QFileDialog::itemDelegate()

2025-05-26

`QFileDialog::itemDelegate()` とは何か

QFileDialog::itemDelegate() は、QFileDialog が内部で使用しているビュー（ファイルやディレクトリのリストを表示する部分）のアイテムの描画と編集を制御する QAbstractItemDelegate オブジェクトへのポインタを返します。

アイテムデリゲートとは

QtのModel/Viewアーキテクチャでは、データ（Model）、そのデータを表示する方法（View）、そしてデータを表示する個々のアイテムの描画やユーザーとのインタラクション（Delegate）が分離されています。

Delegate: ビュー内で表示される各アイテムの描画方法や、アイテムが編集される際のウィジェットを提供します。
View: モデルからデータを受け取り、それをどのように表示するかを決定します（例: QListView, QTreeView, QTableView など）。
Model: データの構造と実際のデータを管理します。

QFileDialog は、内部的にファイルシステムの内容を表示するためにビューを使用しています。このビューにおける各ファイルやディレクトリの表示方法（アイコン、ファイル名、サイズ、更新日時など）や、ユーザーがアイテムを操作する際の動作は、デフォルトのアイテムデリゲートによって処理されています。

`QFileDialog::itemDelegate()` を使う目的

通常、QFileDialog を使用する際に itemDelegate() を直接操作することはあまりありません。しかし、以下のような特殊なケースで役立つことがあります。

カスタム描画: QFileDialog 内のファイルやディレクトリの表示を、デフォルトとは異なる方法で描画したい場合。例えば、特定のファイルタイプにカスタムアイコンを表示したり、ファイルのサイズに応じて異なる色で表示したりする場合などです。この場合、QAbstractItemDelegate を継承した独自のデリゲートクラスを作成し、QFileDialog::setItemDelegate() メソッドで設定することで、そのデリゲートを取得できます。
カスタム編集: QFileDialog のアイテムに独自の編集機能を追加したい場合。例えば、ファイル名を編集する際に特別な入力チェックを行ったり、カスタムウィジェットを表示したりする場合などです。
ネイティブダイアログとの関係: QFileDialog は、デフォルトでOSネイティブのファイルダイアログを使用しようとします（Windows、macOSなど）。ネイティブダイアログが使用される場合、Qtのウィジェットはインスタンス化されないため、itemDelegate() は nullptr を返します。QFileDialog::DontUseNativeDialog オプションを設定してQt独自のウィジェットベースのダイアログを強制的に使用する場合にのみ、itemDelegate() は有効なデリゲートを返します。

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QAbstractItemDelegate>
#include <QPainter> // 描画のために必要

// 独自のカスタムデリゲートクラス
class MyCustomFileDelegate : public QAbstractItemDelegate
{
public:
    void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override
    {
        // ここにカスタム描画ロジックを記述します
        // 例えば、ファイル名が長い場合は省略したり、特定の拡張子のファイルを強調表示したりできます

        // 例: デフォルトの描画を行ってから、追加で何かを描画する
        QStyleOptionViewItem opt = option;
        initStyleOption(&opt, index); // デフォルトのスタイルオプションを初期化

        // アイテムの背景を描画
        painter->fillRect(opt.rect, opt.palette.highlight()); // 例としてハイライト色で塗りつぶし

        // テキストを描画
        painter->drawText(opt.rect.adjusted(4, 0, -4, 0), Qt::AlignVCenter | Qt::AlignLeft, index.data(Qt::DisplayRole).toString());

        // 必要に応じてアイコンなども描画
    }

    QSize sizeHint(const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override
    {
        // アイテムの推奨サイズを返します
        // デフォルトのサイズより大きくしたい場合などに使用します
        return QAbstractItemDelegate::sizeHint(option, index);
    }
};

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    QFileDialog dialog;
    // ネイティブダイアログではなく、Qtのウィジェットベースのダイアログを使用するように設定
    dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog);

    // カスタムデリゲートをインスタンス化
    MyCustomFileDelegate *customDelegate = new MyCustomFileDelegate();

    // QFileDialogにカスタムデリゲートを設定
    dialog.setItemDelegate(customDelegate);

