LinearAlgebra.Transpose
Juliaの LinearAlgebra
モジュールは、線形代数に関する多くの機能を提供しており、その中に Transpose
という型があります。これは、行列の転置を表すための特殊な型です。
転置とは
まず、線形代数における「転置 (Transpose)」とは、行列の行と列を入れ替える操作のことです。
例えば、次のような行列 A
があるとします。
A=(13​24​)
この行列 A
の転置は、行が列に、列が行に入れ替わった行列 A^T
となります。
AT=(12​34​)
Juliaでの transpose
関数と LinearAlgebra.Transpose
型
Juliaで行列を転置するには、transpose()
関数を使用します。
julia> using LinearAlgebra
julia> A = [1 2; 3 4]
2×2 Matrix{Int64}:
1 2
3 4
julia> At = transpose(A)
2×2 transpose(::Matrix{Int64}) with eltype Int64:
1 3
2 4
julia> typeof(At)
LinearAlgebra.Transpose{Int64, Matrix{Int64}}
ここで注目すべきは、transpose(A)
の結果 At
の型が Matrix{Int64}
ではなく、LinearAlgebra.Transpose{Int64, Matrix{Int64}}
となっている点です。
これは、Juliaが効率的なメモリ管理とパフォーマンスのために、「ビュー」として転置を表現しているためです。
なぜ「ビュー」なのか?
通常の転置操作では、新しいメモリを割り当てて、元の行列の要素をコピーして新しい転置行列を作成します。しかし、大きな行列の場合、このコピー操作は多くのメモリと時間を消費します。
LinearAlgebra.Transpose
型は、実際のところ、元の行列のデータ自体はコピーしません。代わりに、元の行列への参照を保持し、あたかも転置されたかのようにアクセスできる「ビュー」を提供します。これにより、メモリの消費を抑え、転置操作自体は非常に高速に行われます。
例えば、At[1, 2]
にアクセスしようとすると、内部的には元の行列 A
の A[2, 1]
の値が返されます。
julia> A = [1 2; 3 4]
2×2 Matrix{Int64}:
1 2
3 4
julia> At = transpose(A)
2×2 transpose(::Matrix{Int64}) with eltype Int64:
1 3
2 4
julia> At[1, 2] # Atの(1,2)要素にアクセス
3
julia> A[2, 1] # Aの(2,1)要素
3
さらに、At
の要素を変更すると、元の行列 A
の対応する要素も変更されます。
julia> At[1, 2] = 99
99
julia> At
2×2 transpose(::Matrix{Int64}) with eltype Int64:
1 99
2 4
julia> A # 元の行列Aも変更されている
2×2 Matrix{Int64}:
1 2
99 4
これは、LinearAlgebra.Transpose
が単なる転置された値の「コピー」ではなく、元のデータへの「ビュー」であることを明確に示しています。
Adjoint
との違い
Juliaには、転置に似た概念として「随伴 (Adjoint)」というものもあります。これは '
(アポストロフィ) 演算子で表現されます。
A'
またはadjoint(A)
: 共役転置 (Adjoint, Hermition conjugate) (複素数の場合は要素の共役を取り、実数の場合は転置と同じ)transpose(A)
またはtranspose(A)
: 転置 (実数の場合は要素をそのまま、複素数の場合は要素の共役を取らない)
複素数行列の場合、transpose
と adjoint
は結果が異なります。
julia> Z = [1+2im 3+4im; 5+6im 7+8im]
2×2 Matrix{Complex{Int64}}:
1+2im 3+4im
5+6im 7+8im
julia> transpose(Z)
2×2 transpose(::Matrix{Complex{Int64}}) with eltype Complex{Int64}:
1+2im 5+6im
3+4im 7+8im
julia> Z' # Adjoint (共役転置)
2×2 adjoint(::Matrix{Complex{Int64}}) with eltype Complex{Int64}:
1-2im 5-6im
3-4im 7-8im
線形代数の多くの場面では、特に複素数を用いる場合、transpose
よりも adjoint
(共役転置) の方が数学的に意味のある操作となることが多いです。Juliaの設計思想として、この「共役転置」が第一級の演算として扱われています。
