QFileDialog::optionsのよくある落とし穴と解決策：Qtプログラミング

QFileDialog::optionsは、ファイルダイアログの表示方法やユーザーとのインタラクションに関する様々な設定を行うために使われます。例えば、ディレクトリのみを表示するか、上書き確認を行うか、ネイティブのダイアログを使用するかどうかなどを設定できます。

QFileDialog::Optionで指定できる主なオプション

QFileDialog::Optionは、以下のような個別のオプションを定義しており、これらをビットOR演算子（|）で組み合わせてQFileDialog::Options型として指定します。

• QFileDialog::DontUseCustomDirectoryIcons: カスタムディレクトリアイコンを使用しません。
• QFileDialog::HideNameFilterDetails: 名前フィルターの詳細（例：ワイルドカードの例など）を非表示にします。
• QFileDialog::ReadOnly: 選択されたファイルを読み取り専用として開きます。
• QFileDialog::DontUseNativeDialog: ネイティブのファイルダイアログを使用せず、Qtが提供する標準のファイルダイアログを使用します。macOSやWindowsではデフォルトでネイティブのファイルダイアログが使用されます。
• QFileDialog::DontUseSheet: macOSにおいて、ネイティブのファイルダイアログをシートとして表示しません。デフォルトでは親ウィジェットがある場合にシートとして表示されます。
• QFileDialog::DontConfirmOverwrite: 既存のファイルを選択した場合に、上書き確認のプロンプトを表示しません。デフォルトでは確認が求められます。
• QFileDialog::DontResolveSymlinks: シンボリックリンクを解決しません。デフォルトではシンボリックリンクは解決されます。
• QFileDialog::ShowDirsOnly: ファイルダイアログでディレクトリのみを表示し、ファイルは表示しません。デフォルトではファイルとディレクトリの両方が表示されます。

QFileDialog::optionsの使用例

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QStringList>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    QFileDialog dialog;
    // ディレクトリのみ表示し、シンボリックリンクを解決しないように設定
    dialog.setOptions(QFileDialog::ShowDirsOnly | QFileDialog::DontResolveSymlinks);

    // ダイアログを表示
    if (dialog.exec()) {
        QStringList selectedDirs = dialog.selectedFiles();
        // 選択されたディレクトリを処理
        for (const QString &dir : selectedDirs) {
            qDebug() << "選択されたディレクトリ:" << dir;
        }
    }

    return app.exec();
}

例：個別のオプションを設定・解除する

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QStringList>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    QFileDialog dialog;
    // ネイティブダイアログを使用しないように設定
    dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog);
    // 上書き確認を行わないように設定
    dialog.setOption(QFileDialog::DontConfirmOverwrite, true); // trueで有効化

    // ファイルモードを設定 (保存ダイアログの場合)
    dialog.setAcceptMode(QFileDialog::AcceptSave);
    dialog.setWindowTitle("ファイルを保存");
    dialog.setNameFilter("テキストファイル (*.txt);;すべてのファイル (*.*)");

    if (dialog.exec()) {
        QStringList selectedFiles = dialog.selectedFiles();
        if (!selectedFiles.isEmpty()) {
            qDebug() << "保存ファイル:" << selectedFiles.first();
        }
    }

    return app.exec();
}

QFileDialogの静的関数（例: QFileDialog::getOpenFileName() や QFileDialog::getSaveFileName() など）でも、最後の引数としてQFileDialog::Optionsを指定してオプションを設定できます。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    // ネイティブダイアログを使用せず、ディレクトリのみ表示するオプションを指定してファイルを開くダイアログを表示
    QString fileName = QFileDialog::getOpenFileName(
        nullptr,
        "ファイルを開く",
        QDir::homePath(),
        "すべてのファイル (*.*)",
        nullptr,
        QFileDialog::DontUseNativeDialog | QFileDialog::ShowDirsOnly
    );

    if (!fileName.isEmpty()) {
        qDebug() << "選択されたファイル/ディレクトリ:" << fileName;
    }

    return app.exec();
}

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ネイティブダイアログに関する問題 (QFileDialog::DontUseNativeDialog)

エラー/現象

• ネイティブダイアログとQt標準ダイアログで挙動や表示が異なる（例：ファイルのソートができない、ファイル名が途中で切れるなど）。
• QFileDialog::DontUseNativeDialogを設定すると、アプリケーションがクラッシュする、またはフリーズする。
• QFileDialog::DontUseNativeDialogオプションを使用しているにもかかわらず、ネイティブダイアログが表示される、または期待通りの表示にならない。

