std::filesystem::path QFileInfo::filesystemAbsolutePath()

詳しく説明します。

QFileInfo とは？

QFileInfo は、Qt フレームワークにおいて、ファイルシステム上のファイルやディレクトリに関する情報（名前、パス、サイズ、最終更新日時、アクセス権限、種類など）を取得するために使用されるクラスです。

absoluteFilePath() との違い

QFileInfo には、ファイルの絶対パスを返す類似の関数として QString QFileInfo::absoluteFilePath() const があります。この関数は、Qt 独自の文字列クラスである QString で絶対パスを返します。

一方、std::filesystem::path QFileInfo::filesystemAbsolutePath() は、C++17 で導入された標準ライブラリの std::filesystem::path 型で絶対パスを返します。

std::filesystem::path とは？

std::filesystem::path は、C++17 から標準ライブラリに追加された、ファイルシステムパスを表現するためのクラスです。OSに依存しない形でパスを操作するための機能を提供し、ファイルパスの結合、分解、正規化などが行えます。

Qt は、長年にわたって独自のファイルシステム関連のクラス（QFile, QDir, QFileInfo など）を提供してきました。これらはクロスプラットフォームなファイル操作を可能にする上で非常に有用でした。

しかし、C++17 で std::filesystem が標準化されたことにより、C++標準ライブラリでもファイルシステム操作が扱えるようになりました。これにより、Qt アプリケーションが標準の C++ ファイルシステム機能と連携しやすくなるように、QFileInfo などの既存のクラスにも std::filesystem::path を返す関数が追加されました。

std::filesystem::path QFileInfo::filesystemAbsolutePath() は、まさにそのための関数であり、Qt の QFileInfo が持つファイルパス情報を std::filesystem::path オブジェクトとして取得できるようにします。これにより、Qt と標準 C++ のファイルシステム機能をよりシームレスに組み合わせて開発できるようになります。

• std::filesystem::path QFileInfo::filesystemAbsolutePath() は、
  • Qt の QFileInfo オブジェクトが表すファイルやディレクトリの絶対パスを返します。
  • 戻り値の型は C++17 で導入された標準ライブラリの std::filesystem::path です。
  • これにより、Qt のファイル情報と標準 C++ のファイルシステム機能を連携させやすくなります。

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よくあるエラーと問題点

1. • 原因
     QFileInfo オブジェクトが指すファイルまたはディレクトリが実際に存在しない場合、またはパスの記述が間違っている場合 (./, ../ の誤用、スペルミス、大文字小文字の区別など)。
   • QFileInfo は、与えられたパスが存在しなくてもオブジェクト自体は作成できます。しかし、filesystemAbsolutePath() は、そのパスが実際にファイルシステム上で解決可能である必要があります。
   • トラブルシューティング
     
     • まず QFileInfo::exists() を呼び出して、パスが存在するかどうかを確認します。
     • qDebug() などを使って、QFileInfo に渡している元のパス（QFileInfo::filePath()）と、filesystemAbsolutePath() が返すパスをログに出力し、期待するパスと一致しているか確認します。
     • 相対パスを使用している場合は、アプリケーションの現在の作業ディレクトリ（QDir::currentPath()）が期待通りになっているか確認します。
     • 権限の問題がないか確認します（特にネットワークパスや特定のシステムディレクトリへのアクセス時）。

2. 相対パスの扱いに関する誤解

   • 原因
     QFileInfo に相対パスを渡した場合、filesystemAbsolutePath() は現在の作業ディレクトリを基準とした絶対パスを返します。しかし、開発中に想定していた作業ディレクトリと、デプロイ後にアプリケーションが実行される環境での作業ディレクトリが異なる場合、予期せぬ結果になることがあります。
   • トラブルシューティング
     
     • 常に絶対パスを扱うか、または QApplication::applicationDirPath() や QStandardPaths を使用して、アプリケーションの実行ファイルや標準的なデータディレクトリを基準とした相対パスを構築することを検討します。
     • QFileInfo::isRelative() で相対パスかどうかを確認し、必要に応じて QFileInfo::makeAbsolute() (Qt 6.0 以降) または QDir::currentPath() を使って絶対パスに変換することを検討します。