- 多くの線形代数演算では、特に複素数の場合、
transpose
よりもadjoint
(共役転置) がより一般的で重要になります。 transpose()
関数によって返される型であり、A'
(adjoint) とは異なり、複素数の共役は取りません。- これは、元の行列のデータをコピーせず、元のデータへの「ビュー」を提供することで、メモリ効率とパフォーマンスを向上させます。
LinearAlgebra.Transpose
は、Juliaで行列の転置を表すための特殊な型です。
Transpose 型のままであることによるエラーや予期せぬ挙動
前回の説明の通り、transpose(A)
は新しい Matrix
を作成するのではなく、元の行列 A
へのビューである Transpose
型を返します。これが原因で予期せぬ挙動が起こることがあります。
一般的なエラー/問題
- 特定の操作のパフォーマンス低下
一部の操作(特に要素ごとの処理や特定のライブラリ関数)では、Transpose
ビューのままであると、最適化が効かずにパフォーマンスが低下することがあります。これは、データがメモリ上で連続していないためにキャッシュ効率が悪くなることが原因です。 - データの共有による意図しない変更
Transpose
は元の行列のデータを共有しているため、Transpose
オブジェクトの要素を変更すると、元の行列の要素も変更されてしまいます。これは意図しない副作用を引き起こす可能性があります。 - 型不一致 (MethodError)
特定の関数が厳密にMatrix
型(あるいはArray
型)を要求する場合、Transpose
型の引数を渡すとMethodError
が発生することがあります。例えば、C/Fortranで書かれた外部ライブラリを呼び出すJuliaのラッパー関数など、厳密な型チェックを行う場合に発生しやすいです。
トラブルシューティング
- 関数の型アノテーションを柔軟にする
独自に書いた関数がMatrix
型のみを受け付けるように厳密に型アノテーションをしている場合、AbstractMatrix
のようなより抽象的な型を使用するように変更することで、Transpose
型のオブジェクトも受け入れられるようになります。
Juliaのほとんどの線形代数関数は、# 悪い例 (Matrix型のみ許容) function process_matrix_strict(M::Matrix{Float64}) # ... end # 良い例 (AbstractMatrixを許容) function process_matrix_flexible(M::AbstractMatrix{Float64}) # ... end
AbstractMatrix
を受け入れるように設計されています。 - copy() を使って明示的にコピーを作成する
Transpose
オブジェクトをMatrix
型に変換して、独立した新しい行列が必要な場合は、copy()
関数を使用します。
パフォーマンスが重要な場合や、外部ライブラリとの連携で型が厳密に求められる場合は、julia> A = [1 2; 3 4] 2×2 Matrix{Int64}: 1 2 3 4 julia> At = transpose(A) 2×2 transpose(::Matrix{Int64}) with eltype Int64: 1 3 2 4 julia> At_copied = copy(At) 2×2 Matrix{Int64}: 1 3 2 4 julia> typeof(At_copied) Matrix{Int64} julia> At_copied[1, 2] = 99 # At_copiedの変更はAに影響しない 99 julia> At_copied 2×2 Matrix{Int64}: 1 99 2 4 julia> A # Aは変更されていない 2×2 Matrix{Int64}: 1 2 3 4
copy(transpose(A))
またはMatrix(transpose(A))
を使用して明示的にコピーを作成することを検討してください。
ベクトルの転置に関する混乱 (Vector vs RowVector vs transpose(Vector))
Juliaでは、列ベクトルは Vector{T}
(つまり Array{T,1}
)、行ベクトルは RowVector{T}
という特殊な型で表現されます。このため、ベクトルの転置には少し注意が必要です。
一般的なエラー/問題
- Vector と Matrix の次元の取り扱い
Juliaでは、Vector
は1次元配列であり、1xN
やNx1
の行列とは異なります。このため、行列演算(特に乗算)でVector
とTranspose
を組み合わせる際に、次元の不一致エラーが発生することがあります。 - transpose(vector) が RowVector ではない
transpose()
を1次元のVector
に適用しても、RowVector
型は返されません。代わりに、transpose(::Vector)
