LinearAlgebra.LAPACK.ggev!()
2025-02-21
一般化固有値問題とは
通常の固有値問題は、行列 A に対して、Ax = λx
を満たす固有値 λ と固有ベクトル x を求める問題です。一方、一般化固有値問題は、2つの行列 A と B に対して、Ax = λBx
を満たす固有値 λ と固有ベクトル x を求める問題です。
ggev!() の機能
"LinearAlgebra.LAPACK.ggev!()" は、与えられた2つの行列 A と B について、以下の情報を計算します。
- 行列 A と B の分解
入力行列 A と B を、Schur分解(または一般化Schur分解)の形式に変換します。ggev!()
は、入力行列を直接変更(in-place)します。 - 右固有ベクトル
行列 A と B の右一般化固有ベクトルを計算します。 - 左固有ベクトル
行列 A と B の左一般化固有ベクトルを計算します。 - 一般化固有値
λ = α/β
の形式で表される一般化固有値を計算します。ここで、α と β は複素数です。
ggev!() の引数
"LinearAlgebra.LAPACK.ggev!()" は、以下の引数を取ります。
info::Ref{BlasInt}
: エラーコードを格納する参照です。work::Vector{<:Number}
: 作業用ベクトルです。vr::Matrix{<:Number}
: 右固有ベクトルを格納する行列です (jobvr = 'V' の場合)。vl::Matrix{<:Number}
: 左固有ベクトルを格納する行列です (jobvl = 'V' の場合)。beta::Vector{<:Number}
: 計算された β 値を格納するベクトルです。alpha::Vector{<:Number}
: 計算された α 値を格納するベクトルです。B::Matrix{<:Number}
: 一般化固有値問題における行列 B です。A::Matrix{<:Number}
: 一般化固有値問題における行列 A です。jobvr::Char
: 右固有ベクトルを計算するかどうかを指定します。'N' (計算しない) または 'V' (計算する) を指定します。jobvl::Char
: 左固有ベクトルを計算するかどうかを指定します。'N' (計算しない) または 'V' (計算する) を指定します。
ggev!() の使用例
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
vl = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
vr = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev!('V', 'V', A, B, alpha, beta, vl, vr, work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値 (alpha/beta):")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
println("左固有ベクトル:")
println(vl)
println("右固有ベクトル:")
println(vr)
else
println("エラーが発生しました。エラーコード: ", info[])
end
- エラーコード
info
を確認して、計算が正常に終了したかどうかを確認してください。 - 作業用ベクトル
work
のサイズは、少なくとも8*n
である必要があります。 - 計算結果の一般化固有値は
α/β
の形式で表されます。β が 0 の場合、固有値は無限大になります。 ggev!()
は入力行列 A と B を直接変更します。元の行列を保持する必要がある場合は、コピーを作成してください。
一般的なエラーとトラブルシューティング
-
- エラー
MethodError
やDimensionMismatch
など。 - 原因
引数の型(例:Matrix{Float64}
とMatrix{ComplexF64}
の混在)やサイズが関数が期待するものと異なっている。 - 対策
- 引数の型をドキュメントで確認し、一致させる。
- 行列のサイズが整合しているか(例:A と B が同じサイズであるか)を確認する。
alpha
,beta
,vl
,vr
,work
のサイズが適切か確認する。特にwork
のサイズは8*n
以上である必要がある。
- エラー
-
作業用ベクトル work のサイズ不足
- エラー
LAPACK のエラーコード(info
が 0 以外)が返される。 - 原因
work
ベクトルのサイズが不足している。 - 対策
work
ベクトルのサイズを少なくとも8 * n
に設定する。n
は行列の行数(列数)です。
- エラー
-
エラーコード info が 0 以外の場合
- エラー
LAPACK のエラーを示すinfo
の値。 - 原因
LAPACK の計算中に何らかのエラーが発生した。 - 対策
info
の値を確認し、LAPACK のドキュメントを参照してエラーの内容を特定する。- 行列 A と B の値を確認し、特異な値(例:非常に大きな値や非常に小さな値)がないか確認する。
- 行列 A と B が特異行列(正則でない行列)である場合、一般化固有値問題が適切に解けない可能性がある。
- エラー
-
固有値が NaN や Inf になる場合
- エラー
結果の固有値がNaN
(Not a Number) やInf
(Infinity) になる。 - 原因
- 行列 A や B に特異な値が含まれている。
- 行列 B が特異行列であるため、
β
が 0 になり、α/β
がInf
になる。 - 計算過程での数値的な不安定性。
- 対策
- 入力行列の値をチェックし、特異な値があれば修正する。
- 行列 B の特異性を確認し、必要に応じて正則化を検討する。
- 計算精度を上げるために、より高精度のデータ型(例:
Float64
からBigFloat
)を使用する。
- エラー
-
左/右固有ベクトルが期待通りに計算されない場合
- エラー
計算された固有ベクトルが理論的な結果と異なる。 - 原因
jobvl
やjobvr
の設定が間違っている。- 数値的な誤差が累積している。
- 固有値が重複している場合、固有ベクトルの選択肢が複数存在し、LAPACK が特定の解を選択している。
- 対策
jobvl
とjobvr
の設定を確認し、必要な固有ベクトルが計算されるようにする。- 計算精度を上げる。
- 固有値の重複を確認し、必要に応じて固有ベクトルの解釈を調整する。
- エラー
トラブルシューティングの一般的な手順
- エラーメッセージを確認する
エラーメッセージには、問題の原因に関する重要な情報が含まれています。 - 引数の型とサイズを確認する
ドキュメントを参照して、引数が正しい型とサイズであることを確認します。 - エラーコード info を確認する
info
