Node.js 暗号スイート設定ガイド:DEFAULT_CIPHERS から独自設定まで
「tls.DEFAULT_CIPHERS
」は、Node.js の tls
(Transport Layer Security) モジュールにおいて、TLS/SSL接続を確立する際にデフォルトで使用される暗号スイートのリストを指します。
より具体的に説明すると、以下のようになります。
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デフォルトの意義: デフォルトで安全な暗号スイートが設定されていることで、開発者は特に意識しなくても、ある程度のセキュリティが確保されたTLS/SSL接続を容易に構築できます。
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tls.DEFAULT_CIPHERS
: Node.js がデフォルトで推奨する、安全性が高く、広くサポートされている暗号スイートのリストです。Node.js で特に暗号スイートを指定しない場合、このリストに定義されたものが接続の際に優先的に使用されます。 -
暗号スイート (Cipher Suite): TLS/SSL接続のセキュリティを確保するために使用される、暗号化アルゴリズム、鍵交換アルゴリズム、メッセージ認証コード (MAC) アルゴリズムなどの組み合わせのことです。クライアントとサーバーが通信する際に、どの暗号スイートを使用するかをネゴシエーションします。
なぜ tls.DEFAULT_CIPHERS
が重要なのか?
- 設定の柔軟性: 開発者は必要に応じて、
tls.DEFAULT_CIPHERS
を上書きしたり、特定の暗号スイートを指定したりすることで、セキュリティ要件や互換性のニーズに合わせて設定を調整できます。 - 互換性: 幅広いクライアントやサーバーとの互換性を考慮して、一般的にサポートされている暗号スイートが含まれています。
- セキュリティ: 古いまたは脆弱な暗号スイートを使用すると、中間者攻撃 (Man-in-the-Middle attack) などのセキュリティ上の脅威にさらされる可能性があります。
tls.DEFAULT_CIPHERS
は、既知の脆弱性を持つ暗号スイートがデフォルトで使用されるのを防ぎます。
どのように使用するか?
通常、Node.js で TLS/SSL サーバーやクライアントを作成する際に、特に暗号スイートを指定しない場合、tls.DEFAULT_CIPHERS
が自動的に使用されます。
例えば、HTTPS サーバーを作成する基本的なコードは以下のようになります。
const https = require('https');
const fs = require('fs');
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt')
};
const server = https.createServer(options, (req, res) => {
res.writeHead(200);
res.end('hello world\n');
});
server.listen(3000);
この例では、options
オブジェクトで明示的に ciphers
プロパティを指定していないため、Node.js はデフォルトで tls.DEFAULT_CIPHERS
を使用して TLS/SSL ハンドシェイクを行います。
もし、特定の暗号スイートを使用したい場合は、options
オブジェクトに ciphers
プロパティを追加して指定することができます。
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt'),
ciphers: 'TLS_AES_128_GCM_SHA256:TLS_AES_256_GCM_SHA384' // 例
};
tls.DEFAULT_CIPHERS
は、Node.js の tls
モジュールが提供する、TLS/SSL接続におけるデフォルトの安全な暗号スイートのリストです。これにより、開発者は特別な設定をしなくても、ある程度のセキュリティを確保した通信を実装できます。ただし、セキュリティ要件や互換性のニーズに応じて、このデフォルト設定を上書きすることも可能です。
暗号スイートの不一致 (Cipher Suite Mismatch)
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トラブルシューティング:
- サーバーとクライアントの設定を確認:
ciphers
オプションを明示的に設定している場合は、両者で共通してサポートされている暗号スイートが含まれているか確認します。Node.js のcrypto.getCiphers()
メソッドを使用すると、利用可能な暗号スイートのリストを確認できます。 - TLS/SSL プロトコルのバージョンを確認: 古いプロトコル (TLS 1.0, TLS 1.1) のみを使用している場合、最新の暗号スイートと互換性がない可能性があります。
tls
モジュールのminVersion
およびmaxVersion
オプションを確認し、必要に応じてより新しいバージョン (TLS 1.2, TLS 1.3) を有効にします。 - デフォルト設定に戻す: 明示的に
ciphers
オプションを設定している場合、一時的に削除してtls.DEFAULT_CIPHERS
のデフォルト設定に戻し、接続が確立できるか試します。 - ネットワーク経路の確認: ファイアウォールやプロキシの設定を確認し、必要な暗号スイートの通信が許可されているか確認します。
- サーバーとクライアントの設定を確認:
-
原因:
- サーバーまたはクライアントの
ciphers
オプションが明示的に設定されており、互いに互換性のない暗号スイートのみを指定している。 - 一方の環境が古い TLS/SSL プロトコルしかサポートしておらず、新しい暗号スイートに対応していない。