というビュー型が返されます。
これは、行列演算においてjulia> v = [1, 2, 3] 3-element Vector{Int64}: 1 2 3 julia> vt = transpose(v) 1×3 transpose(::Vector{Int64}) with eltype Int64: 1 2 3 julia> typeof(vt) LinearAlgebra.Transpose{Int64, Vector{Int64}}
1xN
の行列として扱われるため、通常は問題ありませんが、厳密なRowVector
型を期待している場合は混乱を招く可能性があります。
トラブルシューティング
-
行列演算における次元の考慮
- 列ベクトルと行ベクトルの内積 (
v' * w
) はスカラーになります。 - 列ベクトルと行ベクトルの外積 (
v * w'
) は行列になります。 Matrix * Vector
はVector
を返します。RowVector * Matrix
はRowVector
を返します。
これらの次元ルールを理解してコードを書くことが重要です。
- 列ベクトルと行ベクトルの内積 (
-
明示的に RowVector を作成する
厳密にRowVector
を作成したい場合は、permutedims(v, (2, 1))
またはreshape(v, 1, :)
を使用するか、あるいはより一般的な方法としてv'
(共役転置) を実数ベクトルに適用することでRowVector
が得られます。julia> v = [1, 2, 3] 3-element Vector{Int64}: 1 2 3 julia> rv = v' # 実数ベクトルの場合はRowVectorになる 1×3 adjoint(::Vector{Int64}) with eltype Int64: 1 2 3 julia> typeof(rv) LinearAlgebra.Adjoint{Int64, Vector{Int64}} # Adjoint型だが、RowVectorとして振る舞う
複素数ベクトルでは
v'
は共役転置になるため、注意が必要です。
ブロードキャスティング (.) との組み合わせ
Juliaのブロードキャスティング演算子 (.
) は、配列の要素ごとに操作を適用するために使用されますが、transpose
と組み合わせると意図しない挙動になることがあります。
一般的なエラー/問題
- A .transpose が要素の転置を行う
A .transpose
のように.
をつけると、行列A
全体を転置するのではなく、A
の各要素に対してtranspose
関数を適用しようとします。もし要素がスカラー(数値)であればtranspose(scalar) == scalar
なので結果的に何も変わらないように見えますが、もし要素が別の行列であったり、transpose
が定義されていない型であったりするとエラーになります。julia> A = [1 2; 3 4] 2×2 Matrix{Int64}: 1 2 3 4 julia> A .transpose # 各要素にtransposeが適用される (スカラーなので変化なし) 2×2 Matrix{Int64}: 1 2 3 4 julia> B = [[1 2]; [3 4]] # 行列の行列 2-element Vector{Matrix{Int64}}: [1 2] [3 4] julia> B .transpose # 各要素の行列が転置される 2-element Vector{transpose(::Matrix{Int64}) with eltype Int64}: [1; 2] [3; 4]
トラブルシューティング
- $ 演算子でブロードキャスティングを抑制する
どうしてもブロードキャスティングの文脈でtranspose
を使いたいが、transpose
自体はブロードキャストさせたくない場合は、$
演算子でtranspose
関数を非ブロードキャストとしてマークできます。
これは、julia> A = [1 2; 3 4] 2×2 Matrix{Int64}: 1 2 3 4 julia> B = [5 6; 7 8] 2×2 Matrix{Int64}: 5 6 7 8 julia> C = A .+ $transpose(B) # Bを転置してからAと要素ごとに足し算 2×2 Matrix{Int64}: 6 9 10 12
transpose(B)
がまず実行されてTranspose
オブジェクトになり、そのTranspose
オブジェクトとA
の間で要素ごとの加算が行われることを意味します。 - ブロードキャスティングを避ける
行列全体の転置にはtranspose(A)
を使用し、ブロードキャスティング (.
) を使わないでください。
インプレース操作 (transpose!) の利用と注意点
Juliaには、結果を事前に割り当てられた配列に格納するインプレース(in-place)バージョンの関数が多くあります。transpose
にも transpose!
