JavaScript厳格モードの「delete」エラー徹底解説：原因と解決策

具体的に、これは以下のような状況で発生します。

「厳格モード」とは？

まず、「厳格モード」について簡単に説明します。JavaScriptの厳格モードは、ECMAScript 5 で導入された機能で、より安全でエラーになりにくいコードを書くための制限を課します。スクリプトの先頭または関数の先頭に "use strict"; を記述することで有効になります。

厳格モードでは、以下のような「ゆるい」挙動が禁止され、エラーとして扱われます。

• 古いスタイルの8進数リテラル
• 関数の引数名の重複
• with ステートメントの使用
• 宣言されていない変数への代入（グローバル変数の意図しない作成を防ぐ）

本題の delete 演算子についてです。delete 演算子は、オブジェクトのプロパティを削除するために使用されます。しかし、厳格モードでは、この delete 演算子の使用にいくつかの制限が加わります。

「Errors: Delete in strict mode」というエラーメッセージは、主に以下の2つのケースで発生します。

1. 変数、関数、または関数の引数を delete しようとした場合 JavaScriptでは、var、let、const で宣言された変数、または関数宣言によって作成された関数は、delete 演算子で削除できません。これらの要素は、オブジェクトのプロパティとは異なり、直接削除可能なエンティティではありません。非厳格モードでは、このような操作は false を返して silently (静かに) 失敗しますが、厳格モードでは SyntaxError または TypeError をスローしてエラーになります。

   例
   

   "use strict";
   
   var x = 10;
   // delete x; // SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.
   
   function myFunction() {}
   // delete myFunction; // SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.
   
   function anotherFunction(arg) {
     // delete arg; // SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.
   }
   

   これは、意図しない変数や関数の削除を防ぎ、コードの堅牢性を高めるための厳格モードの制限です。変数の内容をクリアしたい場合は、null や undefined を代入するなど、別の方法を使用します。

2. 設定不可能な（non-configurable）プロパティを delete しようとした場合 オブジェクトのプロパティには、「設定可能（configurable）」という属性があります。configurable: false と設定されたプロパティは、delete 演算子で削除できません。非厳格モードでは、このようなプロパティを削除しようとすると false が返されますが、厳格モードでは TypeError がスローされます。

   例
   

   "use strict";
   
   const obj = {};
   Object.defineProperty(obj, "myProp", {
     value: 10,
     configurable: false // このプロパティは削除できない
   });
   
   // delete obj.myProp; // TypeError: Cannot delete property 'myProp' of #<Object>
   

   Object.prototype のような組み込みオブジェクトのプロパティは、通常、設定不可能です。これらを削除しようとすると、厳格モードではエラーになります。

「Errors: Delete in strict mode」は、主に以下の理由で発生します。

• オブジェクトの「設定不可能な」プロパティを削除しようとした場合。
• 変数、関数、引数など、delete 演算子の対象として不適切なものを削除しようとした場合。

---

「Errors: Delete in strict mode」の一般的なエラーパターン

このエラーは主に、以下の2つの状況で発生します。

1. • エラーメッセージ例
     
     • SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode. (Chrome/V8)
     • SyntaxError: applying the 'delete' operator to an unqualified name is deprecated. (Firefox)
     • SyntaxError: Cannot delete unqualified property 'a' in strict mode. (Safari)
   • 原因
     var、let、const で宣言された変数、または関数宣言によって作成された関数は、JavaScriptのメモリ管理の仕組み上、delete 演算子で削除することはできません。これらはオブジェクトのプロパティとは異なるためです。非厳格モードでは false を返して「黙って」失敗しますが、厳格モードでは明確なエラーとして報告されます。

2. 設定不可能な（non-configurable）プロパティを delete しようとした場合

   • エラーメッセージ例
     
     • TypeError: Cannot delete property 'myProp' of #<Object>
     • TypeError: property "x" is non-configurable and can't be deleted.
   • 原因
     オブジェクトのプロパティには「設定可能（configurable）」という内部属性があります。この属性が false に設定されているプロパティは、delete 演算子で削除できません。非厳格モードでは false が返されますが、厳格モードでは TypeError がスローされます。
     • 組み込みオブジェクト（例: Object.prototype）のプロパティは、多くの場合 configurable: false です。
     • Object.defineProperty() で configurable: false と明示的に定義されたプロパティも削除できません。

