QFileInfo::lastRead()が期待通りに動かない?Qtでのトラブルシューティングと代替策
QFileInfo::lastRead()
は、Qt の QFileInfo
クラスが提供するメンバー関数の一つで、ファイルが最後に読み込まれた(アクセスされた)日時 を取得するために使用されます。戻り値は QDateTime
型です。
QFileInfo
クラスについて
QFileInfo
クラスは、ファイルシステム上のファイルやディレクトリに関するOSに依存しない情報を提供するクラスです。例えば、ファイルのパス、ファイル名、サイズ、アクセス権限、種類(ファイル、ディレクトリ、シンボリックリンクなど)といった情報を取得できます。lastRead()
もその情報の一つとして提供されています。
lastRead()
の動作と注意点
- キャッシュ:
QFileInfo
は、パフォーマンスのためにファイル情報をキャッシュすることがあります。ファイルが他のプログラムやユーザーによって変更された可能性がある場合は、refresh()
関数を呼び出して最新の情報を取得することを検討してください。 - システムのサポート: ファイルの最終読み込み時刻(アクセス時刻)をサポートしていないシステムの場合、代わりにファイルの最終更新時刻(
lastModified()
が返す値)が返されることがあります。 - 戻り値: ファイルが最後に読み込まれた(アクセスされた)日時を
QDateTime
オブジェクトとして返します。
使用例
C++での典型的な使用例は以下のようになります。
#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDateTime>
#include <QDebug>
int main(int argc, char *argv[])
{
QCoreApplication a(argc, argv);
// 調べたいファイルのパス
QString filePath = "path/to/your/file.txt"; // ここを実際のファイルのパスに置き換えてください
QFileInfo fileInfo(filePath);
if (fileInfo.exists()) {
QDateTime lastReadTime = fileInfo.lastRead();
qDebug() << "ファイル: " << fileInfo.fileName();
qDebug() << "最終読み込み日時: " << lastReadTime.toString(Qt::SystemLocaleLongDate);
} else {
qDebug() << "ファイルが見つかりません: " << filePath;
}
return a.exec();
}
このコードでは、指定されたファイルの QFileInfo
オブジェクトを作成し、exists()
でファイルが存在するか確認した後、lastRead()
を呼び出して最終読み込み日時を取得し、コンソールに表示しています。
QFileInfo::lastRead()
に関連する一般的なエラーとトラブルシューティング
「最終読み込み日時」が期待通りでない(最終更新日時と同じに見える)
問題点
lastRead()
が返す日時が、ファイルの最終更新日時 (lastModified()
) と同じになる、または非常に近い日時になることがあります。これは特にWindows環境で顕著です。
原因
多くのファイルシステム(特にWindowsのNTFSなど)は、ファイルの「最終アクセス日時」をデフォルトで厳密に記録していません。パフォーマンス上の理由から、OSによってはファイルが読み込まれた時にアクセス日時を更新しないか、非常に限定的にしか更新しない設定になっていることがあります。例えば、Windowsではアクセス日時を更新する機能がデフォルトで無効になっている場合があります。
トラブルシューティング
- ファイルシステムの確認
使用しているファイルシステムがアクセス時刻の記録をサポートしているか、またその記録方法が期待と合致しているかを確認します。Linux系のシステムでは、atime
(アクセス時刻) の記録を制御するマウントオプション(noatime
,relatime
など)があります。 - 代替手段の検討
本当に「読み込み時刻」が必要なのか、それとも「更新時刻」で十分なのかを再検討します。多くの場合、lastModified()
で十分な情報が得られます。 - OSの制約を理解する
ファイルシステムの設計によるものであり、Qtのバグではありません。厳密な最終読み込み時刻が必要な場合は、OSの機能や設定(例えば、WindowsのFSUtilコマンドでアクセス時間更新を有効にするなど)を確認する必要がありますが、これはシステム全体のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。
ファイルが存在しない場合の不正確な値
問題点
QFileInfo
オブジェクトに設定されたファイルパスが存在しない場合でも、lastRead()
が QDateTime()
のデフォルト値(無効な日時)ではない何らかの値を返すことがあります。これにより、エラーハンドリングが複雑になることがあります。
原因
QFileInfo
は、ファイルが存在しない場合でも、そのパスに対する情報(例えば、filePath()
や fileName()
)を提供できます。しかし、lastRead()
のようなファイルの実態に依存する情報は、ファイルが存在しない場合は意味のある値を返せません。Qtのドキュメントによると、ファイルが存在しない場合や情報が取得できない場合は、QDateTime()
(無効な日時) を返すことが期待されますが、OSによっては0時の値などを返すこともあり得ます。
トラブルシューティング
- 常に exists() で存在チェックを行う
QFileInfo::lastRead()
