QtのQColor::setRgba64()徹底解説!高精度な色表現の基礎
QColor::setRgba64()
は、Qt の QColor
クラスのメンバー関数で、色のRGBA (Red, Green, Blue, Alpha) 値を64ビット精度で設定するために使用されます。
64ビット精度とは?
通常、Web カラーや一般的な画像では、各色成分(赤、緑、青)が8ビット(0〜255)で表現されます。アルファチャンネル(透明度)も同様に8ビット(0〜255)で表現され、合計で32ビット(QRgb
など)となります。
しかし、setRgba64()
が扱うのは 64ビット精度 です。これは、各色成分(赤、緑、青、アルファ)がそれぞれ 16ビット の符号なし整数(ushort
、0〜65535)で表現されることを意味します。
なぜ64ビット精度が必要なのか?
より高い色深度(カラーデプス)を必要とする場面で役立ちます。例えば、以下のようなケースです。
- HDR (High Dynamic Range) コンテンツ
HDR 画像や動画では、より広い明るさの範囲と色の情報を持つため、通常の8ビットでは表現しきれないディテールを扱うために、より高いビット深度が利用されます。 - 高品質な画像処理
医療画像、科学シミュレーション、プロフェッショナルなグラフィックデザインなど、非常に正確な色表現が求められる分野では、より多くの色情報が必要です。 - グラデーションの滑らかさ
16ビットの色成分は、8ビットよりもはるかに多くの階調を表現できます。これにより、グラデーションがより滑らかになり、バンディング(色階調の粗さによる縞模様)を減らすことができます。
関数の使い方
setRgba64()
には、主に2つのオーバーロードがあります。
-
void QColor::setRgba64(ushort r, ushort g, ushort b, ushort a)
r
: 赤成分(0〜65535)g
: 緑成分(0〜65535)b
: 青成分(0〜65535)a
: アルファ(透明度)成分(0〜65535、0が完全透明、65535が完全不透明)
このオーバーロードでは、各色成分を個別に16ビットの符号なし整数で指定します。
-
void QColor::setRgba64(QRgba64 rgba64)
rgba64
:QRgba64
型のオブジェクト。QRgba64
は、64ビットのRGBA値を保持するためのQtの型です。
このオーバーロードでは、すでに
QRgba64
オブジェクトに格納されているRGBA64値を設定します。QRgba64
オブジェクトは、例えばQRgba64::fromRgba(r, g, b, a)
のようにして作成できます。
例
#include <QColor>
#include <QDebug>
#include <QRgba64> // QRgba64 を使う場合はこのヘッダが必要
int main() {
QColor color;
// 1. 各色成分を ushort で直接指定する例
// 0 から 65535 の範囲で指定
ushort red = 65535; // 最大の赤
ushort green = 0; // 緑なし
ushort blue = 32767; // 中間の青
ushort alpha = 49151; // 75% 程度の不透明度 (65535 * 0.75)
color.setRgba64(red, green, blue, alpha);
qDebug() << "R (64-bit):" << color.red64();
qDebug() << "G (64-bit):" << color.green64();
qDebug() << "B (64-bit):" << color.blue64();
qDebug() << "A (64-bit):" << color.alpha64();
qDebug() << "---";
// 2. QRgba64 オブジェクトを使って指定する例
QRgba64 rgba64Value = QRgba64::fromRgba(0, 65535, 65535, 65535); // シアン (完全不透明)
color.setRgba64(rgba64Value);
qDebug() << "R (64-bit):" << color.red64();
qDebug() << "G (64-bit):" << color.green64();
qDebug() << "B (64-bit):" << color.blue64();
qDebug() << "A (64-bit):" << color.alpha64();
// 8ビット値への変換(参考)
qDebug() << "R (8-bit):" << color.red();
qDebug() << "G (8-bit):" << color.green();
qDebug() << "B (8-bit):" << color.blue();
qDebug() << "A (8-bit):" << color.alpha();
return 0;
}
QColor::setRgba64()
は比較的シンプルですが、その「64ビット精度」という特性から、特に8ビット(0-255)の色表現に慣れている場合に誤解が生じやすいです。
エラー: 8ビット値(0-255)を直接 ushort 引数に渡してしまう
問題の状況
setRgba64(r, g, b, a)
の引数 r
, g
, b
, a
は ushort
型(0〜65535)を期待していますが、誤って0〜255の範囲の値をそのまま渡してしまうことがあります。
// 誤った使い方
QColor color;
int r_8bit = 255;
