Qtのパス解決を徹底解説!filesystemCanonicalFilePath()と代替メソッド

2025-05-31

std::filesystem::path QFileInfo::filesystemCanonicalFilePath() とは?

この関数は、QtのQFileInfoクラスのメンバー関数で、特定のファイルまたはディレクトリの正準パス (Canonical Path) を、C++17で導入されたstd::filesystem::path型で返します。

「正準パス (Canonical Path)」 とは、ファイルシステム上のある場所を一意に特定するための、最もシンプルで直接的なパスのことです。具体的には、以下の要素を解決して正規化されたパスを指します。

  1. シンボリックリンクの解決
    シンボリックリンク(Windowsのショートカットなど)がある場合、それが指す実際のファイルまたはディレクトリのパスに変換されます。
  2. 相対パスの解決
    . (現在のディレクトリ) や .. (親ディレクトリ) といった相対パスの要素がすべて解決され、絶対パスになります。
  3. 余分な区切り文字の削除
    /./// のような冗長なパス区切りが取り除かれます。
  4. 大文字・小文字の正規化(必要に応じて)
    ファイルシステムが大文字・小文字を区別しない場合(例: Windows)、パスの大文字・小文字が正規化されることがあります。

なぜこの関数が重要なのか?

  • C++17 std::filesystemとの統合
    Qt 6.0以降で導入されたこの関数は、C++標準ライブラリのstd::filesystemとの連携を強化するものです。これにより、Qtのファイル情報と標準C++のファイルシステム操作をシームレスに組み合わせることができます。
  • ファイルシステムとの正確な連携
    特に、ファイルシステムに実際にアクセスして何か操作を行う場合(ファイルの読み書き、権限の確認など)には、正準パスを使用することが推奨されます。これにより、意図しない場所へのアクセスやエラーを防ぐことができます。
  • 一意な識別
    ファイルやディレクトリをプログラムで扱う際、同じファイルでも複数のパスで参照される可能性があります(例: シンボリックリンクや相対パス)。正準パスを使用することで、どのパスが入力されても常に同じ一意のパスを得ることができ、比較や処理が容易になります。

std::filesystem::path とは?

std::filesystem::pathは、C++17で標準化されたファイルパスを表現するためのクラスです。プラットフォームの違い(Windowsの\とUnixの/など)を吸収し、ファイルパスの操作(連結、親ディレクトリの取得、拡張子の取得など)を安全かつポータブルに行うための機能を提供します。

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <filesystem> // C++17 filesystemをインクルード

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // 例1: 相対パスの解決
    QFileInfo relativeFile("test_dir/./../test_file.txt");
    std::filesystem::path canonicalPath1 = relativeFile.filesystemCanonicalFilePath();
    qDebug() << "相対パスの正準パス:" << QString::fromStdWString(canonicalPath1.c_str());

    // 例2: シンボリックリンクの解決 (仮定: "my_symlink"が"real_file.txt"を指している)
    // 実際には事前にシンボリックリンクを作成する必要があります。
    // 例: Linux/macOS: ln -s real_file.txt my_symlink
    // 例: Windows (管理者権限): mklink my_symlink real_file.txt
    QFileInfo symlinkFile("my_symlink");
    if (symlinkFile.exists()) {
        std::filesystem::path canonicalPath2 = symlinkFile.filesystemCanonicalFilePath();
        qDebug() << "シンボリックリンクの正準パス:" << QString::fromStdWString(canonicalPath2.c_str());
    } else {
        qDebug() << "my_symlink が見つかりません。シンボリックリンクのテストはスキップします。";
    }

    // 例3: 絶対パスの正規化
    QFileInfo absoluteFile("/usr/local//./bin/../share/app_data/my_config.ini");
    std::filesystem::path canonicalPath3 = absoluteFile.filesystemCanonicalFilePath();
    qDebug() << "絶対パスの正規化されたパス:" << QString::fromStdWString(canonicalPath3.c_str());

    return 0;
}
  • std::filesystem::pathは、内部的にwchar_tベースの文字列を使用することが多いですが、環境によってはcharベースの場合もあります。QtのQStringに変換する際は、QString::fromStdWString()QString::fromStdString()を適切に使い分けるか、path.string()path.wstring()で明示的に変換してからQStringに渡すのが安全です。上記の例ではQString::fromStdWString(canonicalPath.c_str())を使用しています。
  • C++17のstd::filesystemを使用するため、コンパイラがC++17以降の標準をサポートしている必要があります。また、Qtのビルド設定によってはQT_CONFIG(cxx17_filesystem)が有効になっている必要がありますが、通常はQt 6以降であればデフォルトで有効です。
  • filesystemCanonicalFilePath() は、ファイルシステムに実際にアクセスして情報を取得するため、ファイルが存在しない場合やアクセス権がない場合は空のパスを返すか、エラーになる可能性があります。使用前にQFileInfo::exists()などでファイルの存在を確認することをお勧めします。


