QFileInfo::setCaching()

2025-06-01

QFileInfoとは?

まず、QFileInfoクラスについて簡単に説明します。QFileInfoは、ファイルやディレクトリに関する様々な情報(ファイル名、パス、サイズ、最終更新日時、アクセス権限、種類(ファイルかディレクトリかシンボリックリンクかなど))をOSに依存しない形で提供するQtのクラスです。

setCaching()の役割

通常、QFileInfoはパフォーマンスを向上させるために、一度取得したファイルシステムに関する情報をキャッシュします。つまり、同じファイルに対して何度も情報を要求した場合でも、毎回ファイルシステムにアクセスするのではなく、以前に取得したキャッシュされた情報を利用するということです。

しかし、以下のような場合にこのキャッシュの挙動を変更したいことがあります。

  • 常に最新のファイル情報を取得したい場合
    何らかの理由で、常にファイルシステムから直接情報を取得したい場合に利用します。
  • ファイルが頻繁に外部から変更される可能性がある場合
    他のアプリケーションやユーザーによってファイルが変更された場合、キャッシュされた情報では最新の状態が反映されない可能性があります。

そこで登場するのがQFileInfo::setCaching()です。

void QFileInfo::setCaching(bool enable)

この関数は引数にbool値を取ります。

  • setCaching(false): キャッシュを無効にします。この設定にすると、QFileInfoがファイルに関する情報を要求されるたびに、常にファイルシステムにアクセスして最新の情報を取得します。
  • setCaching(true): キャッシュを有効にします。これがデフォルトの動作です。初めて情報を取得する際にファイルシステムにアクセスし、それ以降はキャッシュされた情報を使用します。
#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <QThread> // QThread::msleep for demonstration

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString filePath = "testfile.txt"; // 現在のディレクトリにファイルがあるとする

    // 1. キャッシュが有効な場合の動作 (デフォルト)
    QFileInfo fileInfoDefault(filePath);
    qDebug() << "--- キャッシュ有効 (デフォルト) ---";
    qDebug() << "初回 exists():" << fileInfoDefault.exists();
    // ここで testfile.txt を外部で変更してみる(例えば削除する)
    QThread::msleep(2000); // 2秒待機
    qDebug() << "2秒後 exists():" << fileInfoDefault.exists(); // キャッシュされているため、変更が反映されない可能性がある

    // 2. キャッシュを無効にした場合の動作
    QFileInfo fileInfoNoCache(filePath);
    fileInfoNoCache.setCaching(false); // キャッシュを無効にする
    qDebug() << "--- キャッシュ無効 ---";
    qDebug() << "初回 exists():" << fileInfoNoCache.exists();
    // ここで testfile.txt を外部で変更してみる(例えば削除する)
    QThread::msleep(2000); // 2秒待機
    qDebug() << "2秒後 exists():" << fileInfoNoCache.exists(); // キャッシュが無効なので、常にファイルシステムから最新情報を取得する

    // 注意点: キャッシュを無効にすると、ファイルシステムへのアクセスが増えるため、パフォーマンスが低下する可能性があります。
    // 必要に応じて QFileInfo::refresh() を使用して、キャッシュされた情報を強制的に更新することもできます。

    return 0;
}

この例では、testfile.txtというファイルを想定しています。プログラム実行中にこのファイルを削除するなどして変更し、それぞれのQFileInfoオブジェクトがどのようにexists()の結果を返すかを確認すると、setCaching(false)の効果が分かりやすいでしょう。



期待通りのキャッシュ無効化がされない

問題
setCaching(false) を呼び出したのに、ファイル情報がキャッシュされ続けているように見える。特にネットワーク共有上のファイルでこの傾向が強い。

