setItemDelegate()だけじゃない!Qt QFileDialogカスタマイズの代替手法を徹底比較

2025-05-27

Qtにおける QFileDialog::setItemDelegate() は、ファイルダイアログの表示項目をカスタマイズするための関数です。

どのような機能か?

QFileDialog は、ファイルを開いたり保存したりする際に使用する標準的なダイアログですが、このダイアログ内に表示されるファイルやディレクトリのリスト(ビュー)の各項目(アイテム)の描画や編集方法を、開発者が独自に定義できるようにします。

具体的には、QFileDialog::setItemDelegate() には QAbstractItemDelegate クラスを継承したカスタムデリゲートのインスタンスを渡します。このカスタムデリゲートの中で、以下のことを実現できます。

  • 編集のカスタマイズ (createEditor(), setEditorData(), setModelData()): ファイル名を直接編集できるようにしたり、特定の列(例: コメント欄)に独自の入力ウィジェットを提供したりすることができます。
  • 描画のカスタマイズ (paint()): ファイル名やアイコン、サイズ、更新日時などの表示方法を変更できます。例えば、特定の種類のファイルに特別なアイコンを表示したり、ファイルのサイズに応じて色を変えたりすることができます。

なぜ使うのか?

QFileDialog::setItemDelegate() を使う主な理由は以下の通りです。

  1. 視覚的なカスタマイズ: 標準のファイルダイアログでは物足りない場合に、よりリッチな表示を実現できます。例えば、ファイルのプレビューを表示したり、サムネイルを表示したりする際に活用できます。
  2. 特定の情報の表示: 標準では表示されないファイル固有のメタデータ(例: 画像の解像度、音楽ファイルのアーティスト名など)を表示したい場合に便利です。
  3. ユーザーエクスペリエンスの向上: 特定の用途に特化したファイルダイアログを作成することで、ユーザーが目的のファイルをより見つけやすく、操作しやすくすることができます。
  4. 編集機能の追加: ファイル名の変更以外の編集機能(例えば、ファイルのタグ付けなど)をダイアログ内で直接行えるようにする場合に利用できます。

注意点

  • デリゲートのカスタマイズは、QTableViewQListView など、Qtのモデル/ビューアーキテクチャを使用する他のウィジェットと同じ考え方です。
  • QFileDialog::setItemDelegate() は、Qtが提供するウィジェットベースのファイルダイアログにのみ適用されます。OSネイティブのファイルダイアログを使用している場合 (QFileDialog::DontUseNativeDialog オプションが設定されていない場合など) は、この関数は効果がありません。ネイティブダイアログはOSの描画エンジンを使用するため、Qtのデリゲートシステムは適用されないためです。
#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QAbstractItemDelegate>
#include <QPainter>
#include <QFileInfo>

// カスタムデリゲートのクラス
class CustomFileDelegate : public QAbstractItemDelegate
{
public:
    void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override
    {
        // ここでファイルの情報を取得し、描画をカスタマイズする
        // 例えば、ファイルサイズによって異なる色で描画する
        QFileInfo fileInfo(index.data(QFileDialog::FileNameRole).toString()); // ファイル名を取得
        if (fileInfo.size() > 1024 * 1024) { // 1MBより大きいファイル
            painter->fillRect(option.rect, Qt::red); // 背景を赤くする
        } else {
            painter->fillRect(option.rect, Qt::white); // 背景を白くする
        }

        // デフォルトの描画を行う(ファイル名やアイコンなど)
        QAbstractItemDelegate::paint(painter, option, index);
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QFileDialog dialog;
    // ネイティブダイアログを使用しない設定 (重要!)
    dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog, true);

    // カスタムデリゲートを設定
    CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate();
    dialog.setItemDelegate(delegate);

    dialog.exec(); // ダイアログを表示

    delete delegate; // デリゲートのメモリ解放

    return a.exec();
}


QFileDialog::setItemDelegate() に関連する一般的なエラーとトラブルシューティング

デリゲートが適用されない (最も一般的な問題)

エラー/現象
カスタムデリゲートを設定したにもかかわらず、ファイルダイアログの見た目が変わらない、または期待通りに描画されない。

原因
最も一般的な原因は、ネイティブダイアログを使用していることです。Qtの QFileDialog は、デフォルトではOSのネイティブファイルダイアログを使用しようとします。ネイティブダイアログはOSの描画メカニズムを使用するため、Qtのモデル/ビューアーキテクチャ(およびデリゲート)は適用されません。

トラブルシューティング
QFileDialog::DontUseNativeDialog オプションを 必ず 設定してください。

QFileDialog dialog;
dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog, true); // これが重要!
CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate();
dialog.setItemDelegate(delegate);
// ...

