Juliaプログラミング:BLAS.rot!のエラー解決とトラブルシューティング

2025-05-27

BLASとは?

まず、BLAS について簡単に説明します。BLASは、ベクトル、行列の基本的な線形代数演算(ベクトルの足し算、スカラー倍、内積、行列とベクトルの積、行列の積など)を効率的に実行するための標準的なルーチンの集合です。これらのルーチンは、FortranやC言語で高度に最適化されており、高性能な数値計算ライブラリ(例えばOpenBLASやIntel MKLなど)によって提供されます。Juliaの LinearAlgebra モジュールは、これらの最適化されたBLASルーチンへのインターフェースを提供しており、ユーザーはそれらを簡単に利用できます。

関数の名前に ! が付いているのは、Juliaの慣習で、その関数が引数として渡されたオブジェクトを「インプレース」(in-place、その場で)変更することを示します。つまり、rot!() は新しい配列を返すのではなく、既存の配列の内容を直接変更します。

rot!() の機能:Givens回転

rot!() 関数は、2つのベクトルにGivens回転を適用します。Givens回転は、平面内のベクトルを回転させるための直交行列(Givens行列)による変換です。主に、行列のある要素をゼロにする目的で使われます。例えば、QR分解などのアルゴリズムで利用されます。

Givens回転は、2つのベクトル x と y に対して、以下のように作用します。

(c−s​sc​)(xi​yi​​)=(xi′​yi′​​)

ここで、c=cos(θ)、s=sin(θ) であり、θ は回転角です。

LinearAlgebra.BLAS.rot!(n, x, incx, y, incy, c, s) の一般的な形式は次のようになります。

  • s: Givens回転のサイン値 ($ \sin(\theta) $)。
  • c: Givens回転のコサイン値 ($ \cos(\theta) $)。
  • incy: y の要素間のストライド。
  • y: 2番目のベクトル(Array)。
  • incx: x の要素間のストライド(increment)。例えば、incx=1 なら連続した要素を、incx=2 なら一つ飛ばしで要素を処理します。
  • x: 最初のベクトル(Array)。
  • n: 処理する要素の数。

この関数は、ベクトル xyn 個の要素に対して、指定されたストライド (incx, incy) に従ってGivens回転を適用し、結果をそれぞれのベクトルにインプレースで書き込みます。

using LinearAlgebra

# 2つのベクトル
x = [1.0, 2.0, 3.0, 4.0]
y = [5.0, 6.0, 7.0, 8.0]

# Givens回転のパラメータ(適当な例)
c = cos(pi/4) # 45度の回転
s = sin(pi/4)

println("変更前 x: ", x)
println("変更前 y: ", y)

# 最初の2つの要素に対してGivens回転を適用
# n=2, incx=1, incy=1
LinearAlgebra.BLAS.rot!(2, x, 1, y, 1, c, s)

println("変更後 x: ", x)
println("変更後 y: ", y)

# 結果の確認(手計算で検証すると分かりやすい)
# x[1] = 1.0, y[1] = 5.0
# x'[1] = c*x[1] + s*y[1] = (1/√2)*1.0 + (1/√2)*5.0 = 6.0/√2 ≈ 4.24
# y'[1] = -s*x[1] + c*y[1] = -(1/√2)*1.0 + (1/√2)*5.0 = 4.0/√2 ≈ 2.82
# x[2] = 2.0, y[2] = 6.0
# x'[2] = c*x[2] + s*y[2] = (1/√2)*2.0 + (1/√2)*6.0 = 8.0/√2 ≈ 5.65
# y'[2] = -s*x[2] + c*y[2] = -(1/√2)*2.0 + (1/√2)*6.0 = 4.0/√2 ≈ 2.82

この例では、xy の最初の2つの要素がGivens回転によって変更されることがわかります。残りの要素は変更されません。



rot!() はBLAS (Basic Linear Algebra Subprograms) のルーチンであり、効率的な数値計算のために特定のルールに従って設計されています。エラーは主に引数の型、次元、値の不一致から発生します。

エラー: MethodError: no method matching rot! (引数の型や数が間違っている)

原因
rot!() 関数に渡す引数の型が間違っているか、引数の数が不足している、あるいは多すぎる場合に発生します。BLAS関数は通常、特定の数値型 (例: Float64, Float32, ComplexF64, ComplexF32) と配列の次元に厳密です。