int g_8bit = 128;
int b_8bit = 0;
int a_8bit = 255;
// この場合、255 は 65535 ではなく 255 として解釈されてしまう
color.setRgba64(r_8bit, g_8bit, b_8bit, a_8bit);
なぜ問題なのか
ushort
型の変数に255
を代入すると、その値はそのまま255
として解釈されます。しかし、setRgba64()
は、最大の明るさを65535
として扱います。したがって、255
を渡してしまうと、それは非常に暗い色として設定されてしまいます(255 / 65535
は非常に小さい値)。
トラブルシューティング
8ビット値を64ビット(16ビット/チャンネル)の範囲に正しく変換して渡す必要があります。これは通常、値を257
倍することで実現できます(255 * 257 = 65535
)。
// 正しい使い方
QColor color;
int r_8bit = 255;
int g_8bit = 128;
int b_8bit = 0;
int a_8bit = 255;
// 8ビット値を16ビット値に変換 (約257倍)
ushort r_16bit = r_8bit * 257; // 255 * 257 = 65535
ushort g_16bit = g_8bit * 257; // 128 * 257 = 32896
ushort b_16bit = b_8bit * 257; // 0 * 257 = 0
ushort a_16bit = a_8bit * 257; // 255 * 257 = 65535
color.setRgba64(r_16bit, g_16bit, b_16bit, a_16bit);
// あるいは、QRgba64::fromRgb() を使うと便利です
QColor color2;
color2.setRgba64(QRgba64::fromRgb(255, 128, 0, 255)); // これは内部で適切に変換してくれる
QRgba64::fromRgb()
は、8ビットのRGB値を基にQRgba64
オブジェクトを生成するため、手動での変換計算が不要で便利です。
エラー: 負の値を渡してしまう、または ushort の最大値を超えてしまう
問題の状況
ushort
は符号なしの16ビット整数なので、0未満の値を渡したり、65535
を超える値を渡したりすると、予期せぬ結果になります。
// 誤った使い方(負の値)
QColor color;
color.setRgba64(-100, 0, 0, 65535); // -100 は ushort でオーバーフローし、大きな正の値になる
// 誤った使い方(最大値超え)
QColor color2;
color2.setRgba64(70000, 0, 0, 65535); // 70000 は ushort でオーバーフローし、小さい値になる
なぜ問題なのか
C++の符号なし整数型は、負の数を代入しようとすると非常に大きな正の数として扱われます(ラップアラウンド)。また、最大値を超えるとゼロから再開します(ラップアラウンド)。これにより、設定した色とは全く異なる色になってしまいます。
トラブルシューティング
入力値が必ず0から65535の範囲内にあることを確認してください。もし入力がこの範囲を超える可能性がある場合は、事前に値をクランプ(最小値と最大値の間に制限)する処理を追加します。
// 正しい使い方(入力値の範囲チェック)
#include <algorithm> // std::clamp を使用する場合
ushort clamp_value(int val) {
return static_cast<ushort>(std::clamp(val, 0, 65535));
}
QColor color;
int r_input = -100;
int g_input = 70000;
int b_input = 30000;
int a_input = 65535;
color.setRgba64(clamp_value(r_input),
clamp_value(g_input),
clamp_value(b_input),
clamp_value(a_input));
std::clamp
はC++17以降で利用可能です。それ以前のC++バージョンでは、自分でstd::min
とstd::max
を使ってクランプ関数を実装する必要があります。
エラー: 期待通りの色にならない(ビット深度の混同)
問題の状況
setRgba64()
で設定したにもかかわらず、描画される色が期待と異なる。例えば、QColor
オブジェクトを別のコンテキスト(例: QPainter
で描画する場合や、QImage
の8ビットフォーマット)で使用したときに、色が薄く見えたり、色が違って見えたりする。
なぜ問題なのか
QColor
オブジェクト自体は64ビットの色情報を保持できますが、そのQColor
が使われるコンテキスト(例: QImage::Format_RGB32
のような8ビット/チャンネルの画像フォーマット、あるいは一部のハードウェア)が、内部的に色情報を8ビットに丸めてしまうことがあります。
トラブルシューティング
-
変換時の丸め
QColor
から8ビットのQRgb
値を取得する際(例:color.rgb()
やcolor.rgba()