が存在しますが、これは特殊な注意が必要です。
一般的な問題/注意点
- dest の次元の要件
dest
のサイズは(size(src, 2), size(src, 1))
に一致している必要があります。一致しない場合はDimensionMismatch
エラーが発生します。 - src と dest のメモリ重複
transpose!(dest, src)
はsrc
の転置結果をdest
に格納しますが、src
とdest
が同じメモリ領域を指している場合(つまり、インプレース転置を試みる場合)には、予期せぬ結果やエラーが発生する可能性があります。transpose!
はインプレース転置をサポートしていません。# これをするとおかしくなる可能性が高い (あるいはエラー) # A = [1 2; 3 4] # transpose!(A, A) # これは避けましょう
- インプレースで転置したい場合
行列をその場で転置したい場合は、permutedims!
を検討することもできますが、一般的には行列のインプレース転置は非常に複雑で、多くの場合は新しい配列を割り当てる方がシンプルで高速です。大きな行列でメモリ効率が最優先される場合は、そのための特殊なアルゴリズムを検討する必要があるかもしれません。 - transpose!(dest, src) を正しく使用する
dest
はsrc
とは異なる、適切なサイズの新しい配列として事前に割り当てておく必要があります。julia> src = [1 2 3; 4 5 6] 2×3 Matrix{Int64}: 1 2 3 4 5 6 julia> dest = zeros(Int, (size(src, 2), size(src, 1))) # 転置後のサイズで事前に割り当て 3×2 Matrix{Int64}: 0 0 0 0 0 0 julia> transpose!(dest, src) 3×2 Matrix{Int64}: 1 4 2 5 3 6
- adjoint と transpose の使い分けを理解する
実数行列では同じ結果になりますが、複素数行列では結果が異なります。線形代数ではadjoint
(共役転置、A'
)が頻繁に使われることを覚えておきましょう。 - @btime を使ってパフォーマンスを測定する
「ビュー」であることによるパフォーマンスへの影響を確認するには、BenchmarkTools
パッケージの@btime
マクロが非常に役立ちます。コピーが発生しているかどうか、操作の速度などを確認できます。using BenchmarkTools A = rand(1000, 1000) @btime transpose($A); # ビューなので高速、アロケーションなし @btime copy(transpose($A)); # コピーが作成されるのでアロケーションが発生
まず、LinearAlgebra
モジュールを読み込みます。
using LinearAlgebra
基本的な転置と型の確認
最も基本的な転置操作です。transpose()
関数を使用すると、LinearAlgebra.Transpose
型のオブジェクトが返されることを確認します。
# 行列 A を定義
A = [1 2 3;
4 5 6]
println("元の行列 A:")
println(A)
println("型: ", typeof(A))
println("次元: ", size(A))
# A を転置
At = transpose(A)
println("\n転置された行列 At (Transpose型):")
println(At)
println("型: ", typeof(At))
println("次元: ", size(At))
# 要素にアクセス
println("\nAt[1, 2] の値: ", At[1, 2])
println("A[2, 1] の値: ", A[2, 1]) # 同じ値が返されることを確認
出力例
元の行列 A:
[1 2 3; 4 5 6]
型: Matrix{Int64}
次元: (2, 3)
転置された行列 At (Transpose型):
[1 4; 2 5; 3 6]
型: LinearAlgebra.Transpose{Int64, Matrix{Int64}}
次元: (3, 2)
At[1, 2] の値: 4
A[2, 1] の値: 4
Transpose 型への変更が元の行列に与える影響
Transpose
型は元のデータへの「ビュー」であるため、Transpose
オブジェクトの要素を変更すると、元の行列の対応する要素も変更されます。
B = [10 20;
30 40]
Bt = transpose(B)
println("元の行列 B:")
println(B)
println("\n転置された行列 Bt (変更前):")
println(Bt)
# Bt の要素を変更
Bt[1, 2] = 99
println("\nBt[1, 2] を 99 に変更後:")
println("変更された Bt:")
println(Bt)
println("元の行列 B (変更されていることを確認):")
println(B)
出力例
元の行列 B:
[10 20; 30 40]
転置された行列 Bt (変更前):
[10 30; 20 40]