原因

• 外部要因 (Windowsエクスプローラーの拡張など)
  特定のサードパーティ製ソフトウェア（例: クラウドストレージの同期ツール、バージョン管理システムのコンテキストメニュー拡張など）がWindowsエクスプローラーの動作に干渉し、ネイティブダイアログのクラッシュや異常動作を引き起こすことがあります。
• 初期ディレクトリの無効性
  不正な初期ディレクトリ（例: 存在しないパス、アクセス権がないパス）を設定している場合、ネイティブダイアログが正しく表示されないことがあります。
• DLLの不足 (Windows)
  リリースビルドで必要なDLLが不足していると、ダイアログが開かずにクラッシュすることがあります。
• Q_OBJECTマクロの不足
  QFileDialogを継承したカスタムクラスでQ_OBJECTマクロを使用していない場合、Qt標準ダイアログが正しく動作しないことがあります。
• バージョンの違いとプラットフォームの制約
  QFileDialog::DontUseNativeDialogは、QtのバージョンやOSによって挙動が異なる場合があります。特に、macOSやWindowsではネイティブダイアログの使用が推奨されており、Qt標準ダイアログの使用には制約がある場合があります。

トラブルシューティング

• ネイティブダイアログの回避
  どうしても問題が解決しない場合、DontUseNativeDialogを使用してQt標準ダイアログに強制的に切り替えることで回避できる場合があります。ただし、Qt標準ダイアログではネイティブダイアログの持つ一部の機能（例: Windowsのジャンプリストや最近使ったファイルなど）が利用できないことがあります。
• Qtバージョンアップ/ダウングレード
  特定のQtバージョンで既知のバグがある場合があるため、別のバージョンを試すことも検討してください。
• 外部要因の切り分け
  他のアプリケーションやエクスプローラーの拡張機能が原因である可能性を考慮し、セーフモードでの起動や不要な常駐ソフトの一時停止を試してみてください。クラッシュのスタックトレースを確認し、Qt以外のモジュールが関与しているか調べると手がかりになることがあります。
• 初期ディレクトリの検証
  setDirectory()で設定するパスが有効でアクセス可能か確認してください。一時的に、確実に存在するパス（例: QDir::homePath()）を設定して試してみてください。
• Q_OBJECTマクロの追加
  カスタムのQFileDialogサブクラスを使用している場合は、必ずクラス定義にQ_OBJECTマクロを追加し、mocを再実行してください。
• オプション設定順序の確認
  QFileDialogのインスタンスを作成した後、他のプロパティを設定する前にsetOption()またはsetOptions()でDontUseNativeDialogを設定してみてください。

ダイアログの複数回表示 / 重複表示

エラー/現象

• ファイルダイアログを閉じてもすぐに再表示される。
• ファイルダイアログが予期せず複数回表示される。

原因

• 静的関数とインスタンスメソッドの混同
  QFileDialog::getOpenFileName()のような静的関数はモーダルダイアログであり、呼び出すとダイアログが表示されて結果が返るまでコードの実行がブロックされます。これとQFileDialogのインスタンスを作成してexec()を呼び出す方式を混同していると、予期せぬ挙動になることがあります。静的関数はインスタンスを作成する必要はありません。
• シグナル・スロットの重複接続
  ボタンのクリックなどのシグナルに対して、ファイルダイアログを表示するスロットが複数回接続されている可能性があります。特に、UIデザイナーで接続を設定しつつ、コードでもconnect()している場合に発生しやすいです。

トラブルシューティング

• ダイアログのライフサイクル
  QFileDialogのインスタンスを生成してexec()で表示する場合、QDialogと同様にaccept()またはreject()が呼ばれるとダイアログは閉じられ、exec()が値を返します。deleteLater()などで適切にインスタンスを破棄することも考慮してください。
• イベントループの処理
  静的関数を使用する場合、呼び出し元にQApplicationのイベントループが正しく実行されていることを確認してください（通常はapp.exec()）。コンソールアプリケーションなど、イベントループがない環境でGUIダイアログを呼び出すと問題が発生することがあります。
• UIデザイナーの確認
  .uiファイルを使用している場合、UIデザイナーで自動接続されたスロットとコードでの接続が重複していないか確認してください。
• connect()の確認
  コード内でconnect()を呼び出している箇所をすべて確認し、同じシグナルとスロットの組み合わせが重複して接続されていないか確認してください。

