Djangoのセッション管理:データベース、ファイル、キャッシュ、どれを選ぶべき?
Djangoにおける sessions.backends.db.SessionStore
は、Djangoのセッションフレームワークが提供する組み込みのセッションバックエンドの一つで、セッションデータをデータベースに保存するためのクラスです。
もう少し詳しく説明します。
セッションとは?
ウェブアプリケーションにおいて、HTTPはステートレスなプロトコルです。つまり、個々のリクエストは独立しており、以前のリクエストの状態を記憶していません。しかし、ログイン状態の維持やショッピングカートの内容の保持など、ユーザーごとの状態をアプリケーションで管理したい場合があります。この「ユーザーごとの状態」を管理する仕組みがセッションです。
Djangoのセッションフレームワークは、このセッションの管理を抽象化し、開発者が簡単に利用できるようにしています。
sessions.backends.db.SessionStore
の役割
settings.py
で SESSION_ENGINE = 'django.contrib.sessions.backends.db'
と設定することで、Djangoはセッションデータをデータベースに保存するようになります。この設定が使われる際に、実際にセッションデータの保存、取得、削除などの処理を行うのが sessions.backends.db.SessionStore
です。
具体的には、以下の特徴があります。
- データ保存場所: セッションデータは、Djangoが自動で作成する
django_session
というデータベーステーブルに保存されます。 - 安全性: セッションIDのみがユーザーのブラウザのクッキーに保存され、実際のセッションデータ(ログイン情報など)はサーバー側のデータベースに保存されるため、比較的安全です。
- 永続性: サーバーが再起動しても、データベースにデータが残っている限りセッション情報は失われません。
- 設定の容易さ:
INSTALLED_APPS
に'django.contrib.sessions'
を追加し、MIDDLEWARE
に'django.contrib.sessions.middleware.SessionMiddleware'
が含まれていれば、デフォルトでデータベースセッションが有効になっています。その後、python manage.py migrate
を実行するだけで、django_session
テーブルが作成されます。
どのように動作するか
ユーザーがウェブサイトにアクセスすると、Djangoはセッションクッキー(通常は sessionid
という名前)をブラウザに送ります。このクッキーには、ランダムに生成されたセッションIDが含まれています。
ユーザーが次に同じサイトにアクセスする際、ブラウザはこのセッションIDをサーバーに送信します。Djangoは、このセッションIDを使って django_session
テーブルから対応するセッションデータを検索し、request.session
オブジェクトとしてPythonの辞書のように利用できるようにします。
例えば、ログイン情報をセッションに保存する場合、以下のように扱えます。
# ビューの中で
def login_view(request):
# ログイン処理後
request.session['user_id'] = user.id
request.session['username'] = user.username
# ...
def profile_view(request):
if 'user_id' in request.session:
user_id = request.session['user_id']
username = request.session['username']
# ログイン中のユーザーの情報を表示
# ...
else:
# ログインしていない場合の処理
# ...
request.session
に値を設定したり変更したりすると、SessionStore
クラスがその変更を検知し、自動的にデータベースに保存します。
Djangoには、データベースバックエンド以外にも、セッションデータを保存する方法がいくつかあります。
django.contrib.sessions.backends.signed_cookies
: セッションデータを署名付きクッキーとして直接ブラウザに保存します。サーバーサイドにセッションデータを保持する必要がないため、スケーラビリティが高いですが、セッションデータのサイズに制限があり、機密性の高いデータを保存するのには向いていません。django.contrib.sessions.backends.cached_db
: データベースとキャッシュを併用します。読み取りはキャッシュから行い、書き込みはデータベースとキャッシュの両方に行います。パフォーマンスと永続性の両方を考慮した選択肢です。django.contrib.sessions.backends.cache
: セッションデータをキャッシュに保存します(MemcachedやRedisなど)。高速ですが、キャッシュがクリアされるとセッションデータが失われる可能性があります。django.contrib.sessions.backends.file
: セッションデータをファイルシステムに保存します。
セッションが永続化されない/値が失われる
これは最もよくある問題です。
考えられる原因と解決策
DEBUG = True
からFalse
に変更した際のALLOWED_HOSTS
の設定忘れ:DEBUG = False
の場合、settings.py
のALLOWED_HOSTS
にアクセスするドメインが正しく設定されていないと、セキュリティ上の理由からリクエストが処理されず、セッションも機能しません。
- クッキーの問題
- ブラウザがクッキーをブロックしている: ユーザーのブラウザ設定でサードパーティクッキーやサイトごとのクッキーがブロックされている場合、セッションIDが保存されず、セッションが機能しません。
SESSION_COOKIE_DOMAIN
/SESSION_COOKIE_PATH
の設定ミス:settings.py
でこれらの設定を変更している場合、それが現在のURLと一致しているか確認してください。特に、サブドメインや特定のパスでのみセッションを有効にしたい場合に設定します。- 例:
SESSION_COOKIE_DOMAIN = '.example.com'
(サブドメイン全体で有効) - 例:
SESSION_COOKIE_PATH = '/my_app/'
(特定のパス以下でのみ有効)
- HTTP/HTTPSの混在:
SESSION_COOKIE_SECURE = True
に設定している場合、HTTP接続ではセッキーが送信されません。本番環境ではHTTPSを使うべきですが、開発環境でこの設定をTrue
にすると、HTTP接続ではセッションが機能しなくなります。 SESSION_COOKIE_SAMESITE
の設定: CSRF保護に関連しますが、Lax
やStrict
などに設定している場合、クロスサイトリクエストでクッキーが送信されないことがあります。
- SECRET_KEY が設定されていない、または変更された
settings.py
のSECRET_KEY
は、セッションデータの署名(改ざん防止)に使われます。これが設定されていないか、デプロイ後に変更された場合、既存のセッションデータが無効になる可能性があります。本番環境では絶対に秘匿し、変更しないでください。
request.session.save()
を呼び出していない (特定の状況下):- 通常、
SessionMiddleware
がリクエストの終わりに自動的にセッションを保存します。しかし、ビューの実行が完了する前にセッションの変更を確実に保存したい場合(例えば、リダイレクトを行う前など)、明示的にrequest.session.save()
を呼び出す必要があることがあります。 - また、セッションの値を読み取るだけで変更がない場合、Djangoはセッションを保存しません。
- 例:
def my_view(request): if 'count' not in request.session: request.session['count'] = 0 request.session['count'] += 1 # デバッグ目的でここで保存を確認することも可能 # request.session.save() return HttpResponse(f"You've visited this page {request.session['count']} times.")
- 通常、
- セッションに保存しようとしているデータがシリアライズできない
- データベースに保存できるデータは、シリアライズ(Pythonオブジェクトをバイト列に変換)可能なものである必要があります。通常、文字列、数値、リスト、辞書などの基本的なPython型は問題ありませんが、カスタムオブジェクトなどを直接保存しようとするとエラーになることがあります。
- 解決策
カスタムオブジェクトをセッションに保存したい場合は、JSON形式に変換できるような形で保存するか、カスタムのセッションシリアライザを定義する必要があります(しかし、これは稀なケースです)。
- python manage.py migrate を実行していない
django_session
テーブルがデータベースに存在しない場合、セッションデータは保存されません。Djangoプロジェクトを作成したり、INSTALLED_APPS