3. シンボリックリンクの解決 (canonicalFilePath() との混同)

   • 原因
     filesystemAbsolutePath() は、通常、シンボリックリンクを解決しません（つまり、シンボリックリンク自体への絶対パスを返します）。シンボリックリンクが指す実際のファイル（実体）のパスが必要な場合は、QFileInfo::canonicalFilePath() を使用する必要があります。
   • トラブルシューティング
     必要なのがシンボリックリンクの実体のパスなのか、それともシンボリックリンク自体へのパスなのかを明確にし、適切な関数 (filesystemAbsolutePath() または canonicalFilePath()) を使用します。

4. C++17 の要件とコンパイラ/ライブラリのサポート

   • 原因
     std::filesystem::path は C++17 で導入された機能です。プロジェクトが C++17 以降の標準を使用するように設定されていない場合、コンパイルエラーが発生します。また、使用しているコンパイラや標準ライブラリの実装が std::filesystem を完全にサポートしていない場合もあります。
   • トラブルシューティング
     
     • CMakeLists.txt (または qmake の .pro ファイル) で、C++ 標準を C++17 以降に設定していることを確認します。
       • CMake: set(CMAKE_CXX_STANDARD 17) または target_compile_features(MyTarget PRIVATE cxx_std_17)
       • qmake: CONFIG += c++17
     • 使用しているコンパイラ（GCC, Clang, MSVCなど）のバージョンが std::filesystem をサポートしているか確認します。通常、比較的新しいバージョンであれば問題ありません。
     • macOS で古いSDKを使用している場合、std::filesystem::path が "unavailable" とマークされることがあります。macOS 10.15以降のSDKを使用するようにビルド設定を確認します。

5. パフォーマンスに関する考慮事項

   • 原因
     QFileInfo::filesystemAbsolutePath() のようなファイルシステムをクエリする関数は、QFileInfo::path() のように単に文字列操作を行う関数よりも時間がかかる可能性があります。特にネットワークドライブや多数のファイルを処理する場合に顕著になります。QFileInfo はファイル情報をキャッシュしますが、初回アクセス時や情報が古くなった場合はファイルシステムへのアクセスが発生します。
   • トラブルシューティング
     
     • パフォーマンスが問題となる場合は、本当に絶対パスが必要なのか、または相対パスで十分なのかを再検討します。
     • ループ内で何度も同じファイルの QFileInfo オブジェクトを生成したり、filesystemAbsolutePath() を呼び出したりするのを避け、可能な限りキャッシュされた情報や一度取得した情報を再利用するようにします。

• Qt と std::filesystem の役割の理解
  どちらのライブラリもファイルシステムを扱うことができますが、それぞれの得意分野や特性を理解し、適切に使い分けることが重要です。Qt の UI コンポーネントやリソースシステムとの連携が必要な場合は Qt のパスクラスを優先し、純粋なファイルシステム操作や C++ 標準との互換性を重視する場合は std::filesystem を利用するというように、状況に応じて使い分けます。
• OS固有のパス規則
  Windows、macOS、Linuxなど、OSによってパスの区切り文字（\ vs /）、大文字小文字の区別、予約文字などの規則が異なります。Qt や std::filesystem はこれらの違いを吸収しようとしますが、複雑なシナリオではOS固有のルールに注意を払う必要があります。
• 最小限の再現可能なコード
  問題が複雑な場合は、問題が発生する部分だけを切り出した最小限のコードを作成し、問題を特定しやすくします。
• 詳細なログ出力
  問題が発生している箇所で、パスの文字列をデバッグ出力（qDebug() << path.c_str(); など）して、実際にどのようなパスが処理されているかを確認します。

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以下に、いくつかの使用例とその解説を示します。

例1: 既存のファイルの絶対パスを取得する

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <filesystem> // std::filesystem を使用するために必要

