PythonでFTPファイル転送を制御:abort()の基本から代替手段まで
簡単に言うと、FTP サーバーとの間でファイルのアップロードやダウンロード中に、何らかの理由でその転送を中止したい場合に abort()
を呼び出します。
主なポイント
- 内部動作
このメソッドは、FTP サーバーにABOR
コマンドを送信します。これは、FTP プロトコルにおいて転送の中止を要求する標準的なコマンドです。 - 信頼性
abort()
は常に成功するとは限りません。FTP プロトコルやサーバーの実装によっては、転送を完全に中断できない場合があります。しかし、試す価値は十分にあります。 - 用途
転送がハングアップした場合、ユーザーが手動でキャンセルしたい場合、またはエラーが発生して転送を継続できない場合などに使用されます。 - 機能
進行中のファイル転送(アップロードまたはダウンロード)を中止します。
使用例のイメージ
from ftplib import FTP
ftp = None
try:
ftp = FTP('your_ftp_server.com')
ftp.login(user='your_username', passwd='your_password')
with open('local_file.txt', 'rb') as f:
# ファイル転送を開始
# ftp.storbinary('STOR remote_file.txt', f) のような処理中に
# 何らかの条件で中断したい場合...
# 例えば、タイムアウト処理などで中断を試みる
# (ここでは具体的な中断条件は省略)
# if some_condition_to_abort:
# ftp.abort()
# print("ファイル転送を中断しました。")
# 実際の転送処理
ftp.storbinary('STOR remote_file.txt', f)
except Exception as e:
print(f"エラーが発生しました: {e}")
if ftp:
try:
# エラー発生時にも abort を試みる
ftp.abort()
print("エラーのためファイル転送を中断しました。")
except Exception as abort_e:
print(f"中断中にエラーが発生しました: {abort_e}")
finally:
if ftp:
ftp.quit()
- 転送が既に完了している場合や、サーバーが
ABOR
コマンドをサポートしていない、または正しく処理しない場合、abort()
は効果がないか、エラーを発生させる可能性があります。 abort()
を呼び出した後も、FTP 接続自体は維持されることがほとんどです。接続を完全に終了するには、ftp.quit()
を呼び出す必要があります。
ftplib.FTP.abort()
に関連する一般的なエラーと問題
-
- 原因
abort()
コマンド(ABOR
)を送信した後、FTPサーバーからエラー応答が返されることがあります。4xx
は一時的なエラー、5xx
は永続的なエラーを示します。これは、サーバーがABOR
コマンドを正しく処理できない、転送がすでに完了している、またはサーバー側の問題によって引き起こされる可能性があります。 - トラブルシューティング
- FTPサーバーのログを確認
サーバー側でABOR
コマンドがどのように処理されたか、またはエラーが発生した理由を示す情報があるかもしれません。 - 別のFTPクライアントでテスト
他のFTPクライアント(FileZillaなど)で同様の転送を中断してみて、同じ問題が発生するかどうかを確認します。これにより、問題がPythonのコードにあるのか、FTPサーバーの設定にあるのかを切り分けることができます。 - try-except ブロックで例外を捕捉
abort()
を呼び出す際は必ずtry-except
ブロックでftplib.all_errors
を捕捉し、エラーメッセージをログに出力します。これにより、問題の原因を特定する手がかりを得られます。
- FTPサーバーのログを確認
- 原因
-
abort()
が効果がない (転送が中断されない)- 原因
abort()
はFTPプロトコルのABOR
コマンドを使用しますが、すべてのFTPサーバーがこのコマンドを完全にサポートしているわけではありません。また、サーバーが非常にビジーである、または転送が完了に非常に近い場合、コマンドが効果を発揮しないことがあります。 - トラブルシューティング
- FTPサーバーの仕様を確認
使用しているFTPサーバーのドキュメントで、ABOR
コマンドのサポート状況や、転送中断に関する特定の要件があるかを確認します。 - 接続を閉じることで強制中断
abort()
が機能しない場合、最終手段としてFTP接続自体を閉じる(ftp.quit()
またはftp.close()
)ことで、転送を強制的に終了させることができます。ただし、これにより進行中の他の操作も中断される点に注意してください。 - タイムアウトの設定
ファイル転送時にタイムアウトを設定することで、転送がハングアップした場合に自動的に接続を切断し、必要に応じて再試行するロジックを実装できます。FTP
