LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!()
2025-02-21
LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!()とは?
LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!()
は、JuliaのLinearAlgebra
標準ライブラリに含まれる関数で、複素エルミート行列のLU分解(より正確には、LDL*分解)を実行します。この関数は、LAPACKライブラリのZHETRF
関数をJuliaから呼び出すためのインターフェースです。
主な機能
- LDL*分解
エルミート行列の特性を利用して、LU分解の代わりにLDL分解を行います。ここで、Lは下三角行列、Dは対角行列、LはLの共役転置です。 - ピボット情報
ピボット選択に関する情報も返します。これは、行列が特異に近い場合や、数値的に不安定な場合に重要です。 - インプレース演算
!
が付いていることからわかるように、この関数は与えられた行列を直接変更(インプレース演算)します。つまり、元の行列が分解結果で上書きされます。 - 複素エルミート行列の分解
与えられた複素エルミート行列を、下三角行列(L)、上三角行列(U)、および対角行列(D)に分解します。
基本的な使い方
using LinearAlgebra
A = ComplexF64[1.0 -2.0im -3.0; 2.0im 5.0 1.0 + 1.0im; -3.0 1.0 - 1.0im 0.0] # 複素エルミート行列
info = LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!('U', A) # 'U'は上三角部分を使用することを意味し、'L'は下三角部分を使用することを意味します。
println("分解後の行列 A:")
println(A)
println("ピボット情報:")
println(info)
引数の説明
- info (Vector{Int32})
ピボット情報とエラーコードを返します。info[1]
が 0 の場合、成功。info[1]
が 0 より大きい場合、特異な行列であり、info[1]
番目の対角要素が0です。info[2]
以降は、ピボットに関する情報が入っています。
- A (Matrix{ComplexF64})
分解する複素エルミート行列。分解結果は、この行列に上書きされます。 - uplo (Character)
'U'
(または'u'
): 上三角部分を使用します。'L'
(または'l'
): 下三角部分を使用します。
重要な点
info
の戻り値をチェックして、分解が成功したか、エラーが発生したかを確認することが重要です。hetrf!
はインプレース演算であるため、元の行列を保持する必要がある場合は、コピーを作成してから関数を呼び出す必要があります。- エルミート行列は、対角線に関して共役対称です。そのため、上三角部分または下三角部分のいずれか一方のみを保存すれば十分です。
uplo
引数でどちらを使用するかを指定します。
- 最小二乗問題の解法
- 固有値問題の解法
- 線形方程式系の解法
一般的なエラーとトラブルシューティング
-
- 原因
入力された行列A
がエルミート行列の条件を満たしていない場合に発生します。エルミート行列は、自身の共役転置と等しい行列です。 - 対処法
- 行列
A
がエルミート行列の条件を満たしているか確認してください。数値誤差により、厳密には等しくなくても、許容範囲内で共役転置と等しくなる必要があります。 - 複素数行列の場合、共役転置を取る際に
adjoint(A)
またはA'
を使用します。 - 実数行列の場合、転置
transpose(A)
またはA.'
を使用します。 - 行列作成時に、エルミート行列になるように要素を調整してください。
- 行列
- 原因
-
info[1] > 0
(info[1]が0より大きい)- 原因
info
の最初の要素が0より大きい場合、行列A
が特異(または特異に近い)であることを示します。info[1]
の値は、特異な対角要素の位置を示します。 - 対処法
- 行列
A
が特異でないか確認してください。 - 行列が特異に近い場合、ピボット選択によって数値的に不安定になる可能性があります。
- 線形方程式系を解いている場合、別の解法(例えば、特異値分解)を検討してください。
- 行列に微小な摂動を加えることで、特異性を解消できる場合があります。
- 行列
- 原因
-
MethodError: no method matching hetrf!(::Char, ::Matrix{Float64})
(メソッドエラー: hetrf!に一致するメソッドがありません)- 原因
hetrf!()
は複素エルミート行列に対してのみ定義されています。実数行列を渡すと、このエラーが発生します。 - 対処法
- 入力行列
A
が複素数行列であることを確認してください。 - 実数対称行列を分解する場合は、
sytrf!()
を使用します。
- 入力行列
- 原因
-
BoundsError: attempt to access 1-element Vector{Int32} at index [2]
(範囲外エラー: インデックス[2]で1要素のVector{Int32}にアクセスしようとしました)- 原因
info
ベクトルの要素数を確認せずに、存在しない要素にアクセスしようとすると発生します。 - 対処法
info
ベクトルの長さを確認してから要素にアクセスしてください。- 通常、
info
の長さは2以上になるはずですが、エラー処理を追加して安全にアクセスするようにしてください。