エラーの種類によって対処法が異なります。

パターン1: 変数、関数、引数を delete しようとした場合

問題

"use strict";

var myVariable = 10;
delete myVariable; // ここでエラーが発生

function myFunc() {}
delete myFunc;     // ここでもエラーが発生

function greet(name) {
  delete name;     // ここでもエラーが発生
}

解決策

1. 変数の内容をクリアしたい場合
   変数自体を削除する必要はありません。変数の内容を null または undefined に設定することで、その変数が参照していたオブジェクトをガベージコレクションの対象にできます。

   "use strict";
   
   var myVariable = 10;
   myVariable = null; // または myVariable = undefined;
   console.log(myVariable); // null
   

2. グローバル変数（非厳格モードでのみ可能だった）を削除したい場合
   非厳格モードでは、window.myVariable のようにグローバルオブジェクトのプロパティとして宣言されていない変数を delete することが可能でしたが、厳格モードではこれは禁止されています。意図的にグローバルオブジェクトのプロパティを削除したい場合は、globalThis を明示的に使用します。

   "use strict";
   
   // var foo = 5; // delete foo は SyntaxError になる
   
   // グローバルオブジェクトにプロパティを設定し、それを削除する場合
   globalThis.globalProp = "Hello";
   console.log(globalThis.globalProp); // "Hello"
   delete globalThis.globalProp;
   console.log(globalThis.globalProp); // undefined
   

   ただし、通常の開発ではグローバルプロパティを頻繁に削除することは稀であり、ほとんどの場合、変数のスコープを適切に管理することでこの種の操作は不要になります。

3. そもそも delete が不要なケース
   多くの場合は、delete 演算子を使おうとしている意図自体を見直す必要があります。オブジェクトからプロパティを削除したいのか、それとも変数の参照を解除したいだけなのかを明確にしましょう。

パターン2: 設定不可能なプロパティを delete しようとした場合

問題

"use strict";

const myObject = {};
Object.defineProperty(myObject, 'immutableProp', {
  value: "Hello",
  configurable: false // 削除できないように設定
});

delete myObject.immutableProp; // ここでエラーが発生

解決策

1. プロパティの削除が本当に必要か再検討する
   もし削除しようとしているプロパティが configurable: false で定義されている場合、それは意図的に削除を禁止されているプロパティです。通常、そのようなプロパティを削除する必要はありません。設計を見直すか、そのプロパティの存在を前提としたコードにする必要があります。

2. オブジェクトをコピーし、不要なプロパティを除外する
   元のオブジェクトを変更せずに、特定のプロパティを除外した新しいオブジェクトを作成したい場合は、オブジェクトのデストラクチャリングとRest/Spread Propertiesを利用するのが一般的です。

   "use strict";
   
   const originalObject = {
     id: 1,
     name: "Product A",
     price: 100,
     description: "A wonderful product"
   };
   
   // 'description' プロパティを除外した新しいオブジェクトを作成
   const { description, ...newObject } = originalObject;
   console.log(newObject); // { id: 1, name: "Product A", price: 100 }
   console.log(originalObject); // 元のオブジェクトは変更されていない
   

   この方法は、特にAPIレスポンスから特定のフィールドを削除してクライアントに送る場合などに非常に有効です。

3. プロパティが configurable: true であることを確認する（可能な場合）： もし自分でオブジェクトを作成していて、そのプロパティを削除する可能性がある場合は、Object.defineProperty で定義する際に configurable: true を設定するか、通常のプロパティ定義 (obj.prop = value) を使用します。通常のプロパティはデフォルトで configurable: true です。

   "use strict";
   
   const myMutableObject = {
     removableProp: "削除可能"
   };
   // デフォルトで configurable: true
   delete myMutableObject.removableProp;
   console.log(myMutableObject); // {}
   
   const anotherObject = {};
   Object.defineProperty(anotherObject, 'anotherRemovableProp', {
     value: "これも削除可能",
     configurable: true // 明示的に true に設定
   });
   delete anotherObject.anotherRemovableProp;
   console.log(anotherObject); // {}
   

---

厳格モードの有効化

まず、厳格モードを有効にする方法です。

• 関数内で有効にする場合
  関数の本体の先頭に "use strict"; を記述します。

  function myStrictFunction() {
    "use strict";
    // この関数内のコードのみ厳格モードで実行されます。
    var y = 20;
    // delete y; // SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.
  }
  
  // この外側のコードは厳格モードではありません。
  var z = 30;
  delete z; // 非厳格モードなのでエラーにならず、false を返します。
  console.log(z); // 30 (変数自体は削除されない)
  

• スクリプト全体で有効にする場合
  ファイルまたはスクリプトの先頭に "use strict"; を記述します。

  "use strict";
  
  // このファイル内のすべてのコードは厳格モードで実行されます。
  // 例:
  // var x = 10;
  // delete x; // SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.
  