原因とトラブルシューティング

  • ファイルパスの微妙な違い
    例えば、"C:/path/to/file.txt""C:\\path\\to\\file.txt" のように、パスの表記が異なる場合でも、Qtはこれらを異なるファイルとして扱う可能性があります。これにより、キャッシュが意図せず別々に保持されることがあります。
    • トラブルシューティング
      ファイルパスは正規化(例: QDir::toNativeSeparators()QFileInfo::canonicalFilePath() を使用)して、一貫した形式で扱うようにしてください。
  • 別の QFileInfo オブジェクト
    同じファイルを参照していても、別の QFileInfo オブジェクトが作成された場合、それぞれのオブジェクトは独立してキャッシュを持ちます。あるオブジェクトで setCaching(false) にしても、他のオブジェクトがデフォルトでキャッシュを有効にしている可能性があります。
    • トラブルシューティング
      QFileInfo オブジェクトの作成時に、必要に応じてすべてのオブジェクトで setCaching(false) を設定するか、単一の QFileInfo オブジェクトを使い回すように設計を見直してください。
  • OSレベルのキャッシュ
    QFileInfo のキャッシュを無効にしても、OS自体がファイルシステムに関する情報をキャッシュしている場合があります。特にWindowsのネットワークドライブやSamba共有などでは、OSがファイル情報(存在、サイズ、更新日時など)をしばらく保持することがあります。これはQtの制御範囲外の挙動であり、QFileInfo::setCaching(false) では直接制御できません。
    • トラブルシューティング
      これを完全に回避するのは難しいですが、ファイルシステムに確実に最新の情報を取得させたい場合は、QFileInfo::refresh() を明示的に呼び出すことを検討してください。ただし、これもOSのキャッシュを強制的にクリアするわけではありません。ネットワーク共有の場合、OSのキャッシュタイムアウトを待つか、場合によっては共有の再マウントなどが必要になることがあります。

パフォーマンスの低下

問題
setCaching(false) を使うと、アプリケーションの動作が著しく遅くなる。

原因とトラブルシューティング

  • トラブルシューティング
    • 本当にキャッシュ無効化が必要か再検討
      そのファイル情報が常に最新である必要があるのか、本当にリアルタイム性が求められるのかを再検討してください。多くの場合、デフォルトのキャッシュ動作で十分な場合があります。
    • refresh() の活用
      全ての情報取得を非キャッシュで行うのではなく、必要な場合にのみ QFileInfo::refresh() を呼び出して、キャッシュを強制的に更新する方が効率的です。例えば、ユーザーが「最新の情報に更新」ボタンを押した時だけ refresh() を呼ぶ、といった運用が考えられます。
    • 非同期処理
      ファイルシステムへのアクセスは時間がかかる可能性があるため、特にUIスレッドをブロックしないように、別のスレッドでファイル情報取得を行うことを検討してください。Qt Concurrent や QThread を使用できます。
    • 必要な情報のみ取得
      QFileInfo のすべての情報が必要でない場合、例えば exists() の確認だけであれば、それ以外の情報を取得するメソッドを呼び出さないようにすることで、若干の最適化ができる可能性があります。
  • 過剰なファイルシステムアクセス
    setCaching(false) は、QFileInfo のメソッド(exists(), size(), lastModified() など)が呼び出されるたびに、強制的にファイルシステムへのアクセスを発生させます。大量のファイルに対して頻繁に情報を取得する場合や、ネットワークドライブのようにアクセスが遅い環境では、これが深刻なパフォーマンスボトルネックとなります。

情報の不整合

問題
キャッシュが有効な状態で、外部でファイルが変更されたにもかかわらず、QFileInfo が古い情報を返してしまう。

原因とトラブルシューティング

  • トラブルシューティング
    • refresh() の呼び出し
      ファイルが外部で変更される可能性があることが分かっている場合、またはファイルシステムへの変更を検知した場合は、QFileInfo::refresh() を呼び出してキャッシュを強制的に更新してください。
    • QFileSystemWatcher の利用
      ファイルやディレクトリの変更をリアルタイムで監視したい場合は、QFileSystemWatcher クラスを使用するのが最も効果的です。QFileSystemWatcher は、ファイルが変更されたり削除されたりしたときにシグナルを発行するため、そのシグナルを受け取って関連する QFileInfo オブジェクトの refresh() を呼び出す、といった連携が可能です。
  • キャッシュの利用
    これは setCaching(true) (デフォルト) の意図された動作です。パフォーマンスのために、一度取得した情報はキャッシュされます。

問題
QFileInfo オブジェクトがスコープを抜けると、その情報が失われる。

原因とトラブルシューティング

  • トラブルシューティング
    • 必要な限りオブジェクトを保持
      ファイル情報を継続して使用したい場合は、QFileInfo オブジェクトをメンバー変数として保持する、またはスマートポインタ(QSharedPointer<QFileInfo> など)を使用して、必要な期間、オブジェクトが存在するようにしてください。
    • 情報のみをコピー
      QFileInfo から必要な情報(例: ファイルパス、サイズ、更新日時など)だけを取り出して、より単純なデータ構造(例: QString, qint64, QDateTime など)に格納して利用することもできます。これにより、QFileInfo オブジェクト自体を保持する必要がなくなります。
  • オブジェクトのライフサイクル
    QFileInfo は値型オブジェクトであり、通常のC++オブジェクトと同様にスコープを抜けると破棄されます。キャッシュされた情報もオブジェクトと共に破棄されます。