)、内部で64ビット値が8ビットに丸められます。この丸めによって情報が失われるため、期待通りの色にならないことがあります。高精度な色情報を維持したい場合は、パイプライン全体で64ビットの色を扱うように設計する必要があります。QColor color; color.setRgba64(65535, 65535, 65535, 65535); // 白 // この時点で QColor は 64bit の情報を持っている qDebug() << "64bit Red:" << color.red64(); // 8bit に変換されると情報が失われる可能性がある // (この場合は白なので問題ないが、中間の値で顕著) QRgb rgb_value = color.rgb(); qDebug() << "8bit Red (from rgb()):" << qRed(rgb_value);
-
描画コンテキストの確認
描画先のサーフェス(QImage
,QPixmap
,QWidget
など)のビット深度が、あなたが意図する色深度をサポートしているか確認してください。例えば、QImage::Format_RGBA64
のような64ビットRGBAをサポートするフォーマットを使用しているか確認します。
エラー: QRgba64 関連のインクルード不足
問題の状況
setRgba64(QRgba64 rgba64)
オーバーロードを使用しようとすると、コンパイルエラーになる。
// エラーになる可能性のあるコード
#include <QColor>
// #include <QRgba64> がない
int main() {
QColor color;
QRgba64 rgba64Value = QRgba64::fromRgb(255, 0, 0, 255); // QRgba64 が未定義
color.setRgba64(rgba64Value); // コンパイルエラー
return 0;
}
なぜ問題なのか
QRgba64
型は QColor
クラスのヘッダファイルに含まれていません。別途 QRgba64
のヘッダファイルをインクルードする必要があります。
トラブルシューティング
ソースファイルの冒頭に #include <QRgba64>
を追加してください。
// 正しい使い方
#include <QColor>
#include <QRgba64> // これが必要
int main() {
QColor color;
QRgba64 rgba64Value = QRgba64::fromRgb(255, 0, 0, 255);
color.setRgba64(rgba64Value);
return 0;
}
void QColor::setRgba64()
を使ったプログラミング例
QColor::setRgba64()
は、色を16ビット/チャンネルのRGBA(Red, Green, Blue, Alpha)値で設定するための関数です。通常の8ビット(0-255)ではなく、0から65535までのより広い範囲で色を表現できるため、高精度のグラデーションやHDRコンテンツの扱いに役立ちます。
以下にいくつかのプログラミング例を示します。
基本的な色の設定と取得
最も基本的な使い方です。各色成分を ushort
型(符号なし短整数)で直接指定します。
#include <QApplication>
#include <QColor>
#include <QDebug> // デバッグ出力用
#include <QLabel>
#include <QPainter>
#include <QPixmap>
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// QColor オブジェクトの作成
QColor highPrecisionColor;
// 赤、緑、青、アルファを 16-bit (0-65535) で設定
// 例: 明るい赤 (少し透明)
ushort r = 65535; // 最大の赤
ushort g = 0; // 緑なし
ushort b = 0; // 青なし
ushort a = 49151; // 約75%の不透明度 (65535 * 0.75)
highPrecisionColor.setRgba64(r, g, b, a);
qDebug() << "--- 16-bit Color Details ---";
qDebug() << "Red (16-bit): " << highPrecisionColor.red64();
qDebug() << "Green (16-bit): " << highPrecisionColor.green64();
qDebug() << "Blue (16-bit): " << highPrecisionColor.blue64();
qDebug() << "Alpha (16-bit): " << highPrecisionColor.alpha64();
qDebug() << "--- 8-bit Color (Converted) ---";
// QColor は内部で 64-bit を保持していますが、8-bit に変換して取得することも可能
qDebug() << "Red (8-bit): " << highPrecisionColor.red();
qDebug() << "Green (8-bit): " << highPrecisionColor.green();
qDebug() << "Blue (8-bit): " << highPrecisionColor.blue();
qDebug() << "Alpha (8-bit): " << highPrecisionColor.alpha();
// GUI で色を確認するための表示
QPixmap pixmap(100, 100);
pixmap.fill(highPrecisionColor); // 高精度色で塗りつぶし
QLabel label;
label.setPixmap(pixmap);