Bt[1, 2] を 99 に変更後:
変更された Bt:
[10 99; 20 40]
元の行列 B (変更されていることを確認):
[10 20; 99 40]
copy() を使用して独立した転置行列を作成する
元の行列への参照ではなく、転置されたデータの独立したコピーが必要な場合は copy()
を使用します。
C = [1 1; 2 2]
Ct_view = transpose(C)
Ct_copied = copy(Ct_view) # または copy(transpose(C))
println("元の行列 C:")
println(C)
println("型: ", typeof(C))
println("\nビューとしての Ct_view:")
println(Ct_view)
println("型: ", typeof(Ct_view))
println("\nコピーされた Ct_copied:")
println(Ct_copied)
println("型: ", typeof(Ct_copied))
# Ct_copied の要素を変更
Ct_copied[1, 2] = 77
println("\nCt_copied[1, 2] を 77 に変更後:")
println("変更された Ct_copied:")
println(Ct_copied)
println("元の行列 C (変更されていないことを確認):")
println(C)
出力例
元の行列 C:
[1 1; 2 2]
型: Matrix{Int64}
ビューとしての Ct_view:
[1 2; 1 2]
型: LinearAlgebra.Transpose{Int64, Matrix{Int64}}
コピーされた Ct_copied:
[1 2; 1 2]
型: Matrix{Int64}
Ct_copied[1, 2] を 77 に変更後:
変更された Ct_copied:
[1 77; 1 2]
元の行列 C (変更されていないことを確認):
[1 1; 2 2]
ベクトルの転置と RowVector
1次元の Vector
を transpose()
すると、Transpose
型のビューが返されますが、これは数学的な行ベクトルとして振る舞います。
v = [1, 2, 3] # 列ベクトル
println("元のベクトル v:")
println(v)
println("型: ", typeof(v))
println("次元: ", size(v))
vt = transpose(v) # 転置ビュー
println("\n転置されたベクトル vt (Transpose型):")
println(vt)
println("型: ", typeof(vt))
println("次元: ", size(vt))
# ベクトルと転置ベクトルの積 (内積)
# (1x3) * (3x1) = (1x1) スカラー
println("\nvt * v (内積):")
println(vt * v)
# ベクトルと転置ベクトルの積 (外積)
# (3x1) * (1x3) = (3x3) 行列
println("\nv * vt (外積):")
println(v * vt)
# 明示的に RowVector を作成する場合 (実数ベクトルでは ' が便利)
rv = v' # 共役転置 (実数なので転置と同じ)
println("\n`v'` で作成した行ベクトル rv (Adjoint型):")
println(rv)
println("型: ", typeof(rv))
println("次元: ", size(rv))
出力例
元のベクトル v:
[1, 2, 3]
型: Vector{Int64}
次元: (3,)
転置されたベクトル vt (Transpose型):
[1 2 3]
型: LinearAlgebra.Transpose{Int64, Vector{Int64}}
次元: (1, 3)
vt * v (内積):
14
v * vt (外積):
[1 2 3; 2 4 6; 3 6 9]
`v'` で作成した行ベクトル rv (Adjoint型):
[1 2 3]
型: LinearAlgebra.Adjoint{Int64, Vector{Int64}}
次元: (1, 3)
adjoint (共役転置) と transpose の比較
Z = [1+2im 3+4im;
5+6im 7+8im]
println("元の複素数行列 Z:")
println(Z)
println("型: ", typeof(Z))
Zt = transpose(Z)
println("\n転置 Zt (Transpose型):")
println(Zt)
println("型: ", typeof(Zt))
Za = Z' # または adjoint(Z)
println("\n共役転置 Za (Adjoint型):")
println(Za)
println("型: ", typeof(Za))
# 要素の比較
println("\nZt[1,2] (transpose): ", Zt[1,2])
println("Za[1,2] (adjoint): ", Za[1,2]) # 共役が取られている
出力例
元の複素数行列 Z:
[1+2im 3+4im; 5+6im 7+8im]