クラスのコンストラクタでtimeout
パラメータを設定するか、socket.setdefaulttimeout()
を使用します。
- FTPサーバーの仕様を確認
- 原因
-
ftplib.error_proto
またはftplib.error_reply
(予期しないサーバー応答)- 原因
サーバーがFTPプロトコルの仕様に準拠していない予期しない応答を返した場合に発生します。 - トラブルシューティング
- デバッグレベルを上げる
ftp.set_debuglevel(1)
またはftp.set_debuglevel(2)
を設定することで、FTPコマンドとサーバー応答の詳細なログを確認できます。これにより、どのコマンドに対して予期しない応答が返されたのかを特定できます。 - FTPサーバーの互換性を確認
特定のFTPサーバーが標準的なFTPプロトコル実装と異なる動作をする場合があります。
- デバッグレベルを上げる
- 原因
-
OSError
/socket.error
(ネットワーク関連のエラー)- 原因
ネットワーク接続の問題、ファイアウォール、またはFTPサーバー自体がダウンしている場合などに発生します。abort()
を呼び出す前に、すでに基盤となるソケット接続が切断されている可能性があります。 - トラブルシューティング
- ネットワーク接続の確認
スクリプトを実行しているマシンからFTPサーバーへのネットワーク接続が安定していることを確認します。 - ファイアウォールの確認
クライアント側またはサーバー側のファイアウォールがFTP通信をブロックしていないか確認します。特にパッシブモード(PASV)の場合、データポートの開放が必要になります。 - FTPサーバーの状態確認
FTPサーバーが正常に稼働しているか確認します。 - try-except で包括的に捕捉
ftplib
の操作はOSError
を含む様々な例外を発生させる可能性があるため、try...except Exception as e:
のように包括的に捕捉し、エラーメッセージを詳しく調査することが重要です。
- ネットワーク接続の確認
- 原因
- エラーメッセージの検索
発生した例外やエラーメッセージを正確にコピーし、オンライン(Stack Overflowなど)で検索します。多くの場合、他の開発者も同じ問題に遭遇し、解決策が共有されています。 - 小さなファイルでテスト
大きなファイルの転送で問題が発生する場合は、まず小さなファイルでabort()
の動作を確認し、問題がファイルサイズに関連しているかどうかを切り分けます。 - FTPクライアントとの比較
問題が発生した場合、Pythonのコードと同じ操作を、一般的なFTPクライアント(例: FileZilla、WinSCP)で手動で実行し、その挙動と比較します。これにより、問題がスクリプト固有のものか、FTPサーバー/ネットワーク環境全体の問題かを判断できます。 - パッシブモード (PASV) とアクティブモード (PORT) の切り替え
FTPサーバーやネットワーク環境によっては、パッシブモード(デフォルト)またはアクティブモードのどちらかがうまく機能しない場合があります。ftp.set_pasv(True)
(パッシブモード) またはftp.set_pasv(False)
(アクティブモード) を試してみると良いでしょう。 - デバッグログの活用
ftp.set_debuglevel(1)
またはftp.set_debuglevel(2)
を使用して、FTPコマンドとサーバー応答の詳細なログを有効にします。これは問題の特定に非常に役立ちます。 - try-except-finally ブロックの使用
常にftplib
の操作をtry-except-finally
ブロックで囲み、エラー発生時にも適切に接続を閉じ(ftp.quit()
)、リソースを解放するようにします。
例1: 基本的なファイルアップロードと中断の試み
この例では、ファイルをFTPサーバーにアップロードしている最中に、何らかの条件(ここでは簡略化のために input()
を使用)で中断を試みる方法を示します。
import ftplib
import time
import os
# --- 設定(ご自身の環境に合わせて変更してください) ---
FTP_HOST = 'your_ftp_server.com' # FTPサーバーのアドレス
FTP_USER = 'your_username' # ユーザー名
FTP_PASS = 'your_password' # パスワード
LOCAL_FILE = 'local_test_file.txt' # アップロードするローカルファイル名
REMOTE_FILE = 'remote_test_file.txt' # FTPサーバー上のファイル名
# --- 設定終わり ---
def create_dummy_file(filename, size_mb):
"""ダミーファイルを作成する関数"""
print(f"{filename} を作成中 ({size_mb} MB)...")