label.setWindowTitle("High Precision Red");
label.show();
return app.exec();
}
解説
red()
,green()
,blue()
,alpha()
を使うと、内部で8ビットに丸められた値を取得できます。pixmap.fill()
など、多くのQtの描画関数は最終的に8ビット表現に変換して描画するため、この丸めが発生します。red64()
,green64()
,blue64()
,alpha64()
を使うと、設定した16ビットの元の値を取得できます。setRgba64(ushort r, ushort g, ushort b, usort a)
を使って、各成分をushort
型(0から65535の範囲)で指定します。
8ビット値を64ビット値に変換して設定する
既存の8ビットの色情報(例: QRgb
や一般的な0-255の値)を64ビット精度に変換して設定する場合です。
#include <QApplication>
#include <QColor>
#include <QDebug>
#include <QLabel>
#include <QPainter>
#include <QPixmap>
#include <QRgba64> // QRgba64 型を使用するために必要
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// 8-bit の RGB 値
int r8 = 192; // 0-255 の範囲
int g8 = 64;
int b8 = 255;
int a8 = 128;
QColor colorFrom8bit;
// 方法1: 手動で 8bit -> 16bit 変換 (約 257 倍)
ushort r16 = static_cast<ushort>(r8 * 257); // 255 * 257 = 65535
ushort g16 = static_cast<ushort>(g8 * 257);
ushort b16 = static_cast<ushort>(b8 * 257);
ushort a16 = static_cast<ushort>(a8 * 257);
colorFrom8bit.setRgba64(r16, g16, b16, a16);
qDebug() << "--- Converted from 8-bit using manual multiplication ---";
qDebug() << "Original 8-bit R:" << r8 << "-> 16-bit R:" << colorFrom8bit.red64();
qDebug() << "Original 8-bit G:" << g8 << "-> 16-bit G:" << colorFrom8bit.green64();
qDebug() << "Original 8-bit B:" << b8 << "-> 16-bit B:" << colorFrom8bit.blue64();
qDebug() << "Original 8-bit A:" << a8 << "-> 16-bit A:" << colorFrom8bit.alpha64();
// 方法2: QRgba64::fromRgb() 静的関数を使用 (推奨)
QColor colorFromQRgba64;
// QRgba64::fromRgb() は、内部で 8-bit 値を 16-bit に変換してくれます
QRgba64 rgba64Value = QRgba64::fromRgb(r8, g8, b8, a8);
colorFromQRgba64.setRgba64(rgba64Value);
qDebug() << "--- Converted from 8-bit using QRgba64::fromRgb() ---";
qDebug() << "Original 8-bit R:" << r8 << "-> 16-bit R:" << colorFromQRgba64.red64();
qDebug() << "Original 8-bit G:" << g8 << "-> 16-bit G:" << colorFromQRgba64.green64();
qDebug() << "Original 8-bit B:" << b8 << "-> 16-bit B:" << colorFromQRgba64.blue64();
qDebug() << "Original 8-bit A:" << a8 << "-> 16-bit A:" << colorFromQRgba64.alpha64();
// GUI で色を確認するための表示
QPixmap pixmap1(100, 100);
pixmap1.fill(colorFrom8bit);
QLabel label1;
label1.setPixmap(pixmap1);
label1.setWindowTitle("Converted Color (Manual)");
label1.show();
QPixmap pixmap2(100, 100);
pixmap2.fill(colorFromQRgba64);
QLabel label2;
label2.setPixmap(pixmap2);
label2.setWindowTitle("Converted Color (QRgba64::fromRgb)");
label2.show();
return app.exec();
}
解説
setRgba64(QRgba64 rgba64)
のオーバーロードを使って、生成したQRgba64
オブジェクトを設定しています。- 方法2 (推奨)