このオプションを設定することで、Qtは自前のファイルダイアログウィジェットを使用し、そこにデリゲートを適用できるようになります。

メモリリーク (Memory Leak)

エラー/現象
アプリケーションが長時間実行されるとメモリ使用量が増加する、またはダイアログを繰り返し開くとメモリ使用量が増加する。

原因
setItemDelegate() に渡したデリゲートオブジェクトのメモリ管理を適切に行っていない可能性があります。Qtの多くのウィジェットは、子オブジェクトのメモリ管理を自動的に行いますが、デリゲートの場合は親オブジェクトが設定されていないと自動的に解放されません。

トラブルシューティング

  • もし親を設定しない場合は、QFileDialog が破棄された後に delete を明示的に呼び出す必要があります。ただし、通常は親を設定する方が安全で推奨されます。
    CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate();
    dialog.setItemDelegate(delegate);
    // ...
    dialog.exec();
    delete delegate; // ダイアログが閉じた後に手動で解放
    
  • デリゲートオブジェクトの親を QFileDialog に設定する:
    CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate(&dialog); // dialogを親に設定
    dialog.setItemDelegate(delegate);
    
    このようにすることで、dialog が破棄されるときに delegate も自動的に破棄されます。

描画の不具合やクラッシュ

エラー/現象
カスタムデリゲートが正しく描画されない(一部が欠ける、おかしな表示になる)、またはデリゲート内でクラッシュが発生する。

原因

  • リソースの解放漏れ
    QPixmapQPen などのリソースを適切に解放していない。
  • マルチスレッドの問題
    UI操作やモデルのデータアクセスがUIスレッド以外から行われている。
  • 無効なデータアクセス
    index.data() から取得したデータが期待する型ではない、または無効なインデックスにアクセスしようとしている。
  • paint() メソッド内の描画ロジックの誤り
    QPainter の状態管理(save()restore())、座標計算、クリッピング領域の扱いなどが不適切である可能性があります。

トラブルシューティング

  • シンプルなデリゲートから始める
    まずは何も描画しない、または非常に単純な色を塗るだけのデリゲートを作成し、それが機能するかを確認します。その後、徐々に複雑なロジックを追加して問題の切り分けを行います。
  • QFileIconProviderの使用
    ファイルアイコンの描画をカスタマイズしたい場合は、QFileIconProvider を継承して icon() メソッドをオーバーライドし、それを QFileDialog::setIconProvider() で設定する方が、デリゲート内でアイコンを描画するよりも簡単で推奨される場合があります。
  • データ型の確認
    index.data(role).canConvert<Type>()qVariantCanConvert<Type>(index.data(role)) などを使って、QVariant からデータを取得する前に型が変換可能か確認します。
  • paint() メソッドのデバッグ
    • QPainter::save()QPainter::restore() を使って、描画コンテキストの状態を適切に保存・復元しているか確認します。
    • option.rect を基準に描画しているか確認します。これは各アイテムの描画領域を示します。
    • QPainter のデバッグオプション(例: QPainter::setRenderHint(QPainter::Antialiasing); など)を試して、描画のヒントを得る。
    • qDebug() を使って、paint() が呼び出される頻度や、渡される index の内容、option の値などを確認します。

アイテムのサイズが正しくない

エラー/現象
カスタムデリゲートで描画したアイテムの高さや幅が、他のアイテムと揃わない、または表示領域に収まらない。

原因
デリゲートがアイテムの適切なサイズを報告していないためです。

トラブルシューティング
QAbstractItemDelegatesizeHint() メソッドをオーバーライドして、カスタム描画に必要なサイズを正確に返すようにします。

class CustomFileDelegate : public QAbstractItemDelegate
{
    // ...
    QSize sizeHint(const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override
    {
        // ここで計算した適切なサイズを返す
        // 例: デフォルトの高さに少しパディングを加える
        QSize defaultSize = QAbstractItemDelegate::sizeHint(option, index);
        return QSize(defaultSize.width(), defaultSize.height() + 10); // 高さを10ピクセル増やす
    }
};