を呼び出す前に、必ずQFileInfo::exists()
を使ってファイルが存在するかどうかを確認してください。QFileInfo fileInfo("nonexistent_file.txt"); if (fileInfo.exists()) { QDateTime lastRead = fileInfo.lastRead(); // 処理 } else { qDebug() << "ファイルは存在しません。"; }
パフォーマンスの問題(大量のファイルに対する繰り返しアクセス)
問題点
大量のファイルに対して QFileInfo::lastRead()
を繰り返し呼び出すと、アプリケーションのパフォーマンスが著しく低下することがあります。
原因
QFileInfo
はファイルシステムから情報を取得するため、各呼び出しはディスクI/Oを伴う可能性があります。特に、キャッシュが効いていない場合や、ネットワークドライブ上のファイルを扱っている場合、このオーバーヘッドは大きくなります。
トラブルシューティング
- QFileSystemWatcher の利用
ファイルの変更をリアルタイムで監視したい場合は、QFileSystemWatcher
を利用することで、ポーリング(定期的なrefresh()
呼び出し)の必要性を減らし、効率的に変更を検知できます。 - 非同期処理
UIスレッドがブロックされないように、ファイル情報の取得を別のスレッドで行うことを検討します。QtConcurrent
やQThread
を利用できます。 - 情報を一度に取得し、メモリで処理する
多数のファイルの情報が必要な場合は、一度にすべてのQFileInfo
オブジェクトを作成し、必要な情報を取得してカスタムデータ構造に格納し、その後はメモリ上のデータに対して処理を行うようにします。 - 必要な情報のみ取得する
本当にlastRead()
が必要なのか、lastModified()
やsize()
など、他の情報は必要ないのかを検討します。 - キャッシュの利用
QFileInfo
は情報をキャッシュしますが、最新の状態を保証するためにはrefresh()
を呼び出す必要があります。しかし、refresh()
自体がディスクI/Oを発生させます。
ネットワークドライブやリムーバブルメディア上のファイル
問題点
ネットワークドライブやUSBドライブなど、非ローカルなメディア上のファイルに対して lastRead()
を呼び出すと、遅延やエラーが発生しやすくなります。
原因
ネットワークの遅延、接続の不安定さ、権限の問題、またはメディアが取り外されているなどの要因が考えられます。
- ユーザーへのフィードバック
遅延が発生している場合やエラーが発生した場合に、ユーザーに適切にフィードバックを返すようにします。 - 再試行メカニズム
一時的な接続問題のために、失敗した場合に再試行するロジックを組み込むことを検討します。 - エラーハンドリングの強化
ネットワークアクセスやメディアの存在を考慮した堅牢なエラーハンドリングを実装します。
- 権限の問題
ファイルやディレクトリへのアクセス権限がない場合、QFileInfo
は情報を取得できない可能性があります。exists()
やisReadable()
などの関数で権限を確認することができます。 - OSとファイルシステムの特性
QFileInfo::lastRead()
が返す情報の精度と動作は、使用しているOS(Windows, macOS, Linuxなど)とそのファイルシステム(NTFS, ext4, HFS+など)の特性に大きく依存します。特にアクセス時刻の記録方法はOSによって異なります。
例1: 基本的なファイル情報の取得(単一ファイル)
この例では、指定されたファイルの最終読み込み日時、最終更新日時、作成日時を表示します。OSの制約によりlastRead()
がlastModified()
と同じ値になる場合があることを示唆するため、両方の情報を取得しています。
#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDateTime>
#include <QDebug>
#include <QDir> // QDir::currentPath() を使うため
int main(int argc, char *argv[])
{
QCoreApplication a(argc, argv);
// 調べたいファイルのパスを指定
// ここでは実行ファイルと同じディレクトリにある "test_file.txt" を想定します。
// 存在しない場合は、作成してから実行してください。
// 例: echo "Hello, Qt!" > test_file.txt
QString filePath = QDir::currentPath() + "/test_file.txt";
QFileInfo fileInfo(filePath);
qDebug() << "--- ファイル情報 ---";
qDebug() << "ファイルパス: " << filePath;
if (fileInfo.exists()) {
qDebug() << "ファイル名: " << fileInfo.fileName();
qDebug() << "ファイルのサイズ: " << fileInfo.size() << "バイト";
qDebug() << "最終読み込み日時 (lastRead): " << fileInfo.lastRead().toString(Qt::SystemLocaleLongDate);
qDebug() << "最終更新日時 (lastModified): " << fileInfo.lastModified().toString(Qt::SystemLocaleLongDate);
qDebug() << "作成日時 (created): " << fileInfo.birthTime().toString(Qt::SystemLocaleLongDate); // Qt 6.0以降で利用可能