QFileInfo::setCaching() を扱う上で最も重要なのは、キャッシュの目的OSレベルのキャッシュの存在を理解することです。

  • ネットワーク共有のファイルは、OSのキャッシュの影響を強く受けるため、QFileInfo のキャッシュ制御だけでは期待通りの結果にならないことがあります。
  • 外部からのファイル変更に対応するには、refresh() または QFileSystemWatcher の使用を検討してください。
  • キャッシュを無効にすると、ファイルシステムへのアクセスが増え、パフォーマンスが低下する可能性があります。
  • デフォルトでキャッシュは有効であり、これはパフォーマンスのためのものです。


setCaching() の基本的な動作 (キャッシュの有効/無効)

この例では、QFileInfo::setCaching(false) を使用してキャッシュを無効にした場合と、デフォルトのキャッシュが有効な場合とで、ファイル情報の取得結果がどのように異なるかを示します。途中でファイルを外部から変更することを想定しています。

準備
このコードを実行する前に、コードと同じディレクトリに testfile.txt という名前の空のテキストファイルを作成しておいてください。

main.cpp

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <QThread> // QThread::msleep のため
#include <QFile>    // ファイルを簡単に作成・削除するため

// ヘルパー関数: ファイルの存在とサイズを表示
void displayFileInfo(const QString& description, const QFileInfo& fileInfo) {
    qDebug() << description << ":";
    qDebug() << "  exists():" << fileInfo.exists();
    if (fileInfo.exists()) {
        qDebug() << "  size():" << fileInfo.size() << "bytes";
        qDebug() << "  lastModified():" << fileInfo.lastModified();
    }
    qDebug() << "";
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString filePath = "testfile.txt";

    // 初期ファイルの作成
    QFile file(filePath);
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write("Initial content.");
        file.close();
        qDebug() << "ファイル '" << filePath << "' を作成しました。";
    } else {
        qDebug() << "ファイル '" << filePath << "' の作成に失敗しました。";
        return 1;
    }
    qDebug() << "";

    // 1. キャッシュが有効な場合の動作 (デフォルト)
    QFileInfo fileInfoDefault(filePath);
    qDebug() << "=== キャッシュ有効 (デフォルト) のテスト ===";

    displayFileInfo("初回情報取得 (キャッシュ有効)", fileInfoDefault);

    qDebug() << "--> 2秒待機後、ファイルの内容を外部で変更してください。";
    qDebug() << "    (例: testfile.txt を開き、何か追記して保存する、または削除する)";
    QThread::msleep(2000); // ユーザーがファイル変更するのを待つ

    displayFileInfo("2秒後情報取得 (キャッシュ有効)", fileInfoDefault); // 変更が反映されない可能性が高い

    qDebug() << "ファイル情報を強制的に更新します (QFileInfo::refresh())";
    fileInfoDefault.refresh(); // キャッシュを強制的に更新
    displayFileInfo("refresh() 後情報取得 (キャッシュ有効)", fileInfoDefault); // 最新情報に更新されるはず

    qDebug() << "\n";

    // 2. キャッシュを無効にした場合の動作
    QFileInfo fileInfoNoCache(filePath);
    fileInfoNoCache.setCaching(false); // キャッシュを無効にする
    qDebug() << "=== キャッシュ無効 のテスト ===";

    displayFileInfo("初回情報取得 (キャッシュ無効)", fileInfoNoCache);

    qDebug() << "--> 2秒待機後、ファイルの内容を外部で変更してください。";
    qDebug() << "    (例: testfile.txt を開き、何か追記して保存する、または削除する)";
    QThread::msleep(2000); // ユーザーがファイル変更するのを待つ

    displayFileInfo("2秒後情報取得 (キャッシュ無効)", fileInfoNoCache); // 常に最新情報が取得されるはず

    qDebug() << "\n";

