LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!()
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!() 関数とは?
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!()
は、Juliaの LinearAlgebra
標準ライブラリの一部で、LAPACK (Linear Algebra PACKage) ライブラリの ggev3
関数を直接呼び出すものです。この関数は、一般化固有値問題 (generalized eigenvalue problem) を解くために使用されます。
一般化固有値問題とは?
通常の固有値問題は、行列 A
に対して Ax = λx
を満たす固有値 λ
と固有ベクトル x
を求めるものです。一方、一般化固有値問題は、2つの行列 A
と B
に対して Ax = λBx
を満たす固有値 λ
と固有ベクトル x
を求めるものです。
ggev3!()
関数の役割
ggev3!()
関数は、与えられた2つの行列 A
と B
に対して、以下の処理を行います。
- 一般化シューア分解 (generalized Schur decomposition) を実行します。
A
とB
の一般化固有値を計算します。- オプションで、左および右の一般化固有ベクトルを計算します。
ggev3!()
関数の引数
ggev3!()
関数は、以下の引数を取ります。
info::Ref{BlasInt}
: 戻り値の情報を格納する参照。work::Vector{<:Number}
: 作業用ベクトル。vr::Matrix{<:Number}
: 右固有ベクトルを格納する行列(jobvr == 'V'
の場合)。vl::Matrix{<:Number}
: 左固有ベクトルを格納する行列(jobvl == 'V'
の場合)。beta::Vector{<:Number}
: 一般化固有値の分母を格納するベクトル。alpha::Vector{<:Number}
: 一般化固有値の分子を格納するベクトル。B::Matrix{<:Number}
: 行列B
。A::Matrix{<:Number}
: 行列A
。jobvr::Char
: 右固有ベクトルを計算するかどうかを指定します。'N'
: 右固有ベクトルを計算しない。'V'
: 右固有ベクトルを計算する。
jobvl::Char
: 左固有ベクトルを計算するかどうかを指定します。'N'
: 左固有ベクトルを計算しない。'V'
: 左固有ベクトルを計算する。
ggev3!()
関数の戻り値
ggev3!()
関数は、info
引数を通して戻り値の情報を返します。
info.x > 0
: 一般化固有値の計算が収束しなかった。info.x < 0
:x
番目の引数が不正。info.x == 0
: 成功。
注意点
- 一般化固有値は
alpha[i] / beta[i]
で計算されます。 - 作業用ベクトル
work
は、適切なサイズでなければなりません。 ggev3!()
関数は、行列A
とB
を破壊的に変更します。
例
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
vl = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
vr = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!('V', 'V', A, B, alpha, beta, vl, vr, work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値:")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
println("左固有ベクトル:")
println(vl)
println("右固有ベクトル:")
println(vr)
else
println("エラー: info = ", info[])
end
この例では、行列 A
と B
の一般化固有値と固有ベクトルを計算し、結果を表示しています。
一般的なエラーとトラブルシューティング
-
- エラー
MethodError
やArgumentError
が発生し、引数の型やサイズが間違っていることを示します。 - 原因
A
とB
の行列のサイズが一致していない。alpha
、beta
、vl
、vr
のベクトルのサイズが間違っている。work
ベクトルのサイズが不足している。jobvl
やjobvr
に無効な文字('N'
または'V'
以外)を指定している。
- トラブルシューティング
A
とB
のサイズをsize(A)
とsize(B)
で確認し、一致していることを確認します。alpha
とbeta
のサイズをsize(A, 1)
に設定します。vl
とvr
のサイズを(size(A, 1), size(A, 1))
に設定します。work
ベクトルのサイズは、少なくとも8 * size(A, 1)
以上の複素数型ベクトルとして確保します。jobvl
とjobvr
に正しい文字'N'
または'V'
を指定します。
- エラー
-
info の値が 0 以外
- エラー
info.x
が 0 以外の場合、エラーが発生しています。 - 原因
info.x < 0
:x
番目の引数が不正です。info.x > 0
: 一般化固有値の計算が収束しませんでした。
- トラブルシューティング
info.x < 0
の場合、エラーメッセージからどの引数が不正かを確認し、修正します。info.x > 0
の場合、行列A
とB