    // デリゲートを取得して何かを行う（例: デバッグ出力など）
    QAbstractItemDelegate *currentDelegate = dialog.itemDelegate();
    if (currentDelegate) {
        qDebug() << "Item delegate is set.";
    } else {
        qDebug() << "No item delegate (likely native dialog).";
    }

    dialog.exec(); // ダイアログを表示

    // デリゲートはQFileDialogが所有するため、手動でdeleteする必要はありません
    // delete customDelegate; // 通常は不要

    return a.exec();
}

QFileDialog::itemDelegate() は、Qt の Model/View アーキテクチャの高度なカスタマイズ機能に関連するため、通常のファイルダイアログの使用ではあまり触れる機会がありません。しかし、カスタマイズを試みる際にいくつかの落とし穴があります。

itemDelegate() が nullptr を返す

現象
QFileDialog::itemDelegate() を呼び出しても nullptr が返ってくる。

原因
最も一般的な原因は、QFileDialog がネイティブのファイルダイアログを使用しているためです。Qt は、OS のルック＆フィールに合わせるために、デフォルトでネイティブのファイルダイアログを優先的に使用します。ネイティブダイアログが使用される場合、Qt のウィジェットツリーが内部的に構築されないため、アイテムデリゲートも存在しません。

トラブルシューティング
QFileDialog に QFileDialog::DontUseNativeDialog オプションを設定して、Qt 独自のウィジェットベースのファイルダイアログを使用するように強制します。

QFileDialog dialog;
dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog); // これが重要！

// ここで itemDelegate() を呼び出す
QAbstractItemDelegate *delegate = dialog.itemDelegate();
if (delegate) {
    qDebug() << "Item delegate is available.";
} else {
    qDebug() << "Item delegate is nullptr (native dialog or other issue).";
}

setItemDelegate() で設定したカスタムデリゲートが機能しない

現象
QFileDialog::setItemDelegate() で独自のカスタムデリゲートを設定したにもかかわらず、ファイルダイアログの表示が変わらない、または期待通りに動作しない。

原因

デリゲートのライフサイクル管理
setItemDelegate() を呼び出した後、デリゲートオブジェクトが適切に管理されているか確認してください。通常、setItemDelegate() を呼び出すと、ビュー（QFileDialog 内の隠れたビュー）がデリゲートの所有権を引き継ぎ、ビューが破棄されるときにデリゲートも削除されます。しかし、稀に手動で delete してしまうなどの誤った管理で問題が発生することがあります。
モデルインデックスの不正確な使用
paint() メソッド内で index.data() を使用してモデルからデータを取得する際に、誤ったロール（Qt::DisplayRole 以外など）を指定している可能性があります。
デリゲートの描画ロジックの不備
paint() メソッドや sizeHint() メソッドの実装に問題がある可能性があります。特に、paint() メソッド内でデフォルトの描画を適切に呼び出していない場合、何も表示されなくなることがあります。
ネイティブダイアログの使用
上記の「nullptr を返す」問題と同様に、ネイティブダイアログが使用されている可能性があります。カスタムデリゲートは、Qt のウィジェットベースのビューに対してのみ機能します。

トラブルシューティング

簡単なデリゲートから始める
まずは、背景色を変えるだけの非常に単純なデリゲートから始めて、それが機能するかを確認し、徐々に複雑なロジックを追加していくのが良い方法です。
ロールの確認
index.data() で取得したいデータがどのロールに格納されているか、Qt のドキュメントやファイルシステムの Model の実装を確認します（通常は Qt::DisplayRole や Qt::DecorationRole など）。
デリゲートの基本的な実装の確認
- QAbstractItemDelegate::paint() をオーバーライドする際、必ず QStyleOptionViewItem を initStyleOption で初期化し、必要に応じてベースクラスの paint() や、QApplication::style()->drawControl() などを使用してデフォルトの描画を行ってから、カスタム描画を追加するようにしてください。
- 簡単なデバッグのために、paint() メソッドの先頭に qDebug() を挿入して、実際に呼び出されているか確認します。
DontUseNativeDialog の確認
まず、QFileDialog::DontUseNativeDialog オプションが設定されていることを確認してください。

アイテムの編集が機能しない（createEditor() や setEditorData() など）

現象
QAbstractItemDelegate の createEditor(), setEditorData(), updateEditorGeometry(), setModelData() メソッドをオーバーライドしても、アイテムの編集が開始されない、または変更がモデルに反映されない。