  • n, incx, incy が整数でない。
  • cs (コサイン、サイン値) が数値型でない。
  • 整数型の配列を渡してしまう。

トラブルシューティング

  • ドキュメントを参照する
    公式ドキュメントで rot!() の正確なシグネチャ(引数の型と順序)を確認してください。
  • 引数の型を確認する
    xyAbstractVector{<:BlasFloat} のサブタイプである必要があります。BlasFloatFloat32, Float64, ComplexF32, ComplexF64 のいずれかです。cs も同じ BlasFloat 型である必要があります。n, incx, incy は整数型 (Integer) である必要があります。
# 例: 整数型の配列を渡すとエラーになる
x_int = [1, 2, 3]
y_int = [4, 5, 6]
c_val = cos(pi/4)
s_val = sin(pi/4)

# これを実行すると MethodError が発生する可能性が高い
# LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, x_int, 1, y_int, 1, c_val, s_val)

# 正しい型に変換
x_float = convert(Vector{Float64}, x_int)
y_float = convert(Vector{Float64}, y_int)
LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, x_float, 1, y_float, 1, c_val, s_val) # これは動く

エラー: BoundsError (配列の範囲外アクセス)

原因
n (処理する要素数)、incx (xのストライド)、incy (yのストライド) の値が、ベクトル x または y の実際のサイズと矛盾する場合に発生します。BLASはメモリを直接操作するため、境界チェックが非常に重要です。


  • incxincy がゼロ。
  • n * abs(incy)length(y) を超えている。
  • n * abs(incx)length(x) を超えている。

トラブルシューティング

  • 最小限の例でテスト
    問題を切り分けるために、非常に小さな配列と n, incx, incy の値で関数を試してみてください。
  • 負のストライド
    ストライドは負の値を取ることができますが、その場合でもアクセス範囲は有効である必要があります。
  • ストライドと要素数の計算
    実際にアクセスする要素の「最後のインデックス」が配列の長さを超えないように確認します。
    • x の最後のインデックス: 1 + (n - 1) * abs(incx)
    • y の最後のインデックス: 1 + (n - 1) * abs(incy) これらの値がそれぞれ length(x) および length(y) 以下であることを確認してください。
x = ones(Float64, 5)
y = ones(Float64, 5)
c = 1.0; s = 0.0

# これはOK (最後のインデックスは 1 + (3-1)*1 = 3 <= 5)
LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, x, 1, y, 1, c, s)

# これだと BoundsError (最後のインデックスが 1 + (5-1)*2 = 9 > 5)
# LinearAlgebra.BLAS.rot!(5, x, 2, y, 2, c, s)

エラー: DimensionMismatch (配列の次元が不適切)

原因
これは rot!() では直接発生しにくいエラーですが、例えば xyMatrix を渡そうとした場合などに発生する可能性があります。rot!() はベクトルに対して動作することを想定しています。

トラブルシューティング

  • Vector を渡す
    xy が1次元配列 (Vector) であることを確認してください。もし行列の一部を扱いたい場合は、view を使ってベクトルとして扱えるようにします。
M = rand(Float64, 3, 3)
v = rand(Float64, 3)

# エラー: `rot!` はベクトルを期待する
# LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, M[:, 1], 1, v, 1, 0.5, 0.5)

# 正しい使い方 (カラムをビューとして渡す)
LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, view(M, :, 1), 1, v, 1, 0.5, 0.5)

予期せぬ結果 / 数値的な不安定性

原因
これはエラーメッセージとして現れるわけではありませんが、計算結果が期待通りでない、あるいは NaN (Not a Number) や Inf (Infinity) が生成される場合があります。

  • 入力データのスケール
    極端に大きな値や小さな値を含むベクトルに対して操作を行うと、浮動小数点数の精度限界により問題が生じることがあります。
  • c と s の値
    c^2 + s^2 が1に非常に近い値でない場合、回転が直交性を保たず、数値的な問題を引き起こす可能性があります。

トラブルシューティング

  • ゼロの扱い
    incxincy がゼロの場合、無限ループや予期せぬ動作につながる可能性があります。これらは通常1以上の整数であるべきです。
  • データ型の選択
    Float32 よりも Float64 の方が高い精度を提供します。精度が問題になる場合は、Float64 を使用してください。
  • 入力データの正規化
    必要に応じて、操作前にデータをスケーリングし、操作後に元に戻すことを検討します。
  • c^2 + s^2 の確認
    cs がGivens回転の定義を満たしているか、つまり c2+s2≈1 であるかを確認します。通常は hypot(s, c) を使って計算するのが良いでしょう(これはオーバーフローやアンダーフローに強い)。