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // 存在すると仮定するファイルパス
    // 実際には、このパスはあなたのシステムに存在するファイルに置き換えてください
    QString filePath = "/Users/username/Documents/my_document.txt"; // macOS/Linux
    // QString filePath = "C:/Users/username/Documents/my_document.txt"; // Windows

    QFileInfo fileInfo(filePath);

    if (fileInfo.exists()) {
        // QtのQStringで絶対パスを取得
        QString qtAbsoluteFilePath = fileInfo.absoluteFilePath();
        qDebug() << "Qt Absolute Path (QString):" << qtAbsoluteFilePath;

        // std::filesystem::path で絶対パスを取得
        std::filesystem::path stdAbsoluteFilePath = fileInfo.filesystemAbsolutePath();
        qDebug() << "std::filesystem::path Absolute Path:" << stdAbsoluteFilePath.string().c_str(); // std::string に変換して出力

        // std::filesystem::path の機能を利用する例
        qDebug() << "Filename (std::filesystem):" << stdAbsoluteFilePath.filename().string().c_str();
        qDebug() << "Parent Path (std::filesystem):" << stdAbsoluteFilePath.parent_path().string().c_str();

    } else {
        qWarning() << "File does not exist:" << filePath;
    }

    return 0;
}

解説

1. #include <filesystem>: std::filesystem を使用するためには、このヘッダファイルをインクルードする必要があります。
2. QFileInfo fileInfo(filePath);: QFileInfo オブジェクトを、調べたいファイルのパスで初期化します。ここでは絶対パスを直接指定しています。
3. fileInfo.exists(): ファイルが存在するかどうかを確認することが重要です。存在しないファイルに対して絶対パスを要求しても、必ずしもエラーになるとは限りませんが、期待通りの結果が得られない可能性があります。
4. fileInfo.absoluteFilePath(): これは Qt 独自の QString 型で絶対パスを返します。
5. fileInfo.filesystemAbsolutePath(): これが目的の関数です。C++17 の std::filesystem::path 型で絶対パスを返します。
6. stdAbsoluteFilePath.string().c_str(): std::filesystem::path オブジェクトを qDebug() で直接出力することはできません。string() メソッドで std::string に変換し、さらに c_str() で Cスタイルの文字列に変換して出力しています。これにより、Qt のデバッグ出力で正しく表示されます。
7. std::filesystem::path の機能の活用: std::filesystem::path を取得すると、filename() (ファイル名部分)、parent_path() (親ディレクトリのパス) など、豊富な std::filesystem の関数を使ってパスを操作できます。

例2: 相対パスのファイルを絶対パスに変換する

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDir> // QDir::currentPath() を使用
#include <QDebug>
#include <filesystem>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // アプリケーションの実行ディレクトリに存在するファイルを仮定
    // 例えば、実行ファイルと同じディレクトリに "data.txt" がある場合
    QString relativeFilePath = "data.txt";

    // 現在の作業ディレクトリを確認
    qDebug() << "Current working directory:" << QDir::currentPath();

    QFileInfo fileInfo(relativeFilePath);

    // 相対パスであることを確認
    if (fileInfo.isRelative()) {
        qDebug() << "The path is relative.";
    } else {
        qDebug() << "The path is already absolute.";
    }

    // std::filesystem::path で絶対パスを取得
    std::filesystem::path stdAbsoluteFilePath = fileInfo.filesystemAbsolutePath();

    // 取得した絶対パスを出力
    qDebug() << "std::filesystem::path Absolute Path for relative file:" << stdAbsoluteFilePath.string().c_str();

    // ファイルが存在するか確認（相対パスから絶対パスに解決された後）
    if (fileInfo.exists()) {
        qDebug() << "File exists at resolved absolute path.";
    } else {
        qWarning() << "File does not exist at resolved absolute path.";
    }