原因

createEditor() の不備
createEditor() が有効なエディタウィジェットを返していないか、または親ウィジェットを適切に設定していない。
デフォルトの編集トリガーがない
QFileDialog の内部ビューは、デフォルトではファイル名などの編集を許可していない可能性があります。

トラブルシューティング

エディタウィジェットの表示確認
createEditor() で作成したウィジェットが、実際にビューの適切な位置に表示されているか、updateEditorGeometry() の実装と合わせて確認します。
createEditor() のデバッグ
createEditor() メソッドの先頭に qDebug() を挿入して、このメソッドが実際に呼び出されているか確認します。
編集開始のトリガー
通常、編集はダブルクリックなどで開始されますが、QFileDialog のビューがそのトリガーをサポートしているか確認する必要があります。必要であれば、ビューの editTriggers を設定して明示的に編集を許可する必要があるかもしれません（ただし、QFileDialog の内部ビューに直接アクセスすることは困難です）。
編集可能なフラグの確認
QFileDialog の内部モデルが提供する QModelIndex に対して model()->flags(index) を呼び出し、Qt::ItemIsEditable が含まれているか確認します。含まれていない場合、そのアイテムは編集できません。

メモリリーク（稀だが可能性あり）

現象
アプリケーションを繰り返し起動・終了すると、メモリ使用量が増加していく。

原因
QFileDialog::setItemDelegate() を呼び出すと、通常はビューがデリゲートの所有権を引き継ぎ、ビューが破棄されるときにデリゲートも delete されます。しかし、以下のような特殊な状況では問題が発生する可能性があります。

デリゲートの親オブジェクトを誤って設定し、Qt の所有権システムが正しく機能しない場合。
既に設定されているデリゲートがある状態で setItemDelegate() を再度呼び出し、古いデリゲートが deleteLater() などで明示的に解放されない場合。

トラブルシューティング

デリゲートをヒープに割り当て、親を QFileDialog に設定しない限り、通常は QFileDialog がデリゲートのライフサイクルを管理します。
setItemDelegate() を呼び出す前に、既存のデリゲートを deleteLater() で明示的に解放することを検討します（ただし、通常は不要）。

// 通常はこれでOK
QFileDialog dialog;
dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog);
MyCustomFileDelegate *customDelegate = new MyCustomFileDelegate();
dialog.setItemDelegate(customDelegate); // dialog が customDelegate の所有権を持つ
// customDelegate は手動で delete しない

QFileDialog::itemDelegate() を使用したカスタマイズは、Qt の Model/View アーキテクチャを深く理解している場合にのみ推奨されます。ほとんどの場合、QFileDialog はそのままで十分な機能を提供します。

トラブルシューティングの鍵は、以下の点を確認することです。

QFileDialog::DontUseNativeDialog の設定
これが最も一般的な落とし穴です。
デリゲートの paint() メソッドの実装
基本的な描画（特に initStyleOption とデフォルト描画の呼び出し）が正しいか。
デバッグ出力の活用
qDebug() をデリゲートの各メソッドの先頭に挿入し、どのメソッドがいつ呼び出されているかを確認することで、問題の切り分けが容易になります。
シンプルなテストケースから始める
複雑なカスタマイズを一気に実装するのではなく、簡単な変更から始めて、それが機能することを確認しながら段階的に機能を追加していくのが安全です。

基本的な考え方

QAbstractItemDelegate を継承したカスタムデリゲートクラスを作成する。
- 描画をカスタマイズするには paint() メソッドをオーバーライドします。
- 編集をカスタマイズするには createEditor(), setEditorData(), updateEditorGeometry(), setModelData() をオーバーライドします。
QFileDialog のインスタンスを作成する。
QFileDialog::DontUseNativeDialog オプションを設定する。
- これが非常に重要です。 ネイティブダイアログが使用される場合、Qt のウィジェットツリーは構築されないため、デリゲートは機能しません。
QFileDialog::setItemDelegate() を使用して、カスタムデリゲートを設定する。

例1: アイテムの描画をカスタマイズする (ファイル名が長い場合に省略表示)

この例では、ファイル名が長い場合に、末尾を「...」で省略して表示するカスタムデリゲートを作成します。

mycustomfiledelegate.h

#ifndef MYCUSTOMFILEDELEGATE_H
#define MYCUSTOMFILEDELEGATE_H

#include <QStyledItemDelegate>
#include <QPainter>
#include <QStyleOptionViewItem>

class MyCustomFileDelegate : public QStyledItemDelegate
{
    Q_OBJECT // Q_OBJECT マクロを忘れずに

public:
    explicit MyCustomFileDelegate(QObject *parent = nullptr);