    // 後処理: 作成したファイルを削除
    if (file.exists()) {
        if (file.remove()) {
            qDebug() << "ファイル '" << filePath << "' を削除しました。";
        } else {
            qDebug() << "ファイル '" << filePath << "' の削除に失敗しました。";
        }
    }

    return a.exec();
}

解説

  1. キャッシュ有効 (デフォルト)
    • fileInfoDefault オブジェクトを作成し、exists()size() を呼び出すと、初回はファイルシステムから情報を取得し、それを内部にキャッシュします。
    • QThread::msleep(2000); の間に testfile.txt を外部で変更(例: 内容を変更して保存、またはファイルを削除)しても、その後の displayFileInfo の呼び出しでは、キャッシュされた情報が使用されるため、変更が反映されない可能性が高いです。
    • fileInfoDefault.refresh(); を呼び出すと、強制的にキャッシュが破棄され、ファイルシステムから最新の情報が再取得されます。
  2. キャッシュ無効
    • fileInfoNoCache オブジェクトを作成した後、fileInfoNoCache.setCaching(false); を呼び出してキャッシュを無効にします。
    • その後、exists()size() を呼び出すたびに、常にファイルシステムにアクセスして最新の情報を取得します。
    • QThread::msleep(2000); の間にファイルを外部で変更した場合でも、その後の displayFileInfo の呼び出しでは、変更が即座に反映されるはずです。

この例では、QFileSystemWatcher を使用してファイルの変更を監視し、変更が検出されたときに QFileInfo::refresh() を呼び出して、キャッシュを強制的に更新する方法を示します。これは、setCaching(false) を常に使うよりもパフォーマンスに優れる場合があります。

準備
このコードを実行する前に、コードと同じディレクトリに watchedfile.txt という名前の空のテキストファイルを作成しておいてください。

main.cpp

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <QFileSystemWatcher>
#include <QTimer> // QTimer::singleShot のため
#include <QFile>    // ファイル操作のため

class FileMonitor : public QObject
{
    Q_OBJECT // Q_OBJECT マクロはシグナルとスロットのために必要
public:
    FileMonitor(const QString& filePath, QObject* parent = nullptr)
        : QObject(parent), m_filePath(filePath), m_fileInfo(filePath)
    {
        // QFileInfo はデフォルトでキャッシュが有効です
        // m_fileInfo.setCaching(true); // 明示的に有効にすることもできますが、デフォルトで有効です

        m_watcher.addPath(filePath);
        connect(&m_watcher, &QFileSystemWatcher::fileChanged, this, &FileMonitor::onFileChanged);

        qDebug() << "監視を開始しました: " << m_filePath;
        displayCurrentFileInfo();
    }

private slots:
    void onFileChanged(const QString& path) {
        qDebug() << "\n--> ファイルが変更されました: " << path;

        // キャッシュされている QFileInfo の情報を強制的に更新
        m_fileInfo.refresh();

        displayCurrentFileInfo();
    }

private:
    void displayCurrentFileInfo() {
        qDebug() << "現在のファイル情報:";
        qDebug() << "  exists():" << m_fileInfo.exists();
        if (m_fileInfo.exists()) {
            qDebug() << "  size():" << m_fileInfo.size() << "bytes";
            qDebug() << "  lastModified():" << m_fileInfo.lastModified().toString(Qt::ISODate);
        } else {
            qDebug() << "  ファイルは存在しません。";
        }
    }

    QString m_filePath;
    QFileInfo m_fileInfo;
    QFileSystemWatcher m_watcher;
};

#include "main.moc" // moc ファイルのインクルード (ビルドシステムが生成)

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString watchedFilePath = "watchedfile.txt";

    // 初期ファイルの作成
    QFile file(watchedFilePath);
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write("Initial content for watching.");
        file.close();
        qDebug() << "ファイル '" << watchedFilePath << "' を作成しました。";
    } else {
        qDebug() << "ファイル '" << watchedFilePath << "' の作成に失敗しました。";
        return 1;
    }
    qDebug() << "\n";

    FileMonitor monitor(watchedFilePath);

    qDebug() << "\n--- プログラム実行中 ---";
    qDebug() << "上記ファイルの内容を外部で変更、保存、または削除してみてください。";
    qDebug() << "変更が検知されると、プログラムが出力を表示します。";
    qDebug() << "終了するには Ctrl+C を押してください。";