型: Matrix{Complex{Int64}}
転置 Zt (Transpose型):
[1+2im 5+6im; 3+4im 7+8im]
型: LinearAlgebra.Transpose{Complex{Int64}, Matrix{Complex{Int64}}}
共役転置 Za (Adjoint型):
[1-2im 5-6im; 3-4im 7-8im]
型: LinearAlgebra.Adjoint{Complex{Int64}, Matrix{Complex{Int64}}}
Zt[1,2] (transpose): 5+6im
Za[1,2] (adjoint): 5-6im
関数引数としての Transpose 型
Juliaの多くの線形代数関数は、AbstractMatrix
を引数として受け入れるように設計されているため、Transpose
型を直接渡すことができます。これにより、コピーのオーバーヘッドなしに計算が実行されます。
M = rand(3, 4) # 3x4 のランダムな行列
Mt = transpose(M) # 4x3 の Transpose 型ビュー
# 行列の積 (M' * M) を計算
# M は (3x4), M' は (4x3) なので、積は (4x4)
result_matrix = Mt * M
println("元の行列 M:")
println(M)
println("型: ", typeof(M))
println("\n転置行列 Mt (ビュー):")
println(Mt)
println("型: ", typeof(Mt))
println("\nMt * M の結果 (Matrix型):")
println(result_matrix)
println("型: ", typeof(result_matrix))
元の行列 M:
[0.612089 0.709088 0.589886 0.170566; 0.252069 0.0543669 0.730303 0.207907; 0.443907 0.999127 0.160161 0.771966]
型: Matrix{Float64}
転置行列 Mt (ビュー):
[0.612089 0.252069 0.443907; 0.709088 0.0543669 0.999127; 0.589886 0.730303 0.160161; 0.170566 0.207907 0.771966]
型: LinearAlgebra.Transpose{Float64, Matrix{Float64}}
Mt * M の結果 (Matrix型):
[0.869094 1.15785 0.590481 0.742055; 1.15785 1.55403 0.692244 0.812239; 0.590481 0.692244 0.871954 0.297495; 0.742055 0.812239 0.297495 0.669074]
型: Matrix{Float64}
adjoint() または ' (アポストロフィ) 演算子
これは transpose()
と非常によく似ていますが、複素数の場合は共役を取る点が異なります。実数行列の場合、transpose(A)
と A'
は同じ結果(同じ型のビュー)を返します。線形代数の文脈では、多くの場合 adjoint
の方が数学的に適切です。
特徴
- ショートハンドとして
'
(アポストロフィ) を使えます。 - 複素数の場合は要素の共役(conjugate)を取ります。
- 実数の場合は
transpose()
と同じ挙動。 transpose()
と同様にビューを返します。
使用例
using LinearAlgebra
A = [1 2; 3 4]
println("実数行列 A:")
println(A)
println("A' (adjoint) の型: ", typeof(A'))
println("transpose(A) の型: ", typeof(transpose(A)))
Z = [1+2im 3+4im; 5+6im 7+8im]
println("\n複素数行列 Z:")
println(Z)
println("Z' (adjoint):")
println(Z')
println("transpose(Z):")
println(transpose(Z))
permutedims()
permutedims(A, perm)
は、より一般的な多次元配列の次元の入れ替えを行う関数です。2次元配列(行列)の場合、permutedims(A, (2, 1))
は A
の行と列を入れ替える操作、すなわち転置と同じです。
特徴
A
の要素が数値以外(例: 文字列、シンボル)の場合でも機能します。- 多次元配列(3次元以上)の次元の入れ替えにも使用できます。
- これは
copy(transpose(A))
と同等の結果を返します。 Transpose
型のビューではなく、新しいMatrix
を作成します。
使用例
A = [1 2 3; 4 5 6]
println("元の行列 A:")
println(A)
# permutedims を使って転置
A_permuted = permutedims(A, (2, 1))
println("\npermutedims で転置された行列 A_permuted:")