    // 描画をカスタマイズするために paint メソッドをオーバーライド
    void paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const override;
};

#endif // MYCUSTOMFILEDELEGATE_H

mycustomfiledelegate.cpp

#include "mycustomfiledelegate.h"
#include <QDebug>
#include <QTextOption>

MyCustomFileDelegate::MyCustomFileDelegate(QObject *parent)
    : QStyledItemDelegate(parent)
{
}

void MyCustomFileDelegate::paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const
{
    // デフォルトの描画オプションを初期化
    QStyleOptionViewItem opt = option;
    initStyleOption(&opt, index);

    // デフォルトのスタイルで描画（背景、選択状態など）
    // これを呼び出さないと、アイテムが描画されなくなります
    QApplication::style()->drawControl(QStyle::CE_ItemViewItem, &opt, painter);

    // モデルから表示するテキストを取得
    QString text = index.data(Qt::DisplayRole).toString();

    // テキストを描画する長方形の領域
    QRect textRect = opt.rect;

    // アイコンがある場合は、アイコンのスペースを考慮してテキスト領域を調整
    if (!opt.icon.isNull()) {
        textRect.setLeft(textRect.left() + opt.iconSize.width() + 4); // アイコンとパディングのスペース
    }

    // テキストの省略処理
    QFontMetrics fm(opt.font);
    QString elidedText = fm.elidedText(text, Qt::ElideRight, textRect.width());

    // カスタム描画: テキストを描画
    painter->setFont(opt.font);
    painter->setPen(opt.palette.text().color()); // テキストの色

    // Qt::TextWordWrap を使うと複数行表示になるので、今回は単一行表示で ElideRight を使う
    // Qt::AlignVCenter | Qt::AlignLeft は、テキストを垂直方向中央、水平方向左寄せにする
    painter->drawText(textRect, Qt::AlignVCenter | Qt::AlignLeft, elidedText);

    // デバッグ用: アイテムが描画されていることを確認
    // qDebug() << "Painting item:" << text;
}

main.cpp

#include <QApplication>
#include <QFileDialog>
#include <QPushButton> // 任意
#include <QVBoxLayout> // 任意
#include <QWidget>     // 任意
#include <QDebug>

#include "mycustomfiledelegate.h"

int main(int argc, char *argv[])
{
    QApplication a(argc, argv);

    // QFileDialog のインスタンスを作成
    QFileDialog dialog;

    // *** 最も重要な設定: ネイティブダイアログの使用を禁止する ***
    // これをしないと、itemDelegate() は機能しません
    dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog);

    // ファイルダイアログのタイトルを設定
    dialog.setWindowTitle("カスタムファイルダイアログ");

    // 初期ディレクトリを設定 (必要に応じて)
    dialog.setDirectory(QDir::homePath());

    // ファイルフィルターを設定 (必要に応じて)
    dialog.setNameFilter("テキストファイル (*.txt);;すべてのファイル (*.*)");

    // カスタムデリゲートのインスタンスを作成
    MyCustomFileDelegate *customDelegate = new MyCustomFileDelegate(&dialog); // dialog を親に設定

    // QFileDialog にカスタムデリゲートを設定
    dialog.setItemDelegate(customDelegate);

    // デリゲートが設定されていることを確認 (デバッグ用)
    if (dialog.itemDelegate()) {
        qDebug() << "カスタムデリゲートが設定されました。";
    } else {
        qDebug() << "デリゲートが設定されていません (ネイティブダイアログが使用されている可能性があります)。";
    }

    // ダイアログを表示し、結果を処理
    if (dialog.exec() == QDialog::Accepted) {
        QStringList selectedFiles = dialog.selectedFiles();
        qDebug() << "選択されたファイル:" << selectedFiles;
    } else {
        qDebug() << "ファイル選択がキャンセルされました。";
    }

    return a.exec();
}

プロジェクトファイル (.pro) の設定

QT       += widgets

SOURCES += \
    main.cpp \
    mycustomfiledelegate.cpp

HEADERS += \
    mycustomfiledelegate.h

# Qt Creator で実行する場合、プロジェクトのディレクトリに実行ファイルを置く
# CONFIG += c++11

この例では、.txt ファイルにデフォルトのテキストファイルアイコンではなく、カスタムアイコンを表示します。

mycustomfiledelegate.h (例1と同じ)

mycustomfiledelegate.cpp

#include "mycustomfiledelegate.h"
#include <QDebug>
#include <QFileIconProvider> // ファイルアイコンを提供するために必要