ファイル/ディレクトリが存在しない、またはアクセスできない

これは最も一般的な問題です。filesystemCanonicalFilePath()は、指定されたパスが実際にファイルシステム上に存在し、かつプログラムがそれにアクセスできる場合にのみ、有効な正準パスを返します。

一般的なエラーの兆候

  • 意図しないパスが返される(これはあまり多くないが、特定のケースで発生しうる)。
  • 返されるstd::filesystem::pathが空になる。

トラブルシューティング

  • パスのスペルミスや大文字・小文字の区別
    パスのスペルミスや、ファイルシステムが大文字・小文字を区別する場合(Unix系)に、間違った大文字・小文字でパスを指定している可能性があります。
  • アクセス権限を確認する
    ファイルシステム上のアクセス権限が不足している場合も、期待通りの結果が得られないことがあります。特に、WindowsでのUAC(ユーザーアカウント制御)や、Linux/macOSでのパーミッション設定が関係することがあります。
    • 開発環境で実行している場合は、管理者権限で実行してみる。
    • 本番環境では、アプリケーションが実行されるユーザーの権限を確認する。
  • QFileInfo::exists()で存在を確認する
    filesystemCanonicalFilePath()を呼び出す前に、QFileInfo::exists()を使ってファイルまたはディレクトリが実際に存在するかどうかを確認します。
    QFileInfo fileInfo("path/to/non_existent_file.txt");
    if (!fileInfo.exists()) {
        qDebug() << "ファイルまたはディレクトリが存在しません。";
        // エラー処理
        return;
    }
    std::filesystem::path canonicalPath = fileInfo.filesystemCanonicalFilePath();
    

シンボリックリンク/ショートカットの問題

filesystemCanonicalFilePath()の主な目的の一つは、シンボリックリンクやWindowsのショートカットを解決して実際のターゲットパスを返すことです。しかし、これが問題を引き起こす場合もあります。

一般的なエラーの兆候

  • シンボリックリンクの解決に時間がかかる、またはフリーズする(特にネットワークドライブ上のリンクの場合)。
  • シンボリックリンクが指すファイルが存在しない(「ぶら下がりリンク (dangling symlink)」)。この場合、filesystemCanonicalFilePath()は空のパスを返す可能性があります。

トラブルシューティング

  • 無限ループの可能性
    極めて稀ですが、シンボリックリンクが自分自身を指す、または複数のリンクが循環参照するような場合(無限ループ)には、問題が発生する可能性があります。しかし、std::filesystemの実装は通常、このようなケースを検出し、例外を投げるか、特定の制限を超えた後に解決を停止するように設計されています。
  • リンク先の存在を確認する
    QFileInfo::symLinkTarget()でリンク先を取得し、そのQFileInfoオブジェクトに対してexists()を呼び出すことで、リンク先が有効かどうかを確認できます。
    QFileInfo symlinkInfo("my_symlink");
    if (symlinkInfo.isSymLink()) {
        QFileInfo targetInfo(symlinkInfo.symLinkTarget());
        if (!targetInfo.exists()) {
            qDebug() << "シンボリックリンクのターゲットが存在しません。";
            // エラー処理
            return;
        }
    }
    std::filesystem::path canonicalPath = symlinkInfo.filesystemCanonicalFilePath();
    

パフォーマンスの問題

filesystemCanonicalFilePath()は、ファイルシステムにアクセスしてパスを解決するため、特に多数のファイルを処理する場合や、ネットワークドライブ上のファイルに対して呼び出す場合にパフォーマンスのボトルネックになることがあります。

