Pythonの並行実行における手動コンテキスト管理:`contextvars`モジュールの詳細解説とサンプルコード
Pythonにおける並行実行では、複数のタスクが同時に実行されます。しかし、複数のタスクが共有するデータや状態を管理するには、適切な方法が必要です。そこで、contextvars
モジュールを用いた手動コンテキスト管理(Manual Context Management)が役立ちます。
contextvars
モジュールとは?
contextvars
モジュールは、Python 3.8以降で導入された新しいモジュールです。このモジュールは、コンテキスト変数と呼ばれる特殊な変数を定義し、それらを複数のタスク間で共有するための仕組みを提供します。
コンテキスト変数とは?
コンテキスト変数は、特定のスコープ内でのみ有効な特殊な変数です。この変数は、通常の変数とは異なり、スレッド間で共有することができ、複数のタスク間で値を共有するために使用できます。
手動コンテキスト管理とは?
手動コンテキスト管理とは、contextvars
モジュールを用いてコンテキスト変数を明示的に管理する方法です。具体的には、以下の操作を行います。
- コンテキスト変数を定義する
- コンテキスト変数の値を設定する
- コンテキスト変数の値を取得する
- コンテキスト変数の値を削除する
例:contextvars
モジュールを用いた手動コンテキスト管理
from contextvars import ContextVar
# コンテキスト変数を定義する
user_id_var = ContextVar('user_id')
# コンテキスト変数の値を設定する
with user_id_var.set(12345):
# コンテキスト変数の値を取得する
user_id = user_id_var.get()
print(f"現在のユーザーID: {user_id}")
# 処理を実行する
# ...
# コンテキスト変数の値を削除する
user_id_var.reset()
この例では、user_id_var
というコンテキスト変数を定義し、その値を12345に設定します。その後、with
文を用いてコンテキスト変数のスコープを定義し、そのスコープ内でのみuser_id
変数にコンテキスト変数の値を代入します。処理を実行した後、user_id_var.reset()
を用いてコンテキスト変数の値を削除します。
contextvars
モジュールのメリット
- エラー処理を容易にする
- コードをより読みやすく、メンテナンスしやすい
- スレッド間でコンテキスト変数を共有できる
- コンテキスト変数のスコープを明示的に管理する必要がある
- Python 3.8以降でのみ利用可能
from contextvars import ContextVar
import asyncio
# コンテキスト変数を定義する
request_id_var = ContextVar('request_id')
async def task1(request_id):
# コンテキスト変数の値を設定する
with request_id_var.set(request_id):
print(f"タスク1: リクエストID = {request_id}")
# 処理を実行する
# ...
async def task2(request_id):
# コンテキスト変数の値を設定する
with request_id_var.set(request_id):
print(f"タスク2: リクエストID = {request_id}")
# 処理を実行する
# ...
async def main():
# リクエストIDを生成する
request_id = 12345
# タスクを非同期的に実行する
task1_future = asyncio.create_task(task1(request_id))
task2_future = asyncio.create_task(task2(request_id))
# タスクの完了を待つ
await task1_future
await task2_future
if __name__ == "__main__":
asyncio.run(main())
この例では、まずrequest_id_var
というコンテキスト変数を定義します。その後、task1
とtask2
という2つの非同期タスクを作成します。これらのタスクは、request_id
という引数を受け取ります。
各タスク内では、with
文を用いてコンテキスト変数のスコープを定義し、request_id
をコンテキスト変数の値に設定します。その後、処理を実行します。
main
関数では、リクエストIDを生成し、task1
とtask2
を非同期的に実行します。その後、これらのタスクの完了を待ちます。
この例を実行すると、以下の出力が得られます。
タスク1: リクエストID = 12345
タスク2: リクエストID = 12345
スレッドローカルストレージ
スレッドローカルストレージは、各スレッドに固有のデータ領域を提供する機能です。threading
モジュールのlocal
属性を用いて、スレッドローカルストレージにアクセスすることができます。
利点
- 多くのライブラリでサポートされている
- シンプルで使いやすい
欠点
- コードが冗長になる可能性がある
- 複数のスレッド間でデータを共有できない
例:スレッドローカルストレージを用いた共有データの管理
import threading
# スレッドローカルストレージを定義する
data = threading.local()
def task1():
# スレッドローカルストレージにデータを格納する
data.value = 12345
# 処理を実行する
# ...
def task2():
# スレッドローカルストレージからデータを取得する
value = data.value
print(f"タスク2: データ = {value}")
# タスクを実行する
task1()
task2()
データ構造
共有データを格納するためのデータ構造を自分で定義することもできます。例えば、dict
やlist
などのデータ構造を用いて、共有データにアクセスすることができます。
利点
- 複数のスレッド間でデータを共有できる
- 柔軟性が高い
欠点
- ロックなどの同期処理が必要になる
- コードが複雑になる可能性がある
例:データ構造を用いた共有データの管理
data = {}
def task1():
# 共有データに値を設定する
data['key'] = 12345
# 処理を実行する
# ...
def task2():
# 共有データから値を取得する
value = data.get('key')
print(f"タスク2: データ = {value}")
# タスクを実行する
task1()
task2()
メッセージキュー
メッセージキューは、タスク間でメッセージを送受信するための仕組みです。queue
モジュールを用いて、メッセージキューにアクセスすることができます。
利点
- 複数のタスク間でデータを非同期に共有できる
- 柔軟性が高い
欠点
- メッセージキューの管理が必要になる
- コードが複雑になる可能性がある
例:メッセージキューを用いた共有データの管理
import queue
# メッセージキューを作成する
queue = queue.Queue()
def task1():
# メッセージをキューに送信する
queue.put(12345)
# 処理を実行する
# ...
def task2():
# キューからメッセージを取得する
value = queue.get()
print(f"タスク2: データ = {value}")
# タスクを実行する
task1()
task2()
共有メモリ
共有メモリは、複数のプロセス間でメモリ領域を共有するための仕組みです。mmap
モジュールを用いて、共有メモリにアクセスすることができます。
利点
- 複数のプロセス間でデータを共有できる
- 高速なデータ共有が可能
欠点
- オペレーティングシステムに依存する
- コードが複雑になる可能性がある
import mmap
# 共有メモリを作成する
memory = mmap.mmap(size=4, flags=mmap.MAP_SHARED)
def task1():
# 共有メモリにデータを書き込む
memory[0] = 1
memory[1] = 2
memory[2] = 3
memory[3] = 4
# 処理を実行する
# ...
def task2():
# 共有メモリからデータを読み込む
values = [memory[i] for i in range(4)]
print(f"タスク2: データ = {values}")
# タスクを実行する
task1()
task2()