MyCustomFileDelegate::MyCustomFileDelegate(QObject *parent)
    : QStyledItemDelegate(parent)
{
}

void MyCustomFileDelegate::paint(QPainter *painter, const QStyleOptionViewItem &option, const QModelIndex &index) const
{
    QStyleOptionViewItem opt = option;
    initStyleOption(&opt, index);

    // デフォルトのスタイルで描画（背景、選択状態など）
    QApplication::style()->drawControl(QStyle::CE_ItemViewItem, &opt, painter);

    // ファイルパスを取得
    QString filePath = index.data(QFileDialog::FilePathRole).toString(); // QFileDialog固有のロール

    // 拡張子を取得
    QFileInfo fileInfo(filePath);
    QString suffix = fileInfo.suffix();

    // カスタムアイコンを設定するロジック
    if (suffix.compare("txt", Qt::CaseInsensitive) == 0) {
        // ここでカスタムアイコンを設定
        opt.icon = QIcon(":/icons/textfile_icon.png"); // リソースファイルからカスタムアイコンを読み込む
    } else if (fileInfo.isDir()) {
        // ディレクトリの場合のアイコンもカスタマイズしたい場合
        // opt.icon = QIcon(":/icons/folder_icon.png");
    } else {
        // それ以外のファイルはデフォルトアイコンを使用
        // QFileDialogのデフォルトアイコンプロバイダを利用することもできる
        // QFileDialog::iconProvider() を介して取得可能だが、
        // paint内で直接アクセスすると複雑になるので、ここではデフォルトのopt.iconをそのまま使う
        // または、QFileIconProvider を自前でインスタンス化して使う
        QFileIconProvider iconProvider;
        opt.icon = iconProvider.icon(fileInfo);
    }

    // アイコンの描画
    if (!opt.icon.isNull()) {
        opt.icon.paint(painter, opt.rect, Qt::AlignVCenter | Qt::AlignLeft, QIcon::Normal, QIcon::On);
    }

    // テキストの描画 (前述の例と同様)
    QRect textRect = opt.rect;
    if (!opt.icon.isNull()) {
        textRect.setLeft(textRect.left() + opt.iconSize.width() + 4);
    }
    QString text = index.data(Qt::DisplayRole).toString();
    QFontMetrics fm(opt.font);
    QString elidedText = fm.elidedText(text, Qt::ElideRight, textRect.width());

    painter->setFont(opt.font);
    painter->setPen(opt.palette.text().color());
    painter->drawText(textRect, Qt::AlignVCenter | Qt::AlignLeft, elidedText);
}

リソースファイル (icons.qrc)

<RCC>
    <qresource prefix="/icons">
        <file>textfile_icon.png</file>
        </qresource>
</RCC>

プロジェクトファイル (.pro) の設定

QT       += widgets

SOURCES += \
    main.cpp \
    mycustomfiledelegate.cpp

HEADERS += \
    mycustomfiledelegate.h

RESOURCES += \
    icons.qrc

# Qt Creator で実行する場合、プロジェクトのディレクトリに実行ファイルを置く
# CONFIG += c++11

textfile_icon.png などの画像ファイルは、プロジェクトの適切な場所（例: icons.qrc と同じディレクトリ）に配置してください。

パフォーマンス
paint() メソッドは頻繁に呼び出されるため、重い処理を行うとパフォーマンスに影響が出る可能性があります。複雑な描画や大量のデータを扱う場合は、最適化を考慮する必要があります。
デリゲートのライフサイクル
setItemDelegate() を呼び出すと、QFileDialog がデリゲートの所有権を引き継ぎます。したがって、デリゲートオブジェクトを手動で delete する必要はありません（通常）。QFileDialog が破棄されるときに、デリゲートも自動的に解放されます。
paint() メソッド内の描画順序
1. initStyleOption(&opt, index); でオプションを初期化する。
2. QApplication::style()->drawControl(QStyle::CE_ItemViewItem, &opt, painter); でデフォルトの描画を行う（背景、選択状態、フォーカスなど）。
3. その上にカスタム描画（テキスト、アイコンなど）を追加する。この順序を守らないと、期待通りの見た目にならないことがあります。
QStyledItemDelegate の推奨
QAbstractItemDelegate よりも QStyledItemDelegate を継承する方が一般的です。QStyledItemDelegate は、デフォルトのスタイル描画や編集ウィジェットの管理など、多くの基本的な機能をすでに実装しているため、カスタムデリゲートの実装が容易になります。
QFileDialog::DontUseNativeDialog
繰り返しになりますが、これが最も重要です。このオプションを設定しない限り、itemDelegate() は nullptr を返し、カスタムデリゲートは機能しません。