が 0 以外の場合、LAPACK のドキュメントを参照してエラーの内容を特定します。 - 入力行列をチェックする
行列 A と B の値を確認し、特異な値や特異性がないか確認します。 - 作業用ベクトルのサイズを確認する
work
ベクトルのサイズが十分であることを確認します。 - 計算精度を上げる
必要に応じて、より高精度のデータ型を使用します。 - 簡単な例で試す
問題を特定するために、より小さな行列で試してみます。
例1: 基本的な一般化固有値問題の解法
using LinearAlgebra
# 行列 A と B を定義
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
# 行列のサイズを取得
n = size(A, 1)
# 結果を格納するベクトルと行列を初期化
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
vl = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
vr = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
# 一般化固有値問題を解く (左/右固有ベクトルも計算)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev!('V', 'V', A, B, alpha, beta, vl, vr, work, info)
# 結果の表示
if info[] == 0
println("一般化固有値 (alpha/beta):")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
println("\n左固有ベクトル:")
println(vl)
println("\n右固有ベクトル:")
println(vr)
else
println("エラーが発生しました。エラーコード: ", info[])
end
説明
info
の値が 0 であれば、計算が正常に終了しています。- 計算結果の一般化固有値は
alpha[i] / beta[i]
で求められます。 'V'
,'V'
を引数に指定することで、左固有ベクトルと右固有ベクトルも計算しています。- この例では、2x2 の行列 A と B に対して一般化固有値問題を解いています。
例2: 左固有ベクトルのみを計算する
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
vl = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
# 左固有ベクトルのみを計算
LinearAlgebra.LAPACK.ggev!('V', 'N', A, B, alpha, beta, vl, Matrix{ComplexF64}(undef, n, n), work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値 (alpha/beta):")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
println("\n左固有ベクトル:")
println(vl)
else
println("エラーが発生しました。エラーコード: ", info[])
end
説明
- 右固有ベクトルを格納する引数には、適切なサイズの空の行列を渡しています。
'V'
,'N'
を引数に指定することで、左固有ベクトルのみを計算しています。右固有ベクトルは計算されません。
例3: 固有値のみを計算する
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
# 固有値のみを計算
LinearAlgebra.LAPACK.ggev!('N', 'N', A, B, alpha, beta, Matrix{ComplexF64}(undef, n, n), Matrix{ComplexF64}(undef, n, n), work, info)
if info[] == 0
println("一般化固有値 (alpha/beta):")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
else
println("エラーが発生しました。エラーコード: ", info[])
end
説明
- 固有ベクトルを格納する引数には、適切なサイズの空の行列を渡しています。
'N'
,'N'
を引数に指定することで、固有値のみを計算しています。固有ベクトルは計算されません。
例4: エラー処理の例
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
n = size(A, 1)
alpha = Vector{ComplexF64}(undef, n)
beta = Vector{ComplexF64}(undef, n)
vl = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
vr = Matrix{ComplexF64}(undef, n, n)
work = Vector{ComplexF64}(undef, 8 * n)
info = Ref{BlasInt}(0)
LinearAlgebra.LAPACK.ggev!('V', 'V', A, B, alpha, beta, vl, vr, work, info)
if info[] != 0
println("エラーが発生しました。エラーコード: ", info[])
# エラー処理を行う
if info[] < 0
println("引数", -info[], "が不正です。")
else
println("計算が収束しませんでした。")
end
else
println("一般化固有値 (alpha/beta):")
for i in 1:n
println(alpha[i] / beta[i])
end
end
info
の値に応じて、異なるエラー処理を行うことができます。info
の値を確認し、エラーが発生した場合にエラーメッセージを表示します。
eigen 関数 (一般化固有値問題ではない場合)
- 使用例
- 説明
eigen
関数は、通常の固有値問題Ax = λx
を解くために使用されます。- 一般化固有値問題
Ax = λBx
を解くことはできません。 - 行列 A が対称行列またはエルミート行列の場合、
eigen
関数は効率的なアルゴリズムを使用します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
eigen_result = eigen(A)
println("固有値:")
println(eigen_result.values)
println("\n固有ベクトル:")
println(eigen_result.vectors)
- 欠点
- 一般化固有値問題を解くことはできません。
- 利点
eigen
関数は、ggev!