オプションが期待通りに機能しない

エラー/現象

• 特定のオプションを設定しても効果がない。
• QFileDialog::DontConfirmOverwriteを設定しても上書き確認が表示される。
• QFileDialog::ShowDirsOnlyを設定してもファイルが表示される。

原因

• プラットフォーム固有の挙動
  一部のオプションは、特定のOSでのみ意味を持つか、異なる挙動を示すことがあります。
• 静的関数とインスタンスメソッドの機能差
  QFileDialog::getOpenFileName()などの静的関数は、一部のオプションしかサポートしていない場合があります。より詳細な制御が必要な場合は、QFileDialogのインスタンスを生成してメソッドを呼び出す方式（例: setOption(), setFileMode(), exec()）を使用する必要があります。
• オプションの適用タイミング
  オプションは、ダイアログを表示する前に設定する必要があります。
• FileModeとの兼ね合い
  QFileDialog::ShowDirsOnlyオプションは、QFileDialog::DirectoryというFileMode（ファイル選択モード）と組み合わせて使用する必要があります。他のFileMode（例: ExistingFileやAnyFile）では正しく機能しません。

トラブルシューティング

• 静的関数からの移行
  オプションが正しく機能しない場合は、静的関数ではなくQFileDialogのインスタンスを作成して、より詳細な制御を行う方法に切り替えることを検討してください。
• ドキュメントの確認
  使用しているQtのバージョンとオプションが、どのような条件で機能するか公式ドキュメントで再確認してください。特にプラットフォーム固有の注意事項がないか調べます。
• 設定順序の確認
  setOption()やsetOptions()は、QFileDialogのインスタンスを生成した後、exec()を呼び出す前に設定されているか確認してください。
• FileModeとOptionsの組み合わせ確認
  ShowDirsOnlyを使用する場合は、setFileMode(QFileDialog::Directory)を設定しているか確認してください。

クラッシュ、セグメンテーションフォールト、フリーズ

エラー/現象

• ファイルダイアログを閉じるとアプリケーションがフリーズする、またはクラッシュする。
• QFileDialogを開こうとするとアプリケーションがクラッシュする。

原因

• メモリリーク
  ダイアログを繰り返し開くことでメモリが枯渇し、最終的にクラッシュする。
• Qt以外のライブラリとの競合
  まれに、システムにインストールされている他のライブラリ（例: シェル拡張、グラフィックスドライバーなど）がQtのファイルダイアログと競合し、問題を引き起こすことがあります。
• スレッドの問題
  GUI操作はメインスレッドで行う必要があります。別のスレッドからQFileDialogを呼び出すと、クラッシュやフリーズの原因になります。
• 無効なポインタやオブジェクトの破棄
  QFileDialogのインスタンスが不適切に破棄されたり、無効なポインタを渡したりしている場合に発生します。特にスタック上に作成したQFileDialogを誤ってdeleteしようとしたり、既に破棄されたウィジェットを親として渡したりするケースです。

• システム環境のクリーンアップ
  クリーンなOS環境や、必要最低限のソフトウェアのみがインストールされた環境で試すことで、外部要因による問題を排除できます。
• 単純なコードでの再現
  問題を切り分けるために、QFileDialogの呼び出しのみを含む最小限のコードを作成し、そこで問題が再現するか試します。これにより、アプリケーションの他の部分が原因でないことを確認できます。
• 親ウィジェットの有効性
  QFileDialogのコンストラクタや静的関数に親ウィジェットを渡す場合、その親ウィジェットが有効な状態であることを確認してください。特に、既に破棄されたウィジェットのポインタを渡すと問題が発生します。
• メインスレッドからの呼び出し
  QFileDialogの操作は必ずメインスレッドから行われていることを確認してください。
• デバッガーの使用
  最も効果的な方法はデバッガー（GDB, Visual Studio Debuggerなど）を使用して、クラッシュが発生した正確な場所とスタックトレースを確認することです。これにより、問題の原因となっているコードを特定できます。

