LinearAlgebra.rank() だけじゃない!Juliaで行列のランクを理解する他の方法

2025-05-27

LinearAlgebra.rank() 関数は、与えられた行列の**ランク(階数)**を計算するために使われます。行列のランクとは、その行列の列ベクトル(または行ベクトル)の中で、線形独立なベクトルの最大数を示す重要な値です。

もう少し詳しく説明しましょう。

  • 行列のランク
    行列の列ベクトルを見てください。これらの列ベクトルの中で、互いに線形独立なベクトルの数がその行列のランクです。同様に、行ベクトルについても考えることができ、列ランクと行ランクは常に等しくなります。

  • 線形独立なベクトル
    いくつかのベクトルがあるとき、そのうちのどのベクトルも、残りのベクトルの線形結合(定数倍して足し合わせたもの)で表せない場合、それらのベクトルは線形独立であると言います。

LinearAlgebra.rank() 関数の使い方

Juliaで LinearAlgebra.rank() 関数を使うには、まず LinearAlgebra モジュールを読み込む必要があります。そして、ランクを計算したい行列を引数として関数に渡します。

using LinearAlgebra

# 行列の定義
A = [1 2 3;
     4 5 6;
     7 8 9]

# ランクの計算
rank_A = rank(A)

# 結果の表示
println("行列 A のランク: ", rank_A)

この例では、行列 A のランクが計算され、その結果が表示されます。この特定の行列の場合、ランクは 2 になります。なぜなら、3つの列ベクトルは線形従属(例えば、3列目は1列目と2列目の線形結合で表せる)だからです。

ランクの重要性

行列のランクは、線形代数のさまざまな場面で重要な役割を果たします。例えば:

  • ベクトルの張る空間の次元
    行列の列ベクトル(または行ベクトル)が張る線形空間の次元は、その行列のランクに等しくなります。
  • 行列の正則性(可逆性)
    正方行列の場合、そのランクが行列のサイズと等しいとき、その行列は正則(逆行列が存在する)です。
  • 連立一次方程式の解の存在と一意性
    連立一次方程式 Ax=b において、行列 A のランクと拡大係数行列 [A∣b] のランクを比較することで、解が存在するかどうか、そして解が一意であるか複数存在するかがわかります。


  1. 引数の型のエラー (MethodError)

    • エラー内容
      LinearAlgebra.rank() 関数に、行列として認識されない型の引数を渡した場合に発生します。例えば、ベクトルやスカラー、あるいは意図しない多次元配列などを渡してしまうケースです。

    • トラブルシューティング

      • 引数が AbstractMatrix のサブタイプ(例えば Array{Float64, 2}, Array{Int64, 2} など)であることを確認してください。typeof() 関数を使って引数の型を調べることができます。
      • ベクトルを扱う場合は、必要に応じて reshape() 関数などを用いて明示的に行列の形に変換してください。例えば、ベクトル v を列ベクトルにする場合は reshape(v, length(v), 1)、行ベクトルにする場合は reshape(v, 1, length(v)) とします。

    <!-- end list -->

    using LinearAlgebra
    
    v = [1, 2, 3]
    # rank(v) # これはエラーになります
    
    A = reshape(v, length(v), 1) # 列ベクトルとしてreshape
    rank_A = rank(A)
    println("ランク: ", rank_A)
    
  2. 特異値分解の収束に関する警告 (LAPACKException)

    • エラー内容(警告として表示されることが多い)
      内部的に特異値分解(SVD)を用いてランクを計算する際に、SVDアルゴリズムが指定された許容誤差内で収束しない場合に警告が出ることがあります。これは、非常に病的な行列(ほぼ特異な行列)を扱っている場合に起こりやすいです。

    • トラブルシューティング

      • デフォルトの許容誤差 (tol) が問題を引き起こしている可能性があります。rank() 関数にはオプションの引数として許容誤差を指定できます。より緩い許容誤差を設定することで、警告が解消されることがあります。ただし、許容誤差を大きくしすぎると、ランクの計算精度が低下する可能性があることに注意してください。
      using LinearAlgebra
      