- 原因
-
uplo引数の誤り
- 原因
uplo
引数に不正な文字('U', 'L'以外の文字)を渡すと、エラーが発生する可能性があります。 - 対処法
uplo
引数は、必ず'U'または'L'のいずれかを指定してください。大文字小文字は区別されません。
- 原因
トラブルシューティングの一般的なヒント
- デバッガを使用する
デバッガを使用して、コードの実行をステップごとに確認し、変数の値を調べることができます。 - 簡単な例で試す
問題を特定するために、小さな行列で試してみてください。 - ドキュメントを参照する
JuliaのドキュメントやLAPACKのドキュメントを参照して、関数の使い方やエラーコードについて確認してください。 - エラーメッセージをよく読む
エラーメッセージは、問題の原因に関する重要な情報を提供します。
例1: 基本的なエルミート行列のLDL*分解
using LinearAlgebra
# 複素エルミート行列の定義
A = ComplexF64[
4.0 + 0.0im 1.0 - 2.0im 2.0 + 1.0im;
1.0 + 2.0im 5.0 + 0.0im 3.0 - 1.0im;
2.0 - 1.0im 3.0 + 1.0im 6.0 + 0.0im
]
# LDL*分解の実行 (上三角部分を使用)
info = LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!('U', A)
# 結果の表示
println("分解後の行列 A:")
println(A)
println("ピボット情報:")
println(info)
# エラーチェック
if info[1] == 0
println("分解成功!")
else
println("分解失敗: 特異な行列またはエラーが発生しました。")
println("エラーコード: ", info[1])
end
説明
- 複素エルミート行列
A
を定義します。 LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!('U', A)
を呼び出して、A
のLDL*分解を実行します。'U'
は上三角部分を使用することを指定しています。- 分解後の行列
A
とピボット情報info
を表示します。 info[1]
をチェックして、分解が成功したかを確認します。
例2: 下三角部分を使用した分解
using LinearAlgebra
# 複素エルミート行列の定義
A = ComplexF64[
4.0 + 0.0im 1.0 - 2.0im 2.0 + 1.0im;
1.0 + 2.0im 5.0 + 0.0im 3.0 - 1.0im;
2.0 - 1.0im 3.0 + 1.0im 6.0 + 0.0im
]
# LDL*分解の実行 (下三角部分を使用)
info = LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!('L', A)
# 結果の表示
println("分解後の行列 A:")
println(A)
println("ピボット情報:")
println(info)
# エラーチェック
if info[1] == 0
println("分解成功!")
else
println("分解失敗: 特異な行列またはエラーが発生しました。")
println("エラーコード: ", info[1])
end
説明
- 例1とほぼ同じですが、
hetrf!
の最初の引数に'L'
を指定して、下三角部分を使用するように変更しています。
例3: 特異な行列の処理
using LinearAlgebra
# 特異なエルミート行列の定義
A = ComplexF64[
1.0 + 0.0im 1.0 + 0.0im;
1.0 + 0.0im 1.0 + 0.0im
]
# LDL*分解の実行
info = LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!('U', A)
# エラーチェック
if info[1] == 0
println("分解成功!")
else
println("分解失敗: 特異な行列またはエラーが発生しました。")
println("エラーコード: ", info[1])
end
println("ピボット情報:")
println(info)
説明
- 特異なエルミート行列
A
を定義します。 hetrf!
を実行すると、info[1]
が0より大きくなり、エラーが発生します。- エラーコードとピボット情報を表示して、特異な行列であることを確認します。
例4: 分解結果の利用(線形方程式系の解決)
using LinearAlgebra
# エルミート行列と右辺ベクトルの定義
A = ComplexF64[
4.0 + 0.0im 1.0 - 2.0im 2.0 + 1.0im;
1.0 + 2.0im 5.0 + 0.0im 3.0 - 1.0im;
2.0 - 1.0im 3.0 + 1.0im 6.0 + 0.0im
]
b = ComplexF64[1.0 + 0.0im, 2.0 + 0.0im, 3.0 + 0.0im]
# AのLDL*分解
info = LinearAlgebra.LAPACK.hetrf!('U', A)
# 線形方程式系 Ax = b の解を求める
x = A \ b
# 結果の表示
println("解 x:")
println(x)
# もとの方程式Ax=bが成立するか確認。
println("Ax:")
println(A*x)
println("b:")
println(b)
- エルミート行列
A
と右辺ベクトルb
を定義します。 hetrf!