にdjango.contrib.sessions
を追加したりした後は、必ずpython manage.py migrate
を実行してデータベーススキーマを更新してください。
- INSTALLED_APPS に 'django.contrib.sessions' が含まれていない
settings.py
のINSTALLED_APPS
に'django.contrib.sessions'
があるか確認してください。これが存在しないと、セッションのモデル(django_session
テーブル)が認識されません。
- django.contrib.sessions.middleware.SessionMiddleware が正しく設定されていない
settings.py
のMIDDLEWARE
に'django.contrib.sessions.middleware.SessionMiddleware'
が含まれているか確認してください。このミドルウェアがリクエストとレスポンスの間でセッションデータの読み書きを処理します。デフォルトで含まれているはずですが、削除してしまった場合などに問題が発生します。
django_session テーブルが見つからない
考えられる原因と解決策
- データベース接続の問題:
settings.py
のDATABASES
設定が正しくない場合、Djangoはデータベースに接続できず、テーブルを作成できません。データベースのホスト、ポート、ユーザー名、パスワード、データベース名などが正しいか確認してください。- データベースサーバーが起動しているか確認してください。
INSTALLED_APPS
に'django.contrib.sessions'
がない:- これも前述の通りです。追加して
migrate
してください。
- これも前述の通りです。追加して
python manage.py migrate
を実行していない:- 前述の通り、これが最も一般的な原因です。必ず実行してください。
セッションデータがデータベースに保存されているが、ブラウザで取得できない
考えられる原因と解決策
SESSION_COOKIE_AGE
の設定:- セッションクッキーの有効期間 (秒単位) です。デフォルトは
1209600
(2週間) です。これを短く設定しすぎると、すぐにセッションが切れてしまいます。
- セッションクッキーの有効期間 (秒単位) です。デフォルトは
SESSION_EXPIRE_AT_BROWSER_CLOSE
の設定:settings.py
でSESSION_EXPIRE_AT_BROWSER_CLOSE = True
に設定している場合、ブラウザを閉じるとセッションクッキーが削除されます。これは意図した動作かもしれませんが、そうでない場合はFalse
に設定するか、request.session.set_expiry()
で有効期限を設定してください。
- セッションクッキーがブラウザに送信されていない/正しくない:
- 開発者ツール (ブラウザのF12) を開き、"Application" タブ (または"Storage"タブ) の "Cookies" セクションで、Djangoアプリケーションのドメイン下に
sessionid
という名前のクッキーが存在するか確認してください。 - クッキーが存在しない場合、上記の「
django.contrib.sessions.middleware.SessionMiddleware
が正しく設定されていない」などの問題が考えられます。 - クッキーが存在しても、値が空であったり、違う値であったりする場合、セッションデータが正しく保存されていないか、サーバーがセッションIDを認識していません。
- 開発者ツール (ブラウザのF12) を開き、"Application" タブ (または"Storage"タブ) の "Cookies" セクションで、Djangoアプリケーションのドメイン下に
django_session テーブルが肥大化する
時間の経過とともに、期限切れのセッションがデータベースに残ることがあります。
考えられる原因と解決策
- 期限切れセッションのクリーンアップが実行されていない:
- Djangoは自動的に期限切れセッションを削除しません。これを行うには、定期的に以下の管理コマンドを実行する必要があります。
python manage.py clearsessions
- これを定期的に実行するよう、Cronジョブやスケジューラー(例: Celery Beat)を設定することを強く推奨します。
- Djangoは自動的に期限切れセッションを削除しません。これを行うには、定期的に以下の管理コマンドを実行する必要があります。
セッションデータが途中で失われる (複数プロセス/サーバー環境)
- データベースのリードレプリカ/レプリケーション遅延:
- リードレプリカを使用している環境で、セッションデータがマスターDBに書き込まれた直後にリードレプリカから読み取ろうとすると、レプリケーションの遅延により古いデータや存在しないデータが返されることがあります。
- 解決策: セッションの読み書きはマスターDBに対して行うように設定するか、セッションバックエンドをデータベースではなくキャッシュ(Memcached/Redis)に切り替えることを検討してください。
cached_db
バックエンド(django.contrib.sessions.backends.cached_db
)は、パフォーマンスと永続性のバランスが取れており、このような場合に有効です。
SECRET_KEY
の不一致:- 複数のアプリケーションサーバーでDjangoを動かしている場合、
settings.py
のSECRET_KEY
