Juliaプログラミング初心者必見!GeneralizedEigenのエラーと解決策

2025-05-27

Juliaプログラミング言語のLinearAlgebra.GeneralizedEigenは、一般化固有値問題を解くための型(構造体)です。

通常の固有値問題は、行列Aに対して次の式を満たす非ゼロベクトルvとスカラーλを求めるものです。 Av=λv

これに対し、一般化固有値問題は、2つの行列AとBに対して、次の式を満たす非ゼロベクトルvとスカラーλを求めるものです。 Av=λBv

ここで、LinearAlgebra.GeneralizedEigenは、この一般化固有値問題の解である固有値のリストと、対応する固有ベクトルの行列を格納するためのデータ構造です。

具体的には、JuliaのLinearAlgebraモジュールにあるeigen関数を2つの行列引数(AB)で呼び出すと、GeneralizedEigen型のオブジェクトが返されます。

GeneralizedEigenオブジェクトの主な要素

  • F.vectors: 各固有値に対応する一般化固有ベクトル(v)が列ベクトルとして格納された行列が含まれます。
  • F.values: 計算された一般化固有値(λ)のリスト(ベクトル)が含まれます。

使用例

using LinearAlgebra

# 行列AとBを定義
A = [1 0; 0 -1]
B = [0 1; 1 0]

# 一般化固有値分解を実行
F = eigen(A, B)

# 結果の確認
println("一般化固有値: ", F.values)
println("一般化固有ベクトル: \n", F.vectors)

# 個々の固有値と固有ベクトルにアクセス
vals, vecs = F # 分解オブジェクトをイテレートして値を取り出すことも可能
println("vals: ", vals)
println("vecs: \n", vecs)

この例では、A=(10​0−1​) と B=(01​10​) の一般化固有値問題を解いています。

なぜGeneralizedEigenを使うのか?

GeneralizedEigen型は、単に固有値と固有ベクトルを返すだけでなく、それらが「一般化固有値分解」の結果であることを明確に示します。また、内部的にはこれらの計算が最適化されたLAPACKルーチンなどを使用して行われるため、効率的な数値計算が可能です。



特異行列 (Singular Matrices)

エラーの例
LinearAlgebra.SingularException

説明
一般化固有値問題 Av=λBv において、行列Bが特異行列(可逆ではない、つまりdet(B) == 0)である場合、問題が適切に定義されない、あるいは無限の固有値を持つなどの特殊なケースになります。特に、eigen(A, B) が内部で B の逆行列を計算しようとする場合に発生することがあります。

トラブルシューティング

  • 問題が「特異ペンシル」の場合
    • A−λB がすべてのλに対して特異となる場合、これを「特異ペンシル」と呼びます。この場合、通常のeigen関数では扱えず、Kronecker標準形などのより高度な理論や、DAE (Differential-Algebraic Equation) ソルバーなど、特定の数値ライブラリの利用が必要になることがあります。これは非常に複雑な問題であり、一般的な固有値ソルバーの範疇を超えます。
  • 問題の定式化を見直す
    • 物理的な問題や数学的なモデルから導出された行列であれば、定式化に誤りがないか確認します。特異なBは、しばしば冗長な制約やモデルの不整合を示唆します。
  • B が本当に特異行列か確認する
    • det(B) を計算してゼロに近いかどうかを確認します。(浮動小数点数の丸め誤差に注意)
    • rank(B) と行列の次元を比較します。rank(B) が次元よりも小さい場合、特異行列です。

数値的安定性 (Numerical Stability)

説明
行列の要素のスケールが大きく異なる場合、または行列が非常に「悪条件」な場合(小さな摂動が大きな結果の変化を引き起こす場合)、数値計算上の誤差が大きくなり、結果の精度が低下したり、NaNInfのような非数値が出力されたりすることがあります。