編集機能が動作しない

エラー/現象
QFileDialog のアイテム(通常はファイル名)を編集できるようにしたいのに、ダブルクリックしてもエディタが開かない、または編集しても変更が保存されない。

原因

  • モデルの flags() メソッドで、編集可能なフラグ (Qt::ItemIsEditable) が設定されていない。
  • QAbstractItemDelegate の編集関連メソッド(createEditor(), setEditorData(), setModelData())を適切に実装していない。
  • モデルの flags()
    QFileDialog の内部モデルが提供するフラグに、Qt::ItemIsEditable が含まれていることを確認します。通常、ファイル名は編集可能ですが、他の列をカスタムで編集可能にする場合は、モデル側も変更する必要があります。ただし、QFileDialog の内部モデルを直接変更するのは困難な場合が多いので、主に QFileSystemModel を直接使ってビューを構築する場合に検討します。
  • updateEditorGeometry() の実装
    • エディタウィジェットの表示位置とサイズを決定します。
  • setModelData() の実装
    • エディタウィジェットから入力されたデータをモデルに書き戻します。
  • setEditorData() の実装
    • モデルから取得したデータをエディタウィジェットに設定します。
  • createEditor() の実装
    • createEditor() で、編集に使用するウィジェット(例: QLineEdit)を生成して返します。
    • 必ず、ウィジェットの親を parent 引数に設定します。
  • デバッガを活用する
    ブレークポイントを設定し、ステップ実行でデリゲートの各メソッドがどのように呼び出され、どのようなデータが渡されているかを確認します。
  • Qtのバージョンを確認する
    Qtのバージョンによって、動作やAPIの振る舞いが異なる場合があります。使用しているQtのバージョンに対応したドキュメントを参照し、互換性の問題を考慮します。
  • 最小限の再現可能なコードを作成する
    問題が発生した場合は、その問題を再現できる最小限のコードスニペットを作成し、それを元にデバッグします。余計な要素を排除することで、問題の原因を特定しやすくなります。
  • Qtのドキュメントを熟読する
    QFileDialog, QAbstractItemDelegate, QAbstractItemModel, QModelIndex, QStyleOptionViewItem, QPainter の各クラスのドキュメントは非常に詳細で、多くのヒントが含まれています。


基本的なデリゲートの作成と適用

この例では、ファイルダイアログ内の各アイテムの背景色を、ファイルのサイズに応じて変更するカスタムデリゲートを作成します。

CustomFileDelegate.h

#ifndef CUSTOMFILEDELEGATE_H
#define CUSTOMFILEDELEGATE_H

#include <QAbstractItemDelegate>
#include <QPainter>
#include <QStyleOptionViewItem>
#include <QModelIndex>
#include <QFileInfo>
#include <QDebug> // デバッグ用

class CustomFileDelegate : public QAbstractItemDelegate
{
    Q_OBJECT // Q_OBJECT マクロは、シグナル/スロットを使用する場合やプロパティを持つ場合に必要です。

public:
    explicit CustomFileDelegate(QObject *parent = nullptr);

    // 描画をカスタマイズする主要なメソッド
    void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;

    // アイテムの推奨サイズを返すメソッド (オプション)
    QSize sizeHint(const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;
};

#endif // CUSTOMFILEDELEGATE_H

CustomFileDelegate.cpp

#include "CustomFileDelegate.h"
#include <QApplication> // QApplication::style() を使用するため

CustomFileDelegate::CustomFileDelegate(QObject *parent)
    : QAbstractItemDelegate(parent)
{
}

void CustomFileDelegate::paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const
{
    // アイテムが属するファイルシステムモデルからファイル情報を取得
    // QFileDialog の内部モデルは QFileSystemModel のようなものです
    QFileInfo fileInfo(index.data(QFileDialog::FileNameRole).toString()); // ファイル名を取得
    
    // デフォルトの描画オプションをコピー
    QStyleOptionViewItem currentOption = option;
    