- ファイアウォールやプロキシが特定の暗号スイートの利用をブロックしている。
- サーバーまたはクライアントの
-
エラー内容: クライアントとサーバーでサポートしている暗号スイートが一つも共通していない場合に発生します。接続を確立しようとしても、ハンドシェイクが失敗し、エラーが表示されます。エラーメッセージはクライアントやサーバーの種類、設定によって異なりますが、「TLS handshake failed」や「No shared cipher suite」といった内容が含まれることがあります。
古いまたは脆弱な暗号スイートの使用
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トラブルシューティング:
- Node.js のバージョンを最新に保つ: Node.js のバージョンアップには、セキュリティ関連の修正やデフォルトの暗号スイートリストの更新が含まれることがあります。
- 安全な暗号スイートのみを使用:
ciphers
オプションを設定する場合は、最新のセキュリティ推奨事項に基づいた、安全な暗号スイートのみを指定するようにします。例えば、AES-GCM などの認証付き暗号化 (AEAD) アルゴリズムを含むものが推奨されます。 - セキュリティスキャンの実施: 定期的にセキュリティスキャンツールを使用して、使用している暗号スイートの安全性を評価します。
-
原因:
ciphers
オプションに、セキュリティ上の脆弱性が指摘されている暗号スイートが含まれている。- 古い Node.js のバージョンを使用しており、デフォルトの暗号スイートリストが最新のセキュリティ基準を満たしていない。
-
問題点: デフォルトの
tls.DEFAULT_CIPHERS
は比較的安全な暗号スイートのリストですが、特定の要件や古いシステムとの互換性のために、意図的または誤って古いまたは脆弱な暗号スイートを設定してしまうことがあります。これはセキュリティリスクを高めます。
OpenSSL のバージョンとの互換性問題
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トラブルシューティング:
- Node.js のドキュメントを確認: 使用している Node.js のバージョンが推奨する OpenSSL のバージョンを確認します。
- OpenSSL のバージョンを更新または再インストール: 必要に応じて、OpenSSL のバージョンを更新したり、Node.js の推奨バージョンに合わせて再インストールしたりします。
- Node.js のビルドオプションを確認: Node.js をカスタムビルドしている場合は、OpenSSL 関連のビルドオプションが正しく設定されているか確認します。
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原因:
- Node.js が想定する OpenSSL のバージョンと、実際にシステムにインストールされている OpenSSL のバージョンが異なる。
- 特定の暗号スイートが、使用している OpenSSL のバージョンでサポートされていない。
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問題点: Node.js は TLS/SSL の実装に OpenSSL などのライブラリを利用しています。Node.js のバージョンと OpenSSL のバージョンによっては、互換性の問題が発生し、予期しないエラーや動作を引き起こす可能性があります。
設定ミスによるエラー
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トラブルシューティング:
- 設定ファイルの確認:
ciphers
オプションを含む設定ファイルの内容を注意深く確認し、スペルミスや構文エラーがないか確認します。 - ドキュメントを参照:
tls
モジュールのドキュメントを再度確認し、各オプションの正しい使い方や組み合わせについて理解を深めます。 - 簡単なテストコードで検証: 実際に TLS/SSL 接続を確立する簡単なテストコードを作成し、様々な
ciphers
設定を試して動作を確認します。
- 設定ファイルの確認:
-
原因:
ciphers
文字列の構文が間違っている (区切り文字の誤りなど)。secureProtocol
オプションとciphers
オプションの組み合わせが不適切である。
-
エラー内容:
ciphers
オプションの記述ミスや、他の TLS/SSL 関連の設定との矛盾によってエラーが発生することがあります。
トラブルシューティングの一般的なヒント
- 環境を分離してテスト: 本番環境とは異なる分離された環境で問題を再現させ、安全にトラブルシューティングを行います。
- ネットワーク監視ツールを使用: Wireshark などのネットワーク監視ツールを使用して、実際に送受信されている TLS/SSL パケットを解析し、問題点を特定します。
- ログ出力を確認: TLS/SSL 関連のデバッグログを出力するように設定し、ハンドシェイクの過程やエラーの詳細を確認します。
- エラーメッセージをよく読む: エラーメッセージには、問題の原因を示唆する重要な情報が含まれていることが多いです。
例1: デフォルトの暗号スイートを確認する
この例では、Node.js の crypto
モジュールを使用して、デフォルトで利用可能な暗号スイートのリストを表示します。tls.DEFAULT_CIPHERS
が内部的にどのような暗号スイートを含んでいるかを確認するのに役立ちます。
const crypto = require('crypto');
console.log('デフォルトの暗号スイート:');
console.log(crypto.getCiphers());
このコードを実行すると、Node.js がデフォルトで使用する暗号スイートの文字列リストがコンソールに出力されます。このリストは Node.js のバージョンや OpenSSL のバージョンによって異なる場合があります。