トラブルシューティング

  • 固有値分解の選択肢
    • eigen(A, B) は内部的にQZアルゴリズムを使用しますが、より専門的なパッケージ(例: Arpack.jlを使った大規模疎行列向けソルバー)が、特定の構造を持つ行列に対してより安定した結果を提供することがあります。
  • 条件数の確認
    • cond(A)cond(B) を使って行列の条件数を確認します。条件数が非常に大きい(例: 1010以上)場合、その問題は本質的に難しく、数値的な不安定性を引き起こしやすいです。
  • データの型
    • デフォルトのFloat64で問題が発生する場合、BigFloatなどの高精度浮動小数点型を使用することを検討します。ただし、計算時間は長くなります。
  • 行列のスケーリング
    • 行列AとBの要素を適切なスケールに調整します。例えば、物理的な単位系を見直したり、各列/行をそのノルムで割ったりする方法があります。
    • LinearAlgebra.normalize! やカスタムスケーリング関数を使用します。

メモリ不足 (Out of Memory)

エラーの例
OutOfMemoryError()

説明
非常に大きな行列(特に密行列)の一般化固有値問題を解く場合、計算に必要なメモリが不足することがあります。

トラブルシューティング

  • より少ない固有値/固有ベクトルの計算
    • すべての固有値や固有ベクトルが必要ない場合(例えば、最大または最小の固有値ペアのみが必要な場合)、Arpack.jleigs関数など、一部の固有値のみを計算するソルバーを使用します。これにより、必要なメモリ量を大幅に削減できます。
  • メモリの増設
    • ハードウェア的に可能であれば、RAMを増設することを検討します。
  • 疎行列の利用
    • 行列の要素のほとんどがゼロである場合、SparseArrays.jlパッケージのSparseMatrixCSCなどの疎行列型を使用します。eigen関数は疎行列を直接サポートしていませんが、Arpack.jlのようなパッケージは疎行列に特化した効率的な固有値ソルバー(例: Arnoldi法)を提供します。

非対称行列または非エルミート行列 (Non-Symmetric / Non-Hermitian Matrices)

説明
eigen(A, B) は、一般的に非対称または非エルミート行列のペアにも対応していますが、対称(エルミート)行列に比べて固有値が複素数になったり、数値的に不安定になることがあります。また、一部の最適化された固有値分解ルーチンは、対称/エルミート行列の特性を利用するため、誤った型で渡すとエラーになったり、非効率になったりすることがあります。

トラブルシューティング

  • Symmetric() / Hermitian() ラッパー
    • 行列が理論上対称またはエルミートであることが分かっている場合、Symmetric(A)Hermitian(B) のように明示的にラップすることで、Juliaは内部的に最適化されたルーチンを選択し、精度や速度が向上することがあります。ただし、行列が実際にこれらの特性を持っていない場合、エラー(例: PosDefException for Cholesky)が発生することもあります。
  • 期待される固有値の型
    • 結果として複素数の固有値や固有ベクトルが得られた場合、それは必ずしもエラーではありません。非対称な一般化固有値問題の解は、一般に複素数です。

説明
これは特に、eigen(A, Symmetric(B)) のように、B を Symmetric でラップし、かつ B が正定値(または半正定値)であると仮定されるような文脈で発生します。一部の一般化固有値ソルバー(特にBが正定値である場合に最適化されたもの)は、内部でBのコレスキー分解を実行しようとします。コレスキー分解は正定値行列に対してのみ可能です。

  • より一般的なソルバーの使用
    • B が正定値である必要がない場合、Symmetric(B) のラッパーを使わずに、素の行列A,Bをeigen(A, B)に渡します。これにより、より一般的なQZアルゴリズムが使用され、正定値性の制約を受けなくなります。
  • B が正定値であるか確認
    • B が正定値であるべき問題設定であるならば、その行列が実際に正定値であるか確認します。isposdef(B) を使用できます。
    • B が正定値でない場合、Symmetric(B) でラップするのをやめるか、問題の定式化を見直します。


例1: 基本的な一般化固有値問題の解法

これは最も基本的な使用例で、Av=λBv を解きます。

using LinearAlgebra

println("--- 例1: 基本的な一般化固有値問題 ---")