BLASライブラリに関する問題

これはJuliaの一般的なBLAS関連のエラーですが、rot!() にも影響する可能性があります。

原因
Juliaが使用しているBLASライブラリが適切にロードされていない、あるいは競合している場合に発生することがあります。例えば、OpenBLASとMKL (Intel Math Kernel Library) の切り替えがうまくいっていない、またはシステムにBLASライブラリがインストールされていない、などです。

  • Juliaの再インストール/アップデート
    まれにJuliaのインストール自体に問題がある場合があります。最新の安定版にアップデートするか、再インストールを検討してください。
  • パッケージの競合
    特定のパッケージが独自のBLASライブラリをロードし、既存のBLAS設定と競合することが稀にあります。もし特定のパッケージをインストール後に問題が発生した場合は、そのパッケージをアンインストールしてみるか、パッケージのドキュメントを確認してください。
  • 環境変数の確認
    JULIA_BLAS_ENGINE などの環境変数がBLASライブラリの選択に影響を与えることがあります。
  • BLAS設定の確認
    LinearAlgebra.BLAS.get_config() を実行して、JuliaがどのBLASライブラリを使用しているかを確認します。


以下にいくつかの使用例を挙げ、それぞれのコードとその説明を提供します。

例1: 最も基本的なGivens回転の適用

これは、rot!() の最も直接的な使用例です。2つのベクトルの一部にGivens回転を適用します。

using LinearAlgebra

# 2つのベクトルを定義(Float64型が推奨)
x = [1.0, 2.0, 3.0, 4.0, 5.0]
y = [6.0, 7.0, 8.0, 9.0, 10.0]

println("--- 例1: 最も基本的なGivens回転の適用 ---")
println("初期状態:")
println("x = ", x)
println("y = ", y)

# Givens回転のパラメータを定義
# この例では、45度の回転に相当するコサインとサインを使用
c = cos(π/4) # 約 0.7071
s = sin(π/4) # 約 0.7071

# LinearAlgebra.BLAS.rot! を呼び出す
# n = 3: 最初の3つの要素に適用
# incx = 1: xの要素を1つずつ(連続して)処理
# incy = 1: yの要素を1つずつ(連続して)処理
LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, x, 1, y, 1, c, s)

println("\n回転後 (n=3, incx=1, incy=1):")
println("x = ", x)
println("y = ", y)

# 結果の計算例(x[1], y[1] について)
# x_new[1] = c * x_old[1] + s * y_old[1] = 0.7071 * 1.0 + 0.7071 * 6.0 = 0.7071 * 7.0 ≈ 4.9497
# y_new[1] = -s * x_old[1] + c * y_old[1] = -0.7071 * 1.0 + 0.7071 * 6.0 = 0.7071 * 5.0 ≈ 3.5355
# x[4], x[5], y[4], y[5] は変更されていないことに注意

説明
この例では、xy の最初の3つの要素がGivens回転によって変更されます。incx=1incy=1 は、ベクトル内の要素が連続して処理されることを意味します。Givens回転の定義に基づき、新しい x_i'y_i' の値は c * x_i + s * y_i および -s * x_i + c * y_i となります。

例2: ストライド (incx, incy) の使用

incxincy パラメータは、処理する要素間の間隔(ストライド)を指定します。これにより、ベクトル内の飛び飛びの要素を操作したり、行列のカラムや行をベクトルとして扱ったりすることができます。

using LinearAlgebra

# 長めのベクトルを定義
x = collect(1.0:10.0) # [1.0, 2.0, ..., 10.0]
y = collect(11.0:20.0) # [11.0, 12.0, ..., 20.0]

println("\n--- 例2: ストライドの使用 ---")
println("初期状態:")
println("x = ", x)
println("y = ", y)

c = cos(π/3) # 60度の回転
s = sin(π/3)

# incx = 2, incy = 3 を使用
# n = 3: 3組の要素に回転を適用
# xからは x[1], x[3], x[5] が選ばれる
# yからは y[1], y[4], y[7] が選ばれる
LinearAlgebra.BLAS.rot!(3, x, 2, y, 3, c, s)

println("\n回転後 (n=3, incx=2, incy=3):")
println("x = ", x)
println("y = ", y)

# xからアクセスされる要素: x[1], x[1+2]=x[3], x[1+2*2]=x[5]
# yからアクセスされる要素: y[1], y[1+3]=y[4], y[1+3*2]=y[7]
# これらの要素のみが変更される

説明
この例では、x の要素は x[1], x[3], x[5] が、y の要素は y[1], y[4], y[7] がそれぞれペアになり、Givens回転が適用されます。ストライドを使用することで、特定のパターンで要素を処理できます。