よりも使いやすく、より簡潔なコードで記述できます。- 対称行列やエルミート行列の場合、効率的な計算が可能です。
GeneralizedEigen 型 (一般化固有値問題用)
- 使用例
- 説明
LinearAlgebra
パッケージに含まれるGeneralizedEigen
型は、一般化固有値問題をより使いやすい形で扱うための型です。ggev
関数(ggev!
の非破壊版)を使用し、結果をGeneralizedEigen
型のオブジェクトとして返します。
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
gen_eigen_result = eigen(A, B)
println("一般化固有値:")
println(gen_eigen_result.values)
println("\n右一般化固有ベクトル:")
println(gen_eigen_result.vectors)
- 欠点
ggev!
よりもオーバーヘッドがわずかに大きくなる可能性があります。
- 利点
ggev!
よりも使いやすく、結果を構造化された形で取得できます。- 非破壊的な関数であるため、元の行列 A と B を変更しません。
Arpack パッケージ (大規模な疎行列の固有値問題)
- 使用例
- 説明
Arpack
パッケージは、大規模な疎行列の固有値問題を効率的に解くためのパッケージです。ggev!
は密行列を対象としているため、大規模な疎行列には適していません。Arpack
パッケージは、特定の固有値(例:最大または最小の固有値)のみを計算することもできます。
using Arpack
using SparseArrays
# 大規模な疎行列 A と B を作成
n = 1000
A = sprand(n, n, 0.1) # 疎行列を生成
B = speye(n)
# 最大の固有値と固有ベクトルを計算
eigen_result = eigs(A, B, nev=1)
println("最大の固有値:")
println(eigen_result[1])
println("\n最大の固有ベクトル:")
println(eigen_result[2])
- 欠点
- 密行列には適していません。
- 使い方が
ggev!
よりも複雑になる場合があります。
- 利点
- 大規模な疎行列の固有値問題を効率的に解くことができます。
- 特定の固有値のみを計算できるため、メモリ使用量を削減できます。
IterativeSolvers パッケージ (反復解法)
- 使用例
- 説明
IterativeSolvers
パッケージは、反復解法を使用して固有値問題を解くためのパッケージです。- 大規模な行列や特異な行列の固有値問題を解く場合に有効です。
- 特定の固有値のみを計算することもできます。
using IterativeSolvers
using LinearAlgebra
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]
B = [5.0 6.0; 7.0 8.0]
# 一般化固有値問題を反復解法で解く
eigen_result = eigsolve(A, B)
println("固有値:")
println(eigen_result[1])
println("\n固有ベクトル:")
println(eigen_result[2])
- 欠点
- 収束に時間がかかる場合があります。
- 使い方が
ggev!
よりも複雑になる場合があります。
- 利点
- 大規模な行列や特異な行列の固有値問題を解くことができます。
- 特定の固有値のみを計算できるため、メモリ使用量を削減できます。
- 大規模な行列や特異な行列の場合は
IterativeSolvers
パッケージを使用します。 - 大規模な疎行列の場合は
Arpack
パッケージを使用します。 - 一般化固有値問題をより簡単に扱う場合は
eigen(A,B)
を使用します。 - 通常の固有値問題の場合は
eigen
関数を使用します。