変数、関数、または関数の引数を delete しようとした場合

これは最も一般的なケースで、var, let, const で宣言された変数、関数宣言、または関数の引数を delete しようとすると発生します。

エラーになるコード例

"use strict";

// 1. 変数を delete しようとする
var myVariable = 100;
// delete myVariable;
// 結果: SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.

let anotherVariable = "hello";
// delete anotherVariable;
// 結果: SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.

const fixedValue = true;
// delete fixedValue;
// 結果: SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.

// 2. 関数を delete しようとする
function myFunc() {
  console.log("Called!");
}
// delete myFunc;
// 結果: SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.

// 3. 関数の引数を delete しようとする
function processArgs(arg1, arg2) {
  "use strict"; // 関数内で厳格モードを有効にすることも可能
  // delete arg1;
  // 結果: SyntaxError: Delete of an unqualified identifier in strict mode.
}

// 4. グローバルスコープで、varなしで宣言された変数（非厳格モードではグローバルプロパティになる）をdeleteしようとする
// 厳格モードではこれは ReferenceError になり、delete 以前の問題となる
// "use strict";
// undeclaredVar = 50; // ReferenceError: undeclaredVar is not defined
// delete undeclaredVar; // この行には到達しない

対処法（変数の内容をクリアする例）

変数そのものを削除するのではなく、変数が参照する値をクリアしたい場合は、null や undefined を代入します。これにより、以前のオブジェクトはガベージコレクションの対象になりえます。

"use strict";

let data = { value: "some data" };
console.log(data); // { value: 'some data' }

data = null; // 変数の参照を解除
console.log(data); // null

設定不可能な（non-configurable）プロパティを delete しようとした場合

オブジェクトのプロパティには「設定可能（configurable）」という属性があり、これが false に設定されているプロパティは delete できません。厳格モードでは、これを試みるとエラーになります。

エラーになるコード例

"use strict";

// 1. Object.prototype のプロパティを delete しようとする（通常は configurable: false）
// delete Object.prototype;
// 結果: TypeError: Cannot delete property 'prototype' of function Object() { [native code] }

// 2. Object.defineProperty で configurable: false に設定されたプロパティを delete しようとする
const myObj = {};
Object.defineProperty(myObj, 'fixedProp', {
  value: 123,
  writable: true,
  enumerable: true,
  configurable: false // 削除不可に設定
});

console.log(myObj.fixedProp); // 123
// delete myObj.fixedProp;
// 結果: TypeError: Cannot delete property 'fixedProp' of #<Object>

対処法（新しいオブジェクトを作成してプロパティを除外する例）

プロパティを削除できない場合で、そのプロパティを除外した新しいオブジェクトが必要な場合は、オブジェクトのデストラクチャリングとスプレッド構文 (...) を使用して、目的のプロパティを除いた新しいオブジェクトを作成します。

"use strict";

const originalData = {
  id: 1,
  name: "Alice",
  email: "[email protected]",
  passwordHash: "xyz123" // 削除したいプロパティ
};

// passwordHash を除外した新しいオブジェクトを作成
const { passwordHash, ...safeData } = originalData;

console.log(safeData); // { id: 1, name: "Alice", email: "[email protected]" }
console.log(originalData); // 元のオブジェクトは変更されていない

---

ここでは、delete 演算子を使用せずに、同様の目的を達成するための代替方法をいくつか紹介します。

変数から値を「削除」したい場合

JavaScriptでは、var, let, const で宣言された変数、関数宣言、または関数の引数を delete することはできません。これらの要素は、オブジェクトのプロパティのように動的に削除できるものではないためです。

目的
変数が保持している値への参照を解除し、メモリを解放可能にする。

代替方法

• 変数のスコープを利用する
  変数を不要になった時点でスコープ外にする（例えば、関数が終了する、ブロックが終了するなど）ことで、その変数は自動的にガベージコレクションの対象になります。これはJavaScriptのメモリ管理の基本的な考え方です。

  function processTemporaryData() {
    "use strict";
    let temporaryData = { largeArray: Array(100000).fill(0) };
    console.log("処理中...");
    // temporaryData を使用
  
    // 関数が終了すると、temporaryData はスコープ外になり、
    // ガベージコレクションの対象となる
  }
  
  processTemporaryData();
  // ここでは temporaryData にアクセスできません。
  

  多くの場合、この自然なスコープの終了によるメモリ解放で十分です。

• null または undefined を代入する
  変数が参照していたオブジェクトへの参照を解除することで、そのオブジェクトがガベージコレクションの対象になり、メモリが解放される可能性があります。