# 行列 A と B を定義
A = [4.0  -2.0;
    1.0   1.0]

B = [2.0   1.0;
    -1.0  3.0]

println("行列 A:\n", A)
println("行列 B:\n", B)

# 一般化固有値問題を解く
# eigen(A, B) は GeneralizedEigen 型のオブジェクトを返す
F = eigen(A, B)

println("\nGeneralizedEigen オブジェクト F:\n", F)

# 固有値にアクセス (F.values)
generalized_eigenvalues = F.values
println("\n一般化固有値 (λ):\n", generalized_eigenvalues)

# 固有ベクトルにアクセス (F.vectors)
# 各列が対応する固有値の固有ベクトル
generalized_eigenvectors = F.vectors
println("\n一般化固有ベクトル (v) (各列が固有ベクトル):\n", generalized_eigenvectors)

# 結果の検証: Av = λBv が成り立つか確認
println("\n--- 結果の検証 ---")
for i in 1:length(generalized_eigenvalues)
    lambda = generalized_eigenvalues[i]
    v = generalized_eigenvectors[:, i]

    Av = A * v
    Bv = B * v
    lambda_Bv = lambda * Bv

    println("\n固有値 λ[$i]: ", lambda)
    println("固有ベクトル v[$i]: ", v)
    println("A * v[$i]: ", Av)
    println("λ[$i] * B * v[$i]: ", lambda_Bv)

    # 浮動小数点数の比較のため、差が非常に小さいことを確認
    if norm(Av - lambda_Bv) < 1e-9
        println("  -> 検証OK (Av ≈ λBv)")
    else
        println("  -> 検証NG (Av と λBv が一致しません)")
    end
end

解説

  • 浮動小数点数の比較では、直接==を使うのではなく、ノルムの差が非常に小さいことを確認することで、数値的な誤差を考慮します。
  • 返されるFGeneralizedEigen型のオブジェクトで、F.valuesで固有値のベクトル、F.vectorsで固有ベクトルを列にもつ行列にアクセスできます。
  • eigen(A, B) が一般化固有値問題を解くための主要な関数です。

例2: 対称一般化固有値問題と正定値行列B

AとBが対称行列で、Bが正定値行列の場合、いくつかのアルゴリズムが高速化され、固有値は常に実数になります。この場合、Symmetric(B)のようにBを明示的にSymmetricでラップできます。

using LinearAlgebra

println("\n--- 例2: 対称一般化固有値問題 (Bが正定値) ---")

# 対称行列 A と B を定義
A_sym = [3.0  2.0;
         2.0  6.0]

B_posdef = [2.0  0.0;
            0.0  4.0] # 正定値行列の簡単な例 (対角要素が正)

println("対称行列 A_sym:\n", A_sym)
println("対称行列 B_posdef:\n", B_posdef)

# Bが正定値であることを確認
println("B_posdef は正定値か? ", isposdef(B_posdef))

# 対称一般化固有値問題を解く
# BをSymmetricでラップすることで、内部的にコレスキー分解などが利用され、高速化・安定化される
F_sym = eigen(A_sym, Symmetric(B_posdef))

println("\nGeneralizedEigen オブジェクト F_sym:\n", F_sym)

generalized_eigenvalues_sym = F_sym.values
generalized_eigenvectors_sym = F_sym.vectors

println("\n一般化固有値 (λ):\n", generalized_eigenvalues_sym)
println("\n一般化固有ベクトル (v):\n", generalized_eigenvectors_sym)

# この場合、固有値は常に実数になる
println("固有値は全て実数か? ", eltype(generalized_eigenvalues_sym) <: Real)

解説

  • isposdef(B) は行列が正定値であるかをチェックする関数です。
  • Symmetric(B_posdef) を使うことで、JuliaはBが対称であると認識し、内部的に最適化されたルーチン(例えばBのコレスキー分解を利用したアルゴリズム)を選択します。

例3: 質量減衰系における振動解析 (構造工学の応用例)