の条件数が大きすぎる可能性があります。行列のスケールを変更したり、別のアルゴリズムを試したりする必要があります。また、与えられた行列に固有値が存在しない可能性も考慮してください。
- エラー
-
work ベクトルのサイズ不足
- エラー
LAPACKException(info)
が発生し、info
の値がエラーコードを示します。 - 原因
work
ベクトルのサイズが不足している。 - トラブルシューティング
work
ベクトルのサイズを十分に大きく確保します。一般的に、8 * size(A, 1)
以上の複素数型ベクトルが必要です。
- エラー
-
固有値・固有ベクトルの計算結果の不正
- エラー
計算結果が期待される値と異なる。 - 原因
- 数値的な誤差。
- 行列
A
とB
の条件数が大きすぎる。 - アルゴリズムの選択が不適切。
- トラブルシューティング
- 計算結果を検証するために、計算された固有値と固有ベクトルを元の一般化固有値問題
Ax = λBx
に代入して確認します。 - 行列のスケールを変更したり、別のアルゴリズム(例えば、
eigen
関数)を試したりします。 - 計算精度を上げるために、より高い精度(例えば、
Float64
の代わりにComplex{BigFloat}
)を使用します。
- 計算結果を検証するために、計算された固有値と固有ベクトルを元の一般化固有値問題
- エラー
-
複素数型と実数型の混合
- エラー
MethodError
やTypeError
が発生し、型が一致しないことを示します。 - 原因
行列A
やB
が実数型の場合、固有値が複素数になることがあります。 - トラブルシューティング
- 行列
A
とB
を複素数型に変換します(例:A = complex.(A)
)。 alpha
、beta
、vl
、vr
を複素数型に設定します。
- 行列
- エラー
デバッグのヒント
- LAPACKのドキュメントやJuliaのドキュメントを参照し、関数の使い方やエラーコードについて理解を深めます。
- Juliaのデバッガを使用し、変数の値や実行フローを追跡します。
- 小さな行列でテストを行い、問題の特定を容易にします。
- 計算結果を検証するために、計算された固有値と固有ベクトルを元の問題に代入して確認します。
info
の値を常に確認し、エラーが発生していないかチェックします。
例1: 基本的な一般化固有値問題の解決
この例では、単純な2x2行列に対して ggev3!()
を使用して一般化固有値を計算します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!('N', 'N', A, B, alpha, beta, work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値:")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
else
println("エラー: info = ", info[])
end
説明
A
とB
という2つの2x2行列を定義します。n
に行列のサイズを格納します。alpha
とbeta
は一般化固有値の分子と分母を格納するための複素数ベクトルです。work
は作業用ベクトルです。info
はエラー情報を格納するための参照です。LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!()
を呼び出し、'N'
を指定して固有ベクトルを計算しないようにします。info
の値を確認し、エラーが発生していない場合は一般化固有値を表示します。
例2: 固有ベクトルも計算する例
この例では、左と右の固有ベクトルも計算します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
vl = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
vr = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!('V', 'V', A, B, alpha, beta, vl, vr, work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値:")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
println("左固有ベクトル:")
println(vl)
println("右固有ベクトル:")
println(vr)
else
println("エラー: info = ", info[])
end
説明
'V'
を指定して、左と右の固有ベクトルを計算するようにggev3!()
を呼び出します。vl
とvr
は、それぞれ左と右の固有ベクトルを格納するための行列です。- 計算された固有ベクトルも表示します。
例3: 複素数行列を扱う例
この例では、複素数行列に対して ggev3!()
を使用します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 + 1.0im 2.0; 3.0 4.0 - 1.0im]
B = [5.0 6.0 + 1.0im; 7.0 - 1.0im 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!('N', 'N', A, B, alpha, beta, work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値:")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