一般的なエラーの兆候

  • ファイル操作が遅いと感じる。
  • アプリケーションの応答性が低下する。

トラブルシューティング

  • ネットワークドライブの問題
    ネットワークドライブ上のパスを頻繁に解決する場合、ネットワークの遅延がパフォーマンスに大きく影響します。可能であれば、ローカルキャッシュを利用する、または事前に必要な情報を取得しておくなどの工夫が必要です。
  • 非同期処理
    大量のパスを処理する必要がある場合は、UIスレッドをブロックしないように、別のスレッドでfilesystemCanonicalFilePath()を呼び出すことを検討します。QtConcurrentやQt::QueuedConnectionを使用できます。
  • 必要な場合にのみ呼び出す
    不要なfilesystemCanonicalFilePath()の呼び出しを避けます。正準パスが必要ない場合は、QFileInfo::absoluteFilePath()(シンボリックリンクを解決しない絶対パス)やQFileInfo::filePath()(元のパス)を使用することを検討します。
  • キャッシュの利用
    QFileInfoは、ファイルシステムからの情報をキャッシュする機能を持っています。通常はデフォルトで有効ですが、QFileInfo::setCaching(true)で明示的に有効にしたり、refresh()で最新の情報に更新したりできます。ただし、filesystemCanonicalFilePath()自体は、通常、最新の正準パスを取得するためにファイルシステムにアクセスします。

C++17 std::filesystemとの互換性問題

filesystemCanonicalFilePath()はC++17のstd::filesystem::pathを返します。これに関連する問題が発生する可能性があります。

一般的なエラーの兆候

  • 実行時エラー: std::filesystem::pathの操作で予期せぬ動作。
  • コンパイルエラー: std::filesystemが見つからない、または利用できないというエラー。

トラブルシューティング

  • Qtのバージョン
    filesystemCanonicalFilePath()はQt 6.0で導入されました。Qt 5.x以前を使用している場合は利用できません。その場合は、QFileInfo::canonicalFilePath()(QStringを返す旧バージョン)を使用するか、QDir::canonicalPath()を検討してください。ただし、これらの関数はstd::filesystem::pathではなくQStringを返すため、必要に応じて変換が必要です。
  • ヘッダのインクルード
    std::filesystemを使用するには、#include <filesystem>が必要です。
  • C++17の有効化
    プロジェクトのビルド設定でC++17以上が有効になっていることを確認します。
    • CMakeの場合: set(CMAKE_CXX_STANDARD 17) または set(CMAKE_CXX_STANDARD_REQUIRED ON)
    • qmakeの場合: CONFIG += c++17

filesystemCanonicalFilePath()std::filesystem::pathを返すため、Qtの従来のパス表現であるQStringとの間で変換を行う際に問題が生じることがあります。

一般的なエラーの兆候

  • パスの比較がうまくいかない。
  • パスが正しく表示されない(文字化けなど)。
  • UTF-8の考慮
    ファイルシステムパスはOSや設定によってエンコーディングが異なる場合があります。特にWindowsでは、Unicode (UTF-16) が主流ですが、Linux/macOSではUTF-8が一般的です。std::filesystemはこれらの違いを抽象化しようとしますが、アプリケーション内でQStringと混在させる場合は、エンコーディングの一貫性に注意が必要です。Qt 6では内部的にUTF-8が強化されていますが、明示的な変換時には意識しておくと良いでしょう。
  • 適切な変換を使用する
    • std::filesystem::pathからQStringへ:
      • QString::fromStdString(path.string()) (UTF-8エンコーディングが期待される場合)
      • QString::fromStdWString(path.wstring()) (Windowsなど、wchar_tが使用される環境で推奨)
      • QString::fromLocal8Bit(path.string()) (システムロケールのエンコーディングが使用される場合) 最も安全なのは、path.string()path.wstring()の戻り値を明示的にエンコーディングを考慮してQStringに変換することです。
    • QStringからstd::filesystem::pathへ:
      • std::filesystem::path(qs.toStdString())
      • std::filesystem::path(qs.toStdWString())


QtのQFileInfo::filesystemCanonicalFilePath()は、C++17のstd::filesystem::pathを返す関数であり、ファイルやディレクトリの正準パス(Canonical Path) を取得する際に使用されます。正準パスとは、シンボリックリンクや相対パスを解決し、ファイルシステム上でその場所を一意に特定できる最も直接的な絶対パスのことです。

ここでは、いくつかのプログラミング例を通じて、この関数の使い方と関連する考慮事項を説明します。

準備

以下の例を実行するには、Qtプロジェクトの.proファイル(qmakeを使用している場合)またはCMakeLists.txt(CMakeを使用している場合)に、必要なモジュールとC++標準バージョンを設定する必要があります。

qmakeの場合 (.proファイル)