これは一般的な工学応用例で、質量Mと剛性Kの行列を持つ減衰なし多自由度系の固有振動数とモード形状を計算します。方程式は Kx=ω2Mx となり、これは Kx=λMx(ここで λ=ω2)の一般化固有値問題に帰着します。

using LinearAlgebra

println("\n--- 例3: 質量減衰系における振動解析 ---")

# 質量行列 (M) と剛性行列 (K) を定義
# 2自由度系の例
M = [2.0  0.0;
     0.0  1.0] # 質量行列 (通常は対角行列で正定値)

K = [3.0  -1.0;
    -1.0   1.0] # 剛性行列 (通常は対称で半正定値、拘束があれば正定値)

println("質量行列 M:\n", M)
println("剛性行列 K:\n", K)

# Mが正定値であることを確認
println("M は正定値か? ", isposdef(M))

# 一般化固有値問題を解く: Kx = λMx (λ = ω^2)
F_vibration = eigen(K, Symmetric(M)) # Mが対称かつ正定値と仮定

# 固有値 (ω^2)
omega_squared = F_vibration.values
# 固有ベクトル (モード形状)
mode_shapes = F_vibration.vectors

println("\n固有値 (ω^2) (角振動数の二乗):\n", omega_squared)
println("\n固有振動数 (ω):\n", sqrt.(abs.(omega_squared))) # 負の固有値が出た場合に備えてabs
println("\nモード形状 (固有ベクトル):\n", mode_shapes)

# 各モード形状をプロットするなどの可視化ステップはここでは省略
# 例えば Plots.jl を使ってモード形状を可視化できます

# モード形状の正規化 (例: 各モードの最大要素を1に正規化)
println("\n--- モード形状の正規化 (最大要素を1に) ---")
normalized_mode_shapes = similar(mode_shapes)
for j in 1:size(mode_shapes, 2)
    col = mode_shapes[:, j]
    max_val = maximum(abs.(col))
    if max_val != 0
        normalized_mode_shapes[:, j] = col ./ max_val
    else
        normalized_mode_shapes[:, j] = col # 全てゼロのベクトルの場合
    end
end
println("正規化されたモード形状:\n", normalized_mode_shapes)

解説

  • モード形状は、物理的な構造の変形パターンを示します。
  • sqrt.(abs.(omega_squared)) は、固有値が負になる可能性を考慮して絶対値を取り、その平方根を取ることで固有振動数 (ω) を計算します。通常、物理的に意味のある振動系では正の固有値が得られます。
  • 振動解析では、通常、質量行列Mは正定値、剛性行列Kは正定値または半正定値の対称行列になります。

非常に大きな行列(特にほとんどの要素がゼロの疎行列)の場合、LinearAlgebra.eigenはメモリ効率が悪く、計算時間も長くなります。このような場合、Arpack.jlのようなパッケージが提供するeigs関数が非常に有効です。これは、すべての固有値ではなく、指定された数の固有値と固有ベクトルのみを計算します。

注意
Arpack.jlは別途インストールが必要です (Pkg.add("Arpack"))。

using LinearAlgebra
using SparseArrays # 疎行列を扱うためのモジュール
using Arpack       # 大規模固有値問題を解くためのパッケージ

println("\n--- 例4: 疎行列の一般化固有値問題 (Arpack.jl の eigs を使用) ---")

# 大きな疎行列を生成する例
n = 1000
A_sparse = spdiagm(0 => rand(n), 1 => rand(n-1), -1 => rand(n-1)) # 対角要素とその隣接要素を持つ疎行列
B_sparse = spdiagm(0 => rand(n) .+ 0.1) # 別の疎行列 (正定値性を確保するために対角要素に0.1を加える)

println("疎行列 A_sparse のサイズ: ", size(A_sparse))
println("疎行列 B_sparse のサイズ: ", size(B_sparse))
println("A_sparse の非ゼロ要素数: ", nnz(A_sparse))
println("B_sparse の非ゼロ要素数: ", nnz(B_sparse))