がすべてのサーバーで同じである必要があります。異なる場合、署名が検証できず、セッションデータが無効と判断されます。
- 複数のアプリケーションサーバーでDjangoを動かしている場合、
settings.py
の確認:INSTALLED_APPS
に'django.contrib.sessions'
があるか。MIDDLEWARE
に'django.contrib.sessions.middleware.SessionMiddleware'
があるか(順番も重要、通常はAuthenticationMiddleware
の後、MessageMiddleware
の前)。SESSION_ENGINE
が'django.contrib.sessions.backends.db'
に設定されているか(デフォルトなので明示的に設定していなくてもOK)。SECRET_KEY
が設定されており、本番環境で変更されていないか。SESSION_COOKIE_SECURE
やSESSION_COOKIE_HTTPONLY
などのクッキー関連設定が意図したものか。
python manage.py migrate
の実行確認:- 必ず実行されており、
django_session
テーブルがデータベースに存在することを確認。
- 必ず実行されており、
- ブラウザの開発者ツール (F12):
- "Application" (または "Storage") タブで、
sessionid
クッキーが存在し、その値がサーバーから送信されているか確認。 - "Network" タブで、リクエストとレスポンスのヘッダーを確認し、
Set-Cookie
ヘッダーやCookie
ヘッダーにsessionid
が含まれているか確認。
- "Application" (または "Storage") タブで、
- Djangoのログとデバッグ出力:
DEBUG = True
の状態で、エラーメッセージやスタックトレースを確認する。- セッションデータにアクセスするビューで
print(request.session.keys())
やprint(request.session.items())
などを使って、セッションの内容を直接出力し、期待通りの値が保存・取得できているか確認する。 - データベースの
django_session
テーブルを直接確認し、セッションデータが正しく保存されているか、expire_date
が適切かなどを確認する。
- データベースの接続確認:
- Djangoが使用しているデータベースに、Djangoアプリケーションを実行しているユーザーから接続できるか確認。
前提条件
これらのコード例を機能させるには、まずDjangoプロジェクトでセッションが有効になっていることを確認してください。
-
settings.py
の確認:INSTALLED_APPS
に'django.contrib.sessions'
が含まれていること。MIDDLEWARE
に'django.contrib.sessions.middleware.SessionMiddleware'
が含まれていること(通常は'django.middleware.security.SecurityMiddleware'
の後、'django.middleware.common.CommonMiddleware'
の前に配置されます)。SESSION_ENGINE
の設定はデフォルトで'django.contrib.sessions.backends.db'
なので、明示的に記述していなくても動作します。SECRET_KEY
が設定されていること。
-
データベースのマイグレーション:
- セッションデータを保存するための
django_session
テーブルを作成するために、以下のコマンドを実行します。python manage.py migrate
- セッションデータを保存するための
これでセッションを利用する準備が整いました。
コード例
主に views.py
で request.session
オブジェクトを操作することになります。request.session
はPythonの辞書のように扱えます。
セッションに値を保存する
ユーザーがページを訪問した回数を記録する例です。
myproject/myapp/views.py
from django.shortcuts import render
from django.http import HttpResponse
def visit_counter_view(request):
# セッションから 'num_visits' の値を取得。存在しない場合は0をデフォルトにする
num_visits = request.session.get('num_visits', 0)
# 訪問回数をインクリメント
request.session['num_visits'] = num_visits + 1
# セッションの有効期限を明示的に設定することも可能 (例: 1時間後)
# request.session.set_expiry(3600) # 3600秒 = 1時間
# ブラウザを閉じたらセッションが切れるようにする
# request.session.set_expiry(0)
return HttpResponse(f"あなたはこれまでこのページを {request.session['num_visits']} 回訪問しました。")
def user_preference_view(request):
# ユーザー設定をセッションに保存する例
if request.method == 'POST':
favorite_color = request.POST.get('color')
if favorite_color:
request.session['favorite_color'] = favorite_color
return HttpResponse(f"お気に入りの色を '{favorite_color}' に設定しました。")
# 既存のお気に入りの色を取得
current_color = request.session.get('favorite_color', '未設定')
return HttpResponse(f"現在のお気に入りの色: {current_color}<br><form method='post'><input type='text' name='color'><button type='submit'>色を設定</button></form>")
セッションから値を取得する
上記 visit_counter_view
で既に示されていますが、get()
メソッドや辞書のようにキーでアクセスします。
# 'num_visits' が存在しない場合、KeyError を発生させる
try:
current_visits = request.session['num_visits']
except KeyError:
current_visits = 0 # もしくは別の初期値
# 'num_visits' が存在しない場合でもエラーにならず、デフォルト値 0 を返す
current_visits = request.session.get('num_visits', 0)
セッションから値を削除する
特定のキーのセッションデータを削除します。
myproject/myapp/views.py
def clear_preference_view(request):
if 'favorite_color' in request.session:
del request.session['favorite_color']
return HttpResponse("お気に入りの色をセッションから削除しました。")
return HttpResponse("お気に入りの色はセッションにありません。")
セッション全体を破棄する
ユーザーがログアウトした際などに、そのユーザーのセッション全体をデータベースから削除したい場合に使用します。
myproject/myapp/views.py
def logout_view(request):
# セッションの全データを削除し、新しいセッションIDを生成する
request.session.flush()
return HttpResponse("ログアウトしました。セッションデータはクリアされました。")
flush()
を呼び出すと、現在のセッションデータがデータベースから削除され、ブラウザに送られるセッションクッキーも新しいIDに置き換えられます。
セッションの確認とデバッグ
セッションの動作を確認するために、開発者ツールや簡易的な出力を使います。
myproject/myapp/views.py
def session_info_view(request):
session_data = dict(request.session) # セッションデータを辞書として取得
session_key = request.session.session_key # セッションキー (クッキーに保存されるID)
response_content = f"""
<h1>セッション情報</h1>
<p>セッションキー: {session_key}</p>
<p>セッションデータ:</p>
<pre>{session_data}</pre>
<p><a href="/">トップページに戻る</a></p>
"""
return HttpResponse(response_content)
urls.py
の設定
上記のビュー関数を呼び出すためのURLを設定します。
myproject/myproject/urls.py
(または myproject/myapp/urls.py
)
from django.contrib import admin
from django.urls import path
from myapp import views # myapp アプリケーションの views をインポート
urlpatterns = [
path('admin/', admin.site.urls),
path('', views.visit_counter_view, name='home'), # 訪問回数カウンター
path('pref/', views.user_preference_view, name='preference'), # ユーザー設定
path('clear_pref/', views.clear_preference_view, name='clear_preference'), # 設定クリア
path('logout/', views.logout_view, name='logout'), # ログアウト
path('session_info/', views.session_info_view, name='session_info'), # セッション情報
]
Django の admin
サイトでセッションデータを確認できます。
settings.py
にdjango.contrib.admin
がINSTALLED_APPS
に含まれていること。python manage.py createsuperuser
でスーパーユーザーを作成する。python manage.py runserver
でサーバーを起動し、http://127.0.0.1:8000/admin/
にアクセスしてログインする。- "AUTHENTICATION AND AUTHORIZATION" の下の "Sessions" をクリックすると、