itemDelegate() を直接使わずに、QFileDialog の見た目や挙動をカスタマイズする代替手段はいくつかあります。これらの方法は、目的によって使い分けられます。

QFileDialog の基本的なカスタマイズオプションを使用する

QFileDialog 自体が提供するメソッドやオプションを使用することで、多くの一般的なカスタマイズが可能です。これは itemDelegate() を使うよりもはるかに簡単で、ネイティブダイアログとの互換性も保ちやすいです。

デフォルトのウィジェットを非表示にする/追加する (少し高度)
- QFileDialog は findChild() を使って内部ウィジェットにアクセスすることで、一部のカスタマイズが可能です。例えば、デフォルトの「ファイル名」や「ファイルの種類」のラベルを非表示にしたり、独自のウィジェットを追加したりできます。ただし、これは Qt の内部実装に依存するため、バージョンアップで動かなくなる可能性があります。
プレビュー機能
- setSidebarUrls() や setOption(QFileDialog::ShowDirsOnly) など、特定の表示オプション。

デフォルトのアイコンプロバイダの変更

QFileIconProvider: Qt がファイルやディレクトリのアイコンを取得するために使用するクラスです。QFileDialog は内部でこれを利用します。もしアプリケーション全体で特定のファイルタイプのアイコンを一元的に変更したい場合、QFileIconProvider を継承してカスタムクラスを作成し、QFileDialog::setIconProvider() で設定することができます。これは itemDelegate() とは異なり、描画そのものを制御するのではなく、アイコンのソースを変更する方法です。

例:

#include <QFileIconProvider>
#include <QIcon>
#include <QFileInfo>

class CustomIconProvider : public QFileIconProvider
{
public:
    QIcon icon(const QFileInfo &info) const override
    {
        if (info.suffix().compare("txt", Qt::CaseInsensitive) == 0) {
            return QIcon(":/icons/custom_txt_icon.png"); // カスタムアイコン
        }
        return QFileIconProvider::icon(info); // それ以外はデフォルト
    }
};

// QFileDialog の設定時に
QFileDialog dialog;
dialog.setOption(QFileDialog::DontUseNativeDialog); // カスタムアイコンプロバイダはネイティブダイアログでは機能しないため
dialog.setIconProvider(new CustomIconProvider()); // QFileDialogが所有権を持つ

初期ディレクトリとファイル選択
- setDirectory(): ダイアログが開いたときの初期ディレクトリを設定します。
- setFilter() / setNameFilter(): 表示するファイルのタイプをフィルタリングします。
- setFileMode(): ファイルを選択するモード（単一ファイル、複数ファイル、ディレクトリなど）を設定します。
- setAcceptMode(): ファイルを開くのか、保存するのかを設定します。
タイトルとウィンドウプロパティ
- setWindowTitle(): ダイアログのタイトルを設定します。
- setWindowIcon(): ダイアログのアイコンを設定します。

独自のファイルダイアログを実装する

QFileDialog のカスタマイズオプションや itemDelegate() の使用が要件を満たさない場合、またはより高度な制御が必要な場合は、QDialog を継承して完全に独自のファイルダイアログを実装することを検討します。

この方法では、以下のような自由度が得られます。

複雑なフィルタリングやプレビュー
- QSortFilterProxyModel を使用して、QFileSystemModel のデータをさらにフィルタリングしたりソートしたりできます。
- カスタムのプレビューウィジェットを統合し、選択されたファイルのコンテンツやメタデータを表示できます。
カスタムのファイルシステムナビゲーション
- QFileSystemModel は、ファイルシステムのデータを Model/View フレームワークで利用できるように提供する便利なクラスです。これを継承して、特定のファイルやフォルダを隠したり、仮想的なフォルダを追加したりすることも可能です。