でA
を分解します。A \ b
を使用して、線形方程式系Ax = b
の解x
を求めます。- 求めた解
x
を表示し、Ax
とb
が等しいことを確認します。 - Juliaのバックスラッシュ演算子
\
は、hetrf!
で分解された行列を効率的に使用して線形方程式系を解きます。
LinearAlgebra.ldlt! (LDLᵀ分解)
- 使用例
- 説明
ldlt!()
は、実対称行列または複素エルミート行列に対して、LDLᵀ分解(またはLDL*分解)を実行します。hetrf!()
と同様に、与えられた行列をインプレースで変更します。ldlt!()
は、LDLTFactorization
オブジェクトを返します。このオブジェクトは、分解された行列の要素にアクセスしたり、線形方程式系を解いたりするために使用できます。hetrf!()
よりも、Juliaの構造体を出力するため、Juliaの他の関数との親和性が高いです。
using LinearAlgebra
A = ComplexF64[
4.0 + 0.0im 1.0 - 2.0im 2.0 + 1.0im;
1.0 + 2.0im 5.0 + 0.0im 3.0 - 1.0im;
2.0 - 1.0im 3.0 + 1.0im 6.0 + 0.0im
]
F = ldlt!(A)
println("分解結果 F:")
println(F)
x = F \ [1.0 + 0.0im, 2.0 + 0.0im, 3.0 + 0.0im]
println("解 x:")
println(x)
- 注意点
ldlt!
は、エルミート行列に対してのみ使用できます。
- 利点
LDLTFactorization
オブジェクトを使用することで、分解結果をより柔軟に扱うことができます。- Juliaの構造体を出力するため、Juliaの他の関数との親和性が高い。
LinearAlgebra.lu! (LU分解)
- 使用例
- 説明
lu!()
は、一般的な行列に対してLU分解を実行します。- エルミート行列である必要はありません。
hetrf!()
と異なり、ピボット選択の情報も返します。- エルミート行列に対しては、
hetrf!()
やldlt!()
の方が効率的ですが、一般的な行列を扱う場合にはlu!()
を使用します。
using LinearAlgebra
A = ComplexF64[
4.0 + 0.0im 1.0 - 2.0im 2.0 + 1.0im;
1.0 + 2.0im 5.0 + 0.0im 3.0 - 1.0im;
2.0 - 1.0im 3.0 + 1.0im 6.0 + 0.0im
]
F = lu!(A)
println("分解結果 F:")
println(F)
x = F \ [1.0 + 0.0im, 2.0 + 0.0im, 3.0 + 0.0im]
println("解 x:")
println(x)
- 注意点
- エルミート行列に対しては、
hetrf!()
やldlt!()
の方が効率的です。
- エルミート行列に対しては、
- 利点
- 一般的な行列に対して使用できます。
- ピボット選択の情報も返します。
特異値分解 (SVD)
- 使用例
- 説明
- 特異値分解は、任意の行列を3つの行列の積に分解します。
- 特異値分解は、行列が特異に近い場合や、数値的に不安定な場合に有効です。
LinearAlgebra.svd()
関数を使用します。
using LinearAlgebra
A = ComplexF64[
1.0 + 0.0im 1.0 + 0.0im;
1.0 + 0.0im 1.0 + 0.0im
]
F = svd(A)
println("分解結果 F:")
println(F)
- 注意点
- LU分解やLDL分解よりも計算コストが高い場合があります。
- 利点
- 任意の行列に対して使用できます。
- 特異な行列に対しても安定した結果が得られます。
固有値分解 (EVD)
- 使用例
- 説明
- エルミート行列は、固有値分解も可能です。
- 固有値分解は、行列を固有値と固有ベクトルの積に分解します。
LinearAlgebra.eigen()
関数を使用します。
using LinearAlgebra
A = ComplexF64[
4.0 + 0.0im 1.0 - 2.0im;
1.0 + 2.0im 5.0 + 0.0im;
]
F = eigen(A)
println("分解結果 F:")
println(F)
- 注意点
- 固有値と固有ベクトルを求めるため、計算コストが高い場合がある。
- 利点
- エルミート行列の特性を活かした分解が可能
- エルミート行列の固有値、固有ベクトルを求める必要がある場合は固有値分解を使用します。
- 特異な行列を扱う場合や、数値的に安定した結果が必要な場合は、特異値分解を使用します。
- 一般的な行列を分解する場合は、
lu!()
を使用します。 - エルミート行列を分解する場合は、
ldlt!()
またはhetrf!()
を使用します。ldlt!()
は、LDLTFactorization
オブジェクトを返すため、より柔軟な処理が可能です。