QT += core # QFileInfo, qDebug などが含まれる
CONFIG += c++17 # C++17のstd::filesystemを有効にする

CMakeの場合 (CMakeLists.txtファイル)

cmake_minimum_required(VERSION 3.16 FATAL_ERROR) # Qt6の場合
project(QtFilesystemExample LANGUAGES CXX)

set(CMAKE_CXX_STANDARD 17) # C++17を有効にする
set(CMAKE_CXX_STANDARD_REQUIRED ON)

find_package(Qt6 COMPONENTS Core REQUIRED) # Qt6の場合
# find_package(Qt5 COMPONENTS Core REQUIRED) # Qt5の場合

add_executable(QtFilesystemExample main.cpp)
target_link_libraries(QtFilesystemExample PRIVATE Qt6::Core) # Qt6の場合
# target_link_libraries(QtFilesystemExample PRIVATE Qt5::Core) # Qt5の場合

例1: 基本的な使用法 - 相対パスの解決

この例では、相対パスがどのように絶対的で正準なパスに解決されるかを示します。

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <filesystem> // std::filesystem を使用するために必要

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // テスト用のファイルを作成します (必要に応じて)
    // 例えば、プロジェクトのビルドディレクトリに "test_dir" フォルダを作成し、
    // その中に "my_file.txt" という空のファイルを作成しておきます。
    // mkdir test_dir
    // touch test_dir/my_file.txt (Linux/macOS)
    // type nul > test_dir\my_file.txt (Windows)

    // 相対パスを持つQFileInfoオブジェクトを作成
    QFileInfo fileInfo("test_dir/./../test_dir/my_file.txt");

    // 最初に元のパスを表示
    qDebug() << "元のパス (QString):" << fileInfo.filePath();

    // 正準パスを取得
    std::filesystem::path canonicalPath = fileInfo.filesystemCanonicalFilePath();

    // 結果を表示
    if (!canonicalPath.empty()) {
        // std::filesystem::path を QString に変換して表示
        // 通常は fromStdWString() が最も互換性が高いですが、環境によって fromStdString() も考慮
        qDebug() << "正準パス (std::filesystem::path):" << QString::fromStdWString(canonicalPath.wstring());
    } else {
        qDebug() << "正準パスを取得できませんでした。ファイルが存在しないか、アクセスできません。";
    }

    return 0;
}

実行結果の例(環境によって異なる)

元のパス (QString): "test_dir/./../test_dir/my_file.txt"
正準パス (std::filesystem::path): "/home/user/my_project/build_dir/test_dir/my_file.txt"

(Windowsの場合、パスの区切り文字は\になり、ドライブレターも付きます。)

この例では、test_dir/./../test_dir/my_file.txtという相対パスが、./../が解決され、現在の作業ディレクトリを基点とした完全な絶対パスに変換されていることがわかります。

例2: シンボリックリンクの解決

filesystemCanonicalFilePath()の重要な機能の一つは、シンボリックリンク(WindowsのショートカットやLinuxのシンボリックリンク)を解決して、それが指す実際のファイルのパスを返すことです。

事前準備
この例を実行する前に、実際のファイルとそれへのシンボリックリンクを作成しておく必要があります。

  • Windows (Command Prompt - 管理者として実行が必要な場合あり)
    mkdir test_data
    echo This is the real file content. > test_data\real_file.txt
    mklink test_data\my_symlink.txt test_data\real_file.txt
    
  • Linux/macOS (Bash)
    mkdir -p test_data
    echo "This is the real file content." > test_data/real_file.txt
    ln -s test_data/real_file.txt test_data/my_symlink.txt
    
#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <filesystem>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // シンボリックリンクへのパス (プロジェクトのビルドディレクトリからの相対パス)
    QFileInfo symlinkInfo("test_data/my_symlink.txt");

    qDebug() << "元のパス (シンボリックリンク):" << symlinkInfo.filePath();

    // シンボリックリンクかどうかを確認
    if (symlinkInfo.isSymLink()) {
        qDebug() << "これはシンボリックリンクです。";
        qDebug() << "シンボリックリンクのターゲット (QString):" << symlinkInfo.symLinkTarget();

        std::filesystem::path canonicalPath = symlinkInfo.filesystemCanonicalFilePath();

        if (!canonicalPath.empty()) {
            qDebug() << "正準パス (解決後):" << QString::fromStdWString(canonicalPath.wstring());