println(A_permuted)
println("型: ", typeof(A_permuted)) # Matrix 型になっている
# copy(transpose(A)) と比較
A_copied_transpose = copy(transpose(A))
println("\ncopy(transpose(A)) で転置された行列 A_copied_transpose:")
println(A_copied_transpose)
println("型: ", typeof(A_copied_transpose)) # Matrix 型になっている
reshape() と permutedims() の組み合わせ (特殊なケース)
非常に稀なケースで、特定のメモリレイアウトを維持したい場合や、配列の次元数を変更しつつ転置したい場合に reshape
と permutedims
を組み合わせることも考えられます。しかし、これは複雑になりがちで、ほとんどの転置のニーズには適しません。
特徴
- 一般的な転置操作には推奨されません。
- データのメモリレイアウトを細かく制御したい場合に検討。
使用例 (あまり一般的ではない)
# これは一般的な転置の代替としては推奨されません
# 非常に特定のメモリレイアウトの操作が必要な場合に限定されます
vec_col_major = 1:6 # 列優先で格納されるデータ
mat_2x3 = reshape(vec_col_major, 2, 3) # 2x3行列に再構築
println("元の行列 (列優先データから):")
println(mat_2x3)
# これを転置するが、物理的には列優先のまま
# これは通常 `transpose(mat_2x3)` で十分ですが、
# 内部的にどうなっているかを理解するための概念的な例です
# 実際には新しいメモリを割り当てることなく、物理的なレイアウトを変更することは困難です
# permutedims は新しい配列を割り当てます
mat_3x2_transposed = permutedims(mat_2x3, (2, 1))
println("\npermutedims で転置 (新しい行列):")
println(mat_3x2_transposed)
ループによる手動での転置 (教育目的または特殊な最適化)
パフォーマンスが非常に重要で、Juliaの組み込み関数では対応できない特殊なメモリレイアウトや要素処理が必要な場合(これは稀です)、手動でループを使って転置行列を構築することも可能です。しかし、これは一般的に非効率的であり、Juliaの最適化された線形代数関数に比べてパフォーマンスが劣る可能性が高いです。
特徴
- コードが長く、エラーになりやすい。
- ほとんどの場合、組み込み関数よりもパフォーマンスが劣る。
- 完全に手動で制御するため、あらゆるカスタマイズが可能。
使用例
function manual_transpose(A::AbstractMatrix{T}) where T
R, C = size(A)
# 転置後のサイズで新しい行列を事前に割り当て
B = Matrix{T}(undef, C, R)
for i in 1:R
for j in 1:C
B[j, i] = A[i, j]
end
end
return B
end
M = rand(5, 7)
M_transposed_manual = manual_transpose(M)
println("元の行列 M:")
println(M)
println("\n手動で転置された行列 M_transposed_manual:")
println(M_transposed_manual)
println("型: ", typeof(M_transposed_manual))
# 組み込み関数と比較
M_transposed_builtin = copy(transpose(M))
println("\n組み込み関数で転置された行列 (copy(transpose(M))) との比較:")
println(M_transposed_builtin)
println("等しいか? ", M_transposed_manual == M_transposed_builtin)
どちらを使うべきか?
ほとんどの場合、transpose(A)
(ビュー) または A'
(共役転置ビュー) が最適です。
-
多次元配列の任意の次元入れ替えには
permutedims(A, perm)
が適しています。 -
転置されたデータの独立したコピーが必要な場合、または、
Transpose
型を受け入れない外部ライブラリなどに渡す必要がある場合は、copy(transpose(A))
またはcopy(A')
を使用してください。permutedims(A, (2,1))
も同様にコピーを作成しますが、2次元配列の転置においてはcopy(transpose(A))
の方が慣用的で一般的に推奨されます。 -
パフォーマンスを最優先し、元のデータの変更が許容される場合、または、後続の線形代数演算が
Transpose
型を直接扱える場合は、transpose(A)
またはA'
を使用してください。Juliaのほとんどの線形代数関数はこれらを効率的に処理できます。