LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!()
LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!()とは?
LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!()
は、Juliaの線形代数ライブラリ(LinearAlgebra
)に含まれる、LAPACK(Linear Algebra PACKage)のsygvd
関数を直接呼び出すための関数です。この関数は、実対称行列の一般化固有値問題を解くために使用されます。
一般化固有値問題とは?
通常の固有値問題は、行列A
に対して、Ax = λx
を満たす固有値λ
と固有ベクトルx
を求めるものです。一方、一般化固有値問題は、二つの実対称行列A
とB
に対して、Ax = λBx
を満たす固有値λ
と固有ベクトルx
を求めるものです。
sygvd
関数の役割
sygvd
関数は、以下の3つのタイプの一般化固有値問題を解くことができます。
- タイプ3
BAx = λx
- タイプ2
ABx = λx
- タイプ1
Ax = λBx
sygvd!
の!
は、この関数が引数の行列を直接変更(破壊的)することを意味します。つまり、入力として与えられた行列A
とB
は、関数実行後に結果を格納するために上書きされます。
sygvd!()
の引数と返り値
sygvd!()
関数は、いくつかの引数を取ります。主な引数と返り値は以下の通りです。
- 返り値
w::Vector{Float64}
: 固有値のベクトル。A::Matrix{Float64}
:jobz
が'V'
の場合、固有ベクトルが列として格納されます。info::Integer
: エラーコード。0は成功を示します。
- 引数
jobz::Char
: 固有ベクトルを計算するかどうかを指定します。'N'
(固有ベクトルを計算しない)または'V'
(固有ベクトルを計算する)を指定します。uplo::Char
: 行列A
とB
のどちらの三角形部分を使用するかを指定します。'U'
(上三角部分)または'L'
(下三角部分)を指定します。A::Matrix{Float64}
: 実対称行列A
。関数実行後、固有値または固有ベクトルに上書きされます。B::Matrix{Float64}
: 実対称行列B
。関数実行後、固有ベクトルに上書きされます。(タイプ1の場合)itype::Integer
: 一般化固有値問題のタイプを指定します。1, 2, または 3 を指定します。
使用例
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 2.0 5.0]
B = [1.0 0.0; 0.0 2.0]
w, V = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('V', 'U', A, B, 1)
println("固有値:")
println(w)
println("固有ベクトル:")
println(V)
この例では、A
とB
に対して、Ax = λBx
の一般化固有値問題を解き、固有値と固有ベクトルを出力しています。
- 入力行列は実対称行列である必要があります。
sygvd!()
は破壊的関数であるため、元の行列を保持する必要がある場合は、コピーを作成してから関数を呼び出す必要があります。
一般的なエラーとトラブルシューティング
-
- エラーメッセージ:
LAPACKException(info, "sygvd returned error $info")
(infoが0以外) - 原因:
sygvd!()
は実対称行列を前提としています。入力行列が対称でない場合、エラーが発生します。 - 対処法:
- 入力行列が対称であることを確認してください。
- 行列がわずかに非対称である場合は、
(A + A') / 2
のようにして対称化を試みてください。 - 行列の作成過程を見直して、対称行列を作成するように修正してください。
- エラーメッセージ:
-
入力行列が数値的に特異である場合
- エラーメッセージ:
LAPACKException(info, "sygvd returned error $info")
(infoが0以外) - 原因: 入力行列
B
が正定値でない、または数値的に特異である場合、計算が不安定になりエラーが発生することがあります。 - 対処法:
- 行列
B
の条件数を調べ、数値的に安定しているか確認してください。条件数が非常に大きい場合は、行列が特異に近い可能性があります。 - 行列
B
に小さな正の値を加えるなどして、正定値性を確保することを試みてください。 - 行列Bの作成過程を見直して、正定値行列を作成するように修正してください。
- 行列
- エラーメッセージ:
-
jobz引数の指定ミス
- エラーメッセージ:
ArgumentError
- 原因:
jobz
引数は'N'
または'V'
のいずれかを指定する必要があります。それ以外の値を指定するとエラーが発生します。 - 対処法:
jobz
引数が正しく指定されていることを確認してください。
- エラーメッセージ:
-
uplo引数の指定ミス
- エラーメッセージ:
ArgumentError
- 原因:
uplo
引数は'U'
または'L'
のいずれかを指定する必要があります。それ以外の値を指定するとエラーが発生します。 - 対処法:
uplo
引数が正しく指定されていることを確認してください。
- エラーメッセージ:
-
itype引数の指定ミス
- エラーメッセージ:
ArgumentError
- 原因:
itype