else
println("エラー: info = ", info[])
end
説明
A
とB
を複素数行列として定義します。alpha
とbeta
は複素数ベクトルである必要があります。work
も複素数ベクトルである必要があります。
例4: エラーハンドリングの例
この例では、info
の値を確認してエラーハンドリングを行います。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!('N', 'N', A, B, alpha, beta, work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値:")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
elseif info[] < 0
println("エラー: 引数 ", -info[], " が不正です。")
elseif info[] > 0
println("エラー: 一般化固有値の計算が収束しませんでした。")
else
println("不明なエラー")
end
info
の値に応じて、異なるエラーメッセージを表示します。info[] < 0
の場合は、不正な引数の番号を表示します。info[] > 0
の場合は、計算が収束しなかったことを通知します。
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!() の代替手法
LinearAlgebra.LAPACK.ggev3!()
はLAPACKの低レベル関数を直接呼び出すため、高速ですが、やや複雑です。より高レベルで使いやすい代替手法がいくつか存在します。
-
eigen(A, B)
関数は、一般化固有値問題を解くための高レベル関数です。ggev3!()
と同様に、一般化固有値と固有ベクトルを計算しますが、よりシンプルで使いやすいインターフェースを提供します。- 内部的には、
ggev3!()
と同様にLAPACKのルーチンを使用しますが、複雑な引数管理を隠蔽します。 - 戻り値は
GeneralizedEigen
型のオブジェクトであり、固有値と固有ベクトルに簡単にアクセスできます。
using LinearAlgebra A = [1.0 2.0; 3.0 4.0] B = [5.0 6.0; 7.0 8.0] result = eigen(A, B) println("一般化固有値:") println(result.values) println("右固有ベクトル:") println(result.vectors)
eigen(A,B)
は固有値と右固有ベクトルのみを返すことに注意してください。左固有ベクトルが必要な場合は他の方法を利用する必要があります。
-
GeneralizedSchur 分解
GeneralizedSchur
分解は、一般化固有値問題を解くための別の方法です。schur(A, B)
関数を使用して、行列A
とB
の一般化シューア分解を計算します。GeneralizedSchur
型のオブジェクトが返され、一般化固有値、シューア行列、および変換行列にアクセスできます。GeneralizedSchur
分解は、より安定した数値計算を提供することがあります。
using LinearAlgebra A = [1.0 2.0; 3.0 4.0] B = [5.0 6.0; 7.0 8.0] result = schur(A, B) println("一般化固有値:") println(result.alpha ./ result.beta) println("シューア行列 A:") println(result.S) println("シューア行列 B:") println(result.T)
-
パッケージ LinearAlgebraX
LinearAlgebraX
パッケージは、LinearAlgebra
標準ライブラリを拡張し、より高度な線形代数機能を提供します。- このパッケージには、一般化固有値問題を解くための追加の関数やアルゴリズムが含まれている場合があります。
- 必要に応じて、このパッケージをインストールして試してみることができます。
# Pkg.add("LinearAlgebraX") using LinearAlgebraX # LinearAlgebraXの機能を使用する例
-
手動での計算
- 単純な2x2行列の場合、一般化固有値問題を解析的に解くことができます。
- 行列式や逆行列を使用して、固有値を手動で計算できます。
- ただし、行列のサイズが大きくなると、手動での計算は非常に複雑になります。
-
他の数値計算ライブラリ
- PythonのNumPyやSciPy、MATLABなど、他の数値計算ライブラリを使用して一般化固有値問題を解くこともできます。
- これらのライブラリは、Juliaから呼び出すことができます(例:PyCall.jl、MATLAB.jl)。
ggev3!() を使用する場面
- 例えば、特定のLAPACKオプションを使用する必要がある場合や、大規模な行列に対して最適化された計算を行う必要がある場合は、
ggev3!()
を使用することがあります。 ggev3!()
は、LAPACKの低レベル関数を直接呼び出すため、高度な制御が必要な場合や、パフォーマンスが重要な場合に適しています。
代替手法を使用する場面
- 特に、固有値と固有ベクトルを簡単に取得したい場合や、数値的な安定性を重視する場合は、これらの高レベル関数を使用することをお勧めします。
eigen(A, B)
やschur(A, B)
は、よりシンプルで使いやすいインターフェースを提供するため、一般的な一般化固有値問題を解く場合に適しています。