• プラットフォームの確認
  問題が特定のOSでのみ発生するか、すべてのプラットフォームで発生するかを確認することで、原因の絞り込みに役立ちます。
• バージョンの一貫性
  アプリケーションのビルドに使用しているQtのバージョンと、実行環境のQtライブラリのバージョンが一致しているか確認してください。
• ログ出力
  qDebug(), qWarning(), qCritical()などを用いて、ダイアログの表示前後の変数やオプションの状態をログに出力し、期待通りの値になっているか確認します。
• Qtのデバッグメッセージの活用
  QApplicationのインスタンス化の前に、環境変数QT_LOGGING_RULESを設定することで、Qtの内部的な警告やエラーメッセージを確認できます。 例: QT_LOGGING_RULES="qt.qpa.*=true"

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ファイルを開くダイアログの基本的な例

最も一般的な使用例です。ここでは、特定のファイルタイプのみを表示し、ネイティブダイアログを使用します。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QString>
#include <QDebug> // デバッグ出力用

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    // 画像ファイルのみを表示するダイアログ
    // 静的関数 QFileDialog::getOpenFileName() を使用
    QString fileName = QFileDialog::getOpenFileName(
        nullptr, // 親ウィジェット (nullptr で独立したダイアログ)
        "画像ファイルを開く", // ダイアログのタイトル
        QDir::homePath(), // 初期ディレクトリ (ホームディレクトリ)
        "画像ファイル (*.png *.jpg *.jpeg *.gif);;すべてのファイル (*.*)" // ファイルフィルター
    );

    if (!fileName.isEmpty()) {
        qDebug() << "選択されたファイル:" << fileName;
        // ここで選択されたファイルを使った処理を行う
    } else {
        qDebug() << "ファイルは選択されませんでした。";
    }

    return app.exec();
}

解説

• "画像ファイル (*.png *.jpg *.jpeg *.gif);;すべてのファイル (*.*)": ファイルフィルターです。セミコロン2つ (;;) で複数のフィルターを区切ります。
• QDir::homePath(): ユーザーのホームディレクトリを初期ディレクトリとして設定します。
• nullptr: 親ウィジェットを指定しない場合、ダイアログは独立したウィンドウとして表示されます。
• QFileDialog::getOpenFileName(): ファイルを開くためのダイアログを表示する静的関数です。最も手軽な方法です。

ファイルを保存するダイアログと上書き確認の無効化

ファイルを保存する際に、既存のファイル名が入力された場合でも上書き確認のプロンプトを表示しないようにする例です。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QString>
#include <QDebug>
#include <QFile>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    // テキストファイルを保存するダイアログ
    // オプションで上書き確認を無効化
    QString fileName = QFileDialog::getSaveFileName(
        nullptr,
        "テキストファイルを保存",
        QDir::currentPath() + "/新しいファイル.txt", // 初期ファイル名を設定
        "テキストファイル (*.txt);;すべてのファイル (*.*)",
        nullptr, // 選択されたフィルターを格納する変数 (不要な場合は nullptr)
        QFileDialog::DontConfirmOverwrite // ここでオプションを指定
    );

    if (!fileName.isEmpty()) {
        qDebug() << "保存ファイルパス:" << fileName;
        QFile file(fileName);
        if (file.open(QIODevice::WriteOnly | QIODevice::Text)) {
            QTextStream out(&file);
            out << "これは保存されたテキストデータです。\n";
            file.close();
            qDebug() << "ファイルが正常に保存されました。";
        } else {
            qDebug() << "ファイルの保存に失敗しました:" << file.errorString();
        }
    } else {
        qDebug() << "ファイルは保存されませんでした。";
    }

    return app.exec();
}

解説

• QFileDialog::DontConfirmOverwrite: このオプションにより、ファイル保存時に既存のファイル名が入力されても「上書きしますか？」といった確認ダイアログが表示されなくなります。
• QFileDialog::getSaveFileName(): ファイルを保存するためのダイアログを表示する静的関数です。

ディレクトリのみを選択するダイアログ

ファイルではなく、ディレクトリ（フォルダ）のみを選択させたい場合にQFileDialog::ShowDirsOnlyオプションを使用します。このオプションはQFileDialog::FileMode::Directoryと組み合わせて使うのが一般的です。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QString>
#include <QDebug>
#include <QDir> // QDir::homePath() のために必要