#include <QDialog>
#include <QTreeView>
#include <QFileSystemModel>
#include <QVBoxLayout>
#include <QPushButton>
#include <QLineEdit> // 例として検索バー

class MyCustomFileDialog : public QDialog
{
    Q_OBJECT

public:
    explicit MyCustomFileDialog(QWidget *parent = nullptr) : QDialog(parent)
    {
        setWindowTitle("My Custom File Dialog");

        // レイアウト
        QVBoxLayout *layout = new QVBoxLayout(this);

        // ファイルシステムモデル
        model = new QFileSystemModel(this);
        model->setRootPath(QDir::homePath()); // 初期パス
        model->setFilter(QDir::AllDirs | QDir::Files | QDir::NoDotAndDotDot); // 表示するアイテムのフィルタ

        // ビュー (例: QTreeView)
        treeView = new QTreeView(this);
        treeView->setModel(model);
        treeView->setRootIndex(model->index(QDir::homePath())); // 初期表示ディレクトリ

        // ここで treeView のアイテムデリゲートを設定できる
        // treeView->setItemDelegate(new MyCustomDelegateForTreeView(this));

        // その他のウィジェット (例: 検索バー)
        QLineEdit *searchLineEdit = new QLineEdit(this);
        searchLineEdit->setPlaceholderText("ファイル名で検索...");
        // connect(searchLineEdit, &QLineEdit::textChanged, this, &MyCustomFileDialog::filterFiles); // 検索ロジック

        // ボタン
        QPushButton *openButton = new QPushButton("開く", this);
        QPushButton *cancelButton = new QPushButton("キャンセル", this);

        connect(openButton, &QPushButton::clicked, this, &MyCustomFileDialog::accept);
        connect(cancelButton, &QPushButton::clicked, this, &MyCustomFileDialog::reject);

        // レイアウトにウィジェットを追加
        layout->addWidget(searchLineEdit);
        layout->addWidget(treeView);
        layout->addWidget(openButton);
        layout->addWidget(cancelButton);
    }

    // 選択されたファイルパスを取得するメソッドなどを追加
    QStringList selectedFiles() const {
        QStringList files;
        for (const QModelIndex &index : treeView->selectionModel()->selectedRows()) {
            files << model->filePath(index);
        }
        return files;
    }

private:
    QFileSystemModel *model;
    QTreeView *treeView;

signals:
    // 必要に応じてシグナルを追加
};

QFileDialog のデフォルトのレイアウトや機能が全く合わず、より高度な制御が必要な場合
- QDialog を継承して、完全に独自のファイルダイアログを実装します。これは最も柔軟ですが、最も実装コストがかかります。
ファイルリストの各アイテムの描画を細かく制御したいが、全体的なレイアウトは QFileDialog のままで良い場合
- QFileDialog::itemDelegate() を使用し、QFileDialog::DontUseNativeDialog を必ず設定します。
簡単な見た目の調整や基本的な挙動の変更
- QFileDialog の標準オプション (setDirectory(), setNameFilter(), setFileMode() など) を使用します。
- アプリケーション全体でアイコンを変更したい場合は QFileIconProvider をカスタマイズします。

Qtプログラミング初心者必見！QFileDialog::acceptModeのエラーと解決策

QFileDialog::acceptMode には主に以下の2つの値があります。QFileDialog::AcceptSave: これは、ユーザーがファイルを保存しようとしていることを示します。このモードでは、通常、ダイアログの「OK」ボタン（またはプラットフォームに応じた同等のボタン）のテキストが「保存」や「Save」といった表示になります。また、既に存在するファイル名を入力した場合に、上書きの確認ダイアログを表示するかどうか（confirmOverwrite プロパティによって制御されます）などの動作に影響を与えます。ファイルの保存ダイアログとして機能します。

Qt アプリケーション開発：QFileDialogのイベント処理をマスターする

保護された仮想関数 (protected virtual function): 保護された (protected): この関数は、QFileDialog クラス自身、およびその派生クラスからのみアクセスできます。外部のオブジェクトから直接呼び出すことはできません。仮想 (virtual): これは重要なポイントです。QFileDialog を継承して独自のファイルダイアログクラスを作成した場合、この関数を再実装（オーバーライド）することで、状態変化に対する独自の処理を記述できます。