with open(filename, 'wb') as f:
f.seek((size_mb * 1024 * 1024) - 1)
f.write(b'\0')
print(f"{filename} 作成完了。")
def upload_and_abort_example():
ftp = None
try:
# ダミーファイルを作成(少し大きめのファイルで中断を試みやすくする)
create_dummy_file(LOCAL_FILE, 10) # 10MBのダミーファイル
print(f"FTPサーバー {FTP_HOST} に接続中...")
ftp = ftplib.FTP(FTP_HOST)
# デバッグレベルを上げて詳細なログを出力
ftp.set_debuglevel(2)
ftp.login(FTP_USER, FTP_PASS)
print("ログイン成功。")
# ファイルをバイナリモードでオープン
with open(LOCAL_FILE, 'rb') as f:
print(f"ファイル {LOCAL_FILE} を {REMOTE_FILE} としてアップロード開始...")
# storlines() または storbinary() を使用してアップロード
# storbinary() はコールバック関数をサポートしているため、進行状況や中断条件をチェックしやすい
# ここではシンプルにそのままアップロードを開始
# ftp.storbinary('STOR ' + REMOTE_FILE, f)
# --- 中断を試みるためのダミーロジック ---
# 実際には、別のスレッドや非同期処理で進捗を監視し、
# ユーザー入力やタイムアウトなどの条件で abort() を呼び出します。
print("\nアップロード中に何かキーを押して Enter を押すと中断を試みます...")
# この部分はテストのために簡略化されています。
# 実際のアプリケーションでは、バックグラウンドで転送しつつ、
# ユーザーがキャンセルボタンを押したら abort() を呼ぶような実装になります。
# 転送処理を別のスレッドで実行すると中断がより効果的ですが、
# この例ではシンプルにメインスレッドで実行します。
# 実際の中断は、ユーザー入力などの外部イベントに基づいて行われることを想定してください。
# 例として、数秒後に自動で中断を試みる(またはユーザー入力待ち)
# time.sleep(5) # 5秒間アップロードを実行してから...
# user_input = input("中断しますか? (y/n): ")
# if user_input.lower() == 'y':
# print("ユーザーが中断を要求しました。")
# ftp.abort()
# print("abort() を実行しました。")
# # abort() 後は、通常は転送処理を停止します。
# # この例では、storbinary がブロックするため、別のスレッドを使う必要があります。
# else:
# ftp.storbinary('STOR ' + REMOTE_FILE, f)
# ftplib.FTP.storbinary はファイルを読み込むためのファイルオブジェクトを期待します。
# コールバック関数を使って転送中のバイト数を監視し、ある閾値を超えたら中断する例
bytes_transferred = 0
def callback(block):
nonlocal bytes_transferred
bytes_transferred += len(block)
# print(f"\r転送中: {bytes_transferred / (1024*1024):.2f} MB", end="")
if bytes_transferred > 5 * 1024 * 1024: # 5MBを超えたら中断を試みる
print("\n転送量が5MBを超えました。中断を試みます...")