    // 背景色のカスタマイズ
    if (fileInfo.isFile()) { // ファイルの場合のみ
        if (fileInfo.size() > 1024 * 1024 * 10) { // 10MBより大きいファイル
            currentOption.backgroundBrush = QBrush(Qt::red);
        } else if (fileInfo.size() > 1024 * 1024) { // 1MBより大きいファイル
            currentOption.backgroundBrush = QBrush(Qt::yellow);
        } else {
            currentOption.backgroundBrush = QBrush(Qt::green);
        }
    } else if (fileInfo.isDir()) { // ディレクトリの場合
        currentOption.backgroundBrush = QBrush(Qt::cyan);
    } else { // その他 (シンボリックリンクなど)
        currentOption.backgroundBrush = QBrush(Qt::lightGray);
    }

    // アイテムが選択されている場合は、選択色を優先する
    if (option.state & QStyle::State_Selected) {
        currentOption.backgroundBrush = option.palette.highlight();
    }

    // スタイルを使ってアイテムを描画
    // これにより、デフォルトのアイコン、テキスト、フォーカス矩形などが描画されます。
    // カスタム描画はこれに上書きしたり、追加したりします。
    QApplication::style()->drawControl(QStyle::CE_ItemViewItem, &currentOption, painter);

    // テキスト色のカスタマイズ (例として)
    painter->save();
    if (option.state & QStyle::State_Selected) {
        painter->setPen(option.palette.highlightedText().color());
    } else {
        painter->setPen(option.palette.text().color());
    }
    
    // ファイル名(Qt::DisplayRole)を取得し描画
    QString fileName = index.data(Qt::DisplayRole).toString();
    // ここで、描画領域 option.rect の中にテキストを整形して描画します
    // 例: 左端から少しパディングを付けて描画
    QRect textRect = option.rect.adjusted(option.decorationSize.width() + 4, 0, 0, 0); // アイコンの幅と少しのパディングを考慮
    painter->drawText(textRect, Qt::AlignVCenter | Qt::AlignLeft, fileName);

    // ファイルサイズを右側に描画する例
    if (fileInfo.isFile()) {
        QString sizeText = QLocale().formattedDataSize(fileInfo.size());
        QRect sizeRect = option.rect.adjusted(0, 0, -4, 0); // 右端から少しパディングを付ける
        painter->drawText(sizeRect, Qt::AlignVCenter | Qt::AlignRight, sizeText);
    }
    
    painter->restore(); // 保存した画家 (QPainter) の状態を復元
}

QSize CustomFileDelegate::sizeHint(const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const
{
    // デフォルトのサイズヒントを取得し、少し高さを増やすなどして調整できます。
    // これにより、カスタム描画がはみ出さないようにすることができます。
    QSize defaultSize = QAbstractItemDelegate::sizeHint(option, index);
    return QSize(defaultSize.width(), defaultSize.height() + 5); // 少し高さを増やす
}

main.cpp (またはメインウィンドウのコード)

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include "CustomFileDelegate.h" // 作成したデリゲートのヘッダ

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QFileDialog dialog;
    // ★★★ これが最も重要!ネイティブダイアログを使わないように設定 ★★★
    dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog, true);

    // カスタムデリゲートのインスタンスを作成
    // 親を dialog に設定することで、dialog が破棄される際にデリゲートも自動的に解放されます。
    CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate(&dialog);

    // ファイルダイアログにカスタムデリゲートを設定
    dialog.setItemDelegate(delegate);

    // ダイアログの設定(任意)
    dialog.setWindowTitle("カスタムファイルダイアログ");
    dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFile); // 既存のファイルを選択
    dialog.setNameFilter("テキストファイル (*.txt);;すべてのファイル (*)");

    // ダイアログを表示
    if (dialog.exec() == QDialog::Accepted) {
        QString selectedFile = dialog.selectedFiles().first();
        qDebug() << "選択されたファイル:" << selectedFile;
    }

    return a.exec();
}

解説

    • QAbstractItemDelegate を継承します。
    • paint() メソッドをオーバーライドします。このメソッドが、各アイテムの描画を担当します。
    • sizeHint() メソッドもオーバーライドし、アイテムの推奨サイズを返します。これにより、アイテムの高さなどを調整できます。
  1. main.cpp

    • dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog, true);: これは非常に重要です。 この設定を行わないと、OSネイティブのファイルダイアログが使用され、setItemDelegate() は効果がありません。
    • CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate(&dialog);: CustomFileDelegate のインスタンスを作成し、dialog を親として設定します。これにより、dialog が破棄されるときに delegate も自動的に解放され、メモリリークを防ぎます。
    • dialog.setItemDelegate(delegate);: 作成したカスタムデリゲートを QFileDialog に設定します。

QFileDialog::setItemDelegate() は描画をカスタマイズしますが、ファイルアイコンのカスタマイズには QFileIconProvider を使用する方がより適切で一般的です。両者を組み合わせて使用する例を示します。

CustomIconProvider.h

#ifndef CUSTOMICONPROVIDER_H
#define CUSTOMICONPROVIDER_H

#include <QFileIconProvider>
#include <QFileInfo>
#include <QIcon>

class CustomIconProvider : public QFileIconProvider
{
public:
    explicit CustomIconProvider();

    QIcon icon(const QFileInfo &info) const override;
};

#endif // CUSTOMICONPROVIDER_H

CustomIconProvider.cpp

#include "CustomIconProvider.h"
#include <QFileIconProvider>
#include <QDebug>

CustomIconProvider::CustomIconProvider()
    : QFileIconProvider()
{
}

QIcon CustomIconProvider::icon(const QFileInfo &info) const
{
    if (info.isDir()) {
        // ディレクトリには特別なアイコンを設定
        return QIcon(":/icons/folder_custom.png"); // リソースファイルからアイコンを読み込む
    } else if (info.isFile()) {
        if (info.suffix() == "txt") {
            // .txt ファイルには独自のアイコン
            return QIcon(":/icons/text_file.png");
        } else if (info.suffix() == "log") {
            // .log ファイルには別のアイコン
            return QIcon(":/icons/log_file.png");
        }
    }
    // それ以外のファイルやディレクトリはデフォルトのアイコンを使用
    return QFileIconProvider::icon(info);
}

main.cpp (またはメインウィンドウのコード)

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include "CustomFileDelegate.h" // 先ほど作成したデリゲート
#include "CustomIconProvider.h" // 今回作成したアイコンプロバイダ

// (QRCファイルにアイコン画像を追加しておく必要があります。例: icons/folder_custom.png, icons/text_file.png, icons/log_file.png)

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QFileDialog dialog;
    dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog, true);

    // カスタムデリゲートを設定 (背景色とサイズ表示)
    CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate(&dialog);
    dialog.setItemDelegate(delegate);

    // カスタムアイコンプロバイダを設定
    CustomIconProvider *iconProvider = new CustomIconProvider(); // 親は設定しない (QFileDialogが管理するため)
    dialog.setIconProvider(iconProvider); // iconProvider の所有権は QFileDialog に移る

    dialog.setWindowTitle("カスタムアイコンとデリゲートのファイルダイアログ");
    dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFiles); // 複数ファイル選択可能
    dialog.setNameFilter("すべてのファイル (*)");

    if (dialog.exec() == QDialog::Accepted) {
        QStringList selectedFiles = dialog.selectedFiles();
        qDebug() << "選択されたファイル:";
        for (const QString &file : selectedFiles) {
            qDebug() << file;
        }
    }

    // iconProvider は QFileDialog が所有するため、明示的な delete は不要です。
    // delete delegate; // こちらは親を設定したので不要

    return a.exec();
}

解説

  • QFileDialog::setIconProvider(iconProvider); を呼び出すことで、ファイルダイアログ全体にこのカスタムアイコンプロバイダが適用されます。setItemDelegate() と組み合わせることで、アイコンとアイテムの描画の両方を細かく制御できます。
  • icon() メソッドでは、QFileInfo を使ってファイルの種類(ディレクトリ、ファイル、拡張子など)を判定し、それに応じてカスタムアイコンを返します。
  • CustomIconProvider クラスは QFileIconProvider を継承し、icon() メソッドをオーバーライドします。


ここでは、QFileDialog::setItemDelegate() の代替となるプログラミング方法をいくつか説明します。

QFileDialog の標準機能とオプションを活用する

多くのケースでは、setItemDelegate() を使わずとも、QFileDialog が提供する既存のメソッドとオプションで十分なカスタマイズが可能です。

  • ダイアログのタイトルやデフォルトディレクトリの設定 (setWindowTitle(), setDirectory())
    ユーザーフレンドリーなダイアログにするための基本的な設定です。