    // 終了時のクリーンアップ (必要であれば)
    QObject::connect(&a, &QCoreApplication::aboutToQuit, [&]() {
        QFile cleanupFile(watchedFilePath);
        if (cleanupFile.exists()) {
            if (cleanupFile.remove()) {
                qDebug() << "\nファイル '" << watchedFilePath << "' を削除しました。";
            } else {
                qDebug() << "\nファイル '" << watchedFilePath << "' の削除に失敗しました。";
            }
        }
    });

    return a.exec();
}

ビルドと実行

このコードは Q_OBJECT マクロを使用しているため、Qt のビルドシステム (qmake や CMake) を利用してビルドする必要があります。

qmake の場合

  1. project.pro ファイルを作成し、以下を追加:
    QT       += core
    SOURCES  += main.cpp
    
  2. ターミナルで qmake を実行。
  3. make (または nmake for Windows) を実行。
  4. 生成された実行ファイルを起動。

CMake の場合

  1. CMakeLists.txt ファイルを作成し、以下を追加:
    cmake_minimum_required(VERSION 3.16)
    project(QFileInfoCachingExample LANGUAGES CXX)
    
    find_package(Qt6 COMPONENTS Core REQUIRED)
    
    add_executable(QFileInfoCachingExample main.cpp)
    target_link_libraries(QFileInfoCachingExample PRIVATE Qt6::Core)
    
  2. ビルドディレクトリを作成し、移動。
  3. cmake .. を実行。
  4. cmake --build . を実行。
  5. 生成された実行ファイルを起動。
  1. FileMonitor クラスは QFileSystemWatcher をメンバーとして持ち、コンストラクタで指定されたファイルパスを監視対象に追加します。
  2. QFileSystemWatcher::fileChanged シグナルが発せられると、onFileChanged スロットが呼び出されます。
  3. onFileChanged スロット内で、m_fileInfo.refresh(); を呼び出します。これにより、m_fileInfo オブジェクトが持つ内部キャッシュが破棄され、次にファイル情報を要求した際にファイルシステムから最新の情報が取得されるようになります。
  4. このアプローチは、常にキャッシュを無効にするよりも、必要なときにだけ情報を更新するため、効率的です。


QFileInfo::refresh() を明示的に呼び出す

これは QFileInfo::setCaching(false) の直接的な代替手段ではありませんが、キャッシュが有効な状態(デフォルト)で、一時的に最新のファイル情報を取得したい場合に非常に有効です。

説明
QFileInfo オブジェクトは、デフォルトでファイル情報をキャッシュします。つまり、一度情報を取得すると、次に同じ情報を要求されてもファイルシステムにアクセスせず、キャッシュされたデータを返します。refresh() メソッドを呼び出すと、内部キャッシュがクリアされ、次に情報が要求されたときにファイルシステムから最新の情報が再取得されます。

利点

  • QFileInfo オブジェクトのデフォルトのキャッシュ動作を利用できるため、実装がシンプルになります。
  • 必要な時だけファイルシステムにアクセスするため、setCaching(false) を常に設定するよりもパフォーマンスが良い場合が多いです。

欠点

  • プログラマがいつ refresh() を呼び出すべきかを判断する必要があります。ファイルが外部で変更されたタイミングを正確に知るのは難しい場合があります。

コード例

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <QThread> // QThread::msleep のため
#include <QFile>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString filePath = "my_document.txt";
    QFile file(filePath);

    // ファイルの初期作成
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write("Hello, initial content.");
        file.close();
        qDebug() << "ファイルを作成しました。";
    }

    QFileInfo fileInfo(filePath); // デフォルトでキャッシュが有効

    qDebug() << "--- キャッシュ有効な状態 ---";
    qDebug() << "初回 exists():" << fileInfo.exists();
    qDebug() << "初回 size():" << fileInfo.size();

    // ユーザーにファイルを変更するよう促す(例:内容を編集・保存)
    qDebug() << "\n--> 外部でファイルを変更してください (例: my_document.txt の内容を編集・保存)。";
    QThread::msleep(3000); // 3秒待機

    qDebug() << "\n--- 変更後(refresh() 前)---";
    // ここではまだキャッシュされた情報が使われる可能性がある
    qDebug() << "変更後 exists():" << fileInfo.exists();
    qDebug() << "変更後 size():" << fileInfo.size(); // 変更が反映されていないかも

    qDebug() << "\n--- refresh() 呼び出し後 ---";
    fileInfo.refresh(); // キャッシュを強制的に更新
    qDebug() << "refresh() 後 exists():" << fileInfo.exists();
    qDebug() << "refresh() 後 size():" << fileInfo.size(); // 最新情報が取得されるはず