try:
ftp.abort()
print("abort() を実行しました。転送は中断されるはずです。")
# abort() が成功した場合、storbinary から ftplib.error_proto 例外が送出されます。
# ここでは単にメッセージを表示するのみ。
except ftplib.all_errors as e:
print(f"abort() 実行中にエラーが発生しました: {e}")
# abort() 自体もエラーを出す可能性があるため捕捉
raise InterruptedError("転送が中断されました") # 意図的に例外を発生させて転送ループを抜ける
try:
ftp.storbinary('STOR ' + REMOTE_FILE, f, callback=callback)
print("\nファイルアップロード完了。")
except InterruptedError:
print("ファイルアップロードが中断されました (ユーザーによる)。")
except ftplib.all_errors as e:
print(f"\nファイル転送中にFTPエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"\n予期せぬエラーが発生しました: {e}")
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP接続またはログイン中にエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"予期せぬエラー: {e}")
finally:
if ftp:
try:
print("FTP接続をクローズします。")
ftp.quit()
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP切断中にエラーが発生しました: {e}")
# ダミーファイルをクリーンアップ
if os.path.exists(LOCAL_FILE):
os.remove(LOCAL_FILE)
print(f"{LOCAL_FILE} を削除しました。")
if __name__ == "__main__":
upload_and_abort_example()
この例のポイント
finally
ブロックで確実にFTP接続を閉じ、ダミーファイルを削除しています。abort()
自体も失敗する可能性があるため、try-except
で囲んでいます。callback
関数内で、転送量が5MBを超えたらftp.abort()
を呼び出し、その後InterruptedError
を発生させてstorbinary
のループを強制的に終了させています。storbinary()
のcallback
引数を使用し、一定量のバイトが転送されるたびにcallback
関数が呼ばれるようにしています。ftp.set_debuglevel(2)
でFTPコマンドとサーバー応答の詳細なログを出力させ、何が起こっているかを確認しやすくしています。create_dummy_file()
で大きめのファイルを作成し、中断の機会を増やしています。
実行時の注意点
- このコードは、
storbinary
のコールバック内でabort()
を呼んでいますが、これはstorbinary
の実行をブロックしてしまうため、実際には別のスレッドで転送を実行し、メインスレッドからabort()
を呼び出す方が一般的です。 FTP_HOST
,FTP_USER
,FTP_PASS
を有効なFTPサーバーの情報に置き換えてください。
ftplib.FTP.storbinary
はファイル転送中にブロックするため、ユーザー入力を待つような実装は直接行えません。より実践的なシナリオでは、ファイル転送を別のスレッドで実行し、メインスレッド(またはGUIイベントループ)から中断シグナルを受け取ったときに abort()
を呼び出す形になります。
ここでは、その概念を示すための擬似コードと解説を提供します。
import ftplib
import threading
import time
import os
# --- 設定(ご自身の環境に合わせて変更してください) ---
FTP_HOST = 'your_ftp_server.com'
FTP_USER = 'your_username'
FTP_PASS = 'your_password'
LOCAL_FILE = 'local_large_file.bin' # 大きめのファイル
REMOTE_FILE = 'remote_large_file.bin'
# --- 設定終わり ---
stop_transfer_flag = threading.Event() # 転送停止のためのフラグ
def create_dummy_file(filename, size_mb):
"""ダミーファイルを作成する関数"""
print(f"{filename} を作成中 ({size_mb} MB)...")
with open(filename, 'wb') as f:
f.seek((size_mb * 1024 * 1024) - 1)
f.write(b'\0')
print(f"{filename} 作成完了。")
def transfer_thread_function(ftp_obj, local_path, remote_path, event_flag):
"""ファイル転送を別のスレッドで行う関数"""
try:
print(f"[転送スレッド] {local_path} のアップロード開始...")
with open(local_path, 'rb') as f:
# storbinary にコールバック関数を渡す
# コールバック内で中断フラグをチェックする
def callback(block):
if event_flag.is_set(): # フラグがセットされていたら中断
print("[転送スレッド] 中断フラグが検出されました。")
raise InterruptedError("転送がユーザーによって中断されました。")
# 必要であれば進捗を報告
# print(f"\r転送中...", end="")
ftp_obj.storbinary('STOR ' + remote_path, f, callback=callback)
print("\n[転送スレッド] ファイルアップロード完了。")
except InterruptedError:
print("[転送スレッド] ユーザー要求により転送が中断されました。")
# abort() はメインスレッドから呼ばれるので、ここでは特別な処理は不要
except ftplib.all_errors as e:
print(f"\n[転送スレッド] FTP転送中にエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"\n[転送スレッド] 転送スレッドで予期せぬエラー: {e}")
def main():
ftp = None
try:
create_dummy_file(LOCAL_FILE, 50) # 50MBのダミーファイル
print(f"FTPサーバー {FTP_HOST} に接続中...")