例3: 行列のカラム(列)に対する適用 (via view)

rot!() はベクトルに対して動作しますが、Juliaの view を使用することで、行列のカラムや行をベクトルとして扱うことができ、その結果としてBLAS関数を適用できます。

using LinearAlgebra

# 2つの行列を定義
A = rand(5, 5) # 5x5のランダムな行列
B = rand(5, 5) # 5x5のランダムな行列

println("\n--- 例3: 行列のカラムへの適用 ---")
println("初期状態:")
println("A の1列目 = ", A[:, 1])
println("B の1列目 = ", B[:, 1])

c = 0.6; s = 0.8 # c^2 + s^2 = 0.36 + 0.64 = 1.0

# Aの1列目とBの1列目にGivens回転を適用
# view(A, :, 1) は Aの1列目をベクトルとして扱うビューを作成
# n = 5: 全ての要素に適用
# incx = 1, incy = 1: カラム内の要素は連続している
LinearAlgebra.BLAS.rot!(5, view(A, :, 1), 1, view(B, :, 1), 1, c, s)

println("\n回転後 (Aの1列目とBの1列目):")
println("A の1列目 = ", A[:, 1])
println("B の1列目 = ", B[:, 1])

# もちろん、行列全体も変更されている
# println("A = \n", A)
# println("B = \n", B)

説明
view(A, :, 1) は、行列 A の第1カラム(列)を、元の行列のメモリを参照する新しい1次元配列(ビュー)として扱います。これにより、rot!() が直接ベクトルとして操作できるようになります。これは、QR分解などのアルゴリズムで、行列の特定の部分をゼロにするためにGivens回転を適用する際によく使われるテクニックです。

rot!() は複素数にも対応しています。

using LinearAlgebra

x_complex = [1.0 + 2.0im, 3.0 + 4.0im]
y_complex = [5.0 + 6.0im, 7.0 + 8.0im]

println("\n--- 例4: 複素数に対する適用 ---")
println("初期状態:")
println("x_complex = ", x_complex)
println("y_complex = ", y_complex)

# 複素数のGivens回転のパラメータ(一般的には実数だが、複雑なケースもあり得る)
# ただし、BLASのrotg/rot関数は実数パラメータを期待することが多いので注意。
# JuliaのBLASインターフェースは c, s を実数型として扱う。
c_val = cos(π/4)
s_val = sin(π/4)

LinearAlgebra.BLAS.rot!(2, x_complex, 1, y_complex, 1, c_val, s_val)

println("\n回転後:")
println("x_complex = ", x_complex)
println("y_complex = ", y_complex)

説明
入力ベクトルが複素数であっても、cs が実数であれば、rot!() は正しく機能します。これは、実数係数のGivens回転が複素ベクトルの実部と虚部にそれぞれ適用されるためです。



以下に、LinearAlgebra.BLAS.rot!() の代替となるプログラミング方法をいくつか説明します。

LinearAlgebra.qr 関数によるQR分解

Givens回転の主な用途の一つは、行列のQR分解(A=QR)です。qr 関数は、Givens回転(またはHouseholder変換)を使用して、行列を直交行列 Q と上三角行列 R に分解します。

rot!() が解決する課題
行列の特定の位置の要素をゼロにする。 qr 関数が提供する解決策: 行列全体を上三角化し、その過程でGivens回転が内部的に利用される。

using LinearAlgebra

# 例: ゼロにしたい要素を含む行列
A = [1.0 2.0; 3.0 4.0]

println("--- 代替法1: `qr` 関数によるQR分解 ---")
println("元の行列 A = \n", A)

# QR分解を実行
# Juliaのqr関数は、内部的にGivens回転(またはHouseholder変換)を使用
F = qr(A)

# 結果の取得
Q = F.Q  # 直交行列
R = F.R  # 上三角行列

println("\nQ = \n", Q)
println("R = \n", R)
println("\nQ * R = \n", Q * R) # 元の行列 A に戻ることを確認

# R が上三角行列であることに注目(下半分の要素がゼロになっている)

説明
qr(A) を呼び出すことで、A が上三角行列 R に変換されます。このプロセスは、Givens回転を繰り返し適用して、R の対角線の下の要素をゼロにすることで実現されます。ユーザーは明示的に rot!() を呼び出す必要はなく、qr 関数が自動的に最適な方法で処理してくれます。