            // 解決された正準パスのQFileInfoを作成し、それがファイルかどうかを確認
            QFileInfo resolvedFileInfo(QString::fromStdWString(canonicalPath.wstring()));
            if (resolvedFileInfo.isFile()) {
                qDebug() << "正準パスはファイルとして存在します。";
            }
        } else {
            qDebug() << "正準パスを取得できませんでした。リンク先が存在しないか、アクセスできません。";
        }
    } else {
        qDebug() << "指定されたパスはシンボリックリンクではありません。";
    }

    return 0;
}

実行結果の例(環境によって異なる)

元のパス (シンボリックリンク): "test_data/my_symlink.txt"
これはシンボリックリンクです。
シンボリックリンクのターゲット (QString): "test_data/real_file.txt"
正準パス (解決後): "/home/user/my_project/build_dir/test_data/real_file.txt"
正準パスはファイルとして存在します。

この例では、my_symlink.txtというシンボリックリンクが、実際に指しているreal_file.txtの正準パスに解決されていることがわかります。

ファイルやディレクトリが存在しない場合、あるいはアクセス権がない場合、filesystemCanonicalFilePath()は空のstd::filesystem::pathオブジェクトを返します。

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <filesystem>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // 存在しないファイルへのパス
    QFileInfo nonExistentFile("/path/to/non_existent_file_xyz.txt");

    qDebug() << "元のパス:" << nonExistentFile.filePath();

    // 存在するかどうかを最初に確認することが重要
    if (!nonExistentFile.exists()) {
        qDebug() << "ファイルは存在しません。正準パスは空になるはずです。";
    }

    std::filesystem::path canonicalPath = nonExistentFile.filesystemCanonicalFilePath();

    if (canonicalPath.empty()) {
        qDebug() << "正準パスは空です (期待通り)。";
    } else {
        qDebug() << "エラー: 存在しないファイルに対して正準パスが返されました:" << QString::fromStdWString(canonicalPath.wstring());
    }

    // アクセスできない可能性のあるディレクトリ(例: Linuxのルートディレクトリ)
    // WindowsではC:\Users\Public\Documentsなど、ユーザー権限でアクセス可能な場所を試す
#ifdef Q_OS_UNIX
    QFileInfo inaccessibleDir("/root/some_private_dir"); // rootユーザー以外は通常アクセス不可
#else // Q_OS_WIN
    QFileInfo inaccessibleDir("C:\\Windows\\System32\\config"); // 管理者以外は通常アクセス不可
#endif

    qDebug() << "\nアクセスできない可能性のあるパス:" << inaccessibleDir.filePath();
    std::filesystem::path inaccessibleCanonicalPath = inaccessibleDir.filesystemCanonicalFilePath();

    if (inaccessibleCanonicalPath.empty()) {
        qDebug() << "アクセスできないため、正準パスは空です (期待通り)。";
    } else {
        qDebug() << "警告: アクセスできないはずのディレクトリの正準パスが返されました:" << QString::fromStdWString(inaccessibleCanonicalPath.wstring());
    }

    return 0;
}

実行結果の例

元のパス: "/path/to/non_existent_file_xyz.txt"
ファイルは存在しません。正準パスは空になるはずです。
正準パスは空です (期待通り)。

アクセスできない可能性のあるパス: "/root/some_private_dir"
アクセスできないため、正準パスは空です (期待通り)。

この例から、filesystemCanonicalFilePath()を呼び出す前に、exists()で存在を確認することが重要であることがわかります。存在しないパスやアクセスできないパスに対しては、空のstd::filesystem::pathが返されることが期待されます。



以下に、filesystemCanonicalFilePath()の代替となるプログラミング方法をいくつか説明します。

QFileInfo::canonicalFilePath() (Qt 5.x 以前でも利用可能、QString を返す)

これは、filesystemCanonicalFilePath()と最も近い代替方法です。主な違いは、戻り値の型がstd::filesystem::pathではなくQStringである点です。Qt 5.x以前のプロジェクトでは、これが正準パスを取得する主要な手段でした。