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    // ディレクトリのみを選択するダイアログ
    // 静的関数 QFileDialog::getExistingDirectory() を使用
    QString dirName = QFileDialog::getExistingDirectory(
        nullptr,
        "ディレクトリを選択",
        QDir::homePath(),
        QFileDialog::ShowDirsOnly // ここでオプションを指定
    );

    if (!dirName.isEmpty()) {
        qDebug() << "選択されたディレクトリ:" << dirName;
        // ここで選択されたディレクトリを使った処理を行う
    } else {
        qDebug() << "ディレクトリは選択されませんでした。";
    }

    return app.exec();
}

解説

• QFileDialog::ShowDirsOnly: このオプションを単独で指定してもディレクトリ選択専用のダイアログになりますが、他のgetOpenFileNameなどと組み合わせて使う場合はQFileDialog::FileMode::Directoryも設定する必要があります。
• QFileDialog::getExistingDirectory(): 既存のディレクトリを選択するための静的関数です。

複数のファイルを同時に選択するダイアログとネイティブダイアログの無効化

複数のファイルを同時に選択できるダイアログを表示し、さらにQt標準のダイアログ（ネイティブではない）を使用するように強制する例です。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QStringList>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    // 複数のファイルを同時に選択し、ネイティブダイアログを使用しない
    QFileDialog dialog(nullptr); // インスタンスを作成
    dialog.setWindowTitle("複数のファイルを選択");
    dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFiles); // 複数の既存ファイルを選択モード
    dialog.setDirectory(QDir::homePath());
    dialog.setNameFilter("テキストファイル (*.txt);;C++ソース (*.cpp *.h);;すべてのファイル (*.*)");

    // オプションを設定 (ビットORで複数のオプションを結合)
    dialog.setOptions(QFileDialog::DontUseNativeDialog | // ネイティブダイアログを使用しない
                      QFileDialog::ReadOnly);            // 読み取り専用モード

    if (dialog.exec()) { // モーダルダイアログとして表示
        QStringList selectedFiles = dialog.selectedFiles();
        if (!selectedFiles.isEmpty()) {
            qDebug() << "選択されたファイル:";
            for (const QString &file : selectedFiles) {
                qDebug() << "- " << file;
            }
        }
    } else {
        qDebug() << "ファイルは選択されませんでした。";
    }

    return app.exec();
}

解説

• dialog.exec(): ダイアログをモーダル（親ウィンドウの操作をブロックする）で表示します。
• dialog.setOptions(QFileDialog::DontUseNativeDialog | QFileDialog::ReadOnly);:
  • QFileDialog::DontUseNativeDialog: OS標準のファイルダイアログではなく、Qtが提供するダイアログが使用されます。これにより、OS間で一貫した見た目と挙動を実現できますが、一部のOS固有の機能（例: Windowsの最近使ったファイルリスト）が利用できない場合があります。
  • QFileDialog::ReadOnly: ファイルダイアログで選択されたファイルを読み取り専用として開くことを意図します（ファイルシステムレベルでのアクセス権には影響しません）。
• dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFiles);: 選択モードを「複数の既存ファイル」に設定します。
• QFileDialog dialog(nullptr);: QFileDialogのインスタンスを明示的に作成します。これにより、静的関数では提供されないより詳細な制御が可能になります。

QFileDialog::DontResolveSymlinksオプションを使用すると、シンボリックリンクが指す実際のパスを解決せず、シンボリックリンク自体をパスとして扱います。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QString>
#include <QDebug>

int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);

    QFileDialog dialog(nullptr);
    dialog.setWindowTitle("シンボリックリンクを解決しないファイル選択");
    dialog.setDirectory(QDir::homePath());
    dialog.setNameFilter("すべてのファイル (*.*)");
    dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFile);

    // シンボリックリンクの解決を無効にするオプションを設定
    dialog.setOption(QFileDialog::DontResolveSymlinks);

    if (dialog.exec()) {
        QStringList selectedFiles = dialog.selectedFiles();
        if (!selectedFiles.isEmpty()) {
            qDebug() << "選択されたファイル (シンボリックリンク解決なし):" << selectedFiles.first();
            // 例: /home/user/mylink -> /opt/data/actual_data の場合、
            // DontResolveSymlinks が有効なら /home/user/mylink が返される
            // 無効なら /opt/data/actual_data が返される
        }
    } else {
        qDebug() << "ファイルは選択されませんでした。";
    }

    return app.exec();
}

• dialog.setOption(QFileDialog::DontResolveSymlinks);: このオプションが有効な場合、ユーザーがシンボリックリンクを選択すると、そのシンボリックリンクのパスがそのまま返されます。無効な場合（デフォルト）は、シンボリックリンクが指す実際のファイルのパスが返されます。