qDebug() << "書き込み可能: " << fileInfo.isWritable();
qDebug() << "読み込み可能: " << fileInfo.isReadable();
} else {
qDebug() << "エラー: ファイルが見つかりません。パスを確認してください: " << filePath;
// ファイルを作成してアクセス日時をテストするために、ここで簡易的にファイルを作成する
QFile file(filePath);
if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
QTextStream out(&file);
out << "これはテストファイルです。\n";
file.close();
qDebug() << "テストファイルを作成しました。もう一度実行してください。";
} else {
qDebug() << "ファイルの作成に失敗しました。";
}
}
return 0; // QCoreApplication::exec() はイベントループを起動するため、ここでは不要
}
解説
isWritable()
,isReadable()
: ファイルの書き込み/読み込み権限を確認します。birthTime()
: ファイルの作成日時を取得します。Qt 6.0以降で利用可能です。古いQtバージョンでは利用できないか、lastModified()
と同じ値を返す場合があります。lastRead().toString(Qt::SystemLocaleLongDate)
:QDateTime
オブジェクトをシステムのロケールに合わせた長い形式の文字列に変換して表示します。fileInfo.exists()
: ファイルが存在するかどうかをチェックします。これは非常に重要です。QDir::currentPath()
: 実行ファイルが置かれているディレクトリのパスを取得します。
例2: ディレクトリ内のファイルの最終読み込み日時を一覧表示
この例では、特定のディレクトリ内のすべてのファイルの最終読み込み日時を取得し、表示します。
#include <QCoreApplication>
#include <QDir>
#include <QFileInfo>
#include <QDateTime>
#include <QDebug>
int main(int argc, char *argv[])
{
QCoreApplication a(argc, argv);
// 調べたいディレクトリのパス
// 例: QDir::homePath() -> ユーザーのホームディレクトリ
// 例: "C:/MyDocuments" (Windows)
// 例: "/home/user/documents" (Linux)
QString directoryPath = QDir::homePath(); // ここを任意のディレクトリパスに置き換えてください
QDir directory(directoryPath);
qDebug() << "--- ディレクトリ内のファイル情報 ---";
qDebug() << "対象ディレクトリ: " << directoryPath;
if (!directory.exists()) {
qDebug() << "エラー: ディレクトリが見つかりません: " << directoryPath;
return 0;
}
// ディレクトリ内のすべてのエントリ(ファイルとサブディレクトリ)を取得
// QDir::Files: ファイルのみ
// QDir::NoDotAndDotDot: "." と ".." を除外
QFileInfoList fileList = directory.entryInfoList(QDir::Files | QDir::NoDotAndDotDot);
if (fileList.isEmpty()) {
qDebug() << "このディレクトリにはファイルがありません。";
} else {
qDebug() << "ファイル名\t\t最終読み込み日時";
qDebug() << "------------------------------------------";
for (const QFileInfo &fileInfo : fileList) {
// ここで lastRead() を呼び出すことで、QFileInfoがファイルシステムから情報を取得する
QDateTime lastReadTime = fileInfo.lastRead();
qDebug() << fileInfo.fileName().leftJustified(20, ' ') << "\t"
<< lastReadTime.toString(Qt::SystemLocaleShortDate);
}
}
return 0;
}
解説
leftJustified(20, ' ')
: ファイル名を20文字幅で左寄せにするためのQStringの関数で、出力の整形に役立ちます。QDir::entryInfoList()
: ディレクトリ内のファイルやディレクトリのリストをQFileInfoList
として取得します。フィルタ(QDir::Files
,QDir::NoDotAndDotDot
)を使って、必要なエントリのみを取得できます。
例3: ファイルの最終読み込み日時を更新(読み込み操作をシミュレート)
QFileInfo::lastRead()
が返す日時を「更新」するには、そのファイルを実際に読み込む必要があります。この例では、ファイルを開いて読み込むことで、そのファイルの最終読み込み日時が変更されることを示します。
#include <QCoreApplication>
#include <QFile>
#include <QFileInfo>
#include <QDateTime>
#include <QDebug>
#include <QDir>