  • 詳細モードの列のカスタマイズ (setOption(QFileDialog::ShowDirsOnly) など)
    ディレクトリのみを表示したり、既存のファイルのみ選択可能にしたりするなどのオプションがあります。 ただし、詳細モード(ListView)で表示される列(名前、サイズ、更新日時など)自体を直接変更したり追加したりする標準的なAPIは QFileDialog には提供されていません。これを行いたい場合は setItemDelegate() または後述のカスタムダイアログが必要になります。

  • 表示モードの変更 (setViewMode())
    アイコン表示 (QFileDialog::IconView) やリスト表示 (QFileDialog::ListView) を切り替えることができます。

    QFileDialog dialog;
    dialog.setViewMode(QFileDialog::IconView); // アイコン表示
    dialog.exec();
    
  • ファイルの種類によるフィルタリング (setNameFilter(), setNameFilters())
    特定の拡張子のファイルのみを表示したり、複数のフィルタを組み合わせたりできます。これは表示されるファイルのリストを制御する基本的な方法です。

    QFileDialog dialog;
    dialog.setNameFilter("画像ファイル (*.png *.jpg);;テキストファイル (*.txt)");
    dialog.exec();
    

メリット

  • 見た目や挙動のカスタマイズの自由度が低い。特に、アイテムの描画内容を完全に制御したい場合には不向き。
  • ネイティブダイアログとの併用が可能(DontUseNativeDialog が設定されていない場合)。 デメリット:
  • 最もシンプルで、Qtの標準的な振る舞いに従うため、安定性と互換性が高い。

独自のファイル選択ダイアログウィジェットを作成する

QFileDialog の機能では要件を満たせない場合、QDialog を継承して完全に独自のファイル選択ダイアログを作成することができます。この方法は最も柔軟性がありますが、その分実装の手間がかかります。

実装のポイント

  • 「開く」/「保存」ボタンとロジック
    独自のボタンを作成し、ユーザーが選択したファイルパスを取得して返すロジックを実装します。
  • 他のウィジェットの配置
    検索バー、プレビューペイン、お気に入りフォルダリストなど、必要なUI要素を自由に配置できます。
  • QAbstractItemDelegate の適用
    QFileSystemModelQListViewQTreeView と組み合わせて使用する場合、これらのビューウィジェットに対しては setItemDelegate() を自由に適用できます。つまり、QFileDialog::setItemDelegate() で行っていたカスタマイズを、この独自のダイアログ内のビューに対して行います。
  • QFileSystemModel の使用
    ファイルシステムの内容をモデルとしてビューに提供するために、Qt が提供する QFileSystemModel を使用します。これにより、ファイルやディレクトリの構造、名前、サイズ、更新日時などの情報を簡単に取得できます。
  • QListView または QTreeView の使用
    ファイルやディレクトリの表示には、QListView (リスト表示) や QTreeView (ツリー表示) といった標準的なビューウィジェットを使用します。
  • QDialog を継承したクラス
    QDialog をベースとして、ファイル選択のロジックを実装します。

メリット

  • プレビュー機能、高度なフィルタリング、タグ付けなど、複雑な機能を実装できる。
  • QFileSystemModel と汎用ビューを使用するため、デリゲートの適用が自然。
  • 究極の柔軟性
    UIのレイアウト、描画、機能の全てを完全に制御できる。

デメリット

  • OSのネイティブなファイルダイアログとは異なるUIになるため、ユーザーに違和感を与える可能性もある。
  • Qtのモデル/ビューアーキテクチャに関する深い知識が必要。
  • 実装の手間
    QFileDialog が提供する多くの基本的な機能(パスの履歴、ネットワークドライブへのアクセスなど)を自前で実装する必要がある。

コードの概念

// MyCustomFileDialog.h
#include <QDialog>
#include <QListView>
#include <QTreeView>
#include <QFileSystemModel>
#include <QPushButton>
#include <QVBoxLayout>
#include "CustomFileDelegate.h" // 既存のカスタムデリゲートを再利用

class MyCustomFileDialog : public QDialog
{
    Q_OBJECT
public:
    explicit MyCustomFileDialog(QWidget *parent = nullptr);
    QString selectedFile() const;

private slots:
    void acceptSelection();

private:
    QFileSystemModel *model;
    QTreeView *treeView; // または QListView
    QPushButton *openButton;
    QString currentSelection;
};