# いくつかの(例えば6つの)最大絶対値の固有値を計算
k = 6
sigma = :LR # "Largest Real part" - 最大の実数部の固有値を求める
# sigma = :LM # "Largest Magnitude" - 最大絶対値の固有値を求める (より一般的)

# eigs 関数を使って疎行列の一般化固有値問題を解く
# 戻り値: (固有値ベクトル, 固有ベクトル行列)
# eigen(A, B) と異なり、GeneralizedEigen オブジェクトは返されない
eigenvalues_arpack, eigenvectors_arpack = eigs(A_sparse, B_sparse, nev=k, which=sigma)

println("\nArpack.jl で計算された上位 $(k) 個の固有値:\n", eigenvalues_arpack)
println("\nArpack.jl で計算された対応する固有ベクトル (最初の数行):\n")
println(eigenvectors_arpack[1:min(5, n), 1:k]) # 最初の5行とk列を表示

# 結果の検証 (手動で行う場合)
# for i in 1:k
#     lambda = eigenvalues_arpack[i]
#     v = eigenvectors_arpack[:, i]
#     Av = A_sparse * v
#     Bv = B_sparse * v
#     lambda_Bv = lambda * Bv
#     println("\nArpack 検証 λ[$i]: norm(Av - λBv) = ", norm(Av - lambda_Bv))
# end
  • eigseigenと異なり、GeneralizedEigenオブジェクトではなく、固有値のベクトルと固有ベクトルの行列を直接返します。
  • Arpack.jleigs(A, B, nev=k, which=sigma) は、AとBが疎行列である場合に、指定されたk個の固有値をwhichで指定された基準(例: :LMで最大絶対値)に従って計算します。
  • SparseArrays.jlspdiagmを使って対角行列を生成し、疎行列として扱います。


行列変換による標準固有値問題への帰着 (When B is invertible)

最も一般的な代替手段は、一般化固有値問題 Av=λBv を標準固有値問題 Cx=λx の形に変換することです。

方法 A: B−1Av=λv

もし行列 B が可逆であれば、両辺に B−1 を左から掛けることで、標準的な固有値問題 B−1Av=λv に変換できます。

using LinearAlgebra

println("--- 代替方法 A: B^-1 A を計算 ---")

A = [4.0  -2.0;
     1.0   1.0]

B = [2.0   1.0;
    -1.0  3.0]

println("元の行列 A:\n", A)
println("元の行列 B:\n", B)

# Bが可逆か確認
if det(B) ≈ 0
    println("B は特異行列なので、この方法は使えません。")
else
    # Bの逆行列を計算
    B_inv = inv(B)
    println("\nBの逆行列 B_inv:\n", B_inv)

    # C = B_inv * A を計算
    C = B_inv * A
    println("\n変換された行列 C = B_inv * A:\n", C)

    # C の標準固有値問題を解く
    F_std = eigen(C)

    println("\n標準固有値 (λ) from C:\n", F_std.values)
    println("標準固有ベクトル (v) from C:\n", F_std.vectors)

    # `eigen(A, B)`の結果と比較
    F_gen = eigen(A, B)
    println("\n`eigen(A, B)` の固有値:\n", F_gen.values)
    println("`eigen(A, B)` の固有ベクトル (正規化されていない場合、向きが異なる可能性):\n", F_gen.vectors)
end

利点

  • $B^{-1}A$ の計算が効率的であれば良い選択肢となります。
  • eigen(C) は標準的な固有値ソルバーを使用するため、概念的に単純です。

欠点

  • B の逆行列を明示的に計算するため、行列が非常に大きい場合や、条件数が悪い(ill-conditioned)場合は、数値的に不安定になる可能性があります。これは、eigen(A, B) が通常、逆行列の計算を伴わないQZアルゴリズムのようなより安定した手法を用いるのと対照的です。
  • B が特異行列の場合は使用できません。

方法 B: B が対称正定値の場合(コレスキー分解を利用)