引数は1,2,3のいずれかを指定する必要があります。それ以外の値を指定するとエラーが発生します。 - 対処法:
itype
引数が正しく指定されていることを確認してください。
- エラーメッセージ:
-
破壊的関数による予期しない結果
- 原因:
sygvd!()
は破壊的関数であるため、入力行列A
とB
が上書きされます。元の行列を保持する必要がある場合は、コピーを作成せずに呼び出すと、元のデータが失われます。 - 対処法:
- 関数を呼び出す前に、
copy()
関数を使用して行列のコピーを作成してください。 - 関数の挙動をよく理解し、必要に応じてコピーを作成して利用してください。
- 関数を呼び出す前に、
- 原因:
-
LAPACKのエラーコードの確認
- エラーメッセージ:
LAPACKException(info, "sygvd returned error $info")
- 原因:
info
が0以外の場合、LAPACK内部でエラーが発生しています。 - 対処法:
info
の値を確認し、LAPACKのドキュメントを参照してエラーの原因を特定してください。- エラーコードによって、問題の箇所を特定し、修正作業を行ってください。
- エラーメッセージ:
トラブルシューティングのヒント
- デバッガを利用して、変数の値やプログラムの実行状況を確認してください。
- Juliaのドキュメントやオンラインコミュニティで情報を探してください。
- 簡単な例でコードをテストし、問題の再現性を確認してください。
- 入力データの型と形状を確認してください。
- エラーメッセージをよく読み、原因を特定してください。
例1: 基本的な一般化固有値問題 (Ax = λBx)
この例では、基本的な一般化固有値問題 Ax = λBx
を解きます。
using LinearAlgebra
# 実対称行列 A と B を定義
A = [1.0 2.0; 2.0 5.0]
B = [1.0 0.0; 0.0 2.0]
# 一般化固有値問題を解く (固有ベクトルも計算)
w, V = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('V', 'U', A, B, 1)
# 結果の表示
println("固有値:")
println(w)
println("固有ベクトル:")
println(V)
# 元の行列 A と B は上書きされていることに注意
println("上書きされたA:")
println(A)
println("上書きされたB:")
println(B)
#元のAとBを使用したい場合、コピーを作成して計算する。
A_copy = [1.0 2.0; 2.0 5.0]
B_copy = [1.0 0.0; 0.0 2.0]
w2, V2 = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('V','U',A_copy,B_copy,1)
println("固有値(コピー):")
println(w2)
println("固有ベクトル(コピー):")
println(V2)
このコードでは、sygvd!()
関数に'V'
を指定して固有ベクトルも計算しています。'U'
を指定しているため、行列の上三角部分が使用されます。itype
は1を指定しており、Ax = λBx
のタイプを解いています。
例2: 行列のコピーを使用して元の行列を保持する
sygvd!()
は破壊的関数であるため、元の行列を保持したい場合はコピーを作成します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 2.0 5.0]
B = [1.0 0.0; 0.0 2.0]
# 行列のコピーを作成
A_copy = copy(A)
B_copy = copy(B)
# コピーに対して一般化固有値問題を解く
w, V = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('V', 'U', A_copy, B_copy, 1)
# 結果の表示
println("固有値:")
println(w)
println("固有ベクトル:")
println(V)
# 元の行列 A と B は変更されていない
println("元のA:")
println(A)
println("元のB:")
println(B)
copy()
関数を使用して行列のコピーを作成することで、元の行列を保持できます。
例3: itype
を変更して異なるタイプの問題を解く
itype
引数を変更することで、異なるタイプの一般化固有値問題を解くことができます。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 2.0 5.0]
B = [1.0 0.0; 0.0 2.0]
# ABx = λx のタイプ (itype = 2)
A_copy2 = copy(A)
B_copy2 = copy(B)
w2, V2 = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('V', 'U', A_copy2, B_copy2, 2)
println("ABx = λx の固有値:")
println(w2)
# BAx = λx のタイプ (itype = 3)
A_copy3 = copy(A)
B_copy3 = copy(B)
w3, V3 = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('V', 'U', A_copy3, B_copy3, 3)
println("BAx = λx の固有値:")
println(w3)