// ファイルの情報を表示するヘルパー関数
void printFileInfo(const QString& filePath, const QString& label) {
QFileInfo fileInfo(filePath);
if (fileInfo.exists()) {
qDebug() << label << " - lastRead: " << fileInfo.lastRead().toString(Qt::SystemLocaleLongDate);
qDebug() << label << " - lastModified: " << fileInfo.lastModified().toString(Qt::SystemLocaleLongDate);
} else {
qDebug() << label << " - ファイルが存在しません。";
}
}
int main(int argc, char *argv[])
{
QCoreApplication a(argc, argv);
QString filePath = QDir::currentPath() + "/test_update_read_time.txt";
QFile file(filePath);
// 1. ファイルが存在しない場合は作成
if (!file.exists()) {
if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
QTextStream out(&file);
out << "初回書き込み。\n";
file.close();
qDebug() << "ファイルを新規作成しました。";
// 作成直後のlastReadは、lastModifiedまたはcreatedと同じ値になることが多い
} else {
qDebug() << "ファイルの作成に失敗しました。";
return 0;
}
}
// 2. 現在のファイル情報を表示
printFileInfo(filePath, "初期状態");
// 3. ファイルを読み込む操作を実行
qDebug() << "\nファイルを読み込みます...";
if (file.open(QIODevice::ReadOnly | QIODevice::Text)) {
QTextStream in(&file);
QString content = in.readAll(); // ファイルの内容を読み込む
qDebug() << "ファイル内容: " << content.trimmed();
file.close();
qDebug() << "ファイル読み込み完了。";
} else {
qDebug() << "ファイルの読み込みに失敗しました。";
}
// 4. 読み込み後のファイル情報を再度表示
// QFileInfo のキャッシュをクリアするために新しい QFileInfo オブジェクトを作成するか、refresh() を呼び出す
printFileInfo(filePath, "読み込み後");
// オプション: ファイルを削除する
// QFile::remove(filePath);
// qDebug() << "\nテストファイルを削除しました。";
return 0;
}
- 重要な注意点: Windows環境では、
lastRead()
(アクセス時刻)の更新がデフォルトで無効になっていることが多いため、この例を実行してもlastRead()
の値が変わらない場合があります。LinuxなどのUNIX系システムでは、通常はファイルの読み込みによってアクセス時刻が更新されます。 QTextStream::readAll()
: ファイルの内容をすべて読み込みます。QIODevice::ReadOnly
: ファイルを読み込みモードで開きます。これがアクセス時刻の更新トリガーとなります。printFileInfo()
: ファイルの現在のlastRead()
とlastModified()
を表示するヘルパー関数です。
このような場合や、より特定の目的に合わせたファイル時刻の取得が必要な場合に利用できる代替手段について説明します。
QFileInfo::lastModified() を使用する
いつ使うか
lastRead()
が正しく機能しない環境で、「最終アクセス日時」の代わりに「最終更新日時」で十分な場合。多くのアプリケーションで、ファイルの変更時刻が最も重要な情報となります。- ファイルの「最終更新日時」が必要な場合。
利点
QFileInfo
クラスの一部であり、QtのAPIで簡単に利用できます。- 多くのファイルシステムで信頼性が高く、一般的にサポートされています。
コード例
#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
int main(int argc, char *argv[])
{
QCoreApplication a(argc, argv);
QString filePath = "path/to/your/file.txt"; // 実際のファイルのパスに置き換える
QFileInfo fileInfo(filePath);
if (fileInfo.exists()) {
QDateTime lastModifiedTime = fileInfo.lastModified();
qDebug() << "ファイル: " << fileInfo.fileName();
qDebug() << "最終更新日時: " << lastModifiedTime.toString(Qt::SystemLocaleLongDate);
} else {
qDebug() << "ファイルが見つかりません: " << filePath;
}
return 0;
}
QFileInfo::birthTime() を使用する(Qt 6.0以降)
いつ使うか
- ファイルが「作成された日時」が必要な場合。