ftp = ftplib.FTP(FTP_HOST)
ftp.set_debuglevel(1) # デバッグレベルを設定
ftp.login(FTP_USER, FTP_PASS)
print("ログイン成功。")
# 転送スレッドを起動
transfer_thread = threading.Thread(
target=transfer_thread_function,
args=(ftp, LOCAL_FILE, REMOTE_FILE, stop_transfer_flag)
)
transfer_thread.start()
# メインスレッドではユーザーからの入力を待つ
print("\nアップロードを開始しました。 'q' を入力してEnterを押すと中断を試みます。")
while transfer_thread.is_alive():
user_input = input("")
if user_input.lower() == 'q':
print("中断要求を受信しました。abort() を実行します...")
try:
ftp.abort() # ここで abort() を呼び出す
print("abort() コマンドを送信しました。")
stop_transfer_flag.set() # 転送スレッドに中断を通知
break
except ftplib.all_errors as e:
print(f"abort() 実行中にエラーが発生しました: {e}")
# abort() が失敗した場合でも、転送スレッドを停止させる
stop_transfer_flag.set()
break
else:
print("認識できない入力です。'q' で中断。")
# 転送スレッドの完了を待つ
transfer_thread.join()
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP接続またはログイン中にエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"メインスレッドで予期せぬエラー: {e}")
finally:
if ftp:
try:
print("FTP接続をクローズします。")
ftp.quit()
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP切断中にエラーが発生しました: {e}")
if os.path.exists(LOCAL_FILE):
os.remove(LOCAL_FILE)
print(f"{LOCAL_FILE} を削除しました。")
if __name__ == "__main__":
main()
- 例外ハンドリング
abort()
が呼び出された後、storbinary
は通常ftplib.error_proto
やInterruptedError
などの例外を発生させます。これらの例外を適切に捕捉して、転送が中断されたことを処理します。 - ftp.abort() の呼び出し位置
ftp.abort()
はメインスレッド(または別の制御スレッド)から呼び出されます。これにより、storbinary
がブロックしている間でもABOR
コマンドをFTPサーバーに送信できます。 - threading.Event()
stop_transfer_flag
は、転送を中断すべきかどうかをスレッド間で安全に通知するためのシンプルなメカニズムです。- メインスレッドでユーザーが中断を要求した場合、
stop_transfer_flag.set()
を呼び出します。 - 転送スレッドの
callback
関数内でevent_flag.is_set()
をチェックし、フラグがセットされていればInterruptedError
を発生させて転送ループを終了させます。
- メインスレッドでユーザーが中断を要求した場合、
- threading モジュール
ファイル転送はtransfer_thread_function
という別のスレッドで実行されます。これにより、メインスレッドがブロックされずにユーザー入力を受け付けられるようになります。
このような状況でファイル転送を中断または制御するための代替手段を以下に示します。
ftplib.FTP.quit() / ftplib.FTP.close() による接続の強制終了
これは最も直接的かつ確実な方法です。進行中のファイル転送を即座に停止させたいが、abort()
が機能しない場合に有効です。
- ftp.close()
基盤となるソケット接続を閉じます。これはより低レベルの操作であり、サーバーとのFTPセッションを突然切断します。 - ftp.quit()
FTP セッションを正常に終了し、サーバーからログアウトします。転送が進行中の場合、通常はこのコマンドによって転送も中断されます。
メリット
ほぼ確実に転送を停止できます。
デメリット:
* 進行中の転送以外のFTP操作(ディレクトリのリスト取得など)も中断されます。
* サーバー側で不完全なファイルが残る可能性があります(これは abort()
でも起こりえます)。
* 再試行する場合は、新しいFTP接続を確立し直す必要があります。
使用例
import ftplib
import threading
import time
import os
# 設定(省略)
FTP_HOST = 'your_ftp_server.com'
FTP_USER = 'your_username'
FTP_PASS = 'your_password'
LOCAL_FILE = 'local_large_file.bin'
REMOTE_FILE = 'remote_large_file.bin'
# ダミーファイル作成関数(省略)
def create_dummy_file(filename, size_mb):
print(f"{filename} を作成中 ({size_mb} MB)...")
with open(filename, 'wb') as f:
f.seek((size_mb * 1024 * 1024) - 1)
f.write(b'\0')
print(f"{filename} 作成完了。")
# 転送スレッド関数(中断フラグと FTP オブジェクトを受け取る)
def transfer_thread_function(ftp_obj, local_path, remote_path, stop_event):
try:
print(f"[転送スレッド] {local_path} のアップロード開始...")