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QFileDialogの他のプロパティとメソッドの活用

QFileDialog::optionsはフラグの集合ですが、QFileDialogクラス自体には他にも多くのプロパティやメソッドがあり、これらを活用することで同様の、あるいはより詳細な制御が可能です。

• setSidebarUrls(const QList<QUrl> &urls): ファイルダイアログのサイドバーに表示されるURL（ショートカット）を設定します。

• setViewMode(QFileDialog::ViewMode mode): ファイルリストの表示形式（リスト形式か詳細形式か）を設定します。

  • QFileDialog::List
  • QFileDialog::Detail

• setDirectory(const QString &directory) / setDirectoryUrl(const QUrl &directory): ダイアログが開いたときの初期ディレクトリを設定します。

• setNameFilter(const QString &filter) / setNameFilters(const QStringList &filters): 表示するファイルの種類をフィルターします。optionsとは直接関係ありませんが、ファイル選択ダイアログの挙動を制御する上で非常に重要です。

  例
  

  QFileDialog dialog;
  dialog.setNameFilter("画像ファイル (*.png *.jpg);;動画ファイル (*.mp4 *.avi)");
  // ...
  

• setAcceptMode(QFileDialog::AcceptMode mode): ダイアログが「開く」モードか「保存」モードかを設定します。

  • QFileDialog::AcceptOpen: ファイルを開くモード（デフォルト）。
  • QFileDialog::AcceptSave: ファイルを保存するモード。

  例
  

  QFileDialog dialog;
  dialog.setAcceptMode(QFileDialog::AcceptSave); // 保存ダイアログにする
  dialog.setWindowTitle("名前を付けて保存");
  dialog.setDefaultSuffix("txt"); // デフォルトの拡張子を設定
  if (dialog.exec()) {
      QString fileName = dialog.selectedFiles().first();
      // ...
  }
  

• setFileMode(QFileDialog::FileMode mode): これはoptionsとは別の、ファイル選択の「モード」を決定する非常に重要なメソッドです。

  • QFileDialog::AnyFile: 既存のファイルまたは新しいファイル名を選択。保存ダイアログに最適。
  • QFileDialog::ExistingFile: 既存の単一ファイルを選択。
  • QFileDialog::ExistingFiles: 既存の複数のファイルを選択。
  • QFileDialog::Directory: 単一のディレクトリのみを選択。
  • QFileDialog::ShowDirsOnlyオプションは、通常このQFileDialog::Directoryモードと組み合わせて使われます。

  QFileDialog dialog;
  dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFiles); // 複数のファイルを選択可能にする
  dialog.setDirectory(QDir::homePath());
  dialog.setNameFilter("テキストファイル (*.txt);;すべてのファイル (*.*)");
  if (dialog.exec()) {
      QStringList selectedFiles = dialog.selectedFiles();
      // ...
  }
  

QFileDialogのサブクラス化とカスタムウィジェットの追加 (QFileDialog::DontUseNativeDialogとの関連)

非常に高度なカスタマイズが必要な場合、QFileDialogをサブクラス化し、独自のウィジェット（チェックボックス、ラジオボタンなど）を追加して、標準のファイルダイアログの機能を拡張することができます。

重要な注意点
QFileDialogをサブクラス化した場合、自動的にQt標準のファイルダイアログが使用され、ネイティブダイアログは表示されません。 これは、ネイティブダイアログがOSの提供するコンポーネントであり、Qtアプリケーション側からそのUIに直接ウィジェットを追加することができないためです。したがって、この方法はQFileDialog::DontUseNativeDialogオプションを設定した場合と同じ効果をもたらします。

例 (概念コード)

#include <QFileDialog>
#include <QCheckBox>
#include <QVBoxLayout>
#include <QPushButton> // レイアウト取得のために必要
#include <QDebug>

class MyCustomFileDialog : public QFileDialog {
    Q_OBJECT // サブクラス化する場合は必須

public:
    explicit MyCustomFileDialog(QWidget *parent = nullptr,
                                const QString &caption = QString(),
                                const QString &directory = QString(),
                                const QString &filter = QString())
        : QFileDialog(parent, caption, directory, filter)
    {
        // ネイティブダイアログは使用されない
        // setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog, true); // 明示的に設定しても良いが、サブクラス化で暗黙的に有効