例2: 明示的に暗号スイートを指定して HTTPS サーバーを起動する
この例では、HTTPS サーバーを作成する際に、tls.DEFAULT_CIPHERS
を上書きして、特定の暗号スイートのみを使用するように設定します。
const https = require('https');
const fs = require('fs');
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt'),
ciphers: 'TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_CHACHA20_POLY1305_SHA256' // 強力な暗号スイートの例
};
const server = https.createServer(options, (req, res) => {
res.writeHead(200);
res.end('Hello, HTTPS with custom ciphers!\n');
});
server.listen(3000, () => {
console.log('HTTPS server listening on port 3000 with custom ciphers.');
});
このコードでは、options
オブジェクトの ciphers
プロパティに、コロン (:) で区切られた暗号スイートのリストを指定しています。サーバーはクライアントとの接続を確立する際に、このリストの中からサポートされている暗号スイートを選択しようとします。
注意点
ここで指定する暗号スイートは、サーバーとクライアントの両方でサポートされている必要があります。そうでない場合、接続に失敗する可能性があります。
例3: デフォルトの暗号スイートに加えて、特定の暗号スイートを追加する
tls.DEFAULT_CIPHERS
を完全に上書きするのではなく、デフォルトのリストに特定の暗号スイートを追加したい場合は、以下のように記述できます。ただし、直接 tls.DEFAULT_CIPHERS
を変更することは推奨されません。通常は、ciphers
オプションで明示的に設定します。
もし、デフォルトの動作を理解するために、概念的に示すのであれば、以下のようになります。
const https = require('https');
const fs = require('fs');
const crypto = require('crypto');
const defaultCiphers = crypto.getCiphers().join(':'); // デフォルトの暗号スイートを文字列として取得
const customCiphers = 'ECDHE-RSA-AES128-SHA256'; // 追加したい暗号スイート
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt'),
ciphers: `${customCiphers}:${defaultCiphers}` // カスタムとデフォルトを組み合わせる (順序に注意)
};
const server = https.createServer(options, (req, res) => {
res.writeHead(200);
res.end('Hello, HTTPS with extended ciphers!\n');
});
server.listen(3000, () => {
console.log('HTTPS server listening on port 3000 with extended ciphers.');
});
この例では、まず crypto.getCiphers()
でデフォルトの暗号スイートのリストを取得し、それを文字列に変換しています。次に、追加したい暗号スイート (customCiphers
) をその文字列の先頭に追加しています。ciphers
オプションにこの組み合わせを設定することで、指定したカスタム暗号スイートが優先的に試行され、その後デフォルトの暗号スイートが試行されるようになります。
- パフォーマンス: 暗号スイートの種類によっては、暗号化・復号処理のパフォーマンスが異なる場合があります。パフォーマンス要件も考慮して選択する必要があります。
- 互換性: クライアントとサーバーの両方でサポートされている暗号スイートを選択する必要があります。幅広いクライアントとの互換性を考慮する場合は、デフォルトの
tls.DEFAULT_CIPHERS
をそのまま使用するか、慎重に選択された暗号スイートを追加することを推奨します。 - セキュリティ: 暗号スイートの選択はセキュリティに大きな影響を与えます。古いまたは脆弱な暗号スイートを使用すると、セキュリティリスクが高まります。最新のセキュリティ推奨事項に基づいて、安全な暗号スイートを選択するようにしてください。
secureProtocol オプションによる TLS/SSL プロトコルバージョンの制御
secureProtocol
オプションを使用すると、TLS/SSL プロトコルのバージョンを指定できます。プロトコルのバージョンが異なれば、利用可能なデフォルトの暗号スイートのセットも変わる可能性があります。
const https = require('https');
const fs = require('fs');
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt'),
secureProtocol: 'TLSv1.3_method' // TLS 1.3 のみを使用
// secureProtocol: 'TLSv1.2_method' // TLS 1.2 のみを使用
// secureProtocol: 'SSLv3_method' // 非推奨
};
const server = https.createServer(options, (req, res) => {