    // std::filesystem の直接的なパス操作例
    // 例えば、絶対パスから新しいパスを構築
    std::filesystem::path logsDir = stdAbsoluteFilePath.parent_path() / "logs";
    qDebug() << "Proposed logs directory:" << logsDir.string().c_str();
    if (std::filesystem::create_directory(logsDir)) {
        qDebug() << "Logs directory created.";
    } else {
        qDebug() << "Failed to create logs directory or it already exists.";
    }


    return 0;
}

解説

1. QString relativeFilePath = "data.txt";: 相対パスのファイル名を指定します。
2. QDir::currentPath(): アプリケーションの現在の作業ディレクトリを取得します。QFileInfo::filesystemAbsolutePath() は、この作業ディレクトリを基準に相対パスを解決し、絶対パスを生成します。
3. fileInfo.isRelative(): パスが相対パスであるかどうかを確認できます。
4. filesystemAbsolutePath() は、QFileInfo に設定されたパスが相対パスであっても、現在の作業ディレクトリを基準にして絶対パスを返します。
5. std::filesystem::create_directory(logsDir): std::filesystem::path を使って新しいディレクトリを作成する例です。このように、Qt の QFileInfo から std::filesystem::path を取得することで、C++標準のファイルシステム操作とシームレスに連携できます。

Qt 6.0 以降では、QDir も std::filesystem::path を引数に取るコンストラクタや setPath() メソッドを持つようになりました。

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDir>
#include <QDebug>
#include <filesystem>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // std::filesystem::path でパスを定義
    std::filesystem::path initialPath = "/tmp/my_temp_dir"; // macOS/Linux
    // std::filesystem::path initialPath = "C:/Temp/my_temp_dir"; // Windows

    // QDir を std::filesystem::path で初期化
    QDir myDir(initialPath);
    qDebug() << "QDir path (QString):" << myDir.path();

    if (!myDir.exists()) {
        if (myDir.mkpath(".")) { // "." は現在のディレクトリを作成
            qDebug() << "Directory created:" << myDir.path();
        } else {
            qWarning() << "Failed to create directory:" << myDir.path();
        }
    }

    // ディレクトリ内のファイル情報を作成
    std::filesystem::path filePath = myDir.filesystemAbsolutePath() / "example.txt";
    QFileInfo fileInfo(QString::fromStdString(filePath.string())); // QFileInfoはQStringで初期化

    // QFileInfoからstd::filesystem::pathを取得
    std::filesystem::path resolvedFilePath = fileInfo.filesystemAbsolutePath();
    qDebug() << "Resolved file path:" << resolvedFilePath.string().c_str();

    // std::filesystem を使ってファイルを作成
    std::ofstream ofs(resolvedFilePath);
    if (ofs.is_open()) {
        ofs << "Hello from Qt and std::filesystem!";
        ofs.close();
        qDebug() << "File created successfully.";
    } else {
        qWarning() << "Failed to create file.";
    }

    // 作成したファイルの情報を取得
    QFileInfo createdFileInfo(QString::fromStdString(resolvedFilePath.string()));
    if (createdFileInfo.exists()) {
        qDebug() << "Created file exists. Size:" << createdFileInfo.size() << "bytes";
    }

    return 0;
}

1. std::filesystem::path initialPath = "/tmp/my_temp_dir";: まず std::filesystem::path でパスを定義します。
2. QDir myDir(initialPath);: Qt 6.0 以降の QDir コンストラクタは std::filesystem::path を直接受け取れます。
3. myDir.filesystemAbsolutePath(): QDir クラスにも filesystemAbsolutePath() があります。これは QDir が表すディレクトリの絶対パスを std::filesystem::path で返します。
4. myDir.filesystemAbsolutePath() / "example.txt": std::filesystem::path の / 演算子を使って、パスを結合しています。これは非常に便利で、OSごとのパス区切り文字の違いを意識する必要がありません。
5. QFileInfo(QString::fromStdString(filePath.string()));: 現時点では、QFileInfo のコンストラクタは std::filesystem::path を直接受け取れない場合があるため、QString::fromStdString() を使って std::string から QString に変換しています。（Qt 6.0 以降では QFileInfo(const std::filesystem::path &file) のコンストラクタも追加されていますが、ここでは一般的な互換性のため QString 経由の例を示しています）。
6. std::ofstream ofs(resolvedFilePath);: std::filesystem::path は C++ の標準ストリーム（std::ofstream, std::ifstream）のコンストラクタに直接渡すことができます。これにより、ファイルI/Oを std::filesystem と連携させて行うことができます。