with open(local_path, 'rb') as f:
# storbinary にコールバック関数を渡すことで進捗を監視
def callback(block):
# ここでは中断フラグをチェックするが、直接接続を閉じるのはメインスレッドで行う
pass # ここでは特に何もせず、メインスレッドからの close/quit を待つ
# storbinary はブロックするので、中断要求は外部から接続を閉じることで行われる
ftp_obj.storbinary('STOR ' + remote_path, f, callback=callback)
print("\n[転送スレッド] ファイルアップロード完了。")
except ftplib.all_errors as e:
print(f"\n[転送スレッド] FTP転送中にエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"\n[転送スレッド] 転送スレッドで予期せぬエラー: {e}")
finally:
# スレッド終了時に接続をクローズするが、メインスレッドが先に閉じる可能性もある
pass
def main_with_quit():
ftp = None
transfer_thread = None
try:
create_dummy_file(LOCAL_FILE, 50)
print(f"FTPサーバー {FTP_HOST} に接続中...")
ftp = ftplib.FTP(FTP_HOST)
ftp.set_debuglevel(1)
ftp.login(FTP_USER, FTP_PASS)
print("ログイン成功。")
stop_transfer_flag = threading.Event()
transfer_thread = threading.Thread(
target=transfer_thread_function,
args=(ftp, LOCAL_FILE, REMOTE_FILE, stop_transfer_flag)
)
transfer_thread.start()
print("\nアップロードを開始しました。 'q' を入力してEnterを押すと接続を切断し中断します。")
while transfer_thread.is_alive():
user_input = input("")
if user_input.lower() == 'q':
print("中断要求を受信しました。FTP接続を強制的にクローズします...")
try:
# ここで ftp.quit() または ftp.close() を呼び出す
ftp.quit() # または ftp.close()
print("FTP接続をクローズしました。転送は中断されます。")
stop_transfer_flag.set() # スレッドへの通知(実際には接続切断でスレッドはエラーになる)
break
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP切断中にエラーが発生しました: {e}")
stop_transfer_flag.set()
break
else:
print("認識できない入力です。'q' で中断。")
# 転送スレッドの完了を待つ(多くの場合、エラーで終了している)
transfer_thread.join(timeout=5) # 5秒待機
if transfer_thread.is_alive():
print("転送スレッドが終了しませんでした。")
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP接続またはログイン中にエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"メインスレッドで予期せぬエラー: {e}")
finally:
# メインスレッドが接続を閉じた場合、transfer_thread_function 内でのクローズは不要
# 既にクローズされている場合、エラーにならないように注意
if ftp and not ftp.sock: # ソケットが既に閉じられているか確認
print("FTP接続は既にクローズされています。")
elif ftp:
try:
print("finallyブロックでFTP接続をクローズします。")
ftp.quit()
except ftplib.all_errors as e:
print(f"finallyブロックでのFTP切断中にエラーが発生しました: {e}")
if os.path.exists(LOCAL_FILE):
os.remove(LOCAL_FILE)
print(f"{LOCAL_FILE} を削除しました。")
if __name__ == "__main__":
main_with_quit()
転送データのチャンクサイズとタイムアウトの調整
ファイル転送の際に、一度に送信/受信するデータのチャンクサイズを小さくし、ソケットのタイムアウトを設定することで、より細かく転送を制御できます。
- ソケットタイムアウト
ftplib.FTP
オブジェクトのコンストラクタでtimeout
パラメータを設定するか、ftp.sock.settimeout(seconds)
を使用します。これにより、データ転送が指定された時間内に応答しない場合にsocket.timeout
例外が発生し、ハングアップを防ぎ、プログラムで中断を処理する機会を提供します。 - チャンクサイズ (blocksize)
storbinary()
やretrbinary()
のblocksize
パラメータを小さくすることで、callback
関数がより頻繁に呼び出されるようになります。これにより、callback
内で中断フラグをチェックする頻度が増え、より迅速に転送を停止できます。
メリット
ハングアップの検出と、コールバックを使った中断の応答性が向上します。
デメリット: チャンクサイズを小さくしすぎると、転送のオーバーヘッドが増加する可能性があります。
使用例
import ftplib
import threading
import time
import os
# 設定(省略)
FTP_HOST = 'your_ftp_server.com'
FTP_USER = 'your_username'
FTP_PASS = 'your_password'
LOCAL_FILE = 'local_large_file.bin'
REMOTE_FILE = 'remote_large_file.bin'
def create_dummy_file(filename, size_mb):
# 省略
pass
stop_transfer_flag = threading.Event()
def transfer_with_timeout_and_blocksize(ftp_obj, local_path, remote_path, event_flag):
try:
print(f"[転送スレッド] {local_path} のアップロード開始 (タイムアウトとチャンクサイズ使用)...")