  "use strict";
  
  let myData = { id: 1, value: "重要なデータ" };
  console.log("初期値:", myData); // { id: 1, value: '重要なデータ' }
  
  // データへの参照を解除
  myData = null; // または myData = undefined;
  console.log("参照解除後:", myData); // null
  
  // もし myData が単なるプリミティブ値であれば、
  // myData = null; としても、その変数が消えるわけではありません。
  // その変数は null という値を持つことになります。
  

  これは、特に大きなオブジェクトやリソースへの参照を明示的に解放したい場合に有効です。

delete 演算子を適切に使うのは、オブジェクトのプロパティを削除したい場合です。しかし、厳格モードでは「設定不可能な（non-configurable）」プロパティは削除できません。

目的
オブジェクトから特定のプロパティを取り除いた新しいオブジェクトを作成する、または動的にプロパティを削除する。

代替方法

• 元のオブジェクトのプロパティを削除する（configurable: true の場合）： もしプロパティが configurable: true であり、かつ、本当にそのオブジェクトからプロパティ自体を物理的に削除したい場合は、delete 演算子をそのまま使用できます。厳格モードでエラーになるのは、configurable: false の場合や、変数・関数の削除を試みた場合です。

  "use strict";
  
  const settings = {
    theme: "dark",
    fontSize: "medium",
    debugMode: true // 必要に応じて削除したいプロパティ
  };
  
  if (settings.debugMode) {
    console.log("デバッグモードが有効です。");
    // デバッグが終わったらプロパティを削除
    delete settings.debugMode; // これはエラーにならない (configurable: true のため)
  }
  
  console.log(settings); // { theme: 'dark', fontSize: 'medium' }
  

  これは、プロパティが動的に追加・削除されるようなオブジェクト（例えば、キャッシュオブジェクトなど）で有効です。

• Object.assign() またはスプレッド構文 (...) とループでフィルタリングする（新しいオブジェクトを作成）： 複数のプロパティを動的に除外したい場合や、条件に基づいてプロパティを含める/除外したい場合に有効です。

  "use strict";
  
  const product = {
    name: "PC Monitor",
    price: 299,
    category: "Electronics",
    warranty: "1 year",
    internalCode: "MON123"
  };
  
  const keysToExclude = ['warranty', 'internalCode'];
  const filteredProduct = {};
  
  for (const key in product) {
    if (Object.prototype.hasOwnProperty.call(product, key) && !keysToExclude.includes(key)) {
      filteredProduct[key] = product[key];
    }
  }
  
  console.log(filteredProduct);
  // { name: 'PC Monitor', price: 299, category: 'Electronics' }
  

• オブジェクトのデストラクチャリングとRest/Spread Propertiesを使用する（新しいオブジェクトを作成）： これは、元のオブジェクトを変更せずに、特定のプロパティを除外した新しいオブジェクトを作成する、現代的なJavaScriptの最も推奨される方法です。

  "use strict";
  
  const originalUser = {
    id: 1,
    name: "田中",
    email: "[email protected]",
    passwordHash: "secure_hash_123" // 外部には公開したくないプロパティ
  };
  
  // passwordHash を除外した新しいオブジェクトを作成
  // passwordHash は変数に代入され、元のオブジェクトから「展開されない」
  const { passwordHash, ...userForFrontend } = originalUser;
  
  console.log("元のユーザー情報:", originalUser);
  // { id: 1, name: '田中', email: '[email protected]', passwordHash: 'secure_hash_123' }
  
  console.log("フロントエンド用ユーザー情報:", userForFrontend);
  // { id: 1, name: '田中', email: '[email protected]' }
  

  この方法は、APIレスポンスから機密情報をフィルタリングする際など、非常に多くのユースケースで役立ちます。

代替方法を検討する際には、以下の点を考慮してください。

1. 何を「削除」したいのか？
   • 変数に格納された「値への参照」を解除したいのか？ → null や undefined を代入するか、スコープアウトさせる。
   • オブジェクトから「プロパティ」を取り除きたいのか？ →
     • 元のオブジェクトを変更せずに新しいオブジェクトを作成するなら、デストラクチャリングとスプレッド構文。
     • 元のオブジェクトのプロパティを物理的に削除するなら、delete 演算子（ただし、configurable: true のプロパティに限る）。
2. 元のデータを変更する必要があるか？ 多くの場合、元のデータを不変（immutable）に保ち、必要な変更を加えた新しいデータを作成する方が、コードの予測可能性と安全性が高まります。