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QFileInfo::absoluteFilePath() を std::filesystem::path に変換する

これは最も直接的な代替方法であり、Qt 5.x 以前のバージョンで filesystemAbsolutePath() が利用できない場合や、単に QString 経由で変換したい場合に便利です。

#include <QCoreApplication>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug>
#include <filesystem>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString filePath = "/Users/username/Documents/my_document.txt"; // 例のパス
    QFileInfo fileInfo(filePath);

    if (fileInfo.exists()) {
        // 1. QFileInfo::absoluteFilePath() で QString を取得
        QString qtAbsoluteFilePath = fileInfo.absoluteFilePath();
        qDebug() << "Qt Absolute Path (QString):" << qtAbsoluteFilePath;

        // 2. QString を std::filesystem::path に変換
        //    QString::toStdString() で std::string を取得し、それを std::filesystem::path に渡す
        //    または、std::filesystem::u8path() を使用してUTF-8として扱う
        std::filesystem::path stdPathConverted;

        // 方法A: toStdString() を使う (ロケール依存のエンコーディングになる可能性あり)
        stdPathConverted = qtAbsoluteFilePath.toStdString();
        qDebug() << "Converted std::filesystem::path (toStdString):" << stdPathConverted.string().c_str();

        // 方法B: toUtf8() -> const char* を使う (より安全なUTF-8変換)
        //       std::filesystem::path は通常UTF-8を期待するため、こちらが推奨されることが多い
        stdPathConverted = std::filesystem::path(qtAbsoluteFilePath.toUtf8().constData());
        qDebug() << "Converted std::filesystem::path (toUtf8):" << stdPathConverted.string().c_str();

        // 方法C: std::filesystem::u8path() を使う (C++17以降)
        //        これはQString::toUtf8()と組み合わせて使うと最も堅牢
        stdPathConverted = std::filesystem::u8path(qtAbsoluteFilePath.toUtf8().constData());
        qDebug() << "Converted std::filesystem::path (u8path):" << stdPathConverted.string().c_str();

    } else {
        qWarning() << "File does not exist:" << filePath;
    }

    return 0;
}

利点

• 既存の QString をベースにしたコードとの互換性が高い。
• Qt 5.x 以前のバージョンでも使用可能。

欠点

• 一時的な std::string オブジェクトが生成されるため、若干のオーバーヘッドがある。
• QString から std::string への変換（特にエンコーディング）に注意が必要。非ASCII文字を含むパスで問題が発生しやすい。QString::toUtf8().constData() と std::filesystem::u8path() の組み合わせが最も堅牢。

QDir クラスの代替関数 (QDir::absolutePath(), QDir::currentPath(), QDir::cleanPath())

QFileInfo ではなく QDir を使ってパスを操作し、その結果を std::filesystem::path に変換する方法です。ディレクトリ操作が多い場合に有効です。

#include <QCoreApplication>
#include <QDir>
#include <QDebug>
#include <filesystem>

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    QString relativeDirPath = "my_data";
    QDir dir(relativeDirPath); // QDirも相対パスで初期化できる

    // QDir::absolutePath() で絶対パスのQStringを取得
    QString qtAbsoluteDirPath = dir.absolutePath();
    qDebug() << "QDir Absolute Path (QString):" << qtAbsoluteDirPath;

    // QString を std::filesystem::path に変換
    std::filesystem::path stdPathFromQDir = std::filesystem::u8path(qtAbsoluteDirPath.toUtf8().constData());
    qDebug() << "std::filesystem::path from QDir:" << stdPathFromQDir.string().c_str();