LinearAlgebra.Givens オブジェクトと乗算

Juliaの LinearAlgebra モジュールは、Givens回転を抽象化した Givens オブジェクトを提供します。これは、特定の要素をゼロにするための回転を「構築」し、それをベクトルや行列に適用できます。

rot!() が解決する課題
2つのベクトル要素を回転させる。 Givens オブジェクトが提供する解決策: ゼロにしたい要素に基づいてGivens回転を計算し、それを(明示的に)ベクトルや行列に適用する。

using LinearAlgebra

# 2つのベクトル要素を考える
x_val = 3.0
y_val = 4.0

println("\n--- 代替法2: `Givens` オブジェクトと乗算 ---")
println("元の x_val = ", x_val, ", y_val = ", y_val)

# `givens` 関数を使ってGivens回転オブジェクトを作成
# (x, y) をゼロにするような回転Gを計算
# x' = r, y' = 0 となるようにする
G, r = givens(x_val, y_val, 1, 2) # (x, y, 1番目のインデックス, 2番目のインデックス)

println("\nGivensオブジェクト G = ", G)
println("計算された r = ", r) # 新しい x の値 (回転後の最初の成分)

# このGをベクトルに適用(G * [x_val, y_val])
# Gは内部的に回転行列の形式で保持されている
rotated_vec = G * [x_val, y_val]
println("回転後のベクトル = ", rotated_vec)

# 最初の要素が r になり、2番目の要素がゼロになることを確認
# rot!() と同じようにインプレースで操作したい場合は、Givensオブジェクトを乗算演算子で使う
A_mat = [1.0 2.0; 3.0 4.0; 5.0 6.0]
println("\n元の行列 A_mat = \n", A_mat)

# A_matの3行目と1行目の要素を対象に、A_mat[3,1]をゼロにするGivens回転を計算
G_matrix, _ = givens(A_mat, 1, 3, 1) # (行列, i行目, j行目, カラムk)

# 計算されたGivens回転をA_matに適用 (インプレース)
lmul!(G_matrix, A_mat) # G * A_mat を A_mat に書き込む
println("回転後 A_mat = \n", A_mat)
# A_mat[3,1] がほぼゼロになっているはず

説明

  • G * vectorlmul!(G, matrix) を使うことで、実際にこの回転を適用できます。lmul! はインプレースで左から行列を乗算する関数です。
  • givens(A, i, j, k) は、行列 A(i, k) 要素と (j, k) 要素を基に、(j, k) 要素をゼロにするGivens回転 G を計算します。
  • givens(x, y, i, j) は、xy を基にGivens回転 G を計算し、j 番目の要素がゼロになるようにします。返される r は回転後の i 番目の要素の値です。

この方法は、rot!() よりも目的が明確で、安全性が高く、直感的です。

他のパッケージの利用 (特定のドメイン向け)

一般的な線形代数タスクではJuliaの標準ライブラリで十分ですが、特定の数値計算タスク(例えば最適化、信号処理など)では、Givens回転を内部的に使用するより専門的なパッケージがあるかもしれません。

例:

  • IterativeSolvers.jl: 反復的な線形ソルバーで、Givens回転が関与する場合があります。
  • SparseArrays パッケージ: スパース行列のQR分解など。

これらは直接的な代替というよりは、Givens回転が「使われている」が、ユーザーがその存在を意識する必要がない例です。

LinearAlgebra.BLAS.rot!() はBLASという低レベルのインターフェースなので、以下のような理由から直接使うのは推奨されません。

  1. 安全性とエラーハンドリング
    引数の型、サイズ、ストライドが厳密に正しい必要があります。少しでも間違えると MethodErrorBoundsError が発生し、デバッグが難しい場合があります。高レベルの関数はこれらのチェックを内部で行い、より分かりやすいエラーメッセージを提供します。
  2. 可読性
    rot!(n, x, incx, y, incy, c, s) というシグネチャは、何が起こっているのかを即座に理解するのが難しいかもしれません。qr()givens() の方が、その意図が明確です。
  3. 最適化
    Juliaの高レベル関数は、コンテキストに応じて最適なBLASルーチン(または他の最適化されたアルゴリズム)を自動的に選択します。例えば、密な行列かスパースな行列か、データ型が何かなどに応じて、異なる最適化が適用されます。ユーザーが直接 rot!() を呼び出すと、これらの最適化を自分で管理する必要が出てきます。
  4. 抽象化
    LinearAlgebra モジュールは、Givens回転を計算し、それを適用するためのより抽象的な方法を提供します。これにより、コードがより汎用性が高く、メンテナンスしやすくなります。