django_session
テーブルに保存されているセッションデータの一覧を確認できます。Session data
列には、pickle 形式でシリアライズされたセッションデータが保存されています。
ファイルベースセッション (django.contrib.sessions.backends.file)
セッションデータをサーバーのファイルシステム上にファイルとして保存します。データベースを使用しないため、小規模なアプリケーションやデータベースに負担をかけたくない場合に適しています。
利点
- セットアップが比較的簡単。
- データベース不要。
欠点
- ディスクスペースを消費する。
- 複数のアプリケーションサーバーを使用する場合、セッションの共有が困難(ファイルシステムを共有する必要がある)。
- ファイルI/Oが発生するため、データベースよりは遅くなる可能性があり、特に高トラフィック環境ではパフォーマンスのボトルネックになりうる。
設定例 (settings.py)
# settings.py
SESSION_ENGINE = 'django.contrib.sessions.backends.file'
SESSION_FILE_PATH = '/tmp/django_sessions' # セッションファイルを保存するディレクトリ
# 必要であれば、パーミッションを設定してください。
# Webサーバーがこのディレクトリに書き込み権限を持っている必要があります。
プログラミングにおける利用方法
request.session
の操作方法はデータベースバックエンドと全く同じです。これはDjangoのセッションフレームワークの抽象化の恩恵です。
# myapp/views.py
from django.http import HttpResponse
def file_session_example_view(request):
if 'name' not in request.session:
request.session['name'] = 'ゲスト'
request.session['count'] = 1
else:
request.session['count'] += 1
return HttpResponse(f"ファイルセッション: こんにちは、{request.session['name']} さん! {request.session['count']} 回目の訪問です。")
キャッシュベースセッション (django.contrib.sessions.backends.cache)
セッションデータをDjangoのキャッシュシステムに保存します。Memcached や Redis などの高速なインメモリキャッシュを使用することで、非常に高いパフォーマンスが期待できます。
利点
- 分散キャッシュを使用すれば、複数のアプリケーションサーバー間でのセッション共有が容易。
- データベースへの負荷を軽減できる。
- 非常に高速なセッションアクセス。
欠点
- キャッシュシステムの別途セットアップが必要。
- キャッシュサーバーが再起動されたり、キャッシュがいっぱいになったりすると、セッションデータが失われる可能性がある(非永続的)。ログイン状態が失われたり、ショッピングカートの内容がクリアされたりする可能性がある。
設定例 (settings.py)
まず、CACHES
設定でキャッシュを定義する必要があります。ここでは Redis を使用する例を示します。Memcached など他のキャッシュも同様に設定できます。
# settings.py
# キャッシュの定義 (例: Redis)
CACHES = {
'default': {
'BACKEND': 'django_redis.cache.RedisCache',
'LOCATION': 'redis://127.0.0.1:6379/1', # Redis サーバーのアドレスとDB番号
'OPTIONS': {
'CLIENT_CLASS': 'django_redis.client.DefaultClient',
}
}
}
# セッションエンジンをキャッシュに設定
SESSION_ENGINE = 'django.contrib.sessions.backends.cache'
SESSION_CACHE_ALIAS = 'default' # 使用するキャッシュのエイリアス (CACHESで定義したもの)
プログラミングにおける利用方法
こちらも request.session
の操作方法は同じです。
# myapp/views.py
from django.http import HttpResponse
def cache_session_example_view(request):
if 'data_in_cache' not in request.session:
request.session['data_in_cache'] = 'これはキャッシュに保存されたデータです'
return HttpResponse(f"キャッシュセッション: {request.session['data_in_cache']}")
キャッシュとデータベースの組み合わせ (django.contrib.sessions.backends.cached_db)
このバックエンドは、パフォーマンスと永続性の両方を両立させるためのハイブリッドアプローチです。読み取りは主にキャッシュから行い、書き込みはキャッシュとデータベースの両方に行われます(ライトスルーキャッシュ)。
利点
- キャッシュとDBの組み合わせによる高可用性。
- データベースによるセッションデータの永続性(キャッシュがクリアされてもデータは残る)。