    // 現在の作業ディレクトリを基準にした絶対パス
    QString currentAbsPath = QDir::currentPath() + QDir::separator() + "temp_file.txt";
    QFileInfo tempFileInfo(currentAbsPath);
    if (tempFileInfo.exists()) {
        std::filesystem::path stdPathTempFile = std::filesystem::u8path(tempFileInfo.absoluteFilePath().toUtf8().constData());
        qDebug() << "Temp file path from currentPath:" << stdPathTempFile.string().c_str();
    }

    return 0;
}

利点

• Qt のパス処理（正規化、クリーンアップなど）を活用できる。
• ディレクトリの操作（作成、移動、リストなど）と連携しやすい。

欠点

• QFileInfo::filesystemAbsolutePath() のように直接ファイル情報の絶対パスを取得するわけではない。

std::filesystem のみでパスを構築・操作する

もし、Qt の QFileInfo や QDir が提供する機能（例: ファイルの種類判別、パーミッション、シンボリックリンク解決など）が不要で、純粋にパスの構築やファイルシステム操作を行いたい場合は、最初から std::filesystem を使うのが最もクリーンな方法です。

#include <QCoreApplication> // QCoreApplication は必須ではないが、Qtアプリの最小構成として
#include <QDebug>
#include <filesystem>
#include <fstream> // ファイル操作用

int main(int argc, char *argv[])
{
    QCoreApplication a(argc, argv);

    // C++17 の std::filesystem::path で直接パスを構築
    std::filesystem::path currentPath = std::filesystem::current_path();
    qDebug() << "Current path (std::filesystem):" << currentPath.string().c_str();

    std::filesystem::path newFilePath = currentPath / "new_document.txt";
    qDebug() << "New file path (std::filesystem):" << newFilePath.string().c_str();

    // ファイルが存在するか確認
    if (std::filesystem::exists(newFilePath)) {
        qDebug() << "File already exists.";
    } else {
        // ファイルを作成
        std::ofstream ofs(newFilePath);
        if (ofs.is_open()) {
            ofs << "This is a new file created with std::filesystem.";
            ofs.close();
            qDebug() << "New file created successfully.";
        } else {
            qWarning() << "Failed to create new file.";
        }
    }

    // パスを正規化（例: "a/b/../c" を "a/c" に）
    std::filesystem::path normalizedPath = std::filesystem::weakly_canonical("./../test_dir/./file.txt");
    qDebug() << "Normalized path (std::filesystem):" << normalizedPath.string().c_str();

    return 0;
}

利点

• エンコーディングの問題は std::string から std::filesystem::path を構築する際（特に非ASCII文字）に注意すればよい。std::filesystem::u8path() が推奨される。
• std::filesystem の豊富な機能を直接活用できる。
• 純粋な C++17 コードなので、Qt を使用しない C++ プロジェクトへの移植性が高い。
• Qt の依存関係を減らせる（ファイルI/Oやパス操作に関して）。

• Qt の GUI との連携（例: QFileDialog で取得したパスを std::filesystem::path で扱うなど）を考慮する必要がある。
• QFileInfo が提供する一部の便利な情報（ファイルタイプ、パーミッションなど）を自分で std::filesystem の機能や OS API を使って取得する必要がある場合がある。

• Qt のファイルシステム機能が中心で、std::filesystem との連携は部分的に必要な場合
  Qt の QFileInfo や QDir を主に使用し、必要に応じて filesystemAbsolutePath() や toUtf8() などを使って std::filesystem::path に変換するのが効率的です。

• ファイルシステム操作の大部分を C++ 標準ライブラリで行いたい場合
  積極的に std::filesystem のみを使用し、Qt との境界（例: QFileDialog から取得した QString の変換）でのみ QString と std::filesystem::path の相互変換を行うのが良いでしょう。

• Qt 5.x 以前を使用しているが std::filesystem::path を使いたい場合
  QFileInfo::absoluteFilePath() で QString を取得し、それを std::filesystem::path(QString::toUtf8().constData()) または std::filesystem::u8path() で変換するのが現実的な選択肢です。

• Qt 6.0 以降を使用している場合、かつ std::filesystem::path が直接必要な場合
  QFileInfo::filesystemAbsolutePath() が最も推奨されます。簡潔で直接的であり、変換ミスやエンコーディングの問題を避けやすいです。