のワーカー初期化ロジックと分散訓練機能を提供しており、SimpleElasticAgent よりも高度な機能を提供する場合があります。
- 独自のワークフローに統合しやすい場合がある
- 複雑な分散環境に対応している場合がある
- SimpleElasticAgent よりも高度な機能を提供する場合がある
- ライブラリによって機能やインターフェースが異なる
- SimpleElasticAgent よりも習得難易度が高い
- 追加のライブラリをインストールする必要がある
Kubernetes や Slurm などのジョブオーケストレーションツールを使用する
大規模な分散訓練ジョブの場合、Kubernetes や Slurm などのジョブオーケストレーションツールを使用してワーカープロセスを管理することができます。これらのツールは、スケーラビリティ、高可用性、リソース管理などの機能を提供します。
- リソース管理を容易にする
- スケーラビリティと高可用性を提供する
- 大規模な分散訓練ジョブに適している
- 専門知識が必要
- SimpleElasticAgent よりも習得難易度が高い
- 設定と管理が複雑
最適な代替方法の選択
最適な代替方法は、具体的なニーズと要件によって異なります。
- 完全な制御と柔軟性が必要な場合は、カスタムエージェントを実装することを検討してください。
- 大規模な分散訓練ジョブを管理する必要がある場合は、Kubernetes や Slurm などのジョブオーケストレーションツールを検討してください。
- より高度な機能と複雑な分散環境への対応が必要な場合は、サードパーティ製のライブラリを検討してください。
- シンプルで使いやすいソリューションが必要な場合は、
torch.multiprocessing
を検討してください。
各代替方法の詳細な比較検討を行い、それぞれの利点と欠点を慎重に評価することが重要です。