res.writeHead(200);
res.end('Hello, HTTPS with specific protocol!\n');
});
server.listen(3000, () => {
console.log('HTTPS server listening on port 3000 with specific protocol.');
});
secureProtocol
に指定できる値は、constants
モジュールに定義されています(例: crypto.constants.SSLv3_METHOD
, crypto.constants.TLSv1_2_METHOD
など)。特定のプロトコルバージョンを指定することで、そのプロトコルで利用可能な暗号スイートの範囲に限定されます。
注意点
古いプロトコルバージョン (SSLv3 など) はセキュリティ上の脆弱性が知られているため、特別な理由がない限り使用を避けるべきです。
ciphers オプションでの詳細な暗号スイート制御
前述の例でも触れましたが、ciphers
オプションは最も直接的に暗号スイートを制御する方法です。tls.DEFAULT_CIPHERS
を使用する代わりに、開発者はこのオプションに文字列として明示的に使用したい暗号スイートのリストを指定できます。
const https = require('https');
const fs = require('fs');
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt'),
ciphers: 'ECDHE+AESGCM:CHACHA20' // より柔軟な指定
};
const server = https.createServer(options, (req, res) => {
res.writeHead(200);
res.end('Hello, HTTPS with custom cipher selection!\n');
});
server.listen(3000, () => {
console.log('HTTPS server listening on port 3000 with custom cipher selection.');
});
ciphers
オプションでは、個々の暗号スイート名をコロンで区切って指定するだけでなく、OpenSSL の形式に従ったより高度な指定も可能です。例えば、特定の暗号化アルゴリズムや鍵交換アルゴリズムを含むスイートのグループを指定したり、特定の条件を満たすスイートを除外したりできます。
例
'ECDHE+AESGCM'
: ECDHE 鍵交換を使用し、AES-GCM アルゴリズムを含むスイートを選択します。'HIGH:!aNULL:!MD5'
: 強度の高い暗号スイートを使用し、匿名 (aNULL) および MD5 を使用するスイートを除外します。
OpenSSL の ciphers
文字列の構文は非常に強力ですが、理解するにはある程度の知識が必要です。
honorCipherOrder オプションによるサーバー側の暗号スイート優先順位設定
通常、クライアントは自身がサポートする暗号スイートのリストを優先順にサーバーに提示し、サーバーはその中から最初に合致するものを選びます。honorCipherOrder
オプションを true
に設定すると、サーバーが ciphers
オプションで指定した順序を優先して暗号スイートを選択するようになります。
const https = require('https');
const fs = require('fs');
const options = {
key: fs.readFileSync('server.key'),
cert: fs.readFileSync('server.crt'),
ciphers: 'TLS_AES_256_GCM_SHA384:TLS_AES_128_GCM_SHA256', // 優先順位の高い順に指定
honorCipherOrder: true
};
const server = https.createServer(options, (req, res) => {
res.writeHead(200);
res.end('Hello, HTTPS with honored cipher order!\n');
});
server.listen(3000, () => {
console.log('HTTPS server listening on port 3000 with honored cipher order.');
});
honorCipherOrder: true
を設定することで、サーバーはクライアントが提示するリストに関わらず、ciphers
オプションで最初に指定した 'TLS_AES_256_GCM_SHA384'
を可能な限り使用しようとします。これは、サーバー側でより安全な暗号スイートを優先的に使用したい場合に有効です。
環境変数によるデフォルト設定の変更(非推奨)
Node.js の古いバージョンでは、環境変数 NODE_TLS_REJECT_UNAUTHORIZED
や NODE_DEBUG=tls
など、TLS 関連の動作を制御する環境変数が存在しましたが、暗号スイートのデフォルト設定を直接変更する環境変数は一般的ではありません。また、環境変数による設定はコード内での明示的な設定よりも可読性や管理の面で劣るため、推奨される方法ではありません。
tls.DEFAULT_CIPHERS
は便利なデフォルト設定ですが、Node.js では secureProtocol
オプションによるプロトコルバージョンの制御、ciphers
オプションによる詳細な暗号スイート指定、そして honorCipherOrder
オプションによるサーバー側の優先順位設定といった、より柔軟な代替方法が提供されています。これらのオプションを組み合わせることで、アプリケーションのセキュリティ要件や互換性ニーズに合わせて、TLS/SSL 接続を細かく制御することが可能です。