# 短いタイムアウトを設定 (例: 10秒)
# 注意: ネットワーク状況によっては短すぎると正規の転送でもタイムアウトになる可能性がある
ftp_obj.sock.settimeout(10)
with open(local_path, 'rb') as f:
bytes_transferred = 0
# コールバック関数で進捗と中断フラグをチェック
def callback(block):
nonlocal bytes_transferred
bytes_transferred += len(block)
# print(f"\r転送中: {bytes_transferred / (1024*1024):.2f} MB", end="")
if event_flag.is_set():
print("\n[転送スレッド] 中断フラグが検出されました。")
raise InterruptedError("転送がユーザーによって中断されました。")
# blocksize を小さめに設定 (例: 8KB)
ftp_obj.storbinary('STOR ' + remote_path, f, blocksize=8192, callback=callback)
print("\n[転送スレッド] ファイルアップロード完了。")
except InterruptedError:
print("[転送スレッド] ユーザー要求により転送が中断されました。")
except ftplib.all_errors as e:
print(f"\n[転送スレッド] FTP転送中にFTPエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"\n[転送スレッド] 転送スレッドで予期せぬエラー: {e}")
finally:
# タイムアウト設定を元に戻すか、接続を閉じる
if ftp_obj and ftp_obj.sock:
try:
ftp_obj.sock.settimeout(None) # デフォルトに戻す
except Exception:
pass
def main_with_timeout():
ftp = None
transfer_thread = None
try:
create_dummy_file(LOCAL_FILE, 50)
print(f"FTPサーバー {FTP_HOST} に接続中...")
# FTP クラスのコンストラクタでタイムアウトを設定することも可能
ftp = ftplib.FTP(FTP_HOST, timeout=30) # 全体のタイムアウト
ftp.set_debuglevel(1)
ftp.login(FTP_USER, FTP_PASS)
print("ログイン成功。")
stop_transfer_flag = threading.Event()
transfer_thread = threading.Thread(
target=transfer_with_timeout_and_blocksize,
args=(ftp, LOCAL_FILE, REMOTE_FILE, stop_transfer_flag)
)
transfer_thread.start()
print("\nアップロードを開始しました。 'q' を入力してEnterを押すと中断を試みます。")
while transfer_thread.is_alive():
user_input = input("")
if user_input.lower() == 'q':
print("中断要求を受信しました。中断フラグをセットします。")
stop_transfer_flag.set() # ここで abort() ではなくフラグをセット
# transfer_thread_function 内でこのフラグをチェックし、例外を発生させる
break
else:
print("認識できない入力です。'q' で中断。")
transfer_thread.join()
except ftplib.all_errors as e:
print(f"FTP接続またはログイン中にエラーが発生しました: {e}")
except Exception as e:
print(f"メインスレッドで予期せぬエラー: {e}")
finally:
if ftp:
try:
print("finallyブロックでFTP接続をクローズします。")
ftp.quit()
except ftplib.all_errors as e:
print(f"finallyブロックでのFTP切断中にエラーが発生しました: {e}")
if os.path.exists(LOCAL_FILE):
os.remove(LOCAL_FILE)
print(f"{LOCAL_FILE} を削除しました。")
if __name__ == "__main__":
main_with_timeout()
プログレスバーライブラリとの連携(PySide/PyQt, Tkinter などの GUI アプリケーションで)
GUI アプリケーションでは、通常、ファイル転送をバックグラウンドスレッドで実行し、プログレスバーを更新します。ユーザーが「キャンセル」ボタンをクリックすると、そのボタンのイベントハンドラから中断フラグをセットし、転送スレッドがそのフラグを監視して転送を停止します。