- キャッシュによる高速な読み取りアクセス。
欠点
- 書き込み時にキャッシュとデータベースの両方にアクセスするため、単純なキャッシュバックエンドよりはわずかにオーバーヘッドがある。
- データベースとキャッシュの両方を管理する必要があるため、設定がやや複雑になる。
設定例 (settings.py)
キャッシュとデータベースの両方の設定が必要です。
# settings.py
# キャッシュの定義 (例: Redis)
CACHES = {
'default': {
'BACKEND': 'django_redis.cache.RedisCache',
'LOCATION': 'redis://127.0.0.1:6379/1',
'OPTIONS': {
'CLIENT_CLASS': 'django_redis.client.DefaultClient',
}
}
}
# セッションエンジンを cached_db に設定
SESSION_ENGINE = 'django.contrib.sessions.backends.cached_db'
SESSION_CACHE_ALIAS = 'default' # 使用するキャッシュのエイリアス
プログラミングにおける利用方法
他のバックエンドと同様に request.session
を操作します。
# myapp/views.py
from django.http import HttpResponse
def cached_db_session_example_view(request):
if 'hybrid_data' not in request.session:
request.session['hybrid_data'] = 'これはキャッシュとDBの両方に保存されます'
return HttpResponse(f"キャッシュとDBセッション: {request.session['hybrid_data']}")
セッションデータをサーバーではなく、ユーザーのブラウザのクッキー自体に保存します。このデータは暗号化されていませんが、Django の SECRET_KEY
を用いて署名(サイン)されるため、改ざんを検知できます。
利点
- データベースやファイルシステムへのアクセスが不要なため、オーバーヘッドが少ない。
- サーバーサイドのストレージが不要なため、スケーラビリティが高い。
欠点
- 非活性での有効期限設定の制限: サーバーサイドでデータが管理されないため、
SESSION_COOKIE_AGE
などの設定によりクッキーの有効期限は切れても、サーバーサイドでの「無効化」という概念がない。 - セッションの永続性に関する考慮: サーバーサイドにセッションIDが保持されないため、ユーザーがログアウトしても、攻撃者がそのクッキーを盗んでいれば、有効期限内であればそのクッキーを使って再ログインできてしまう「リプレイアタック」のリスクがある。
- クッキーのサイズ制限:ブラウザやWebサーバーにはクッキーのサイズ制限(一般的に4KB程度)があるため、大量のデータをセッションに保存することはできません。
- セッションデータがクライアントに公開される:データは暗号化されていないため、機密性の高い情報を保存すべきではありません。
設定例 (settings.py)
# settings.py
SESSION_ENGINE = 'django.contrib.sessions.backends.signed_cookies'
# セッションデータがクライアントに公開されるため、SECRET_KEYの保護は非常に重要です。
# 他のバックエンドでも重要ですが、signed_cookiesでは特に注意が必要です。
# SECRET_KEY = '...'
プログラミングにおける利用方法
同様に request.session
を操作します。ただし、保存するデータの種類と量には注意が必要です。
# myapp/views.py
from django.http import HttpResponse
def signed_cookie_session_example_view(request):
if 'public_info' not in request.session:
request.session['public_info'] = 'これはクッキーに直接保存された情報です。'
# 注意: クッキーのサイズ制限があるため、大きなデータを保存しないでください。
# 例: request.session['large_data'] = [i for i in range(1000)] # これはエラーになる可能性があります
return HttpResponse(f"署名付きクッキーセッション: {request.session['public_info']}")
Djangoのセッションバックエンドは、設定の SESSION_ENGINE
の値を変更するだけで簡単に切り替えることができます。プログラミングインターフェース (request.session
) はどのバックエンドを使用しても一貫しているため、コードの変更は最小限で済みます。
プロジェクトの規模、トラフィック、セキュリティ要件、永続性の必要性などを考慮して、最適なセッションバックエンドを選択してください。
- デフォルトで十分、一般的なWebアプリケーション:
db
(Djangoのデフォルト) - サーバーサイドストレージを完全に避けたい、データが機密でない、データ量が少ない:
signed_cookies
- パフォーマンスと永続性のバランス、高トラフィック環境:
cached_db
- パフォーマンス最優先、データの一時的な損失を許容できる:
cache
- 小規模/シンプル、DBへの負担を避けたい:
file