特徴

  • 利点
    Qtの古いバージョンでも利用でき、Qtの他の文字列操作とシームレスに連携できます。
  • 機能
    シンボリックリンクを解決し、相対パスや冗長なパス要素 (...) を除去して、ファイルシステム上の正準な絶対パスを返します。
  • 戻り値
    QString

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // テスト用のファイルが存在することを前提とします。
    // 例: プロジェクトのビルドディレクトリに "test_data/real_file.txt" があり、
    // "test_data/my_symlink.txt" がそれへのシンボリックリンクである場合。

    QFileInfo fileInfo("test_data/my_symlink.txt"); // シンボリックリンクや相対パス

    qDebug() << "元のパス:" << fileInfo.filePath();

    QString canonicalPath = fileInfo.canonicalFilePath();

    if (!canonicalPath.isEmpty()) {
        qDebug() << "正準パス (QString):" << canonicalPath;
    } else {
        qDebug() << "正準パスを取得できませんでした。ファイルが存在しないか、アクセスできません。";
    }

    return 0;
}

QFileInfo::absoluteFilePath() (QString を返す、シンボリックリンクは解決しない)

この関数は、与えられたパスを絶対パスに変換しますが、シンボリックリンクを解決しません。相対パスの解決や、冗長なパス要素の除去は行われます。

特徴

  • 使いどころ
    シンボリックリンクの解決を必要とせず、単に絶対パスが必要な場合。
  • 機能
    相対パスを絶対パスに変換し、冗長なパス要素を除去しますが、シンボリックリンクは解決しません
  • 戻り値
    QString

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // テスト用のシンボリックリンクが存在することを前提とします。
    // 例: "test_data/my_symlink.txt" が "test_data/real_file.txt" を指している。
    QFileInfo symlinkInfo("test_data/my_symlink.txt");

    qDebug() << "元のパス:" << symlinkInfo.filePath();
    qDebug() << "シンボリックリンクのターゲット:" << symlinkInfo.symLinkTarget();

    // absoluteFilePath() はシンボリックリンクを解決しない
    QString absolutePath = symlinkInfo.absoluteFilePath();
    qDebug() << "絶対パス (シンボリックリンクのまま):" << absolutePath;

    // 比較のために canonicalFilePath() も表示
    QString canonicalPath = symlinkInfo.canonicalFilePath();
    qDebug() << "正準パス (解決済み):" << canonicalPath;

    return 0;
}

実行結果の例

元のパス: "test_data/my_symlink.txt"
シンボリックリンクのターゲット: "test_data/real_file.txt"
絶対パス (シンボリックリンクのまま): "/home/user/my_project/build_dir/test_data/my_symlink.txt"
正準パス (解決済み): "/home/user/my_project/build_dir/test_data/real_file.txt"

この例から、absoluteFilePath()がシンボリックリンクのパスそのものを絶対パスにしたのに対し、canonicalFilePath()はリンク先のパスを返していることがわかります。

QDir::canonicalPath() (QString を返す、ディレクトリパスのみ)

QDirクラスにもcanonicalPath()というメソッドがありますが、これはディレクトリの正準パスを返すものです。ファイル名を含まないパスが必要な場合に便利です。

特徴

  • 使いどころ
    ディレクトリパスを正規化したい場合。
  • 機能
    ディレクトリの正準パスを返します。ファイル名は含みません。
  • 戻り値
    QString

使用例

#include <QCoreApplication>
#include <QDir>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // テスト用のディレクトリを作成します (必要に応じて)
    // mkdir -p test_dir/sub_dir (Linux/macOS)
    // mkdir test_dir\sub_dir (Windows)

    QDir dir("./test_dir/../test_dir/sub_dir");

    qDebug() << "元のディレクトリパス:" << dir.path();

    QString canonicalDirPath = dir.canonicalPath();

    if (!canonicalDirPath.isEmpty()) {
        qDebug() << "正準ディレクトリパス:" << canonicalDirPath;
    } else {
        qDebug() << "正準ディレクトリパスを取得できませんでした。ディレクトリが存在しないか、アクセスできません。";
    }

    return 0;
}

C++17 std::filesystem::canonical() (Qt を使用しない、または std::filesystem への移行)

Qtの機能に依存せず、C++17標準ライブラリのstd::filesystemのみを使用することも可能です。これは、Qt以外のC++プロジェクトや、Qtとstd::filesystemをより深く統合したい場合に有効です。