このアプローチは、上記「例2」で示した threading.Event
を使用した概念と非常に似ています。GUI フレームワークのシグナル/スロット(PyQt/PySide)や変数監視(Tkinter)の仕組みと組み合わせることで、よりスムーズなユーザー体験を提供できます。
これはPythonの ftplib
を直接使わない方法ですが、選択肢として考慮できます。システムにインストールされている信頼性の高い外部FTPクライアント(例: lftp
, curl
など)を subprocess
モジュールで呼び出し、そのプロセスをPythonから制御します。
- process.terminate() / process.kill()
転送を中断したい場合に、これらのメソッドを呼び出して外部プロセスを終了させます。 - subprocess.Popen()
外部プロセスを起動し、そのプロセスオブジェクトをPython側で保持します。
メリット
* 外部ツールの堅牢な転送・再開機能を利用できる。
* FTPプロトコルに関する複雑な処理をPython側で実装する必要がない。
デメリット:
* 外部ツールがシステムにインストールされている必要がある。
* OSに依存する可能性があり、クロスプラットフォーム性が低下する。
* 転送の進捗を細かくPython側で監視するのが難しい場合がある。
使用例 (概念)
import subprocess
import time
import os
# --- 設定 ---
FTP_USER = 'your_username'
FTP_PASS = 'your_password'
FTP_HOST = 'your_ftp_server.com'
LOCAL_FILE = 'local_large_file.bin'
REMOTE_FILE = 'remote_large_file.bin'
# --- 設定終わり ---
def create_dummy_file(filename, size_mb):
# 省略
pass
def main_with_subprocess():
process = None
try:
create_dummy_file(LOCAL_FILE, 50)
# lftp コマンドの例 (Linux/macOS向け)
# Windowsの場合は、curl や他のCLI FTPクライアントを探す必要があります。
# 実際のコマンドは、使用するクライアントによって異なります。
# ここではlftpのバックグラウンド転送機能とログ出力を利用することを想定。
ftp_command = [
'lftp',
'-u', f'{FTP_USER},{FTP_PASS}',
FTP_HOST,
'-e', f'put {LOCAL_FILE} -o {REMOTE_FILE}; bye'
]
print(f"lftp を使ってアップロードを開始します: {' '.join(ftp_command)}")
# stdout と stderr を PIPE にして、出力やエラーを捕捉することも可能
process = subprocess.Popen(ftp_command)
print("\nアップロードを開始しました。 'q' を入力してEnterを押すと中断を試みます。")
while process.poll() is None: # プロセスが終了していない間
user_input = input("")
if user_input.lower() == 'q':
print("中断要求を受信しました。プロセスを終了させます...")
process.terminate() # プロセスを終了させる
print("プロセスを終了させました。")
break
else:
print("認識できない入力です。'q' で中断。")
# プロセスが終了するのを待つ (または既に終了している)
process.wait()
print(f"lftp プロセスが終了しました。終了コード: {process.returncode}")
except FileNotFoundError:
print("エラー: lftp コマンドが見つかりません。システムにインストールされていますか?")
except Exception as e:
print(f"予期せぬエラー: {e}")
finally:
if os.path.exists(LOCAL_FILE):
os.remove(LOCAL_FILE)
print(f"{LOCAL_FILE} を削除しました。")
if process and process.poll() is None: # まだプロセスが実行中なら
print("finallyブロックでプロセスを強制終了します。")
process.kill()
if __name__ == "__main__":
main_with_subprocess()
ftplib.FTP.abort()
が最も理想的な解決策であるべきですが、その実装に依存するため、上記の代替手段を理解しておくことが重要です。
- 外部ツールの利用
ftplib
の限界を超える機能や、既に信頼性の高い外部ツールがある場合に検討。 - より洗練された制御と回復
blocksize
とtimeout
を使用し、コールバック関数とスレッド/イベントフラグを組み合わせる。 - 最も確実な中断
ftp.quit()
/ftp.close()