QRgba64::fromRgb(int r, int g, int b, int a)
静的関数を使用すると、8ビットのRGB値を自動的に64ビット(16ビット/チャンネル)のQRgba64
オブジェクトに変換してくれます。この方法は、手動での計算ミスを防ぎ、コードをより読みやすくします。 - 方法1
8ビット値を16ビット値に変換するには、最も単純には257
を掛けます。これは65535 / 255 = 257
という関係に基づくもので、8ビットの最大値255を16ビットの最大値65535にマッピングします。
高精度なグラデーションの作成(描画イベント内)
QPainter
を使って、QColor::setRgba64()
で設定した高精度な色を含むグラデーションを描画する例です。この例では、QWidget
を継承したカスタムウィジェットで描画を行います。
#include <QApplication>
#include <QWidget>
#include <QPainter>
#include <QLinearGradient>
#include <QDebug>
#include <QRgba64>
class GradientWidget : public QWidget {
public:
GradientWidget(QWidget *parent = nullptr) : QWidget(parent) {
setWindowTitle("High Precision Gradient");
resize(400, 200);
}
protected:
void paintEvent(QPaintEvent *event) override {
Q_UNUSED(event);
QPainter painter(this);
painter.setRenderHint(QPainter::Antialiasing);
// 線形グラデーションオブジェクトを作成
QLinearGradient gradient(0, 0, width(), 0); // 左から右へのグラデーション
// 色の停止点を追加
// 1. 完全に透明な赤 (0-65535 の範囲でアルファを 0 に)
QColor startColor;
startColor.setRgba64(65535, 0, 0, 0); // 赤、完全透明
gradient.setColorAt(0.0, startColor);
// 2. 完全に不透明な赤
QColor middleColor;
middleColor.setRgba64(65535, 0, 0, 65535); // 赤、完全不透明
gradient.setColorAt(0.5, middleColor);
// 3. 完全に不透明な青
QColor endColor;
endColor.setRgba64(0, 0, 65535, 65535); // 青、完全不透明
gradient.setColorAt(1.0, endColor);
painter.setBrush(gradient);
painter.drawRect(rect()); // ウィジェット全体にグラデーションを描画
qDebug() << "Gradient drawn with 64-bit colors.";
}
};
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
GradientWidget widget;
widget.show();
return app.exec();
}
- この例では、
QColor
が内部的に保持する64ビットの精度が、グラデーション計算の際に利用されることを示唆しています。ただし、最終的な表示はディスプレイや描画バックエンドのビット深度に依存します。 gradient.setColorAt()
にこれらのQColor
オブジェクトを渡すことで、グラデーションの各停止点に高精度な色を適用します。QColor
オブジェクトを作成し、setRgba64()
を使って高精度な赤と青を設定します。QPainter
とQLinearGradient
を使用してグラデーションを描画します。
- パフォーマンス
16ビット/チャンネルのデータは8ビット/チャンネルのデータよりも多くのメモリを使用し、処理に時間がかかる場合があります。アプリケーションの要件に応じて、本当に高精度が必要かどうかを検討することが重要です。 - ファイルフォーマット
高精度な色情報をファイルに保存したい場合、その色深度をサポートする画像フォーマット(例: PNGの16ビット深度、TIFF、OpenEXRなど)を選択する必要があります。JPEGなどは通常8ビットです。 - 描画バックエンドとディスプレイの制限
setRgba64()
でどれだけ高精度な色を設定しても、最終的な描画結果は、使用しているグラフィックカード、ディスプレイ、およびQtの描画バックエンド(例えばOpenGLやDirectX)のビット深度に依存します。多くのディスプレイは8ビット/チャンネルであり、結果として色が丸められて表示されます。
QColor::setRgba64()
は高精度な色表現を扱う上で非常に便利ですが、すべてのシナリオで必要とされたり、唯一の方法であったりするわけではありません。以下に、状況に応じた代替・補完方法を挙げます。
QColor の他の色空間設定関数を使用する
QColor
クラスは、RGB 以外にも様々な色空間で色を設定するメソッドを提供しています。これらは通常8ビット精度ですが、特定の色表現が必要な場合に役立ちます。
-
void QColor::setRgbF(qreal r, qreal g, qreal b, qreal a = 1.0)
/void QColor::setHsvF(...)