Qt QFileDialog: currentChanged()の代替シグナルと使い分けを徹底解説

Qtプログラミングにおけるvoid QFileDialog::currentChanged(const QString &path)は、QFileDialog（ファイルダイアログ）クラスが提供するシグナルの一つです。このシグナルは、ユーザーがQFileDialog内で現在選択しているファイルまたはディレクトリが変更されたときに発生します。つまり、ユーザーがダイアログ内で別のファイルやフォルダをクリックしたり、キーボードで移動したりして、選択が変更されるたびにこのシグナルが発せられます。

void QFileDialog::currentUrlChanged()

Qt プログラミングにおける void QFileDialog::currentUrlChanged() は、QFileDialog クラスが提供するシグナルです。これは、ファイルダイアログ内でユーザーが選択しているファイルのURL（パス）が変更されたときに発生します。

【Qtプログラミング】QFileDialogのdefaultSuffix代替案！柔軟なファイル名制御を実現

QFileDialog::defaultSuffix は、Qtのファイルダイアログ（ファイルを開いたり保存したりする際に表示されるウィンドウ）において、ユーザーがファイル名に拡張子を入力しなかった場合に、自動的に追加されるデフォルトの拡張子を設定するためのプロパティです。

Qt フォルダ選択で困らない！QFileDialog::directory() のエラーと解決策

QFileDialog::directory() は、静的（スタティック）な関数で、ユーザーにディレクトリ（フォルダ）を選択させるための標準的なファイルダイアログを表示し、選択されたディレクトリのパスを表す QString オブジェクトを返します。もしユーザーがキャンセルした場合や、エラーが発生した場合は、空の QString が返されます。

Qtプログラミング入門: QFileDialog::directoryEntered()シグナルの徹底解説

Qtにおける void QFileDialog::directoryEntered(const QString &directory) は、QFileDialog クラスが提供するシグナルの一つです。どのようなときに発せられるか？このシグナルは、ユーザーがファイルダイアログ内でディレクトリ（フォルダ）を移動し、新しいディレクトリに入ったときに発せられます。例えば、ユーザーがファイルダイアログ上でダブルクリックしてサブフォルダを開いたり、パスを手動で入力して別のディレクトリに移動したりしたときに、このシグナルがトリガーされます。

Qt でディレクトリ選択ダイアログをカスタマイズする方法

QFileDialog::directoryUrl() は、Qt フレームワークの QFileDialog クラスのメソッドで、現在ダイアログに表示されているディレクトリの URL を取得します。具体的に何をするのか？ディレクトリ選択ダイアログの表示 QFileDialog を使って、ファイルやディレクトリを選択するためのダイアログを表示します。

QFileDialog::directoryUrlEnteredのよくあるエラーと解決策【Qt】

Qt プログラミングにおける void QFileDialog::directoryUrlEntered() は、QFileDialog クラスが提供するシグナルです。どのようなときに発生するか？このシグナルは、ユーザーが QFileDialog （ファイル選択ダイアログ）内で、新しいディレクトリの URL（Uniform Resource Locator）を入力または選択し、そのディレクトリに入ろうとしたときに発行されます。

QFileDialog::done()の深掘り：内部動作とカスタマイズのヒント

まず、QFileDialog はQtにおける標準的なファイルダイアログを提供するクラスです。これは、ユーザーがファイルを開いたり、保存したり、ディレクトリを選択したりする際に使用されるGUIコンポーネントです。done() メソッドは、QDialog クラス（QFileDialog が継承しているクラス）から継承された保護された（protected）スロットです。このメソッドは、ダイアログが閉じられる際に呼び出され、ダイアログの結果コード（Accepted または Rejected）を設定するために使用されます。

QFileDialog::itemDelegate()

QFileDialog::itemDelegate() とは何か

アイテムデリゲートとは

QFileDialog::itemDelegate() を使う目的

itemDelegate() が nullptr を返す

setItemDelegate() で設定したカスタムデリゲートが機能しない

アイテムの編集が機能しない（createEditor() や setEditorData() など）

メモリリーク（稀だが可能性あり）

基本的な考え方

例1: アイテムの描画をカスタマイズする (ファイル名が長い場合に省略表示)

QFileDialog の基本的なカスタマイズオプションを使用する

独自のファイルダイアログを実装する

`QFileDialog::itemDelegate()` とは何か

`QFileDialog::itemDelegate()` を使う目的