    // 後処理
    if (file.exists()) {
        file.remove();
        qDebug() << "ファイルを削除しました。";
    }

    return a.exec();
}

QFileSystemWatcher を使用してファイル変更を監視する

これは、ファイルが外部から変更されたときに自動的に QFileInfo の情報を更新したい場合に最も強力な方法です。

説明
QFileSystemWatcher クラスは、指定されたファイルやディレクトリの変更をOSレベルで監視します。ファイルが変更(内容、サイズ、更新日時など)、リネーム、削除された場合、またはディレクトリの内容が変更された場合にシグナル(fileChanged() または directoryChanged())を発行します。このシグナルを受け取って、関連する QFileInfo オブジェクトの refresh() を呼び出すことができます。

利点

  • イベント駆動型であり、ポーリング(定期的な情報取得)よりも効率的です。
  • QFileInfo のキャッシュを有効なまま利用できるため、不要なファイルシステムアクセスを避けられます。
  • ファイル変更のリアルタイムな検出が可能です。

欠点

  • 一度に大量のファイルやディレクトリを監視すると、OSのリソースを消費する可能性があります。
  • OSの機能に依存するため、全ての変更が即座に検出されるとは限りません(特にネットワーク共有の場合)。
// main.cpp (前回の回答と同じ)
#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <QFileSystemWatcher>
#include <QFile>

class FileMonitor : public QObject
{
    Q_OBJECT
public:
    FileMonitor(const QString& filePath, QObject* parent = nullptr)
        : QObject(parent), m_filePath(filePath), m_fileInfo(filePath)
    {
        m_watcher.addPath(filePath);
        connect(&m_watcher, &QFileSystemWatcher::fileChanged, this, &FileMonitor::onFileChanged);
        qDebug() << "監視を開始しました: " << m_filePath;
        displayCurrentFileInfo();
    }

private slots:
    void onFileChanged(const QString& path) {
        qDebug() << "\n--> ファイルが変更されました: " << path;
        m_fileInfo.refresh(); // QFileInfo のキャッシュを更新
        displayCurrentFileInfo();
    }

private:
    void displayCurrentFileInfo() {
        qDebug() << "現在のファイル情報:";
        qDebug() << "  exists():" << m_fileInfo.exists();
        if (m_fileInfo.exists()) {
            qDebug() << "  size():" << m_fileInfo.size() << "bytes";
            qDebug() << "  lastModified():" << m_fileInfo.lastModified().toString(Qt::ISODate);
        } else {
            qDebug() << "  ファイルは存在しません。";
        }
    }
    QString m_filePath;
    QFileInfo m_fileInfo;
    QFileSystemWatcher m_watcher;
};

#include "main.moc" // moc ファイルのインクルード

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);
    QString watchedFilePath = "watched_for_changes.txt";
    QFile file(watchedFilePath);
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write("Initial content.");
        file.close();
        qDebug() << "ファイル '" << watchedFilePath << "' を作成しました。";
    }
    FileMonitor monitor(watchedFilePath);
    qDebug() << "\nファイルを外部で変更してみてください。";
    QObject::connect(&a, &QCoreApplication::aboutToQuit, [&]() {
        if (file.exists()) file.remove();
    });
    return a.exec();
}

短命な QFileInfo オブジェクトを繰り返し作成する

これは、QFileInfo::setCaching(false) と似た効果をもたらしますが、より明示的に毎回新しいファイル情報を取得します。

説明
QFileInfo オブジェクトは比較的軽量なため、ファイル情報が必要なときに毎回新しい QFileInfo オブジェクトを作成し、使用後に破棄するという方法です。これにより、各 QFileInfo オブジェクトはその時点で最新のファイルシステム情報を取得しようとします。

利点

  • コードがシンプルになる場合があります。
  • setCaching() の設定を気にする必要がありません。

欠点

  • 非常に頻繁に情報を取得する場合、またはネットワークドライブのようにアクセスが遅い環境では、パフォーマンスが著しく低下する可能性があります。
  • ファイル情報が必要な都度、新しい QFileInfo オブジェクトの作成と破棄のオーバーヘッドが発生します。