など: 各色成分をqreal
(double) 型の浮動小数点数(0.0〜1.0)で設定します。これは内部的には16ビット整数に丸められますが、浮動小数点演算が必要な場合や、正規化された値で色を扱いたい場合に便利です。#include <QColor> #include <QDebug> int main() { QColor color; color.setRgbF(0.5, 0.25, 0.75, 1.0); // 中間の紫 qDebug() << "R (Float):" << color.redF(); qDebug() << "G (Float):" << color.greenF(); qDebug() << "B (Float):" << color.blueF(); qDebug() << "A (Float):" << color.alphaF(); return 0; }
-
void QColor::setCmyk(int c, int m, int y, int k, int a = 255)
: シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)、ブラック(Key/Black)で色を設定します。印刷用途など、減法混色を扱う場合に利用されます。#include <QColor> #include <QDebug> int main() { QColor color; color.setCmyk(0, 100, 100, 0); // マゼンタ qDebug() << "Cyan:" << color.cyan(); qDebug() << "Magenta:" << color.magenta(); qDebug() << "Yellow:" << color.yellow(); qDebug() << "Black:" << color.black(); return 0; }
-
void QColor::setHsv(int h, int s, int v, int a = 255)
: 色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)で色を設定します。色相は0-359、彩度と明度は0-255です。直感的な色選択や、特定の色相でグラデーションを作成する際に便利です。#include <QColor> #include <QDebug> int main() { QColor color; color.setHsv(120, 255, 255); // 緑色、完全飽和、最大明度 qDebug() << "Hue:" << color.hue(); qDebug() << "Saturation:" << color.saturation(); qDebug() << "Value:" << color.value(); return 0; }
-
void QColor::setRgb(int r, int g, int b, int a = 255)
/void QColor::setRgba(QRgb rgba)
: 最も一般的な方法で、各色成分を8ビット(0-255)で指定します。Web カラーや一般的な画像処理で広く使われます。setRgba64()
のように高精度は必要ないが、標準的な色表現で十分な場合に適しています。#include <QColor> #include <QDebug> int main() { QColor color; color.setRgb(255, 128, 0, 200); // 標準の8ビットRGB + アルファ qDebug() << "R (8-bit):" << color.red(); qDebug() << "G (8-bit):" << color.green(); qDebug() << "B (8-bit):" << color.blue(); qDebug() << "A (8-bit):" << color.alpha(); return 0; }
QRgba64 構造体を直接操作する
QColor::setRgba64(QRgba64 rgba64)
のオーバーロードを使用する場合、内部で QRgba64
構造体が使われます。QRgba64
は、64ビットのRGBA色情報を保持するための軽量な構造体です。QColor
オブジェクトを介さずに、直接 QRgba64
を扱うことで、よりメモリ効率が良く、あるいは特定のアルゴリズムに適合する場合があります。
QRgba64
は、個々の16ビット成分を直接設定するメソッド(setRed()
, setGreen()
, setBlue()
, setAlpha()
)や、8ビット値から変換する静的関数(fromRgba()
)を提供しています。
#include <QApplication>
#include <QLabel>
#include <QPixmap>
#include <QPainter>
#include <QRgba64> // QRgba64 を使う場合はこのヘッダが必要
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
// QRgba64 オブジェクトを直接作成・操作
QRgba64 highPrecisionRgba;
// 各成分を 16-bit で設定
highPrecisionRgba.setRed(65535); // 最大の赤
highPrecisionRgba.setGreen(32767); // 中間の緑
highPrecisionRgba.setBlue(0); // 青なし
highPrecisionRgba.setAlpha(65535); // 完全不透明
// QColor に変換して表示(QColor の setRgba64() が内部でこれを行っている)
QColor displayColor = highPrecisionRgba; // 暗黙的に QColor に変換可能
QPixmap pixmap(100, 100);