      A = [1.0 1.0; 1.0 1.0 + 1e-10] # ほぼ特異な行列
      rank_A_default = rank(A)
      rank_A_loose_tol = rank(A, tol=1e-8) # 許容誤差を緩める
      
      println("デフォルトのランク: ", rank_A_default)
      println("緩い許容誤差でのランク: ", rank_A_loose_tol)
      
      • 行列の条件数(condition number)が高い場合、数値的に不安定になりやすいです。可能であれば、行列のスケールを調整したり、より安定した数値アルゴリズムの利用を検討したりすることも有効かもしれません(ただし、rank() 関数自体でアルゴリズムを直接選択することは通常できません)。
  3. 計算時間の問題

    • エラー内容(直接的なエラーではない): 非常に大きなサイズの行列に対して rank() 関数を実行すると、計算に時間がかかることがあります。特に、特異値分解は計算コストの高い処理です。

    • トラブルシューティング

      • 行列のサイズを減らすことが可能かどうか検討してください。
      • スパース行列(要素のほとんどがゼロである行列)の場合、スパース行列用のライブラリやアルゴリズムを利用することで、計算効率が向上する可能性があります。ただし、LinearAlgebra.rank() は通常、密な行列を想定しています。
      • 並列計算を利用できる環境であれば、処理を並列化することを検討するのも一つの手段です(ただし、rank() 関数自体が並列化されているわけではありません)。
  4. 数値的な誤差によるランクの誤判定

    • エラー内容
      浮動小数点数の計算では、わずかな数値誤差が常に発生する可能性があります。特に、ランクが境界に近い行列の場合、この誤差によってランクが実際よりも高くまたは低く判定されることがあります。

    • トラブルシューティング

      • 許容誤差 (tol) を適切に設定することが重要です。問題のコンテキストやデータの精度に応じて、適切な値を設定してください。
      • 異なる許容誤差でランクを計算してみて、結果が安定しているか確認するのも有効です。
      • 理論的なランクが事前にわかっている場合は、計算結果と比較して妥当性を評価してください。
  • デフォルトの許容誤差は、行列のサイズや要素の型に応じて自動的に設定されますが、必要に応じて明示的に指定することが推奨されます。
  • LinearAlgebra.rank() 関数の内部では、通常、特異値分解(SVD)が行われ、特異値に基づいてランクが決定されます。非常に小さな特異値は、数値的な誤差として扱われ、ランクの計算から除外されます。この際の閾値は、オプションの引数 tol で制御できます。


基本的な使い方

まず、最も基本的な行列のランクを計算する例です。

using LinearAlgebra

# 整数要素の行列
A = [1 2 3;
     4 5 6;
     7 8 9]
rank_A = rank(A)
println("行列 A のランク: ", rank_A) # 出力: 行列 A のランク: 2

# 浮動小数点数要素の行列
B = [1.0 0.0;
     0.0 2.0]
rank_B = rank(B)
println("行列 B のランク: ", rank_B) # 出力: 行列 B のランク: 2

# ゼロ行列
C = [0 0;
     0 0]
rank_C = rank(C)
println("行列 C のランク: ", rank_C) # 出力: 行列 C のランク: 0

この例では、異なる要素を持ついくつかの行列に対して rank() 関数を適用し、その結果を表示しています。行列 A は3つの列ベクトルが線形従属であるためランクは 2、行列 B は2つの線形独立な列ベクトルを持つためランクは 2、そしてゼロ行列 C のランクは 0 となります。

許容誤差 (tolerance) の指定

浮動小数点数の計算では、数値的な誤差が避けられません。rank() 関数には、この誤差を考慮するための許容誤差(tol)をオプションで指定できます。

using LinearAlgebra

# ほぼ特異な行列
M = [1.0 1.0;
     1.0 1.0000000000000001]

# デフォルトの許容誤差でのランク
rank_M_default = rank(M)
println("デフォルトのランク (M): ", rank_M_default) # 出力: デフォルトのランク (M): 2

# より小さい許容誤差を指定
rank_M_strict = rank(M, tol=1e-15)
println("許容誤差 1e-15 でのランク (M): ", rank_M_strict) # 出力: 許容誤差 1e-15 でのランク (M): 1