// MyCustomFileDialog.cpp
#include "MyCustomFileDialog.h"
#include <QLineEdit> // 例として検索バーを追加
#include <QHBoxLayout>

MyCustomFileDialog::MyCustomFileDialog(QWidget *parent)
    : QDialog(parent)
{
    setWindowTitle("カスタムファイル選択");
    resize(800, 600);

    model = new QFileSystemModel(this);
    model->setRootPath(QDir::homePath()); // 初期パスを設定

    treeView = new QTreeView(this);
    treeView->setModel(model);
    treeView->setRootIndex(model->index(QDir::homePath())); // 初期ディレクトリを表示
    treeView->setSelectionMode(QAbstractItemView::SingleSelection);

    // ★★★ ここで独自のビューにデリゲートを適用 ★★★
    CustomFileDelegate *delegate = new CustomFileDelegate(treeView); // treeView を親に設定
    treeView->setItemDelegate(delegate);

    // 例として検索バー
    QLineEdit *searchEdit = new QLineEdit(this);
    searchEdit->setPlaceholderText("ファイル名で検索...");
    // searchEdit と model を接続するロジックは別途実装が必要

    openButton = new QPushButton("開く", this);
    QPushButton *cancelButton = new QPushButton("キャンセル", this);

    connect(openButton, &QPushButton::clicked, this, &MyCustomFileDialog::acceptSelection);
    connect(cancelButton, &QPushButton::clicked, this, &MyCustomFileDialog::reject);
    connect(treeView, &QTreeView::doubleClicked, this, &MyCustomFileDialog::acceptSelection);

    QVBoxLayout *mainLayout = new QVBoxLayout(this);
    mainLayout->addWidget(searchEdit);
    mainLayout->addWidget(treeView);

    QHBoxLayout *buttonLayout = new QHBoxLayout();
    buttonLayout->addStretch();
    buttonLayout->addWidget(openButton);
    buttonLayout->addWidget(cancelButton);

    mainLayout->addLayout(buttonLayout);
}

void MyCustomFileDialog::acceptSelection()
{
    QModelIndex currentIndex = treeView->currentIndex();
    if (currentIndex.isValid()) {
        currentSelection = model->filePath(currentIndex);
        accept(); // QDialog::accept() を呼び出し、ダイアログを閉じる
    }
}

QString MyCustomFileDialog::selectedFile() const
{
    return currentSelection;
}

// main.cpp での使用例
// MyCustomFileDialog dialog;
// if (dialog.exec() == QDialog::Accepted) {
//     qDebug() << "選択されたファイル:" << dialog.selectedFile();
// }

Qt の標準機能だけでは満足できない場合、Qt の拡張機能を提供するプラグインや外部ライブラリを利用することも考えられます。 例えば、Qt Marketplace や GitHub などで、よりリッチなファイルブラウザやファイル選択ダイアログのコンポーネントが公開されていることがあります。これらを利用することで、ゼロから開発する手間を省きつつ、高度な機能を実現できる可能性があります。

メリット

  • 既存の高品質なUIコンポーネメントを利用できる。
  • 開発時間の短縮。

デメリット

  • 将来的なメンテナンスや互換性の問題。
  • カスタマイズの自由度が、ライブラリの設計に依存する。
  • ライセンスの問題。
  • 外部依存関係が増える。
方法最適なシナリオメリットデメリット
QFileDialog 標準機能シンプルなファイル選択、基本的なフィルタリング、OSネイティブの見た目を維持したい場合最も簡単、安定、ネイティブUIとの一貫性カスタマイズ性が低い
独自のファイル選択ダイアログ高度なUI/UXカスタマイズ、プレビュー機能、特定のビジネスロジックの統合が必要な場合究極の柔軟性、機能の追加が自由実装コストが高い、Qtのモデル/ビュー知識が必要、OSネイティブUIとの差異
プラグイン/外部ライブラリ開発時間を短縮しつつ、高度な機能が必要だが、完全なカスタムは不要な場合開発時間の短縮、豊富な機能外部依存、ライセンス問題、カスタマイズの制限、メンテナンスの懸念