pixmap.fill(displayColor);
QLabel label;
label.setPixmap(pixmap);
label.setWindowTitle("QRgba64 Direct");
label.show();
// 8ビット値から QRgba64 を作成
QRgba64 from8bitRgba = QRgba64::fromRgba(0, 0, 255, 128); // 半透明の青
QColor displayColor2 = from8bitRgba;
QPixmap pixmap2(100, 100);
pixmap2.fill(displayColor2);
QLabel label2;
label2.setPixmap(pixmap2);
label2.setWindowTitle("QRgba64 from 8-bit");
label2.show();
return app.exec();
}
用途
- 特定のカスタムデータ構造で色を保持する場合に、
QRgba64
をその要素として利用する。 - 大量のピクセルデータを直接操作する画像処理など、パフォーマンスが重要な場合。
- 色変換や計算を
QColor
オブジェクトのオーバーヘッドなしに行いたい場合。
QImage の高ビット深度フォーマットを直接操作する
画像データ自体が高ビット深度である場合、QImage
の特定のフォーマットを直接操作することで、QColor
を介さずにピクセル値を設定できます。これは、特に生データから画像を構築する場合や、既存の画像データを操作する場合に非常に強力です。
Qt 5.12以降で導入された16ビット/チャンネルの画像フォーマット(QImage::Format_RGBA64
など)がこれにあたります。
#include <QApplication>
#include <QImage>
#include <QLabel>
#include <QRgba64> // QRgba64 を使う場合はこのヘッダが必要
int main(int argc, char *argv[]) {
QApplication app(argc, argv);
const int width = 200;
const int height = 100;
// RGBA64 フォーマットの QImage を作成
QImage image(width, height, QImage::Format_RGBA64);
// 画像のピクセルを直接操作
for (int y = 0; y < height; ++y) {
// scanLine() で各行のデータへのポインタを取得
// Format_RGBA64 の場合、各ピクセルは QRgba64 型として解釈できる
QRgba64 *scanline = reinterpret_cast<QRgba64*>(image.scanLine(y));
for (int x = 0; x < width; ++x) {
// グラデーションの計算(例:左から右へ赤から青へ変化)
ushort red = static_cast<ushort>((1.0 - (double)x / width) * 65535);
ushort blue = static_cast<ushort>(((double)x / width) * 65535);
ushort green = 0;
ushort alpha = 65535; // 完全不透明
// QRgba64 を直接設定
scanline[x] = QRgba64::fromRgba64(red, green, blue, alpha);
}
}
QLabel label;
label.setPixmap(QPixmap::fromImage(image)); // QImage から QPixmap を作成して表示
label.setWindowTitle("Direct RGBA64 Image");
label.show();
return app.exec();
}
用途
- ピクセル単位で高度な制御が必要な場合。
- センサーデータや科学的データなど、生の高ビット深度画像を扱う場合。
- 大規模な画像処理アルゴリズムやフィルタを実装する場合。
サードパーティ製ライブラリや OpenGL を利用する
Qt の機能だけでは要件を満たせない場合、以下のような方法も考えられます。
-
OpenGL/Vulkan/DirectX を直接利用
GPUアクセラレーションを最大限に活用し、高ビット深度のテクスチャやレンダーターゲットを扱う場合、Qt の抽象化レイヤーを介さずに、これらのグラフィックスAPIを直接利用することが考えられます。Qt はQOpenGLWidget
など、これらのAPIと統合するための機能を提供しています。 -
カラーマネジメントライブラリ (例: Little CMS)
ICCプロファイルに基づいた高度なカラーマネジメントや色変換が必要な場合、Little CMSのような専門的なライブラリをQtアプリケーションに統合することができます。これにより、異なるデバイス間での正確な色表現を実現できます。
QColor::setRgba64()
は、Qt の QColor
オブジェクトに16ビット精度の色を設定するための標準的な方法です。しかし、ユースケースによっては、以下のような代替・補完方法も有効です。
- さらに高度な色管理やパフォーマンスが必要な場合
サードパーティのカラーマネジメントライブラリや低レベルのグラフィックスAPI(OpenGLなど)との統合を検討する。 - 画像データの高精度な直接操作が必要な場合
QImage::Format_RGBA64
などの高ビット深度フォーマットでQImage
を直接操作する。 - 効率的な色データ操作が必要な場合
QRgba64
構造体を直接利用する。 - 低精度で十分な場合
setRgb()
,setHsv()
,setCmyk()
など、8ビット精度で色を設定する他のQColor
メソッド。