この例では、非常に近い2つの行ベクトルを持つ行列 M を扱っています。デフォルトの許容誤差ではランクが 2 と判定されますが、より小さい許容誤差(1e-15)を指定することで、数値的な誤差をより厳密に評価し、ランクが 1 であると判定されます。

連立一次方程式の解の存在判定への応用

行列のランクは、連立一次方程式の解の存在を判定するのに役立ちます。連立一次方程式 Ax=b において、行列 A のランクと拡大係数行列 [A∣b] のランクが等しい場合に解が存在します。

using LinearAlgebra

# 連立一次方程式:
# 2x + y = 5
# 4x + 2y = 10

A = [2 1;
     4 2]
b = [5; 10]
Ab = [A b] # 拡大係数行列

rank_A = rank(A)
rank_Ab = rank(Ab)

if rank_A == rank_Ab
    println("この連立一次方程式には解が存在します。") # 出力: この連立一次方程式には解が存在します。
else
    println("この連立一次方程式には解が存在しません。")
end

# 連立一次方程式:
# x + y = 1
# x + y = 2

A2 = [1 1;
      1 1]
b2 = [1; 2]
A2b2 = [A2 b2]

rank_A2 = rank(A2)
rank_A2b2 = rank(A2b2)

if rank_A2 == rank_A2b2
    println("この連立一次方程式には解が存在します。")
else
    println("この連立一次方程式には解が存在しません。") # 出力: この連立一次方程式には解が存在しません。
end

最初の連立一次方程式は、2番目の式が最初の式の2倍になっているため、ランクは等しく解が存在します。一方、2番目の連立一次方程式は矛盾しているため、ランクが異なり解は存在しません。

行列の正則性(可逆性)の判定

正方行列の場合、そのランクが行列の次元と等しいとき、その行列は正則(逆行列が存在する)です。

using LinearAlgebra

# 正則な行列
P = [1 2;
     3 4]
n_P = size(P, 1)
rank_P = rank(P)

if rank_P == n_P
    println("行列 P は正則です。") # 出力: 行列 P は正則です。
else
    println("行列 P は正則ではありません。")
end

# 特異な行列
Q = [1 2;
     2 4]
n_Q = size(Q, 1)
rank_Q = rank(Q)

if rank_Q == n_Q
    println("行列 Q は正則です。")
else
    println("行列 Q は正則ではありません。") # 出力: 行列 Q は正則ではありません。
end

行列 P はランクが 2 であり、次元も 2 なので正則です。一方、行列 Q はランクが 1 であり、次元(2)と異なるため正則ではありません。



階段行列(行簡約階段形)を用いる方法

行列を行基本変形によって階段行列(または行簡約階段形)に変形し、ゼロでない行の数を数えることでランクを求める方法です。これは、ランクの定義に直接基づいた方法であり、線形代数の基本的な操作を理解するのに役立ちます。

function rank_by_rref(A::AbstractMatrix{<:Number})
    M = copy(A)
    rows, cols = size(M)
    lead = 1
    rank_count = 0
    for r in 1:rows
        if lead > cols
            break
        end
        i = r
        while M[i, lead] == 0 && i < rows
            i += 1
        end
        if M[i, lead] != 0
            rank_count += 1
            M[[r, i], :] = M[[i, r], :] # 行の入れ替え
            pivot = M[r, lead]
            M[r, :] ./= pivot # ピボット要素を 1 にする
            for i in 1:rows
                if i != r
                    factor = M[i, lead]
                    M[i, :] -= factor * M[r, :] # 他の行のピボット列を 0 にする
                end
            end
            lead += 1
        else
            lead += 1
        end
    end
    return rank_count
end

A = [1 2 3;
     4 5 6;
     7 8 9]
rank_A = rank_by_rref(A)
println("階段行列によるランク (A): ", rank_A) # 出力: 階段行列によるランク (A): 2

B = [1.0 0.0;
     0.0 2.0]
rank_B = rank_by_rref(B)
println("階段行列によるランク (B): ", rank_B) # 出力: 階段行列によるランク (B): 2

注意点
この方法を浮動小数点数で行う場合、数値的な誤差が累積しやすく、厳密なゼロ判定が難しいため、実際には LinearAlgebra.rank() のように許容誤差を考慮した実装が必要になることが多いです。上記の例は概念を示すためのものです。