特徴

  • 利点
    標準C++の機能なので、Qtに依存しないポータブルなコードになります。
  • 注意点
    引数として与えられたパスは必ず存在している必要があります。存在しないパスに対して呼び出すと例外を投げます(std::filesystem::filesystem_error)。
  • 機能
    QFileInfo::filesystemCanonicalFilePath()と同じ機能を提供します。シンボリックリンクを解決し、相対パスや冗長なパス要素を除去して、ファイルシステム上の正準な絶対パスを返します。
  • 戻り値
    std::filesystem::path
#include <iostream>
#include <filesystem> // C++17 filesystem を使用するために必要
#include <QDebug> // デバッグ出力にQDebugを使用する場合

namespace fs = std::filesystem;

int main()
{
    // テスト用のファイルを作成します (例1と同じ)
    // test_dir/my_file.txt

    fs::path relativePath("test_dir/./../test_dir/my_file.txt");

    // std::filesystem::canonical() はパスが存在しない場合に例外を投げるため、
    // 存在チェックを事前に行うか、例外ハンドリングを行う必要があります。
    if (fs::exists(relativePath)) {
        try {
            fs::path canonicalPath = fs::canonical(relativePath);
            std::wcout << L"元のパス: " << relativePath.c_str() << std::endl;
            std::wcout << L"正準パス: " << canonicalPath.c_str() << std::endl;

            // QDebugで出力する場合 (QStringに変換)
            qDebug() << "元のパス (QString):" << QString::fromStdWString(relativePath.wstring());
            qDebug() << "正準パス (QString):" << QString::fromStdWString(canonicalPath.wstring());

        } catch (const fs::filesystem_error& e) {
            std::cerr << "エラー: " << e.what() << " (パス: " << relativePath << ")" << std::endl;
            qDebug() << "エラー:" << e.what() << "(パス:" << QString::fromStdWString(relativePath.wstring()) << ")";
        }
    } else {
        std::wcerr << L"エラー: パスが存在しません: " << relativePath.c_str() << std::endl;
        qDebug() << "エラー: パスが存在しません:" << QString::fromStdWString(relativePath.wstring());
    }

    // シンボリックリンクの解決 (事前準備が必要)
    // test_data/my_symlink.txt -> test_data/real_file.txt
    fs::path symlinkPath("test_data/my_symlink.txt");
    if (fs::exists(symlinkPath)) {
        try {
            fs::path canonicalSymlinkPath = fs::canonical(symlinkPath);
            std::wcout << L"シンボリックリンクパス: " << symlinkPath.c_str() << std::endl;
            std::wcout << L"正準シンボリックリンクパス: " << canonicalSymlinkPath.c_str() << std::endl;
            qDebug() << "シンボリックリンクパス:" << QString::fromStdWString(symlinkPath.wstring());
            qDebug() << "正準シンボリックリンクパス:" << QString::fromStdWString(canonicalSymlinkPath.wstring());
        } catch (const fs::filesystem_error& e) {
            std::cerr << "エラー (シンボリックリンク): " << e.what() << " (パス: " << symlinkPath << ")" << std::endl;
            qDebug() << "エラー (シンボリックリンク):" << e.what() << "(パス:" << QString::fromStdWString(symlinkPath.wstring()) << ")";
        }
    } else {
        std::wcerr << L"エラー: シンボリックリンクパスが存在しません: " << symlinkPath.c_str() << std::endl;
        qDebug() << "エラー: シンボリックリンクパスが存在しません:" << QString::fromStdWString(symlinkPath.wstring());
    }


    return 0;
}
  • Qtに依存しないパス操作が必要な場合、またはC++17のstd::filesystemを直接使いたい場合
    std::filesystem::canonical()を直接使用します。ただし、存在しないパスに対する例外処理に注意が必要です。

  • シンボリックリンクの解決を必要とせず、単に絶対パスが必要な場合
    QFileInfo::absoluteFilePath()で十分です。パフォーマンスの観点からも、必要以上に複雑なパス解決を行わない方が良い場合があります。

  • Qt 5.x以前を使用している場合、またはQStringでのパス操作を続けたい場合
    QFileInfo::canonicalFilePath()が最も適切な代替です。ほとんどのケースで期待通りの動作をします。

  • Qt 6.0以降を使用しており、std::filesystem::pathを積極的に利用したい場合
    QFileInfo::filesystemCanonicalFilePath()を第一に検討してください。これが最も現代的でQtの標準との連携も考慮されています。