もし B が対称正定値行列であれば、コレスキー分解 B=LLT を利用して、より安定した方法で標準固有値問題に変換できます。

Av=λBv Av=λLLTv L−1Av=λLTv L−1A(LT)−1LTv=λLTv

ここで、x=LTv と置くと、 (L−1A(L−1)T)x=λx つまり、C=L−1A(L−1)T の標準固有値問題に帰着します。元の固有ベクトル v は v=(LT)−1x で得られます。

using LinearAlgebra

println("\n--- 代替方法 B: Bのコレスキー分解を利用 (Bが対称正定値の場合) ---")

A = [3.0  2.0;
     2.0  6.0] # 対称行列

B = [2.0  0.0;
     0.0  4.0] # 対称正定値行列

println("元の行列 A:\n", A)
println("元の行列 B:\n", B)

# Bが対称正定値か確認
if isposdef(B) && issymmetric(B)
    # Bのコレスキー分解 B = L * L'
    C_B = cholesky(B)
    L = C_B.L # 下三角行列
    println("\nBのコレスキー分解L:\n", L)

    # 変換された行列 C = inv(L) * A * inv(L)' を計算
    # inv(L)の代わりにLの逆行列の積を左から掛ける形 `L \ A` を使うのが数値的に安定
    C = inv(L) * A * inv(L)' # あるいは L \ A / L' と書くこともできる
    # C = L' \ (L \ A) # これは違う
    # C = L' \ (L \ A) # これは A = L M L' の時の M を求める計算に近い
    # 正しいのは L' \ (A / L')
    # C = L' \ (A / L') # Juliaでは (L') \ A * inv(L) と書くと遅い可能性
    # 実際は L \ A を計算してから (L') \ (L \ A) を計算
    # C = L' \ (L \ A) は C = (L')^(-1) (L^(-1) A) = (L'L)^(-1) A = B^(-1) A なのでこれは違う
    # C = L' \ (A / L')  => C = L^(-T) A L^(-1)
    # C = inv(L) * A * inv(L)' が意図した形
    println("\n変換された行列 C = inv(L) * A * inv(L)':\n", C)

    # C の標準固有値問題を解く
    F_std = eigen(C)
    eigenvalues_std = F_std.values
    eigenvectors_x = F_std.vectors

    println("\n標準固有値 (λ) from C:\n", eigenvalues_std)
    println("変換された固有ベクトル (x) from C:\n", eigenvectors_x)

    # 元の固有ベクトル v を計算: v = (L^T)^(-1) x
    # Juliaでは L' \ x の形で計算するのが安定
    generalized_eigenvectors_v = L' \ eigenvectors_x
    println("\n元の一般化固有ベクトル (v) from x:\n", generalized_eigenvectors_v)

    # `eigen(A, B)`の結果と比較
    F_gen = eigen(A, Symmetric(B)) # Symmetric(B) を使うと Bの正定値性が利用される
    println("\n`eigen(A, Symmetric(B))` の固有値:\n", F_gen.values)
    println("`eigen(A, Symmetric(B))` の固有ベクトル:\n", F_gen.vectors)
else
    println("B は対称正定値行列ではないため、この方法は使えません。")
end

利点

  • コレスキー分解は常に可能で、一意です。
  • B が対称正定値の場合、数値的に非常に安定しています。

欠点

  • B が対称正定値であるという強い制約があります。

特定の固有値/固有ベクトルのみを計算 (大規模疎行列向け)

すべての固有値や固有ベクトルが必要ない場合、または行列が非常に大規模で密行列として扱えない(メモリに収まらない)場合、反復法に基づくソルバーが使われます。

Arpack.jl の eigs 関数

Arpack.jl パッケージは、疎行列や大規模行列の一般化固有値問題に対して、Arnoldi法やLanczos法などの反復法を提供します。これにより、上位または下位の少数の固有値と固有ベクトルを効率的に計算できます。

using LinearAlgebra
using SparseArrays
using Arpack # Pkg.add("Arpack") でインストール

println("\n--- 代替方法: Arpack.jl の eigs を使用 ---")