このコードでは、itype
を2と3にそれぞれ変更し、ABx = λx
とBAx = λx
のタイプの問題を解いています。
例4: 固有ベクトルを計算しない場合 (jobz = 'N'
)
固有ベクトルを計算する必要がない場合は、jobz
に'N'
を指定します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 2.0 5.0]
B = [1.0 0.0; 0.0 2.0]
# 固有ベクトルを計算しない
A_copy = copy(A)
B_copy = copy(B)
w, _ = LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!('N', 'U', A_copy, B_copy, 1)
# 結果の表示
println("固有値:")
println(w)
# A_copyとB_copyは固有値計算後に上書きされる。
println("上書きされたA_copy:")
println(A_copy)
println("上書きされたB_copy:")
println(B_copy)
LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!()の代替手法
LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!()
は、LAPACKのsygvd
関数を直接呼び出すため、高速な計算が可能です。しかし、いくつかの代替手法も存在します。
-
sygvd!()
は一般化固有値問題を解きますが、eigen()
関数は通常の固有値問題を解きます。そのため、cholesky()
関数を使用して一般化固有値問題を通常の固有値問題に変換してから、eigen()
関数を使用することができます。- この方法は、
sygvd!()
よりも若干遅くなる可能性がありますが、コードの可読性が向上する場合があります。 - 例:
using LinearAlgebra A = [1.0 2.0; 2.0 5.0] B = [1.0 0.0; 0.0 2.0] # Bのコレスキー分解 C = cholesky(B).L # 一般化固有値問題を通常の固有値問題に変換 A_transformed = C \ A / C' # 通常の固有値問題を解く eigen_result = eigen(A_transformed) eigenvalues = eigen_result.values eigenvectors = C' \ eigen_result.vectors println("固有値:") println(eigenvalues) println("固有ベクトル:") println(eigenvectors)
-
GeneralizedEigen型を使用する方法
- Juliaの
LinearAlgebra
パッケージには、一般化固有値問題を扱うためのGeneralizedEigen
型が用意されています。 - この型を使用すると、より高レベルなインターフェースで一般化固有値問題を解くことができます。
- 例:
using LinearAlgebra A = [1.0 2.0; 2.0 5.0] B = [1.0 0.0; 0.0 2.0] # 一般化固有値問題を解く generalized_eigen = eigen(A, B) # 結果の表示 println("固有値:") println(generalized_eigen.values) println("固有ベクトル:") println(generalized_eigen.vectors)
- Juliaの
-
IterativeEigensolvers.jlパッケージを使用する方法
- 大規模な疎行列の固有値問題を解く場合、
IterativeEigensolvers.jl
パッケージが有効です。 - このパッケージは、反復解法を用いて固有値問題を解くため、メモリ効率が良く、大規模な問題にも対応できます。
- 例:
using IterativeEigensolvers using LinearAlgebra A = [1.0 2.0; 2.0 5.0] B = [1.0 0.0; 0.0 2.0] # 一般化固有値問題を解く eigenvalues, eigenvectors = eigsolve(A, B, 2, :SR) # 結果の表示 println("固有値:") println(eigenvalues) println("固有ベクトル:") println(eigenvectors)
- この例では、
eigsolve()
関数を使用して、上位2つの固有値と固有ベクトルを計算しています。
- 大規模な疎行列の固有値問題を解く場合、
-
他の数値計算ライブラリを使用する方法
- Juliaの他の数値計算ライブラリ(例えば、
Arpack.jl
など)も、固有値問題を解くための機能を提供しています。 - これらのライブラリは、特定のタイプの問題や特定のアルゴリズムに特化している場合があります。
- Juliaの他の数値計算ライブラリ(例えば、
各手法の比較
- 他の数値計算ライブラリ: 特定のタイプの問題やアルゴリズムに特化しています。
IterativeEigensolvers.jl
: 大規模な疎行列の固有値問題に有効です。GeneralizedEigen
: 高レベルなインターフェースを提供し、使いやすいです。eigen()
とcholesky()
: 可読性が高く、理解しやすいが、sygvd!()
よりも若干遅い場合があります。LinearAlgebra.LAPACK.sygvd!()
: 高速だが、破壊的関数であり、低レベルなインターフェースです。