コード例

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <QThread>
#include <QFile>

// ヘルパー関数: 最新の QFileInfo オブジェクトを作成して情報を表示
void displayLatestFileInfo(const QString& description, const QString& filePath) {
    QFileInfo currentFileInfo(filePath); // 毎回新しいオブジェクトを作成
    qDebug() << description << ":";
    qDebug() << "  exists():" << currentFileInfo.exists();
    if (currentFileInfo.exists()) {
        qDebug() << "  size():" << currentFileInfo.size() << "bytes";
        qDebug() << "  lastModified():" << currentFileInfo.lastModified();
    }
    qDebug() << "";
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString filePath = "temp_data.log";
    QFile file(filePath);

    // 初期ファイルの作成
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write("Log entry 1.\n");
        file.close();
        qDebug() << "ファイルを作成しました。";
    }

    displayLatestFileInfo("初回情報取得", filePath);

    qDebug() << "--> 2秒待機後、ファイルの内容を外部で変更してください。";
    qDebug() << "    (例: temp_data.log に何か追記して保存する、または削除する)";
    QThread::msleep(2000); // ユーザーがファイル変更するのを待つ

    displayLatestFileInfo("2秒後情報取得", filePath); // 毎回最新情報を取得しようとする

    // 後処理
    if (file.exists()) {
        file.remove();
        qDebug() << "ファイルを削除しました。";
    }

    return a.exec();
}

説明
QFileInfo は便利な抽象化を提供しますが、場合によってはQFileなどのより低レベルなクラスや、OS固有のAPI(Windows APIの GetFileAttributesEx など)を直接使用してファイル情報を取得することもできます。これにより、特定の情報のみを効率的に取得したり、QFileInfo のキャッシュロジックを完全にバイパスしたりできます。

利点

  • QFileInfo のキャッシュによる影響を完全に排除できます。
  • 必要な情報のみを最小限のオーバーヘッドで取得できる場合があります。
  • 最も細かいレベルでの制御が可能です。

欠点

  • ほとんどの場合、QFileInfo とそのキャッシュ制御で十分です。
  • QFileInfo が提供する便利な高レベルな機能(パス解析、種類判定など)を自分で実装する必要があります。
  • OS依存のAPIを使用する場合、コードの移植性が失われます。
#include <QCoreApplication>
#include <QFile>
#include <QDebug>
#include <QDateTime>

// QFileInfo を使わずにファイルサイズを取得する例
qint64 getFileSizeDirectly(const QString& filePath) {
    QFile file(filePath);
    if (file.open(QIODevice::ReadOnly)) {
        qint64 size = file.size();
        file.close();
        return size;
    }
    return -1; // エラー
}

// QFileInfo を使わずにファイルの最終更新日時を取得する例 (ただし、QFile だけでは難しい)
// 通常は QFileInfo を使うか、OS固有のAPIが必要になる
QDateTime getLastModifiedDirectly(const QString& filePath) {
    // QFileInfo を使わない場合、QFile 単体では直接最終更新日時を取得するメソッドはない
    // そのため、ここでは QFileInfo のラッパーとして示す
    QFileInfo tempInfo(filePath);
    return tempInfo.lastModified();
}

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString filePath = "direct_access.txt";
    QFile file(filePath);
    if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
        file.write("Direct access content.");
        file.close();
        qDebug() << "ファイルを作成しました。";
    }

    qDebug() << "直接ファイルサイズを取得: " << getFileSizeDirectly(filePath);
    qDebug() << "直接最終更新日時を取得 (QFileInfo経由): " << getLastModifiedDirectly(filePath);

    if (file.exists()) {
        file.remove();
    }

    return a.exec();
}
  • 極めて頻繁にファイル情報を取得し、パフォーマンスが最優先される場合
    短命な QFileInfo オブジェクトを繰り返し作成するか、または特定の情報に特化して低レベルなAPIを検討する。ただし、後者は移植性の問題が発生しがちです。
  • 常に最新の情報が必要で、パフォーマンスへの影響が許容される場合
    QFileInfo::setCaching(false) を使用する。
  • ほとんどのケースで推奨
    QFileInfo のデフォルトのキャッシュ動作を維持し、必要に応じて QFileInfo::refresh() を呼び出すか、QFileSystemWatcher と連携させる。これがパフォーマンスとコードのシンプルさのバランスが最も良いです。