        // カスタムウィジェットの追加
        QVBoxLayout *layout = qobject_cast<QVBoxLayout*>(this->layout()); // QFileDialogのデフォルトレイアウトを取得
        if (layout) {
            // 例: オプションのチェックボックスを追加
            m_readOnlyCheckBox = new QCheckBox("読み取り専用で開く", this);
            layout->addWidget(m_readOnlyCheckBox);

            // レイアウトの下部にボタンなどを追加することも可能
            // QPushButton *customButton = new QPushButton("カスタムアクション", this);
            // layout->addWidget(customButton);

            // QFileDialog::selectedFiles() や QFileDialog::selectedUrls() をオーバーライドして
            // チェックボックスの状態を反映させるロジックを実装することも可能
        } else {
            qWarning() << "QFileDialogのレイアウトを取得できませんでした。カスタムウィジェットを追加できません。";
        }
    }

    // 必要に応じて、アクセプターメソッドなどをオーバーライドして、
    // 追加したウィジェットの状態に基づいてファイルの選択を調整する

    bool isReadOnlyChecked() const {
        return m_readOnlyCheckBox->isChecked();
    }

private:
    QCheckBox *m_readOnlyCheckBox;
};

// ... (main関数での使用例)
/*
int main(int argc, char *argv[]) {
    QApplication app(argc, argv);
    MyCustomFileDialog dialog(nullptr, "カスタムファイルダイアログ", QDir::homePath(), "すべてのファイル (*.*)");
    dialog.setFileMode(QFileDialog::ExistingFile);

    if (dialog.exec()) {
        QString fileName = dialog.selectedFiles().first();
        bool readOnly = dialog.isReadOnlyChecked();
        qDebug() << "選択されたファイル:" << fileName;
        qDebug() << "読み取り専用チェック:" << readOnly;
    }
    return app.exec();
}
*/

解説

• この方法を使用すると、ネイティブダイアログの利点（OSとの高い統合性、ルック＆フィールの一貫性）を失う代わりに、ダイアログのUIとロジックを完全に制御できるという柔軟性を得られます。
• this->layout(): QFileDialogの内部レイアウトを取得します。デフォルトではQGridLayoutまたはQVBoxLayoutなどです。ここにカスタムウィジェットを追加します。
• Q_OBJECT: Qtのメタオブジェクトシステムを使用するため、サブクラス化には必須です。

特定のOSのネイティブダイアログがQtの提供するものよりも優れている、またはQtのネイティブダイアログ実装に満足できない場合、直接OSのAPIを呼び出してファイルダイアログを表示するという選択肢もあります。

• Linux (GTK/KDE): GTK+のGtkFileChooserDialogやKDEのKDialogなど、デスクトップ環境に特化したライブラリを使用。
• macOS: CocoaのNSOpenPanel / NSSavePanel を使用。
• Windows: Win32 APIのGetOpenFileName / GetSaveFileName (またはIFileOpenDialog / IFileSaveDialog - COMインターフェース) を使用。

利点

• Qtでは利用できない、より深いOS統合機能を利用できる場合がある。
• OSの最新のルック＆フィールと機能に完全に準拠できる。

欠点

• Qtのライブラリに加えて、OS固有のSDKやヘッダーを含める必要がある。
• Qtのデータ型（QString, QDirなど）とOSのAPIが使用するデータ型との間の変換が必要になる。
• Qtのシグナル・スロットメカニズムに統合するのが難しい。
• プラットフォームごとに異なるコードを書く必要がある（クロスプラットフォーム性が失われる）。

この方法は、非常に特殊な要件があり、クロスプラットフォーム性を犠牲にしても構わない場合にのみ検討されます。

QFileDialog::optionsはファイルダイアログの挙動を調整する便利な方法ですが、より複雑な要件や、QFileDialogの基本的な機能では不足する場合、以下の代替方法を検討できます。

• プラットフォーム固有のAPIの使用: 極めて特殊なケースで、クロスプラットフォーム性を犠牲にしてでもOSのネイティブ機能に深くアクセスしたい場合にのみ検討します。
• QFileDialogのサブクラス化: UIのカスタマイズや追加機能が必要な場合に有効です（ただし、ネイティブダイアログは使用されません）。
• QFileDialogの他のプロパティとメソッドの活用: 多くの場合はこれで十分です。