# 大きな疎行列の例 (例4と同様)
n = 1000
A_sparse = spdiagm(0 => rand(n), 1 => rand(n-1), -1 => rand(n-1))
B_sparse = spdiagm(0 => rand(n) .+ 0.1) # Bが正定値になるように

# 計算したい固有値の数
k = 5

# どのような固有値を探すか ('LM': 最大絶対値, 'LR': 最大実部, 'SM': 最小絶対値など)
which_eigen = :LM

println("疎行列 A_sparse のサイズ: ", size(A_sparse))
println("疎行列 B_sparse のサイズ: ", size(B_sparse))
println("計算する固有値の数: ", k)
println("探す固有値の基準: ", which_eigen)

# eigs を使って一般化固有値問題を解く
# (eigenvalues, eigenvectors) のタプルを返す
eigenvalues_arpack, eigenvectors_arpack = eigs(A_sparse, B_sparse, nev=k, which=which_eigen)

println("\nArpack.jl で計算された $(k) 個の固有値:\n", eigenvalues_arpack)
println("\nArpack.jl で計算された対応する固有ベクトル (最初の5行):\n", eigenvectors_arpack[1:min(5,n), :])

利点

  • すべての固有値を計算する必要がない場合に最適です。
  • 大規模な疎行列に対して非常にメモリ効率が良く、高速です。

欠点

  • which オプションでどのような固有値を探すか指定する必要があり、全ての固有値の範囲をカバーできるわけではありません。
  • 特定の数の固有値しか計算できないため、すべての固有値が必要な場合は不向きです。
  • 密行列に対しては、eigen(A, B) よりも遅くなる場合があります。

JuliaのLinearAlgebraモジュールは、内部的にLAPACK (Linear Algebra PACKage) やBLAS (Basic Linear Algebra Subprograms) のC/Fortranライブラリを呼び出しています。上級ユーザーは、LinearAlgebra.LAPACKモジュールを通じてこれらの低レベル関数に直接アクセスすることも可能です。

例えば、一般化固有値問題を解くLAPACKルーチンには ggev (一般非対称行列用) や syevd/heevd (対称/エルミート行列用) のようなものがあります。

using LinearAlgebra

println("\n--- 代替方法: LAPACK直接アクセス (例: LAPACK.ggev) ---")

A = [4.0  -2.0;
     1.0   1.0]

B = [2.0   1.0;
    -1.0  3.0]

# LAPACK.ggev を呼び出す例 (A, B のコピーが必要な場合がある)
# ggev! はインプレースでAとBを上書きする可能性があるので注意
# 引数の詳細はLAPACKのドキュメントを参照する必要がある
# eigen(A, B) は内部的にこれを呼び出していることが多い
# 戻り値: α (alpha), β (beta), 左固有ベクトル, 右固有ベクトル
# λ = α / β

alpha, beta, vl, vr = LAPACK.ggev!('N', 'V', copy(A), copy(B))

println("\nLAPACK.ggev! による α:\n", alpha)
println("LAPACK.ggev! による β:\n", beta)
println("LAPACK.ggev! による右固有ベクトル (vr):\n", vr)

# 固有値 λ = α ./ β を計算
# βが非常に小さい場合、発散する可能性がある (無限大の固有値に対応)
lapack_eigenvalues = alpha ./ beta
println("\nLAPACK.ggev! から計算された固有値 (λ = α/β):\n", lapack_eigenvalues)

# `eigen(A, B)`の結果と比較
F_gen = eigen(A, B)
println("\n`eigen(A, B)` の固有値:\n", F_gen.values)

利点

  • 稀なケースで、既存のJulia関数では対応できない特殊な要求がある場合に役立つことがあります。
  • 非常に細かな制御が可能で、特定のアルゴリズムの挙動を調整したい場合に有用です。
  • 誤った使用は、バグやパフォーマンスの低下につながる可能性があります。
  • 通常の用途では、LinearAlgebra.eigenArpack.jlを使う方がはるかに簡単で、十分に最適化されています。
  • 複雑で、LAPACKのAPIに関する深い知識が必要です。