線形独立なベクトルの数を直接数える方法(小規模な場合に限る)

列ベクトル(または行ベクトル)を取り出し、それらが線形独立かどうかを判定する関数を実装し、線形独立なベクトルの最大数を数える方法です。線形独立性の判定には、例えば、あるベクトルが他のベクトルの線形結合で表せるかどうかを調べる必要があります。これは一般的に計算コストが高く、大規模な行列には向きません。

function are_linearly_independent(vectors::Vector{<:AbstractVector{<:Number}})
    n = length(vectors)
    if n <= 1
        return true
    end
    for i in 1:n
        others = vcat(vectors[1:i-1], vectors[i+1:end])
        if !isempty(others)
            # ベクトル[i] が others の線形結合で表せるかどうかの判定 (簡略化)
            # より厳密な判定には、連立一次方程式を解くなどの処理が必要
            # ここでは簡単なケースのみを考慮
            is_dependent = all(isapprox(vectors[i], zeros(length(vectors[i])))) # ゼロベクトルは線形従属
            if !is_dependent
                # より複雑な判定が必要
                # 例: 2つのベクトルの場合、一方が他方のスカラー倍でないか
                if length(others) == 1
                    if !all(isapprox(vectors[i] ./ others[1], fill(vectors[i][1] / others[1][1], length(vectors[i]))))
                        continue
                    else
                        return false
                    end
                end
                # 一般的な線形結合の判定はより複雑
            end
        end
    end
    return true
end

function rank_by_linear_independence(A::AbstractMatrix{<:Number})
    cols = [A[:, i] for i in 1:size(A, 2)]
    max_independent_count = 0
    n = length(cols)
    for k in 1:n
        import Combinatorics
        for indices in Combinatorics.combinations(1:n, k)
            selected_cols = [cols[i] for i in indices]
            if are_linearly_independent(selected_cols)
                max_independent_count = max(max_independent_count, k)
            end
        end
    end
    return max_independent_count
end

# 注意: この方法は計算コストが非常に高いです
A = [1 0; 0 1]
rank_A = rank_by_linear_independence(A)
println("線形独立性によるランク (A): ", rank_A) # 出力: 線形独立性によるランク (A): 2

B = [1 2; 2 4]
rank_B = rank_by_linear_independence(B)
println("線形独立性によるランク (B): ", rank_B) # 出力: 線形独立性によるランク (B): 1

注意点
上記の are_linearly_independent 関数は非常に簡略化されており、一般的な線形独立性を判定するには連立一次方程式を解くなどのより複雑な処理が必要です。また、rank_by_linear_independence 関数は組み合わせ爆発が起こるため、大きな行列には全く実用的ではありません。あくまでランクの定義を理解するための概念的な例です。

固有値を用いる方法(エルミート行列または対称行列の場合)

行列がエルミート行列(実対称行列の場合は転置と自身が等しい)である場合、ゼロでない固有値の数がランクに等しくなります。ただし、数値計算においては、厳密にゼロの固有値を判定することは難しいため、ある閾値以下の固有値をゼロとみなす必要があります。

using LinearAlgebra

# 実対称行列
S = [2 -1 0;
     -1 2 -1;
     0 -1 2]

eigenvalues_S = eigvals(S)
println("固有値 (S): ", eigenvalues_S)

rank_S_by_eigenvalues = count(abs.(eigenvalues_S) .> 1e-10) # 閾値処理
println("固有値によるランク (S): ", rank_S_by_eigenvalues) # 出力: 固有値によるランク (S): 3

# 特異な対称行列
T = [1 2; 2 4]
eigenvalues_T = eigvals(T)
println("固有値 (T): ", eigenvalues_T)

rank_T_by_eigenvalues = count(abs.(eigenvalues_T) .> 1e-10) # 閾値処理
println("固有値によるランク (T): ", rank_T_by_eigenvalues) # 出力: 固有値によるランク (T): 1

注意点
この方法はエルミート行列または対称行列に限定されます。また、固有値の計算自体が数値的に不安定になる場合や、閾値の選び方によってランクの判定が変わる可能性があることに注意が必要です。